Fate/another vision   作:寺町朱穂

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4話 不穏な鉢合わせ

 

 そこでは、あたりまえのように映画が上映されていた。

 

 音のないサイレント映画。でも、上映されてるのはモノクロではなく、鮮やかな色がついている。観客は1人だけ。時代遅れの修道服――もとい、礼園女学院の制服を着た少女――瀬尾静音が椅子に腰かけていた。でも、瀬尾先輩は眠っている。すやすやと寝息を立てながら、椅子にもたれかかっていた。

 

「授業さぼって、映画鑑賞か」

 

 瀬尾先輩らしくない。

 いや、らしくない、と言いきれるほど、私は瀬尾先輩と親しくないのだが。

 少なくとも、礼園内に広まっている瀬尾先輩のイメージとはかけ離れているというか。

 

「って、なに、この映画?」

 

 映画の内容は、ホラーもの。

 1人の少女がゾンビから逃げてる。いや、少女というか、出演している人物は――

 

「瀬尾先輩?」

 

 出演者は、どこからどう見ても礼園の修道服を着た瀬尾先輩。

 それも、かなりノリノリの演技。ゾンビだらけの世界に迷い込んだ少女そのものだ。ゾンビの描写も迫真だし、そこから逃げる必死さは画面越しに伝わってくる。

 

「かなりクオリティ高い黒歴史、ってとこかな」

 

 顔見知りでもない第三者が観ていることに気づいたら、きっと恥ずかしかろう。

 心なしか、みている私まで気まずくなってくる。瀬尾先輩が寝ている間に、こっそり立ち去ろう。

 それに、ただ映画鑑賞しているだけみたいだし、魔術師とかサーヴァントとは無縁そうだ。

 だいたい、ここにいる理由をなんて説明すればよいのだろう? 聖杯戦争や魔術師云々のことを話せるわけもないし。

 そう考えながら、映写室を後にしたとき――

 

「ここでなにをしてるの?」

 

 2人の生徒と、ばったり出くわしてしまった。

 私とは違い、2人とも礼園女学院の生徒らしく清楚なお嬢様然としている。でも、2人とも世間一般で夢想される「深窓の令嬢」とは一味異なる雰囲気を醸し出していた。

 片方は、芯の強そうな目が特徴的な、凛と胸を張った少女。

 もう片方は、大人しい雰囲気の少女。目が不自由なのか、白い杖を手にしている。

 

「黒桐先輩! それから、あ、あ、浅上先輩!」

 

 まったく予想外だった2人組の登場に、私は固まってしまった。

 初対面で言葉も交わしたこともないが、2人の存在は礼園中に知れ渡っている。

 

 

 堂々とした少女――黒桐鮮花先輩は、高等部からの編入生。瀬尾先輩から学年1位の座を奪い、瞬く間に礼園女学院の頂点に君臨した――いわば、礼園の女王だ。

 一方、触れれば折れてしまいそうな弱そうな少女――浅上藤乃先輩は、礼園への寄付額3分の1を占める浅上建設の御令嬢。そして、去年――いや、一昨年の夏に起こった6人連続殺人事件の真犯人って噂がある怖いお人。正直、礼園の女王も怖いが、羊の皮を被った殺人鬼と噂される浅上先輩の方が恐ろしい。

 

 当然、私のような何故か聖杯戦争のマスターに選ばれてしまったということしか特筆事項のない凡人には、まったく縁のない2人組なのである。

 

「こんなところで、なにをしているのですか? まだ1年生は授業中ですよね?」

 

 黒桐先輩が丁寧な言葉で尋ねてくる。

 浅上先輩も、不自由な目で私を凝視していた。

 

「えっと、私は――」

 

 まさか「瀬尾先輩を聖杯戦争の関係者だと疑って探しに来た」なんて口が裂けても言えない。

 

「七不思議を、探しに来たんです」

 

 だから、とっさに嘘をついた。

 

「七不思議?」

「はい! 保健室で休んでいたのですが、体調が良くなって――でも、教室に戻りたくなくて、そんなとき、七不思議にまつわる映写機があるって、噂で聞いたことを思い出して……それで、気晴らしに」

 

 嘘が、すらすらと口から飛び出てくる。

 あの映写機が七不思議に関係してるなんて、聞いたことがない。でも、幸いにして、ここは礼園女学院の迎賓館。ミステリアスな構造故に、多種多様な「怖い噂話」に溢れてる。そこにある映写室なのだから、映写機にまつわる怪談が末端に付け加えられてても不思議ではないだろう。

 

「あー、あの映写機、噂になってるんだ」

 

 黒桐先輩は、がっくしと疲れたように額に手を当てた。

 

「それで、部屋には入りましたか?」

「いいえ。怖くて、ちょっと開けただけで、すぐに戻って来てしまいました」

 

 もちろん、嘘。

 本当は中に入った。でも、ここは瀬尾先輩の尊厳を護るため嘘を重ねる。このとき、少しだけ――浅上先輩の見えないはずの目が鋭く光った気がした。

 

「ところで、その、先輩たちはどうしてここにいらっしゃったのですか?」

「ルームメイトの瀬尾さんを迎えに来ました。彼女、昨日からここにこもりっぱなしで、寮に戻っていませんでしたので」

 

 ――瀬尾さんがここに閉じこもったこと、秘密にしてくれますか?

 黒桐先輩は、静かに言葉をつづけた。もちろん、答えはYES。代わりにというべきか、私が「気晴らし」という名目で授業をさぼっていたことを口外しないと約束すると、黒桐先輩たちは上品な足取りで映写室へ、そして、私は逃げるように階段を駆け下りた。

 

 

 森を走る。

 小枝を踏み、下草についた泥が跳ねることもおかまいなしに、一生懸命に走り続けた。

 そして、校舎に滑り込んだとき、ようやく、ほっと一息つく。壁に軽く背を預けながら、荒れる息を整えた。

 

「怖かった……」

 

 礼園を支配する女王。

 礼園、恐怖の象徴。

 それが、唐突に目の前に現れたとき――むかし、兄のゲームに登場するラスボスみたいな圧迫を感じた。息が止まる重圧とは、あのようなことを言うのかもしれない。

 

 

 ……でも、冷静に考えてみれば……。

 私は昨日、トラックに轢かれかけ、殺人鬼に殺されかけ、人外離れしたサーヴァントに命を狙われた。

 黒桐先輩たちを相手にすることより、昨日の出来事の方が危険極まりない。恐怖の度合いも、昨日の方が遥かに高かったはずである。そう考えると、かなり恐怖が和らいだ気がした。重たかった心が、一気に軽くなっていく。

 

「さてと、続きを始めよう」

 

 私は思考を切り返る。

 瀬尾先輩の欠席は、聖杯戦争となにも関わりなかった。

 これで、マスター探しは振り出しに逆戻り。私はポケットから手帳と小型ボールペンを取り出した。

 とりあえず、現状で判明していることを書きだしてみる。

 

 

セイバー:不明

マスター:不明

 

アーチャー:不明

マスター:不明

 

ランサー:不明

マスター:不明

 

キャスター:1番最後に召喚されたサーヴァント

マスター:不明。存在するはずのない8人目のマスター?

 

ライダー:不明

マスター:不明

 

バーサーカー:日本刀を持った巨人

マスター:紳士服の狂人。むしろ、こいつが凶戦士(バーサーカー)。聖杯戦争の主催者?

 

 

 ……圧倒的に、情報が少なすぎる。

 6人のマスターの内、3人が魔術師。残り1人が礼園にいて、他の2人は身分も性別も何もかも不明。あの紳士が、南海神父の教えてくれた3人のなかに含まれているかもしれないし、含まれていないかもしれない。

 まぁ、あの紳士服は何処からどう見ても日本人男性だったから、カルロなんちゃらとか、なんちゃら珊瑚とかではないだろう。

 

「はぁ……道のりは遠い」

 

 手帳をしまい、廊下を歩く。

 もうそろそろ、昼食の時間。全校生徒寮生活なため、朝・昼・夕と食事が配給される。もちろん、それを逃したら食事抜き。育ちざかりの生徒たちは――ちょっぴりダイエットのことを頭の片隅に浮かべながら――食堂に集まるのである。

 

「……あれ?」

 

 ふと、廊下の片隅に誰かがうずくまっていることに気づいた。

 近づいてみると、さっき保健室を訪れた先輩だ。壁にもたれかかり、動く気配がない。まさかだと思うけど、こんなところで寝入ってしまったのだろうか?

 外ほどではないといえ、廊下はかなり肌寒い。寒すぎるあまり、足早に歩いてしまうというのに、こんなところで座り込んでいるとは。

 

「あの先輩? こんなところで寝てたら、風邪ひきますよ」

 

 呼びかけてみたが、応答はない。

 失礼を承知で肩に手をかける。軽く揺すってみたが反応はなく、いや、これは眠っているというより――

 

「……気絶してる?」

 

 そのとき、私は気が付いた。

 髪の隙間から、赤いなにかが見えた。髪を退けてみれば、首の右側に薄らとリストカットしたような切り口。そこから、とくとくと「赤」が滲み出ている。つまり、これは――

 

『なに危なっかしいことに顔を突っ込んでんだよ、マスター!!』

「ひゃっ!?」

 

 いきなり背後から声をかけられる。

 もちろん、振り返ってみても誰もいない。たぶん、霊体化したアサシンがそこにいるのだろう。

 

『ったく……ちょっと目を離したすきに、このありさまだ。

 勝手に森を出歩くわ、怪しげな屋敷に入り込むわ、あげくのはてには――って、説教はあとだ。とりあえず、このお嬢さんを保健室に連れていったらどうです?』

 

 アサシンは酷く不機嫌そうに言い放つ。

 おとなしく保健室にいなかったことが、かなり不服だったらしい。それに対しては、私もかなり言いたいことはあるが、ひとまず彼に賛成する。

 

「誰か呼ばないと」

 

 1人では、この先輩を運べない。

 保健室へ走りながら、あの不思議な切り口について考える。

 

 

 先輩は、どうして首を切ったのだろう?

 

 

 少なくとも、私が見た限りでは、自殺などしそうな雰囲気ではなかった。激しい鬱状態に襲われて、首を切ってしまったとか? 否、それにしては、先輩の周囲に刃物は落ちていなかった。となると、これは第三者の犯行ということになる。

 1年生は授業中。

 2年生は授業があるクラスとないクラスがあり、3年生は受験を控えているため授業がない。となると、犯人は2年生か3年生。もしくは、その2学年担当の先生となる。

 でも、いったい、なんのために?

 

「――あれ?」

 

 角を曲がったとき、廊下の中央に人が倒れていた。

 長い髪を床に垂らしながら、ぐったりと両手を投げ出しているのだ。首もとには、さきほどと同じ赤い切り口が目を惹いた。

 

「2人目?」

 

 私は動揺して足を止めてしまう。

 まさか、ここで2人目の被害者を見つけることになるなんて思わなかった。しかも、まだ切り口が新しい。ということは、近くに犯人がいる可能性が――

 

「! マスター、危ないっ!!」

 

 アサシンの声が廊下に響き渡る。それとともに、重たい金属音が首後ろで音を立てた。

 

「一撃で仕留められませんでしたか」

 

 振り返ると、アサシンの背中が眼に入った。

 緑色の向こうに、冷たい双眸があった。体格はアサシンより痩せ型で、とても小柄だ。だが、目を合わせただけで、その存在が圧倒的な強者であることを理解する。なによりも、目の前の人物には威厳があった。昨日の狂人紳士よりも、華麗に黒いスーツを着こなしている。

 彼の本業は騎士なのだろうか? 男は西洋風の剣を握りしめていた。剣の先には薄らと血の跡がついている。

 

 生徒たちに怪我を負わせた犯人であることは、明白だ。

 

「さっきまで、気配がありませんでしたね。貴方はアサシンか?」

「そういうアンタの武器は、その剣ってとこか? オタク、もしかして、セイバーのサーヴァント? それにしては、魂食いなんて騎士様らしくねぇな」

 

 アサシンは軽い口調で問いかけながら、ナイフで剣を受け流す。そのまま私を庇うように後ろへ退け、男から一定の距離を取った。

 

「あいつは、サーヴァントなの?」

「どこからどうみてもサーヴァント以外の何者でもないですよ、マスター」

 

 アサシンはナイフを構えながら、剣を手にした男を睨みつけていた。

 私のような素人がみても、アサシンのナイフは刃こぼれを起こしている。無茶な受け止め方をしたのだろう。おそらく、あと1、2回が限度だ。

 

 いまも不敵な笑みを浮かべて剣を構えるサーヴァント。対するは、飄々とした優男であるアサシン。体格的にはアサシンより小柄なのに、敵の方が大きく視えてしまう。

 

「まだ若い娘を屠ることは趣味ではありませんが、マスターの命令です」

 

 そして、敵サーヴァントは――静かに言葉を告げた。

 

 

「貴方には、ここで退場していただきます」

 

 

 

 

 




 新規サーヴァント登場。
 クラスは■■■ーです。早く宝具使う姿を描きたい……。
 

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