Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~   作:紅 奈々

10 / 27

京子が璃王に急接近!?
その目的とは―――!?


標的3

昼休みになり、璃王は言われた通りに屋上へ向かう。

ああいう大人しいタイプは、害が無さそうに見えて何してくるか解らない。かと言って、放置しても面倒臭そうだと思ったからだ。

屋上へ着いても、笹川京子は来ていなかった。

確か笹川京子と言えば、並中のマドンナだっけ?何か、そんな話を聞いた様な気がする。と璃王はぼんやりと流れる雲を数えながら、人気者は中々一人になれないんだろうな、とどうでも良い様な事を考えた。

そして、ふと思う。考えても意味ねぇな。オレに関係無いし。

そんな事を考えていると、屋上の鉄扉が開いて、笹川京子が金髪を風に靡かせて出てきた。

 

 

「うわぁ……風、強いね~!

あ、ごめん、お待たせ」

 

 

風に煽られるスカートを押さえながら、笹川京子は近付いてくる。

璃王はフェンスに凭れて、紙パックのミルクティーにストローを刺して、吸い上げた。蜂蜜入りの甘い味が口内に広がる。

 

 

「で、話って何だ。

こんのクッソ寒い中で水でもぶっ掛けるのか?それとも、卵か?」

 

 

璃王は京子を警戒しながら言う。

クラスメイトの呼び出しは大抵、ぶっ掛け大会。いつものパターンだ。

大方、保坂に手懐けられたんだろうな、こいつも。と璃王は考える。

まぁ、敵が増えようが、オレの知った事じゃないし。敵が一人増えよううが一クラス増えようがやることは同じだーーーと、そこまで考えた璃王の予想は大きく外れた。

 

 

「ねぇ、璃王君……私、見ちゃったの……」

 

 

いきなり京子は、俯いてポツリと呟いた。声色から、これから始まるのは、ぶっ掛け大会ではないことが窺える。

何を見たんだ……?突然、何を言い出すんだ、こいつは……?璃王はいきなりの突飛な京子の言葉に首を傾げながら、続きを待つ。

璃王の疑問を他所に、京子は続けた。

 

 

「理絵奈ちゃんが璃王君を脅してる所……」

 

 

京子の言葉に璃王は驚愕した。

京子の話はこうだ。

この前、京子は弁当を食べようと思い、一人で屋上へ行った。最近は何だか友達と一緒にお昼を食べる気になれなくて、色々と理由をつけて一人で食べていた、と。

 

その日も同じ様に理由を付けて断って一人で食べようと思って屋上への階段を上ると、そう厚さのない鉄扉の向こうから、保坂の声が聞こえた。

「あたしを振ったこと、土下座して謝りなさい」とか言ってたのも聞こえたし、璃王が「お前にそんな事する理由はねぇ」とか言ってたのも聞こえていたらしい。

 

っつーか、笹川、何で会話の一部を記録してんだ。オレ何か、次の日には忘れていたのに。と璃王はある意味感心していた。

諜報員にでもなれば良いのに、そこまで思ってしまった。

で、「あたしを振ったことで虐められて、後悔すると良いわ!」と言った後で、保坂の悲鳴が聞こえた、と。

ちなみに、鉄扉は半分開いていて、隙間からやり取りが見えていたらし い。だから、保坂の自傷シーンもばっちり見えていたと言う事で。

それで京子は璃王がハメられているのだと確信した、と言う事だった。

 

 

「ごめんなさい……。

初めから何かおかしいな、って思ってたの……。

でも、確証が持てなくて……。だから私、璃王君に何をする訳でもなく、傍観してて……。

それを親戚のお姉さんに言ったら、お姉さんが私を叱ってくれたの。

「傍観するのは卑怯者のする事よ。確証がなくても、そいつが悪くないと思ったら、そいつの味方になってやりな」って。それで気付いたの」

 

 

そこまで一気に喋って、京子は息を吐いた。

京子の言葉に璃王は内心、苦笑する。京子の言った言葉は、今、イタリアに居オレの相棒やそいつの姉兄が言いそうな言葉ととても酷似していたからだ。

 

 

「璃王君は悪くないって。

こんな事言っても信じてもらえないかも知れないけど、私、璃王君の味方だから!」

 

 

語尾を勢い付いた様に言うと、京子は璃王の背中に腕を回した。

璃王の胸の辺りまでしかない小ささに、彼奴だったら「可愛い」とか言いながら抱き付きそうだな、と思った。「オレの天使!」とか言いながら。

璃王はそんな考えを追いやって、京子の肩を拒絶するかの様に押した。

 

 

「オレに関わるな。お前が次に標的にされるぞ。

オレの事は放っておけ」

 

 

突き放す様な璃王の言葉。それは、自分の事に他人を巻き込みたくないと無意識に思っての事だった。

そんな言葉に京子は強く頭を振って璃王の手を握り、上目遣いで璃王の目を見る。

 

 

「私―――璃王君の事、本当はずっと前から……一年生の時から好きだったの!

だから……力になりたい……!」

 

 

京子の目は強い意思を抱いて、オレンジに煌めいていた。一点の曇りも翳りもなく、唯々純粋で綺麗なオレンジ色。

璃王はこんな目で他人と向き合える様なお人好しを一人だけ、知っていた。

そいつとよく似た目をしている。

何故か璃王はこの時、京子を巻き込まない様な言い訳を頭の中で考えていた。

ダメだ。相棒とよく似た目で見られたら、流されそうだ。

京子の目を直視する事が出来ずに璃王は京子から視線を外す。

 

 

「オレは恋愛なんか興味もないし誰かに傍に居て欲しいとも、味方になって欲しいとも思わない。

お前がどう言う訳でオレの味方になるとか、実際、オレにはどうでも良い」

 

 

京子の好意を突っ撥ねる、璃王。

人の好意や優しさは当てにならない。この学校で習った事だ。

好意の裏は殺し合いよりも血腥(ちなまぐさ)くて、優しさの裏は醜悪。他人の好意は信じるな、それはこの学校でやっていく為の教訓。

璃王はいつしかそんな事を頭に叩き込んでいた。

そうして常に他人を遠ざける事で、自分を保っていたのだ。

突き放す様な璃王の言葉に、京子は淡く微笑んだ。

 

 

「うん、璃王君はそう言うと思ってた。だから私、璃王君を信じるよ」

 

 

笹川の言う意味が解らない、と璃王は一人で困惑した。

振られる事を知っていて告白した?

普通の恋愛観なぞ持ち合わせていない璃王だが、大抵は振られると解っていたら告白しないんじゃないのか?おかしな奴だ。と璃王は思った。

そんな璃王に笹川は笑う。

 

 

「あ、好きなのは本当だよ?でも、何て言うか……理絵奈ちゃん、璃王君に告白されて、振ったら襲われたとか言ってたでしょ?

璃王君は何かいつも退屈そうにしてたし……どちらかと言うと理性的な感じだから、璃王君が理絵奈ちゃんみたいなビッチ……じゃなかった、ちょっとイタイ様な子を襲うなんて、想像が付かなかったんだ。

何故か皆は気が付いて無いし璃王君も無意識だろうけど、理絵奈ちゃんの近くに居る時の璃王君って物凄く不機嫌な顔をしてるんだよ?

「オレに近付いてんじゃねぇ、このクソビッチが!」って言いたげな顔をしてるのに、そんな相手を呼び出してまで痛めつけないでしょ、普通。

理絵奈ちゃんから近付いてくる動悸はあれど、璃王君から近付いていく理由はないわけだよ。だから、理絵奈ちゃんの自作自演じゃないかな?って思って」

 

 

つまり、笹川は自分の気持ちを利用してオレを試したワケか。清純そうな顔して、計算高い女だな。京子の言葉に璃王はそんな事を思った。

だが、何故かは解らないが京子に言われた「好き」は保坂から言われた「好き」と違い、悪くないと感じた。鬱陶しさを感じなかったのだ。

だからといってそれは勿論、付き合うとかそう言う感情ではなくて、強いて言うなら、家族や彼奴の家族に対して感じていた感情に近いモノだろうか。

璃王がそんな事を考えていると、京子が口を開いた。

 

 

「璃王君、あの・・・・・・私、璃王君に信じてもらえる様に頑張るから!

だから気が向いたらでも良いから、いつでも頼って来て!」

 

 

そんな事を言うと、京子は走って屋上を出た。

走り去っていく京子の背中を見送りながら、まったく、意味の解らない奴だ。と思う、璃王。

京子の姿が見えなくなると璃王はフェンスを越えて、屋上を飛び降りた。

飛び降りてから璃王は思い出す。ヤバい、そう言えば、腹と腰に衝撃与えちゃダメなんだっけ?

シャマルに五月蠅く言われていたことを忘れてた、と思いながら、まぁ、屋上くらいなら何とか着地できるだろうな。そもそも、今までだってシャマルの言う事を頭に留めはすれど守ったことは片手あれば十分数えられる程しか守ったことがなかったなと思いながら、璃王は無事、地面に着地した。

何時間か前よりも体が重い様な気がする。確か、効果が表れたらメタボになるんだっけ?

まったく、とんだ劇薬を飲まされたモンだぜ。

そんな事を思いながら璃王は重い体を引き摺る様に学校を出て、家に帰った。

 

雲雀とマーモン、どっちが好き?

  • 雲雀
  • マーモン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。