Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~   作:紅 奈々

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標的2

その時は唐突に訪れた。

その日の昼休み、璃王は保坂に呼び出されて屋上へ足を運んだ。

屋上の鉄扉を開ければ、物凄い勢いで風が璃王の蒼い腰辺りまでの髪を掠う。

屋上には既に保坂が来ていて、近付いてくる璃王の姿を見るなりいきなり質問してきた。

 

 

「ねぇ、あんた。嫌がらせされてるの知ってる?」

 

 

何だ、その話か。と、璃王は来るんじゃなかったと思いながら、踵を返した。

それについては話すことは何も無い。

「ちょっと待ってよ!」と、保坂が呼び止める。

璃王は「何だ」と溜息を零した。面倒くさい奴だな、おい。

「私の質問に答えなさいよ!」とか睨みながら喚いているが、全く怖くねぇ、と璃王は思いながら保坂を指指す。

 

 

「どーせ、お前の仕業だろ」

 

 

「あ・・・・・・アンタが悪いんだからね!あんたが私を振るから!」

 

 

まさか嫌がらせをしていたのが自分だと気付かれていたことに驚きながら、保坂はやけくそに言い募る。

そんな保坂の言葉に呆れながら璃王は言った。

 

 

「くっだらねぇー・・・・・・。振られたからってオレに当たるのは筋違いも良い所だ」

 

 

振られることを想定していないとかどれだけ自意識過剰ですか、と璃王は思った。

これだから、脳内快適系は困る。

そんな事を思っていたら、保坂がまた、何かを喚いた。

 

 

「ちょっと格好いいからって調子こいてんじゃないわよ!まぁ、いいわ!

あたしを振るなんて誰だろうが許さないんだから!」

 

 

 

ヒステリックに言うと、保坂は自分のシャツの襟元に手を掛け、シャツを破く。

何をする気だ、こいつ?と璃王が思う暇もなく、保坂はシャツから肩を出して、両腕を抱き締め、声を上げた。

 

 

 

「きゃぁぁあっ!

やだ、璃王く・・・・・・っ、やめてぇっ!!」

 

 

いやオレ、何もしてないんだが。こんな演技に誰が引っ掛かるだろうか。

叫ぶ保坂に璃王がそんな事を思っていると、扉が開く音が聞こえ、数人の足音が聞こえた。

暫くすると「理絵奈ちゃん!」と、沢田が一番に屋上に来た。

その後をゾロゾロと野次馬が集まる。

 

 

「ツナくぅんっ、助けてっ!」

 

 

駆け寄ってきた沢田の背中に隠れながら、保坂は泣きじゃくった。

「状況が理解できん」と璃王は頭が真っ白になる。

 

 

「何があったの、理絵奈ちゃん?」

 

 

「グズッ・・・・・・あたしね、璃王君に呼ばれたから、屋上に来たの・・・・・・っ!

そしたら・・・・・・そしたらね、告白されて・・・・・・っ!」

 

 

はぁ、ちょっと待て!?璃王は保坂の言葉を聞くと、驚いた。

告って来たのはお前で、それはもう何日も前じゃねぇか!?

そんな事を思っている間にも保坂の現状説明が続く。

 

 

「まだ・・・・・・璃王君の事、よく解んないし・・・・・・っ、友達から始めましょ、って・・・・・・言ったら・・・・・・っ・・・・・・

いきなり、襲おうとしてきたのぉ・・・・・・っ!」

 

 

でっち上げかよ!?こいつ、堂々と嘘吐きやがった!?そんな事を思って璃王は理解する。

それでオレを貶めるつもりか!!

保坂の言葉を聞いた沢田は徐に璃王へと視線を移した。

 

 

「ほ・・・・・・本当なの・・・・・・?神谷君?」

 

 

「告白してきてフラれたのは保坂。しかし、それは前の話だ。

そして今日、保坂に呼び出され「私を振るなんて誰だろうが許さない」とか言って自分のシャツを引き裂いて、その有り様だ。

オレはそいつに触れてもいない」

 

 

璃王に視線を向け、問うてくる沢田を見据え、璃王は真実を話した。すると今度は、保坂が懐疑心を孕んだ目に晒される。

まさかこうなることを想定していなかったようで、保坂はこの場を切り抜ける為の策を頭をフル回転させて考えた。

 

 

「嘘よ、あたしが嘘を吐くワケ・・・・・・っ、ないじゃない・・・・・・っヒグッ

皆は・・・・・・理絵奈を信じてくれる・・・・・・?」

 

 

一見、馬鹿みたいな行動だが、保坂が目に涙を浮かべて沢田達に問う。

いやいや、おもっくそ嘘吐いてンじゃねぇかこの野郎!と璃王が思っていた間に男子の一人が璃王を殴り飛ばした。

その後から、男子が一斉に璃王に襲いかかってくる。

 

 

「お前最低だな!」

 

 

「恥を知れよ!」

 

 

男子達の浴びせる罵詈雑言を璃王はただ、聞いていた。

何をしようにも何も思いつかないし、考えるのも面倒だ。

 

 

「「オレを信じろ」とは言わない。オレを信じるか信じねぇかはお前らの自由だ」

 

 

ただひとつ、璃王が言えることはこれだけだった。

それだけを言うと璃王は屋上を出て行った。

それから璃王の噂は直ぐ様学年中に広がり、保坂を信じる者とそれに関わらないように見て見ぬ振りをする者とで分かれた。

今では保坂を信じて璃王を痛めつける者の方が圧倒的に多くなっている。

 

 

 

 

璃王が目を覚ますと、雲雀がソファーに座っていて、その隣で草壁が頭に大きなたんこぶを付けて伸びていた。

ちょ・・・・・・オレが寝ている間に何があった?璃王は首を傾げる。

 

 

「やぁ、璃王。もう起きたのかい?」

 

 

何事も無かったかのように話し掛けてくる雲雀の機嫌は何処か良いようで、璃王に微笑みながら言った。

そんな雲雀から床に伸びている草壁に目を向けると、璃王は口を開く。

 

 

「何があったんだ・・・・・・?」

 

 

「璃王は気にしなくて良いよ。ただ、苛ついただけだから」

 

 

自分の手によってフルボッコにされた草壁に目も向けず、雲雀は足を組み替えて言った。

こんな委員長で大丈夫か、この委員会は?と思いながら、ご愁傷様、と草壁を哀れむような目で一瞥すると璃王は立ち上がってベストを着た。

その様子を見て、「もう行くのかい?」と雲雀が声を掛けてくる。そんな雲雀に璃王は頷いた。

 

 

「次の授業サボったら面倒くさい事になる」

 

 

心底嫌そうな顔を浮かべながら璃王は言った。

その言葉を聞いた雲雀は出て行こうとする璃王に「またいつでも来なよ、璃王」と呟く。

その呟きを拾った璃王は立ち止まった。

 

 

「リオン、だ。オレはリオン・V(ヴェルベーラ)・ヴァルフォア」

 

 

肩越しに振り返った璃王は雲雀に自分の本名を何故か教えた。

本名を名乗った時の璃王の顔が微笑んでいるように見えた。

その微笑みは淡く、幼さが残っていて、今までとのギャップがありすぎて雲雀は内心、悶えた。

そんな雲雀の心境も知らず、「じゃあな」と璃王は応接室を後にした。

雲雀とマーモン、どっちが好き?

  • 雲雀
  • マーモン
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