IS 幽霊の笑顔   作:リディクル

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少々強引な感じがする話ですが、お楽しみください。
あと皆さんお待ちかねの簪ちゃんが出ます。

それでは、どうぞ。







 

 

 

 どうして、あなたは死んでしまったの。もう届かない彼へと、問いかけ続ける。

何度問いかけ続ければ、彼に届くだろうか。どれだけ自分の心をすり減らせば、彼と会えるだろうか。手を伸ばしても、もう届かない。残っているのは、頭に思い浮かぶ、彼の笑顔だけ。

 もしも、私がもう一度あなたと出会えたのなら、その時は――

 

「お姉ちゃん?」

 自身の妹の言葉に、楯無は意識を現実に戻す。ここは、IS学園の食堂。いつもご飯を食べる場所。そして目の前にいるのは、自身の可愛い妹である、更識簪。

 そうか、思い出した。今日は久しぶりに妹と夕食を一緒に食べる約束をしていたんだ。そこまで考えた楯無は、目の前で不安そうな表情を浮かべる簪に「ごめんなさいね」と小さく謝罪を一言述べた。

「ちょっと、考え事をしていたの」

「……無理、してない?」

「ええ、大丈夫よ」

 真っ赤な嘘だ。考え事はちょっとどころじゃないし、気を張っていなければ今にも涙を流しながら崩れ落ちてしまいそうになる。もう精神的な限界など、とっくに超えてしまっている。だが、自分はここで倒れる訳にはいかない。何故なら、このIS学園の生徒会長であり、更識家の現当主――守る者であるからだ。私が守るべきものを守れなくて、誰が守るというのだ。

 だからこそ、楯無は外見を取り繕いながら他者と接している。心の中はまだぐちゃぐちゃで、気を抜いてしまえば叫び、暴れてしまいそうになってしまう。そうならない為に、楯無は自制をし続けていた。自らの醜い姿を、紆余曲折ありながらも、ようやく関係を修復することができた愛しい妹に見せるわけにはいかないのだ。

「大丈夫だから、ね?」

「……うん」

 だから今日も、楯無は意地を張り続ける。自らの心の傷をそのままに、いずれ襲い来るであろう脅威から、守るべきものをいつでも守れるように、楯無は立ち続けているのだ。

 

 そんな姉の姿を見て、簪は自らの無力を恨んでいた。姉は今でも苦しんでいる。しかし、自分は彼女を助けたいのに、助けることができない。手を差し伸べるには、弱すぎるのだ。

 綺麗で、強くて、いつも自信満々で、でも優しい、自慢の姉。その姉が、自らの過ちによって心をボロボロにしている。外面では取り繕っているが、姉妹として何年も顔を見てきたのだ、彼女が嘘をついていることくらい、すぐにわかる。

 だが、それでも彼女の心を救う術は、今の簪にはない。

知らないのだ、あの日、あの場所で、何があったのか。その過程を、実感として感じることができないのだ。それが、今嘆きの中にいる更識楯無と、あの時のうのうと学園にいた更識簪の絶望的な差である。その時にいるか、いないか。それだけで世界はこんなにも変わってしまった。

 そこで簪は、ふと織斑一夏という存在について考える。

 簪自身、彼とは直接あったことはないが、彼の友人である秋月照彦からは、少しばかり話を聞いたことがあった。

 照彦曰く、正義感が強いお人好しで、他人に優しい。それゆえに、困っている人が居ると放っておけない性格で、色々なトラブルに巻き込まれることが殆どだった。それでも、彼には不思議な魅力が有り、それのおかげで友人関係を続けることができた。ということらしい。

 そんな善人が、何故死ぬ必要があったのか。何故、姉の前で自身の死ぬ姿を見せなければならなかったのか。その理由はわからない。なんせ既に死んでいるのだ、死人が蘇って死んだ理由を話すことなどない。そんなもの、子供だましのフィクションの中にしか存在しない。特に、ISの存在がある今の世の中じゃ、それが顕著であると思う。

 

 だが、理由が何にせよ、彼は姉の心に残り続けている。色褪せぬ思い出として、そして自身の存在をこの世につなぎ止めて置くための、楔として。

そんな彼を、簪はずるい人だと思った。何故なら、彼女と一緒にいるのに、姉の意識は思い出の中の彼に向いている。そして、今も姉は心の中で終わることのない疑問を抱き続けているのだ。どうして、どうしてと…… 

 そうした楯無の様子に、簪はここにはいない織斑一夏へ、少しばかりの嫉妬を覚えた。大好きな姉が自分を向いてはくれない。でも、その相手は自分や姉の届かない所へ行ってしまった。だから、悔しい。子供みたいだが、大切なものを奪われてしまったようで、とても悔しい。そう思いながら、簪はゆっくりと箸を進めた。

 

 そんな簪の様子に目もくれず、楯無は自身の思考に没入していた。その思考の中心には、やはり一夏の存在があった。しかし、問うているのは死の理由ではなくなっていた。すなわち、何故こんなにも彼のことを考え続けているのだろうという、自身への疑問だった。既に死した存在を、何故思い続ける必要があるのだ。もうそこにはいないのだ。忘れてしまってもいいのではないか。しかし、楯無は忘れることができないでいた。

 それは何故か。彼が死んでから、もう一度会いたい、その存在を忘れたくはない、そのような思いが楯無の中で強くなっている。では、彼が死ぬ前は? 

 その問いの答えを探すべく、楯無は彼の生前を、そして彼とともにいた時の自分の感情を、もう一度思い出してみる。その時の自分は、どこか無意識のうちに彼と一緒にいたいと思っているときがあった。それと同時に、彼の行動から目が離せない自分がいた。

 ――ああ、なんだ。答えはすぐに出た。それは、とても簡単なものだった。思えばその時から、自分は鈍っていたのかもしれない。そんな簡単なことがわからなかったなんて、本当に無様なものだ。

 

 

 

私は、恋をしていたのだ。織斑一夏という男の子に。

 

 

 

 

 

                   ◇

 

 

 

 

 

「そういえば、スコールさん」

 ガトーショコラをつつきながら、テーブルの向かい側にいるスコールに向けて、一夏は口を開く。

「あなたの部下の二人は、今どうしているんだ?」

「ああ、エムとオータムですか」

 一夏の言葉に反応しながら、器用にフォークを動かし、ショートケーキの欠片を口に運ぶスコール。口の中で、クリームの甘味が広がっていく。味覚のコントロールは、上手く出来ているようだ。

「一応アジトで待機しているように命令しましたが…… お呼びしましょうか?」

 スコールの言葉に「いや、いいよ」と言い、一夏は首を横に振る。わかっているのだ。あちら側にいる姉に似ている少女は、自分を見たら襲いかかってくるだろう。面倒くさいこともあるものだ。そう考え、一夏は静かにため息をつく。

 

 そこで、一夏は今まで気になっていたことを、スコールに聞くことにした。

「――二人のこと、どう思ってる?」

 その言葉に、スコールはきょとんとした表情になった。しかし、それもすぐに消え、いつもの笑みを浮かべた。余裕に満ち溢れた、大人の笑みだ。

「二人は、よく働いてくれていますよ。ボス」

 そう言って、スコールはフォークにいちごを刺し、口に運ぶ。咀嚼し、飲み込んだ後に、また言葉を口にする。

「ただ、どちらも暴力を絶対のものと考えている嫌いがあります」

「そこらへんは否定しないよ」

 ただ、そう言いながら、一夏は苦い顔をする。おそらく、あまり言いたくないことなのだろう。スコールも、彼の表情からそのことを容易に察することができた。

「それだけでこの世界が回るほど単純じゃないことを知らなそうなんだよなぁ、二人共」

 それこそ、あちら側に居た時に、自分にアプローチしてきた彼女達のように。そう考えながら、スコールの方を見てみると、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「……私ならまだしも、彼女らのような実働部隊は、そのような考えとは無縁ですからね。どうしても知識や思考に偏りが出てしまう」

「別にあなたを責めているわけじゃない。というかあなたは責められることをしていないじゃないか」

 そこまで言って、一夏はガトーショコラを口に運ぶ。責めるべきは、スコールではなく、何も学ぼうとしなかった二人の方だ。復讐心も、怒りも、学ばない理由にはならない。

「ご配慮、痛み入ります」

 そう言って、スコールの顔に笑みが戻る。しかし、先ほどのものとは違い、弱々しいものだった。

「しかし、大丈夫です。あなたからの命令であれば――」

 

 いつでも、二人を切り捨てる覚悟は出来ています。

 

その言葉を聞き、一夏は純粋に羨ましいと感じた。自分にはなくて彼女にはある、その強さ。すなわち、人を切り捨てる、冷酷さである。

「本当にあなたは強いよ。俺と大違いだ」

 自分は、たった一人の少女との縁すら切ることができていない。その証拠に、今もなお自身の頭の中には彼女――更識楯無の笑顔が浮かんでいる。

 しかし、一夏の言葉にスコールは否、と答えた。

「強いわけではありません。ただ、執着しているものが少ないだけです」

 そう言い切ったスコールに対して、一夏はそんなことないと思った。執着しているものが少ないということは、それだけ要領よく立ち回れるということに繋がっているのだと一夏は思っている。そしてそれは、自分たちのような人間にとっては、優れた能力であるのだ。

 そう考えている一夏に、スコールは口を開く。

「あなたが切れないその縁は、おそらくあなたが失ってはいけないものであると私は考えています」

 そう言ったスコールに対して「そうか?」と一夏は聞き返す。一夏の問いに、スコールは何も言わずに頷く。

「こちら側に戻ってきて、未だに忘却の彼方に追いやられていないのが、何よりの証拠ですよ」

 スコールの言葉に、一夏は「そっか」と答え、ゆっくりと目を閉じる。

 

 考える。何故、織斑一夏は更識楯無を切り捨てられないのか。

 自分はやることがあって、あちら側からこちら側に戻ってきた。それは何故か。簡単だ、あちら側にいては、楯無に迷惑が掛かってしまう。

 もう一度、その理由を思い出す。思い出したのは、自分のわがままじみた感情だ。

 壊したくないから、汚したくないから、大切だから、自分は彼女の元を離れた。それは、別れを告げるという方便を使い、彼女を自分から遠ざけたと言えるだろう。では、何故自分はそうしようという考えに至ったのか――

 そこまで考えて、一夏は答えにたどり着いた。それは今まで思いつかなかったことが傑作だと思えるほど、シンプルな答えだ。そう考えながら、一夏は思わず口元を歪めた。

 

 

 

 自分は、愛しているのだ。更識楯無という女性を。

 

 

 

 

 




楯無は恋を自覚し、一夏は愛を自覚する。
それは、些細なすれ違いです。
そして届かないと分かっていながら、二人は想い合っています。

最後になりましたが、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。



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