今の所没にしたSSの供養場   作:曇天紫苑

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◆展開飛び飛びプロット投稿カラテ◆ほぼセリフな◆慈悲はない◆


眠りについたナチュラルボーン百合リアルニンジャが目覚めてセイジを鍛えなおしたりバイセクターがカラテする予定だったもの

 私の眠れる日が来た。

 準備は完了、眠るには良い日だ。邪魔をする者も、割って入る者も居ない。私にとっては丁度良く、この様な場所を発見出来た幸運に感謝の念を覚えるばかりだ。

 見上げると、そこには岩が有る。左右も、足下もだ。そこに大きなフートンを敷くと、寝台に早変わりである。少々湿気が強いが、それほど気にならない。

 そろそろ眠ろうとフートンに入る。目を覚ますのは何時になるのか。我らが祖の目覚める日であれば、良いのだが。

 

「もう眠るのか」

 

 目を瞑った時、その気配は瞬時に近づいて私へと話しかけてきた。ユウジョウを感じて、私は身を起こす。そこに居たのは、背の高い女だった。その胸は少々羨ましい事に豊満だった。

 

「まあね。疲れたのさ」

「お前らしいな」

 

 彼女は肩を竦めながらも、こちらへと近づいてくる。私の寝床は見つかっていたらしい。

 私の真横へ座ると、彼女は後ろで縛った髪を軽く撫でて、胡座をかいた。

 

「お前とは、長い」

「確かにね。君には随分と酷い目に遭わせられた。研究者としての行動は良いが、私を巻き込まないで欲しかったよ」

「ハハ、そう言うな。お陰で研究が捗ったからな、それに、毎回しっかり対価は渡しただろう?」

「まあ、確かにな」

 

 何度も私を殺しかけたが、まるで悪びれない。そんな悪友の姿に、思わず笑みが漏れた。

 前のイクサの時も、私達はそんな風に殴り合っていた様な気がする。私は一瞬のカラテで、彼女はトビゲリで、相手を殺す気は有ったが、そこには確かなユウジョウが有ったのだ。彼女が私の居場所を見つけ出すのも、当然の事だと思えた。

 

「それで、わざわざ就寝直前の私を起こして、君は何をしに来た?」

「友の眠りを見届けに来た、と言ってはいけないのか?」

「駄目だな。君がそんな善良で優しい人かと言われると、違うだろうに」

 

 彼女は小さく肩を竦めて、その知性に溢れる目を伏せた。静かな物で、いつもイクサの中で見せた強烈な強さは、どこか儚くも見える。

 いや、これが彼女の素なのだろうか。ニンジャの中を駆け回った女狐にしては、妙にゼンを感じる。

 

「お前は私の知る中で一番恐ろしいニンジャだからな。本当に眠ったのかを確認しない限り、恐ろしくて近寄れん」

「人を我らが祖の様に言うなよ。私など非ニンジャとそう変わらんさ。しかし眠い」

 

 欠伸を一つ。すると、意外な物を見た様に彼女は目を見開き、クツクツと笑う。ジゴクの釜底すら溶けそうな悪女には見えない。

 

「全く馬鹿だな、本当に馬鹿だな。お前が非ニンジャ? 馬鹿を言うな、お前はオバケだ」

「む、言うに事欠いてオバケとは何事だ? アクマ・ニンジャならまだしも、私は単なるニンジャの一人だぞ。しかも、こんな美人に」

 

 まったく失礼だ。彼女はこれだから困るのだ。

 私はニンジャの中でもモータルに近く、心も若い。近頃の連中みたく思い上がったニンジャの様な何かとは違う。

 

「第一、オバケと言うならお前はどうなるんだ? ニンジャ六騎士の一人だろうが」

「その六騎士もお前には散々に手を焼かされた。あの時、世の中にはニンジャすら手に負えない怪物が居ると思ったよ」

「私だって、気を抜くとトビゲリを仕掛けてくる女は怖かったね」

 

 視線が僅かに交差する。視線のカラテが衝突し、殺気が混ざり合った。

 昔なら、ここでイクサを始めた所だ。しかし、今の私達はもう年齢相応に落ち着いている。先に笑い出したのは彼女の方だった。昔はもっと血の気の多い奴だったのだが。

 一頻り笑うと、彼女は楽しげな様子のまま、指を向けてくる。

 

「……お前が眠るとなると、いよいよ私も去らなければならないか」

「影響力が強すぎるからなぁ」

「そうだ、奴ら私が邪魔らしい。キョート城に秘めたアレの制御が出来るのは私だけだというのに。今回の研究が終われば、後は追放だろうな」

 

 嘆かわしそうな溜息を吐いて、彼女は忌々しげに虚空を見つめた。

 言いたい事は伝わってくる。他人事ではないのだ。

 

「気持ちは分かる。私もいい加減に面倒になったからね。祖の頃より衰え枯れ果てたニンジャ未満を見るのももう飽きた。今度は祖が目覚めた日か、あるいはニンジャの居ない世を走りたい物だよ」

「それは無いな」

 

 即座に言われてしまった。

 

「おや、何故?」

「お前がそんなに纏まった世で生きる筈が無い」

 

 きっぱりと言い切られ、唖然としてしまう。だが、すぐに笑いがこみ上げてきた。あの邪悪な女が、どこか不貞腐れた様に言ったのだ。これが面白くて仕方がない。

 声をあげて笑ってやった為か、また彼女の機嫌を損ねた様だ。だが、別に構わなかった。それで良い。別れはこれくらいで良いのだ。

 また、会えるのだろうか。ほんの僅かな不安は、口に出さない事にした。代わりに彼女の頬に触れ、思い切り気分良く別れるのだ。

 

「では、また会おう……ドラゴン・ニンジャ=サン」

 

 私の手を下ろすと、彼女は、ドラゴン・ニンジャは何も言わなかった。ただ、背を向けた。

 そのまま消えていくかと思ったが、彼女は一度足を止め、一言だけ呟いた。虫の羽音の様に小さな声だが、耳に届いた。

 

「ユウジョウだ、イタカ=サン」

 

 その言葉は、私にとっては嬉しい物だった。

 どれだけ長い付き合いだっただろう。その間に何度もイクサを繰り広げたが、最後には良い関係で居る事が出来た。

 共に旅をし、

 同じ物を見て、

 同じ物を作り、

 カラテをし、

 チャドーを教わり、

 私は私のカラテを教えた。

 今ではもう数の減った、最も古いニンジャの一人だ。当然の事ながら、私は彼女の事が大好きだった。数少ない女のニンジャで、一番の親友だ。

 

「ああ、また会いたいな」

 

 精一杯の想いを乗せると、ドラゴンが振り向こうとした。しかし、思い留まった。

 ドラゴンは決して振り向かずに手を振って、颯爽と駆けていく。まだ、外でやる事が有るのだろう。まだ眠る気も無いのだろう。

 相変わらず面白い女だ。

 彼女が知覚の範囲外に出た事を確認して、私はもう一度目を瞑る。

 これは、長い眠りになるだろう。この目を開けた時、世はどうなっているのだろうか。

 その時、ドラゴン・ニンジャ=サンが居たら、世の中を案内して貰おう。きっと彼女の事だから、色々な事を知っている。

 少し、楽しみに思った。

 

 

+

 

 一人のニンジャが立っていた。

 彼は赤黒の装束を身に纏い、静かに地下の迷宮を歩んでいる。そのメンポには「忍」「殺」の文字が。

 

 

 洞窟だ。彼にとっては良い修行場の一つである。

 

 赤の炎が

 

 カラテによって振動が響いた。

 

 

 崩れた壁の先に、何やらニンジャめいた文様が刻まれている。まるで封印だ。

 

「フーッ」「随分眠ったが、カラテは衰えていないな。いや良かった」

 

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

「ドーモ、イタカです」

 

+

 

 

「貴様、どこから現れた」

「私が聞きたいよ。何だ、人の安眠を邪魔しておいて」

 

「ニンジャ殺すべし!」

「やってみろ、モータル」

 

 よく分からないが、ニンジャを殺したいらしい。であれば私は抵抗するまでだ。

 

 

 

 

 炎が私を包む。

 

「ハハハ! ニンジャの屑め!」

 

 

 ジツを使うまでもない。

 

 どうも放っておけない。成る程ニンジャを殺すと嘯くだけあってカラテは鍛えられているが、まだまだ完全ではなかった。

 

「グワーッ!」

「……弱い!」

 

「全く酷いモータルだ、ニンジャに挑むのは良いが、もう少し奥ゆかしさという物をだな」

 

「こ、こんな事では……貴様ァー!」

 

「ええいっ、まったく面倒な子だな!」

 

「付いてこい! インストラクションを授けてやる!」

「貴様」

「強くなりたいのだろう、さっさと来い!」

 

 町並みは猥雑で、何が何の役目を果たしているのかも理解出来ない。

 

 

「案内せよ」

「……」

「私は、案内せよと言ったのだが?」

 

 自分でも横暴な気がしたが、そこはインストラクションと引き替えだ。

 

+

 

 

「何の為のカラテだ。戦う意味は何だ、理由は? 何でも良いんだ。ただ……見失うべきではない物を見失ってはならないぞ。カラテに溺れるなかれ、だ」

 

「目の前にニンジャが居るぞ。さあ、殺してみせろ!」

「イヤーッ!」セイジのボン・パンチ!

「イヤーッ!」しかし私はその腕にそっと手を添えて逸らす。炎が私の手を焼いたが、特に問題は無い。

「私一人殺せないで何がニンジャを殺す者か!」

 

「君が何になりたいか、それは重要だが……もっと大切なのは、何を目的とするか、だ。ニンジャを殺したいだけか?」

「……俺は、あの人に……」

「過去に興味は無い。お前を助けた誰かなど知らん。何の為にニンジャを殺すのかだけを答えろ」

「……ニンジャが、邪悪な存在だからだ!」

「そうか。しかし、今君の目の前でインストラクションを授け、カラテを鍛えてやり、話まで聞いている私もニンジャだが? さっき一緒にスシを食べたじゃないか、私は邪悪か?」

「……ニンジャである以上、殺す」

「もっと柔軟に考えるんだ。殺すべきでないと思ったなら殺さなければ良いじゃないか。それは誰の正義だ? お前の正義はお前の物だろうに」

「イヤーッ!」

「反論せずに殺すのは良いが」腕を掴んで足払いをかけ、彼はその場に倒れ込む。「殺せなければ情けないだけだな」

 

「フウーッ」「悪かったな、随分と痛めつけてしまった。ほら、手を貸してやる」

 

 やはり若い。頬を撫でて、笑いかけてやる。

 まだまだ若い。カラテも未熟だが、向上心は有る様だ。心は脆い所も有り、その奥に暗い感情を抱えてはいるものの、鍛えれば伸びる男に見える。

 

「何、まだニンジャになったばかりなんだろう? 何をするにせよ今の君には力が足りないのだから、私から技を盗む気でいれば良いじゃないか」

 

 

「私も、さっき起きたばかりだからね。お互いに知識を交換すれば、互いの得になる」

 

 

 

 

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「リアルニンジャ……カツ・ワンソー……か」

「……ニンジャソウルか、あいつの研究テーマだったな、そういえば」

「あいつとは?」

「友人だよ。胸が豊満な美人だ。あいつも死んだのかねえ」

 

 あの死にそうもない女が居ないのは、どうにも違和感が強かった。

 

「今の俺に力が足りないのは、分かりました……俺を、鍛えてください」

「勿論だ」「殺す気で鍛えてやるから、期待してくれ」

 

「ああ、それより、身体を洗える場所は無いか。寝起きは冷水を被るのが好きなんだ」

 

+

 

 

 

「ニンジャが……ボーを振り上げ……」

 

「うむ。いや……なんだか、見所があるぞ、こいつは」

 

 

+

 

 

 それはヤクザでもなく、天狗でもなく、またヤクザ天狗でもなかった。

 

「断罪の使者、ヤクザ大天狗参上!」

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

 おお! モータルであるヤクザ大天狗が、古代リアルニンジャのイタカとカラテを交えている。そして一歩も退かない。これは一体……!

 

 

 

 そう、彼はピストルカラテとテクノカラテ、そしてリアルニンジャの記憶していた様々な戦闘手法を組み合わせた総合カラテを拾得しているのだ。

 しかし、それだけでリアルニンジャと戦えるだろうか。答えは否だ。それだけではない。ヤクザ天狗が使っているサイバネ、答えはそこにある。

 

 なんと、そのサイバネには今は無きオムラ社の紋が焼き付けられている。

 

 ヤクザ天狗はオムラ社の残党と偶然出会う事に成功し、秘密裏で対ニンジャ・対オナタカミに使われる予定だった技術の結晶を一部提供されているのだ。

 モーターツヨシに使用された技術を、モータルでも運用できるレベルまで落とし込みつつ、十分な破壊力を生む物へ仕上げている。

 

「某社には真似できないオムラ社だけの技術です」というアナウンスがサイバネから流れた。これも宣伝だ。

 

 

 徹底的に強化され尽くしたヤクザ天狗はもはやただの天狗では収まらない。そう、ヤクザ大天狗なのだ。

 

「スッゾコラー!」ヤクザ大天狗の腕から矢の嵐が吹き荒れる!

「おい、それはやめろ!」

 

 イタカは全身からカラテを放出し、矢を全て叩き落とした。それは毒矢なのだ。

 ……ま、まさか! その腕に仕込まれた矢の毒はタケウチではないだろうか!?

 改善に改善を重ねられたそれに比べればニンジャを行動不能にする程度の代物でしかないが、このヤクザ大天狗にはそれで十分!

 

「ザッケンナコラー!」

「イヤーッ!」

 

+

 

「ふむ? ……ああ、そうか。ドーモ、ナラク・ニンジャ=サン。イタカです。久しいね、ナラク」

 

 

「う、ごっ……オヌシ、ナラクの何を知る!?」

「ああ、昔、彼とは何度かね」

 

「ヌゥー……黙れナ……ナラ……フジ……フジキド……黙っ……ておれフジキド! こやつは儂の獲物ぞ! 儂でしか殺せぬわ!」

 

「ドーモ、ナラク・ニンジャです……ニンジャ、殺すべし!」

 

 

「ははっ、変わらぬカラテだ! それでは進化し続けた私は捉えられん」

「貴様のジツが如何に優れていようとも、儂に同じ手は通じぬ!」

「ほう」

 

 

「そういう手で来る事は予想済みだな!」

 

「どうやら、結構に良い身体を使っていると見える。前の時は劣悪な身体のお陰で滅ぼせたが……流石にしぶとい年寄りだ」

「抜かせこわっぱ!」

「私だってこれでも君と同じくらいの歳なんだがなぁ。イチロー君? おっと」

 

「しかし、逆に抵抗が強い様だな。前の身体に比べて強い分、抵抗が強くて結果的には同じくらいか?」

 

 

「ンアーッ!」「これは少し……まずいか?」

 

「分かったよ、ナラク。その身体の持ち主に私の弟子が会いたがっているからな、何とか会わせてやりたがったが、加減は出来そうもないぞ」

 

 

「むっ? ……ナラクの支配から抜けたのか」

 

「やるな、君。名前は?」

「ニンジャスレイヤーだ」

「違う。人間としての名前を教えてくれ」

「……イチロー・モリタ」

「それも恐らくは違うだろう。私の第六感が言っている」

 

「フジキド・ケンジだ」

「フジキド=サンか! 良い男だ、昔の、まだ枯れる前のリアル・ニンジャ達を思い出すよ。あの頃は仙人めいて俗世と離れる者も多くてね……懐かしいな」

 

「覚えておくよ、フジキド=サン。ナラク、聞いているな? 本当に良い身体を得た物だ。力とはカラテやジツだけではない事をよく分かっている。前の使い捨てと同じにするなよ、大切にすると良い」

 

 

 そして、チャドーによるナラクの抑え込み。

 

「……待った、チャドーだと?」

 

 

「待て、君。ニンジャスレイヤーとか言ったな。君はチャドーが使えるのか」

 

「誰から教わった? いや、警戒しないでくれ。敵意は無いし、実の所私もチャドーは使える」

 

「スゥーッ! ハァーッ! ……と、まあこういう感じだ」

 

「聞きたいのは、それを教えたのはドラゴン・ニンジャクランの誰かという事だよ」

 

「やはりドラゴン・ニンジャ=サンが?」

 

「……そうか、彼女は生きているのだな」

 

「……良かった。そうか、生きてるんだな。本当に良かった」

 

 

 

「……ところでニンジャスレイヤーとか言ったな?」

「うむ」

「そうか。いや、お前に助けられた子供が居てな。ニンジャキラーと名乗って邪悪なニンジャを殺しているのだ。少し会ってやってくれないか」

 

「……いや、私にはその子供と会う理由がない」

「そして権利もない、か」

 

「分かった。だが一言くらい、残しておいてくれ。本当に君へのソンケイを感じている男なんだ」

「私に輝く物を見つける事は無い」

「それが、伝言か」

「そうだ」

 

 

 

 

+

 

 

「会ったぞ、ニンジャスレイヤー=サンに」

「何……彼が生きていてくれたのですか!?」

 

「何故連れてきてくれなかったのでグワーッ!」

「本人が会うべきではないと言ったのだ」

 

「それで、どうでしたか、本物は……」

「ああ、思わず感動したよ。あれほど凄まじい殺意と憎悪を制御して、その上で戦いを続けるとは恐れ入る。お前が言った通り、ある意味では荘厳な存在だったな」

 

「それは……」

「だが、本人は自分になど憧れてはならぬと言っていたよ」

 

「セイジ。私は君が好きだ」

「……!?」

 

「こう言えばオボコめいた男は一撃で落ちるとド……友人に教わったのだがな、違うか?」

 

「だが嘘は言っていない。私は君が好きだとも。お前が才能を持ったニンジャだからな」

 

「私は弟子を取った事など無い。これが初めてでな。お前は必死についてきたが、自分でも無茶をしたと思うよ」

 

「乗りかかった船だ。責任は取るが、セイジよ。だからこそ、ここからはお前の道なのだ」

 

「ニンジャスレイヤーは憎悪の殺戮者だ。その中に人間性を持ち、人としての尊さすら見えた。お前にはそれが無い。黄金の様な輝く心が無い」

 

「だが、だからと言ってニンジャに逃げる必要は無い。私に言わせればお前など力だけがニンジャの小僧だ」

 

「その上で教えてくれ。何故、ニンジャを殺すのだ?」

「……」

 

「俺は、ただ、ニンジャスレイヤー=サンの様になりたかったんだ。だが、センセイのインストラクションを受けた今、俺の戦う意味は変わった」

 

「ニンジャが過去の亡霊だというなら、今の俺達が何故亡霊に殺されなければならない? 俺は家族をニンジャに殺された!」

 

「ニンジャスレイヤー=サンは人間性を保っていたと言ったな」

「そうだ」

「ならば、私もそうするまで!」

 

「勘違いするなよ、真似ではない。私はセイジだ。ニンジャキラーだ。いずれ、自分なりの理由を見つける。それまでは、家族を殺された痛みを胸に、邪悪なニンジャとのイクサを続けるまで」

 

「言っておくが、ニンジャスレイヤー=サンのカラテはお前の遙か上を行くぞ。今のお前では勝てない」

「もとより勝てるとは思っていない」

 

 

「頑張れよ、セイジ」

「はい!」

「よし、オイランドロイドでも呼ぶか」

 

 

「なに?」

「何だ。セイジは知らないのか、オイランドロイドだよ。今の世は興味深いな。女まで製造される時とは、まさに世も末だ」

 

「いや、女は製造されていな……いや、当たらずとも遠からずか?」

 

「何をしている? 早く行ってみたいのだ。ニチョームとやら、面白そうでな」

「……センセイはいつもこうだ」

 

 

 

 

+

 

 

 

 

 

「ドーモ、ネザークイーンです……そっちは」

「ドーモ、セイジです」

「ドーモ、イタカです。ここがニチョームですか」

 

 

「見て回りましたが、人々の目の輝きはこちらの方がずっと上ですね。悪くない、悪くないですよ」

 

「センセイ、その言葉遣いは何ですか」

「何ですかセイジ。ひょっとして君は、私が乱暴な事しか言わない蛮族の勇者か何かと勘違いしているのではないでしょうね」

「いえ、すいません」

 

 

+

 

「ニチョームが攻め込まれている様だよ。セイジ、君はどう……ああ、聞くまでも無しか」

 

 セイジはもうそこに居なかった。自分のニンジャ装束を取り出し、既に走り去っていたからだ。

 

 

「うん?」

 

 学生、という奴だろうか。男女混合で入ってきていた。私はとっくに気づいていたが、イクサの近くであの様なモータルが遊んでいる姿は目に付くだろう。

 そこに、一人だけ、妙に気後れした風な少女が混ざっている。服装も無理をしている雰囲気が強く、周囲から随分と浮いていた。

 しかし、どこか寂しげなその目を見ていると、何故だろう、自分を見ている様な、そんな気がした。

 

+

 

 

「イヤーッ!」

 

 彼はWasshoi!の言葉と共にボン・パンチによるアンブッシュを仕掛け、バイセクターを後退せしめた。

 しかし、バイセクターの復帰が早い! 彼は僅かな動揺の後に巨大チャブ投擲を行っていた。

 「イヤーッ!」が、現れた男は即座に後方側転回避を行ってこれを紙一重で回避し、逆に片手の拳でチャブを殴りつけ、勢いを殺してチャブを奪い取った。

 

「貴様……その姿」

「ドーモ」

 

 バイセクターの言葉を彼は無視した。聞く耳など持たない。

 そして彼は、サツバツとした空気の中で挨拶をする。

 カラテを以て、その場に堂々と立っていた……!

 

「ニンジャキラーです」

 

 その目には、強い怒りが浮かんでいた。

 

 

 

 

+

 

 彼のニンジャ第六感が告げていた。相手は凄まじいカラテの持ち主と、妙なジツを使うオバケまがいのニンジャが一匹、イタミ持ちが一人だ。

 こちらは、傷ついた女ニンジャ一人に、厳しい状態のネザークイーンが一人。圧倒的不利。

 以前の自分なら戦略的撤退か、全てのニンジャを殺すと息まいていただろう。彼は口元を僅かに歪ませた。

 

 

「任せよ、二人とも休んでおれ」

「でも、アータだって」

 

 ネザークイーンは、不利を理解しているのだろう。当然だ、彼の恋したニンジャスレイヤーならまだしも、自分はただのマニアック。勝てるとは思えぬ。

 しかし、セイジは笑い飛ばした。センセイのインストラクションは実際確かだ。相手は強いが、戦わねばならない相手だ。

 

 

「ニンジャキラー!」「ニンジャキラーだと!?」「何者だ!?」「ニンジャスレイヤーではないのか!」というやりとりが有ったが、セイジは知らない。

 

 

「……何かと思えば、奴の発狂マニアックか」

 

「貴様、まさか彼にっ」

「その姿というだけで万死に値する!」

 

 バイセクターの機械めいた声に、確かな怒りが乗った!

 

「グワーッ!」「グワーッ!」もう一撃! 「グワーッ!」

 

「イヤーッ!」セイジのカラテが合間を縫った!「グワーッ!」

 

 

 それはWasshoi!の言葉も無く飛び込み、バイセクターを蹴り飛ばしながら後方側転を決め、セイジを救った。

 

「ドーモッ……サツバツナイトです」

 

 

 誰に分からなくとも、セイジが知らぬ筈は無い。この気高いまでの殺意、深い憎悪と漂うカラテ。間違いない、彼は……!

 

「私はサツバツナイトだ」

 

 その一言で、セイジは彼が何故変装をしているかの理由を察した。

 

「さ、サツバツナイト=サン……あなたは」

「……そこで寝ておれ。オヌシは実際限界であろう。私が後を繋げてやる」

「いいえ。まだ、やれます!」

 

 

「私はディスエイブラー=サンを、サツバツナイト=サンはバイセクター=サンを!」

「分かった」

 

 

 もう負ける気はしなかった。

 

+

 

 

 

 トイレの扉を放り捨てたのは、ヤモト=サンじゃなかった。

 

+

 

「はいはい、ストップ」

 

「誰も見ていないなら他人を傷つけても良いと? 見た所、どう見ても彼女は嫌がっているのに」

 

 薬物によってとろんと溶けた瞳だ。

 その少女はカワイイだったが、苦痛と、絶望に染まりかけていた。純朴そうな顔立ちで、きっと騙されて此処へ連れ込まれたのだろう。

 会話も幾らか聞いていたので、恐らく間違っていない。ただ遊んでいるだけなら無関係だが、目の前で馬鹿をやっている連中を懲らしめるくらいなら、私の領分だ。

 

「はいはい、イヤーッ!」

 

 とりあえず、男の方には気を失って貰った。殺しておくべきかと考えたが、後で少女が殺人を疑われるのはいかにもまずい。

 

「怖かったね、もう大丈夫だよ。薬が辛いなら、吐いてもいい。背中を撫でてあげる」

 

 極力優しい言葉遣いをしたつもりだ。

 

 かなり薬の影響が残っている様で、目に焦点が合っていない。このままでは会話も出来ないだろう。

 

 なぜか失望した様に私を見ている。

 

 

「ごめん、ヤモト=サンがどこにいるか分かる? 私じゃちょっと、年齢差がね」

「……ヤモト=サン?」

 

「い、いま、ヤモト=サンって、う……っ」

 

 

 吐き出された物を手で受け止めた。流石に床へ垂れ流す訳にはいくまい。

 

「ああ、まだ静かにしていないと。さあ、私が押さえておいてあげるから。トイレで、ね?」

 

 この子は私へどこか申し訳なさそうな視線を送ってくる。構わないのだ。

 

 それに、彼女の寂しげな目はどうしても放っておけない。嘔吐くらい気にするものか。

 

 手に付着した物をカラテで弾き飛ばし、薬で綺麗にしておく。水で洗い流せば後は残らない。

 

 

「言ってごらん。こんな目に遭ったんだ。誰かに悩みを全部話せば、きっと楽になるよ」

 

 

 

 

+

 

 その時、ディスエイブラーがバイセクターを突き飛ばした。

 

「アバーッ!」

 

 ゴウランガ! サツバツナイトの一撃がディスエイブラーの心臓を貫いた。致命傷だ。だが、構わずディスエイブラーは振り返り、バイセクターに何かを言おうとした。

 

「イヤーッ!」

 

 カイシャク! ディスエイブラーの胴体が二つに裂けた。「サヨナラ!」

 

 バイセクターは、いやヒュージシュリケンは、ディスエイブラーの言葉を聞き取る事は出来なかった。だが、何を言わんとしたかは、完全に理解できた。

 かつてのソウカイヤの生き残りがまた一人死んだ。だが、悲しむ事は無い。その思いもまた、シックスゲイツだった彼の血となり、力となる。

 ここで全てを解決させる。

 

「バイセクター=サン」

「ハイ、ラオモト=サン」

「プランBを発動した」

 

 小気味良い程の一言だ。

 

「お前は最早負け犬だ、負け犬は切り捨てる。お前の最後の任務は、そこにいるニンジャスレイヤー共を足止めし、ミサイルでニチョームもろとも消し去る事だ」

 

 その言葉と裏腹に、チバの声は決して冷酷ではない。暴君ではなく、賢君がそこにいる。ラオモト・カンの息子がそこにいる。

 

「僕を裏切ってまで仇を討ちたいか。お前の手で? お前がかつてシックスゲイツだったからか? ソウカイヤで生きた者達の無念を背負うか? それともアースクェイクの敵討ちか? だが、駄目だな。それは僕がやる事だ……僕だけが! やるべき事だ!!」

 

 ヒュージシュリケンは、無くなった筈の身体が震えた様に感じた。チバの身から溢れる強固な意志が、IRC越しですら響き渡った。

 もしも、ニンジャスレイヤーの前でなければ、ヒュージシュリケンはその場でドゲザし、チバの言葉を受け止めていただろう。

 

「僕は、ラオモト・カンではない。だが、僕は父から受け継いだ全てを守らねばならない。だから、あれは決して許してはいけない」

 

「だから、ヒュージシュリケン=サン。お前の全てを僕に預けろ。僕の手になれ。僕がニンジャスレイヤーを討つ。だが僕はニンジャではないからな、その為の腕になれ」

 

「足止めせよ。倒そうとは思うな……僕に討たせろ。これは、僕の戦いだ」

「ヨ」ヒュージシュリケンは幾つもの言葉でチバを称えようとした。だが、頭に浮かんだのは、一言だけだった。「ヨロコンデー!」

 

 ラオモト・チバはラオモト・カンとは違う。だが、それでも彼は帝王なのだ。父の全てを受け継ぐ資格を持ち、受け継いだ全てを懐に入れられる、それだけの器を持っているのだ。

 自分は何を考えていたのだろう。栄光あるシックスゲイツの最後の一人として全てを背負った気になっていたが、そんな自分すらもラオモト=サンは背負おうとしているのだ。

 涙は流れなかった。だが、心が叫んだ。

 

 バイセクターの、ヒュージシュリケンのカラテが速度と威力を増した。それまで乗っていた魔物の如き憎悪のカラテは、清廉さすら纏う忠義のカラテに変わっている。

 だがサツバツナイトも負けてはいない。憎悪のカラテは忠義の意志を踏み潰す様に精度を上げていく。

 

「イヤーッ!」

 

+

 

 

 モータルであるラオモト・チバは、その戦いの詳細を目撃出来なかった。だが、画面越しにでも伝わるバイセクターの意志は、そのカラテは、理解出来た。

 

「……」

 

 ディスエイブラーが破れ、バイセクターが一人で戦う事になった瞬間、チバは即座にプランBの発動を命令した。アガメムノンが言葉を挟む暇すら与えず、部下に疑問を与える時間すら作らなかった。

 チバは座り込み、グンバイを握った。その手は僅かに震えていた。恐怖だろうか、いや、違う。

 

「アガメムノン。お前から見て僕は弱いか。そうだろうな」

 

 

 

「だが、僕はそれでもこの組織の頂点だ。お前はただの補佐で、僕の言葉を止める事は出来るが、僕の決定をお前が決める事は許さん」

 

 そこには、わがままで傲慢な子供ではなく、怒り狂う帝王の姿が有った。

 アガメムノンは自分が飲まれている事を感じて、その笑顔を強めた。

 

「ご英断を指示します」

「そうやって駒が予想より使える物だったとほくそ笑んでいるが良い。お前にはそれが限界だろうさ」

 

 アガメムノンはまるで動じなかった。

 だが、動じない事こそ彼の弱点だ。チバは内面の激流を押さえつけた。

 

 

「ネヴァーモア」

「はいっ」

「目に焼き付けておけ。あれがお前の目指したシックスゲイツだ。ソウカイヤの、ヒュージシュリケンだ」

 

 

「そう、例え失敗したとしてもだ」

 

 ヒュージシュリケンを信じていた。

 だが、シックスゲイツ、ゲイトキーパー、そしてラオモト・カンを無惨に殺戮した存在に、まだ父に及ばぬ自分の手が届くかは、チバの中の冷静な部分が疑問を投げかけていた。

 

 

+

 

 

 

 

「セイジめ、立派になった事だ。これはもうそろそろ本格的にインストラクションを授けるべきか」

「え?」

 

「いや、何でもないよ。アサリ=サン」

 

 

 アサリ=サンは思ったよりも軽かった。そしてとても良い子だった。

 

 

 

「ほら、それより見えてきた」

 

 

 

 風のお陰か、それとも……のお陰か。アサリ=サンはかなり調子を取り戻していた。頭痛は残っているのか、頭は押さえていたが。

 

 それも、ヤモト=サンが見えるまでの事だ。

 今までの苦痛の全てが報われた、そんな笑顔をしていた。

 

「ヤモト=サン! ユウジョウ!」

「えっ……ユウジョウ!」

 

「うわっ……」

「あ、アサリ=サン!?」

 

「ご、ごめんなさい。さっき、変な薬を飲まされちゃって……頭が痛くて……」

 

「おい、私じゃないぞ。飲ませた馬鹿共には気を失って貰った」

 

「でも、会えて嬉しい」

「アタイもだよ。ずっと会いたかった……」

 

 お互いの存在を確認するかの様に、二人は深く深く抱き合った。

 

「アサリ=サン、ちょっと背が伸びた?」

「うん、ヤモト=サンは変わらないね……」

「そうだね、もう人間じゃないから、かな……」

「ヤモト=サンは、ヤモト=サンだよ」

 

「良かったな。二人とも」

 

 

 

「ヤモト=サン。君ならあのミサイルを弾き返す事が出来る。まるでホームランの様にね、ふふ、私もテレビを見て学習したんだ」

 

「でも、アタイにはそんな」

「シ・ニンジャなら出来た。彼女のサクラエンハンスはまさに圧倒的だった」

 

「君はシ・ニンジャじゃない。だが、シの力を持っている。私を信じられないのならシ・ニンジャを。彼女すら信じられぬなら君自身のカラテを、それすら無理なら……君の親友を信じるんだ。彼女を死なせて良いのか?」

「……イヤだ!」

「ならば君は出来るさ、やってみせろ! 私も手を貸す!」

 

 

 

+

 

 その場の全てがブッダに祈った。

 

 桜吹雪が舞い踊る。桜の塊の中には、三人の女が立っていた。ヤモト・コキだった。アサリがヤモトを抱き支え、そして、イタカが二人を守っていた。

 

 ニチョームの全てがサクラに包まれた。それは、尊いまでの美しい光を放っていた。

 

 ミサイルは光に弾かれ、遙か空中の更に先、ミサイルを搭載した戦闘機に衝突し、爆発した。タケウチは効果を発揮する事もなく、消えていった。

 

 己の全てのカラテを使いきり、ヤモトがふらりと倒れた。

 

 即座に古のニンジャピルを飲ませようとしたが、口を開ける気力すら無い様だ。

 

「アサリ=サン、これをヤモト=サンに飲ませてくれ。方法は問わない、口をこじ開けるなり、口移しをするなり、何でも良いから飲ませるんだ」

 

 

 タケウチが落ちる中で、ブッダに祈る感情すらカラテに注いでいたニンジャが二人、まだ戦いは続いている。

 

「イヤーッ!」

 

 ヒュージシュリケンは作戦が失敗した事など考えていなかった。ただ、目の前のニンジャスレイヤーを足止めする事だけを考えていた。

 成る程、確かにミサイルは落ちなかった。だが、チバならばニンジャスレイヤーの疲弊を見逃さない。必ずやアマクダリの精鋭を呼び出すだろう。自分が時間を稼げば稼ぐ程、ニンジャスレイヤーを追い詰めるのだ。

 

 ヒュージシュリケンのカラテは、彼が生きてきた中で最高峰の物へ到達していた。

 何故限界を超えて戦い続ける事が出来るのか。

 

 今の彼は一人ではないからだ。

 

 カラテは弱くとも堅実に働いたバンディットが、

 脚を失って尚力強かったビホルダーが、

 妙な性格だがワザマエは確かだったダイダロスが、

 少し気弱な所も有ったが自分を歓迎してくれたガーゴイルが、

 いけ好かなかったが最後まで忠義を尽くしたヘルカイトが、

 自分にシックスゲイツとしての生を授けたゲイトキーパーが、

 唯一無二の相棒であるアースクェイクが。

 そして、崇拝すべきラオモト・カンが。

 ソウカイヤを信じ、ソウカイヤという一つの家族として過ごした全ての者達が抱いた想いと願いが、今のヒュージシュリケンの両肩に乗っている。

 しかも、ラオモト・チバは更に重い物を、ソウカイヤの全てを背負っている。自分はその腕となっているのだ。サイバネが崩れたくらいで何だというのだろう。ニンジャソウルが焼け付く程度の苦痛など、最早軽い物だ。

 

 誰かが思わず口笛を吹いた。

 

 だが、サイバネの肉体は彼のカラテとセイシンテキについていけなかった。サツバツナイトの一撃を避ける度に、受け流す度に、ニンジャの戦いにも耐えうる頑強なサイバネが軋み、悲鳴をあげる。

 

 

 ついに彼の肉体が砕けた。それでも残骸は動き続ける。

 

「アース……アー……俺は、まだ……」

 

 ゆっくりと伸ばされた手が、サツバツナイトに近づいた。疲弊した彼は動けなかった。

 だが、今の彼は一人ではない。

 

「イヤーッ!」

 

 炎がサツバツナイトの前に壁を生み出した。

 気絶から立ち上がったセイジの炎がヒュージシュリケンを包み込み、消し去らんとする。

 仇敵を前にしたヒュージシュリケンは、自らの身が焼かれる事などまるで気にせず手を伸ばし続けた。

 

「イヤーッ!」

 

 だが、サツバツナイト、いやニンジャスレイヤーが炎を越えて一撃を加えた。

 だが!

 

「イ……ッ!」

 

 ヒュージシュリケンは最期の力を振り絞り、自分を貫く腕を掴まえた。爆発四散しない! 意志で押さえつけている!

 このままでは危険だ。サツバツナイトは腕を振り、ニンジャキラーはカトンで焼き滅ぼそうとした。だが抜けない! ヒュージシュリケンは力を緩めない!

 そう、炎もカラテも意味を持たない。彼は既に死んでいるのだ! ソウカイヤの総意が、彼の物だった肉体を動かしている!

 

「ラ……オモト……サン……バン……ッザイ!」

 

 自爆だ!

 ソウルの全てを潰され、サイバネはすり潰されている。だが、残った全てを爆発させた衝撃は、小さい物ではない。

 

「グワーッ!」

 

 如何にカラテが有ったとしても、掴まえられてしまえば避けられない。サツバツナイトは正面から爆発を受け、吹き飛んだ。

 

 このままでは叩きつけられ、致命傷となるだろう。

 

「イヤーッ!」

 

 しかし、寸前で間に合ったニンジャキラーが受け止めた。

 彼とて無事ではない。初めての強敵との戦いで疲弊した身に、爆風と衝撃は厳しい物となる。

 だが、喜びが勝っていた。セイジは、守ったのだ。

 

 メンポに刻まれた「殺」「伐」の文字が、「忍」「殺」に見えた。

 自分のメンポにも刻まれた文字だ。だが、格が違う。そこにある感情の深さが違う。重みが違う。全てが違う。

 ここに至って、セイジは自分の意志の軽さを思い知らされた。しかし、悔しくはなかった。

 

「サツバツナイト=サン……」

 

「……あの時、あなたが助けてくれなかったら、俺はとっくに死んでいた……今回は、あなたの助けになれたかな……」

 

 

 まるで父親か何かだ。セイジは、そんな感想を抱きながら意識を失った。

 

+

 

 

 

「……すまないが」

 

「彼らは今、感動を味わっている所なんだ。用事があるのはわかっているが、ここで止まっていて貰おうか」

 

 

 スパルタカスとイタカは向かい合った。

 

 

 誰も二人の一撃を見る事は出来なかった。ただ、結果として二人が腕から血を流している事だけが認識された。

 

「……素でこの速度を出せるニンジャに会うのは久しぶりだよ。いや、流石に古代ローマカラテだ。侮れない」

「こっちこそ、お前みてえなニンジャに会うのは初めてだ。何だぁ? その早さとカラテは、化け物か」

「古代ローマカラテの化け物には言われたくないね」

 

「お互い、ここは痛み分けでどうだい?」

「……そうさな。これ以上は完全にイクサだ。今のアマクダリにお前みたいな化け物を相手にする余裕は無いな。個人的に続けたいのは有るが」

「やり合うか?」

「……いや、お前のフーリンカザンだ。ここじゃ分が悪いなあ」

 

「では退け、私も弟子を連れてさっさと帰りたいんだ」

「ああ、だがまあ、とりあえず上の奴に話を通してやらないとな」

 

「構わん、僕が話す」

 

 

「……ふん、良いだろう」

「ほう、それは何故?」

「お前がどの様なニンジャかは見れば分かる。お前が僕の札を潰している間に、どうせニンジャスレイヤーは逃げ切ってしまうからな。無駄に消費する事も無い」

 

 それに、ヒュージシュリケンも望まない。口の中で、彼はそんな風に言った。

 あの小さな身に、どれほどの重さを背負っているのだろう。悪党ではあるが、重圧に耐えて戦う姿は本物だ。

 

 

「成る程、見た目以上に王様だ。いや、感心したよモータル。名前を聞いておこう」

「シツレイだ。貴様から名乗れ」

「失礼、イタカだ。この通り、ニンジャだよ」

「……僕はラオモト・チバだ」

「チバ君か。カワイイなモータルながら天晴れだね。頭撫でてあげようか。いや、昔はモータルの村で優しいお姉さんをやっていた時期も……」

「テメッコラー……」

 

 地鳴りの様な声だ。

 

「若にナメた口ききやがってコラー……スッゾコラー!」

「ネヴァーモア。どうせこいつは聞く耳を持たん」

 

 愚直な強さに溢れていた。あの様な狂犬が忠犬に早変わりするのだから、不思議にすら思う。

 

「よくお分かりで」

「分からなければこの立場には居ないさ、僕は」

 

 

「貴様はアマクダリ・セクトの。僕の敵だ。覚悟しておけ」

「そちらこそ、背負った物に潰されない様に成長する事だね」

「……ふん」

 

 

+

 

「それで? アサリ=サン、もういいの?」

「はい。ヤモト=サンにだって自分の生活がありますから」

 

「また会いたいと思ったら、いつでも私へ連絡を寄越してね。手を貸すから」

「ハイっ!」

「ん、良い返事だ」

 

「あ、あの」

「ん?」

「確か、イタカ=サンも、友達と離れたままなんですよね?」

「そうだね。うん、そう」

 

「だったら、あの、きっと、会えます! 私だってヤモト=サンと会えたんだから!」

 

「それで、その。お守りになれば良いと思って……ヤモト=サンと一緒に作ったオリガミを……」

「くれるの?」

 

「ありがとう、アサリ=サンに会えて良かった」

 

「ね、私もアサリ=サンと友達になっていい?」

「私もなりたいですっ」

「それは良かった。嬉しいよ、ユウジョウ!」

「ユウジョウ! えへへ……」

 

 

 

 

「それじゃあ、私はここなので」

「ああ、またね」

 

 

「会えるか。ふふ、アサリ=サンは本当に良い子だ」

 

「……センセイ」

「おう、セイジ。どうした」

 

「俺はまだ未熟ですね」

「今更か?」

 

+

 

「ドーモ、ドラゴン・ニンジャ=サン。イタカです」

「……ドーモ、イタカ=サン。私は……」

「ユウジョウ!」

 

 思い切って抱きついた。昔は出来なかった事だ。

 

 

 背中に手を回すと、ドラゴンは諦めた様に私の背中を叩いた。昔はこれでチャドーの一撃を受けたのだが、昔より温厚になったらしい。

 

「会いたかった。私以外はみんな死んだのかと思ったから」

 

「……すみません。私は」

「しかし、随分と変わったな。顔立ちが幼くなったし、雰囲気もかなり丸くなった様に思うのだが……その胸は変わらないか。ああ、君は間違いなくドラゴンだな」

 

 

 

 

「すみません、私は、ドラゴン・ニンジャではありません」

 

 

「記憶を、失ってしまったのです。今の私はドラゴンではなく、ユカノです」

「……何?」

 

「嘘ではなく?」

「はい」

「本当に?」

「……すみません。確かに、あなたはドラゴン・ニンジャにとっての友人でした。確かなユウジョウが有った事、覚えていますよ」

 

 気遣わしげだ。ドラゴン・ニンジャはそういう事を滅多に言わなかった。少なくとも私に対してそんな気遣いなどする女ではない。

 つまり、違うのだ。こんなにも姿形は似ているというのに、その心はまるで別人の。

 

「……今はユカノ、か。こんなにも似ているというのにな。寂しいが、確かにドラゴンは死んだらしい」

「イタカ=サン……」

「ああ、いいんだ。君のせいじゃない。どうせあいつが何か馬鹿をやって記憶を飛ばしたんだろうからな」

 

 後で泣くから気にするな、と告げると、ユカノは僅かに動揺し、それから笑った。

 

 

「彼は良いな。久しぶりに良いニンジャと出会った気がするよ」

 

+

 

 

 

 

「……そうか」「ああ、そうか」

 

 

「よし……よし」

 

 

 

 00010101罪010101011010101010罪罪届い0101101010101010101010101タノ1010101001000101罪罪罪010101010101罪罪罪0101011011000010101コモ010101001010101罪罪罪罪罪罪ニチョー罪罪罪罪罪罪罪罪罪罪罪罪罪010101シス010101罪罪罪システムに抑圧される場所へ!

 

 俺のレディオ! 届いてくれ! タノシイ・ストリートへ! テモダマ・ストリートへ! コモチャン・ストリートへ! ニチョームへ! オオヌギへ!

 

 システムに抑圧される場所へ!

 

 

 

 その放送は罪のノイズに乗せられ、あらゆる場所へ届いた。

 

 レディオの彼が言った様に、システムに抑圧される。そしてシステムで抑圧しようとする全ての場所に届いた。

 

 ネオサイタマの邸宅、ラオモト・チバの元に。カスミガセキ・ジグラットの内部へ、ハナミ中のアガメムノンへ。IRCもサイバネも存在しない場所へ。

 ザイバツ残党の潜むキョート城、そして、コトダマ空間の黄金立方体にまで……

 

 カチグミもマケグミもモータルもニンジャも区別なく、その放送は魂から直接流れ出した。

 

 ただ一人、ニチョームにいたシルバーキーだけが顔を上げ、キョジツテンカンホーにも似たコトダマ空間の動きに目を見開いた。

 

 アルゴスが激しく行動を乱されていた。その放送は、その放送を届けたノイズは月を遙かに越えた先まで突き破っていた。磁気嵐すら撃ち抜くノイズは、やがて地球圏の全てに放送を響かせた。

 既に廃棄された攻撃衛星がレディオを流した。

 

 

 大量の血で前が見えないが、それはどうでも良かった。ただ、一人の青年が放った魂の叫びが、この世界全てに行き渡った。その事実が最高の満足だった。

 鼻血を拭った。




没理由

書けない……


書いていた時期はネヴァーダイズ入る前です。
自画自賛しておくと、チバ=サンの成長に歓喜して忠義カラテ者になるバイセクターのくだりは今も気に入っていたり
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