IS 幽霊の笑顔   作:リディクル

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今回、楯無の名前の由来と更識家の理念に関して、独自解釈がされている部分があるので注意してください。
また、時系列も少し飛び、10巻開始の時期になります。

それでもよろしい方は、どうぞ。







 

 

 荷物を持ち、国際線到着口から出たところで、一夏はスコールと合流することができた。人ごみで歩くのに時間がかかると思っていたが、この空港は出発と到着の旅客導線が分離されており、双方の旅客が混在しない設計になっていたため、人の多さはそれなりであったものの、ごった返すという状況にはならなかった。

「すまないね、遅くなった」

 合流して早々一夏はスコールに謝る。それに対して、スコールは首を横に振り、まるでそんなことは気にしていないかのように微笑み、口を開く。

「お気になさらないで下さい、ボス」

 彼をいたわるような優しい声でそう言って、スコールは空港の出口の方へと手で示す。

「車を待たせています、行きましょう」

 そう言って、スコールは歩き出す。一夏は彼女の隣に並んで歩き出した。

 

 周りの人間が、どんどん各々の目的の場所へと移動していく。少しでも目線を横へと向ければ、ある意味で有名人である織斑一夏がそこに居るにも関わらず、彼らはまるでその存在に気がついていないかのように、移動していく。振り向く人間はいるが、大抵がスコールの美貌に心奪われた者達だ。その隣にいる人物には、全く興味を示さない。

 簡単な原理だ。髪を染め、なるべく顔を見せないような立ち振る舞いと衣装を選び、意識的に気配を絶っている。あとは、そうした自分の姿を、誰にも違和感を感じさせなければ完璧だ。もし誰かが、自分の姿に違和感を感じたとしても、気のせいだろうと流してしまうだろう。要は自分という存在が、誰かの記憶に残りさえしなければいいのだ。

何故なら、今の一夏は世界中の人間が知っている織斑一夏という男性IS操縦者ではない。そんな人間など、今この場にはいないのだ。否、いてはならないのだ。

 

 何故なら、今の彼は幽霊だからだ。

 

 

 

 空港のターミナルビルから出て、スコールが待たせていた車に乗る。一夏が乗り込んだ後、すぐにスコールも乗り、運転手に向かって出発するように合図をする。その合図を受けた運転手は、車を発進させる。エンジンは既にかけていたらしく、すぐに走り出した。

 

「仕込みは?」

 車外の景色が流れていくのを横目で見ながら、一夏はスコールに問う。

「上々ですわ」

一夏の問いに、スコールは笑みを浮かべながら、答える。スコールの答えに、一夏はそう、と小さく言い、満足そうに頷いたあと、スコールの方を向き、言葉を紡ぐ。

「じゃあ、彼女は食いついてくるかな?」

 一夏は無邪気な笑みを浮かべながら言う。

「食いつかざるを得ないのですよ、ボス」

 一夏の言葉に、笑みを深めながらスコールは答えた。

 

 彼の言った彼女とは、更識楯無のことである。一夏もスコールも、楯無の肩書きは知っている。自由国籍権を持ち、ロシアの国家代表についている、対暗部用暗部である更識家の当主。学園最強である生徒会長というものは、それらに比べたら霞んでしまうものだ。

 彼女の実力は、こちら側に来る前に一端とはいえ知ることができている一夏にとっては、他の専用機持ちの対応は二の次にしてでも対処するべき人物の一人である。そして、そう思っているのはスコールも同じだった。一度出し抜いているとはいえ、楯無の実力の高さをその身で感じ取ったことのある彼女からしたら、最優先で排除したい人物なのだ。

 そして、IS学園に潜入させている内通者からもたらされた『亡国機業掃討作戦』のこと。その作戦において、投入される戦力をまとめあげる素質がある人間がいるとするならば、それこそ更識楯無以外ありえないという考えを、一夏とスコールは持っている。

 だからこそ、一夏は一つの情報を()()()あちら側に渡るように仕向けた。その情報を手に入れた楯無は、きっと罠だと思うだろう。だが、それと同時に、彼女はその罠に足を踏み入れざるを得ないという判断を下すだろう。

 何故なら、彼女はIS学園生徒会長であり、更識家当主であるからだ。一夏は近いうちにIS学園が修学旅行を行うことを知っていた。その行き先もわかっている。では、もしその行き先にテロリストがいたのならば、どうするだろうか。普通ならば、行き先を変更するか、中止にしてしまうという判断を下すだろう。

 しかし、IS学園ならば、話は別だ。そのテロリストを排除することができる戦力を揃えることが可能であるならば、それを利用しない手はない。そして、生徒会長という立場であるならば、自身の学園の生徒を迫り来る驚異から守るために、戦わざるを得ないのだ。更識家当主であるのも、ほとんど同様の理由だ。守るものが、学園の生徒から力なき一般人に変わるだけだ。

 彼女の性格がわかっているからこそ、そうした手を使うことができたのだ。

 

 ――彼女への牽制は、それで十分だ。そう考えた一夏は、次に彼女が連れてくるであろう戦力について考えてみる。

 まず、1年の専用機持ち。その中では、ラウラ・ボーデヴィッヒと更識簪の存在が大きいと思える。まず、ラウラは軍人だ。今回のような作戦には慣れていると考えたほうがいい。同様に、更識の一員である簪も、ラウラほどではないが、出来る人材である可能性が高い。その二人以外の者達は、ISでの戦闘で頼りになるという点以外は、特筆することはないだろう。

 次に、その他の人間では、やはり山田真耶が驚異だろう。というよりも、純粋な戦闘能力という点では、楯無の次に驚異になりうる人物だ。元代表候補生と言ってしまえばその程度かと思われるが、過去と現在では、平均的な練度が全く違う。現在の代表候補生の練度が、一部の人間を除き、著しく低下しているということを風の噂で聞いたことがある。表向きは平和な世が続いたのだ、仕方がないといえば仕方がない。むしろ、そうした練度の低下のおかげで、色々な作戦がやりやすくなった。

 代表候補生といえば、ギリシャの代表候補生が2学年にいたことを一夏は思い出す。

 名は、フォルテ・サファイアといったか。直接的な面識はないが、かなりの面倒くさがり屋らしいというのは、あちら側にいた頃に楯無から聞いていた。彼女の対処は、内通者が行うということをスコールから聞いていたので、存在を頭に留めておくだけでいいだろう。

 自身の姉である千冬も、驚異といえば驚異だ。だが、こちらには篠ノ之束がいる。彼女を姉にぶつければ、良くて相打ち、悪くて千日手になり引き分けといった形になるだろう。というよりも、一夏自身は篠ノ之束を全く信用していないので、両者共倒れという形が自分たちのためにも、世界のためにもなると考えているくらいだ。ぜひそうなって欲しいと願っている。

 ――そして、一夏個人が最も警戒している、秋月照彦。

 彼の特筆すべき点は、油断と慢心をほとんどしないことだ。少なくとも、あちら側で友人関係となっていたときは、そういった姿を見たことがない。IS操縦者の実力は、中の上といったところだが、彼の専用機である『黒形(こくぎょう)』は、現行ISを大きく凌駕する基礎防御力であるにも関わらず、速度が白式とほぼ同等というとんでもない機体だ。欠点は、兵装が一つも搭載されていないというものであるが、徒手空拳の方が性に合っていると語っていた照彦本人は、あまり気にしていない。それだけではなく、彼は頭がいい。理解力もあるし、瞬時の判断力も優れている。はっきりと言ってしまえば、楯無と同等の人物と考えたほうがいいのだ。

 そのため、目下警戒すべき人物は、更識楯無、そして秋月照彦の2人だけでいい。次点で付け加えるなら、山田真耶、ラウラ・ボーデヴィッヒ、更識簪の3名だ。

 

 そこまで考えた一夏は、もう一度楯無のことを思う。

 更識楯無、こちら側に戻ってきてから未だに愛している女性。あちら側ではISの操縦から学園生活のことまで、色々とお世話になった。いつの間にか出会って、無意識のうちに恋心を抱き、こちら側に来てから愛を自覚した。

 ――もう一度会いたいと考えたことは、一度や二度ではない。だが、それは叶わない願いであると、自覚している。

 だからこそ、今回の作戦は、ある意味で自身の()()()()()()()()()()をスコールに聞いてもらった形なのだ。

 自身の楯無への愛の証明、そして決別。それこそが今回の一夏の目的なのだ。自分も、彼女も、もう苦しむ必要がないように、決着を付ける。全ては、自身が受け継いだ悲願の成就のためだ。そのためだけに、今まで生きてきたのだ。この体も、この心も、全てそのために作られたものであると認識している。

 そう認識しているはずなのに、心が軋み、手が震える。これは、未練だ。楯無という存在を切り捨てることを、織斑一夏という存在が拒んでいる証なのだ。スコールは捨てなくていいと言ってくれた。しかし、それでは駄目なのだ。切り捨てなければ、自分は真の意味で()()になれない。そう考え続けていると、自分というものが言うことを聞かない錯覚に陥る。

 

 ――いやだ、彼女を捨てたくない。

 ――駄目だ、彼らの望みを叶えなくては。

 

 相反する二つの感情が、一夏を蹂躙する。どうすればいい、どうすればいい。そう考えながら、一夏は自分の身を抱きしめた。

 

 その様子を、スコールは隣に座り、黙って見ていることしかできなかった。できるならば、彼を抱きしめて慰めたかった。しかし、そんな資格など、最初から自分にはないことを自覚していた。

 その縁を捨ててはならないといったのは、自分。しかし、彼は大人たちが身勝手にも押し付けた妄執を成就させるために、その縁を捨てようとしているのだ。汚い、身勝手な大人たち。その中には当然自分も入っている。

 どうか、私たちの願いを叶えておくれ――どの口がのたまうのか。自分たちができないからといって、子供にそれを押し付けるなど言語道断な行いだ。平常であれば、そんなこと起こってはいけない。そうならないように動くのが、大人の役目のはずなのだ。

 そうであるにも関わらず、亡国機業の大人たちは彼に全てを押し付けたのだ。

 だからスコールは決意した。彼が自らの愛を捨てるのであれば、自身も愛を捨て去ろう。もし彼の行く手を自身の仲間が阻むのであれば、全力で排除しよう。人として当たり前の心を、齢16の少年が手放したのだ。ならばそれを庇護する大人も捨てるのが道理だ。

 

 

 

 それが、自分が織斑一夏に示すことができる唯一の忠誠であるのだと、スコール・ミューゼルは信じて疑っていなかった。

 

 

 

 

 

                     ◆

 

 

 

 

 

 招集した専用機持ちたちが全て部屋を出て行ってから、楯無は照彦に向かって口を開く。

「ごめんなさいね、残ってもらって」

 申し訳なさそうな表情の楯無の謝罪を、照彦は大丈夫ですと言い、素直に受け入れた。壁に掛かっている時計を見れば、現在午後4時。普段だったらまだこんな時間かと思うところだが、今回の件に関しては、あまり時間は残されていないように感じられる。

「前に言っていた、部下に探らせていた情報というやつですか」

 照彦の問いに、楯無は無言で頷く。その表情は、何時にも増して真剣なものだった。

「裏付けがようやく今朝取れたみたいなの」

 そう言って、一旦言葉を切り、ひと呼吸置いた楯無は、ゆっくりとその情報を言葉にする。それは、照彦が予想もしていないものだった。

 

「亡国機業の首領が、京都に来るらしいの」

 楯無からもたらされた情報に、照彦は怪訝そうな表情を浮かべる。それは純粋に、何故こんな中途半端なタイミングで、そのような情報が手に入ったのかわからないからだ。正直に言ってしまえば、不自然すぎるのだ。

「ガセか、もし本当だとしてもわざと掴まされた情報ですね」

「私もそう思っているわ。でも、それにしたって出来すぎている」

 亡国機業掃討作戦が正式に決定してから突如として掴まされた情報。そして、今になってようやく裏付けが取れたという事実。明らかに、相手はこちらに合わせているのが丸わかりだ。

「ほとんど罠でしょうね」

 照彦の予想は、奇しくも楯無の予想と被っていた。こちらに合わせるように、自分たちが不利になる情報を相手方にもたらす。これを罠ではないと思う方がおかしい。

 しかし、罠だと分かっていても、それを承知の上で踏み抜きに行かなければならないのだ。何故なら、更識楯無という人間は、守る者であるからだ。IS学園生徒会長として、驚異に抗う力がない一般生徒を、そして更識家当主として、何も力を持たぬ一般市民を守らなければいけない。早い話が、彼女の身は楯なのだ。それは、過去に織斑一夏とともに更識の理念である『楯無キ民ガ為』を聞かされた照彦もわかっていることだ。そして最悪なことに、その理念がわかっている人物があちら側にもいるということだ。その事実が示すのは――

「本格的に内通者の存在を疑ったほうがいいですね」

 本当はそうしたくはないが、ここまで合わせられているのだ、いると考えて動いたほうがいい。そう考えながら、照彦はため息をついた。そんな照彦に、楯無はそうねと答えた。

「参考までに、誰が怪しいのかわかる?」

「十中八九、ダリル・ケイシーでしょうね」

 楯無の問いに、照彦は今回召集がかかった中の、3学年の代表候補生の名を挙げる。彼が彼女の名を挙げた理由は、ただ一つ。彼女の出身がアメリカだということだ。更識家お抱えの諜報機関の調査により、アメリカと亡国機業の密約があることが判明したというのが理由だ。内容については、目下調査中らしい。

 照彦の答えを聞いた楯無は、私と同じね、と言い、扇子を広げる。照彦自身は、彼女がわかってて聞いただろうということがわかっているので、特に気にはしていない。

「まあ、そういうことだから、こちら側で気をつけるべきは彼女くらいかしらね」

 そう言ったあとに、楯無は何かを思いついたような表情でそういえば、と言い、言葉を続ける。

「ほかの専用機持ちについてはどう思っているのかしら」

 その言葉を聞き、照彦は一つため息をついたあと、何を今更と思いながら、言葉を紡ぐ。

「正直に言っていいのなら、話しますけど?」

「別にいいわよ、人間正直になるのが一番よ」

 そう言って、カラカラと笑う楯無をジト目で見ながら、照彦は口を開く。

 

 まず、純粋な戦力という意味であるならば、全員が当てはまりますが、それはISでの戦闘に限定した場合であって、それ以外の面ではからっきしの奴が多いですよ。

 今回のような作戦の場合、頼りになるのはラウラと簪くらいです。前者は本国での軍人の経験があり、後者は本人から聞いたのですが、更識の仕事を手伝っていた時期に色々と仕込まれた経験があるらしいです。今回の作戦で、俺たち以外で主軸を決めるという状況になった場合、この二人を据えるのがベストですね。

 その二人以外では、セシリアが使えると思っています。彼女の狙撃の能力はあのラウラが認めたほどですし、本国にいた際に従軍経験があることを本人が話していました。だから狙撃手が必要となったならば、ラウラよりも彼女のほうが適任ですね。

 逆に――戦力にならないと言えるのは、鈴、シャルロット、箒の三人ですね。

 箒はやはり精神状態が危ういのと、実戦経験が明らかに不足しているのが理由ですね。だから今回の作戦では織斑先生をつけたんでしょう? おそらく、それが最適解だと思います。箒自身も他の専用機持ちと組むよりも織斑先生と組んだほうがやりやすいと話してましたし、織斑先生もそのことに同意してました。

 他の二人は、やはり根本的に実戦経験不足というのが大きいですね。片や短期間で代表候補生になったことによる従軍経験の不足。片や出自の影響からそうした場とは無縁の生活を送らざるを得なかった。

 ちなみに俺自身はISでの戦闘以外は全く役に立ちませんよ。まあ、だから更識先輩と一緒に行動することになったんでしょうけどね。

 サファイア先輩に関してはよくわかりませんから何も言えません。しかし、ダリル・ケイシーに関しては、もし内通者だったらという仮定の下で進めますが、一番厄介であると思います。

 

「――これぐらいですかね、俺から言えることは」

「君、結構辛辣ね」

「これでもオブラートに包みました」

 そう言って、照彦は伸びをする。そんな照彦の様子を横目に見ながら、楯無は暫しの間何かを思考していた。

 そして、それが終わったのか、開いていた扇子を閉じ、照彦の方を向く。その表情は、真剣そのものだ。

「ちょっと、聞いてくれるかしら」

 そう言って、楯無は言葉を紡ぐ。

「まず、彼女達には情報収集に徹するといったけれど、それは自身の部下に任せることにして、私も打って出るわ」

「それは俺としてはありがたいと思いますが、いいんですか?」

 照彦の言葉に、楯無は頷く。

「今回の作戦の結果次第で、この先のIS学園の未来が決まると言っても過言ではないわ」

 まず影響があるのが、修学旅行の行き先だろう。そんなことを考えながら、照彦は楯無の話を黙って聞く。

「前に言ったとは思うけど、あなたは私と一緒に行動してもらうわ」

「一応の理由としては、現状唯一の男性操縦者である俺の護衛を兼ねているという話でしたよね」

「ええ、その他にも、あなたという戦力を自由に動かす為とも言えるわ」

 楯無が言ったとおり、照彦のISの特性や戦闘スタイルを考慮に入れた場合、他の専用機持ちのそれとは全く合わない。スタンドアロンで戦闘した方がいいと言えるのだ――唯一自分と合わせられた一夏は、もういないのだ。

「その性質上、私たちは遊撃に近い形での行動になると思うの」

「つまり、増援は見込めない、ということですね」

 自分たちが自由に動けるということは、他の専用機持ちとの連携は期待できない。ましてや、自分たちはそれを秘密裏に行うのだ。まず、増援など来ないと考えたほうがいい。そう考えた照彦は、自身が気になっていたことを、楯無に問う。

「俺たちが相手取る奴は、誰なんです」

 輝彦の問いに、楯無は表情を変えずに答える。

 

「スコール・ミューゼルよ」

 

 その名を聞いた照彦の眼差しが、鋭いものになる。スコール・ミューゼル。その名は、キャノンボール・ファストの会場で、本人から聞いたことがあった。その時一緒にいた楯無を出し抜き、逃げおおせるほどの実力。そして、彼女が纏う黄金のISの存在。妥当といえば妥当な相手だ。

「最悪の場合、俺が一人で相手をすることになると」

 楯無はその言葉に頷く。そして、そのまま言葉を紡ぐ。

「おそらくそうなる可能性の方が高いと思うわ。私の予想では、彼女を相手取る場合は私かあなたくらいしか適任者がいないのよ」

「機体性能ゆえに、ですか」

 自身のISの真の特性である、高機動重装甲。そして、何気ないことだが、1学年の専用機持ちの中で最も勝率がいいのだ。そういった要素を考慮に入れて、自身が選ばれたのだろう。勝てるかどうかなど、その時にならなければわからない。自身は、為すべきことを為すだけなのだ。そう考え、照彦は気を引き締めた。

「そうよ、いけるかしら」

 その問いは愚問だと言わんばかりに、照彦は即答する。

「言われなくとも」

「そう、ありがとう。期待しているわね」

 そう言って、楯無は微笑む。その微笑みには、どこか影がある。その事実に気がついた照彦は、今まで気になっていたあることを、楯無に聞くことにした。

 

「――まだ、織斑の死から立ち直れてないんですね」

 照彦の言葉に、楯無は一瞬だけ目を見開くが、すぐに表情を戻し、頷く。

「そう簡単に、人間の感情なんて変わらないわ」

 そう言って、楯無は窓の外へと目を向ける。その横顔には、どこか悲しげな雰囲気があることを照彦は感じ取った。窓の外へ顔を向けたまま、楯無は口を開く。

「あなたの思っている通り、私はまだ彼の死から立ち直れていない」

 でもね、そう言って、楯無は続ける。

「それでも、私は立ち尽くしてはいられないのよ」

 自身は、守るものなのだ。更識であり、そしてこの学園の生徒会長でもある。自分の後ろには、常に守るべき力なき存在があり、それらを守ることこそが自らの使命であると、楯無は考えている。その考えを、楯無は今まで自身の態度で示してきたのだ。

「本当に、あなたは強いですね」

 眩しいものを見るように、目を細めながら、照彦は言う。しかし、彼の言葉に楯無は否、と答えた。そして、窓の外を向いたまま、言葉を紡ぐ。

 

「私はね、ただ覚悟を決めているだけなのよ」

 そう言った楯無の目は、何処か遠くを見つめていた。

 

 

 

 

 




こんなに長くなるなんて思ってもみなかった。
というか見直してみると地の文がとても多く感じてしまう。

今回さらっと照彦君の専用機について触れてますが、展開装甲もなければ単一仕様もなし。ただ基礎的な能力がとんでもないことになっている黒いISだと考えてくれればそれでいいです。派手派手な能力なんて必要ねえんだよ!(暴論)

そんなところで、今回もここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
よろしければ、感想がもらえますと、これからの執筆の励みになります。
ほかの作品ともども、どうぞよろしくお願いします。




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