蒼き鋼のアルペジオ―灰色の航路―   作:竜華零

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Depth049:「接続」

 

 霧の演算力と、人の直感力とも言うべきものの融合。

 紀沙がやったのは、つまりそう言うことだった。

 いわゆる「霧の瞳」を持つ紀沙だからこそ、可能なことだ。

 

 

 左目を()()として、スミノのナノマテリアルが全身に行き渡るのを感じる。

 それは、傷口から雑菌が血管内に入り込む動きに似ている。

 紀沙にとって、その表現はあながち間違いでは無かった。

 身体中をナノマテリアルが這い回る感触は、吐き気を通り越して怖気が走った。

 

 

『そこまで嫌がらなくても良いじゃないか』

 

 

 機嫌良さそうなスミノの声が、身体の中で響く。

 声音は熱く、吐息は淫靡な色を孕んでいる。

 肌の上――いや、肌の下をまさぐられ、敏感な神経を撫でられているような感覚。

 びくりと反応を示す肉体が、煩わしいと思った。

 

 

『ねぇ、艦長殿』

 

 

 だが、今はそれで良い。

 今はとにかく、父と兄を止める力が要るのだ。

 母がいない今、それは自分の役割のはずだった。

 いや、そうに違いない。

 だから今は。

 

 

()()()()()()()()()()――――?』

 

 

 だから今は、憎らしい霧(スミノ)だって受け入れてみせる。

 

 

「ナノマテリアル……配列」

 

 

 左目だけで無く右目すらも「霧の瞳」に変化させて、つ……と血の涙が流れていく。

 その間、イ404を構成するナノマテリアルは目まぐるしく配列を変えていた。

 へこみ、うねって、向かって来る魚雷を全て回避していく。

 そうすることで、イ404は真っ直ぐに『ムサシ』を目指すことができていた。

 

 

 感じる。

 わかる。

 肌に触れるのは海水、聞こえてくるのはスクリュー音。

 「目」に見えているのは、真っ暗で冷たい海中の世界!

 

 

「いけ、る……!」

 

 

 兄に迫っていた魚雷は、すべて撃ち落した。

 イ401はもう戦えない、動くのがやっとだ、もう止める必要は無い。

 後は『ムサシ』、父・翔像を止めるだけ。

 そうすれば、この父子の争いを止めることが出来る。

 

 

「い、けえ……!」

 

 

 加速する、機関に遠慮はいらない。

 何故なら、機関とは今は()()()()()()()()()()

 健康な状態であれば、全力疾走したからと言ってどうにかなるものでは無い。

 だから行けると、紀沙がそう確信した時。

 

 

『未熟者』

 

 

 男の声とも少女の声とも取れる声が、響いて来た。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 おい、と、『ムサシ』艦上にいる誰かが言った。

 ああ、と、同じように誰かが応じた。

 千早翔像と『ムサシ』について来た彼らの目の前には、雪が降っていた。

 季節は確かに冬のヨーロッパ、雪くらい珍しくも無いのかもしれない。

 

 

 紅い、雪だった。

 紅い雪が深々と『ムサシ』の上に降り積もっていく、しかもこの雪は空から降っていなかった。

 どこからともなく降り積もる紅い雪は幻想的で、凄惨で、白雪に鮮明に朱を引いたようで。

 綺麗だな、と誰かが言った。

 

 

「この、未熟者め」

 

 

 紅雪を肩に積もらせた姿勢で、翔像は言った。

 その首にはムサシの細い腕が回されていて、ムサシのメンタルモデル自身はふわりと宙に浮いていた。

 ムサシの白いロングスカートに覆われた足が、翔像の肩先で揺れている。

 彼女は両目を閉じたまま翔像の耳元に口を寄せて、何事かを囁いている。

 心なしか、白雪の如き頬が薔薇色に染まっているように見えた。

 

 

「息子は霧との関係を対等に置き過ぎて、人と艦という互いの領分を越えられず」

 

 

 淡々とした声音には、静かな怒りがあった。

 沸々と地の底で煮え滾るマグマのように、声は震えてすらいた。

 

 

「娘は霧を拒絶するあまり、本来の能力のほとんどを活かしきれず」

 

 

 は、と、熱を孕んだ吐息が翔像の耳朶を打つ。

 ぎゅう、と、ムサシが身を丸めるようにして翔像に抱き着く力を強めた。

 翔像の声が強くなるにつれて、どこか辛そうに眉を寄せている。

 

 

「そんなことで」

 

 

 ざわざわと、海面が揺れ始める。

 『ムサシ』の側面装甲が再びスライドし、廃熱の熱気が海面を撫でた。

 ただ今度はスライドするだけで無く、上下左右に艦が分割されていく。

 艦の中心、いわば腹とも言うべき場所から膨大なエネルギーが放出され始める。

 

 

 いくつものレンズ状の装置が連なったそれは、大戦艦や重巡洋艦のものとは比べ物にならない程に数が多く、そして大きい。

 連結式の重力子レンズは、相互に作用し合いながら出力を無尽蔵に高めていく。

 そのエネルギーはやがて、周辺の空間にまで影響を与え始める。

 

 

「そんなことで、世界を、人を変えられると思っているのか」

「……ま。お父様……」

 

 

 ぐぉんぐぉんと言う唸り声にも似た音が、スコットランド沖に響き渡る。

 陸地の人々は、この声を悪魔の唸りとでも思うのだろうか。

 

 

「この」

「アアッ……」

「この、愚か者共が!!」

 

 

 びくんっ、と、ムサシが身体を大きく逸らせた。

 

 

「アアアアアアァ――――ッッ!!」

 

 

 次の瞬間、海が砕けた。

 鼓膜が破れんばかりの音響と衝撃が海面を爆発させ、海水を吹き飛ばした。

 巻き上げられた海水が、数十秒後に雨となって降り注ぐ。

 それでもなお、『ムサシ』艦上には紅い雪が降り続いていた――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 嬌声。

 聞くだけでこちらが蕩けてしまいそうな、そんな声が海に響き渡った。

 艦体を打つ海水の雨が、いやに大きく聞こえる。

 

 

『可哀想な子』

 

 

 そんな中で、紀沙の耳には確かに届いていた。

 熱に浮かされているような、それでいて夢中になっているような少女の声だ。

 紀沙には相手が誰なのかわかっている。

 

 

『心から相手を受け入れるだけで、こんなにも気持ち良くなれるのに』

「五月蝿い、()()()()……!」

 

 

 状況は最悪だった。

 今まで超重力砲発射体勢の際に海を割った霧は何隻もいたが、『ムサシ』のそれは規模が違った。

 半径2キロメートル、それだけの範囲の海が円形に()()()()()()()()()

 ちょうど、コップの形に海をくり()いた状態だ。

 

 

 その中心に『ムサシ』がいて、そしてイ404がいる。

 イ404の艦体の感覚をダイレクトに感じている紀沙からしてみれば、全身を何者かの腕で絡め取られたかのような気がしている。

 そしてその「腕」とは、要するに『ムサシ』の超重力砲のロックビームなのだった。

 これまでに無い程に強固で、振りほどくことができない。

 

 

『大丈夫さ、艦長殿』

 

 

 耳元で、スミノの声がした。

 

 

『あんな奴、ボクらの敵じゃない。そうだろう?』

 

 

 じわりと、シャツの肩口に赤い染みができる。

 噛まれたのだと、はっきりわかった。

 背骨と脊髄に差し込まれた404のコードの感触に、眉を寄せる。

 その不快さは、とても「大丈夫」とは思えない。

 

 

『艦長殿、ほら』

「……五月蝿い。黙ってて」

 

 

 動けない。

 イ404は動けない、艦を動かす者の心が硬直的だからだ。

 躍動感溢れる『ムサシ』の動きとは、まさに雲泥の差がある。

 

 

 でも、紀沙には出来ないのだ。

 霧であるスミノと完全に心を通わせることなど、出来るはずが無い。

 兄とイオナのようにも、父とムサシのようにもなれない。

 あんな風になんて、死んだってなれない。

 

 

『……だから、愚かだと言うのだ』

 

 

 愚かでも良い。

 

 

『そんなことで、人の革新など起こせるものか』

 

 

 そんなものはいらない。

 紀沙はただ、もっと簡単なものが欲しかった。

 間違っているだろう、兄以上に不器用で、頑ななのかもしれない、しかし。

 

 

「――――とうさん!」

 

 

 家族を取り戻したいと思うことの、何が悪いと言うのか!

 ガクン、と、イ404の艦体が再び大きく揺れた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 イ401と『マツシマ』3隻による合体超重力砲は、今まで霧に確認された兵器の中では2、3を争う出力規模――なお1番は『タカオ』達が『レキシントン』に見せたと言う重巡洋艦以上のコア4つを連携させての4重超重力砲である――であり、威力だけならあの『コンゴウ』の衛星砲をも上回っている。

 だから一言で表現するのであれば、当たれば勝ち、と言う兵器だった。

 

 

「重力子エネルギー臨界点」

『20秒以上は保たない! 撃つなら早く撃って!』

 

 

 401の発令所に、イオナといおりの声が響く。

 超重力砲発射時特有の振動の中で、群像は戦略モニターに映し出された戦況を見つめていた。

 杏平が握っている照準機はすでに、『ムサシ』艦底部にその狙いを定めていた。

 いつかの戦いのように、紀沙が相手の気を引いている内に体勢を整えた形だ。

 

 

 心配するな紀沙、と、群像は思った。

 自分だって、何も翔像を殺そうと言うわけでは無いのだ。

 ただ、超えたい。

 超えた先に何があるのかはまだわからないが、父を超えなければ何も成せない、そんな気がするのだ。

 

 

「新超重力砲……」

 

 

 だから。

 

 

「……()えええぇぇ――――ッ!!」

 

 

 だから、躊躇すること無く撃った。

 極太の重力子ビームが、『ムサシ』の作り出した円を一直線に貫く。

 それは円の中心にいる『ムサシ』にまで届き、強制波動装甲(クラインフィールド)を貫き、航行不能に陥らせるだろうと思えた。

 

 

 過去、この一撃で沈黙させられた霧の艦艇は少なくない。

 威力は実証済みで、疑う余地も無い。

 一方で群像は、ある可能性について危惧してもいた。

 何故ならば、かつてこの攻撃を防いで見せた艦があるからだ。

 

 

「群像」

「……!」

 

 

 U2501、あの艦にはイ401の超重力砲が通用しなかった。

 そして危惧した通り、『ムサシ』はあのシステムを持っていた。

 超重力砲の膨大なエネルギーを8の字の形に受け流して循環させる、『ミラーリングシステム』!

 だが、このシステムの破り方ならすでに知っていた。

 

 

『うらぁっ! 姐さんから離れろお――――っ!』

 

 

 イ15、トーコの一切の武装を持たないシンプルな艦体が、滝を割るように海の中から円の内側へと飛び出して来た。

 『ムサシ』は超重力砲とミラーリングシステムの制御で手一杯で、姿勢制御までは出来ない。

 そこへ404を助けるべく飛び出して来たイ15が突撃すれば、おのずから結果は明らかだった。

 

 

 いける、と、そう思った。

 この時、群像は勝ったと思った。

 イ15は何にも遮られること無くに直進し、今にも『ムサシ』に手が届きそうに。

 

 

『だから愚かだと言うのだ、お前は』

 

 

 しかし、そうはならなかった。

 何故か?

 一言で言えば、そう、一言で終わる。

 

 

 超戦艦の演算力が、予想を遥かに超えて強大だったと言うだけだ。

 

 

 つまり、イ404への超重力砲の照準は変わらず。

 イ401の超重力砲へのミラーリングシステムの稼動も変わらず。

 かつ、イ15を迎撃して海底へと叩き付けて。

 それでいてなお、出力を上昇させることが出来る。

 それだけのことだった。

 

 

「よせ」

 

 

 イ401は、動けない。

 超重力砲を撃った直後と言うことにも加えて、元々のダメージも酷かった。

 だから動かず、『ムサシ』がまだ動けるだろう404を狙うのは当然だった。

 艦の中心から放たれる砲撃が404を向くのも、当たり前の戦術判断だった。

 

 

「よせ、親父……!」

 

 

 そして、群像にはそれを止める術が無い。

 むしろミラーリングシステムの衝撃から自分達を守るのが精一杯で、404を助ける余裕は無かった。

 あの時は成功した。

 失敗すればどうなるかと言う例が、実際に目の前で起きようとしていることに、群像の内心に乱れが生じた。

 

 

 その時だった。

 イ15が飛び出して来た反対側から、しかしイ15とは比べ物にならない程に巨大な艦体が飛び出して来た。

 滝の如く流れる海水を爆発させて飛び出してきたのは、『ムサシ』程では無いが大きな戦艦で。

 ――――『クイーン・エリザベス』だった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――横須賀沖。

 第四施設焼失事件に関する調査を終えて、タカオ達は海に出た。

 胸中がざわめく感覚、不安、それを抱えての出航だった。

 兆候はあった。

 

 

 霧の艦隊内部の不協和音。

 各艦隊旗艦同士が独自の動きを始め、中には霧同士で小競り合いを始める例が増えた。

 大西洋方面欧州艦隊の崩壊はその最たる例で、対人類の海洋封鎖すら危うくなっている。

 『ヤマト』と『ムサシ』に霧を率いる気が無いこと、そして何よりも『アドミラリティ・コード』の()()が最大の原因だった――のだが。

 

 

「『アドミラリティ・コード』なんて、()()()()()

 

 

 ガリ、と親指の爪先を噛みながら、タカオは水平線を睨んでいた。

 その表情は、口惜しさと焦燥感に染まっている。

 そうだ、どうして気付かなかったのだ、と。

 気付いてしまえば、何もかもがおかしいでは無いか、と。

 

 

 何故、自分達は見たことも無い『アドミラリティ・コード』に盲目的に従っている?

 それでいて何故、各コアに演算力の格差があり、あまつさえ旗艦とそれ以外と言うような()()()()が存在するのか?

 我々はどこから来たのか? 我々は何者か? 我々はどこへ行くのか?

 

 

「『ヤマト』、『ムサシ』……!」

 

 

 あの2隻だけが、特別だ。

 明らかにあの2隻は真実を知っていて、しかも別の思惑で動いている。

 他の霧の艦艇は、タカオ自身も含めて『ヤマト』と『ムサシ』の出来の悪い模造品のようなものだ。

 無垢に規範(コード)を信じて動く、木偶(でく)人形に過ぎない。

 

 

「私は、私達は違うわよ」

 

 

 千早家との出会いが、ただの木偶人形だったタカオを変えた。

 沙保里との出会いが、タカオを自我ある存在へと歩き出させた。

 そして第四施設焼失事件の情報に仕掛けられていた縛りを振り払った今、タカオは確実に自立への道を歩み始めている。

 彼女はもはや、『アドミラリティ・コード』の従僕では無くなっていた。

 

 

「『ナガト』……!」

 

 

 水平線の向こう側から、黒い波がやってくる。

 今や東洋方面艦隊唯一の正旗艦『ナガト』率いる、巡航艦隊だ。

 おそらく、自分達を止めに来たのだろう。

 17年前の<大海戦>の際、人類の艦隊はこんな気持ちだったのだろうか。

 ――――皮肉なことに、タカオ達は人類(日本)を守るように背にしていた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 日本の軍・政府機関が横須賀の異変を注意深く見守っていたこの時、横須賀沖に戻って来た艦があった。

 アメリカ西海岸から太平洋を渡り切り、帰還を果たした『白鯨』である。

 表向きは、振動弾頭輸送任務が完了したための帰還である。

 艦内にはアメリカ軍から譲渡された各種物資が満載されていて、SSTOに換算して3往復分程の価値があった。

 

 

「やっとの思いで帰って来たってのに」

 

 

 もちろん、道中はけして楽なものでは無かった。

 霧の艦艇、場合によっては艦隊を何度もやり過ごさなければならず、何日も海底でじっとしていなければならないこともあった。

 一度など区画の一部をパージして、撃沈を装った程だ。

 

 

 ただ、イ号艦隊と別行動を取ったことが有利に生きた。

 簡単に言うと霧に脅威に思われなくなったので、そこまでしつこくは追われなかったのだ。

 『白鯨』の面々は知る由も無いが、霧の太平洋艦隊に混乱が広がっていたと言うのも要因の1つだ。

 『ビスマルク』と『フッド』の確執と<緋色の艦隊>の登場に起因する霧の艦隊の分裂騒動は、収束するどころか拡大する一方だった。

 

 

「まさか玄関前で霧が艦隊規模でドンパチ始めるとはねぇ」

 

 

 艦長席で頭を抱える駒城に向かって、結局アメリカに戻らなかったクルツはニヤリと笑って見せた。

 航行中は陸戦の機会が無くて腕が鈍ってしまうとぼやいていたが、戦闘の気配を感じると途端に上機嫌になるのだ。

 根っからの軍人と言うか、単純に騒ぎが好きなのかもしれない。

 

 

「どうするね艦長、艦の行動に関してはキミに一任されている。一発カマしてやるも良し、隠れるも逃げるも良しだ」

「はぁ」

「オレとしては白兵戦があると助かるねぇ」

移乗攻撃(アボルダージュ)でもするつもりか? 冗談キツいぞ」

 

 

 浦上とクルツはどちらかと言うとやる気満々のようだが、艦長の駒城はいまひとつ積極的でない様子だった。

 修羅場をいくつも潜り抜けたとは言え、霧の艦隊戦に介入できる程に『白鯨』が強力だとも思っていない。

 太平洋を渡れたのはまず運が良かったこと、そして良い助言があったからだ。

 

 

「響少尉は、どう思われますか」

「そうですね」

 

 

 この時点で、真瑠璃は相当待遇を外されて正式に少尉になっていた。

 同期にあたる紀沙とは随分と差が開いていたが、それでも若い方だった。

 彼女の頭上では今、海上で『ナガト』と『タカオ』の艦隊が向かい合っている。

 元401クルーとして『白鯨』に貴重な助言を与えてきた真瑠璃は、自分達がどう行動するべきか、慎重に考えていた。

 

 

(ここをどうするのが、群像くん達にとって一番良いかしらね)

 

 

 ただし、彼女の心は今もイ号潜水艦隊と共にある。

 人は結局、国では無く人に忠誠を誓うものなのかもしれない。

 国よりも人を、理念よりも愛を。

 真瑠璃はすぐ側の母国よりも、遥か遠方の群像たちを想っていたのだった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 その登場は、あまりにも予想外だった。

 誰も予測していなかったし、姿を見せた時には誰もが唖然とした。

 大戦艦『クイーン・エリザベス』、そしてそのメンタルモデルであるリエル。

 今、彼女はイ404達を守るように、『ムサシ』に対して横腹を晒しているのだった。

 

 

 教会であれ程までに敵対していた彼女が、どうしてそんな行動に出たのか。

 もしかしたら、リエル=『クイーン・エリザベス』自身も理解していないのかもしれない。

 確かなことは今、彼女がイ号艦隊を庇うために出てきたと言うことだった。

 

 

「そう」

 

 

 自分の射線を遮ろうとするリエル=『クイーン・エリザベス』を見て、その艦上で両手を広げてこちらを見つめているメンタルモデルの少女を見て、ムサシは頷いた。

 この霧の艦艇もまた、自分でも理解できない、突き動かされるべき本能(こころ)を得たのだろうと。

 だからムサシは、リエル=『クイーン・エリザベス』に一切の斟酌(しんしゃく)を与えなかった。

 

 

「さようなら、『クイーン・エリザベス』」

 

 

 哀しげに、しかし断固として。

 『ムサシ』の艦体から放たれた、地球の磁場をも揺るがす超重力砲。

 それは()()を繰り返しながら円形のフィールドを駆け巡り、やがてすべてを光で包み込んでいった――――……。




最後までお読み頂き有難うございます、竜華零です。

と言うわけで、ムサシ超強いです。
これでもかってくらい強いので、はたして私はこのムサシを倒せるのでしょうか(え)

それでは、また次回。

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