Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~ 作:紅 奈々
「いや、どうしたって……気味悪くねぇのかよ?
無意識とはいえ、お前の心読んで突っ込んだんだぞ?
普通は気味悪がってドン引きだろ?」
何故か必死になって説明している璃王は、何故自分でこんな事を必死に雲雀に説いているのだろう?と不思議になってくる。
そんな璃王に雲雀は真顔で言った。
「何で気味悪がる必要があるの?
たかが心を読まれたくらいで狼狽えるのは、弱者だよ。
……それに、僕は別にリオンに読まれるのは嫌じゃない」
「弱者だよ」の後の言葉は雲雀がかなりの小声で呟いた為、璃王に聞こえる事はなかった。
その璃王はというと、首を傾げてキョトン、と雲雀を見ているだけだった。
吸いこまれそうな深い蒼色の目と目が合って、雲雀は書類に視線を落とす。
最近、どうも目が可笑しくなった様で、リオンの背後に蒼い紫陽花が見える様になってしまった。
何でそんな現象が起きているのか解らない。
自分の目が可笑しくなったとしか、雲雀は思っていなかった。
雲雀がその理由を知るのは、随分後の事だった。
「おい、神谷!
テメェ、どういうつもりだ!!」
「ぐ・・・・・・っ!」
雲雀の手伝いも終わり、そろそろ良い時間だと応接室を出た璃王は、昇降口で待ち伏せしていた男子によって捕まり、絡まれていた。
怒鳴られ、襟首を掴まれて、下駄箱に身体を押し付けられると、背中に激痛が走った。
睨み上げてくる男子の目を璃王は無表情に見下ろす。
「理絵奈ちゃんを虐めるだけじゃ飽き足らないのか、お前は!」
「何の話だ・・・・・・」
男子の言葉にワケが解らず、璃王は男子生徒に問う。
男子は「しらばっくれんな!」と強い口調で璃王に怒鳴る。
男子の言わんとしている事が解らない。どうやら、今の発言から、今までの様な事をしたわけではない様だ。
そして、男子の口から思わぬ言葉が飛び出た。
「お前、理絵奈ちゃんを階段から殴り落として殺そうとしただろうが!」
「は・・・・・・?」
男子の口から発せられた言葉に璃王は素っ頓狂な声を上げる。
全くもって意味が解らない。
璃王は文字通り、ポカンと口を開けた。
「おいおいおい、流石にあんな奴殺してオレにメリットなんざねぇだろうが」
「言い訳は良いんだよ!!」
バシッ!と皮膚を強く
次の瞬間には、璃王の口の中に鉄の味が広がる。頬は殴られた事により、紅く腫れていた。
相当思い切り口の中を切った様で、口の中が痛む。
「お前、自分がしたこと解ってんのか!?」
「打ち所が悪かったら、理絵奈ちゃんは死んでたんだぞ!」
口々に浴びせられる言葉に、璃王は段々と状況を把握した。
どうやらあの後、保坂はわざわざ保健室に行って、包帯を貰い、仰々しく包帯を巻いて教室に戻っていたらしい。
それで、「璃王君に殴り飛ばされて、階段から落ちたの〜」とでも言ったのだろう、と、璃王は推測した。
飽きねぇな、と璃王が溜息を吐いていると、男子が近寄ってきて璃王の胸倉を掴み上げた。
「お前も同じ事をしてやろうか!!」
拳が振り上げられ、それが璃王の体に沈められる。
それを切っ掛けに男子による
衰弱している身体で抵抗などできる筈もなく、璃王はされるがまま状態になる。
嗚呼、もう……。
“人間性を捨てれば、楽になるだろう”
ふと、自分の中で飼っている“ケダモノ”がそう囁いた。
“あの時”と同じだ。
どうやらそのケダモノは、磨り減って脆くなった精神状態になった時にふと、囁く様だ。
それに敢えて名を付けるとするならそれは、「心の闇」と言うモノだろうか。
同じ血筋の人間からは迫害されて虐げられ、赤の他人からもこうして、貶められては虐げられる。
どちらにしろ、自分に敵意を向けてくるのであれば、もういっそ、全てを壊しても――――。
そこまで思考が行きかけていた時だった。
「何やってんだ、お前ら!!」
4人分の足音と怒声が、璃王の耳に飛び込んできた。
突然の事に、璃王は耳を疑う。
驚いたのは璃王だけでなく、璃王に暴力を振るっていた男子達も、呆気カランと怒声が飛んできた方を見た。
璃王もつられて、声のした方を見て見れば、そこには、沢田と山本、獄寺と今来たらしい、セラが居た。
「リオン!」
セラが璃王に向かって走り寄って、璃王を助け起こす。
「セラ・・・・・・」
セラに引っ張られるままに力の入らない足で立ち上がると、璃王はフラフラとふらつく。
セラは璃王を難なく支えた。
同じ体格の璃王だが、何だかセラには軽く感じられた。
「何があったのか、説明してくれるかな、皆?」
声を低くして沢田は、今まで璃王を隣地にしていた男子に訊く。
心なしか、男子は沢田に言いようのない恐怖を感じた。
それはきっと、自分たちを睨んでいるオレンジの目の所為だと思う。
「り・・・・・・理絵奈ちゃんが階段から殴り落とされたんだよ、神谷から!」
「十代目、これで決まりですね」
「うん」
男子の話を聞いた獄寺が沢田に耳打ちをする。
沢田はそれを聞いて、頷いた。
「な・・・・・・なんだよ?」と、男子の一人が困惑した様に沢田に訊く。
沢田は一呼吸置いて、言った。
「それは、保坂理絵奈の自作自演だよ・・・・・・リオンちゃんは何もしてない」
「気安く呼ぶな、下郎が」
沢田の言葉よりも、璃王は沢田が自分の名前を呼んだ事に嫌悪感を示す。
獄寺が「てめぇ、折角十代目が・・・・・・」と璃王に掴み掛かるのを沢田が制している間に、男子生徒達は困惑した。
沢田の言葉より、沢田の言った「リオン」と言う聞き慣れない言葉に首を傾げている。
男子の一人が言った。
「リオンちゃん・・・・・・って、誰の事だよ、ツナ?
そいつは、「神谷璃王」だろ?
しかも、ちゃんって、まるでそいつを女みたいに・・・・・・」
「みたい、じゃなくて、「女の子」なんだよ・・・・・・神谷璃王は」
「余計な事を・・・・・・言うな・・・・・・」
「お・・・・・・おい!」
男子の問いに沢田は男子を見据えて、答える。
沢田の返答を聞いていた璃王はその苦痛に歪んでいる顔を今度は不快に染め、吐き捨てた。
こんな奴らに自分の事を話したって、信じるわきゃぁねぇだろうが。
お前らはマフィアで、獄寺がたまたまドーディチの事を知っていたから、自分が女である事を信じる事ができたのだろうが、一般の生徒にそれを信じる術はない。
吐き捨てると璃王は、満身創痍のその体をセラから離し、フラフラと歩く。
それを見た獄寺が咎める様に声を上げた。
「テメェらには関係のない話だ・・・・・・。
大体、そんな事をそいつらに言った所でそれを信じる術はない・・・・・・説明も面倒だ。
テメェらには、「保坂理絵奈が神谷璃王に殺されそうになった」その情報だけで十分だろ。
どーせ、こっちの話はまともに聞きゃあしねぇよ・・・・・・。
解ったら、オレに構うな。放っておけ。
目障りだし、迷惑だ」
「それは、無理な相談だよ」
璃王の言葉に、その場に居る人間以外の声が聞こえた。
その突然の乱入者に沢田と獄寺、山本は目を瞠り、驚愕を露わにするのだった。
雲雀とマーモン、どっちが好き?
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雲雀
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マーモン