IS 幽霊の笑顔   作:リディクル

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ついにクライマックスが見えてきました。
例にもよって、独自解釈が多分に含まれている内容となっているので注意してください。

それでもよろしければ、どうぞ。







 

 

 人の営みの中には、過去の事象で学んだことを継いでいくという慣習が存在する。掟や学問などが、その最たる例と呼べるものだろう。そのような形にして継承していく理由は様々だ。過去にあった災禍への戒めであれ、その家の理念であれ、人は何かを学んだら、それを形の有り無し関わらずに出来うる限り残し、次へと繋いでいっているのだ。

 そこに、継承するものへの善し悪しなど関係がない。成し遂げて欲しい悲願を託すのも、自身が守り続けた理念を託すのも、全て人間が行うことなのだ。そのため、時として継承そのものが人を傷つける暴力となることがあるのだ。そんなことを、過去の人間は気にしない。何故なら、過去の人間は、悲願があるのなら達成して欲しい。守り続けた理念を守り、次へと繋げてほしい。それぐらいしか考えていない。

 だから、その組織の悲願を託され、自らの感情を裂かれる思いをしている少年がいても、彼らは苦しまない。前代から一族の理念を受け継ぎ、理想と現実の狭間で苦しみ続けている少女がいても、彼らは知らん顔だ。継承したその瞬間に、当事者ではなくなるからだ。だから、次代が苦しんでいても、他人事でしかない。

 だが、そうやって人の営みは続いてきたのだ。だから、これからもそうやって続いていくだろう。今も、そしてこれからも――

 

 

 

 

 

「どう出てきますかね、あいつらは」

 窓の外の京都の街並みを見ながら、照彦は言う。

「どうもこうもないわよ、秋月君」

 彼の言葉にそう答えながら、リラックスしたようにテーブルに突っ伏している楯無は、ちらりとテーブルの上に置かれている自身の携帯端末を見やるが、特に連絡がかかってくる様子はない。

「まだ情報が来ないんだもの、あっちの動きがわからない以上、こっちが無闇に動く方があっちの思うツボかもしれないのよ」

 そう言いながら楯無は、体を起こし、湯呑の中の緑茶をすする。そんな楯無の言葉に、それはそうですが、といまいち納得していない表情で照彦は答える。

「あいつらを街に繰り出させる理由にはならないと思いますよ」

 そう、今この旅館の部屋には、照彦と楯無しかいない。他の専用機持ちは、千冬とともに行動する箒を除き、全員を適当な理由をつけて京都の街へと繰り出させたのだ。それも作戦のためではなく、観光のためだ。彼女らが行ったあとに、そのことを楯無自身から話された照彦は、あまりの気の緩みに思わずため息をついてしまった。

「あら、息抜きは大切よ?」

 そう言って楯無は照彦の方へと顔を向ける。その表情は、いつも彼女が見せている自信有りげな笑みだ。そんな楯無の言葉を聞き、一つため息をついたあと、楯無の方を向いた。

「で、俺を残したのは、何か考えがあってのことなんですか」

 そう、専用機持ちの彼女達を街へ繰り出させる時に、照彦だけは手伝って欲しいことがあると言って、残させたのだ。当然、彼女たちからの反発はあったが、それをのらりくらりとかわし、適当な理由で彼女達を丸め込み、京都の街へと行かせたのだ。

 その後、この部屋へと通された照彦を待っていたのは、情報が来るまで待機という楯無の言葉だった。身構えて損をしたと思いながら、照彦は律儀に楯無とともに待ち続け、今に至る。

 

 静かに時間が流れている中で、最初に沈黙を破ったのは、楯無だった。ねえ、秋月君。と照彦を呼ぶ。その楯無の声に、なんですかと窓の外を見ながら答える照彦。楯無は自身の携帯端末を手に持ち、彼の隣へ行く。そして自身も窓の外を見ながら、口を開く。

「あなたがもしあちら側の人間だったら、いつ仕掛けて、誰を最初に狙うかしら」

 楯無の言葉を聞き、難しい顔をする照彦。彼女の言ったその言葉は、相手の動きを予想しろと言っているようなものだ。さらに、相手の戦力の全容が見えないので、知っている範囲で考えなければならない分、不確定要素が多く、現実の事象とは大きく異なるはずだ。それでも、彼はIS学園において何度も世話になっている楯無の為に、考えを巡らす。

 そして「あくまで仮定の話ですが」と前置いてから、自身の考えついた予想を言葉にするべく、口を開く。

「あちら側はなるべく損耗を抑えたいと思うでしょうね。もちろん、もっと人員はいると仮定できるのでその限りではありませんが、この先に控える大きな作戦があるならば、そちらの方を優先すると思います」

「つまり、少数精鋭でこちらと相対すると?」

 その言葉に、可能性の話ですよ、と言い、照彦は話を続ける。

「だからこそ、相手が仕掛けてくるとしたならば、それは俺達が油断して単独で行動するようなことになった場合だと思います。もちろん、それ以前のタイミングで仕掛けてくる可能性もゼロではありませんが……」

 一番確実にこちらの戦力を削ぐならば、そうします。そう言い切った照彦の言葉を受け、楯無は扇子を開き、口元を隠し、思案する。

なるほど、確かにその方が合理的だ。数で劣っているのならば、その数を極力減らさない状況を作り出し、その上で一人一人対処していく。少数精鋭であるがゆえに、おそらく連携という観点ではあちらの方が上だろう。ましてや、こちらの主な戦力は学生なのだ。その来歴に様々なものがあるが、根本的には自分たちも含め、まだ未成年なのである。はっきり言ってしまえば、そうした状況になれば、こちらが圧倒的に不利になる。

だが、そうなる前に対処する方法はあるにはある。

「そう考えると、地道に釣っていくしかないわね」

 その内の一つが、どうにか擬似的に一体一の状況を作り上げ、伏兵を使い撃破していくというものだ。成功率はお世辞にもいいとは言えないが、楯無はこの方法が最も確実であると考えている。だが、この方法にはネックとなる問題がひとつ存在する。

 

「もし、こちらの戦力を削ぐとして、誰を狙うか」

 こちらとしては、誰が狙われたら損害が大きいか、そして、あちらとしては損害を大きくするために誰を狙うか、という感覚の違いが存在するのだ。照彦は、その言葉に、また予想の話になりますが、と前置いてから、口を開く。

「あちらがこちらに損害を出す場合、今回の彼らは戦力を失わなければいいという勝利条件があります。そして、こちらはあちら側の戦力を捕らえるという勝利条件のもとに動かなければいけない」

 その上で、こちらもあちらも重要視しなければいけない人物が居る。

「――それが、内通者の存在というわけね」

 楯無の言葉に、照彦が頷く。

 そう、内通者――ダリル・ケイシー。彼女がどう動くかによって、全てが変わってくるのだ。

「まだ仮ですが、もしも彼女が本当に内通者だったとしましょう。そうした場合、誰が狙われるのかがある程度絞り込めます」

 彼女の人間関係、そして彼女の行動パターンを少ない情報の中で考えた結果、導かれる答えは、ひとりの少女の存在だ。楯無もまた、すぐにその答えを導き出した。

「フォルテ・サファイア」

「そうです。ダリル・ケイシーとある程度近い存在であり、かつ彼女にある程度心を許しているサファイア先輩が最初に狙われる可能性が大きいです」

 そして、仮にフォルテ・サファイアが狙われなくとも、彼女らにはまだ狙い目がある。

「サファイア先輩の他には、現状唯一の男性操縦者である俺と、織斑先生と一緒に行動しているものの、第四世代の保持者である篠ノ之が候補にあがりますね」

「あなたも含め、3人ということね」

 扇子を閉じ、楯無は言う。自分があちら側でも、その面子を狙う対象にするだろう。一人は、内通者に近い人物であり、いつでも対処できる存在である。後の二人は、他の専用機持ちとは違い、国家というものの縛りがある程度緩い。だから、それなりに自由に動くことができる。だが、それは独りで動けるということであり、下手すると孤立してしまう。そうなれば、狙ってくださいと言っているものだ。

「……しばらくは、あの二人の動向に注意ね」

 ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイア。この二人に何か変化があったのならば、警戒せねばならない。

 

 そう考え、気を引き締めた楯無の耳に、携帯端末のコール音が届く。自身のものだ。端末の画面を見てみれば、そこには『小林』の文字。自身の部下の名前だ。

 ついに来た。そう思いながら、楯無は通話に出る。

「――楯無よ」

『楯無様、小林です』

 聴き慣れた女性の声が、耳を叩く。間違いなく、自身が楯無になった頃から仕えてくれている小林の声だ。

「連絡を入れてきたということは、何か動きがあったのかしら」

『動いたのは、二人です』

 スコール・ミューゼルと亡国機業の首領らしき人物が、京都入りしました。

 小林のもたらした情報に、険しい表情を浮かべる楯無。その様子を横から見ていた照彦も、同じような表情を顔に浮かべる。

「それは、確かな情報なのかしら」

 楯無のその言葉には、緊張が混じっていた。

『確かです、斎藤が裏を取りました。ただ、その後の動向が掴めていません』

 ほとんど感情を感じさせない小林の声が、ゆっくりと楯無の心に冷静さを取り戻させる。そうだ、わかっていたことではないか。何を今更驚いているのか。そう思いながら、口を開く。

「――わかったわ、引き続き情報収集をお願い」

『了解しました。次はなるべく早く報告します』

 その小林の言葉とともに、通話が切れる。それとほぼ同時に、今度は照彦の携帯端末がコール音を鳴らす。照彦がポケットから端末を取り出し、画面を確認する。そこには、簪の名が写っていた。突然の簪からの連絡に、照彦は疑問を浮かべながらも、通話に出た。

「はい、秋月です」

『秋月君? 私、簪だよ』

 通話に出たのは簪だが、何かを言い争う声が聞こえてくる。しかし、簪の声は落ち着いたものであり、そのミスマッチが照彦の疑問をさらに深いものにした。そこで照彦は、自らの疑問を晴らすために、単刀直入に聞くことにした。

「何かあったのか?」

『うん、落ち着いて聞いてね』

 

 亡国機業の人を一人、捕まえたの。

 

 まるで予想もしていなかった簪のその言葉に、思わず「はぁ?」と声を出してしまった照彦だった。

 

 

 

 

                    ◆

 

 

 

 

 凶悪そうな顔の女が、他の専用機持ちに囲まれながら、体を縛られて畳の上に寝転されている。そんな様子を見ながら、照彦は簪や楯無とともに壁際に立っていた。捕らえた女の顔に、照彦、楯無両者ともに見覚えがあった。文化祭の時に一夏を襲撃した人間の顔だ。確か、名前はオータムといったか。しかし、接点がそれくらいしかないので、それ以外のことはよく覚えていない。他の専用機持ちたちも、ほとんど接点がないはずだ。会ったのは一夏襲撃後に独断で追撃したラウラとセシリアぐらいだろう。

「なあ、簪」

「何、秋月君」

 だからこそ、気になることがあった照彦は、右隣に立つ簪にあることを聞くことにした。ちなみに、彼の左隣に立つ楯無は、彼と簪の会話に聞き耳を立てながら、オータムの様子を観察している。

「どうやってこいつを捕まえたんだ?」

 彼女は、腐っても亡国機業のエージェントだ。そう簡単に捕まるわけがない。だからこそ、どのようにして捕まえたのか興味があった。もしかしたら、そこから亡国機業攻略の糸口が掴めるかもしれない。そんな淡い期待を胸に抱いて、照彦はその言葉を投げかけたのだ。

 しかし、その言葉を投げかけられた簪は、微妙そうな表情を浮かべる。彼女が浮かべたその表情を疑問に思っていると、彼女がゆっくりと口を開いた。

「偶然、みんながこの人を見つけて、捕まえただけなの」

 申し訳なさそうに紡がれたその言葉に、思わず頭を抱えてしまった照彦は悪くないだろう。その証拠に、彼の左隣の楯無も、呆れたような表情を浮かべてため息をついた。そんな回答が返ってくるとは思っていなかったからだ。というよりも、今の状況で、そのような流れを想像しろという方が難しい。

 

「それで、どうしましょうか」

 そう言ったのは、楯無。聞いている内容は、オータムの処遇についてだ。それは、照彦も簪も理解している。だが、専用機持ちの彼女がそのことを理解しているのかはまた別の話だ。

「――とりあえず、情報を聞き出すのが先決かと思います」

 何よりも今の自分たちに不足しているのは、情報であることを認識しているのは、今この部屋に居る人間の中では、照彦達3人だけなのだ。そう考えると、専用機持ちの彼女らが宛にできないというのは、あながち間違いではなかったのかもしれない。そう思いながら、照彦はため息をついた。

「でも、どうやって?」

 簪の疑問はもっともだ。何故だか知らないが、専用機持ちの彼女らはオータムを囲んで何かを言っている。そして、オータムが何か言うと、その度に蹴っているように見える。否、ように見えるのではなく、実際にそうしている。

 ――あんな状態では、こちらの話を聞いてもらう事は難しそうだ。そう考えながら、照彦は部屋の様子をもう一度観察する。

 

 部屋のほぼ真ん中でオータムを囲んで何かをやっている一年の専用機持ち数名を挟んだ向かい側の壁際では、彼女らの様子を睨むように見ている千冬の姿と、専用機持ちの輪には混ざらず、山田真耶と何かを話している箒の姿があった。時折聞こえてくる言葉の端々から、どうやら箒の心のケアを行っているようだ。

そこから少し左へと視線をずらせば、そこにはダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアが居た。二人で何かを話し合っているのだが、声が小さすぎてよく聞こえない。しかし、時折フォルテの方が頬を赤くしているので、()()()()()()の話だろうと結論づけた。

 続いて、この部屋の入口の方を見る。入口の横の壁に、一人の女性が寄りかかりながら、煙管(キセル)を左手でいじっている。その姿は、右目に刀の鍔のような眼帯。肩から胸元まで露出するまで着崩した着物。そして、痛々しいやけどの跡と、欠損した右腕という、なんとも不可思議と言えるようなものだ。しかし、この女性こそが、第二回モンド・グロッソを制した二代目ブリュンヒルデである、アリーシャ・ジョセスターフだ。

 そんな彼女が何故この場所にいるのかというと、彼女曰く、街でばったり千冬と再会し、そのまま付いてきたというのだ。そのため、戦力になるかは未知数というのが、楯無と照彦の共通の見解だった。そんな彼女と照彦の視線がぶつかる。アリーシャは照彦に向かって笑顔を浮かべ、左手に持っていた煙管を小さく振る。しかし、当の照彦は手を小さく上げて答えただけで、すぐに別のところへと目線をやった。

 

 そうして、部屋の色々なところに目をやっていた照彦は、楯無が厳しい表情で窓の方を見ていることに気がついた。何かあるのかと思い、自身も窓の外を見た。

窓の外には、ゆっくりと夕暮れに向かう古都の景色が広がるばかりだ。何もおかしいものはない。

 ――否、視界の端で、小さく金色がひらりと舞った。慌てて照彦がそちらの方を見てみれば、ちょうど自分たちがいる壁際と窓の延長線上にある建物の上に、一人の女性がいた。黄金色の髪の毛、そして紅色で露出度の高いドレス。スコール・ミューゼルだ。

その事実に、照彦は一瞬だけ部屋の中に目をやる。どうやら、何かあったことに気が付いているのは、自身と楯無以外には、自身と同じ側の壁際にいる簪と、楯無と自分の表情を見て何かあったことを察した千冬とアリーシャぐらいだ。

 ついに仕掛けてきたか。そう考え、窓の外に視線を戻すと、スコールは妖艶な笑みを浮かべながら、右手をあげて手招きをしてきた。そして、ひらりと踵を返し、移動を始めた。

 逃げられる、そう考えた照彦は、隣にいる楯無を見る。楯無も同じ答えを考えたのか、こちらを見返していた。そして、一瞬のアイコンタクトの後、二人で千冬の方を見る。千冬は、二人の目線に、何も言わずに頷く。それを合図に、二人は気配を出来うる限り消しながら、ゆっくりと部屋の入口へと移動する。

 そうして部屋の入口の前まで来た照彦と楯無だが、部屋から出る前に、照彦と入口の横にいたアリーシャの視線が再び絡み合う。ほとんど一瞬の交差。それが何を意味しているのかは、当人たちしか知らない。何故なら、その交差の後、照彦は楯無とともに部屋から出ていってしまったし、アリーシャは意味深な笑みを浮かべるばかりだ。そんな様子を、千冬は睨んでいることしかできなかった。

 

 

 

 建物から建物へと飛び移りながら移動するスコールを追い、照彦と楯無は夕暮れの古都を必死に駆ける。夕暮れとはいえ、まだ人が多い。そのため、迂闊にISを展開して追うことができない。それが相手も分かっているのか、時折こちらを待ってから、移動を再開することがある。その動きは、明らかにこちらをどこかへ誘い出そうとするものであり、当の二人も、誘い出されていることの自覚があった。

 スコールを追い、三年坂から松原通へ戻ってくる。照彦がスコールの方を見れば、彼女がそのまま東の方面へと進んでいくのが見えた。建物の関係上、松原通を道なりに進むことになりそうだ。ここまでくれば、彼女が自分たちをどこに誘い出そうとしているのかが、容易に想像できた。その場所は、京都に来たのなら、誰しもが一度は足を運ぶであろう場所であり、古都京都の文化財の一つ――清水寺だ。

 

 二人が追い続けたスコール・ミューゼルは、音羽の滝の前で一人立っていた。その顔色に変化はなく、汗すらかいていない。まるで、この程度でへばることがないと言わんばかりに、その顔に余裕があり気な笑みを浮かべ、自身と対峙している二人を眺めている。一方の楯無と照彦は、息を切らせながらも、鋭い視線を彼女に送っていた。

「なにが、目的だ」

 息を整えながら、照彦は問う。何も考えなしでここに誘い出したわけではないだろう。

「誰でも良かったというわけじゃないだろう」

「――ご名答」

 そう言って、スコールはサングラスを外す。楯無とは違い、何処か血を思わせるような真紅の瞳がこちらを射抜く。だが、それにたじろぐような二人ではなかった。

「やっぱり、あなたは私たちだけを誘いたかったようね」

 楯無の言葉に、スコールの笑みはさらに深いものとなる。その様子に、照彦は何処か違和感を覚える。そして、周囲に気を配り、初めてその正体を捉えることができた。人がいないのだ。仮にも京都で有名な寺であり、多少遅い時間になっても観光客が居ることは珍しくない。そうであるにも関わらず、自分たちとスコール以外の人間を、今もなお目撃していないのだ。

 もし、彼女らが人払いしたとして、いざという時に人質となりうる一般人という存在をみすみすと手放すかと問われれば、否と答えたい。普通ならば、人がいる中で交渉するなど、いつでも被害を拡大できる状態で有利な状況を作り出そうとするだろう。ましてや、二人の目の前にいる女は、世界的なテロ集団の一員だ。周りの被害など考えないだろう。それなのに、今現在はその考えに反した行動を取っている。それこそが、照彦が困惑している要素なのだ。

 

 それ以外にも不可解な点がある。それは、スコールが未だに仕掛けてこないというものだ。いや、スコールだけじゃない。どこかに潜んでいるであろう亡国機業の構成員が、未だに何もしてこないというのには、不信感を覚えてしまう。もしかしたら、自分達以外が襲撃されているのかもしれないと思ったが、そうであったのならすぐに連絡が来るはずだ。

 罠であるのであれば、既に仕掛けてきてもおかしくない。ただ分断するのが目的であっても、既に戦闘が始まっていてもおかしくない。しかし、今のこの状況はただ睨み合っているだけだ。時間だけがいたずらに過ぎていく。それでは、ますますこちらが不利になる。そう考え、現状の膠着状態を打破すべく、照彦は口を開いた。

「何を考えているんだ、スコール・ミューゼル」

 単刀直入な問いだ。それに答えが返ってくるとは思っていないというのが、照彦の本音だった。しかし、驚くことに、スコールはしっかりとその問いに対して返答した。

「まず、今回の件は私個人の興味によって動いていることであって、他の亡国機業の構成員はあまり関与していないことを先に言っておくわ」

 亡国機業は関与していない。その一言が、混乱をさらに深いものにする。照彦は彼女が嘘をついていないことを瞬時に見抜いた。しかし、それが何故であるのかまではわからなかった。しかし、その答えはすぐにスコールの口からゆっくりと語られた。

「もうひとつの理由は――あなたたち二人を連れてくるのが、あるお方からの依頼だったからよ」

 その言葉に、楯無は今まで自らにもたらされた情報を一つ一つ思い出していき、ある一つの答えを導き出した。それはすなわち――

「ここにいるのね、亡国の長が」

 彼女が忠誠を誓うべき人物が、この場所のどこかにいる。そして、その予想はスコールが楯無の言葉を肯定することにより、確信に変わった。

「ええ、そうよ」

 スコールは、笑う。まるで、この時を待っていたと言わんばかりに。

 

「彼は、あなたに会いたがっていたわ。更識楯無」

 

 そう言って、彼女はある方向を指し示す。その方向は二人から見て、音羽の滝の左手。本堂方面へと向かうための階段がある方向だ。その動作に釣られるようにして、二人はそちらに顔を向けた。

 そこに、一人の人影が見える。その人影は、階段をゆっくりと降りてきている。降りてくるにつれて、その人物がどのような姿をしているのか明らかになっていく。そして、それと比例するように、楯無と照彦の中に生まれた驚愕が大きくなっていく。

 まず、その人物に抱いたのは、何故ここにいるという疑問だった。何故なら、その人物の姿には見覚えがある。否、見覚えがありすぎるのだ。片や、自身の最高の友人であり、片や、自身がその最期を見届けた存在だからだ。

 その人物の顔には、優しげな笑顔が張り付いている。それは、楯無にとっても、照彦にとっても、余りにも見覚えが有るものだった。

 

 その笑顔を浮かべたまま、その人物は口を開く。

 

 

 

「久しぶり、楯無さん、テル」

 

 その人物は、織斑一夏だった。

 

 

 

 

 




今回のスコール追跡のルートがわかった人はマジですごい。
というかルートを考えていたからかなり難産だった今回の話です。

あと、楯無の部下の名前の元ネタがわかった人は僕と握手!

…という冗談は置いといて。

今回もこの作品を読んで下さり、どうもありがとうございます。
よろしければ、感想をもらえると幸いです。
これからも、どうぞよろしくお願いします。



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