IS 幽霊の笑顔   作:リディクル

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一応、今回はヒロインズのアンチが軽く入っていますのでご注意ください。
それでもよろしければ、どうぞご覧下さい。







 

 

 

 そういえば、という更識楯無の言葉に、織斑千冬は書類から顔をあげる。彼女の対面に座っている楯無は、口元を開いた扇子で隠しながら、真剣な眼差しで千冬の方を見ていた。

「学園の防備で気になるところでもあったか」

 千冬は真面目に返す。今この小会議室で話し合っていることは、そのようなことだからだ。当然何かに気がついたような声を上げたのだから、そういったことなのだろうと千冬は考えていた。

 だが、楯無から帰ってきた言葉は、彼女が予想していなかったものであった。

「お姉さんであるあなたから見て、弟である織斑君ってどう思います?」

 一瞬だけ、楯無が何を言っているのかよくわからなかった。何故、今弟のことを質問するのだろうか。千冬には楯無の真意がよく理解できなかった。

 困惑は一瞬。その後はいつもの仏頂面に戻った千冬は、逆に楯無に問う。

「更識、今そのことは関係あると思っているのか」

 少し乱暴な物言いだが、それは紛れもない本心からくる言葉だった。だからこその疑問でもある。自身が愛してやまない弟なのだ。それなのに、何故このような場で弟の話題を出すのだ。そんな憤りが、今の千冬にはあった。もちろん、更識楯無という人間の口からその話題が出てきたことに、少しばかりの驚きもあった。

 そんな千冬に、楯無は「ただの世間話みたいなものですよ」と返し、扇子を閉じる。表情は真剣なもののまま、千冬に視線を送り続けている。

 

 二人の間に、沈黙が流れる。その中で、先に根負けして口を開いたのは千冬の方だった。彼女はため息をつき、言葉を紡ぐ。

「なんの気まぐれであるのかわからんが」

 そこで一度言葉を切り、しっかりと楯無と向き合う。少し長い話になりそうな、そんな予感がしたからだ。それは、目の前に座る彼女も同じようだ。

「私からあいつのことで話せるのは少ししかないぞ」

「それでも構いませんよ?」

 そう言って、楯無は笑顔を浮かべる。それに釣られて、千冬もまた小さな笑みを零す。

「主観だけでは、わからないことがありますから」

「違いないな」

 そこで一度千冬は咳払いをした。部屋の空気が、少しだけ和らいだように感じられる。ここからはただの世間話だ。堅い雰囲気のままでは、そのような話はできないだろう。千冬とて社会人の端くれだ。メリハリくらいちゃんと付けられる。

 そうして空気を入れ替えたあとに、千冬は一夏について語り始める。

「まず、普段の一夏は毎日見ているようなあの姿だと思っていい」

 いつもの一夏は、女性の好意に鈍感で、どこか抜けていて、しかし人が困っていると放っておけずに手を差し伸べる人間だ。それこそが、混じり気ない織斑一夏という人間に対する千冬の評価だった。

「結構辛辣なんですね」

「唯一の肉親だからな、これでも甘めにつけている」

 そう、肉親だからこそ、そして立派に育って欲しいからこそ、千冬は一夏に厳しくしている。それが彼のためになると信じているからこそ、妥協は許されないし、許さない。

「厳しくするだけじゃダメだとは思っているさ。だけど、私にはこうするしかできない」

 だが、それこそが不器用だと自覚している自分が彼に与えることが出来る、ただ一つの愛情なのだ。愛なくしてそのような行為を進んでやるなど、本物の阿呆がやることだと織斑千冬は考えているからだ。

「同じ姉として、思う事があるだろう?」

「…ええ、まあ」

 千冬の言葉に、楯無は苦い顔をする。その脳裏には、まだ仲直り出来ていない自身の愛する妹の姿が浮かんでいた。仲直りしたくても、そのきっかけをつかむことができていない。早く仲直りしたいとは思っているが、学園内、そして学園外の自身の立場から、その時間すら得ることができていなかった。

「不器用なんだよ、姉というものは」

 その千冬の言葉に、楯無は「そうですね」と同意を示す。

 その言葉を聞いた千冬はふっと笑顔を浮かべ、口を開く。

 

「話を戻すか…… ともかく、一夏には悪いところもあるが、いいところもある」

 ただな、その言葉とともに浮かべていた笑みを消し、真剣な表情に変わる。

「私には、時々あいつが何を考えているのかわからなくなる時があるんだ」

「考えていることがわからない、ですか」

「そうだ」

 そう言って、千冬はコップの水を口に含む。

「真剣な表情で何か考え事をしていたかと思えば、窓の外の、何処か遠くの方をぼうっと見ていることがある。それは一度や二度のことではない」

「――確かに、そういったことを織斑君がしていたところを何度か見たことがあります」

 楯無も真剣な表情になる。一夏がそうしたことをしているのを知ったのは、つい最近のこと――というよりも、彼から誘いを受けた翌日から、改めて彼のことを観察してみて、ようやくわかったことなのだ。ほかの専用機持ちはそのことには気が付いてはいない。二人目の彼は気が付いてはいるものの、あえて触れないでいるらしい。また、二人目の彼によれば、中学時代にもあのような様子になっているのを見たことがあるらしい。その時に聞いてみたのだが、帰ってきた言葉は「ただぼーっとしていた」というものだったようだ。彼が聞いたのはそこまでだ。あまり踏み込んでも悪いと思ったのだろう。だからそれ以降、気になったとしても聞かないようにしているようだ。

 

 頼みの綱の二人目の彼も詳しいことを知らなかったので、その原因を楯無が知るわけがないし、姉である千冬に何も相談していないのであれば、そんなことわかるわけがない。

「あいつは、昔からああなんだ。気がついたら遠くへと目を向けている」

 ――まるで、ここには無い何かを求めているような感じでな。その千冬の言葉が、楯無の心に重くのしかかる。それはまるで、ここには自分の求めているものがないと言っているようなものだ。価値がない、必要のないものに、どうして興味が惹かれるだろうか。

 そう考えた楯無の心に、何か淀みのようなものが生まれる。それは、ここにはない何かに対する、嫉妬に近いようなものだった。

 千冬はそんな楯無の心を見透かしたかのように、次の言葉を紡ぐ。

「だが、あいつはそうであっても、自分の近くにあるものを自分から壊すような真似はしないし、自分から捨てるようなことはしない」

 そう言い切った千冬に、楯無は「どうしてですか?」と疑問を投げかける。

「簡単なことだ」

 楯無の疑問に、千冬は不敵な笑みとともに言う。

 

「あいつはな、そんなことを差し引いても私の自慢の弟だからだよ」

 

 そう言い切った織斑千冬は、同じ姉である楯無から見ても、とても誇らしげだった。

 

 

 

 

 

                     ◆

 

 

 

 

 

「一夏ってさ、なんか変わったよね」

 いつものメンバーと屋上で昼食を取っていた時、シャルロット・デュノアがそんなことを口にした。

シャルロットの言葉に「そうか?」と一夏は返す。照彦はおにぎりを食べながら、その様子を静かに見ているが、ほかの専用機持ちの少女たちも、シャルロットの言葉に同意を示すように頷いた。

「なんていうかさ、落ち着きが出てきたというか」

「そうだな、大人になったというべきか」

 篠ノ之箒がシャルロットに続くように言う。幼馴染の一人にそう言われて、一夏は本当にそうなのかと考え込む。

「変わった自覚なんてないんだけどなぁ…」

 

「そういうものでしょ?」

 凰鈴音はそう言ってご飯を口に運ぶ。その言葉に「そういうもんなのかなぁ?」と呟く一夏に、隣に座っていた照彦が口を挟む。

「織斑、あくまで他者の評価だ。無理して考える必要はない」

 他者の評価とは、得てしてそういうものなのだ。自分の見えていないところまでよく見ているものであり、だからこそ十分に気をつけなくてはいけない。過去に照彦がそう言っていたのを思い出した一夏は、それもそうだなと言い、ペットボトルのお茶を飲む。

「でも、良い傾向ではなくて?」

 そう言ったのは、セシリア・オルコット。彼女もまた、その出自から他者の評価と切っても切れない関係がある立場に立たされていたりする。彼女だけではない、ほかの専用機持ち――今回の場合は、国家代表候補生の人間は、彼女と同じく他者の評価には敏感なのだ。何故なら、自分の評価がその国の評価という形で直接反映されるからだ。春のあのいざこざの後、セシリアは国や家の人間から色々と小言をもらったと漏らしていた。

「――もぐもぐ」

 ラウラ・ボーデヴィッヒは、シャルロットの隣でパンを食べていた。もちろん他のみんなの話は聞いているが、今はまだ混ざろうとは思ってはいないようだ。

「まあ、一夏はいい変わり方をした。それでいいだろう」

 箒がそう言ったのを皮切りに、各々の顔に笑顔が浮かぶ。そして、暫しの間みんなで笑い合った。優しい空気が、あたりを包む。これまでの間、様々な騒動があった。でも、その度にみんなで乗り越えて来た。これからも、きっとそうしていくことができるだろう。

 その場にいる誰もがそう思っていた――ただ一人、織斑一夏以外は。

 

 一夏は、みんなの笑顔の輪の中にいながら、内心では専用機持ちの少女たちを冷静に見ていた。その上で、いま自身の周りにいる同年代の少女たちのことを、誠に不本意ながら自身と相容れないものであるという判断を下していた。

 理由は、彼女たちが与えてくれるものと、自身が求めるもの、そして彼女たちが求めているものと、自身が与えることが出来るものの相違である。

 まず、彼女らが自身に与えてくれたものは、雌性。というより、女として与えられるものである。だが、自身が求めていたのは、あくまでも母性なのだ。同年代の人間にそれを望むのは、少々酷なことだ。

 ――唯一、ここにはいないが布仏本音は母性の資質があったのだが、今そのことは関係のないことだろう。

 

 次に、自分が彼女らに与えることが出来るのは、雄性である。つまりは、男として与えることが出来るものしか、自身は与えることができない。しかし、彼女らが求めているのは、父性なのだ。やはり、同年代である自分に望むことではない。そしてこれは、照彦にやれるかと聞いても無理だと答えるものだろう。

 だが、それだけではない。一夏が彼女らに父性を求められても、それに答えることができない大きな理由がある。

 親の愛を知らないのだ。自分と、そして姉である千冬は。父の愛を知らなければ、母の愛を知らない。千冬は自分よりも先に生まれているため、もしかしたら知っているかもしれないが、親の話題を出した時の様子から察するに、まっとうな愛は注がれてなかったのだろう。

 

 では、彼女らはどうだろうかと言われれば、彼女らは一人を除き、一応は親がいたが、その愛をしっかりと注がれていたかと言われれば、否と答えられる。

 セシリア・オルコットは両親を列車事故で失い、凰鈴音は離婚、シャルロット・デュノアは愛人の子で、篠ノ之箒は保護プログラムの一環で一家離散。ラウラ・ボーデヴィッヒに至ってはデザイナーベイビーであるため、親自体が存在しない。そうした状況下の中で、父性を得ろという方が無理な話なのだ。

 ――だからといって、それを自分に求められてもそれはそれできつい。そう思い、一夏は心の中でため息をつく。

 だが、そういった考えがあるからこそ、一夏は彼女らとは相容れないと判断している。彼女らが織斑一夏という存在を正しく見たことなど、一度もないだろう。あなたはこうあって欲しい、あなたはこうあるべきだ、そんなフィルターを通していつも見ていたのだろう。

 現実を直視していない。それこそが彼女らの今までの姿を見続けた末に、一夏が出した彼女らへの見解だ。その判断は間違っているのかもしれない。だが、少なくとも一夏はそう判断する。

 そして、そう判断しているからこそ、彼女らに別れを告げない。

 

 告げる訳には、いかない。

 

 それは、織斑一夏という人間が考えた結果であり、エゴなのだ。そんな人間のわがままに、彼女らを巻き込む気はない。

 彼女らは自分自身のことで精一杯。だから、織斑一夏に自らの理想を求めることで、目を逸していたい現実から逃避しているのだ。そんな彼女らに、一夏は現実を見ろと言える程強くはない。無理やり叩きつければ壊れることは、わかりきっているからだ。

 そしてその結末を、一夏は望んでいない。

 だからこそ、彼女らといるときの織斑一夏は、笑顔を浮かべ続ける。自分と彼女らは致命的なまでにずれている。それでも、一夏は彼女らの望む自分を見せ続ける。自分の本心など彼女らに届くわけでもなく、そして自身の笑顔の真意に彼女らがたどり着くことはないだろう。

 彼女らは夢見、そして自分は演じるのだ。

 

 ――織斑一夏という存在の、最後の瞬間まで。

 

 

 

 

 

                    ◆

 

 

 

 

 

 時は流れ、放課後。

一夏は一人屋上にいた。昼休みの時に自分たちの笑顔が溢れていたこの場所も、放課後となった今では誰もおらず、コンクリートの無機質な寒さが心に響くような感覚に襲われる寂しい場所になっていた。

 そのような場所で、一夏は携帯電話のキーを叩いている。彼が今叩いている電話番号は、彼の電話帳には載っていないものだ。その昔、彼が今こうして()となる前に教えられたものであり、その番号の主が変えていない限り、必ず繋がるはずのものなのである。

 番号が打ち終わり、彼は携帯を耳まで持っていく。少しのコール音の後に、()()が電話に出る音が、彼の耳に届く。

『――もしもし』

 今も変わらない、女の声。その声を聞き、一夏は笑顔を浮かべる。安心したような、懐かしむような、そんな感情とともに、彼は口を開く。

 

 

 

 

 

「もしもし、スコールさん?」

 

 

 

 

 




ヒロインズアンチには、独自の考察があるため、おそらく間違っているかもしれません。
また、彼が何故彼女と知り合いであるのかは、この先語っていくこととなります。
あと、ISバトルが出てきていませんが、それは後編をお待ちください。

今回の物語のオリキャラの名前の由来のヒントとして一つ挙げられるものがあるとするならば…
     デストロイヤー(Not特撮)

最後になりましたが、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございました。
次の話を楽しみに待って頂ければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします。
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