Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~ 作:紅 奈々
「あんた、ムカつくのよ」
何故にこうなった?璃王は陰鬱な表情を浮かべる。
目の前には保坂が仁王立ちしていた。
どうしてこうなったのか・・・・・・自分が訊きたい。
璃王は記憶を手繰り寄せる。
確か、応接室に向かっていた璃王は階段の踊り場で擦れ違った保坂に引き留められたのだ。
そして、現在に至る。
引き留められて初っ端、上の言葉を言われたのだ。
「何で恭弥は彼女であるあたしじゃなくて、アンタなんかを庇ったのよ?
あたしが虐められてるって言ったのに!」
そんなの知ったこっちゃぁねぇ・・・・・・完全に八つ当たりじゃねぇか、と保坂の言葉に璃王は内心、突っ込んだ。
お前の猿芝居に騙される程、恭は目は腐ってねぇよ。
そんな事を思いながら、璃王は溜息を吐く。
早く応接室に行きたいのだが。
そんな璃王の心境も知らず、保坂は尚も璃王に詰め寄る。
「しかも、さっき恭弥が言ってたリオンって誰よ!?
アンタに向かって言ってた様だけど、アンタは男だし・・・・・・恭弥ってば、あたしに隠れて浮気!?
それもアンタの所為ね!」
そんな関係無い事までオレの所為にするのかよ!?璃王は呆れた。
頭の悪い奴は何でもかんでも人の所為にする・・・・・・ってか?
保坂の妄想と言い、気持ち悪すぎて言葉が出ない。
「オレの所為?随分な言いがかりだな。
つーか、テメェはいつから恭のファーストネームを呼ぶ様になったんですか。
恭の名が
つい、そんな事を口走ってしまった、璃王。
保坂も目を点にして璃王を見ていた。
何があったかと言われても、璃王も説明のしようがない。璃王も自分が口走った言葉に驚いていたのだから。
ただ、保坂が雲雀の名前を馴れ馴れしく口にする事に何故か生理的な嘔吐級の嫌悪感を感じてしまい、その瞬間には先の台詞が自然的に口から零れていたのだ。
自分でも何故そんな事を思い、言ったのかは解らない。
自分で言った言葉に璃王は戸惑った。
「え・・・・・・な、何でアンタがそんな事を言うのよ・・・・・・?」
戸惑いと動揺を露わに保坂は璃王を見る。
少なからず璃王も動揺している事は保坂も解った様で、保坂は畳み掛ける様に言った。
「アンタ、男のクセに恭弥の事が好きなの・・・・・・?」
「え・・・・・・?」
驚きが引かない表情で保坂は璃王に訊く。
保坂の質問に璃王は今度こそ、動揺した。
好き・・・・・・?オレが、恭を・・・・・・?
いや、確かに嫌いではない。でも、好きかと訊かれると、それもちょっと違う気がする。
雲雀に対する感情の形容詞が思い付かない。
璃王は初めて、雲雀をどう思っているのかを考えた。
ただ、何となく連んでいたと思う。
何故か雲雀は自分の事を気に入ってくれてる様だが・・・・・・。
「あは、あははは!バッカじゃないの!?
男に好かれても恭弥が喜ぶわけないじゃない!
本当に気持ち悪いわ!
アンタなんか居なくなればいいのよ!!」
璃王が考え事をしていると、保坂は狂気さえも感じる様な笑い声を上げる。
気持ち悪い、と言う言葉に璃王は反応した。
保坂の言葉に傷付いたワケじゃない。
幼い頃に受けた虐めの記憶がフラッシュバックしたのだ。
別に、殴る・蹴るは日常的によくある事だったから、特に気にしてはいない。
だが、言葉となると、話は別だった。
「そう・・・・・・かよ・・・・・・」
喉の奥に引っ掛かっている言葉を無理矢理吐きだして、璃王は階段を上ってその場を離れた。
不思議とその時は保坂は何もしてこなかった。
それを不気味だと思いながらも、璃王はそんな事よりも自分の鞄をさっさと回収して学校を出たかったのだ。
応接室に行けば、一足先に雲雀がソファーに座って書類の整理をしていた。
こいつ、いつの間にここに居たんだよ・・・・・・と璃王が不思議に思っていると、いつまでも応接室に入ってこない璃王に雲雀は声を掛けた。
「入ってこないのかい?」
雲雀の声掛けに我に返った璃王は応接室に入って、ソファーの上に投げていた鞄を取り上げる。
その様子を見ていた雲雀が「帰るの?」と声を掛けてきたから、璃王は頷いた。
「あぁ、まぁな・・・・・・って、今朝よりも増えてないか?」
雲雀の手元を見てみれば、硝子製のテーブルの上には今朝よりも明らかに増えている書類が山を作っていた。
恭が書類を溜めているなんて珍しい・・・・・・と、璃王は不思議そうな目を雲雀に向ける。
そんな璃王の言いたい事が解ったのか、雲雀は苦笑を浮かべた。
「一昨日からの書類が溜まっててね。
どうも君が居ないと、やる気が起きないみたいだ」
何だそりゃ、と璃王は肩を落とす。
それだったら、自分が入学してくる前はどうしていたのか、と問いたくなる。
が、璃王はそれを訊いた所で無意味だと考えて、何も訊こうとしなかった。
「仕方ねぇな」
溜息を吐くと璃王は、雲雀の正面のソファーに座って、雲雀に手を差し出した。
差し出された手を雲雀は不思議そうに見て、首を傾げながら璃王の掌に手を重ねる。
すると、「違ぇよ」と手を払われた。
「約束まで時間があるから、手伝ってやるつってんだ。早く貸せ」
やっと璃王が差し出した手の意味を知ると雲雀は眉を顰めた。
「怪我人は早く帰って寝ときなよ。
君、絶対安静って保健医から言われてるでしょ」
「関係ないね。
今までで奴の言葉を守ったのは、片手があれば余裕で数えられるほどだ」
「威張れない」
雲雀の言葉に問答する璃王。
その璃王の言葉を聞くと雲雀は、溜息を吐いた。
「それに、傷が残ったらどうするの。
女子だったら、そう言うの気にしなよ」
「傷なんか気にして、ドーディチのボスが務まるか」
雲雀の言葉を撥ねると、璃王は雲雀から数枚の書類を引ったくって書類に目を通した。
その様子を見て雲雀は、やれやれ、と肩を竦める。
確か、沢田も次期ボスだっけ・・・・・・?たしか、アサリファミリー・・・・・・
「ボンゴレ、な」
雲雀の思考を無意識に読み取ってしまった璃王は、思わず雲雀にツッコミを入れてしまった。
殆ど無意識に口から出ていた為、璃王は後になって口を手で覆う。その顔は、しまった、と言いたげだ。
対する雲雀は「ワォ」と驚愕し、そこからフリーズしてしまっている。
璃王は無意識の内に人の思考が読み取れる能力を持っていた。
普段はそれを意識的に制御している為、今みたいに普段から他人の思考が解ってしまうワケじゃないが、たまに無意識に思考を読み取ってしまう時もある。
無意識とは言え、雲雀の思考を読み取ってしまった挙げ句、突っ込んでしまったのだ。
きっと、雲雀は気味悪がっている事だろう。
どうしよう・・・・・・と、璃王は焦って雲雀の顔を見る。
普段からあまり表情を変えない雲雀が明らかに動揺している様に見えた。
ああぁぁぁ・・・・・・これ、絶対引いてるよな?思っくそ引いてますね!?
未だに何も言わない雲雀に不安になった。
「君、何で僕の考えてる事が解ったの?エスパー?」
ズルッ―――。
心底不思議そうに純粋な顔でそんな事を訊いてくる雲雀に、璃王は内心、スベった。
その顔は、手品を初めて見た子供の様で、特に雲雀が璃王を気味悪がっている様子ではない。
その様子に璃王は呆気に取られた。
「え・・・・・・?
なんっ・・・・・・!?え・・・・・・?」
「どうしたの?」
予想外の反応に璃王は困惑して、言葉が出ない。
まさか、そんな反応をするとは思わなかったのだ。
対する雲雀は戸惑っている璃王に首を傾げている。
何故、璃王が戸惑っているのかが解らないのだ。
雲雀とマーモン、どっちが好き?
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雲雀
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マーモン