IS 幽霊の笑顔   作:リディクル

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お待たせしました、後編が始まります。
それでは、どうぞ。


後編:Ideal


 

 

 

 ――これを誰かが見ているときは、もう俺はいなくなっているのだろう。自分で言うのもなんだが、ここまでの人生は本当にいろいろなことがあったと思っている。

 直近のことで言うと、ISを動かしたことかな。おそらく、色々な人が驚いたと思っているし、あの時は自分自身も驚いた。IS学園に入ったあとも、色々なことがあったけど、それと同時に様々な人とも出会えた。その人たちには感謝してもしきれない。こんな俺と仲良くなったり、慕ってくれて本当に嬉しかった。こんな人たちがいるのならば、これからもこの世界で生きていけるし、もしかしたら今の世界の風潮を打破出来るのかもしれないと思っていた。

 

 でも、そんなことはなかった。世界は、俺が思っているよりも冷たくて、そして大きすぎた。それは、生きている誰もが今のこの世界のことを分かっていないということ。もちろん、そんなことない人も少なくはない。テルや千冬姉、そして楯無さんなんかはそういった人物だ。でも、そう言った人はごく少数で、他の大多数は今という大きな力の流れに流されてしまっている。

 そんな中で生き続けていくうちに、俺はあるひとつの結論にたどり着いた。だから、俺はいなくなることにした。

 時の流れは残酷で、この手紙が読まれている頃には、もう俺の存在はゆっくりと消えかかっていて、俺が関わってきたみんなにも自分たちの日常が戻ってきたとは思う。でも、あと3人だけ、もう一度謝罪と感謝の言葉を言わせて欲しい。

 

 まず、千冬姉。こんな弟で本当にごめん。でも、今まで千冬姉がいたから、俺は生きてこられた。だから、感謝の言葉を言わせて欲しい。ありがとう。

 次に、テル。一度大喧嘩までして、俺を正しい道に戻してもらったのに、こんなことになってごめん。でも、あの時俺をこんなに思ってくれている人がいると知ることができた時、本当に嬉しかった。こんな俺の友達でいてくれて、本当にありがとう。

 最後に、楯無さん。多分、俺の最期を一番近くで見ていると思う。俺のわがままで、一番最後は楯無さんと一緒にいたいと思ったからだ。なんでそう思ったのかは、この手紙を書いている今になってもわからない。でも、俺は最期の時は楯無さんと過ごしたいと思ってしまった。その結末を、楯無さんは見たと思う。だから、ごめんなさい。俺のわがままに付き合わせてしまった、ごめんなさい。でも、最期に楯無さんと一緒にいることができて、本当に良かったと思っている。

だから、ありがとう。俺を想ってくれて、本当に感謝している。

 

 でも、もう一つ、俺のわがままを言わせて欲しい。多分、ただの約束事になってしまうことになってしまうと思うけど……

 楯無さん、俺のことは忘れないで欲しい。でも、これからは前を向いて生きていってほしい。約束というより、願いだ。

 誰かが、いなくなった俺のことを覚えていて欲しい。そして、そうなるために楯無さんを選んだのは、俺のエゴだ。

 

だからこそ、楯無さんにはどうか――

 

 

 

 

 

「幸せになって欲しい、か」

 そう呟き、楯無は彼の手紙を閉じる。ここは、生前一夏が楯無と同室になっていた時の寮の部屋だ。今では、楯無が一人で使っている。一夏の荷物は、そのまま残してある。少しでも、彼の居た証を残したかった楯無が、学園側に無理を言って残してもらったのだ。

 楯無は手紙を机の上に置き、代わりに置かれていたアルバムを手に取り、ゆっくりと開く。アルバムの中には、一夏が生前に撮っていた写真が並んでいる。

 それらを眺めていた楯無の目が、ふとある一枚に止まる。その写真は、IS学園に入って少し経った頃の一夏の笑顔が写っていた。他の誰かに撮ってもらっただろうその写真に、楯無は今日も語りかける。

 

「私は、あなたの死を止められなかった」

 一つの組織の長という肩書きを持っていても、学園最強の生徒会長と持て囃されても、突発的な行動に反応できなかっただけで失われた一人の男の子の命を、掬い上げることすらできなかった。なんという体たらく、情けないという話ではすまない。だからこそ、私はあなたが死んだ時点で裁かれなければならなかったのだ。

 だが、誰も自分を裁いてはくれなかった。誰もが不幸な出来事だったと言い、同情しかよこさない。そう、誰も罰を与えてはくれなかった。

 罪には、罰を。人間の社会では当然の理であるはずのそれが、正しく機能していない。

「どうしてよ」

 楯無は彼の写真に問いかける。当然、彼は答えてはくれない。変わらない笑みを、写真越しに浮かべているだけだ。

「どうすれば、いいのよ」

 答えは出てこない。親しい人物は死に、それをただ眺めていることしかできなかった自分には、誰も裁きを与えてはくれない。問いかけた答えすら、返ってこない。それは宙ぶらりんの状態とも呼べるだろう。だから、更識楯無は現在進行形で苦しんでいる。

いっそ誰かが糾弾してくれた方が良かった。彼の姉や、彼の友人が、自分の胸ぐらを掴み上げ、口汚く罵ってくれれば、こんな思いになることはなかった。善意と同情は、今の自分には地獄の責め苦に等しいのだ。

 

 だから、彼女は今日も涙を流す。失ったことへの悲しみと、自らが裁かれぬことへの苦しみに苛まれ、それでも彼女は生きなければならない。彼女の立場が、終焉を許してくれない。だから、泣き続け、それでも醜く生きていくしかないのだ。

 

 

 

 

 

 楯無のすすり泣く声を、照彦は入口の扉越しに聞いていることしかできなかった。元々、生徒会役員の仕事として虚に頼まれて楯無を探しに来ていたのだが、現在の彼女が行くところが限られていると知っている彼は、こうして彼女がいそうな場所を巡り、探す仕事を率先して受けている。それが()()として当然の仕事でもあるのだと思っているし、このような仕事のほうが、自分の性にあっていると思っていた。

 ――だが、それだけが理由じゃないというのも、また事実なのだ。織斑一夏の死に打撃を受けているのは、何も更識楯無だけではない。こうして彼女を探しに来た自分もまた、その一人だ。

 

 まず、自らの心に浮かんだのは、どうしようもないほどの自分自身への怒りだった。一夏の死は、彼の心の機微を、自分が気づいていれば防げたことなのだ。それなのに、自分は「一夏を信じる」という建前を使って、彼の本心と向き合うことを()()()恐れてしまった。その結果が、現在の状況なのだ。

 何が、俺の友達だ。肝心な時に心を汲み取ってやれない人間が、何を嘯いている。

 確かに、最初は楯無に詰問してやりたかった。どうして、なんで、色々な言葉を彼女に浴びせてやりたかったし、もしかしたら手を上げていたのかもしれない。でも、それすら照彦はしなかった。それは何故か。簡単だ、彼もまた、楯無と同じく、彼のことをまだ割り切れていないからだ。

 

 周囲は、自分はもう一夏の死から立ち直ったと言っているが、専用機持ちの彼女らのように自分は強くない。そんなもの、外見だけだ。未だ心は一夏の影がちらついている。未練がましく、彼という存在を忘れることができていない。だからこそ、自分自身に強い憤りを抱き続けているのだ。

 都合が良すぎる、なんて無様なやつ、自分への罵詈雑言ならば、いくらでも出てくる。だが、それを人に向けるのはお門違いなのだ。彼が生きていたのならば、絶対にそう言うと確信できる。

 だからこそ、照彦は楯無を糾弾することはできないし、その資格など最初からないと思っている。裁けるのならば、裁きたいし、裁いてもらえるのであれば、甘んじて裁きを受けるだろう。しかし、そうはならない。だから、自分と楯無は苦しみ続け、彼という偶像にすがり続けている。一人の男を想い続けるという点では、自分と彼女は同じ穴の狢と呼べるだろう、と照彦は考える。

 

 ――だが、彼の思考はそこでは終わらない。抱え続けたものから、ある疑問が生まれたのだ。

 それはすなわち、何故一夏は死を選んだのか、という単純なもの。その答えを答えてくれるべき本人は、既にいない。だが、照彦自身の直感が、この疑問を放置することを拒んだ。問いの答えが知ることができないのであれば、自分で見つけ出すしかない。それを自分の知っている織斑一夏から見つけ出すのは困難だ。

 ならばどうするか、簡単なことだ。自分の知らない一夏を知っている人物に会いに行けばいい。友人という観点からは知れない情報があるのならば、他の観点で知ることが出来る存在から聞けばいいというものだ。すなわち、姉である、織斑千冬から。

 そこからの照彦の行動は早く、すぐに千冬のもとへ行き、そのことを話した。結果から言えば、千冬は自身の願いを快諾した。しかし、もう少し心を整理する時間が欲しいとも言った。当然だ、一夏は彼女の弟なのだ。肉親を失った悲しみは、自分や楯無では想像もつかないものであるに違いない。だからこそ、照彦は千冬の願いを了承した。

 それから2ヶ月経った。ようやく千冬の中で踏ん切りがついたのか、明日話そうという連絡があった。

「ようやく、先に進める」

 小さくそう呟いた照彦は、未だ泣いている楯無をそのままに、静かにその場を離れ、歩き出す。

 

 寮のエントランスから出た彼の目に、夕日の眩しい光が飛び込んでくる。それに目を細めながらも、照彦はふと、一夏のことを頭に浮かべた。

 何故、いつも笑顔を絶やすことがなかったのか。それは彼の心の中にだけ答えがあるのだろう。そして、その答えを知る術は――あまり残されていない。

「本当、ままならないな」

 小さく、まるで自分に言い聞かせるように呟き、照彦はまた歩き出した。

 

 

 

 

 




一夏の死で打撃を受けたのは何も当事者だけではないということ。
友人である照彦も、姉である千冬も、何もできなかったからこそダメージがでかい。
それこそ、当事者である楯無レベルだと、私は考えています。

最後になりましたが、ここまで読んでくださってどうもありがとうございます。
これからも、私のほかの作品ともども、どうぞよろしくお願いします。

※ISのバトルはもう少しお待ちください。




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