蒼き鋼のアルペジオ―灰色の航路―   作:竜華零

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Depth016:「硫黄島包囲戦・前編」

 人間の言う「神の降臨」とは、このようなものを言うのだろうか。

 普段は人間の文化に全く興味を示さないヒエイも、その光景の前にはそう思わずにはいられなかった。

 

 

「お待ちしておりました、艦隊旗艦(コンゴウ)

 

 

 臣下のように膝をつき、ヒエイは言った。

 工作艦『アカシ』――コンゴウの装備換装を行っていた――のメンタルモデルがぺこりと頭を下げて離れていくのを横目に、ヒエイは顔を上げる。

 そこには艦形を僅かに変えた大戦艦が存在し、艦橋の上にはそのメンタルモデルが悠然として立っていた。

 

 

「艦隊の配備、ご苦労だった。ヒエイ」

「はっ」

 

 

 コンゴウである。

 彼女は普段から丈長の黒のドレスを身に纏っているが、今はまた別の種類のドレスを身に着けていた。

 ベアトップスタイルの黒い夜会服(イブニングドレス)は、以前は隠れていた背中や胸元、二の腕の肌を露出するデザインとなっている。

 それは夜闇の中に白く肌を浮かび上がらせ、女の姿をとかく美しく見せた。

 

 

 彼女の周囲は光の柱に包まれていて、良く見れば海面もコンゴウを中心に渦を巻いていた。

 まるで、渦潮の中心に打ち立てられた神の御柱(ミハシラ)だ。

 そしてその現象は、コンゴウの存在によって引き起こされているのである。

 その光は、数百キロ彼方からでも視認することが出来ただろう。

 

 

「すでにミョウコウ達を中心に硫黄島を完全に包囲、後は艦隊旗艦の号令を待つばかりです」

「そうか……『イセ』!」

 

 

 虚空に向かって叫ぶ、霧の艦艇にとってはそれは通信と同義だ。

 

 

『は~~い?』

「引き続き艦隊の指揮を頼む。日本近海の封鎖も疎かにはできん」

『わかったわ。……ヒュウガちゃんによろしくね?』

「留意しておこう」

 

 

 相手は霧の大戦艦『イセ』。

 ヒュウガの姉にあたり、かつてはヒュウガの艦隊に所属していた。

 今は100キロ程離れた海域で補給艦隊と共におり、同時にコンゴウの第一巡航艦隊の指揮を引き継いでいた。

 妹に似てなかなか偏愛的な傾向があるが、有能な艦だった。

 

 

「それにしてもヒエイ。前から思っていたが、不思議な格好をしているな」

「これですか?」

 

 

 立ち上がり、くるりと回ると、学生服のプリーツスカートがひらりと舞った。

 純朴な表情でそんなことをされると、怜悧の一言だったヒエイの印象も少し違ったものに見える。

 ちなみにこの衣装、ミョウコウ姉妹にはすこぶる不評なのだが、ヒエイはそれに気付いていない。

 

 

「霧には秩序の再編が必要と判断しましたので、人類の「生徒会」と言うシステムを取り入れることにしました。生徒会は「自治」システムの代表例の1つで、メンタルモデルを得て人間と同様に意志を有してしまった我々にとっては、最適な……」

「確かに、霧は乱れている。私が面倒くさがって対処を遅らせたばかりにだ、許せヒエイ」

「……あ、いえ! 艦隊旗艦の責任ではありません。これは401達、裏切り者共のせいです!」

 

 

 霧の秩序。

 かつてメンタルモデルを持たなかった時代、霧の艦隊は完璧なユニオンを形成していた。

 群にして一、一にして群。

 それがイ401達の登場によって崩れ、今では艦隊を離れ独自の行動に出る艦もいる程だ。

 

 

 一度崩れた秩序を修復するには、相当の労力と時間を必要とするだろう。

 考えるだけで面倒くさいが、コンゴウはそれを成し遂げるつもりでいた。

 自分の面倒くさがりが事態をここまで大きくしたのなら、責任を取る意味もある。

 その手始めが、今回の作戦だった。

 

 

「では」

 

 

 コンゴウの右手に握られているのは、掌サイズのグリップスイッチだった。

 コードの先端が艦体に接続されており、スイッチを押せばコンゴウのユニオンコアを通して()()()()が発動する。

 そしてコンゴウは、躊躇無くそのスイッチを押した。

 

 

「始めようか」

 

 

 次の瞬間、光が落ちて来た。

 天から落ちて来た光は、硫黄島の中心を基点とした4キロ四方を包み込んだ。

 そして、凄まじい轟音と輝きと共に。

 その4キロ四方の空間が、()()()()

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 正直、ぞっとした。

 もし硫黄島の主要設備が地下に無ければ、また群像達の収容が間に合っていなければ、どうなっていたかわからない。

 ヒュウガによれば、一緒に遊んだビーチは無くなってしまったらしい。

 

 

「急速潜行! スミノ、トリム調整任せる」

「了解、艦長殿」

 

 

 厚い岩盤とコンクリートで固められた地下施設は、超重力砲の直撃にも耐えられるようになっている。

 ヒュウガの設計と補強は伊達では無いと言うことだ。

 とは言え、流石に今回のコンゴウの攻撃は想定外の強さだったらしい。

 ドッグの岩盤に罅が入っているのを見た時には、血の気が引く想いがした。

 

 

「静菜さん、急いで!」

「了解!」

 

 

 桟橋から跳躍した静菜の手を取って、ハッチの側に引き寄せる。

 そのまま静菜を先に艦内を降ろしながら、紀沙は隣のイ401の方を見た。

 そこにはちょうど静菜と――紀沙の影武者役だった――共に最後まで地表にいた群像が、イ401のハッチに身を躍らせている姿が見えた。

 

 

 こうしている間にも、イ404の潜行は続いている。

 兄が自分を見てくれていないことに、僅かの寂しさを覚えた。

 仕方ない、今は戦時なのだから。

 今生の別れと言うわけでも無い、作戦に集中すべきだと自分に言い聞かせた。

 

 

「艦長殿、急いだ方が良い。もたもたしてると、コンゴウが旗艦装備の再チャージを終えてしまう」

「わかってる!」

 

 

 応じて、自らも艦内に飛び降りた。

 スミノも慣れたもので、着地する瞬間に床が柔らかく変化し、少女の身を受け止める。

 そこから発令所まではすぐだ、潜行時独特の鋼の軋む音を耳にしながら駆ける。

 そして紀沙が発令所に到着する頃には、イ404はすでに潜行を終え、島外の海域に脱出しようとしていた。

 

 

「艦長殿、ヒュウガから連絡。正面のゲートが瓦礫で埋もれつつあり」

「他に出口は無い。梓さん、1番2番に通常弾頭魚雷装填!」

「あいよ了解、1番2番魚雷装填!」

 

 

 硫黄島基地の海底ゲートは、ドックと直接繋がっている。

 今さら他のゲートに向かう時間的余裕も無く、そうなれば方法は1つしか無い。

 肉眼で見ることは出来ないが、目の前にあるだろう障害に対して。

 

 

「1番2番、()えぇ――――っ!」

 

 

 魚雷を、叩き込んだのだった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 旗艦装備がこれ程の規模の兵器だとは、さしもの群像も予測していなかった。

 ゲート出口を塞いでいた瓦礫を魚雷で吹き飛ばし、その騒々しさの中を突破しながらも、群像の思考はその速度を緩めることが無かった。

 

 

「コンゴウの旗艦装備とは、いったいどう言うものなんだ?」

「ヒュウガが言うには、一種の衛星砲らしい」

「衛星砲?」

 

 

 群像の隣と言う定位置で、イオナは右手の人差し指を天井に向けた。

 いや、天井と言うよりは天頂と言った方が正しいだろう。

 何故ならば、コンゴウの用いている兵器は衛星軌道上に存在しているのだから。

 それも一つでは無く、地球の自転に合わせて充填済みの衛星――人類の人工衛星とは原理が異なる――が次々にポイントに到達し、射撃――砲撃すると言うものだ。

 

 

「威力は見ての通り、小さな島くらいなら海中に沈めることが可能だ。言ってしまえば、空から撃つ超重力砲だな」

「ひえ~。霧の大戦艦様のやることは、スケールが違うねぇ!」

「いつものことだ。それで?」

「ただ衛星砲自体は単発で、次の砲撃までの間にはタイムラグがある。おおよそ15分と言った所か」

「15分か」

 

 

 顎に指先を当てて、群像は少しの間考え込んだ。

 目の前の戦略モニターには、すでにデコイやソナーで収集した情報が海域図の形で映し出されている。

 この完全に包囲された硫黄島で、どうやってこの窮地を脱するべきか。

 形としては突破戦だが、ただ突破するだけではダメだろう。

 

 

「艦長、指示を」

「……そうだな」

 

 

 そしてこう言う時、決まって僧が命令を求めてくる。

 クルー達とは付き合いが長いが、学院以前から交流のある僧だけは、やはり特別なのかもしれない。

 また僧が指示を求めるとき、すでに群像がまとめていると言うのも奇妙だった。

 だがその奇妙な理解を、群像は(わずら)わしいと思ったことは無かった。

 

 

「旗艦『コンゴウ』を撃沈し、艦隊の動きを止める」

 

 

 そして一度命令が発されれば、クルー達はそれに従って一斉に動き出す。

 ソナーの感度を上げ、魚雷を装填し、機関の出力を上げ、艦内を掌握する。

 それら一連の行動が行われた次の瞬間、深度を下げたイ401を追いかけるようにして、立て続けに爆発と衝撃が襲い掛かった。

 霧の駆逐艦隊の、爆雷攻撃が開始されたのである。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 霧の重巡洋艦『ズズヤ』と『クマノ』が麾下の駆逐艦隊を率いて爆雷の投下を開始したのは、21時を回った頃のことだった。

 彼女達は『ミョウコウ』の妹『ナチ』の指揮下にあり、彼女の指揮で攻撃を開始したのだった。

 

 

「重力子機関音を僅かに感知しました。ソナーデータ送信、攻撃を続行、炙り出しなさい」

 

 

 ナチは、コンゴウ率いる艦隊――いわゆる黒の艦隊の中でも、特に索敵に優れた艦だった。

 もちろん自らも重巡洋艦であり、相当の出力と攻撃力をも有している。

 メンタルモデルは薄緑のショートカットの女性で、一部を三つ編みにしていた。

 大きなクッションの上に正座して戦いに臨んでいる彼女の前方海域では、8隻の駆逐艦がドラム缶型の爆雷を次々に海面に投擲している。

 

 

 爆雷投下は対潜戦において有効な戦術の1つだが、霧の艦隊が行うそれは人類のそれとは意味が異なる。

 霧のクラインフィールドを侵蝕する、いわゆる侵蝕爆雷と言うべき武装だった。

 そして駆逐艦だけでは無く、駆逐艦を4隻ずつ率いる重巡洋艦『スズヤ』と『クマノ』に至っては、対潜弾と侵蝕魚雷を虱潰しに海中に撃ち放っていた。

 

 

「どぅんどぅん行くよっ♪ た~まや~っ♪」

 

 

 浴衣の裾を翻しつつクルクルと回りながら、スズヤは甲板から次々と発射される対潜ミサイルを見送っていた。

 その姿は格好と相まって、さながら夏祭りの会場で花火を見上げる乙女のようにも見えた。

 しかしその一撃は怒涛の一言に尽きる、何十発と叩き込まれるミサイル1発で、人類側の艦船であれば例外なく撃沈されていただろう。

 

 

「ん……? 待って、これは」

 

 

 しかし、ナチ達はひとつだけ戦術ミスを犯していた。

 普段であればミスとも言えないそれは、ひとえに彼女達が霧であるが故に起こったことだった。

 彼女達の行動は合理性が重視される傾向にあり、言い換えれば教科書的な所がある。

 例えば今回の場合、魚雷はともかくとして、爆雷は必要無かった。

 

 

「スズヤ、下がりなさい! 真下から来てるわ!」

「へぁ?」

 

 

 スズヤ側の陣形は、スズヤを先頭に『フジナミ』『アキナミ』『ハヤシモ』『キヨシモ』の4隻が進む、いわば単縦陣を取っていた。

 これは海中に次々に爆雷を投擲する上で、クマノ側の艦隊と何度も交錯する必要性があったためだ。

 そんな中で、ナチの声にスズヤが振り向いた。

 

 

 無論、メンタルモデルが振り向いたからと言って艦まで回頭できるわけでは無い。

 しかし次の瞬間、回頭できぬままのスズヤの艦体に異変が起こった。

 艦の中央部、人間で言うお腹の部分に重い衝撃音が響き渡ったのである。

 しかもそれはかなりの速度で急速浮上してきたのだろう、艦首を突き刺すような形で相当の重量があるスズヤの艦体を突き上げ、僅かだが海面から押し上げてしまった。

 

 

「よ……!」

 

 

 スズヤと海面の間に覗くのは、灰色の艦体。

 一定深度で無ければ炸裂しない爆雷の盲点を突き、雷撃群すらも掻い潜って、スズヤの真下から飛び出して来た。

 鋼が擦れ合う独特な音、不意打ちにクラインフィールドの展開が間に合わなかったか。

 

 

「404!? な、何で……うわぁっ!?」

 

 

 そして放たれる魚雷。

 独特なエネルギー場が発生し、スズヤの艦体を抉り取るそれは明らかに侵蝕魚雷だった。

 イ404は侵蝕魚雷を有していなかったはずだが、硫黄島で補給を受けたのだろう。

 真っ二つに砕かれた艦体、悲鳴を上げて吹き飛ばされるスズヤのメンタルモデル。

 そしてそれには構わずに艦首を向けた者達がいる、クマノとその指揮下にある駆逐艦隊だった。

 

 

「ちょ、ちょっとクマノ!? 躊躇なしは流石に傷つくんだけど――――ッ!」

「……!」

 

 

 ヘッドドレス横の猫耳を一度上に上げ、そして下げると言う形で意思を返して、クマノは離脱するイ404へと砲門を向けた。

 しかしここで海中への攻撃と警戒を緩めたのは不味かった、何しろ敵は()()いるのだから。

 これは、彼女達の実戦経験の少なさがもたらしたミスとも言えた。

 

 

 クマノの指揮する駆逐艦の内、まず最後尾の『ハギカゼ』が被弾した。

 艦尾である。

 侵蝕反応で抉り取られた後に爆発し、艦首を持ち上げる形で沈み始める。

 それを気遣ったのか、駆逐艦『ユウグレ』が『ハギカゼ』を助けに向かった。

 結果として、クマノの艦隊は分断されることになる。

 

 

「クマノ、危ない!」

「……!」

 

 

 それに気を取られた刹那、離脱したはずのイ404が側面からクマノの艦体を突き上げてきた。

 しかし今度はクラインフィールの展開が間に合った、イ404の艦首とクマノの艦体側面の間で互いのフィールドが鎬を削り、スパークを引き起こす。

 クマノはイ404へと砲塔を向け、カウンターの一撃を浴びせようとする。

 だがその猫耳が攻撃の意思にピンと逆立つ直前、逆方向から衝撃が伝わってきた。

 

 

「……!?」

 

 

 タナトニウム反応を感知し、侵蝕魚雷だと感知した時には全てが遅かった。

 イ404の突撃に注意とフィールドを振り向けてしまったため、逆側は無防備に近かったのだ。

 艦の芯が砕ける異音を聞き、クマノは無表情を苦渋に歪めた――――。

 

 

「404……401!」

 

 

 目前で重巡洋艦2隻を中心とする索敵艦隊が崩れていく様を見せ付けられて、ナチは吼えた。

 コンゴウが放った旗艦装備の一撃からすでに8分、戦場は早くも混迷の度合いを見せている。

 しかし、戦闘はまだ始まったばかりであった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 重巡1隻撃沈1隻大破、駆逐艦2隻撃沈。

 ご機嫌な数字だが、それだけにリスクは高かった。

 急速浮上からの二連続突撃、奇策としか言いようの無いその行動は、まさに奇策だからこそ成功した。

 

 

「魚雷群探知、20から24発! ったく、最高だなこりゃあ!」

「梓さん、後部発射管に重高圧弾頭魚雷用意! 発射後10秒後に起爆。同時に1番2番に音響魚雷及びアクティブデコイ装填!」

「あいよ了解! ……発射ぁ!」

 

 

 そして行動が派手なだけに、捕捉されると振り切るのが一苦労だった。

 しかしそこは潜水艦、水上艦に対してほぼ一方的なアドバンテージを得ることが出来る。

 だからこそ水上艦が潜水艦を発見した際には、今のように全力で沈めに来る。

 

 

 どん、と言う鈍い音が水中を伝わって聞こえてくる。

 重高圧弾頭の炸裂音と、誘爆した敵の魚雷群の音だ。

 実の所を言えば、潜水艦にとって敵の魚雷を誤爆させるだけでも身を隠すのにかなり有利になる。

 爆発と同じタイミングで機関を切れば、まず身を隠すことが出来るからだ。

 

 

「安心しない方が良いよ艦長殿、ナチはしつこいよ」

 

 

 重巡洋艦ナチ、先の攻撃では攻める余裕が無かった。

 スミノによれば観測艦の役割を担っているらしいから、彼女の眼前で暴れたと言うことは、完全に捕捉されていると見て良いだろう。

 そうなってくると、敵の雷撃群に紛れるだけでは逃げ切れないかもしれない。

 

 

「うん? 後方に魚雷……いや、違うな。機関音感知!」

「敵の潜水艦ですか?」

「こりゃー違うな、これは……」

「西から来るのが『アシガラ』、東から来るのが『ハグロ』だね」

 

 

 冬馬の言葉を、スミノが締めた。

 すでに両の瞳は電子的な輝きを放っており、戦場の情報の全てを集積していることがわかる。

 重巡洋艦アシガラとハグロ、硫黄島の東西を封鎖していた艦である。

 

 

「直上に駆逐艦4隻。『カミカゼ』、『シグレ』、『アマギリ』、『ウラナミ』」

「おいおいおいおい、どんだけ連れて来てんだって」

「いくら沈めてもキリが無いねぇ、これは」

 

 

 恋の報告に、冬馬と梓がうんざりとした声を上げる。

 紀沙とて気持ちは同じだが、艦隊旗艦が出張って来た以上、それくらいは予測していた。

 そうは言っても単純に数えて20隻、しかもまだいるような気配だ。

 

 

「1隻1隻は大したこと無いけれど、集まると流石にキツいね」

 

 

 ふぅ、と、スミノが息を吐く。

 疲れなんて感じないくせに。

 そう視線を向けても、悪びれることの無い笑顔が返ってくるばかり。

 

 

「静菜さん、あおいさん。増速かけます、両舷全速で」

『了解しました』

『任せて~』

 

 

 スミノがどう言おうと、どれ程の状況だろうと、目指すべき所はひとつ。

 

 

「気合入れてお願いします。直上の駆逐艦を振り切りつつ、敵旗艦コンゴウに肉薄(とつげき)します!」

「「「了解!」」」

「やっぱ俺らには突撃(それ)しかねーわな!」

 

 

 その評価は流石に首肯しかねて、紀沙はとても複雑な表情を浮かべた。

 突撃以外にもきちんとしているのに、酷い言われようである。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 紀沙は随分と暴れてくれているようだ、こちらとしてはかなりやりやすい。

 一方で、ああ言う攻勢は長くは続かない。

 攻撃と牽制を交互に繰り返して敵に損害を強いつつ、旗艦コンゴウに肉薄する。

 それが、群像の基本的な方針だった。

 

 

「ヒュウガの時と同じだな」

「そうだな」

 

 

 かつて霧の大戦艦ヒュウガ――今では群像達の仲間、もといイオナの麾下――を撃沈した時、群像は敵艦隊の包囲網を掻い潜って旗艦を撃沈すると言う戦術を採った。

 結果としてそれは上手く行き、旗艦であるヒュウガを撃沈された当時の霧の第二巡航艦隊は行動不能に陥った。

 だから今回も、旗艦コンゴウを撃沈することは有効な戦術だと考えられた。

 

 

 ただし、ヒュウガの時とは違うことがある。

 それは敵艦隊が多くのメンタルモデル保有艦を有している、と言うことだ。

 特に戦艦級の艦艇が何隻もいるため、コンゴウを撃沈しても別の艦が指揮を引き継ぐ可能性があった。

 しかしそうだとしても、スムーズに指揮の引き継ぎが出来るとも考えていない。

 

 

「相手がそれこそ機械のような相手なら期待できないが、今の霧はそうじゃない。個々に意思を持つ(メンタル)個人(モデル)だ、そう簡単に意思が統一できるとは思えない」

 

 

 浜辺で会った限りにおいて、群像はコンゴウが極めて高いカリスマ性を有した指揮官だと判断していた。

 単身で敵陣に乗り込む大胆さ、交渉をそのまま時間稼ぎに使う強かさ、艦隊の集結と日本近海の巡航航路をリンクさせる緻密さ、そして衛星砲を含む単艦の圧倒的な戦闘能力。

 正直、もう少し話してみたかったと言うのは紛れも無い本心だった。

 

 

「イオナ、コンゴウの艦隊で指揮を引き継げるような者はいるか?」

「『ヒエイ』と『イセ』、それぞれコンゴウとヒュウガの姉妹艦だ。ただどちらも癖がある奴らだから、お互いの言うことを聞くかと言うと微妙だ」

「つまり、コンゴウ以上の者はいないわけか」

「そうなるな」

「あー、あいつな。何か他とは違うって感じがしたもんな」

 

 

 杏平が適当に相槌を打つが、あながち外れた印象でも無い。

 それだけ、コンゴウのインパクトは大きかった。

 

 

「例えば我々が追っているアシガラとハグロ。今404を追いかけている連中だが、一言で言えば武闘派と怠け者だ。とても艦隊の指揮が出来るようなタイプじゃない」

「何つーか、メンタルモデルってだんだん人間に似てきたよな」

「人間の戦術を学ぶ中で、人に近付きつつある、と言うことでしょうか?」

「影響は皆無では無いだろうな。ただオレとしては、知的生命体がすべからく人に近付くと言う考え方は好まないが」

 

 

 足を組み直しながらシートに身を押し付けて、群像は正面のモニターを見つめた。

 こうしている間にも、戦況は逐一変化している。

 数多くの艦が数十ノットの速度で動き回っていれば、そうもなってくる。

 そして衛星砲のことも考えれば、時間的余裕はあって無いようなものだ。

 

 

(……最低もう1発は、かわす必要があるか)

 

 

 結論としては、そうだった。

 何発も撃たれれば流石に回避は難しいが、1発、いやもしかすれば2発なら可能だろう。

 ただし相手はコンゴウ、生半可なことでは回避など出来ない。

 となれば当然、今一歩の策が必要だ。

 

 

「イオナ、ヒュウガとオプション艦は島を出たか?」

「ああ、アシガラとハグロが先走って包囲に穴を開けたからな」

「例のダミーも?」

「私がコントロールしている。ただ本格的に動かすなら、私自身の操艦が疎かになるが」

「そこは任せてくれて良い」

 

 

 イ401の操艦は、イオナが自分の意思で行うことが出来る。

 イオナの意思が艦の動きに直結する以上、そうした方が効率的だし、何より自然だ。

 だが基本的には、機関はいおり、艦のコントロールは僧が行っている。

 咄嗟の出力調整や方向転換、深度管理等はイオナだが、イ401では人間の手も入れて分担しているのだ。

 それは、こう言う時にこそ活きてくる。

 

 

 いざイオナが演算に手一杯になった時、作戦に制約を受けるようではダメなのだ。

 そしてイオナにとっては、それはまさに身体を他人に委ねることに等しい。

 当然、そこには不安要素が入り込む。

 だが群像は「大丈夫だ」と言った、「信じろ」と。

 イオナが群像をじっと見つめても、彼は自信を持った表情のままで。

 

 

「お前のクルーは優秀だからな」

「……そうだな」

 

 

 そう言われれば、イオナに是非は無かった。

 僧はマスク越しにドリンクを飲み、杏平は指で鼻を擦り、静は淑やかに微笑んで見せる。

 それらを見てなお是非を問うような感性は、イオナは持ち合わせていない。

 

 

「わかった、群像。私はお前の艦……()()()()艦だ。存分にやってくれ」

「ああ――――かかるぞ!」

 

 

 ぐ、と発令所全体に加速のGがかかる。

 メンタルモデルの身体に感じるそれを、イオナは何故か心地良いと感じた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 1隻いるとそうでも無いが、2隻いると複雑になる。

 特に海中を探らねばならないコンゴウ側としては、敵が2隻いると言うのは重要な要素(ファクター)だった。

 海中の騒音が増せば、それだけ相手を見つけにくくなる。

 

 

「そう言う意味では、スズヤ達は闇雲に撃ち過ぎたとも言えるな」

 

 

 両側にヒエイとミョウコウを従えて――文字通りの護衛艦だ――戦況を見守りながら、コンゴウはそう言った。

 掌のグリップスイッチを弄びつつ、少し静かになった水面を見つめる。

 今は小休止、ただ攻め続ければ良いと言うものでは無い。

 緩急を入れることも、また大切な戦術だった。

 

 

「『イセ』!」

『はいはい、こっちはナノマテリアルの回収でてんやわんやよ』

「スズヤ達の回収を優先しろ、出来るか?」

『いちいち聞かなくても、命令してくれれば良いのに』

「お前は私と同格の艦だ」

『お気遣い有難う。それじゃ、イ15を派遣するわね』

「了解した、頼む」

 

 

 こう言う小休止は相手に体勢を整える間を与えるデメリットがあるが、それはどちら側にとってもそうだった。

 むしろコンゴウとしては、潜水艦と言う水上艦に対して一定のアドバンテージを持つ相手に無秩序な乱打戦を挑むつもりは毛頭無かった。

 そんなことをしても不利になっていくばかりだ、無駄でしか無い。

 

 

 無駄――無駄か、メンタルモデルを得てから獲得した概念のひとつだ。

 ヒエイなどはそれを唾棄(だき)すべきものと憎むだろうが、コンゴウは違った。

 無駄にも色々あると理解しているからだ、良い無駄もあれば必要な無駄もある。

 そうした無駄とどこまで向き合えるのか、将器を図る指標の一つとも言える。

 

 

「ミョウコウ。アシガラとハグロはある程度したら戻せ、南進してナチと合流させろ」

「東西の包囲が解けますが……」

「構わん。奴らの狙いは私だ、いずれにせよこちらに向かって来る。……そう心配そうな顔をするな、ヒエイ」

「いえ、心配など」

 

 

 姉妹艦(ヒエイ)に小さく笑みを見せれば、ヒエイは戸惑った様子で眼鏡を指で押し上げた。

 そんなヒエイを、「おや」と言う表情でミョウコウが見やる。

 

 

「全艦、本艦を中心に輪形陣! 速力30ノット、前進せよ」

 

 

 ただし、と、好戦的ですらある笑みを浮かべて、コンゴウは言った。

 

 

「私が指定する海域には近付くな」

 

 

 グリップスイッチを弄ぶのをやめ、掌全体で握り込むようにする。

 黒手袋に覆われた細い指が、たおやかにスイッチに触れる。

 親指の腹でスイッチの表面を愛おしそうに撫でて、正面を見据える。

 夜の海はただ静かに、漆黒の水面を湛えているだけだった。

 

 

 ――――さて。

 イ401、イ404。

 先に沈めるべきは、どちらだろうか?

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――もちろんのこと、ヤマトに星を見て何かを悟る超常的な力は無い。

 数多のデータから惑星や星座の動きを見ることは出来るが、それはただの事象に過ぎない。

 それでも星々を見上げてしまうのは、メンタルモデルを得たが故の情緒と言うものだろうか。

 

 

「霧は割れるわ」

「ええ。でも、どんなものでもいつかはお別れの時が来るものよ」

 

 

 かつて霧は、巨大な一枚岩だった。

 地球を覆い尽くしてしまう程の巨岩、その存在によって人類は、天空を支える神話の巨人(アトラス)の気持ちを味わうことになった。

 余りにも重く、辛く、苦しく、そして屈辱的な気持ち。

 

 

 だが2年前にメンタルモデルがもたらされてから、その巨岩は軋み続けていた。

 少しずつ、少しずつ。

 ほんの僅かだが、時間が経つにつれて端が削れ、罅が入り……そして今では無視できない程の大きな亀裂となりつつあった。

 

 

「……寂しくなるわね」

「そうね。でも、きっと大丈夫よ」

 

 

 何百人もの人間が並んでもなお余るだろう、巨大な甲板。

 その上にたった2人で並びながら、ヤマトとコトノは水平線の彼方を真っ直ぐに見つめていた。

 測定するのも馬鹿らしくなるくらい遥か何マイルも彼方に、空を白ませる何かが見える気がした。

 コンゴウ、おそらく将帥と言う意味でなら今、霧の中で一、二を争うだろう大戦艦。

 

 

 あの娘はきっと、かつての静寂な霧のユニオンを取り戻そうとしているのだろう。

 イ401、いやイオナ、いやさ千早群像出現以前の、あの静寂な海を取り戻そうと言うのだろう。

 時を取り戻そうと、そう願っているのだろう。

 だが、それが決して叶わないことを2人は知っていた。

 この世に生じたものはすべからく変化する、そして変化を無かったことには絶対に出来ない。

 

 

「……()()()()()()()()()

 

 

 コンゴウには、それがわからないのだろう。

 いや、霧も全てがそうであるとも言える。

 

 

「そして貴女と、()()のように」

 

 

 ヤマトの言葉に、コトノは何も返さなかった。

 だが彼女達は()()()()、言葉を交わさずとも互いの心はわかる。

 

 

「――――『ユキカゼ』!」

 

 

 ヤマトが麾下の駆逐艦を呼びつけるのを横目に、コトノは星空を見上げ続けていた。

 口元には薄い笑みが浮かんでいて、特段何かを心配している様子には見えない。

 一方で小さく細められた瞳はどこか哀しげで、寂しげで。

 

 

「……会いたいな……」

 

 

 ポツリと漏らした言葉は、それ以上に哀しげだった。

 

 

「さて、ツンデレ重巡ちゃんはどうしたかな?」

 

 

 しかしそれも一瞬のこと、すぐに普段の明るい笑顔を浮かべた。

 そして、星空からついと顔を横へと向けた。

 向いた方角は、東。

 今、そこでは硫黄島とは別に霧の戦火が引き起こされようとしていた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 北米方面艦隊太平洋艦隊は、その名の通りハワイから米西海岸までを管轄とする霧の艦隊である。

 東洋方面艦隊に負けず劣らず有力な艦隊で、人類側最強の米国太平洋艦隊を遥かに凌駕する精強無比な艦隊として知られている。

 そして海域強襲制圧艦――艦載機の運用をやめた霧の元航空母艦――『レキシントン』は、その太平洋艦隊の旗艦として知られていた。

 

 

「これはこれは、()()()()()()()()()()

 

 

 にっこり。

 そんな表現がまさにぴったり当て嵌まる笑顔が、そばかすが愛らしい顔に浮かんでいる。

 メンタルモデルは黒のアカデミックドレスを身に纏った女性の姿をしており、ローブにも似たそのドレスの裾は床に引き摺る程に長い。

 正面で閉じるタイプの米国式アカデミックドレスが、皮肉な程に似合っている。

 

 

 頭には学帽、手には自らの紋章(クレスト)が刻まれたメイス。

 学者風の見た目を補完するかのように、その周囲には百科事典級の厚みの本や海洋生物の標本カプセル等が積み上げられていた。

 そこが全長270メートルの飛行甲板でさえ無ければ、あるいは本当に学者の書斎にも見えたかもしれない。

 

 

「わざわざ出迎えてくれるだなんて、嬉しいわ。だけどご免なさい、見ての通り急いでいるの」

 

 

 そしてその背後の海には、20隻を超える太平洋艦隊に所属する霧の艦艇の姿もある。

 全てレキシントンが率いて来た艦隊であって、太平洋艦隊旗艦たる彼女の直轄艦隊でもあった。

 

 

「ご近所だし、硫黄島ではコンゴウが割と苦戦しているようだし。私達が支援すれば、たかが潜水艦の1隻や2隻、すぐに終わらせられるでしょう?」

 

 

 レキシントンの目的地は硫黄島、コンゴウはイ401達と激戦を繰り広げている海域である。

 共有ネットワークを通じてモニタリングしている戦況は、どうも芳しくない。

 手こずっている、と言うのが、レキシントンの見立てだった。

 それはコンゴウの特質と言うか性格に根付くもので、確実さを求めているための弊害に思えた。

 はっきり言えば、見ていてイライラする。

 

 

「だから、そんなイジワルはやめて通してくれないかしら?」

 

 

 そして、そんなレキシントンの前に2隻の艦が横向きに陣取っていた。

 大きな艦艇(じゅうじゅん)と、そしてそれを上回るより大きな艦艇(せんかん)

 砲門こそ向けて来ていないが、レキシントンの艦首を押さえるその位置取りからは「絶対に通さない」と言う意思が見て取れた。

 

 

「――――重巡『タカオ』」

「ふんっ。気安く名前を呼ぶんじゃないわよ、余所者のくせに」

 

 

 自らの艦橋の上に腕を組んで仁王立ちした体勢で、タカオは自分よりも大きな相手を睨み返していた。

 強気な瞳はそれだけで威圧感を感じさせるが、足元でマヤがデタラメに弾いている玩具のピアノの音が非常に邪魔だった。

 聞くに堪えない酷い音だが――そもそも、鍵盤が間違っている――タカオは気にした風も無い。

 

 

「大体、アンタ達いったい誰の許可を得て管轄海域外の戦闘に介入しようとしているわけ? そう言うのをえっけんこーいって言うのよ、私達がそんなことをさせると思う?」

 

 

 タカオの隣に艦を寄せているのはキリシマだ、見ようによっては後ろ盾にも見える。

 ただ彼女はハルナの隣で、掌で顔を覆って天を仰いでいた。

 何と言うか、自らの運命を呪っている様子だった。

 

 

「401と404を沈めるのは私達(わたし)よ、アンタ達なんかに手出しはさせないわ」

「ふぅん、ならどうするって言うのかしら? 私達が貴女達を無視して通ると言ったら、貴女はどうすると言うのかしら?」

「……言葉は必要?」

「言葉は始原よ、とても美しいシステムだわ。最初からそれを否定するのは、野蛮人のすることだと思うけれど?」

 

 

 レキシントンの言葉に、何故かハルナがうんうんと頷いていた。

 

 

「なら話をしましょうか――――帰れ」

「嫌」

 

 

 タカオが砲塔を回すのと、レキシントンが飛行甲板をスライドさせたのはほぼ同時だった。

 言葉による説得が通じない場合、何をするのか?

 奇しくもそれは、人類が連綿と紡いできた歴史の中ですでに答えが出ている。

 

 

(私が沈めるまで、沈むんじゃ無いわよ)

 

 

 敵に対して若干歪んだエールを送りながら、タカオは額に紋章を浮かべ、瞳の虹彩を輝かせた。

 そして、今この時、この瞬間。

 霧史上初の、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 静かだった。

 イ404の発令所の水を打ったような静けさは、そのままクルーの緊張を示している。

 

 

「……上の奴ら、まだいやがるな」

 

 

 ヘッドホンに耳を当てたまま、冬馬が珍しく真面目な顔でそう言った。

 ちなみに彼の言う「上の奴ら」とは、『アシガラ』と『ハグロ』と彼女達が率いる駆逐艦隊のことだ。

 つい先程まで追い回されていて生きた心地はしなかった、特にアシガラは自ら潜行してでもこちらを追い詰めてやろうと言う意思が見えた。

 

 

 戦場には、「時間」と言うものがある。

 それで言えば今はイ404の我慢の時間であって、言うなれば「敵の時間」とも言える。

 ただでさえ相手の戦力が過大なのであるから、わざわざ相手の時間に攻勢に出ることも無い。

 ここはひとまず海底に身を潜めて、チャンスが来るのを待つべきだった。

 

 

「んぁ?」

 

 

 その時、冬馬が訝しげに声を上げた。

 しかしその内容について直接言葉にしたのは彼では無く、スミノだった。

 スミノは小さく首を傾げていたが、事実は事実として捉えたのだろう、そのまま伝えた。

 

 

「401、急速浮上」

「え……どう言うこと?」

「どう言うことも何も、そのままの意味だよ。401がコンゴウに向けて急速浮上してる」

 

 

 一瞬、意味がわからなかった。

 あの兄のことだから何か考えがあるものと思うが、それにしても無謀だ。

 今、海上ではコンゴウ達がまさに待ち構えているだろう。

 加えてあの衛星砲もすでに再チャージが済んでいるはずだ、この状況で浮上するなど危険すぎる。

 

 

「401、なおも浮上中」

「兄さん……?」

 

 

 いったい、群像は何を考えているのか?

 

 

「……どう言うつもりだ? 401……」

 

 

 そして当然、似たようなことをコンゴウも考える。

 イ401側の意図は何だろうかと、今にも海面から顔を出しそうな勢いで浮上してくるイ401の艦影をソナーに捉えながら考える。

 デコイかとも思ったが、この急速かつ精密な艦の動きはデコイでは出せないだろう。

 

 

 わからない、意図が読めない。

 しかし、事実は目の前にある。

 イ401が自分を目掛けて急速浮上してくる、それだけが確かな事実だ。

 だからコンゴウは訝しみつつも、グリップスイッチのボタンに指をかけた。

 

 

「艦隊全艦! 急速回頭、最大戦速で本艦から距離を取れ! ヒエイ、ミョウコウはそのままの位置で、401に次の動きがあれば対処せよ」

 

 

 コンゴウの一声で、全てが動く。

 彼女を囲んで輪形陣を組んでいた軽巡洋艦や駆逐艦が一定の距離を取り、ヒエイとミョウコウが瞳の虹彩を輝かせて互いの情報をリンクさせた。

 何人たりとも、この2人の目から逃れることは出来ないだろう。

 そうしている間にも、イ401は正面から向かってくる。

 

 

「この一撃で」

 

 

 イ404には目立った装備は無い。

 ヒュウガの超重力砲を積んだイ401こそが最大の脅威、それをここで潰せるならば、それに越したことは無い。

 コンゴウはグリップスイッチを掲げるように(かざ)し、そして。

 

 

「我らの静かなる海を取り戻す――――!」

 

 

 

 そして、天罰の如き雷が雲を裂き、海を穿った。

 その中に、イ401は成す術も無く飲み込まれていった――――。

 




最後までお読み頂き有難うございます、竜華零です。
ヒエイは隠れシスコン、僕はそう信じているんだ(え)

と言うわけで、硫黄島包囲戦です。
おそらく前中後の3本構成になると思います。
つまり6月中には原作突破する計算ですね、色々自分なりに設定をつけて話を展開していくつもりです。

まだ何も決まってませんけど(え)
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