THE IDOL M@STER in 池袋ウエストゲートパーク remake   作:minmin

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このハーメルン様で初めて書いた作品をリメイクしてみました。今ならきっと多少ましなものが書ける……はずです。
まずはきちんと完結させることを目標に書いていきたいと思います。
ではどうぞ~


prologue ティンときたらしい男

 

 

 アンタの目の前には1枚の紙切れがある。種類によって多少の違いはあるが、まあ大きさはどれも縦横10cm前後。中には点線で切れるようになっているものもある。ちょっとした文字が印刷されてあって、メモ用紙には向かないかもしれない。

 そのなんてことはないちっぽけな紙切れに、数万、数十万――時には数百万をつぎ込む奴がいるってアンタは信じられるかい?普通はそんな馬鹿な、って思うよな。ところがどっこい、それは紛れも無く今この日本で起きている現実なのだ。

 その紙切れは薄っぺらい、真ん中に穴が空いた円盤が収められているプラスチックのケースにひっそりと入っている。あるいは抽選に当たると郵送で届くのかもしれない。それを手に入れるためには大金をつぎ込んでも惜しくはない。大の大人にそう思わせるほど魅力的な紙切れ――握手券のという名前の悪魔の紙だ。

 アイドルと握手ができる。言葉にすればただそれだけだ。手と手が触れ合うのはほんの一瞬、長くても十数秒だろう。それでもファンはその一瞬のために金を出す。48人もいるなんだか、っていうアイドルグループがいるよな?そのグループ全体の経済効果は、年間百億円を超えるらしい。アイドル業界は今や絶好調の金のなる木だ。景気の良い話だよな。その百億円のほんの少しでもいいから俺たちにまわしてくれないか、と思う。

 でもまあ。アイドルに夢中になる奴らの気持ちも、最近少しだけわかるようになってきた。握手会にはまだ行ってないけどな。

 そう、今回トラブルに巻き込まれたのは、アイドル。それも今売出し中の大人気女性アイドルだ。なんだが――主役は別にいる。やっぱりヒーローは男がやるべきだよな?

 これは、アイドルを後ろから支えてる奴のお話だ。華やかな芸能界の裏側で、全力で駆けずり回ってアイドルとファンに最高のステージを用意してやる仕事。決して表には出てこない、けれどなくちゃならない仕事。

 アイドルなんて興味ない?裏方なのに前に出てくる奴も大嫌いだ?そう言わずに俺の話を聞いてくれ。終わった時には、プロデューサーって仕事の見方も変わって、俺の部屋からアイドルの曲が流れてくる理由もきっとわかるはずだ。

 

 

 世間では夏休み真っ只中の8月上旬。一昔前は学生絡みのトラブルが次から次へと湧いてくる季節だったが、最近はそうでもなくなった。何故かって?答えは単純、暑いから。

 ヒートアイランド現象だかなんだか知らないが、東京――というか日本全体――は確かに年々暑さを増している。それはもう、エアコンっていう文明の利器なしじゃとてもじゃないが耐えられないくらいに。それに、暑さってのは気力を奪う。真夏の日差しに、何かをするやる気ってのがあっという間に奪われていく。かくして堪え性のない若者たちはエアコンの聞いた自分の部屋に引きこもるって理屈だ。

 この炎天下で労働に勤しんでる俺を見習え、若者たちよ。なんて、らしくもないことをひとりごちてみる。つまり何が言いたいのかというと――くそ暑い日に限って決まって店番を俺に押し付けて出かけるお袋への愚痴だ。

 はあ、とため息を吐いてフルーツをカットする作業に戻る。横には俺に切り刻まれるのを待っている籠に入ったフルーツの山と、近所の100円ショップで買ってきた竹串とプラスチックカップ。売れ残ったフルーツをカットして串に刺し、カップに入れるだけの簡単なお仕事。最初のうちは手こずるかもしれないが、一度慣れるとそう難しいもんじゃない。

 ものや品種にもよるが、一般的にフルーツってのは完熟したのが一番美味い。が、そこまでいくとぶよぶよしだして見た目がすこぶる悪くなる。だから普通店に並べるのはちょいと早めに収穫したやつだ。けれど、そいつらも売れ残ると段々熟してくる。そうやって完熟したところでカットして串に刺してやる。そうやって廃棄のリスクを減らしてやるのが今俺がやってる仕事だ。

 うだるような暑さに閉口しながらも手は止めない。手の動きや感覚さえ覚えてしまえば後は簡単なルーチンワークだ。皮をはぎ、バラバラに切り刻んで、串刺しにしていく。実に物騒な作業を淡々とこなしていく。心頭滅却すればなんとやらの精神だ。単純作業の繰り返しで、頭の中から暑さを消してしまおう。

 そのまま作業を続けて、始めてからどれくらいの時間がたったのか俺自身もわらなくなってきた頃。

 

「それ、1つくれないかな」

 

 突然頭の上から声が降ってきた。思わず条件反射的に顔を上げる。

 

 

 そこにいたのは、いかにもなビジネスマンスタイルの男だった。黒いスーツに紺色のネクタイ。左手にはこれまた黒の手提げカバン。特にセットしているわけでもなさそうなおろしたまんまの髪に黒縁眼鏡。顔立ちは整ってはいるけど、頼りなさそうな優男、って感じだった。

 俺ははいよ、200円ね、と言ってさっきできたばかりのメロンの串を1つわたす。品質は変わってないのに、量当たりの値段は串にするだけで上がってる不思議。もっとも目の前の男はそんなこと気にしちゃいなさそうだった。受け取ってそのまま一番先の一切れを口に入れ、結構うまいね、これ、なんて言っている。しばらく無言のまま一気に食べ終わった後、そいつは串を先だけつまんでプラプラさせながら話しかけてきた。

 

「真嶋誠君、だね。俺はこういう者なんだが、君に相談したいことがあるんだ」

 

 渡されたのは1枚の名刺、765プロダクション、プロデューサー、赤羽根建一。

 

「変な名前だろ。それで、ナムコプロダクション、って読むんだ。赤羽根でも、プロデューサーでも、好きに呼んでくれ」

 

「俺は真嶋誠。マコトって呼んでくれ。よろしく、プロデューサー。それで、相談ってのは?」

 

 すると、突然Pの顔が真剣になった。

 

「うちのアイドルが、この池袋の誰かに付きまとわれてるかもしれないんだ。そいつを見つけ出して、ストーカー行為をやめさせたい」

 

 それを聞いて俺の眉がちょっと上がる。ストーカーってのは、持ち込まれるトラブルの中でも特に面倒な部類のやつだ。

 まず、警察が動いてくれない。警察ってのは、大抵が事件が起こってから動く。ただ付き纏われているだけでは公権力は何もしてくれない。ストーカーの場合だと、これこれこういう被害を受けましたっていう証拠を提出しなけりゃならないこともある。何百もあるメールや手紙を残したり、ドアや郵便受けにされたイラズラの写真を撮ったり。地道で気が遠くなるような作業だ。しっかりとした証拠を残せた時には、被害者側の精神がまいってしまっていることもある。

 一番難しいのは、最後は犯人の心の問題だってこと。いくら口でもうしません、と言ったところで、腹の中では何を考えているかわかったもんじゃない。そいつが諦めなければ何も意味が無い。物理的に近づけないようにするのにも限界があるし、近頃のネット社会だと個人情報なんてすぐ漏れる。引っ越しもその場しのぎにしかならないだろう。確実にストーカーの心を折ってしまわないといけない。

 

「警察は、動いて・・・ないんだろうな、やっぱり」

 

 一応確認はしてみたが、案の定Pは途中で首を振った。

 

「後をつけられてるような気がする、じゃ人は動かせないと言われたよ。芸能人だからって特別扱いするわけにはいかない、アイドルにはよくあることだ、ともね。正直、皮肉もあったと思う。自意識過剰なんじゃないかって」

 

 一度上がった眉がまたさらに上がる。お役所気質な窓口警察官がいかにも言いそうな台詞だ。しかも言ってることは正論だから反論もできない。正論だからますます腹が立つってこともあるっていうのに。

 そこでPが周りの目を気にしだす。少し曇り始めてきたせいか、店の前の通りにも人がちらほら出てきていた。

 

「ここじゃなんだから、詳しい話は近くのファミレスでしようかと思うんだけど・・・」

 

 まあ、それには俺も賛成だ。ストーカーがどうこうなんて、こんな天下の往来でする話じゃない。

 

「後1時間もしたらおふくろが戻ってくるから、それからなら」

 

 軽くうなずき返すと、Pはチラっと腕時計を見て時間を確かめる。

 

「わかった。それじゃあ、1時間半後に、西口公園の近くのファミレスで。ああ、君たちには、ウエストゲートパーク、って言ったほうがいいのかな。

 あ、あと……これは以来とは関係ない俺からのサービス兼営業だよ。デビュー曲だから、聴いてみてよかったら他の曲も買ってくれないかな?」

 

 言うが早いが、かばんの中から出したCDを俺に押し付けて去っていくP。最後のあの切り替えの速さはさすがと言うべきなんだろうか。

 暫く呆然とその背中を眺めた後、なんとなく手の中のCDに目を落とす。菊地真デビュー・シングル、『エージェント夜を征く』。見た目からすると高校生くらいだろうか。黒髪ショートカットのボーイッシュな女が写っていた。

 なんとびっくり、件のアイドルは、俺と同じ名前だった。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
話が追いつくまでは前の作品も残しておきますが、比べてみると以前の作品がいかに酷いかよくわかりますね。顔から火が出そうです。
プロットも大筋は変わっていませんが細かいところは増量する予定です。
感想お待ちしております。
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