Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~   作:紅 奈々

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ここで、璃王の右目が明らかに――――!?


標的3

璃王の一瞬の隙を突いて、獄寺は思い切り璃王の腹に渾身の蹴りを入れた。

床に叩き付けられるように蹴られた璃王は腰を床に強く打ち付ける。

 

 

「しまっ……がはっ!」

 

 

床に腰を打ち付けた瞬間、璃王は身体中が熱を帯びた激痛に蝕まれた。

今まで呪いの進行を抑えていた「薬」が「毒」へと変わり、身体中を駆け巡ったのだ。

璃王はあまりの苦しさに吐血した。口に当てた手に真っ赤な血がベットリと付く。

苦しくて呻く璃王を全員が面白そうに嘲笑いながら見下ろす。まるで、サーカスで失敗を繰り返して座長に詰られるピエロを見ているかのような目。

璃王がこれまで幾度となく浴び続けていた、蔑みの目だ。

 

 

「おい、こいつ血ぃ吐いたぞ」

 

 

「弱ぇー」

 

 

璃王を虫けらの様に嗤う生徒達に璃王は弱い生き物め、と生徒達を侮蔑する。

え、「粋がりすぎだ」って?死にかけのクセに?何とでも言えよ。

ふと、相棒の言いそうな言葉が璃王の脳裏を過った。

ああ、これが走馬灯ってヤツか。そんな事を思っていた時だった。

誰かの一言で璃王の意識は現実に引き戻された。

 

 

「こいつ、いつも右目隠してるよな?!」

 

 

1人の男子が狂気の滲む明るい声で言った。

―まずい……!―

男子の言葉に、頭の中で警鐘が五月蝿い程鳴り響いた。

璃王は身の危険を感じて、碌に力の入りもしない身体に鞭を打って逃げようと立ち上がる。

とにかく、シャマルの所へ・・・・・・!

 

 

「おい、神谷が逃げるぞ!」

 

 

「押さえろ!」

 

 

逃げようとした璃王の行為は虚しく、1人の男子の言葉により璃王は直ぐに男子に捕まり、逃げられなくなった。

捕まれた腕から背負い投げされ、璃王は背中を床に打ち付ける。

 

 

「かは……っ!」

 

 

咳と共に口から血が吹き出す。

それに構わず、男子は璃王の上に馬乗りになる。

璃王は無い力で必死に抵抗をするがそれは虚しく、いとも簡単に璃王の両手は頭の上で縫い付けられた。

しかも、厳重に両腕に二人ずつそれぞれ、手首と二の腕を押さえられ、動けない。

明るい声が璃王の頭の上で聞こえる。

その声には狂気を感じて、璃王は背筋が凍るのを感じた。

 

 

「それでは~前髪を払いま~す」

 

 

その声と共に右目を隠している前髪が無造作に払われた。蒼い前髪の下にはその目を隠す眼帯が敷かれている。

その眼帯に手が伸ばされた。

璃王は眼帯を取られまいと腕に顔を埋める様に頭を捻った。それが今できる最低限の抵抗だ。

何があっても、右目だけは絶対に誰にも見せたくない――――!!

 

 

「けほっ・・・・・・やめろ・・・・・・っ!」

 

 

ゆっくりと璃王の眼帯に伸びてきていた手は途中で止まり、その代わりに舌打ちが聞こえた。

1人の男子が白々しく言う。

 

 

「ちっ、シラケるよな~」

 

 

「っつーか女かよ、お前?

男ならさ、潔くサービスの一つや二つしろっての!」

 

 

男子が口々に非難の声を上げる。

男でも非友好的な関係の人間にサービスなぞするか!璃王はそんな事を思った。

そもそも、こいつらには何のサービスもしてやる義理などない。たとえサービスをするのだとしても、璃王がこいつらにするサービスは死に方のリクエストを訊くくらいだ。

それ以外のサービスは有り得ない。

 

 

 

「つーかさ、もう、剥いじゃえよ」

 

 

山本が馬乗りになっている男子に言う。

依然として、警鐘は鳴り止まない。それどころか、さっきよりも五月蠅く甲高く鳴り響いているような気がする。

――早く振り払いなよ――

頭は言うが、体が硬直した様に動かない。

――こんな奴らくらい、片手で十分だろう?

意識の奥で()()()()()()()()が璃王に語りかける。

五月蠅い。お前は見てるだけの傍観者のクセに簡単に言うな!

 

 

「山本、ナイス~♪

じゃあ、せーので剥ぐからな~?

お前ら、ちゃんと見てろよな?」

 

 

今の現状が何処か遠くで起こっているような感覚が璃王を襲う。何故か、自分の危機に璃王は他人事の様に感じていた。

それでも口は動く様で、璃王は壊れた絡繰り人形の様に咳き込みながらも、同じ言葉を繰り返す。

 

 

「やめろ・・・・・・っ、けほっ、ゲホッ・・・・・・やだ、やめ・・・・・・っ!」

 

 

顔を無理矢理正面に向けられ、馬乗りになっている男子と目が合う。

オレだって、曲がりなりにも一応、女だ。初めて至近距離で目を合わせる相手くらい選びたかったし、馬鹿だと笑われるだろうが、想像もしていた。だが、それは目の前のこいつじゃない。

璃王はそんな事を思った。

璃王だって、夢を見ることはあった。今でも無駄だとは思いながらでも、夢を見ることがある。

「女は捨てた」と言いながら、根底にはまだ、しっかりと女としての意識はあったのだ。

それを無理矢理抑えることで、自分は男だと言い聞かせていた。

 

 

「では、右目とご対面~」

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっ!」

 

 

男子の言葉に璃王は絶叫とも言える声で叫んだ。それと同時に眼帯が乱暴に外され、璃王の右目が露になる。

教室を時間が止まったかの様な静寂が包み込んだ。

幾つもの視線が突き刺さる。

まるで・・・・・・化け物でも見るかの様な、そんな冷たい視線。

 

 

「み・・・・・・な・・・・・・っ、ゲホッ・・・・・・見る・・・・・・な・・・・・・っ!」

 

 

璃王は動きもしない固定された頭を振る。

一番、誰にも見られたくなかった目。見られれば、バケモノを見るかのような目を向けられることは解っていた。

だから、オレは・・・・・・っ!

 

 

「おい・・・・・・こいつの目・・・・・・」

 

 

静寂の中、やっと誰かが口を開いた。その声は異様なものを見た様な声をしていた。

その声を切っ掛けに、ざわめきが辺りに伝染する様に広がる。

それ程までに璃王の目は異常だった。

 

 

「何、あの目・・・・・・」

 

 

「気持ち悪い・・・・・・」

 

 

璃王の右目を見た反応。もう、聞き慣れた言葉が璃王の鼓膜に突き刺さる。

唯一、獄寺だけは何も言わずに、何かを考え込んでいる様に璃王をじっと凝視している。

口の中で何かを呟いているのか、たまに小さく唇が動いていた。

 

 

「おい・・・・・・こいつの目・・・・・・赤目」

 

 

「見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 

「璃王っ!」

 

 

璃王に覆い被さっている男子が面白そうに璃王を見下ろして、言う。それを遮る様に璃王は叫んだ。

璃王の叫びと共に、教室の扉が開いて、誰かが璃王の名前を呼ぶ声が聞こえた。

雲雀とマーモン、どっちが好き?

  • 雲雀
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