Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~   作:紅 奈々

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2017年5月15日
小説の手直し完了。


第一楽章 Lio―神谷璃王―
標的1


昼の住民が寝静まって月が南の空を少し過ぎ、真っ暗な夜の街を見下ろしている頃に、それは行われた。

 

ここは、日本某所の港。

停泊している船から、二人の男が姿を表す。

その時を待っていたかの様に、倉庫の陰から一つの影が躍り出た。

月明かりに照らし出された髪は長く、夜の背景に溶け込む様な蒼、顔には黒猫の面を着けている。

月明かりが反射して、てらてらと鈍色に光るクナイを持つ手は闇に居ると白く際立ち、顔が見えなくともそれだけでその人物が美しい事は想像ができた。

 

「ディ……っ、悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)!?」

 

男の1人が狼狽した声を上げる。 もう1人の男は急いで銃を取り出し、悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)に向けて弾丸を放つ。

 

その瞬間、月が雲に隠れ、辺りは闇に覆われた。

悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)と呼ばれた人物は、殺し屋の攻撃をひらりと身一つで避ける。

 

コイツ、雑魚だ。 三流くらいか。

ヤクザ(ジャポネーゼマフィア)は三流が多いな。

そんな事を思いながら悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)はクナイを取り出し、銃弾を撃ってきた男の脳天を目掛けて、投げた。

まるでダーツの矢の様に真っ直ぐの軌道を描いた後、クナイは男の脳天に命中して、男は頭から紅い液体を撒き散らせて崩れ落ちた。 即死だ。

悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)は肩に乗っている普通の鰐よりも明らかにサイズが小さな鰐ーーアリゲータを離す。

アリゲータは小さな目で主人である悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)を見上げてきた。

 

「そいつ、食って良いぞ」

 

初めて出した声は、声変わり前の少年のやや低い声だった。

彼がしゃがんでアリゲータを撫でると、アリゲータはそそくさと今は動かない肉塊となった男に近付いて、それを食べ始めた。

生の人肉を食べる様なグチャッという様な音や骨を砕く様なボキッといったグロテスクで嫌な音を立てながら、アリゲータはまるで美味い物を食べているかの様に満足げな顔でそれを食べる。

 

アリゲータは、彼がとある実験中に召喚してしまった小さな雑食獣で、雑草から樹木や動物は勿論、人間や機械、家、鉄筋コンクリートetc.何でも食べる事が彼の実験で解っている。

人間や動物に関しては、生きていようが死んでいようがお構い無しに食べる様だ。

性格は従順で大人しい且つ標的(ターゲット)に対しては獰猛で凶暴。 法律に目敏い日本では、大層役立つ。

そして、何故か、アリゲータは鰐のクセにキャットフードを好む。

思い当たる理由は一つしかない。 それは、彼が初めてやった餌がキャットフードだったからだ。

 

いつのまにやら、アリゲータは2人目をを完食して、満足そうな顔で彼を見上げていた。

あれ、もう2人を食った? 気付かなかったんだが・・・・・・つーかお前、毎回思うがそんな小っせぇ体で何処に大人二人分入ってんだ?

お前は掌サイズだろうが?

 

アリゲータの体の構造がよく解らない。 と、彼は思う。

初めはあまり好きじゃなかったアリゲータも、飼い慣らしていく内に愛着が出てきたのか、今となっては、いい相棒だ。

彼は手を地面に付けた。 すると、アリゲータはトタトタと彼の手に乗って、腕を伝い、定位置となっている主人の肩にちょこんと乗る。

 

「さて、クライアントん所に行って、報酬貰って、キャットフードでも買いに行こうか」

「クルックー」

 

彼の言葉にアリゲータは彼の首筋に顔を擦り寄せ、肯定するかのように嬉しそうに鳴く。

いや、鰐って鳴いたっけ? オレの記憶じゃ、鰐は鳴かなかった筈だ。

しかも、それは鳩の鳴き声だ。 お前は鰐じゃなかったか?

アリゲータと過ごして3年。 未だにその生態が解らない。 と、彼は首を傾げた。

 

* * * *

 

彼はクライアントの所に報告に行き、報酬を貰って、帰宅した。

彼はとある事情から家を出て、日本で半一人暮しをしている。 だから、殺し屋として報酬を稼いだり、賞金首を捕まえて賞金を貰ったりで金稼ぎをしていた。

今日の報酬はいつもより良かった。 と、彼は思った。

 

今回のクライアントはいつもの常連で、毎回思った以上に報酬をくれるのだが、今回はいつも以上に報酬を弾んでくれた。

ヤクザは払いが良いから、その点では嫌いではない。 人情深い所もあって自分から見れば変人でしかないが、そこもなかなか気に入ってたりもする。

そんな事を思いながら彼はアリゲータをケースに仕舞うと、風呂に入って、寝た。

明日は学校か、面倒くさいな。

いっその事、世界から“学校”なるものが消えてしまえばいいのに。 と、言うか“明日”が来なければいいのにな、と、彼は眠たい意識の中で思う。

だが、どんなに願っても“明日”は必ず来る。 それは、既に午前一時を指す時計の針が“今日”はとっくに“昨日”になり、“明日”が来たのだと言う事を示していた。

 

* * * *

いつの間にか寝落ちしていた彼は、首元にくすぐったさを感じて意識を浮上させる。

閉じた瞼の裏に感じる光に彼は、朝が来たのだと憂鬱を感じる。

眠たい目を擦って薄く目を開けるが、そのぼやけた視界には何も映らない。

気の所為か、と彼はまた眠りに入る。 まだ起きなくても良い時間だ。

 

「ンッ・・・・・・」

 

眠りの闇に落ちようかと言う時に彼はまた、首元でモソモソと何かが蠢くのを感じた。

それは、首全体を這いずり回るかのように蠢いて、その気持ち悪さに彼は寝返りを打つ。 だがそれは、いつまでも纏わり付いてきた。

 

「ゃ・・・・・・擽ったい・・・・・・ってば!」

 

あまりの気持ち悪さに彼が飛び起きてみれば、彼の首が横たわっていたであろう場所にアリゲータが居て、アリゲータは主人である彼を黒豆のような円らな目で見上げている。 その目は、「早くエサを寄越せよ」と訴えかけていた。

毎回思うんだが、どうやってケースから出てきてんだ?

 

昨日は確かにケースに入れて寝た筈だ。

ケースは大きめの金魚の水槽を使っており、天上まではおよそ二十センチ、鰐が脱走しようができない筈である。

アリゲータの脱走は今一番の彼の悩みだ。

それはさておき、彼はアリゲータの好物、キャットフードを紙皿に盛ってアリゲータを机に乗せた。

漸くお待ち兼ねの朝食にアリゲータは待ってましたと言わんばかりに紙皿まで這っていき、キャットフードの山を裾から頬張っていく。

この姿のなんと可愛い事か。 凄く癒やされる。

そう思った所でふと、彼奴のことを思い出した。

それを言ったら彼奴に可哀相なモノを見る目で返されたっけな、と、彼はいつぞやの記憶を思い返す。

彼奴が居なくなって、相当な時間が過ぎたな。 あれからもう、6年が経った。 自分だけが成長し、ここに居るのだと思うと、とても複雑な心境になる。

そんな思いを払拭するように彼は、学校へ行く準備を始めた。

雲雀とマーモン、どっちが好き?

  • 雲雀
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