繰り返しになるが、霧と人類の作戦には『ハシラジマ』が必要不可欠だ。
他に艦船クラスの物体を
あの「空の御柱」だけが、世界の希望なのだ。
だからそれを折られると言うことは、まさに希望をへし折られると言うことに他ならなかった。
「おいおい、それってやべえんじゃねえのか!?」
「それ以前に、『ハシラジマ』に向かっている我々も危険です」
イ404――今は『紀伊』だが――の発令所も、俄かにザワめいていた。
何しろ、彼女達は今まさに『ハシラジマ』に向かっているのである。
と言うか、もう
つまり、空から降下してくる黒い触腕に飛び込んでいく形だ。
有体に言えば、危険地帯に自ら向かっている。
どんな自殺志願者だ、と言う話だ。
であれば回避に全力をかければ良いと言う意見もあろうが、問題は、逃げる先が無いと言うことだった。
彼女達はすでに戦場の奥深くにまで入り込んでおり、今さら逃げ場など存在しなかったのだ。
退くも地獄、そして進も地獄だ。
「どうするんだい!?」
判断は、もちろん艦長であり提督である紀沙がしなければならない。
まぁ、しかしそうは言っても、対応は不可能では無かった。
確かに触腕を消滅させることは難しいが、要は『ハシラジマ』からズラせば良いのだ。
『紀伊』の超重力砲であれば、そのくらいならば、理屈の上は可能だ。
それだけの威力が、『紀伊』の超重力砲にはある。
「ただ、足は止めざるを得ないね」
問題があった。
今スミノが言ったように、停止しなければならないと言うことだ。
ただでさえ超重力砲の砲撃は演算が難しい、霧の大戦艦も多くは航行しながら超重力砲は撃たない。
重力子を扱うため、移動しながらの砲撃が危険過ぎるせいだ。
そしてこの混戦の中で停止することは、極めて危険な状況に『紀伊』を置くことになる。
(……狙いは、私達の足止め……!?)
だがこの状況は、紀沙達の足を止めるには十分なシチュエーションだ。
どうするか、と、紀沙が判断しようとした、その時だった。
『――――そのまま進め、イ404!』
何だ、と思う前に。
太平洋の戦場の端で、天を引き裂く光の柱が立ち昇った。
逆十字の形をしたそれを、紀沙は見たことがあった。
◆ ◆ ◆
コアを自閉モードにして霧からも姿を隠して、そのまま沈んでいるつもりだった。
ところが、今回の騒動である。
自分自身だけならばともかく、彼女にとって海底は、2人の
それは彼女にとっては、不可侵の聖域。
聖域に手を出す者を、
「さっさと行って、あの醜いケダモノを消して来い」
虹色の光がくすむ銀糸の髪、血の色の瞳に白磁の肌、黒いレースのゴシック・ドレス。
2年以上ぶりに形成しただろうそのメンタルモデルは、かつてと寸分狂わず美しい。
しかし今は表情に怒りの色が見えて、それを表すかのように、やはり久しぶりに形成した艦体からは白銀の輝きが溢れていた。
それは光の逆十字となって、天を引き裂いていく。
「私達の墓標に、あんなものは要らない」
彼女はかつて、リエル=『クイーン・エリザベス』と呼ばれた霧の大戦艦だ。
その彼女が、振り上げた右手を振り下ろした。
すると、天を割いていた光の逆十字が、まるで処刑人が振り下ろす斧のように動いた。
天から振り下ろされた断罪の斧が、『ハシラジマ』を狙う黒い触腕を直撃する。
「……ッ」
流石に。
流石に重く、リエル=『クイーン・エリザベス』の腕が途中で止まった。
切り落とすつもりで放った超重力砲の一撃だが、触腕の肉は思ったよりも分厚く、そしてただの肉では無いようだった。
ならば、と、リエル=『クイーン・エリザベス』も紀沙と同じ判断をする。
止まった手を水平に寝かせて、撫でるように横へと動かす。
すると超重力砲の光が
まるで、外科手術か何かのようだった。
それによって、僅かに触腕の降下速度が遅くなった。
「これは……?」
「熱源、多数接近」
気付いたのは、海域強襲制圧艦の『シドニー』と『メルボルン』の2隻だった。
リエル=『クイーン・エリザベス』の光で降下速度が落ちたところへ、さらに多数の何かが近づいてきていたのだ。
それも空に、それも多数が。
そしてそれらは、雲間を引き裂きながら飛来した。
「……戦闘機!?」
リエル=『クイーン・エリザベス』のさらに後方から飛来したそれは、星条旗の描かれた戦闘機群。
アメリカの航空隊だった。
◆ ◆ ◆
太陽の光が水平線の向こうからやって来る。
アメリカの戦闘機の編隊が現れたのは、そんな時間帯だった。
もちろん、大陸からここまで自力で飛んできたわけでは無い。
「まったく、まさか人類の航空機を飛ばすことになるとは」
『フューリアス』を始めとする、<緋色の艦隊>所属の海域強襲制圧艦だった。
いや、今では空母の名を取り戻すべきかもしれない。
彼女達は、<大海戦>以後20年を経て、自分達の本来の役割に戻ったのだ。
連れてきたのは、アメリカ西海岸基地に所属するアメリカの空母艦載機だ。
翔像がエリザベス大統領と直接折衝して、戦力を派遣してもらったのである。
アメリカとしては、自国防衛に全ての戦力を割きたいところだったろう。
だが翔像はそれでは問題の根本的な解決にならないと説き、エリザベス大統領はそれを受け入れた。
懸命な判断だと、『フューリアス』は思った。
人間にもなかなか合理的な判断が出来る者がいると、見直したぐらいである。
「全機発艦を確認。さぁ、我々も突っ込むぞ。『ハシラジマ』防衛艦隊を援護する」
『フューリアス』の航空甲板から、最後の戦闘機が飛び立った。
格納庫に満載した航空機が消えて、艦体が随分と軽くなったように感じる。
甲板の上には、手旗を持ったちび『フューリアス』達がわらわらと駆け回っていた。
後は、『ハシラジマ』艦隊を援護しつつ、攻撃を終えた艦載機を迎えに行くだけだ。
「さぁ、人間にばかり良い顔をさせておくことは無いぞ!」
『ハシラジマ』へ向かいながら、『フューリアス』達の甲板に新たな艦載機が上がってきた。
エレベータで上がってくるそれはアメリカの戦闘機では無く、<大海戦>時代、『フューリアス』達が運用していた
いくら
「まさか続きだ。
それは霧にとっても、もちろん人類にとっても意外な作戦だった。
霧と人類の航空機が共に飛んだのは、それこそ<大海戦>以来だ。
ただし前回は、敵同士だった。
今は味方として、人類と霧は同じ空を飛ぶ。
世界を守ると言う共通の利益のために、かつての恩讐を越えて。
◆ ◆ ◆
『レッド1、
アメリカが開発した戦闘機搭載型の巡航ミサイル――振動弾頭を備えた――の、最初の一発目だ。
霧やそれに類する相手に対して使うのは、これが初めてだ。
エリザベス大統領を始め、緊張を孕んだ表情でモニターを睨んでいる。
触腕を表す黒い塊に、ミサイルを表す爪楊枝のような小さな点が進んでいく。
編隊の先頭の戦闘機が放ったそれが、対空兵装に晒されること無く突き進む。
あと1000…800…500…そして。
『め……命中! 命中!』
わっ、と、その場が沸いた。
立ち上がる者までいて、それだけ興奮の度合いが高かったのだ。
霧との遭遇以来、初めて人類がまともに攻撃を成功させたのである。
興奮するのも、仕方が無かった。
『攻撃! 全機攻撃せよ!』
管制官の声も、どこか興奮していた。
それを皮切りに、総攻撃が始まった。
3隻の海域強襲制圧艦に分乗した約70機の米軍機が、黒い触腕に次々にミサイルを浴びせかける。
そこに、霧の艦載機も加わってきた。
「いいぞ……いいぞ!」
誰かの声が聞こえた。
今はそれを咎める者もいない。
霧との共同戦線に、違和感を感じない程に。
(これで、良い……きっと)
エリザベス大統領は、そう思った。
国民やメディアが今回の自分の判断をどのように判断するのかは、わからない。
それでも、どんなに批判を浴びようとも、エリザベス大統領は今回の判断が正しかったのだと信じられる。
人と霧が共に戦っていると言うその事実だけで、大きな成果なのだから。
きっと、千早翔像も同じ考えなのだろう。
彼もまた、今回の戦いを人と霧の歴史の1ページとするつもりなのだ。
ただし彼は自分と違って、最前線にいる。
そこは役割の違いとわかってはいるが、エリザベス大統領にとってはもどかしいところだった。
「ん……?」
そんなことを考えていた時だ。
エリザベス大統領は、ふと違和感を覚えた。
もちろん人と霧の混合編隊に、では無い。
戦略モニターが映す黒い触腕の高度、その数値が……。
◆ ◆ ◆
思ったよりも降下速度が落ちない。
リエル=『クイーン・エリザベス』はその事実に眉を顰めた。
彼女自身は今も超重力砲を放って触腕を支えているが、それも長続きはしない。
支えている間に、航空隊のミサイル攻撃で少しずつ位置をズラしていたのだ。
だが位置がズレていく速度よりも、触腕の降下速度の方が速い。
要するに、『ハシラジマ』から触腕の降下範囲をズラすのが間に合わないのだ。
それは、リエル=『クイーン・エリザベス』としては面白くない。
と、その時、霧の通信ネットワークから指示が飛んできた。
『航空隊。残弾一斉射の後、現空域から一時離脱せよ』
「『コンゴウ』か」
『ハシラジマ』の『コンゴウ』だった。
空中で、航空隊が次々に巡航ミサイルを発射している。
霧の航空隊は、念のためミサイルを撃ち尽くした人類の航空機を護衛している。
『そして、旗艦クラスの大戦艦は超重力砲の発射シークエンスに以降せよ』
「……! 陣形を崩すのか?」
『照準データはこちらから送る、急げ!』
狙いはわかる。
要は『リシュリュー』や『ラミリーズ』を始めとする複数隻――それも、大戦艦クラス以上の――の超重力砲で、
だがそのためには、旗艦クラスの大戦艦達が超重力砲に集中する必要がある。
その間に、海上の
『大丈夫だ、その間は我々が支えよう』
む、と、リエル=『クイーン・エリザベス』は自分の脇を抜けていく艦隊に気付いた。
一個艦隊、数はそう多くは無いが、その艦体は皆紅かった。
彼女達は<緋色の艦隊>、指揮している者はもちろん。
「『ムサシ』……いや、千早翔像か」
特に南側の――『ダンケルク』艦隊の抜けた穴が大きい――
翔像は、『ムサシ』の甲板に立っていた。
バイザーに、空を覆うグロテスクな触腕が写っていた。
「良し!」
「そう言うことなら……!」
霧の旗艦達は戦線を一時後退して、『コンゴウ』から送られてきた照準データを基に、超重力砲の発射シークエンスに入っていった。
これだけの数の超重力砲が一度に放たれることは、そうそう無い。
何しろ1隻だけでも重力場に深刻な影響を与えかねない兵器だ、複数を同時に使えばそれだけ負担が大きくなる。
(嗚呼)
リエル=『クイーン・エリザベス』は思う。
そう思ったが、思うことに意味は無かった。
「さぁ、行け……イ404!」
超重力砲の光が、戦場を埋め尽くした。
◆ ◆ ◆
行け、と言われるまでも無く、紀沙はひた駆けていた。
空を覆う黒い触腕を気にも留めず、黒い怪物や触手を掻い潜り、時に反撃する。
エネルギーのほとんどを水力に回しているため、反撃は最小限だった。
加速の衝撃で、
「『白鯨Ⅳ』が遅れています!」
「右舷回頭! 陣形を再変更します!」
もちろん、ただただ前進しているだけでは無い。
イ401や他の『白鯨』との位置関係を維持するため、細かな航路調整を行っていた。
前に進めば良いと言うものでは無い。
右舷に船首を向けて曲げて、後ろ――『白鯨Ⅳ』達がいる後方――へと『紀伊』の主砲の砲口を向ける。
撃て、紀沙の声と共に轟音が鳴り響く。
砲撃は正確に海面を割り、レーザーが海面下を抉る。
それは『白鯨Ⅳ』の位置にまで届き、『白鯨Ⅳ』を覆おうとしていた
「9時の方向!」
「回……」
そうしていると、自分達の方が疎かになってくる。
海面が爆ぜて、
もはや人型ですら無く、ヘドロと言うか、不定形の何かと化していた。
おそらく、人型が戦闘に向かないとでも判断したのだろう。
今はそれが効果的で、無意味に鬱陶しい。
「構わず行って、404!」
回避が難しい、そんなタイミングだったが、飛び込んでくる艦がいた。
北米艦隊の大戦艦『ミズーリ』、艦体はすでに満身創痍だが、メンタルモデルの士気は衰えていなかった。
『紀伊』に襲い掛かった
「ついて来て、先導する! 『ラドフォード』、『フレッシャー』は左右を!」
それをかわすように滑りこんできた航空甲板を備えた巨大艦が、『紀伊』のエスコートを始めた。
『サラトガ』だ、これも北米艦隊所属の霧の艦艇である。
駆逐隊が、イ号艦隊の脇を固めてくれる。
『ハシラジマ』まで、『紀伊』を護衛するつもりなのは明白だった。
ちょうど、その時だった。
『リシュリュー』達の放った超重力砲が、頭上の触腕に向けて放たれたのは。
行け、404。
そんな霧の
「…………」
紀沙は、正面を見た。
真っ直ぐに。
まっすぐに。
海の向こうに、天を貫く御柱が見えた。
◆ ◆ ◆
千早紀沙の戸惑いが、『コンゴウ』に手に取るように良くわかった。
自身もまた超重力砲の発射光の中にいながら、『コンゴウ』が思ったのは戦局のことでは無く、紀沙のことだった。
翔像や群像のことでも、『ヤマト』や『アドミラリティ・コード』のことでも無く、『コンゴウ』は紀沙を思った。
『コンゴウ』の眼から見て、千早紀沙と言う少女は言うなれば人類至上主義者だった。
霧を憎むあまり、霧の善意を否定し人の悪意を肯定するところがあった。
逆に、硫黄島戦までの『コンゴウ』は霧至上主義者――と言うより、人類に関心が無かった――であったと、今なら思う。
そんな『コンゴウ』だからこそ、紀沙の気持ちを推し量れるような気がした。
「まさか、人間と共に戦うとはな」
「え?」
「いいや、何でも無い」
『ヒエイ』にそう応じて、『コンゴウ』は天空を睨んだ。
今にも『ハシラジマ』に降下しようと言う触腕を、睨み上げる。
あの醜悪な触腕が、霧が何年もかけて改修した『ハシラジマ』を砕こうと言う。
それはひどく、不愉快なことだった。
(エネルギーチャージ……80……90……100……)
リエル=『クイーン・エリザベス』、そして『コンゴウ』。
『リシュリュー』、『サウスダコタ』、『ラミリーズ』、『プリンス・オブ・ウェールズ』、『ウォースパイト』、『アドミラル・グラーフ・シュペー』――旗艦クラス8隻が放つ超重力砲だ。
おそらく、超重力砲の威力としては史上最大のものとなる。
「――――――――発射」
『コンゴウ』の両の瞳が、激しく白く明滅した。
レンズが共鳴し、重力場で形成した砲身から、膨大な光が放たれた。
それは戦場の各所から放たれた他の光と共に、天空の黒い触腕を撃つ。
計算された着弾点に、霧の旗艦達は正確に命中させた。
それでも、重い。
降下速度はそのままパワーにもなる、質量もある、弾力性もだ。
僅かずつ、ズレていく、間に合わないかもしれない。
『ハシラジマ』に落ちる、いや。
「――――どけぇっ!」
一喝、と言う程でも無い。
ただ人間の真似をしてみただけだ。
人間の真似、ふ、と口元に笑みが浮かんだ。
この『コンゴウ』が人間の真似など、随分と焼きが回ったものだ。
「なぁ、『イセ』よ」
黒い触腕が、
横合いから殴られて、溜まりかねて腰を引いたようにも見える。
全てを動かすことは出来なかったが、降下地点はズラすことに成功した。
最大の力で、最小の結果を勝ち取ると言う非効率がそこにはあった。
だが、それで戦略目的は達成することが出来た。
「……『イセ』?」
触腕が落ちてくる。
『ハシラジマ』の側に降下してくる以上、衝撃と津波から『ハシラジマ』を守る必要がある。
その備えと艦隊の退避を手配しつつ、イ号艦隊の迎え入れの準備を進めて。
『コンゴウ』は、応答を返さない『イセ』に訝しみを覚えた。
◆ ◆ ◆
『イセ』は、立てずにいた。
『――――『イセ』、『アカシ』。イ号艦隊が来る。『ハシラジマ』を起動させろ』
『コンゴウ』からの通信はもちろん聞こえてはいたが、立ち上がることが出来なかった。
通信に応えようとしたのか、あるいは他に目的があったのかは定かでは無いが、もごもごと唇を動かした。
しかしそこから漏れたのは声では無く、ごぼ、と言う嫌な音だった。
倒れた『イセ』の口元には、粘り気のある金色の液体が水溜まりを作っていた。
これは、何だ?
『イセ』のデータベースには存在しないものだ。
だが何が起こっているのかはわかっている。
コアからの命令が、メンタルモデルの肉体にまで届かない。
「……! ……!?」
コアを、咄嗟に守った。
その判断は間違いでは無かったようで、こうして
逆に言えば、それだけだ。
それ以上のことは何も出来ない状態だと言うのに、
『どうした『イセ』、『アカシ』。応答せよ』
そんな『コンゴウ』の通信の最中に、『イセ』の視界にある者が落ちてきた。
『アカシ』だった。
『イセ』の援護が無いままに『ボイジャー2号』に挑み、敗退したのである。
ぴくりとも動かず、『コンゴウ』に救援を求めることも出来ない様子だった。
「これか……」
そして『ボイジャー2号』はと言えば、軌道エレベーターへと手を伸ばしていた。
不味い、と『イセ』は思った。
『ボイジャー2号』は軌道エレベーターを破壊するつもりだ。
それは、霧と人類の作戦の失敗を意味する。
「――――ふ……ッ!」
起き上がろうとしたが、果たせなかった。
自身を支えようとした腕には力が入らず、床に顔を打ち付ける結果にしかならなかった。
これは、『ボイジャー2号』の攻撃によるものか。
しかし、攻撃を受けた覚えなど無かった。
ああ、よせ、やめろと、頭の中で思っても意味は無かった。
『ボイジャー2号』の手が、軌道エレベーターに伸びていく。
凄まじい振動が、その場を襲った。
ぐ、と歯噛みしたが、視界の中の軌道エレベーターは健在だった。
何だと思った時、水溜まりに波紋が生まれた。
(これは……下から?)
振動は『ボイジャー2号』の方では無く、下から来ていた。
しかもそれはだんだん近づいてきていて、徐々にだが、何か掘り進めているような音が聞こえてきた。
そう、まるでドリルか何かで掘っているような……と、言うより、掘っている!?
「とぉぉおおぉうっ!!」
眼鏡に白衣のメンタルモデルが、右腕に巨大なドリルを装備した状態で床を砕いて飛び出してきた。
ナノマテリアルで補強した『ハシラジマ』の床を、外からここまで掘り進んで来たのか。
どうしてそんなことをしたのかはわからないが、相手のを顔を見て、『イセ』は納得した。
もし身体が動くのであれば、飛び起きて、抱きしめてキスしていただろう。
何故ならば、そこにいたのは彼女の最愛の妹であったからだ。
元霧の大戦艦、今はイ401の砲艦のオーナーをしている。
『ヒュウガ』である。
最後までお読み頂き有難うございます、竜華零です。
リエル=『クイーン・エリザベス』再登場。
来週はリアルの都合で投稿をお休みします、すみません。
次回は再来週になります。
それでは、また次回。