蒼き鋼のアルペジオ―灰色の航路―   作:竜華零

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Depth097:「昨日の敵は」

 

 今一度、時間軸を巻き戻す。

 日本で旧第四施設での騒動とほぼ時を同じくして、小笠原沖で大きな水柱が上がった。

 小笠原の島々に、海水の雨が降った。

 その中心に、2隻の巨大な戦艦がいた。

 

 

「不覚、だったわ……」

 

 

 その内の1隻の甲板上で、袴姿の女が膝を折っていた。

 顔は熱病に浮かされているかのように紅潮し、瞳は潤み、吐息には熱を孕む。

 指先を動かすのも億劫なようで、甲板に膝をついた姿勢のまま、もう1隻の甲板上を見つめていた。

 そこで、2人のメンタルモデルによる戦いが繰り広げられていた。

 

 

 『ナガト』――もう1人の、花魁風の姿をした『ナガト』と、同じく『ヤマト』の片割れである『コトノ』の、戦いだった。

 戦いと言っても、ほぼ一方的に『ナガト』が襲い掛かっている形だ。

 片割れの暴走を、彼女は止めることが出来なかった。

 

 

(あの時、『ユキカゼ』に何かをされた……)

 

 

 『ユキカゼ』に身を貫かれたその瞬間から、『ナガト』は自身を自由にすることが出来なくなった。

 何か、強い異物感を感じ続けている。

 操られていると言うよりは、信号を受け続けていると言った方が正しい気がする。

 今も片割れのメンタルモデルの暴走を止めることが出来ないどころか、コアを通じて逆に影響を羽化てしまっている状態だ。

 

 

「この『ナガト』が、何て様だ」

 

 

 かつては総旗艦まで務めた『ナガト』をもってしても、逆らえない力だ。

 ()()()は独特な力を使うが、これはさらに特異だ。

 屈辱――そう、これが屈辱だ。

 だが、しかし、この力の主は1つだけ見落としていることがある。

 

 

 それは、この『ナガト』が()()()()()()の持ち主だと言うことだ。

 霧の艦艇の中でも特に少ない、希少なコアである。

 確かに片割れの暴走の影響を受けて動くこともままならない、が、それは()()()()()()()可能性を秘めていると言うことだった。

 胸中の苦い味、屈辱――雪がずには、いられない、が。

 

 

「それまで、あの『ヤマト』……いえ、『コトノ』、か。彼女が保ってくれるかどうか……」

 

 

 そこは、いまひとつ不安だった。

 『ナガト』は『ヤマト』は良く知っているが、『コトノ』はそうでは無いかったからだ。

 そしてそんな『ナガト』の目の前で、『ヤマト』甲板上で激しい衝撃音が響いてきた。

 はたして、この戦いの結末はどうなるか……『ナガト』にもわからなかった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 『ナガト』は、霧の中でも特別な存在だった。

 総旗艦『ヤマト』が霧の艦隊へ()()する以前に、総旗艦の地位にあった霧の艦艇。

 霧に3隻しかいない――紀沙を含めば4隻だが――超戦艦に、最も近い大戦艦。

 最強の大戦艦、と言って差し支えないだろう。

 

 

 とは言え、コトノもさほど良く『ナガト』のことを知っているわけでは無い。

 霧の艦艇のほとんどは『ヤマト』の存在しか知らなかったし、総旗艦の地位を引き継いだ時には、『ナガト』はメンタルモデルを保有していなかった。

 むしろ、これがほぼ初対面と言っても良かった。

 

 

「『ナガト』……ッ。可哀そうに、わかるよ」

 

 

 『ヤマト』の艦体がそうそう破壊されることは無い。

 まして、『ナガト』は半身だ。

 力の強さで言えば、コトノの方が遥かに上だ。

 しかし今はタイミングが悪い、コトノの力の大半は『ハシラジマ』戦の方に割かれているからだ。

 

 

 もしここで『ナガト』への対応に力を割いてしまうと、演算をやり直さなければならなくなってしまう。

 難しいと言うよりも、『ハシラジマ』側が間に合わなくなるだろう。

 だから演算は続けつつ、『ナガト』の攻撃を凌がなければならない。

 そうなってくると、『ナガト』は力が強すぎるのだった。

 

 

「『ナガト』が、苦しんでいるのが」

 

 

 屈辱だろう。

 一度は総旗艦まで務めた霧の大戦艦が、()()()の走狗に成り下がっているのだ。

 屈辱を感じていないはずが無く、その証拠にコトノにはそれが伝わってきていた。

 伝わってくると言うことは、『ナガト』自身が消えてしまったわけでは無いはずだ。

 とは言え、どうやって解放できるのか、今のところわからない。

 

 

「せめて、『ヤマト』がいてくれればなぁ」

 

 

 いない相手を求めるのは、意味の無いことだとはわかっている。

 それでも、思ってしまうことは止めようが無い。

 

 

『情けないわね、それでも総旗艦?』

 

 

 だから総旗艦(ヤマト)じゃねっての、と、頭の中で響いた声に応じた。

 秘匿通信だ。

 『ナガト』の手から逃れながら、意識をそちらに向けるのは難儀だったが、無視をさせないだけの強い意思を感じた。

 何と言うか、肩をガッと掴まれるようなイメージだった。

 

 

『仕方ないわね、私達をそこに呼びなさい!』

 

 

 さっきまで拒否っていたくせに、身勝手なことだ。

 しかしそれを言ってまたへそを曲げられても困るので、何も言わなかった。

 大人になったなぁ、などと、コトノは思った。

 『ナガト』から大きく距離を取って、主砲の上に跳んだ。

 そして、そのまま主砲に掌を乗せると、幾何学的な光の紋様が広がる。

 

 

「……!」

 

 

 激しく輝き始めた智の紋章(イデア・クレスト)に、『ナガト』が顔を上げる。

 光を失った両の瞳に、光が散っていく。

 その先に姿を現したのは、蒼き重巡洋艦であった――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 重巡洋艦『タカオ』は、この2年間何をしていたのか?

 その問いに答えるのは、非常に難しい。

 いや、やっていたことは単純なのだ。

 人間に置き換えて考えてみると、本当に一言か二言で終わる程度のものだ。

 

 

 まず、彼女の髪型からして

 蒼い髪を片側のうなじのあたりで結っていて、蒼い薔薇の装飾の髪留めを使っていた。

 ネイビーのワンピースドレスで、甲板の手すりに――まるで、どこかに座っていたのをそのまま移動させたかのように――足を組んで座っていた。

 首元や手首にパールのアクセサリーまで着けていて、まるで、そう。

 

 

「……『タカオ』?」

 

 

 目を、閉じていた。

 海風に髪が揺れて、陶器のような白い肌の上を滑る。

 まるで何かに聞き入っている様子で、喚び出された『ヤマト』甲板上の出来事など何も気付いていないようだった。

 一人だけ、纏っている空気が違う。

 

 

「あの、ちょっとー? もしもーし」

「五月蠅いわね、静かにしなさい」

 

 

 ええええええええぇぇぇ。

 ……とでも言いたげな顔をするコトノに、『タカオ』は一切関心を示さなかった。

 ただコトノはそれで良くても、『ナガト』はそうはいかない。

 新たに登場した『タカオ』の存在に、そちらへと目を向けていた。

 

 

 攻撃対象を変えた、コトノにはそれがわかった。

 おそらく、『タカオ』の強いコアの反応に引かれたのだろう。

 だと言うのに、『タカオ』は別段気を払っている様子も無かった。

 警告を発すべきか、いや、また「五月蠅い」と言われるだけか。

 

 

「……ッ、『タカオ』!」

 

 

 『ナガト』が駆け出した、流石にコトノも声を上げる。

 しかし、それでも『タカオ』は何かに聞き入った様子のまま、動かなかった。

 そんな『タカオ』に、『ナガト』が飛び掛かった。

 腕を伸ばし、『タカオ』の顔を覆おうとする、そして。 

 

 

「――――――――ッッ!?」

 

 

 一瞬、コトノにすら何が起こったのかわからなかった。

 『ナガト』が『コトノ』に飛び掛かった、ここまでは良い。

 だがその次の瞬間、『ナガト』の身体が『ヤマト』の甲板に叩きつけられていた。

 いくら今の『ナガト』が元々の半分以下の力しか無いとは言え、重巡洋艦クラスのメンタルモデルの力で一蹴できる程に弱くは無いだろう。

 

 

「五月蠅いわよ、『ナガト』」

 

 

 だと言うのに、『タカオ』は動いてすらいない。

 最初に現れた時と同じ姿勢のまま、目を閉じたまま。

 どこか、うっとりとした顔で。

 

 

「『マヤ』と『アタゴ』のコンサートが、良く聞こえないじゃない」

 

 

 重巡洋艦『タカオ』。

 今日は、彼女の妹達の2年間に渡る()()()()()()()()()()()()の日だった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 霧の艦隊に、激震が走った。

 全ての霧の旗艦達が驚愕を隠し切れずに、共有ネットワーク上が俄かに騒がしくなった。

 それだけ、『コロンビア』を吹っ飛ばした『シャーマン・ジャンボ』の一撃は衝撃的だったのだ。

 何しろ、あの()()()にほとんど初めて、有効なダメージを与えたのだから。

 

 

 一度、『アカシ』が『ボイジャー2号』を殴り飛ばしたが、あれは言うなれば鎧の上から叩きつけたに過ぎない。

 『シャーマン・ジャンボ』の一撃は、それとは違う。

 ()()()()に、ダメージを通している。

 だからだろう、『ガングート』の甲板上で起き上がった『コロンビア』が、何かを探るように『シャーマン・ジャンボ』を見つめていた。

 

 

「あーらら? それもしかして警戒態勢ってやつかな? 参ったなぁ、俺みたいなオジサンにそんな警戒されてもねぇ」

「ねぇねぇ、おじさんっ。僕もっ、僕も見たい!」

「あーわてんなって『チャーフィー』。こう言う時ぁ、おいおいこらこら」

 

 

 砲塔の上に座っていた『シャーマン・ジャンボ』の脇から、にょきにょきと小さな男の子が顔を出した。

 こちらも<騎士団>の戦車、『チャーフィー』だった。

 流石に2両で走るには狭かったのか、本体としての戦車は出していない。

 いや、『ガングート』らにとっては何両いるとかそう言う話では無かった。

 

 

「どう言うことだ……!?」

『それについては、私の方から説明させてもらおう』

 

 

 その時、霧の共有チャネルを通じて新たな通信が入った。

 発信元は、『ガングート』の隣に寄せているUボートだった。

 

 

『霧の艦隊諸君。こちらは<緋色の艦隊>所属、『U-2501』艦長ゾルダン・スタークだ』

 

 

 ゾルダン・スターク。

 正直、いったい何隻の霧の艦艇が今この名前をマークしていただろう。

 千早翔像より密命を帯びて長い間潜っていた彼が、今、戦場に戻ってきた。

 <騎士団>と言う、第二の援軍を引き連れて。

 

 

『出来る限り細かく話したいところだが、状況が状況だ。手短になってしまうことを許してほしい』

 

 

 霧の艦艇の攻撃は、()()()に対して致命打にはならない。

 だが<騎士団>の攻撃は、()()()に対して有効打となる。

 霧の艦艇と<騎士団>の攻撃に、いったいどのような違いがあると言うのか。

 それは、この『ハシラジマ』決戦の行く末を決定付ける情報になるのだろう。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 そもそも、()()()と<騎士団>にはある共通点がある。

 それは、霧の攻撃に対して強固な防御力を持っていると言うことだ。

 実際、霧の艦隊は黒海や地中海では<騎士団>に対して劣勢だった。

 黒海艦隊旗艦『セヴァストポリ』は、<騎士団>に撃沈されたのだから。

 

 

「その原因は、<騎士団>の扱うナノマテリアルが霧のナノマテリアルとは異なっていたことにある」

 

 

 例えば霧同士の戦いであれば、彼女達は互いのクラインフィールドにダメージを与えることで、最終的に攻撃を直撃させることが出来る。

 これは、お互いに霧であるが故に、能力の根っこの部分が同じだからだ。

 同じ原理の力だから、攻撃を当てる方法が理解できると言うことだ。

 

 

 ここまで説明すれば、あと一歩だ。

 霧が<騎士団>に有効打を与えられなかったのは、<騎士団>のナノマテリアル――つまり、クラインフィールドを抜く原理を知らなかったからだ。

 つまり今、()()()に対して有効な攻撃が出来ていない理由もそれだ。

 霧が、()()()の防御の抜き方を理解できていないのである。

 

 

『だが、それではまだ半分だ。ゾルダン・スターク』

 

 

 ゾルダンは『U-2501』の発令所で、ロムアルドと共にその声を聞いた。

 彼の説明に対して直接的な反応を返してくるのは、『ハシラジマ』にいる『コンゴウ』だけだ。

 他の霧は静観と言うことだろう、余計なことを話してゾルダンの説明を遅らせたくは無いと言うことか。

 あるいは、『コンゴウ』が霧の信を集め始めていると言うことなのかもしれない。

 

 

『我々の力が通じない理由はわかった。だが、<騎士団>の攻撃が通じる理由がわからない』

「……それこそが、キミ達が<騎士団>に勝てなかった理由だ」

『何だと?』

「キミ達とて、<騎士団>の防御を破るべく経験値を蓄えていたはずだ」

 

 

 霧も馬鹿では無い、対<騎士団>の情報を蓄積していたはずだ。

 当然、<騎士団>のクラインフィールドを破るための試行錯誤も含まれる。

 だが、それらは全て実を結ばなかった。

 ――――何故か?

 

 

「<騎士団>は、ナノマテリアルの()を自在に変えられる」

 

 

 構成値、あるいは組成と言っても良いかもしれない。

 ゾルダンは、それを「色」と表現している。

 <騎士団>は霧との戦いにおいて、自分達のナノマテリアルの色をカメレオンのように変えることで、霧の多彩な攻撃を切り抜けてきたのだ。

 ()()()に対する攻撃でも、<騎士団>は同じことをしたのだ。

 

 

()()()と言えど全能では無い。また、無敵でも無い」

 

 

 この世に全能な者などいない、この世に完全に無能な者がいないように。

 この世に無敵な者などいない、この世に完全な弱者がいないように。

 どんな状況でも、必ず突破口は存在するし。

 どんな状況でも、対応策を持っている者が存在する。

 

 

「さぁ、霧の諸君。正念場だぞ」

 

 

 何しろ、霧はまだ全ての力を投入していないし、人類は登場すらしていない。

 まして()()()に至っては、本体すら姿を見せていない。

 むしろ、ここからが本番だ。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 本番を前に、少しは光明が見えてきたと言うことか。

 『ハシラジマ』の『ヒエイ』は、ゾルダンの話を聞いてそう思った。

 とは言え、現状は敵にダメージを与える方法がわかったと言うだけだ。

 ()()()側の物量が圧倒的だと言う点は、一切変わっていない。

 

 

「それにしても、()()()はいつの間にこれだけの戦力を準備していたのでしょう」

「『ヒエイ』、お前は不思議に思ったことは無いか?」

「不思議に……ですか?」

 

 

 『コンゴウ』の言葉に、『ヒエイ』は不思議そうに首を傾げた。

 一方で、安心も感じている。

 やはり『ヒエイ』は、こうして『コンゴウ』の副官的な位置にいるのが性に合っているのだった。

 

 

「古今東西、ありとあらゆる海域で船舶や航空機が忽然と姿を消すことがある」

 

 

 フロリダ沖のバミューダトライアングルの伝説などは、その典型だ。

 そして似たような伝承は、それこそ枚挙に暇がない。

 いつの時代も、年に何機もの航空機や何隻もの船舶が行方不明になる。

 どれだけ時代が進もうと、技術が進歩しようと、何故か改善されることが無い。

 

 

「もしかしたならそれは、深い海底から表に出てきたナノマテリアルが引き起こしていたのでは無いか?」

 

 

 クラーケンやセイレーン等の()()()()の伝説は、あるいは事実を基にしていたのだとすれば?

 ナノマテリアルが形作るのが<霧の艦隊>だけとは、限らない。

 そして()()()は霧に限りなく近い、遥か宇宙の寄生生物だと言う。

 地球に堆積しているナノマテリアルが反応した結果、あのような黒い怪物の姿になったのでは無いだろうか。

 

 

「まぁ、だとしたらこの地球も私達のホームってわけじゃ……ん?」

 

 

 2人と一緒にいた『イセ』が、不意に何かに気付いたように顎を上げた。

 方角的には、北だ。

 北の方角から、何かが近づいてきている。

 『イセ』がそれに気付いたのは、彼女が最も大事に想っている相手の気配を感じたからだ。

 

 

「『ヒュウガ』ちゃん!」

「『ヒュウガ』だと?」

 

 

 不意の情報に、『コンゴウ』は眉根を寄せた。

 『ヒュウガ』は、イ401と行動を共にしているはずだ。

 姉である『イセ』が感知したと言うことは、『ヒュウガ』の側でも同じだろう。

 その事実は、『コンゴウ』達に一つの事実を教えてくれた。

 すなわちこの『ハシラジマ』決戦の、クライマックスがやってきたと言うことだ。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――これより、『ハシラジマ』海域に突入する。

 その命令に先立って、紀沙は全員に作戦を伝えた。

 それは他のイ401や『ヒュウガ』、そして『白鯨』達には伝えていない作戦だ。

 ある意味で、イ404の本当の作戦と言えた。

 

 

 それだけ重要な作戦でありながら、紀沙は直前のこの時になって、その作戦について話した。

 ここまで話さなかったのは、紀沙自身にも迷いがあったのかもしれない。

 それでも、紀沙はこの作戦に懸けることにした。

 この作戦こそが、世界を救うと信じている。

 

 

「あー……本気なんだよな、艦長は」

 

 

 ポリポリと頭を掻きながら、冬馬はそう言った。

 恋や梓も、難しい顔をしている。

 機関室から反応が無いのは、蒔絵を筆頭に黙殺することで反対の意思を示しているのだろう。

 それだけ、紀沙が話した作戦は()()()()だったのだ。

 

 

「……賛成できないよ」

 

 

 他に誰も言わないなら自分が、と、思ったのだろう。

 良治が、真っすぐに紀沙の横顔を見つめていた。

 紀沙もまた、ゆっくりと良治の方を向いた。

 

 

「それは、確かに。紀沙ちゃんの作戦なら、世界は救えるのかもしれない。それは……凄いよ。本当に凄いと思う」

 

 

 それもまた、事実だ。

 紀沙の作戦は、成功すれば間違いなく()()()()()

 たとえ失敗したとしても、()()()には勝利することが出来る。

 これは、そう言う類の作戦計画だった。

 

 

「でも、これは……誰も幸せになれないじゃないか」

()()()は、幸せになれます」

 

 

 重要なのは、その()()()の範囲だった。

 これもまた、作戦の成否によって変わるのだろう。

 考えに考え抜いた末に出した、作戦だった。

 

 

「まぁ、乗りかかった(フネ)だ。だから今さら降りるつもりは無いよ。でも」

 

 

 やるせない、そんな気配を漂わせて、梓は大きな溜息を吐いた。

 でも、の後は続かない。

 ただ首を振り、その後は唇を真一文字に引き結んだ。

 冬馬でさえ、二の句を告げないでいる。

 

 

 理解して貰えるとは、思っていなかった。

 消極的にでも協力してくれれば、むしろ儲けものだろう。

 幸いだったのは、クルー達が結局は軍人だと言うことだ。

 命令には、従う。

 

 

『協力するわぁ』

 

 

 その時、意外なところから賛意の声が上がった。

 機関室から、あおいだった。

 通信画面に顔を映し出したあおいは、いつものように柔らかな笑顔を浮かべていた。

 そして、彼女は言った。

 

 

『その代わり、お姉さんのお願いを叶えてくれる?』

「お願い、ですか」

『あのねぇ……』

 

 

 それはまぁ、聞ける願いであれば聞きたいとは思う。

 末席とは言え代将の地位にある紀沙だから、融通もかなり効く方だ。

 だが次のあおいの口から語られた「お願い」は、紀沙が予想だにしなかったものだった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 




最後までお読み頂き有難うございます、竜華零です。

何だかんだ97話、もう少しで終わると言いつつ延びる延びる。
とは言え、流石にそろそろ前振りも終わり。
この戦争にも終止符を打たなければ(使命感)

それでは、また次回。

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