2話
一旦、話を止めて館長室に円卓と椅子を用意して話し合いの準備をする。幸い、《クリエイト・アイテム/道具創造》は問題無く使え、それを使って用意した。配置は部屋の中央のグアール・グースの瞳が私の背に来るようにして、部屋の入り口から半分ほどスペースに設置された。
ゲームの中の魔法を何となくで使えるのにかなり感動したのだが、ブーディカに「大丈夫?」と心配されてしまったのは余談だろう。
「失礼しまーす」
椅子に座ってどう話そうかを考えているとステンノが4人を伴って入ってくる。ステンノのすぐ後ろについてるのがステンノ以外に私が作った2人のNPC、さらにその後ろにいる2人がギルド内で役持ちと言われていた高レベルNPCだ。
私が作ったNPCはエウリュアレとメドゥーサ、どちらもステンノと似かよった外見にデザインされていて、髪と瞳の色がそれぞれ黒と赤でメドゥーサのみが海賊がするような眼帯で右目を隠している。名前こそゴルゴン3姉妹が元ネタだが、種族としての蛇人のレベルはなく、ハーフ・フェアリーだったり、エウリュアレとメドゥーサはブラックスミスと戦士技能を持ってたりと、名前と魔眼ぐらいしかネタを再現していない。
役持ちは料理長や鍛冶長のように生産職ごとに分けられたNPC達のトップであり、100レベルの生産職ビルドだ。作成がデータにはこだわり抜く癖に、名前やらは適当というギルメンだったため、キャラ名も役職と同じというキャラ達である。愛はあるらしいが、それが現れるのは名前ではなくデータだと、あの野郎は抜かしていたが・・・
今回いるのはハーフ・ジャイアントの鍛冶長と、エルフの農夫長だ。鍛冶長は身長3メートルの美丈夫で、農夫長は茶色の髪にそばかすのある愛嬌たっぷりの美人だ。
「お師匠様。何のご用件ですか!。」
「し、師匠?まぁいい、とりあえず座ってくれ。」
溌剌と言うエウリュアレに言って、他の者にも着席を進める。
全員が椅子に座り、それぞれの顔を軽く見回した後に「さて。」と話を始める。
「ステンノが報告してくれた外の異変については全員認識しているか?」
「勿論さ、師匠。ステンノ姉さんが大騒ぎしながら走り回ってたからね。」
私の問いかけにメドゥーサが答えた。海賊の姉御っぽいしゃべり方だ。そういえば外見に合わせて下手な男より漢前な設定にした覚えがある。
「異変発覚後はエウリュアレが外に様子を見に行ったんだな?」
「はい!その通りです師匠。外は特に変わったことの無い森林でした。山岳地帯の麓だと思います!あと、生き物は居ましたけど、これもモンスターではなく、普通の動物でした。」
「全く、ステンノに頼まれたとはいえ、何が起きてるのかもわからんのに外にいくなんて、とんだお転婆だ。館長からも言っといてやってください。」
「わ、私が頼んだがいけないんです。ごめんなさい。鍛冶長、エウリュアレちゃん。」
エウリュアレの報告に鍛冶長が呆れたように言い、ステンノが小さくなって謝っている。
今までの会話から察するに、ステンノ達ゴルゴン3姉妹は私を師匠と呼び、それ以外のNPCからすると私は館長らしい。
手探りとも言える状況でとりあえずの予想を付けるが、唐突に面倒くさくなってくる。相手が当たり前のようにしていることを自分が知らなかったりすると挙動不審になったり、相手に合わせたりしてしまうのは日本人の性だが、私はそこら辺が薄いと言われていたような女だ。分からないことは聞いてしまえば良い。
「まぁ、偵察云々の問題は置いておけ、今はその状況に加え、私の方にも問題が起きている。」
「なんだと!?」
「今の私にはお前達に関する記憶が大雑把にしかない。お前達から見ると記憶障害になるのか?」
声を荒らげて近づいてきていたキヨマサが私の言葉で顔面蒼白に成り、動きを止める。無様とも言える姿だが、その姿は一流の彫刻家の作品のように美しい。
エゴロ子さんは良い仕事してるなぁ。他のイケメン、美女設定のNPCのデザインもしてたし、私のキャラの外装リメイクにも手伝ってくれたし。
キヨマサを見ながら外見デザインを行ったギルメンの才能を改めて感じ、思いを馳せていると部屋に居た私以外の口から大声が発せられた。内容事態は、なんだってー、や、どう言うことだー、という感じなのだろうが、7人もの大声を正確に聞き分けるなんて不可能だ。
しかし、思いの外リアクションが大きい。私は職場の同僚が似たようなことを言い出したとき「そうか、大変だな。」で済ませたぞ。
「落ち着け、別に記憶が全部ぶっ飛んでる訳じゃないから安心しろ。
ブーディカ、記憶の残ってる物、記憶に無い物を分けたい。いくつかお前達に質問するが良いだろうか?」
「え、ええ。勿論大丈夫です。」
騒ぐ連中を押し込めてブーディカへと言葉をかける。この中で一番冷静に見えたからだ。
「まず、お前から見て私は何者だ?」
「私たちギルド、ムーン・オーシャンのギルドマスターであり、このフェニエルの大図書館の館長。そして10棟梁のお一人です。」
「10棟梁?」
「ムーン・オーシャンを立ち上げられた10人の職人の事ですわ。ムーン・オーシャンは10棟梁の下に高弟の皆様。さらにその下に私やキヨマサのような用心棒兼職人と各部門の長と上級職員が、最後に徒弟や職員という階級に別れております。」
「ふむ、ギルドの初期メンバーが10棟梁、ギルメンが高弟、あとは大体設定通り階級付けか。ありがとう、記憶との齟齬を少し埋められた。」
生産職ギルドとしての活動が原因なのか、中世の職人ギルドをなぞったような階級に、職員という者を加えた形態のようだ。職員とは恐らく生産職メインではないNPCの事だろう。
ふむ、その流れだと、ステンノ達が私を師匠と呼ぶのはNPCに取っては自分を作成したPCを師匠と認識しているのだろうか?
「ブーディカ、お前の師は誰だったか?」
「私の師はヒバリバリ様です。」
「あー、ヒバリバリさんかぁ」
どうやら、推測は正しいらしくブーディカは自分の制作者を師であると答えた。にしても、ヒバリバリさんか、性格と性癖がかなり独特なギルドの問題児だった・・・あの人が結婚するから引退すると言ったときの騒動はひどかった。
まぁ、ヒバリバリさんはおいといて、次に考えるべきこと・・・
あぁ、夢か現実かとか、最初に考えるべきことが抜けていた。これが夢ならば?幸せな夢ということでもう少し浸っていても良いだろう。現実ならば?リアルで死亡しているのか、それとも
現実の場合、どの可能性も常識的にはあり得るものではないので、どれとか考えるのを放棄。そして、今の私はどうしたいかを考える。どうしたいかは浮かんでこないが、しなくて良いことはいくつか頭に浮かぶ。その最たるものが、とりあえず、リアルに帰る努力とかはしないで良いというものだった。
帰れるなら帰ってもいいが、無理して帰ろうとも思わない。夢だった職につけたが親のコネによる出来レース。その親は嫁入りなどと言う、私が使う予定もない特殊スキルで儲けよう皮算用するだけ、友人も親の金に寄ってくるだけ。ただ一人の兄が心残りだが、会えなくなるのを残念に思う程度のドライな関係だった。
未練も無いし、元々ちょっと長めの休暇を取るつもりだったのだ。それが永遠の休暇になった所で構う人間はいないだろう。そう判断してしまえば、家に帰るなんてものがモチベーションに成らなくなる。
「えっと、館長。大丈夫ですか?」
「ん、あぁ。少し考え込んでいたな。細かい関係性は兎も角、大雑把にはわかったよ。」
「記憶の方は?」
「私からしたら問題無いが、お前達からしたら改善はしてないな。そもそも記憶が無いなら、なんの記憶が無いのかすら認識するのは難しい。記憶喪失かもというのは、お前達の行動、態度に違和感があったから何となくそうだろうといっているだけだ。」
私の言葉にブーディカは納得したようで、残念そうにしながらも頷いた。
さて、次は何を聞こうかと考えていると、両肩掴まれ、体の向きを変えられる。ブーディカに向いていたのに正面キヨマサがいた。
「俺たち個人のことはどれだけ覚えいている?」
「プロフィールと性格ぐらいは覚えているさ。」
「・・・俺の、その、好きな奴というか、慕っている、あれこれについては・・・」
勢いよく聞いてきた癖に、急にその勢いを無くして気まずそうに言葉を選び始めるキヨマサに思わず半眼になる。そうして思い当たったのはこいつの設定。ギルバトが終わった直後のテンションで作られたコイツの設定はかなりアレである。そもそも、ムーン・オーシャンは比較的女性のギルメンが多いギルドであり、キヨマサはその女性達の暴走によって理想の男キャラを作り、それをギルバトのMVPに恋心を抱いている設定にしようという企画で作られたのだ。長々と設定が書き込まれたが、私に言わせれば「女性向け恋愛ゲームの幼馴染み枠によくある性格」という一言で済むものだった。
それを暴走の黒歴史としてネタに出来ていたのはゲームのNPCだったからだ。現実だとただの面倒な人物だ。
「まぁ、私の問題は時間が解決してくれるだろうよ。」面倒に成りそうな話題はさっさと流すに限る。「次は、現在地について考えよう。」
「はーい!お師匠様。その手の情報収集ならグアール・グースの瞳を使って、気になるところに私とか徒弟を送れば良いと思います!」
今まで黙っていたエウリュアレが待ってましたとばかりに手を上げて発言する。発言の元気の良さも有って子犬のように可愛らしい、けど、グアール・グースの瞳か・・・
ギルド設置型の世界級アイテムであり、その効果はギルド内のNPCの合計レベル上限の増加と『俯瞰』である。ずいぶん前に流行ったらしい地球を俯瞰した映像を提供するサービスを元ネタにするアイテムで、ユグドラシルのワールドをズームで眺めたり出来るというアイテムだ。発見当初は盗視アイテムとかネタ扱いがひどかったが、壁をすり抜けて建物の中まで見ることが出来るのがわかり、ギルド拠点攻めにおいて猛威を振るう事となった。例外として、アインズ・ウール・ゴウンのように同じく世界級アイテムでの防諜を行ってる場合は別だが。
「徒弟を送り込むかは兎も角、ナイスアイディアだ。使い方が私の記憶には無いんだが、誰か使えるか?」
「操作だけなら出来るぞ」
「それなら操作してくれ。拡大とかの指示はこっちで出す。」
了承の返事を返してキヨマサが操作を始める。さっきの話題が流されたのを気にもしていない様子だったので、さっきのような露骨なアクションは設定だからやっているだけの可能性が高いかもしれない。
いくつかの手順を踏むとグアール・グースの瞳が起動し、虚空に画面が浮かび上がる。
最初は遥か上空から大陸を俯瞰した映像。地球でもなければ、ユグドラシルにもなかった形の大陸だ。どうやら、完璧に異世界らしい。
次は現在地の拡大、かなりの山脈の麓らしい。
「縮小して、視点上空7千メートル維持、雲は透視して、都市らしき場所の位置を探ってくれ。」
「わかった」
指示してまたキヨマサが操作、視点が一気に上空へと上がり現在地を中心にして大陸を見ていく、そんな中、おかしな建物を見つけた。
森の中に聳え立つ荘厳な建築物、偉大なる者の為に贅を尽くして作られたかのようなその建物に見覚えがあった。
というか、あれはナザリック大墳墓では無いだろうか?
「あの場違いな建物を拡大しろ!透視も全開だ!」
興奮を隠せない私の声と共に、視点が降りていく。正直に言ってしまえば私のテンションはかなり高くなっていた。日本に帰る気が無かろうとも、同郷のプレイヤーがいるかもという予想は私のような人間でも浮き足立たせた。
だから、忘れていた。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの防諜用の手だてをすっかりと忘却していたのだ。
画面がギルドの深部と思わしき玉座の間を映す。そこにいるのは、圧倒的戦力が見てとれる異形の面々に、玉座に座す死を司る骸姿の王、もしくは支配者だった。神話のような荘厳な光景であると共に圧倒的な死を感じさせる不吉な物でもあった。
それらが写ると同時に画面がブラックアウト。
そして、空間が割れる。
割れた空間の中は何も存在しない暗黒の空間。しかし、そこから現れるモノがいた。神に呪われたようなおぞましい外見の悪魔だ。
アインズ・ウール・ゴウンの透視系の行動へのカウンターである。
「本格的に記憶障害が起きているかもしれんな。コレを忘れているとは!」
腐っても世界級アイテムによる透視だ。神器級アイテムやスキルでは防ぐどころか、見られていることにさえ気付く事は不可能。ならば、同ランクのアイテムによって防がれたということだ。というか、グアール・グースの瞳を手に入れた直後に、ナザリックを透視して同じことが起きたのを興奮のあまり忘れていた。
そんな思考をしている間にも悪魔達は数を増やしていく。上級の悪魔に混じって上級アンデットも混ざり始めた。
色々厄介だが、とりあえず以前と同じ罵声を吐かせて貰おう。
「おのれェ!アインズ・ウール・ゴウンぅぅぅん!!」
かのギルドへの理不尽な叫びが開戦の合図となり、ブーディカ達と悪魔達が動き出した。
役持ち:ギルメンによる高レベルのNPCに対する呼び方。ブーディカや各部門の長クラスのNPCを指す
鍛冶長
ハーフ・ジャイアントのブラックスミス、FFとかで飛行船を作ってくれそうな見た目をしている
農夫長
農業長が良かったと言われる適当な名付けを対して変わらないレベルで後悔された不憫な名前のNPC。
「おら、頑張るべ」などの方言を使う設定だが、偶に忘れる。今回一言も喋ってない、不憫。
ヒバリバリ
初期ギルメンの1人、人格と性癖に問題がある以外はまとも(自称)の問題児、運営に何度かアカウトを消されそうになっている(自業自得)