Fate/another vision   作:寺町朱穂

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9話 少女の夢

 

 

 ここで、少女の話をしよう。

 騎兵(ライダー)使い魔(サーヴァント)を手に入れた、1人の少女の話を――。

 

 

 

 

 少女は、死を夢にみていた(望んでいた)

 人生を重ねるたびに、世界が汚らわしく、醜いもので溢れていることを識った。

 だから、少女は死を選んだ。

 

「この汚い世界(未来)から解き放たれて、永遠の存在になるの」

 

 ――だから、一緒に行こう。

 少女は、無二の親友に手を差し出す。

 しかし、親友は少女の提案を拒否し――1人で逝ってしまった。

 少女は、あとになって――親友の未来が閉ざされていたことを知る。一家離散、多額の借金、母親の自殺、――それは、少女の前に広がる未来よりも遥かに闇で覆われていた。

 

 少女は嘆いた。

 

「私が殺したのも同然なんだ。

 無神経な一言が、あの子を死に追いやったんだ」

 

 だから、私も殺して。

 この日から、少女は死を望む(夢にみる)ようになった。

 それは永遠の存在になるのではなく、親友への贖罪のため――。

 親友のように、俯瞰からの墜落死を選ぶか――それとも、手首をカッターで切り裂くか。

 

 

 

 

「――君が死ぬことはない」

 

 迷う日々を過ごしていた少女に、1人――見知らぬ人物(・・・・・・)が、声をかける。

 その人物から紡がれたのは、己の内に秘めたる願いを叶える手段について。

 

 ――君が死ぬことを、親友は望まない。

 ――君は、親友を聖杯で生き返させるべきだ。

 

 その人物曰く。

 少女には、数代前に途絶えた魔術師の血が流れている。

 手順に従い儀式を執り行えば、聖杯戦争に参加することが出来る。

 幸いにして、その人物が触媒を譲ってくれた。自分には必要なくなったから、と言われた触媒を躊躇うことなく頂戴し、「魔術」の教えを乞うた。

 

 少しでも聖杯を手に入れる可能性を高めるため。

 可能な限り、親友を生き返させる手段を手に入れるため。

 そして――万全の態勢で()に身を投じるため。

 

 

 わずか1年足らずの修行。

 召喚したサーヴァントは、ライダー。

 神秘度は低く、真名も日本で浸透しているとは言い難い。

 だけど、少女を勝ちに導くサーヴァントであることだけは間違いない。

 事実、サーヴァントは自身の真名を隠匿するため、真名と関わりのない西洋剣を使ってくれた。ライダーは戦略を練り、他のサーヴァントが脱落してから、もしくは、弱ったころを狩りに行こうという方針を打ち立ててくれた。

 

 少女もサーヴァントを強化するため、率先して魂喰いを実行させた。悪人を喰らうことすら嫌がるので、令呪を使い、どちらが上官なのか分からせて――

 

 一歩、一歩。

 勝ちへの布石を積み重ねて。

 その途中、いかにもザコそうな獲物(霧ヶ丘 紫)が自分たちの前に立ちふさがってきた。

 ――いままで、存在すら知らなかった癖毛の後輩。

 だから、情をかけることもない。逃げることしか脳のない雑魚(アサシン)に、特殊な力もない後輩(マスター)なんて、殺すのは容易い。

 だが、念には念を入れ――宝具を使った。

 ライダーの宝具から目を背けさせるため、礼園襲撃事件の犯人を捜す二人組に嘘の情報を与えて、後輩とアサシンを学習室に足止めさせたのに――

 

 

 それも、すべてが水の泡。

 目の前に迫ってくるのは、濃厚な死の大刀。

 サーヴァントは、重傷を負い動けない。

 

 ――あぁ、これが罰なんだ。

 

 親友を死に追いやった自分には、奇跡()を手にする資格なんて、最初っからなかったんだ。

 

 

 少女――宮月理々栖(ライダーのマスター)は、死を受け入れた。

 

 

「えっ?」

 

 

 しかし、次の瞬間だった。

 誰かが、理々栖の隣で立ち上がる。

 理々栖が驚いて顔を上げると、それは同じく死を待つばかりだった後輩――霧ヶ丘 紫だ。

 

「霧ヶ丘――貴方っ、なにを!?」

「――そうだ、逃げることは、駄目なんだ」

 

 小さく、だが、はっきりと呟かれた言葉。

 

「逃げちゃ駄目なら、あいつを防がないと」

 

 理々栖は、霧ヶ丘 紫の青黒い瞳が、異様な輝きを帯びていることに気づいた。

 爛々と輝く虚ろな眼差しは、まっすぐバーサーカーを映し出している。理々栖は、本能的に声を張り上げていた。

 

「こ、殺せるわけないじゃない! あいつは、サーヴァント! 過去の英雄なのよ!?」

 

 ――貴方は、魔術も習っていない一般人なんでしょ?

 そんな悲鳴気味た言葉を続ける前に、紫は手を掲げた。

 

「だから、防ぐだけよ」

 

 振り下ろされる大刀を受け止めるように、両手を掲げる。大刀は風を切りながら、紫の手に直撃する刹那――

 青い光が、紫たちを守護するように広がった。

 それは、まさに盾。青い盾は大刀を受け止め、その勢いを削ぎ落とす。無論、バーサーカーも負けてはない。さらに力を籠め、盾ごと紫を押しつぶそうとして来る。その重みで、紫の足が地面に沈む。否、沈むなんて可愛い表現ではない。硬い地面に、足がめり込んでしまっていた。

 

 だが、盾は破れない。それどころか――

 

「――っ、ま、魔力消費量を、抑えろ、バーサーカー」

 

 バーサーカーのマスターが、己の胸を抑えている。

 額から汗を流し、苦しそうに呻いていた。

 その姿を見て、理々栖は思い出す。バーサーカーの威力は驚異的だが、その分、魔力を消費する――そう、バーサーカーが武器を一振りするだけで、平凡な魔術師なら魔力を枯渇してしまうことを。

 

「魔力の供給が、追いついていない?」

 

 理々栖は目を見張る。

 これは、好機会(チャンス)だ。

 魔力の供給が追い付かないのであれば、バーサーカーは必ず弱体化する。理々栖は気がつけば、手を掲げて叫んでいた。

 

「令呪を持って命令する! ライダー、宝具でバーサーカーを殺しなさいっ!」

 

 2画目の令呪が輝き、ライダーを中心に砂煙が巻き起こった。

 

承知した(Einverstanden)、マスター!」

 

 砂煙は音を立てて勢いを増す。そして、砂煙のなかから短砲身が姿を覗かせた。

 黒光りする砲身、バーサーカーの体長をも越す巨体が理々栖たちの眼前に召喚される。

 

 重量20t、装甲30mm。

 第二次世界大戦、ドイツ機甲師団の中核を担った縁の下の力持ち――IV号戦車。

すでに、ライダーが搭乗しているのだろう。短砲身7.5センチ砲が照準をバーサーカーに合せるように動き始める。

 

「っ、マズい! バーサーカー、気をつけろ――ッ、魔力がっ、もう――っ!!」

 

 バーサーカーの力が強まったのか、青い盾に亀裂が入る。

 バーサーカーのマスターが血を吐きながら地面に崩れ、紫の顔にも汗が滲み始める。理々栖自身も宝具発動に伴い、身体中の魔力を再現まで搾り取られるような強烈な痛みが奔った。しかし、理々栖は地面に倒れることなく、力いっぱい声を張り上げた。

 

「やっちゃいなさい、ライダー!!」

「『第7装甲師団の栄光はココに在り(Gespensterdivision)』――!!」

 

 理々栖の言葉を受諾したように、IV号戦車から砲弾が発射された。

 それは、ティーゼルの放つ砲弾や88mm高射砲(アハトアハト)には一歩及ばぬ攻撃力。

 しかし、それは過去の話。いまのIV号戦車は、ライダーが生前に築き上げた伝説の象徴として、奇跡を起こす力まで昇華されている。弾道速度もちろんのこと、威力も既に88mmを凌駕していた。

 

「■■■――っ!?」

 

 周囲の空気を巻き込みながら、その砲弾は宙を奔る。

 バーサーカー、そして、彼を阻もうと盾を構築し続ける霧ヶ丘 紫に向かって。

 

「ったく、世話の焼けるお嬢(マスター)だ!!」

 

 だがしかし。

 砲弾が紫に直撃する寸前、緑が突風のように割り込んできた。先程まで地面に蹲っていたアサシンだ。無抵抗の紫を抱え込むと、そのまま戦線を離脱する。

 

 紫がいなくなったことにより青い盾は消滅し、バーサーカーの前に障害はなくなった。

 無論、ライダーが放った砲弾の前に立ち塞がるのは、これでバーサーカーしかいない。

 

「いけ――ッ!!!」

 

 砲弾は轟音と共に、バーサーカーの腹部に直撃した。

 そのまま腹部が破裂し、胴体の大部分に巨大な風穴が開いた。赤い血肉が粉砕し、バーサーカーは吠え声を上げる。その姿、まさに、紙一重で右脇が繋がっている状態は、奇怪な立像(オブジェ)と表現するのがふさわしい。しかし、その立像は荒い息を繰り返している。

 

「嘘……まだ、死なないなんて」

 

 今度こそ、理々栖は絶望する。

 バーサーカーの唇からは血が滴り落ちているものの、呼吸が止まる気配はない。消滅する様子もない。それどころか、不自然に揺れ始めた。

 

「■■■■■――ッ!!」

 

 バーサーカーの慟哭が、空に木霊する。

 その瞬間、バーサーカーの傷口から黒い煙が噴出し、砲弾が奔った道をなぞり始めた。その反撃は、あまりにも唐突だったせいだろう。回避することも出来ず、黒い煙はライダーごとⅣ号戦車を包み込んだ。

 

「ライダーっ!?」

「っく、っくっくっく、くははは、ははは――っ!」

 

 理々栖の悲痛の叫びに重ねるかのように、バーサーカーのマスターが立ち上がる。

 理々栖はバーサーカーのマスターを睨みつけた。彼が、すでに限界を迎えていることは明白だった。魔力が底を尽きかけているのか、全身の毛細胞が破裂し続け、ひっきりなしに血飛沫を撒き散らしている。

 そんな見るも無残な有様だというのに、彼は勝利を確信しているのだろう。その瞳だけは、狂喜に縁取られていた。

 

「なにが、おかしいのよ!?

 貴方のサーヴァントは、もう死ぬのよ!?」

「これは、傑作!! お前は馬鹿だ、馬鹿だ、大馬鹿者だ!!それは、こっちの台詞だっての!」

 

 ひぃひぃと擦れるような呼吸を繰り返しながら、楽しげに笑い声を上げ続ける。

 

「俺様のバーサーカーはなぁ、正規の方法(・・・・・)以外で殺された場合、致命傷を与えた相手に呪いを与えるのさ!!

 そして、呪いを浴びた敵は――3日後に死ぬ。その祟りでな!」

 

 最後の「死ぬ」という部分が、やけに神妙に響き渡る。

 バーサーカーのマスターの言葉を受けて、理々栖の手が震えた。つまり、彼の言い分が正しければ、理々栖に残された時間は、わずか3日しかないことになる。

 

「おいおい、バーサーカーのマスター。

 アンタ、言ってることが矛盾してないか?」

 

 そのとき、アサシンが口を開いた。

 気を失っている霧ヶ丘 紫(マスター)を抱えながら、バーサーカーのマスターを凝視している。

 

「結局、バーサーカーは殺されたんだ。

 ライダーの生死なんざ、マスターでなくなったアンタには関係ねぇことだろ?」

「馬鹿め。

 俺様のバーサーカーは、まだ死んでねぇっての!」

 

 理々栖とアサシンはバーサーカーに視線を向ける。

 バーサーカーは依然として胴体に巨大な穴を開けている――が、その穴が少しずつ、蒸気を上げながら塞がり始めていたのだ。

 

「こいつはなぁ、正規の方法以外じゃ7回殺さないと死ねない身体なんだ。

 つまり、あと6つの命が残ってる。

 お前たち、これから6回殺せるか!? 俺様のバーサーカーを、殺してみやがれ! そしたら、お前たちも、呪いの――っぐはっ!?」

 

 バーサーカーのマスターの口から、血が迸った。

 彼は胸を抑えながら、ふらりと膝をつく。

 

「っぐ……魔力が、足りない。この場所では、これが限界か……

 お前たち、命拾いしたな。今日は……このくらいにしておいてやる」

 

 バーサーカーのマスターは呻きながら立ち上がると、こちらに背を向けた。

 バーサーカーも、ゆらり、ゆらりと巨体を揺らしながら、マスターに続く。

 

 

 

 己の死()が遠ざかり、訪れたのは騎乗兵が死ぬ未来。

 

 

 理々栖は、その後ろ姿を眺めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 





 いつから型月の一般人が一般人だと、錯覚してた?

 もちろん、紫が魔術を行使できた理由はあります。
 物語の進行に伴い、少しずつ明かしていきたいです。(勘の良い人なら、すぐに理由まで辿り着いてしまうかも……)

 さて、ライダーの宝具(2つ)が開帳しました。
 これで、もう真名はバレバレですね。次回、答え合わせです。
 バーサーカーは、ちょっとヘラクレスの宝具に似せ過ぎたかも……と反省中です。
 でも、後悔はしていない。

 次回も、お楽しみに!


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