Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~ 作:紅 奈々
一先ず応接室に立ち寄って鞄を預けてくると璃王は教室へ向かった。
いつも通りに遅刻していったワケだから、教室の前に来れば教師が教科書の内容を熱心に説明している声が聞こえる。
そんな声を気にもせずに璃王はいつも通りに後ろの扉を開けた。次の瞬間、いきなり全身がびしょ濡れになる。
ガラン、と音を立ててバケツが足下に落ちてきたのを見ると、どうやら水を引っ被ったようだ。それも、かなり冷たいことから氷水だったか、氷が入っていたのか。どちらにせよ、冬場の行水にしては体に悪そうである。
いつもは前扉に仕掛けてあるのに・・・・・・ちっ、学習したか。璃王は凍える体を気にも留めずにそんな事を考えた。
だが、どんなに学習しようと、やることは餓鬼丸出しだ。つーか、今時の小学生ですらもこんな事はしねぇよな、と璃王は呆れる。
教室に入れば教師のいつも通りの説教が始まる。
つーか、バケツと水は無視ですか。このイジメとやらを容認ですか。璃王は話を聞かず、席に着く。
相変わらずの落書きに溜息しか出てこない。
「璃王君、おはよ・・・・・・大丈夫?」
ただ、いつもと違うのは、京子が声を掛けてきてくれたこと。よく見ると京子は隣の席だった様で、璃王に微笑んだ。
璃王は京子を一瞥すると、席に着く。
今日も良い天気だなぁ。屋上に行くと気持ちいいだろうなぁ。璃王は窓の外を眺めながら、そんな事を考えた。
後で恭の所に行って制服貰って屋上行こうか。机に突っ伏してそんな事を考える。
眠い。だが、今ここで寝ると大変な事になるのは目に見えている。
今はまだ、体を安静にしないといけないのに殴られでもしたら大事だ。
璃王はそんな事を考えながら、窓の外を見る。
そうだ、余計な事を考えよう。そしたら寝ない筈だ。
例えば、アリゲータの生態とか。彼奴は謎が多すぎるんだよな。
例えば、シャマッシーはふ●っしーに勝てるか、とか。戦闘力の面ではシャマッシーだろうな。病原菌を操れるし。あの技って絶対チートだろ。
自分も三百三十三対の病原菌に冒されてるとかマンボウみてぇだよな。マンボウはそれ以上らしいが。
人気の面ではふ●っしーだろうな。オレにはふ●っしーの良さが解んねぇが。あれ、梨に竹ひごを刺しただけだろ。
キチガイだし、うっせぇし、梨の妖精だっけ?あんなちんけな妖精が居てたまるか。妖精っつーのはもっとこう・・・・・・煌びやかで神秘的で何者にも侵せない神々しさのある美しい精霊のことだぞ?
例えば、そう、シルフとか、サラマンダーとかウンディーネとか、シェイド、ウィル・オー・ウィスプとかな。
まぁ、シェイドやウィルに至っては神々しさを通り越して畏怖すら感じるが・・・・・・そもそも、ウィルは光の精霊だから恐怖を感じたら終わりじゃないか?あれ、そう考えると、シェイドとウィル以外はそんなに怖さも神々しさですら感じなくなってる気がするが・・・・・・見慣れてしまった所為か?あれ?何だか話が脱線しているような・・・・・・?
まぁ、そんな下らない事を考えていたら当然、意識はゆっくりと落ちていったワケで、璃王はいつの間にか眠ってしまった。
意識が浮上したのは授業が終わった後だった。授業が終わって直ぐ、京子に起こされたのだ。
京子はと言うと、教師から呼び出しを食らったとかで璃王が起きて直ぐに教室を出て行った。
璃王は応接室に行こうと席を立ち、教室から出ようとする。それを阻むように山本が立ちはだかり、すんなりとは教室から出られそうになかった。
「何処に行こうとしてるのかな?」
教室の前扉には、沢田と山本が立ちはだかり、後ろ扉は獄寺が塞いでいる。璃王は山本と沢田を睨んだ。
「・・・・・・そこを・・・・・・退け・・・・・・」
未だに続く気持ち悪さに耐えながら、璃王は低い声で言う。
沢田に言った言葉が気に食わなかったらしい、獄寺が璃王に噛み付いた。
「てめぇ!十代目になんて口を利いてやがる!!」
そんな事を口走りながら獄寺は璃王の背中を蹴りつけた。
渾身の力で蹴られた璃王は呼吸が苦しくなる。それも構わず、獄寺は璃王の襟元を掴み上げた。
璃王の体が持ち上がって、床には爪先だけが付いている状態だ。
そんな中、璃王はチビの割には中々力だけはあるんだな、などどうでも良いことを考えていた。
「それにまた、保坂を虐めたらしいじゃねぇか!」
獄寺は力任せに璃王を扉に押し付ける。
力と迫力だけは認めるが、全く怖くねぇな、と璃王はこんな時に自分の主のことを思い出す。
主はキレるとガチで怖い。助けられたこっちが泣かされたことがあるくらいだ。それに比べれば獄寺なんかミジンコに毛が生えたようなモノだよな。
「理絵奈ちゃんの痛みを思い知れッ!」
璃王が獄寺の手を払いのけると、沢田の言葉を合図に沢田、獄寺、山本が殴りかかってくる。
璃王は腹と腰だけは衝撃を与えないようにそこを庇いながら避けたり、受け止めたりする。
沢田が殴りかかってきて、それを避ければ山本の蹴り、それを捌くと今度は、獄寺の足払いが来たから、それを璃王は難なく躱す。
璃王は右目に眼帯をしている為、右側が見えないから常に右に気を取られていて、その所為で左が常に疎かになっていた。そして、今は三対一と孤立無援状態の上に更に場合によっては他の生徒も手を出してくる。なので、正確には三十二対一だ。
今の璃王では三人ですら手に余る。そんな中で、獄寺は璃王がさっきから右にばかり意識を集中させていて左が疎かになっていることに気が付いた。
―――こいつ、もしかして?
獄寺は左に回って璃王に攻撃を仕掛けてきた。
マズイな……オレは今日は鈴那と……。そんな事を考えてしまった璃王は当然、一瞬の隙ができて、思いっきり獄寺に腹を蹴られ、床に腰を打ち付けた。
「しま……っ!かは……っ!!」
雲雀とマーモン、どっちが好き?
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雲雀
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マーモン