Fate/another vision   作:寺町朱穂

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新宿御苑の夜

 

 

 ――2時00分:新宿御苑

 

 

 新宿御苑。

 東京都心の緑地公園に、1人の少女が立っていた。

 否、立っているというのは語弊だ。少女は、車椅子に座っている。

 

 少女は、違和感の塊だった。

 まず、新宿御苑は夕方には閉園してしまう。深夜2時に、少女が迷いこめるわけがない。ましては、少女は車椅子を使っているのだ。いくら他数多の公園と比較し、整備が行き届いているとはいえ、良家のお嬢様然とした少女が簡単に移動できる場所ではなかった。

 

「こら、そこでなにをしてる!?」

 

 こんな異質の少女が、管理人に見つからないわけがない。

 懐中電灯の明かりに照らされ、少女は面倒くさそうに背中まで伸びた黒髪を撫でた。

 

「貴方こそ、なにをしていらして?」

 

 少女は、つまらなそうに告げる。

 少女の言葉を受け、御苑の管理人は怒った。車椅子に腰をかけるのは、年端も行かぬ少女である。どんなに高く見積もっても、20歳を超えていないだろう。あきらかに、補導の対象である。管理人は口を開きかけ――

 

「わたくし、ここで作業がありますの。悪いけど、朝まで放っておいてくださる?」

「あ、あぁ」

 

 気が付くと、少女の言い分を飲んでいた。

 

「それから、わたくしと話したことは忘れること。もちろん、わたくしがいたことも」

「了解した」

 

 なにも疑うことなく、そのまま少女の言葉にうなずく。

 管理人が再び歩き出したとき、すでに頭から少女の存在が消えていた。

 

 

「……まったく、人払いをかけておくべきでしたわね」

 

 少女は管理人を見送ると、ちいさくため息をついた。

 人払いの魔力を惜しんだ結果、巡回中の管理人に見つかり、軽い暗示の魔術をかけることになってしまった。

 

「まぁ、仕方ありません。召喚するに足る魔力はあるのですから」

 

 少女――巫城珊瑚は、足元の魔法陣を見下ろした。

 カラスの血を使い、描いたばかりの魔法陣。獣臭さと共に、仄かな暖かさが伝わってくる。

 

「さて、始めましょうか」

 

 珊瑚は、静かに己の魔力を高めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、闘争があった。

 

 

 魔術の総本山から遠く離れた最果ての地――日本の冬木で。

 

 7人の魔術師が「聖杯」を巡り繰り広げられる、血に塗られた闘争が。

 英霊をサーヴァントとして召喚し、最後の一騎になるまで殺し合う極めて特殊な戦争だ。

 万能の願いを叶えると謳われる「聖杯」を求める魔術師は後を絶たず、アインツベルン、遠坂、マキリの三家が構築した聖杯戦争は、過去に3度――60年の周期で開催されていた。

 

 

 そう、開催されていた(・・・・・・・)

 「冬木の聖杯戦争」は「第三次聖杯戦争」のとき、唐突な終わりを告げる。

 第2次世界大戦、という時代背景もあったのだろう。ナチスドイツと日本陸軍が乱入し、冬木における聖杯戦争は終焉を迎えたのである。

 

 

 「冬木の聖杯戦争」が終焉すると同時に、聖杯戦争のシステムそのものが、世界中の魔術師たちに情報として拡散した。それほどまでに、冬木のシステムは人を惹きつけてやまなかったのだ。

 現在、亜種の聖杯戦争が世界各地で繰り広げられている。

 もちろん、それは小規模の戦争ばかりだ。召喚する英雄も、多くて5体ほど。儀式を成立させたとしても、万能の願望をかなえるまでには至っていなかった。

 

「この聖杯戦争は、違うといいのですけどね」

 

 珊瑚は不敵に微笑むと、魔法陣に軽く手を伸ばした。

 

 

 

 

 巫城珊瑚には勝算があった。

 これまでの聖杯戦争では、多くの優秀な魔術師が命を落としてきた。

有名どころでいえば、エーデルフェルトの双子妹、八枚舌のダーニック・ユグドミレニア……亜種の聖杯戦争でも、時計塔の君主だったケイネス・エルメロイ・アーチボルトが闘争に敗れ、婚約者と共に命を散らしている。

 だが、珊瑚は危険を承知で勝利する自信があった。

 

 珊瑚は、横目で英霊を召還するための触媒「血が付着した菩提樹の葉」を一瞥する。

 これを用いれば、ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に登場する竜殺しの大英雄ジークフリートを呼び出すことが出来るはずだ。

 

「英霊召喚に応じて振り分けられる7つのクラス……最優の剣士『セイバー』として、ジークフリートを召喚するのですから!」

 

 亜種の聖杯戦争でも、セイバーが勝ち抜く場合が多いと伝え聞く。

珊瑚が聖杯戦争に参加すると決めたとき、「もっとも優秀なセイバーを召喚しよう」と心に誓い、時計塔の伝手を頼りに手に入れた逸品だった。研究で稼いだ金銭の大部分を持って行かれてしまったが、別に痛手ではない。

 

 

 聖杯を持ち帰れば、それだけで「巫城家」に箔がつく。

 

 

 巫城珊瑚は、どこへいっても蔑まれてきた。時計塔では「東洋の魔術師」と馬鹿にされ、日本でも本家「巫浄家」から「所詮は分家のはしくれ」と馬鹿にされる。

 実績では、ただ血を重ねただけの魔術師や、本家の巫浄を凌駕してるにもかかわらずだ。

 こんな仕打ち、もう耐えられない。

 ならば、どうするのか。それは、簡単な話だ。致死率の高い聖杯戦争を勝ち抜き、勝利の栄光を手にする。きっと、それで周囲の目が変わるはずだ。

 

「――告げる」

 

 珊瑚は、詠唱の言葉を紡いだ。

 

「汝の身は我がもとに、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 全身を巡る魔力。そのせいで、体内の魔術回路が熱を帯び、悪寒と苦痛を際限なく生み出していた。その激しさのあまり、珊瑚は思わず顔をしかめてしまった。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 それでも、珊瑚は詠唱を辞めない。

 ジークフリードを召喚するためだと思えば、惜しくはなかった。

 勝利の栄光をつかむためだと思えば、べつに痛みだって我慢できる。

 ジークフリードといえば、無敵の英雄だ。悪竜ファブニールを倒した際、全身にその血を浴びて不死の肉体を手に入れたという逸話だってある。不死の身体を持つ最良の剣士なんて、召喚した段階で価値が決定したようなものである。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ」

 

 視界が歪んでも、悲鳴をあげたくなるほどの痛みも無視して詠唱を続けた。

 すり切られそうな精神を集中させ、光を帯びた魔法陣だけを睨みつける。

 

「天秤の守り手よ!!」

 

 逆巻く風と稲妻。

 周囲の木々を薙ぎ倒しかねない風圧が巻き起こり、珊瑚は思わず腕で顔を覆った。魔法陣は召喚の紋様を燦然と浮き上がらせ、この世ならざる場所との回路をつなぐ。

 そして、ついに英霊が姿を現した。

 

「問おう」

 

 時を越えて、英雄が東京の地に現界する。

 白い煙の中から、長身の男が姿を現す。

 

 

 珊瑚は、期待を込めた眼差しを英雄に向けた。

 

「おまんが、わしの『ますたー』か?」

 

 

 

 

 

 

 




 はい。
 まず、1人目の参加者が英霊を召還しました。
 どうみても「すまないさん」ではありません(笑)
 この英霊は、けっこう簡単に当てることが出来ると思います。
 

 次回からは、ストックが尽きるまで1日1話ずつ投稿していこうと思います。
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