Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~   作:紅 奈々

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第二楽章 Ferita―傷―
標的1


三時間目が終わったと同時に璃王は席を立って教室へ戻ろうとしていた。

理科室を出ようとした時にいきなり獄寺に蹴り飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。それでも容赦なく璃王は、そのまま獄寺に壁に押し付けられる。

背中に固い壁が容赦なく押し付けられ、璃王は小さく呻く。

 

 

「てめぇ、十代目の悪口言うなんざ上等じゃねぇか、あぁ!?

保坂を殴ったにも飽きたらず、今度は十代目をターゲットにしようってか!?」

 

 

「本当なの、理絵奈ちゃん!」

 

 

獄寺の言葉に沢田は驚愕し、後ろにいる保坂を振り返る。

問われた保坂は涙ながらに「本当なの~」とか言っている。

その声に璃王はイラッとくる。

 

 

「理絵奈さっき、璃王君に呼ばれてぇ~っ・・・・・・屋上行ったら、「消えろ雌豚」って殴られたのぉ~っグズッ」

 

 

璃王の目にはそれは「嘘見え見えの芝居」としか映っていない。

それもそうだろう、先程まで保健室で寝ていた璃王には十分なアリバイがあるのだ。保健室を抜け出すにしろ、シャマルの目に付く。仮にシャマルの目を盗んだ所で短時間で教室若しくは理科室に行って保健室に戻るなんてできる筈がない。

少し考えれば解りそうなことだが、璃王にアリバイがあることを知らない沢田達は保坂の演技にまんまと騙される。

そう璃王は保坂に陥れられ、クラスで虐めを受けていた。尤も、それは客観的な見方で、璃王から言わせれば「虐め?何それ美味しいの?」だそうで、璃王の目には「馬鹿やってんな」くらいにしか映っていなかった。

 

 

「オレはさっき、保健室行ってたんだ。そいつを殴れるワケねぇーだろ」

 

 

「嘘見え見えだな。彼奴は女しか保健室に入れねぇーんだよ」

 

 

璃王がアリバイを主張するも、それは獄寺に鼻で笑われてしまった。

主治医がシャマルの為、璃王は幼い頃から世話になっていた。

それは今でも変わらず、シャマルはこの世で唯一、璃王の体質にあった薬を作れる専門家(スペシャリスト)だ。

シャマルが璃王を受け入れ拒否していたら、今はもうこの世に存在していない。それは璃王が一番よく知っているが、それを獄寺達は知る由もない。

 

 

「うわ、嘘吐くとかサイテーなのな」

 

 

何も知らない獄寺や山本は璃王が嘘を吐いていると決め付ける。

実際、二人には璃王が嘘を吐いているとしか思えなかった。

山本は言うと共に璃王を思いっきり突き飛ばす。

途中で踏ん張れなくて璃王は窓に体をダイブさせ、その体を廊下の床に叩き付けた。

パリーンと硝子の割れる甲高い音が響くも、この時間帯は誰も理科室の前は通らない為、誰も来ない。

硝子の破片の中心には硝子が所々に突き刺さり、全身が血塗れの璃王の姿があった。

 

 

「っつっ・・・・・・」

 

 

璃王が起き上がると、細かい破片がバラバラと背中や頭から床へ落ちていく。

咄嗟に頭を守ったお陰で顔には傷があれど、頭は無事だった。

立ち上がって璃王は保健室・・・・・・ではなく、応接室へ向かう。

 

 

「おい、逃げるのか!?」

 

 

そんな獄寺の怒号が背中に投げられるが、璃王は知ったことか、と気にせずによたよたと応接室へ向かう。

弱い犬程よく吠える、とはよく言ったモノだ。

璃王が通った廊下には、璃王の血が点々とその後を残していた。

 

 

 

 

 

「君さ・・・・・・確かに僕は、「いつでも応接室に来て良いよ」とは言ったよ?

だけど、そんな満身創痍で来いと誰が言ったのさ?しかも何でそんなに制服がバリバリに破けてんの?

どんな着方したらそんな事になるのさ?」

 

 

璃王が応接室に入るなり、璃王の姿を見た雲雀が有り得ない!!と言いたげに声を上げた。

あれ、お前キャラ何処行った?と璃王は思うが、取り敢えずそれはスルーで。

まぁ普通、制服はバリバリに破けて、血塗れの生徒が来たらそうなるよな。

と、思って、璃王は思い直す。そもそも、普通はそんな生徒は来ないだろうが。

 

 

「制服破けてんだ、寄越せ」

 

 

璃王は雲雀に手を差し出す。

並中で雲雀に堂々とそんな事が言えるのは恐らく、璃王だけだろう。

もし、璃王以外の生徒がそんな事を言おうモノなら、即咬み殺される事は必至だ。

ふぅ、と溜息を吐いて雲雀は立ち上がると、「その前に訊きたいことがあるんだけど」と、璃王の手を引いて近くのソファーに押し付けた。

直接訊いてもいつものようにはぐらかされると思った雲雀は、璃王のシャツを剥いだ。すると、古傷の上から付けられたような無数のまだ新しい傷痕やさっき付いた血が滲み出ている傷口がそこかしこ白い肌を覆うように付いていた。

 

 

「君さ・・・・・・もう尋常じゃないよ、これ。

僕が君を咬み殺したなら解るけど。誰にやられたの?」

 

 

「さぁな」

 

 

「何で隠そうとするの」

 

 

雲雀の問いにしらばくれる璃王。そんな彼の目を見れば、綺麗な藍色の目が暗く沈んでいた。

元々、入学してきた時からその目には暗い過去を反映しているかのような感情を押し殺した様な沈んだ目をしていた。それが最近になって、また一層沈んでいるのだ。それも、疲弊感を漂わせて。

じっと見つめてくる黒曜石の目を璃王はじっと見つめ返す。

言葉がつっかえて出てこないのだ。

今の現状を話すことは出来る。だがそれは、自分が雲雀を頼るみたいで何か嫌だった。

それだと、あの日の自分と同じじゃないか。自分が弱かった所為で守るべき者も守れなかった非力な自分が嫌で、環境を変えたくてここまで来たのに。結局は何も変わらないのか。

 

 

「君がこの学校に来た時の事、覚えてるかい?」

 

 

いつまで経っても何も言わない璃王に雲雀は言葉を掛けた。

忘れるはずがない。あんな出会いなんか、この学校でないとある筈がない、と璃王は去年のことを思い出した。

雲雀とマーモン、どっちが好き?

  • 雲雀
  • マーモン
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