IS 幽霊の笑顔   作:リディクル

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今回の話には、亡国機業に対しての独自の解釈がありますのでご注意ください。
また、今回の話は短めとなっていますので、そこのところはご了承ください。

それでもよろしい方のみ、ご覧下さい。







 

 ――亡国機業が第二次世界大戦中に生まれというのは、もう知っているかと思います。そして、それが世界の裏側で暗躍する秘密結社であるということも、言わなくてもわかることですよね。

 では、亡国機業がどのような目的を持って生まれたのかまでは、わかりますかね? 何故、我々がそこにあるのか。何故、そのような組織がなくてはならないのか、考えたことはありますかね? 多分、ないと思います。おそらく知っている人は既にこの世にはいないと思いますよ? ああ、殺したんじゃないです。単純に、寿命です。そうなるほど、歴史がある組織なんですよ、我々は。なんせ半世紀以上前から行動しているんですからね。

 そもそも、そんな組織が何故今まで潰されていなかったのか、わかりますよね? そう、我々の誕生には、当時の大戦において主要な国家が関わっているから、そして、今もなおそれらの国家に利益をもたらしているからこそ、潰すことはできないのですよ。しかし、我々からもたらされる利益は、彼らにとって見れば単なる副産物なんですよ。何故、我々が今日まで、大国に潰されずに存在し続けることが出来るのか、それは――

 

 ――我々が、抑止力であるからなんですよ。

 

 私たちの目的、それはありとあらゆる争いをコントロールすること。戦争を起こさなければならない時にはその火種となり、逆に戦争を終わらせる時には率先して止めに行く。我々に敵も味方もなく、喧嘩両成敗のように等しく殲滅する。それが私たち、亡国機業。

 どこの国にも所属しないのは、公平性を保つためと、出来うる限り存在を秘匿するためよ。何故かって? それは私たちが抑止力だからというのが答えよ。もう少し詳しく言うと、私たちが掲げる抑止力とは、()()()()()()()なのよ。いつ現れるかわからない。どこに現れるかわからない。味方だと思っていたら、次の日には敵に回っていた。現れたと思えば、破壊を撒き散らし、人を殺していく。それはまるで神々の裁き。

 そして、その裁きを為すのが、既にこの世に存在していない者達――俗にあなたたちが亡霊と呼ぶ、組織の実働部隊であるの。亡霊に意思はなく、ただ我々の役目を遂行するべく、争うものたちに恐怖を撒き散らす存在。

 我々がもたらす恐怖、それはいつの時代も等しく()()だった。今の時代で言えば、ISというものね。あら、何か納得できなさそうね。でもこれは真実よ。いくらスポーツ用のパワードスーツと嘯いても、宇宙開発用だと声高に言っても、その本質は兵器なのよ。そしてこれは、生みの親である篠ノ之博士もくつがえすことのできない事実よ。皮肉よね? 有史以来、人は平等ではなかった。自分で言ったその言葉が、ブーメランのように返ってきているのよ。臨海学校の時のこと、聞いたわ。その部分のことを自慢げに話すのだもの、笑いをこらえるのに必死だったわ。

 彼女の話はここまでにしておきましょうか。もう意味のない話でしょうし、何よりまだ話すことはあるのだもの。とにかく、我々はわかりやすい暴力として、ISというものを手に入れた。そして、その暴力によって恐怖を為すのが、この世にはいないとされている亡霊たち。

 

 でも、その亡霊全員が私たちの理念を理解しているわけじゃないの。

 

 元々、我々の存在理由が抑止力であるためと知っているのは、組織の中でも幹部と、亡霊の中でも一部の者たちだけだったということです。もちろん、亡国機業の長と呼ばれる存在にはしっかりと受け継がれていますが、それでも全員に行き届いているとは言い難い。

 ――今の亡国機業は、暴走しています。というよりも、存在する意味を知らない者達が増えすぎた。原因は分かっています。よくある話です、知る者がこの世を去り、知らぬ者がその地位に就く。いわゆる世代交代というやつです。人材不足というものもありましたが、質の悪い者たちを入れすぎました。だいたいそれが始まったのが、先々代の時期からで、先代がそれを止められず、今の長にその負債を託さざるを得なかった。とても悔やんでいましたよ、先代は…… え、なんでそんなこと知っているかって? すみません、それは今から話すことを聞いてればわかりますよ。

 

 そう、亡国の長についてのことです。

 

 亡国機業の長、すなわち、私たちのボスのこと。あなたたちからしたら、()の話よ。

 あなたは、亡霊を亡霊たらしめるものがなんであるか、わかるかしら? はっきり言って、とても簡単なものよ。正体がわからないこと? 確かにそれも大切ね。でももっと根本的に、私たちのような存在がどうして存在しなければいけないのだと思う?

 ええ、そう。やはり私の目には狂いはなかった。正解よ。

 私たち亡霊が、その存在を亡霊たらんとするために必要なもの――それはすなわち、現世へのしがらみよ。確かに、あなたが言ったとおり、このスコール・ミューゼルという人間は、公式の記録ではとっくに死亡したことになっている。しかし、私はこうして今あなたの目の前に存在する。この世にこうして存在している。否、しなくてはならないと思っている。それはすなわち、いまこの世に未練を残しているから。理由なんて、ただそれだけよ。

 ……その反応から察するに、あなたは()()()()()()知っているようね。当然か、でなければ、あなたはこうして私と相対していないものね。いや、知らなくてもあなたのような人間は私と対峙するか。

 さて、話を戻しましょうか。亡国機業には、そういった人間がいやでも集まってくる。その理由は様々。そちら側で何かあったりして、いられなくなったり、成し遂げたいことがあるからこそ、こちら側に進んできたりする。そうやって、私たちはゆっくりと力を付け、人知れずこの世界を守っているの。でもね、それだけで世の中がうまく回れば誰も苦労はしない。それは私たちのような不確かな存在も同じ。どんなに崇高な理念を持っていても、ただの幻影に過ぎない私たちが、これこそが私たちであるという証明も何もなく、現世へのしがらみを持つことなどできないの。だから、そんな吹けば消えてしまうような幻影に実体を持たせるために、どうしても必要な存在があった。

 

 それこそが、亡国機業の長である、幽霊と呼ばれる存在なのよ。

 

 亡国の長、つまり幽霊は、代々組織の外――すなわち、あなたたちと同じ社会の中にその身を置くことを義務付けられていました。しかし、幽霊は亡霊たちの光であり、影でもある存在。もしものことがあれば亡国機業そのものが危うい。実際にそういった出来事があり、混乱した時があったらしいんです。だから、今より何代か前の幽霊は一計を案じました。

 彼女が思いついた案は、自らのクローンを作り出し、それを社会の中に向かわせ、本人は自身の信頼できる亡霊たちに自らの身を守らせながら、眠りにつくという方法です。その方法では、クローンと本人は、度々フィードバックされる記憶のみのつながりであり、クローンが死んでも本人に何の害はない。それによって、確かに幽霊が死んでしまう確率は激減しましたが、それでも幽霊本人がいないということには変わりがない。そして、それをとやかく言う亡霊がほとんどいなかったという事実があります。大多数が、自らの存在の証明でもある幽霊が生きていれば、それでいいと考えている者たちばかりでしたからね。そして皮肉なことに、今の組織の状況はそうした考えから始まったと言う者もいます。

 しかし、それが分かっていても幽霊たちはその方法を変えることはなかった。何故、自身の組織の存在意義を危うくする方法が分かっていながらやめなかったのか、それは簡単です。幽霊をこの世に留めておくのもまた、現世へのしがらみなんですから。そのしがらみは、たった一つの感情から生まれてきます。

 ――それは、憧れ。

 普通に生きたい、色々なものを見たい、あの人と一緒にいたい。そんな人間じみた感情が幽霊たちの中にあった。だから、彼らはクローンの記憶を見ながら、ひとときの夢のような人間社会を素晴らしいものと思い、それを守るために、率先して亡霊たちのイコンとなったんです。

 素晴らしい、そして美しいと思える人間の社会というものに憧れ、それを現世へのしがらみとした幽霊。そんな幽霊をイコンとし、自らの現世へのしがらみとする亡霊たち。そんな亡霊たちが抑止力となることで、人間の社会が守られ、育まれていき、幽霊はそれに憧れを抱いていく。

 歪んでいるけど、よくできた構造だと思いませんか? これこそが亡国機業。これこそが、大戦という災禍の中で世界が生み出した、人間社会存続のための機構なんですよ。人間というのは、戦わなければ、発展はありえない。でも戦ってしまえば、自分たちを滅ぼしてしまう。そうならないために、滅びへと進むのを止めるために存在する外付けのストッパーが、俺たちなんです。

 だけど、そんな組織も時の流れには敵わない。時代とともに代替わりし、それとともに組織の理念は埋もれていき、今ではただのテロ組織のように言われている。それでも、一部の者の中には理念が息づき、存在理由を忘れていない、もしくはその存在理由を知ったからこそ、自ら進んで亡霊となった者もいます。そうしている者のためにも、幽霊は報いなければならない。そうでなければ、これまで積み上げてきた何もかもが崩れ去ってしまう。そうなってしまえば、その先に待っているのは、人間社会そのものの破滅なのだから。

 だからこそ、今代は亡霊たちのしがらみになることを、まだ幼い時に決めました。迷いもありました、悩むべきこともありました。それでも、理想と現実の狭間で苦しむ彼らのために、自ら進んでその役割を引き受けたんです。

 

 では、改めて自己紹介しましょう。

 

 亡国機業の首領にして、初代世界最強(ブリュンヒルデ)の弟であり、そして更識家現当主に思慕の情を持ち続ける、世界最初の男性IS操縦者――

 

 

 

 織斑一夏。それが、今代の幽霊の名です。

 

 

 

 

 




一夏が背負わんとしているもの、そしてスコールが見てきたもの。
それを知ることが許されたのは、たった二人。
更識刀奈、そして秋月照彦。
二人は、どのような答えを出すのか……

ということで、この作品の亡国機業がどのような組織であるのかというお話でした。

最後に、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
それでは、次回もどうぞよろしくお願いします。


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