Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~   作:紅 奈々

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標的2

 「――と言うワケで、恭。 二ヵ月の間、ヴァリアーで監禁されることになったから、学校行けねぇわ」

 《ちょっと待って。色々と突っ込みどころ満載過ぎて、何から突っ込めばいいのか解らないんだけど》

 

 アジトの自室に案内された後、リオンは雲雀に電話をしていた。

 事の成り行きを話して暫く学校を休む旨を話せば、物騒なリオンの物言いに雲雀は呆れたような言葉を返してくる。

 

 「だから、さっき言った通りだ。

 下校時に突然、ヴァリアーのマーモンっつーフードの怪しい不審者に拉致られて、XANXUSっつー強面(こわもて)ジャッポネーゼヤクザ(ジャポヤーさん)に「二ヵ月にヴァリアーの入隊試験をするから、怪我が治るまで外出禁止」とかって監禁されるから学校行けねぇ、って」

 《その言い方はどうにかならないの?

 聞き方によっては本気でシャレにならない……って言うか、今すぐヴァリアーのアジトに乗り込んで君を拉致りに行くけど?》

 

 電話の向こうの雲雀は溜息を吐いた。 即座に璃王は「とんでもない!」というように首を振る。

 そんな事をされては、困るのは璃王の方だ。

 

 「それは困る。

 お前、ヴァリアーがどういう所か知ってるか? イタリアの大マフィア・ボンゴレファミリーが誇るイタリア最強の暗殺部隊だぞ? イタリアの死宣告者・殺し屋なら誰もが憧れ、畏怖し、その圧倒的な存在に(おのの)く最強マフィアだぞ? そんな暗殺部隊のボス自らが入隊試験で戦ってくれるって言うんだ、怪我増やしてる暇ない! ボスに力認められたら、俺は晴れてヴァリアーの一員だ! もう、学校とかどうでも良い! 俺は暗殺に生きる事にする!」

 《いや、良くないから、落ち着こう。

 君、日本は義務教育だし、僕の学校に居る限りは卒業まで絶対に転校も認めないよ》

 

 余程、ヴァリアーにスカウトされた事が嬉しいのか、声を聴いただけでリオンが嬉しそうなことが窺えた。 それにモヤモヤする、雲雀。

 

 ――何で猿山のボス猿の所に行くって言うだけでそんなに嬉しそうなのさ?

 

 《て言うか君、そんなに好戦的だったっけ?》

 

 ふと疑問に思った雲雀が、そんな事を訊いてきた。 リオンはきょとんとした顔で答える。

 

 「俺は元から結構好戦的な方だけど? ただ、一般ピープル相手にしたって面白くねぇんだよ」

 《でも君は、一般人だった僕の相手をしたじゃない》

 「あれは、恭が書類上で既にボンゴレの雲の守護者だって確定してたから相手したに過ぎない。

 恭がマフィアの世界に入ってこなかったら、スルーを決めてたつもりだ」

 

 つまり、雲雀が不本意とはいえボンゴレに入っていなかったら、リオンの視界に雲雀は入っていなかったことになる。

 その事実を知って、雲雀はガックリと肩を落とした。

 

 それもそうだ。 いつも気に掛けていた少女にそんな事を言われては、雲雀としては立つ瀬がない。

 

 「まぁ、ちゃんと理由は話したからな。

 間違っても、ヴァリアーのアジトに乗り込もうなんて思うなよ」

 《解ったよ、ただし、ちゃんと2か月後には登校してきなよ。 君がいないと、書類が片付かないからね》

 

 「はいはい、解かりましたヨ。 じゃあ、切るぞ」

 

 雲雀の返事も待たずに、リオンはケータイの電源を切った。

 

 今まで会話していた部屋に静寂が訪れる。 リオンは上半身を伸ばすと、そのままベッドに倒れた。

 

 通話していた時は気にならなかった静寂だが、突然無音になると何だか寂しく感じる。

 別に、雲雀には学校に行けば嫌でも顔合わせするし、たかが2か月会わなくなるだけだ。

 何ともないだろう。

 

 そもそも、「寂しい」とは何ぞや。 別に彼の事はどうとも思ってないし、むしろ、人間嫌いの癖に顔を合わせる度に絡んでくるばかりか、わざわざ呼び出して雑務を言い渡してくる彼に対して、面倒くさい感情は有れど、それ以上の感情は持ち合わせていない……筈。

 

 リオンは空気を換える為、窓に手を伸ばした。

 

―― ――

 

 あれから、1週間が経った。

 リオンは自室で食事を摂って、自室から出る事を禁じられた生活を送っている。

 

 「いつまで、箱入り娘みたく部屋で腐ってる生活をさせるんだ」

 「仕方ないわよ~、貴女の前の主治医の娘であるロランちゃんからドクターストップが掛かってるんだもの~」

 

 食器の中に入っているパスタをフォークでクルクルと弄りながら、憮然とした声で文句を言うリオンに、ルッスーリアがクネクネと身体をくねらせて言う。

 

 ヴァリアーに来てから検査を受ければ、肋が何本か折れて、左足も骨折、左腕にヒビが入っていた。

 更に呪いの毒素の所為で内臓も傷ついているという有り様で、璃王は緊急手術を受ける羽目に。

 手術後、ロランから言い渡されたのは、2ヶ月の絶対安静。

 部屋から出る事は勿論、トイレと風呂以外はベッドから出る事を禁じられた。 風呂も介助が必要な状態。

 

 その生活に耐えかねて、遂に肋と右足の骨折を呪幻術で無理矢理くっ付けて外に出たら、ロランとラルに大目玉を食らい、見張りまで付けられる始末だ。

 

 「だからって……肋と右足はくっ付けたし、左腕ももう治ってる。

 いつまでもこんな生活してたら、腐るぞ……脳が」

 「人間の脳はそう簡単には腐らないわよ! まったく、セシィちゃんみたいなことを言って!

 むしろリオンちゃんは、栄養失調と傷付いた身体を治さないといけないんだから、安静にしてなきゃ!」

 

 不貞腐れたようなリオンの言葉に、呆れたような口調で言うルッスーリア。

 

 (本当にこの子は、まさに“あの親にしてこの子あり”ね。

 先が思い遣られるわぁ……)

 

 ルッスーリアは肩を竦めて、小さく溜息を零した。

 

 「貴女、貧血も酷いらしいじゃないの」

 「そりゃ、あれだけ血ぃ吐けばそんな事にもなるだろうよ。

 それも、サプリがあれば――」

 「って、まさか鉄剤飲んでないの!? ダメじゃない、鉄剤飲みなさい鉄剤!

 ロランちゃんから貰ってるでしょ!」

 

 ルッスーリアの言葉に呆気からんと答えるリオンだったが、「サプリ」と聞いたルッスーリアに言葉を遮られる。

 そう、リオンは貧血でロランから鉄剤を処方されていた。

 ルッスーリアの言葉を聞いたリオンは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

 「あー……あれ? あんなクッソ不味いの、飲んでられるかよ……。

 飲んだ後の副作用も気持ち悪いし。

 あれ、人間が飲んで良いようなものじゃねぇだろ」

 「人間が飲んで良いものだから、薬として認められてるのよ!」

 「飲みたくねぇー。 食事も鉄分とカロリー中心なんだから、食事療法でいいじゃないか」

 「それで追いつけない程貧血が酷いんでしょ!」

 「レバー嫌い。 こんなものこんなものこんなもの」

 「ちょっ、レバーだけ器用に避けるのはやめなさい!」

 

 野菜レバー炒めに入っている細かく切られたレバーをフォークで空いている皿に移す、リオン。 ついでにニラも一緒に移す。

 ルッスーリアに止められるが、知るか。 嫌いなものは嫌いだ。

 

 と、その時。 「何の騒ぎだ」と、XANXUSがリオンの部屋に入ってきた。

 「ボス!」と、ルッスーリアとリオンの声が重なった。

 

 「この前より顔色はマシになったか?」

 「そう見えるなら、そうだろうな」

 「ふん、こっちきた時の死にそうな顔よりは大分マシだな」

 

 目を細めて笑うXANXUS。 そんなに酷い顔をしていたのだろうか、とリオンは首を傾げる。

 

 「で、何か用事でもあるのか?

 もしかして、今すぐ試験? 受ける受ける、超受ける」

 「落ち着け。 テメェの試験は3ヶ月後だといった筈だ」

 

 XANXUSの言葉にブスーと目を細める、リオン。

 

 試験の日が2ヶ月から3ヶ月に延びたのは、リオンの状態を改めて診たロランがXANXUSに報告した為だった。

 「余計な事をしやがって」とロランを睨んだら、“ロランフード”という名のダークマターを出されて逆に死ぬかと思った。

 ロランは、作るものすべてをダークマターに変えてしまう程の料理音痴である。 それも、「栄養食」と称して出してくるので手に負えない。

 

 「今日はテメェに良いモノを持ってきてやったんだ。 有難く受け取れ」

 「おわっ!?」

 

 言うや否や、XANXUSはリオンに何かを投げた。 それを慌てて受け取れば、それは両手に収まるほどの長方形の箱で。

 XANXUSの顔を見ると、彼は「開けてみろ」とその箱を顎でしゃくった。

 

 「!! これは……」

 

 その箱に入っていた物は、二つの丸い飾りのついたブレスレットだった。





@その他
・リオンの嫌いな食べ物:辛い物、苦い物、レバー、ニラ、玉ねぎ、ネギ。

・ロランフード:ロランが作るダークマター。 食うな、危険。
 味を度外視で栄養バランスのみしか考慮されていない為、メタクソマズイ。
 怪我や病気で医務室で療養する際、“入院食”と称して出されるジェノサイド飯。
 関連品に“ロランドリンク”なるモノもあるらしい。
 こちらも、例に漏れず味度外視のジェノサイド汁。 もう帰ってくれ……。

雲雀とマーモン、どっちが好き?

  • 雲雀
  • マーモン

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