3話
「死ぬかと思った。」
私の端的な感想が激戦の後の館長室に響く。私を含め現れた悪魔達に応戦した全員が肩で息をしているような状況である。
部屋の至るところで倒されたモノや、同士討ちになったモノを含めて召喚されたエネミー達は光の粒子となって消えていく。
「此方に来て初の実戦がボスラッシュの上に超位魔法まで使わされるとは思わなかったよ。」
「こっちも、ギルドの最奥で久々の全力を出すとは考えてもなかったな。」
「私のミスが原因だ、みんな済まなかった。それとご苦労様だった。」
初の戦闘で、魔法の効果がゲームの時と同じかさえ確認できないまま、切り札の一つである超位魔法
100レベルでフル装備だった私とキヨマサは兎も角、外見優先の装備だったブーディカやレベルの低いステンノ達は結構なダメージを受けて、その回復にそれなりの数のアイテムを使わされた。
最後のエネミーの死骸が消えて戦闘が終了した。しかし、私が全員に掛けていた
「要研究だな」
「嬉しそうだな」呆れたようにキヨマサが言ってくる
「当たり前だ。新しい未知だぞ、調べずに放置なんて出来るわけ無いだろう。」
そう言いつつ、ブーディカ達に回復魔法を使っての回復を促しておく。
「トラブったが、
・・・よりにもよって、アインズ・ウール・ゴウンだが」
DQNギルドとも名高いPK上等の悪のロールプレイギルドだ。同じヘルヘイムに存在するギルドとして争ったことはあるが、負けた数の方が多い。勝ったのも向こうの人数が少ない時や、後に『カルテル』と言われる生産ギルドの連合によって上位ギルドを攻撃した事件の時のみである。
戦闘こそあれどもお互いにギルド拠点に攻めいってない事を考えればゲーム中のギルド間の関係としては普通ぐらいだろう。
「アインズ・ウール・ゴウンってセリケアちゃんがファンだって言ってたギルドだよね?」
「その割りには、ド外道とか、DQN共がぁ!とか言ってたよな」
「連中のロールプレイは好きだよ。だからこそ、連中が何かやったら、やりやがったなこの野郎!って言うのが正しいのさ。」
普通に考えて、悪のロールプレイを楽しんでるプレイヤーに真っ正面から称賛を送るなんてしたら萎えるだろう。
アンチスレを加速させつつ、裏ではファン同士の個チャで盛り上がる。アインズ・ウール・ゴウンにはそういうファンがそれなりの人数ついていた。
兎も角、なんとかして接触して情報交換するなり協力関係なりを築きたい所だ。
しかし、伝言《メッセージ》の魔法で連絡を取りたい所だが、さっき映ってたのはギルマスのモモンガさんのみで、モモンガさんには送れない。こちらから出向くには外の危険度が不明。
「もう少し、この世界を調べてからじゃないと動きようがないな」
「そうでしょうか?私と館長、キヨマサが居れば大概の敵なら打倒できると思うんですが。」
「外にワールドエネミー級がごろごろ居たらどうするんだ?」
言い合いながらさて、どうしようかと考えていると警報がなった。近くにギルメン以外が近づくと鳴るトラップで、フェニエルの大図書館がほとんどプレイヤーの来ない僻地立ったからこそ設置していたものだ。タウン内のギルドならしょっちゅう鳴って五月蝿いだけの代物だ。
「今度は何だ?」
「西南3キロに多数の人型の生命体感知、規模と装備からして何かの軍隊みたいですね。現在の進行ルートだとウチを目視できる範囲に入る可能性があります。」
「つまり?」
「1時間以内に対軍戦が予想されます」
私が何したって言うんだろうか・・・
フェニエルの大図書館で、セリケアが配下のNPC達と共に上級悪魔のわんこ蕎麦級のボスラッシュに奮闘してる中、アゼルリシア山脈の麓を、山脈に沿うように移動する軍隊がいた。
バハルス帝国第七軍、帝国が誇る8つの軍の1つであり、その内の連隊600名は現在国境の警備と言う一見重要度が高い任務についていた。一見と言うのも彼らの警備区域は帝国の北西側、アゼルリシア山脈によって区切られている境界であり、フロスト・ドラゴンが生息するなどと言い伝えられている山脈を越えてくる者などいるはずもなく、トブの大森林などから森を抜けて出てくるモンスターに遭遇したら討伐する程度の役割だ。
また、アゼルリシア山脈には
つまり必要ではあるが、重要ではないというのがこの北西側の国境警備である。それはわかっているが、別の任務を任されたかった。
それはこの任務についている連隊の隊長、アレガ・ニール・イノケティムの偽らざる本音であった。ある貴族の次男として生まれた彼は冒険者として身を立てて、30を超えて冒険者を引退した後に帝国の軍へと入ったという珍しい経歴の持ち主であり、自身の力を誇っていた。
だからこそ、現在のろくに強敵とも遭遇しない現在の任務は彼にとって不満だらけだった。大した刺激もなく、見るのは山と森ばかり。せめてもう少し変化があれば・・・
部下の手前言えずとも常日頃考えていた彼の願いは最悪から半歩ほどずれた形で叶うことになるのはその日に夜だった。
「隊長!森に巨大な建築物があると報告が!」
「何だと!?」
巡回の兵が発見したという建築物が見える位置に兵を引き連れて向かうと、そこに在ったのは森にはあり得ざる荘厳な神殿のような建築物だった。月光を浴びている姿はその建物が地上の月であるかのように神秘的で美しかった。
前回の巡回ではこのような物は存在しなかった。ならば前回の巡回後に建てられた?否、この美しい白亜の建築物は一流の職人が長い年月をかけて作り出したであろうことが、建築に明るくないアレガにでさえ分かった。
しかし、それならばどうしてこのような物が存在しているのかが理解できない。とりあえず、軍の将軍へと
この建物に人はいるのか?居るのならば何者か、居ないならばこの建物は一体何なのか。確かめなければならない。
「我々はバハルス帝国第七軍西北監視連隊である。この地は帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス様が治める帝国の領土。この地に住まい、皇帝陛下へ従順する者ならば扉を開け!」
扉の前に立ち声を上げる。敵か味方かも分からない存在への接触に緊張しながらも帝国の軍に所属し、一つの連隊を率いること者に相応しい威厳のある声である。
しばらくしてゆっくりと巨大な扉が開いた。僅かに開いた扉から見える内部は本で埋め尽くされており、建築物の壁などが本棚によって隠されている。その中から二人の女性が歩いてくる。片方は赤髪の美少女、片方は金髪の美女。金髪の美女は一目で曰く付きだと分かる禍々しい気配を漂わせた白銀の鎧によって武装しており、死の気配を纏っているというのに女の笑みは慈愛に満ちており、その美しさがより一層と強調されているかのようだ。少女の方は可愛らしい顔立ちでありながら切れ長の瞳には冷静さと思慮深さが感じられ、少女から感じるのは冬の早朝のような冷たさと清々しさを合わせた清廉さだ。服装は南方の方のスーツと言われる物に白い外套を羽織っている。
そして少女が口を開く、そこから出された声は見た目から予想される声よりも低く、固さを感じさせる声だった。
「さて、皇帝が誰かも知らんし、従順する気もないが扉を開こう。歓迎しようか、お客人。こちらも困ったことになっていてね、誰かに話を聞きたいと思っていた所さ。」
その声にアレガが答えようとした時、兵の一人が奇声を上げながら鎧姿の女へと槍を構えて襲いかかった。その兵に続くように他の兵も雪崩れ込む要に走り出す。
幾人かが止めようとしているが異常な者達の方が多く、止めきれない。
少女の手にいつの間にか握られていた試験管、少女はそれを躊躇いなく兵達の足元へと放り込んだ。地面に試験管が落ち割れると、中の液体がかかった地面から赤い棘を持つ植物の蔓が生え、爆発的勢いで成長しながら兵達を絡めとる。絡めとられた兵は一瞬もがこうとするが、次の瞬間には眠るように意識を無くす。
襲いかかろうとしていた兵達を絡めとっても蔓の勢いは止まらず、そのまま他の兵、果ては指揮官であるアレガを巻き込んだ。
自身の迂闊さが恨めしい。
人選のチョイスの不味さに気付かなかったのだ。先程来た500人ちょいの軍勢、それを率いてたおっさんは話を聞いてくれそうというか、大切な情報源であり、第一現地人だったわけだが護衛の為にとブーディカを連れていったのが不味かったと言うか、ブーディカのパッシブスキル『狂騒のオーラ』を忘れていたのだ。これは抵抗に失敗した対象に狂化を与え、自身にヘイトを持たせるという効果のスキルで、
ブーディカにも悪いことをしてしまった。悪いのはスキルの存在を忘れて、狂騒のオーラに抵抗出来ない程に低練度の軍勢を出してしまった私なのに、自分のせいで交渉が上手く行かなかったと落ち込んでしまった。
少ししてから立ち直ったのか、パッシブスキルを封じてさっきの隊長さんに話を聞くと張り切っていたのが救いだ。
さっきの軍隊は、隊長さんと魔法使いっぽいローブを着た人以外は眠らせて放置して(移動させるのが面倒だった)、隊長さんとかは内部で起きるのを待って、それから話を聞く予定になっている。
ちなみにさっきやらかしたのは、私の十八番というか代名詞のようなコンボで、ぶつかるとHPの100分の1の貫通ダメージと行動阻害を与えるオブジェクトを設置する
「師匠、大丈夫かい?」
「あぁ、メドゥーサか。大丈夫だが、本気で記憶が可笑しくなっているんじゃないかと心配になってきてな。」
「まぁ、師匠らしくはないミスだったとは思うけど、アンタにだってそう言う時はあるさ。」
「そうなんだが、ミスしたのに気を使われて交渉はこっちがやるから休んでおけと言われてしまったのがな。」
ため息と共に言えば、師匠は何でも自分でやりたがるからねぇ、とメドゥーサが呆れたように返してくる。直弟子というのだからもうちょっと敬意を持ってくれても良いのではないかと思うが、親しみが込められているのが分かるので何とも言えない。
「そんなに気になるんだったら見に行ったらどうだい?ブーディカの方は知らないけど、キヨマサの方は魔術詠唱者が目を覚ましたから話を聞いてくるって言ってたよ。」
「そうか、なら様子を見に行こうか。確か応接室と第二司書室だったよな?」
「応接室がブーディカと隊長っぽかった奴な」
メドゥーサに礼を言って、館長室から近い応接室へと向かう。言われるままに館長室に居たが、交渉をすると言っても敵になるかもしれない人物と二人きりになることが心配だ。4階位の針の壁が避けれなかったのだからそこまで強くは無いと思うし、あの二人が自分だけで押さえられると判断したなら大丈夫なのだろうが、それでも少し心配だった為に早足で応接室へと向かう。
応接室は防音に優れた作りになっているのでノックもそこそこに扉を開ける。なぜか室内には水音がしていた。
チュパ、チュパッと何かに吸い付くような音、どうしてか明かりを落とした室内、扉の近くには睡眠を打ち消す気付け薬の瓶が転がっている。部屋の中央、服を乱して応接用の椅子に座るブーディカ、その膝に乗り上げる、いや仰向けに寝かされている三十路も過ぎ40間近の中年男性、男の方は椅子の下にぐちゃぐちゃに放り投げられている。
「うふふ、アレガ君は甘えん坊でちゅねー。ずぅーっとチュパチュパしてまちゅねー」
「ん、ごめんなしゃいママぁ」
「うん、謝れるなんていい子でちゅねぇ。いい子のアレガ君はママのお願い聞いてくれまちゅよねぇ」
はぁい、ママ。何て言う甘えきった子供のような中年男性の声がするのと同時に扉を閉めた。それはもう勢い良く、音がするほど強くである。
閉ざされた扉を前にしゃがみ込んで、出来る限りの声を上げる。
「へ、変態だぁぁっ!!」
そして、頭を抱えて思い出すのはブーディカの制作者ヒバリバリさんの性癖、アインズ・ウール・ゴウンのペロロンチーノさんとかとユグドラシル紳士の集いとかやってたけど、こんなのって無いと思う。だれが交渉をしてると思った部屋に入ったら、倒錯的なプレイに走っていると思うだろうか?そんなのを何の前触れなく見せられたこっちの気持ちとかを考えたことはあるのかあの
やっぱり、自分がやれば良かったと、その後ブーディカに骨抜きにされた隊長さんと、怯えまくってる魔法詠唱者を見て心底思った。
超位魔法、悪魔達を相打ちさせた魔法、詳細不明
カルテル
生産系ギルド上位のギルド達による市場に出回るアイテムの制限や価格の釣り上げなどが行われ戦闘系の上位ギルドが疲弊させられ、弱った所を一斉攻撃と言う生産職ギルドによる下剋上
アインズ・ウール・ゴウンのファン
有名ギルドならアンチが居ても一定数のファンが居てもおかしくないはずとして設定、かなりひっそりとしていたのでアインズ・ウール・ゴウンのメンバーでファンの存在を知っている人は少なかった
針の壁
捏造魔法、当たった対象に行動阻害と微ダメージを与える
ブーディカ
本人は悪くない、ただ製作者と製作者の母性の定義に根本的かつ致命的な欠陥が有ったただけの事である
セリケア
破廉恥系の出来事に耐性が無い