今回も一応ISでの戦闘描写がありますが、あってないようなものです。
あと、今回はとんでもない展開です。
それでもよろしければ、どうぞ。
その戦いは、模擬戦というには圧倒的すぎた。第三アリーナの観客席で見守っていた楯無は、素直にそう思った。
近づいて、斬る。たったそれだけのシンプルな戦法を、一年の専用機持ちは全く攻略することができずに、一人、また一人と戦闘不能に陥っていく。その中心に存在する、純白。京都での戦闘で黒騎士を無傷で制した、白騎士。それを駆る織斑一夏――その体を借りた、自称彼の父、織斑数多。
おそらく、自身の妹を除く専用機持ちのみんなは、彼の実力を測るために挑んだのだろう。相手の元は一夏だから、簡単に勝てる。そう考えた彼女らを待っていたのは、試合開始直後に白騎士が放った剣気と、一瞬のうちに落ちていった二人目の姿だ。
時間にして、3分。あの実力者相手によく持ったほうだと考えながらも、それから既に3分猛攻を耐え続けている自身の妹の姿に、心の中で驚いた。それと同時に、ある違和感が楯無の頭をよぎる。否、その違和感は、既に確信となっていた。
明らかに、手加減をしている。それも、常人ではわからないような絶妙さだ。相対する妹も、既に落ちて悔しさに満ちた表情を浮かべている他の専用機持ちも、気がついていない。おそらく、現状で気がついているのは、あの渦中にはいない自分のみだ。
だが、彼のその行為に楯無は疑問を浮かべる。何故手加減をするのか。それも、一夏の幼馴染の二人ではなく、あまりそうした縁があるとは思えない自身の妹に対して。その疑問に関しての答えを考えているうちに、模擬戦は終わりの様相を見せ始めていた。
簪は、白騎士の猛攻を必死に捌く。彼女の体力は、既に限界寸前であり、なけなしの精神力と集中力をかき集めて対応しているという形だ。それでも、反撃の糸口を探っている簪に、限界はあっけなく訪れた。
白騎士が振るう剣によって、自身が持っていた薙刀が弾かれる。あっ、と簪が小さく声に出した次の瞬間には、白騎士の剣が自身の首元に突きつけられていた。殺気はない。だが、お前のことをすぐに斬り捨てることができるのだという意志の塊が、そこにある気がした。
「――降参してくれるかい?」
白騎士――織斑数多の口から発せられる降伏勧告。顔を覆うバイザーで、彼の表情を見ることができない。だが、その声色は優しかった。
だからこそ、簪はその言葉を自然と口から出すことができた。
「降参、します」
「あなた、手加減してたでしょ?」
模擬戦が終わり、ピットに戻った数多を待っていたのは、少し不機嫌そうな表情をした楯無の存在だった。やはり、この人にはバレるか。そう考えながら、数多は一つため息をついた後に、ゆっくりと口を開く。
「なんのことだか全くわからないな」
「その言い訳が、通ると思う?」
そう言って、楯無は手に持っていた扇子をパチリと鳴らす。彼女にとってみれば、全力で数多に挑んでいた自分の妹をコケにされたような感じなのだろう。だが、数多自身はこのスタンスを崩すことはないし、何故そのようなことをしているのかという理由を話すわけにはいかない。少なくとも、今はまだ。
「僕が手加減をしていたという証拠は?」
「……そこを突かれるのは痛いわね」
数多の言葉に、楯無は苦虫を噛み潰したような顔をする。そう、彼女には数多が本当に手加減していたという確固たる証拠がない。証明するものがなければ、たとえそのことに対して言葉で責めたとしても、完全に数多に非があると決めることができないのだ。
だが、それでは楯無の心が納得できないのだ。だからこそ、別の問いを彼に投げかける。
「じゃあ、質問を変えるわ。何故、あなたは簪ちゃんに優しいの?」
それは、最近ともに訓練をしていた時に気がついたことだ。最初は勘違いだと思っていたが、ある時注意深く観察してみると、それが気のせいではないことがわかった。明らかに、態度が違うのだ。ほかの専用機持ち達と違い、簪の扱いだけ丁寧というか、丁重というか、とにかく楯無の視点から見ると、そう感じてしまうのだ。
「優しくはしてないよ」
数多はこともなげに否定する。その態度に、楯無はさらに疑念を強くする。
「何を考えているのかしら、あなたは」
一夏の考えていることならば、すぐにわかる。だが、彼が奥に引っ込み、数多が表に出ているときは、途端に何を考えているのかわからなくなる。バイザーに隠れて表情がわからないということもあるのだが、一度バイザーを取ってもらった上で話したことがあるが、一夏と同じ声と表情をしているだけの別人ということだけしかわからなかった。わからないから、気を許すことができない。
正直に言ってしまえば、楯無は突如現れた体を持たぬ父親という存在に対して警戒心を抱いてるのだ。
「――そんなに知りたいのかい?」
だから、彼がそういった時も、最初に浮かんできたものは疑念だった。
「なにか、教えてくれるのかしら?」
だが、楯無はそれに縋る事しかできない。学園最強の生徒会長という肩書きを持っているのに、情けなかった。
「僕の口からは教えることはできない」
だけど、そう言って数多は言葉を続ける。
「もしも真実を知りたいのならば、一夏のDNAを調べて見ることだ」
数多の言葉に、楯無は彼が何を言っているのかさっぱりわからなかった。だからその理由を聞こうとしたが、既に彼は白騎士を解除しており、織斑一夏へと戻っていた。
「ん? 楯無さん、どうしたんだ?」
何も知らない彼の質問に、すぐに表情を取り繕って何でもない、と答える。この時ばかりは自身のコミュニケーション能力の高さに感謝した。だが、彼女の頭の中には、先ほど織斑数多から言われた言葉が残っていた。
だからこそ、楯無は一夏に向かって手を合わせた。
「織斑君、ちょっといいかしら?」
◆
三日後、一夏のDNA鑑定の結果が楯無の元へと届いた。今回の鑑定は、更識家お抱えの施設で行ったため大丈夫だと思うが、万が一を考え、鑑定を頼む際に鑑定に使った彼の血液と、それによって得られた鑑定結果をすぐに破棄することを厳命しておいたから、まず彼の情報が外部に流出することはないと信じたい。
この書類を渡してきた責任者が困惑した表情をしていたのが気になったが、おそらく今手に持っているこの書類の中に答えがあるのだろうと考えた楯無は、封筒から書類を取り出し、読み始めた。
書類自体は、10枚にも満たない枚数なので、読み終えるまでにあまり時間はかからなかった。だが、問題があったのは、その内容だった。一枚一枚読み進めていくうちに、徐々に内容が怪しいものになっていき、最後の一枚の、鑑定結果のまとめの項を見る頃には、楯無の心は驚愕で埋め尽くされていた。
「――嘘でしょう」
自然と口から漏れたその言葉は、心から溢れ出る感情を抑えきれず、震えたものだった。何故、こんな結果が出たのか、全く意味がわからなかった。この結果を、織斑数多は知っていたというのか。否、
そう考えたときには、楯無は手に持っていた書類を封筒に戻し、走り出していた。そうしたのは織斑数多への疑念が深まっただけじゃない。早く行かなければ、なにか取り返しのつかない事態が起こってしまう予感があったからだ。
だからこそ、胸の内から湧き上がる言いようのない不安を抑えながら、楯無は走った。渦中の人物である一夏と、自分の妹である簪のもとへ。
一夏と簪は、食堂にいた。息を整えながら楯無は彼らへと近づく。彼らへと近づいていくうちに、楯無はなにか違和感を覚えた。その違和感の正体は、彼らの座るテーブルまであと少しというところで、自覚することができた。
仲が良すぎるのだ。現在楯無の目に映っている光景は、一夏と簪がなにかを話しながら笑い合っているものだ。普通だったら微笑ましい光景だと言えるのだが、楯無はそれを手放しでは喜べなかった。何故なら、あの二人は出会ってからまだそんなに時間が経っていないはずなのだ。そうであるにも関わらず、まるで最初から仲が良かったような雰囲気なのだ。その光景が、楯無の中の不安を大きくさせた。
だが、楯無はその不安を気のせいだと押さえ込み、一夏に声をかける。
「ちょっといいかしら、織斑君」
楯無の声に、二人が彼女の方を向く、どちらもキョトンとした表情であるが、特に不快そうな様子ではなさそうだった。
「ちょっと数多さんに用があるの、少しだけいいかしら?」
笑顔を取り繕いながら、そう言う。もちろん、自身が今持っている鑑定結果の書類は隠しながら。楯無にとって、
「父さんに? わかりました」
そう言って、一夏はテーブルを立つ。そしてそのまま歩こうとして、直ぐに止まり、振り向く。彼の視線の先には、彼の服の裾を掴んでいる簪の姿があった。彼女が浮かべている表情は、不安と悲しさが混ざり合ったものだった。
「……行っちゃうの?」
小さな声で、簪は言う。その様子はまるで、今生の別れをしているかのようなものだった。そんな簪に向かって、一夏は笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でる。彼が浮かべた笑みは、ほかの専用機持ちにも見せたことのないような、優しいものだった。
「大丈夫だよ」
簪に向けられたその言葉は、とても優しい声色だった。
「すぐに戻るから」
そう言って、自身の服の裾を掴んでいる簪の手をやんわりと外す。一夏の言葉を聞いて安心したのか、簪は小さく笑顔を浮かべた。その光景は、誰がどう見ても微笑ましい恋人同士のやりとりに見えた。
その光景を一番近くで見ていた楯無は、自身の中で渦巻く不安が大きなものになっていくのを感じ、あえて見て見ぬふりをした。
「その様子だと」
第三アリーナにて、一夏が白騎士を展開した直後、すぐに数多は口を開いた。
「どうやら調べた結果が出たようだね」
「ええ、そうよ」
数多の言葉に答えた楯無の表情は、とても険しいものだった。それは誰にも見せたことのないようなものであり、何も知らない人間が見たら、本当に自分たちが知る更識楯無かと疑うような睨み方をしている。だが、その睨みを受けても、織斑数多は動じない。
「どういうことなの、これは!」
そう言って、鑑定結果の書類を数多に突きつける。
「全部知ってて、私に調べさせたんでしょう、あなたは!」
「その結果を、君の口から聞かせてくれ」
冷静に、数多は言葉を返す。その様子に、楯無はさらに声を荒げる。何をとぼけているのだ、この男は。そのような態度は許せない。そのような、一種の義憤にも近い感情が、彼女にその言葉を紡がせた。
「とぼけているようなら、言ってやるわ。あなたの息子、織斑一夏は――」
遺伝子の三分の二に、更識家の者と類似している箇所が見つかったわ!
言い切った楯無は、肩で息をしていた。自身を支配していた激情がゆっくりと冷めていくのが感じられる。それでもなお、楯無は口を開く。
「……何故なの」
楯無の言葉を聞き、数多は一つため息をつく。しかしそれは疲れや呆れからくるものではなく、何かに安堵しているものだった。
「たどり着いてくれたか」
その数多の言葉に、楯無は困惑する。それは、どういうことなのか。そしてその言葉は、まるで私がこのことを調べることを見越していたようではないか。
「なにか、知っているの?」
「ええ、知っていますよ。
数多が、教えていないはずの、自身の本当の名を口にする。
「何故――」
「あなたの本名を知っているのか、確かに不思議でしょう」
口調も、変わっている。まるで、こちらが本当の自分であるかのように。
「少し長くなりますが、自分に話せることを全て話しましょう。ああ、後」
これから話すことは、全て真実です。
あるところに、一人の男がいました。その男はある日、一人の女性と出会いました。その女性と愛を育んで、ついには駆け落ちしてしまいます。しかし、男は駆け落ちする前に、一人の女と一夜の過ちを犯します。当然、一夜の過ちですから、どちらもそのことは胸の奥に秘めています。多分、墓の中まで持っていったのでしょう。
さて、駆け落ちに成功した男と女性は、仲睦まじく暮らしながら、ついにはひとりの男の子を授かりました。しかし、幸せはそこまででした。元々体が強くなかった女性は、流行病でこの世を去ります。失意に沈む男は、それでも女性の忘れ形見である男の子を守る為に頑張ります。その過程で、金髪の女性とともに仕事をしたり、二人の黒髪の少女を連れた女と再婚したりします。そうして男は人生を駆け抜けて――この世を去ります。
残された男の子は立派に成長し、やがてある少女と出会います。その少女は、男が一夜の過ちを犯した女が、その時に授かった子供でした。しかし、そんな事実は知らずに、男の子と少女は互いを想いあい、やがて結婚し、一人の男子を授かります。
しかし、世界の情勢は崩れ、ひとつの戦争が起こります。その戦争に巻き込まれてしまった男の子と少女は、自分たちの子供である男子にあるものを託し、死んでいきました。
両親の死を糧に、男子は成長し、青年となりました。戦争はまだ終わっていません。両親を殺した戦争を止めるべく、青年も戦争へと身を投じました。彼は戦場で、何人もの仲間の死を見届け、何人もの敵を殺し、何人もの力なき民を救いました。その姿は、かつて世界に一つの力をもたらした存在になぞらえて、こう呼ばれました。
――白騎士、と。
こうして白騎士となった青年は、なおも戦争を終わらせるために戦い続けました。
しかし、あるとき仲間を守るために敵の大群に特攻しました。そして敵の大多数を殺した末に、自分の体に限界が来ました。彼は、もうだめだと思いました。しかし、その時奇跡が起こったのです。突如として彼は光に包まれました。発光しているのはその昔死んでしまった両親から託されたものでした。
光が収まると、青年は見知らぬ場所にいました。身に纏っていた白騎士も、両親から託された形見も、敵の死体も何もありません。不思議に思い調べてみると、そこは青年が戦っていた時代よりもずっと過去でした。
青年は困惑しながらも、過去で必死に生きました。戸籍を手に入れ、仕事を手に入れ、自分の時代に戻る方法を探しながら、必死に生き続けました。
やがて、青年は男となり、一人の女性と出会います――
「これが、僕が知る全てです」
数多の話を聞き終えたあとに、楯無が抱いた感情は、恐怖だった。何故なら、彼の話に出てきた女と女性の特徴は、自身がよく知っている人物だからだ。それだけならば、まだその可能性があるで済むだろう。しかし、今回行った織斑一夏のDNA鑑定結果を合わせると、確信に変わってしまうものだった。
話に出てきた二人は、自身の叔母と母だからだ。そして――
「嘘でしょう?」
それは、
「残念ながら、嘘じゃないですよ」
数多のその言葉は、正しく楯無にとって死刑宣告だった。
「織斑一夏も、更識簪も、僕の子です」
そして――
「僕は、二人の子供です」
その事実は、楯無の膝を折らせるのに十分なものだった。今、彼女の心を支配しているのは、このような運命を作り出したモノへの慟哭に近いものだった。こんなことがあるのか、残酷すぎる、何故あの子達にこのようなことが。
それは、先ほどと同じく、答えの出ない問いかけだった。どうして、どうして、どうして……
壊れたように、楯無は心の中で問いかけ続ける。
「大丈夫だよ、
打ちひしがれている楯無に、数多は言葉を紡ぐ。それは歪んだ運命の末に生まれた、一人の人間の言葉だった。
「
男が死んでも、少年と少女がいる限り、男は生まれ続ける。
ということで、織斑数多の強さの秘密と正体の話でした。
多分、誰も得しない展開だと思います。
だって読んだらSANチェックをうたってる短編集ですからね。
でも、よく訓練された読者だったら大丈夫だと思います。
最後に、ここまで読んで下さりどうもありがとうございます。
よろしければ、感想をもらえるとありがたいです。
これからも、どうぞよろしくお願いします。