シオンのおかげで、無事校庭を借りられた雷門イレブンーーと言っても今居るのは円堂だけだがーーは、彼女に感謝を述べていた。
「本当にありがとな! えっと、名前……」
「構わん。私はこいつらが練習を見たいとせがんだから、せめてちゃんとグラウンドが使えてるサッカー部を見せたかっただけだ」
シオンは目線でチラリと於野兄妹を見る。
当の二人は、円堂たちを見てヒソヒソと話していた。
「この頃って、まだ円堂監督たちは弱かった頃だっけ?」
「あの様子じゃまだ帝国とやり合う前だろうな」
2人は、元の時代で円堂から聞いていた当時の話を思い出しながら、練習を見ていた。
弱小だった彼らは、円堂以外誰もグラウンドに来ていなかった。恐らく、いつものようにグラウンドが借りれず、今日も練習が出来ないと思っているのだろう。
紅葉が、円堂を見上げて尋ねる。
「ねぇ、他の人たちは? サッカーって、11人居ないと出来ないでしょ?」
「あ、あー……実は、俺たちまだ部員が7人しか居なくてさ。あ! なら、サッカー部に入らないか⁉︎ あ……でも君は女の子だから、マネージャーになるかな」
円堂の言葉に、紅葉は不服そうにぷくっと頬を膨らませる。
「むー。これでもフィールドプレイヤーやってます」
「えっ⁉︎ でも、小学生のチームだからだろ? ほら、中学校の大会は男子だけだから……」
「ボクはこう見えても中学二年生です‼︎ ちっちゃいからってバカにしないでおくれよ‼︎」
「えっ……⁉︎ そ、そうなの……?」
円堂は、目の前にいる小学生だと勘違いしていた同い年の少女に、ただただ驚いていた。
対して年下扱いされた紅葉は、プンスカと怒っている。
「もーっ‼︎ 人を見た目で判断したら、痛い目見るんだからね‼︎」
「ハイハイ、そう怒るな紅葉」
楓は、円堂を押し潰すような勢いで迫っていた紅葉の首根っこを掴み、引き離した。
そして、円堂に提案する。
「実は俺たちもサッカーをしていてさ。そうだ。君たちさえ良ければ、一緒に練習してもいいかな?」
「ホントか⁉︎ もちろんだ! 一緒に練習しようぜ!」
円堂はキラキラと目を輝かせ、楓と紅葉の手を順番に握ると、「早速みんな呼んでくる!」と言って部室へ走っていった。
円堂の後ろ姿を見つめた2人は、思わずクスリと笑った。
「嬉しそうだな、円堂監督」
「うん!」
一方の青木は、3人から離れて一人陸上部へ向かっていた。理由はもちろん、宮坂に会うためだ。
階段に座って、休憩中の彼の背後から声をかける。
「了」
「うわぁあっ‼︎ び、びっくりしたぁ……青木さんか……」
「そんなに驚かないで。少し傷付くわ」
「ゔっ……す、すみません……」
「まあいいわ。今休憩中?」
「はい」
「暇。構ってちょうだい」
「えっ⁉︎ で、でも、俺まだ練習が……」
「何よ。休憩中だけでいいから。構ってちょうだい」
「えぇえ……」
宮坂は少し困ったような顔をして、狼狽える。それを見ただけでも青木は満足だった。
唸る宮坂の前に、ふと第三者の影が現れる。
「宮坂、そろそろ休憩終わりだぞ」
「は、はいっ! 風丸先輩! あ、じゃあ青木さん、俺これから練習なんで! 失礼します!」
宮坂は風丸の登場に、そそくさとグラウンドへ走っていった。
ちっ。あいつ、絶対助かったと思ってるな。
青木は憎々しそうに宮坂を見送った。
「ごめんな、何か話してたのか?」
眉をひそめた彼女に、風丸が申し訳なさそうに声をかける。青木はちらりと彼を見上げ、立ち上がった。そして、そこからトンッと段を軽く蹴って跳躍した。
スタッと小さな音を立てて着地した青木は、風丸の問いなどまるでなかったかのように歩き出した。
一方風丸は、去り行く彼女の後ろ姿を見て、ぽつりと呟いた。
「……格好いい」
「おい、マジかよ!」
「信じられないでヤンス! グラウンドを使って練習出来るなんて!」
染岡と栗松が、驚いて誰もいないだだっ広いグラウンドを見る。他のメンバーも、口を開けたまま呆然としていた。
驚愕したままの秋が、円堂に問う。
「でも、何で急にグラウンドを貸してくれたの?」
「ああ、あいつが頼んでくれたんだ」
そう言いながら、円堂は遠くにある木の幹に寄りかかるシオンを見やる。彼女を一目見て、秋が円堂に耳打ちする。
「円堂くん、本当に赤司さんが?」
「ああ。あいつの親戚が、俺達とサッカーしたいって」
円堂が手招きしたのを見て、紅葉は楓の腕を引っ張った。
「円堂監督が呼んでるよ。行こっ!」
「ああ」
サッカーができる。たったそれだけのことに喜びを感じられる。とても幸せだと楓は妹を見て思った。
2人が雷門イレブン(まだ7人しかいない)の前に立ち、自己紹介をする。
「初めまして! ボクは於野紅葉っていいます。ポジションはDFです。よろしくお願いします!」
「俺は於野楓。紅葉の双子の兄だ。ポジションはFWをやってる。よろしくな」
にこっと笑いかけた紅葉に、雷門メンバーは少なからず癒しを感じた。
紅葉は基本常に、癒しオーラを放っている。ほんわかした彼女は加えてドジな面もあるので、アロマセラピー並みの癒し効果があるのだという。
そして、それが本人無自覚のままに行われているのだから、恐ろしい。
ワイワイと話す於野兄妹を遠くから眺めるシオンの隣に、戻ってきた青木が立つ。彼女を一瞥し、その顔を見ることなく話しかける。
「お前は参加しないのか?」
「興味ありません」
「そうか」
お互いの顔を合わせないまま、会話は終わる。彼女らの瞳は、何を見ていたのだろうか。
とはいえ、彼女らを見ていた生徒達から、美女2人が木に寄りかかっていると、写真や悲鳴の嵐が湧き上がったことだけはここに記しておく。