Fate/another vision   作:寺町朱穂

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1月31日
プロローグ


 

 振り返ると、いちめんの炎が広がっていた。

 

 

 まっかな炎が、家を包み込んでいる。

 誰の家? 考えるまでもない。わたしの家だ。この世に生まれて、5年間――わたしが過ごしてきた家だ。

 

 わたしの家は、轟々と音を立てながら廃墟に変わっていた。

 ばちばちと散らばる火の粉は、なんだか星屑みたいで綺麗。でも、怖い。空が焼け始めているように見えるし、立ち込める煙のせいで息苦しい。それに、まだお父さんも、お祖父ちゃんも、それからお兄ちゃんも家のなかにいる。

 

 庭まで逃げてきたのは――わたしだけ。

 

「おとーさん! おにーちゃん! おじーちゃん!」

 

 気が付けば、力の限り叫んだ。

 でも、叫び声は建物が崩れ落ちる音で遮られてしまった。

 熱い風が、わたしめがけて襲いかかってくる。熱くて堪らないのに、おなかのなかから冷えていく感じがする。

 

「いやだよ、にげたくないよ! にげるなら、いっしょに、にげようよ!!」

 

 お父さんは、「お前だけでも生き延びろ」と、わたしを窓から外に出してくれた。お父さんの顔は煙に塗れて見えなかった。でも、お父さんの声は酷く淡々としている。お父さんは温かみのない声で「あいつは、親爺と一緒だから大丈夫だ。安心して逃げろ」とだけ言い残すと、がちゃりと窓を閉めた。

 それ以来、お父さんの声も聞こえないし、姿も見えない。

 

「おにーちゃん!! おじーちゃん!! おとーさん!!」

 

 わたしは、叫び続ける。

 誰も答えてくれない。轟轟と家が燃えていく音だけが響いている。

 

「おとうさん……」

 

 お父さんは、わたしを逃がしてくれた。

 生きのびろ、と逃がしてくれた。

 だから、生きないといけない。死ぬ、という言葉は良く分からないけど、それは怖いことなのだ。

 わたしは服の袖で涙を拭うと、がむしゃらに駆けだした。いつまでもここにいたら、とっても怖いことが起きる。だから、はやく逃げないといけない。

 

 

 

 それに、きっと逃げれば――お祖父ちゃんが迎えに来てくれる。

 お祖父ちゃんは怖いけど、絶対に死なない。「親父は妖怪だ」って、お父さんは言ってたし、お兄ちゃんも言っていた。

 

だから、きっと――お兄ちゃんと一緒に迎えに来てくれる。

 そう、絶対に――

 

 

「あっ!!」

 

 足が縺れて、転んでしまった。

 ひざは擦り剥けて、まっかな血が滲んでいる。痛い。

 

「……逃げなくちゃ」

 

 よろよろと立ち上がると、再び駆けだす。足は痛いし、煙は目に浸みるしで、目には涙が浮かんできた。私は袖で眼をこすりながら、懸命に足を動かし続けた。

 

 

 カーン、カーン、カーンと、けたましく鳴り響くサイレンが、遠くから響いてる。

 

 

 星の代わりに火の粉が舞い散る夜空。

 騒がしく鳴り響く消防車。

 轟々と燃え盛る炎。

 そして、ひざから滲んだ血――。

 

 

 

 

 結局、お祖父ちゃんは迎えに来なかった。お兄ちゃんもお父さんも、まっくろに焦げてしまっていた。

 

 

 これで、ひとりぼっち。

 だから、わたしは赤が嫌い。

 死ぬのは、もっと嫌い。でも、逃げるのは――もっと、もっと嫌い。

 

 

 10年前から、ずっと――

 

 

 

 

 

 聖杯戦争。

 

 それは、7人の魔術師たちによる儀式――もとい、願望器である聖杯を巡り、繰り広げられる「殺し合い」だ。

 魔術師たちは、古今東西の英雄たちを使い魔(サーヴァント)として召喚し、3つの令呪で縛り上げる。サーヴァントは召喚者のため、そして自分の悲願を叶えるため、人知を超えた苛烈な戦いを繰り広げ、最後の一騎となるまで殺し合う。

 

 

 ――けっして交わるはずのなかった7つの運命。

 境遇、生い立ち、思想、技能――なにもかも違う7人のマスターたち。彼らの運命が交差し、勝利の栄光を手にするために剣を交える。

 血生臭い戦いの刻限は、徐々に迫っていた。

 

 

 

 ときは、西暦2000年。

 ――最果ての都「東京」で、最も新しい聖杯戦争が幕を開ける。

 

 

 





新連載、はじまりました。
Fate/Apocryphaで語られている「亜種聖杯戦争」をイメージしながら執筆しています。
ですので、基本的に舞台背景・世界観はApocryphaに酷似しております。
しかし、Apocryphaとは決定的に違う点もちらほらある並行世界です。そのあたりも愉しみながら読んでいただけると嬉しいです。

これから、よろしくお願いします。

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