【完結】吸血鬼さんは友達が欲しい   作:河蛸

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3.「偽者」

 ぱちりと、目が覚めた。

 瞼が開き、霞んでいた視力のピントが合わさっていく。何百何千何万回と見続けてきた、何一つ変わらない赤一色の毒々しい天井が、視界一面に映り込んだ。

 微睡(まどろ)みから解放され、ぼうっとしている頭が、ゆっくりと現実に馴染んでいく。

 

 一日が始まった。

 

 言葉に出ていたか分からないけれど、そのたった一文がしゃぼん玉のように浮かんできて、直ぐさまぱちんと消える。同時に私の胸の中へ空洞が生まれたかのような、言いようのない虚無感が顔を覗かせて、しかしそれもまた直ぐに萎びて消えてしまった。

 

「…………、」

 

 周囲を見渡す。私が居るこの地下室にこれと言った変化はない。慣れ親しんだ、親しみ過ぎてしまった部屋の劣化具合が、少しだけ増しているように感じる程度だ。古いままの壁と、一部新しくなっている壁との色の差は、ある意味私がつけた思い出の証となって、どれ程ここで過ごしているのかを改めて実感させられる。

 

 私は随分長いこと、この薄暗い地下の部屋へ幽閉されている。他ならぬ実の肉親の手によって、およそ400年以上。でも、かなり前にここに居た時間を数えるのも飽きてしまったから正確には分からない。もしかしたら500年くらい経っているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。まぁ、どうでもいい事だけれど。 

 閉じ込められた理由は、私の持つ能力をアイツが疎ましく思っているからだろう。実際に聞いた訳では無いが、多分そうだ。それ以外に何かあるとは思えない。

 

『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。

 

 私の力を知っている人はみんな、この力をそう呼んでいた。

 私はあらゆる物体に存在する力の歪み、『目』を手のひらに吸い寄せ握り潰すことで、ほぼ全ての存在を粉微塵に破壊することが出来る。例えそれが生き物であっても、強靭な生命力を持つ妖怪であったとしても例外じゃない。

 この力があるから、姉は私をここに閉じ込めた。悔しいけれど当然だとは思う。不条理にも感じはしたけれど異論は無い。私も同じ立場だったら多分そうする。いや、きっと殺してしまうかもしれない。凄まじい不死性を持つ吸血鬼でさえ一握りで葬り去る力が近くにあって、しかもそれが肉親とは言え他人の手にあると来た。怖くないわけがない。言うなれば何時でも自分を気まぐれに処刑出来る執行人が、隣で生活しているようなものなのだから。

 そんな訳で、私はここに長い事閉じ込められているのである。確かこう言うのをハコイリムスメと呼ぶのだったか。まぁ、私は別段、特に外に出たいとも思わないし、そこまで寂しく無いから不満は無い。

 もちろん、こんな気の滅入りそうな場所にずっとずっと閉じ込められていて、それでもあまり苦にならないのにはちゃんとした訳がある。

 

『おはよう、私の愛しいフラン。今日はよく眠れたかね?』

 

 私の頭の中から、唐突に声が響く。優しい大人の男の声。まるで寝起きの娘に語り掛ける父のような、そんな慈愛に満ちた囁きだった。

 そう。これこそが、長年閉じ込められようとも私が寂しさを感じない理由。これこそが、皆から疎まれ蔑まれようとも、理性を保っていられる理由。

 

「ええ、今日もぐっすりと眠れたわ。()()()()()()()

 

 思わず、頬が緩んだ。

 義父の声が頭の中で反響するたびに、私の中には、親を早くに亡くした私たち姉妹へ、実の親の様に沢山の愛情を注いでくれた、親愛なるおじさまが住んでいるんだと、再確認できるからだ。

 

 数百年前。おじさまがある日突然姿を消してから暫くの後、何時からか声だけで頭の中から話しかけてくれるようになった。この声はどうやら私にしか聞こえない様だけれど、こうして毎日起きたらおはようのご挨拶をしてくれて、毎日面白いお話をしてくれて、私の話も楽しそうに聞いてくれる。初めは少し驚いたが、慣れればなんてことは無かった。むしろ、こんなにも近くにおじさまの存在を感じることが出来て嬉しくなった程だ。

 だから寂しくなんてないし、悲しくもない。アイツはこの声が幻覚だなんて言うけれど、そんな訳はないのだ。記憶にあるおじさまと同じ声だし、私が知らないお話をいつも沢山してくれるのだもの。幻聴なんかである筈がない。

 

 だからその事実を何度かアイツに伝えたら、アイツは私の気が触れたと言い放った。おじさまは旅に出られているから、おじさまが貴女の頭に居座るワケが無い。それは紛れもなく幻覚だ。……そう言ってアイツは、魔法や呪術や薬を使って何度も何度も私とおじさまを引き離そうとした。

 

 当然私は拒んだ。数えきれないくらい喧嘩もした。聞き分けの無いアイツの四肢を吹っ飛ばした時もあった。反対に私が肉塊にされかけたこともあった。でも私は耐えた。抵抗を止めれば、アイツは私からおじさまを奪うと分かっていたから。

 

 私は知っている。本当は、おじさまは旅になんか出ていないってことを。

 おじさまから聞いたのだ。当時過激化していた吸血鬼狩りから紅魔館を守るために、集団で攻撃を仕掛けて来た卑怯なバンパイアハンターに殺されてしまって、それでも今よりまだ幼かった私を守護霊として守るために、最後の力を振り絞って私の中へ魂だけを移したのだと。

 アイツは、私がおじさまにとても懐いていたから、おじさまの死を知ったら深く傷つくと思ったのだろう。だから、おじさまが旅に出ただなんて嘘を吐いた。だから私の中に居るおじさまを否定した。幻覚だと思っているアイツが、まだおじさまは生きているんだと信じさせる為にだ。

 その優しさについては素直に感謝する。もしおじさまが私の中に居なくて、おじさまの死を知ったら、アイツの読み通り私は心を痛めていただろう。吸血鬼狩りを行った人間への憎しみで、本当におかしくなっていたかもしれない。

 だがしかし、それとこれとは話は別。だからと言ってアイツがおじさまを否定していい理由になんかならないのだ。

 

『ところでフラン。起きたばかりでまだ頭が晴れていないかもしれないが、上の方から何か感じ取ってはいないかい?』

「え? 感じ取るって、何を?」

『大きな力だよ。まるで満月のエネルギーがそのまま地上へ降り立ったかのような、巨大な力の波動。耳を澄ませるようにして意識してごらん。感じないかい?』

「んー……?」

 

 吸血鬼の感覚を研ぎ澄ませ、私は視線で地上を射抜くように天井を見つめる。数秒の後にふと、地上の一ヵ所から何か大きなエネルギーの波を感じた。昔、私に本気で挑みかかって来た時のアイツが出していた魔力の威圧みたいだ。いや、もしかしたらそれよりも大きいかもしれない。

 

『どうやら分かったようだね』

「うん。でも、あの力はなに? アイツと誰かが喧嘩でもしてるのかな」

『こらこら、お姉さんの事をアイツだなんて呼んではいけないよ。――――それはさておき、どうやらあの力は私自身のもののようだ。信じられない事だがね』

「えっ?」

 

 言葉を噛み砕くのに、一瞬だけ思考へ余白が生まれた。

 直訳するとつまり、『おじさまの力』が上にいるということなのだろうか? おじさまは時々回りくどく物を言うから、よく分からない。

 でも言われてみれば確かに、遥か昔の朧気な記憶の奥底で、おじさまが常にあんな感じの大きな力を放っていた覚えがある。力の質も、とてもよく似ている。

 どういうことだろう。おじさまの魂は私の中に居て、肉体は日の光にさらされて灰にされてしまったと聞いた。なのに、『おじさまの力』だけが外で活動しているというのは、誰がどう聞いても矛盾しきった話だ。そんな話が起こり得る訳が無い。外の世界をあまり知らず、世間一般常識に欠いていると自覚のある私ですらも分かる事だ。

 

「それって……一体何が起こっているの?」 

『さぁ。全容は私にも掴むことは出来ないが……仮説を立てるとしたら、昔私の遺灰を誰かが悪用して、私の力を取り込んだ者が居たのかもしれないな。吸血鬼の灰は、灰を取り込んだ者へ不死の命と力を与える。その誰かさんが上手く私の力を手に入れて、今日の今日まで生き延び続けたというのは、可能性としてあり得ない事ではない』

「てことは、上の奴はおじさまを殺して力を奪った偽者だってこと?」

『その線が濃いだろう。そうだとすれば、この館へ訪れた理由も説明できる。強力な私の灰を取り込んで力を手に入れたとすれば、その者は私の体と馴染み易かったと言うことだ。容姿も私と近いものに変異しているだろう。であれば、レミリアに近づき油断させて襲う事は可能だ。仮に殺害が目的でなくとも、レミリアや紅魔館を利用する可能性だってある。狙いはレミリアの命か、はたまたこの館の財産や権力か』

「でも、何で今更? それに幻想郷は結界で覆われているから、普通には入ってこれないって聞いたよ」

『人間を辞めているのならば、幻想郷へ入り込む手立ても確立出来るだろうから来れたとして不自然ではない。今更なのはおそらく、幻想郷と我々が転移したという情報を入手した時期が遅かったのだろう。大方、手始めに紅魔館を乗っ取り、あわよくば妖怪にとって最後の楽園たる幻想郷も手中に収めようなどと、思いあがった強欲な考えを持っているに違いない。私の灰を取り込んでまで力を手に入れようとしたような愚か者だからな。なんにせよ、放っておけない事に変わりはないが』

 

 だね、と私は二つ返事を返して、フラン、とおじさまは続けた。

 

『このままではレミリアが危ない。咲夜も、美鈴も、パチュリーも、小悪魔も、それに妖精メイドもだ。私の力を無暗に使われれば、皆あっと言う間に殺されてしまうだろう。――――私が何を言いたいのか、お利口なフランなら分かるね?』

「うん。偽者を殺してアイツを……お姉様達を守ってあげればいいんだよね? ()()()()()()()()()()()()()()

『ああ、君は本当に賢い子だ、私の愛しいフランドール。さぁ、そうと決まればお姉さんと皆を助けに行こう。例え敵が私の姿だったとしても遠慮はいらない。徹底的に叩き潰してあげなさい』

 

 分かった、と私はベッドから飛び降りる。そしてこの部屋を密室にしている、パチュリーの封印魔法が施された、たった一つのドアへと足を運んだ。

 

 アイツの事は気に食わないけれど、私の事を大事に思ってくれているのは知っている。他の皆が優しいことも勿論知っている。私が普通にしていれば、時折この部屋に皆がやってくる事があるから知っているのだ。パチュリーと小悪魔は知らない魔法を教えてくれて、さらに色んな本を貸してくれる。綺麗な虹色の『気』ってやつで遊んでくれる美鈴は面白いし、咲夜の料理とおやつはとっても美味しい。何時か私とおじさまに対する誤解が解けて、みんなと楽しく毎日が過ごせるようになる時の為にも、偽物に皆を取られるなんて真っ平御免だ。一人でも欠けてしまったら、今より素敵な紅魔館じゃなくなってしまう。そんなのは絶対に嫌だ。許せるものか。輝かしい皆の笑顔を、ただおじさまの力を奪っただけの偽者なんかに塗りつぶされて良い訳があるもんか。

 

 それに紅魔館だけじゃない。偽物が最終的に幻想郷を支配しようとしているなら、その矛先はいつか自然と黒白の魔法使い―――魔理沙にも向くはずだ。私の、たった一人の友達に。まだ面会したことは無いけれど、あの霊夢にも、いずれは。

 やっぱり魔理沙とはまた遊びたい。会った事のない霊夢とは、お姉様が最近のお気に入りだと言っていた、神社でお茶を飲みながらまったり過ごすというのもやってみたい。勿論弾幕ごっこだってしたい。出ようとは思わないと言ったけれど、やりたい事はまだ沢山残っている。最近になってようやく少し出して貰えるようになったのに、その楽しみを奪われるだなんて、ましてや友達と友達候補が傷つけられるだなんて、想像しただけで腸が煮えくり返る勢いだ。

 

 だから、きゅっとしてあげよう。浅はかにも、敬愛するおじさまの姿を真似てお姉様達を騙そうとする愚か者を。他人から奪った力を我が物顔で振るい、楽園を破壊しようとする大罪人を。その肉片の一片たりともこの世に残す事の無いよう、徹底的に破壊し尽してやろう。何せそれが、私の持つ只唯一の特技なのだから。

 

 私はドアに掛けられている魔法とドア自身の『目』に、手のひらの標準を合わせる。昔まだ力の制御が下手くそだった時に、おじさまと沢山練習して編み出した、ロックオンすることで局所部分の『目』のみを狙って奪い破壊するという、能力の制御法だ。それを駆使して二点の『目』のみを、両手のひらに吸い寄せる。そして一切の加減を加えずに、二つの『目』を思い切り握り潰した。

 

 

 立ち話もなんだとの事で、私とパチュリーは図書館の応接間へ移動する事にした。歩きながら周囲を見ていて思ったが、昔よりも蔵書が増えている様である。パチュリーがここへ居座り始めてから150年間、彼女も彼女でせっせと本を集めていたのかもしれない。そう思うと少しだけ親近感が湧いてくるが、彼女はレミリアと言う唯一無二の友人を持っている。この時点で私は彼女にぐうの音も出ない程の敗北をしている訳なのだが、よく考えてみれば彼女は友達の作り方の模範になるのではないだろうか。私と少し雰囲気が似ていると思うのは気のせいではない筈だ。であれば、彼女を観察すればおのずと友達の作り方が分かるのではないか。この際魔性の影響は度外視して、どう努めればもっと受け入れられやすい私に成れるか参考にさせて頂こう。

 

 そんな事を考えながら、互いに対面する形で応接間のフカフカのソファーに腰を下ろす。小悪魔が紅茶を淹れてくれているのを待つ間、彼女を観察してみることにした。

 だが、パチュリーは魔法でどこからか本を取り寄せ、待っている間は黙々と読み耽っているだけである。一瞬だけ彼女はこちらを見たが、その時の眼が疑わしい何かを見る目一色に染まり切っていたので、私は見るのを止めて他意は無いと謝罪した。思えば、無暗に女性を注視するというのは少々失礼だったか。悪い事をしたな。どうも今日は良いことが続いたせいか、少し浮かれてしまっている様だ。気を引き締めねばなるまい。親しき仲にも礼儀ありという言葉を忘れてはならない。

 

 反省していたその時、丁度小悪魔から淹れたての紅茶が届く。カップを手に取り一息入れる。芳醇なハーブティーの香りが鼻腔を抜けていく感覚がなんとも心地良い。やはり、他人が淹れてくれた飲み物は格別だ。今日は二杯も飲めたので、これから200年は不眠不休で働ける気がする。後は小悪魔が私の事を怖がってくれなければ完璧なのだが、初対面が初対面だっただけに今すぐ態度を変えろと言うのは酷なものだろう。私も、そんな人の感情を無視するようなことは望んでいない。別にゆっくりでも良いのだ。私が無害であると彼女が納得してくれて、そしていつか何気ない談話が出来るようになれば万々歳なのである。

 やはりレミリアの親代わりと言うフレーズと、レミリアの血の証明書が功を奏したのか、彼女たちは今まで出会った者たちと比較してとてもよく受け入れてくれている。願わくば、何時しか家族の一員と認めてくれれば良いのだが。

 

 私は改めて、パチュリーにフランの所在を聞いてみる。

 そして、返って来た予想だにしない返答に、思わず眉を顰めることとなった。

 

「地下室に幽閉? ……それは本当かい?」

「ええ。残念なことに本当よ。フランは今、レミィの判断で地下に閉じ込められている」

 

 私の質問に、パチュリーは端的にそう告げた。

 フランの幽閉。そしてそれを実行したレミリアの判断。二つのワードが、私の脳内で何度も反芻を繰り返す。

 私が居ない間に、あの二人に何があったと言うのか。あの子たちの仲は決して悪いものではなかった。むしろ双方べったりだったと言って良い。フランに関しては、何時どこへ行く時でもレミリアの隣にくっ付いていた。これほどまでに仲のいい姉妹が他に居るのかと、世界中に発信したくなるくらいの相性だったのだ。

 ……しかし心とはまさに諸行無常の代表格。不変であることは決して無い。私が離れて経過した400年以上の年月の間に、何らかの(わだかま)りが起こっていたとしても不思議な事ではないだろう。それが肥大化し、取り返しのつかない亀裂を生んでしまったとも容易に想像できる。

 だがもし仮にそうだとして、それを放って見ておけるほど私は家族へ無関心にはなれない。例えお節介と言われようとも見過ごす訳にはいかないのだ。かつて義理の父を務めたものとしては、尚の事。

 

「それはまた何故? よければ理由を聞かせてくれないか」

「……、」

 

 パチュリーは表情を曇らせ、目を逸らす。発言すべきかどうか葛藤しているのだろう。なにせこの館が抱える、いわば『闇』の部分だろうから躊躇して当然だ。無害と認められてもまだ私は少なからず怪しまれている。何より彼女の親友も関わっている話題のため、迂闊に話す事が出来ない立場であるとも容易に伺える。

 

 数拍の間の後、彼女は薄桃色の唇を動かした。

 

「あなたが、あの姉妹の親代わりをしていた事は紛れもない事実。そうでしょう?」

「無論だ。さらに確証が欲しいのならレミリアにもう一度直接聞いてみると良い。改めて確認が取れるまで待っていよう」

「……別に良いわ。話してあげる」

「質問をした私が言うのもなんだが、大丈夫なのか? 私と君は、会ってまだ間もない仲だ。誤解が解けたとはいえ、この手の深い話題を聞けるほど信用されてはいないだろうから、君が私へ話すに値すると確証を得るまで控えようかとも考えていたのだが」

「先ほどのアレが偶然の重なった事故だと分かった今、あなたがここに居て何の騒ぎも起こっていないだけで十分な証拠になるわよ。そんなに目立つ力を放っているのに、レミィが放っておくわけないもの」

 

 言われてみれば、それもそうだ。常に魔性を放ち続け、他者へ恐怖を無条件に植え付けてしまう私を無暗に受け入れるとなると、私がどの様な者かある程度知る人物のみに限られる。私の事など露も知らない者たちは皆、例外なく私を排除しようとして来たから、彼女の弁は酷く納得がいく。

 そう考えると理由はどうであれ、必然的にパチュリーは私をほんの少しでも受け入れてくれようとしているということだろうか。だとしたら、こんなに嬉しいことは無いのだが。

 

「話を戻すわよ。フランが地下に幽閉された理由は……彼女が、心を狂気に蝕まれてしまっているから」

「――――狂気、だって?」

「ええ」

 

 あまりに予想外で、到底信じる事の出来ない答えを前に、私は自分の耳を疑った。

 今この少女は、認めたくはないが確かに、『狂気』と口にしたのだ。

 

 狂気。簡単に言えば、何らかの要因で調律が取れなくなり、崩壊してしまった精神を指す。

 しかし妖怪に対しての狂気とは、ただの精神崩壊を表す言葉ではない。妖怪にとっての狂気とは即ち、生物だろうと無生物であろうと目につく存在を排除する破壊衝動に呑み込まれた、文字通り狂化した精神状態を表している。破壊行為そのものが快楽と直結し、自らの意志ではその行為を拒絶したとしても、何かを壊さずにはいられなくなるのだ。

 それはまさしく、妖怪にとっての麻薬だ。そして麻薬とは、最も甘美な劇薬としてあまりにも名が知られている。ここで言う麻薬……即ち『狂気』が及ぼす影響は、例え妖怪であっても人間と大差がない状態異常を引き起こすのだ。

 

 壊す事への快感に身を委ね、完全に狂気に呑み込まれた妖怪は、やがてその破壊の矛先を自分自身へと向けてしまう。自身の存在理由―――妖怪にとって主にそれは、人間に恐れを抱かせる行為――――を圧倒的に凌駕し、精神的キャパシティの限界を超えた破壊衝動が、知的生物が持ちうる理性との拮抗を生み、そしてその反動が精神に『矛盾』を生み出し、多大な負荷となって心へ押しかけるからだ。そこまで狂気が進行してしまえば、精神に存在の重心を据える妖怪は終わりだ。自らの破壊衝動で己の心と体を完膚なきまでに破壊し尽し、そして残されるのは妖怪だった残骸のみとなる。それはさながら、快楽に溺れ薬に脳を徹底的に破壊された人間の末路の様に。

 

 稀に狂気と適応し、他に類を見ないバーサーカーと化す怪物も存在する様だが、その身に万物を破壊する絶対的な能力を秘めながら、ペットに飼っていた小鳥を心から愛する事の出来る優しさを持つあのフランに限ってそれはない。初めは身の内に沸いた狂気に酔いしれていたとしても、何時かあの子は理性と狂気の板挟みに遭い、自分の持つ破壊の力で『フランドール・スカーレット』という存在そのものを崩壊させてしまうだろう。

 ギリッ、と奥歯が微かに鳴った。あの無邪気で、物を壊してしまうたびに己の力を嘆き涙していた純粋なフランが、能力で自らを血の海に沈める光景を思い浮かべてしまったのだ。

 

「治療は、試みたのか」

「……残念ながら、現状打つ手なしよ。古今東西ありとあらゆる方法を用いても、あの子の心から狂気を取り除くことは叶わなかった。少なくとも、私がここに来た150年前からずっと」

 

 言葉が、出ない。

 絶句とは正に、この様な状態を指すものなのかと身をもって実感した。

 まさか、そこまで深刻な事態になっていたとは露ほども思わなかった。成長したからもう私の助けは要らないだろうと判断し、暢気に旅に出てあの子の事を放った過去の自分を殴りたくなる。何故あの時、あの子の心の闇に気付いてあげられなかったのだ。

 

 パチュリーが口にした年数から推察する限り、どうやらフランは強靭な精神力で狂気を抑え込んでいるようだが、それも何時まで持つか分かったものではない。もしかしたら一年後、一か月後、一週間後……いや、数時間後には精神が決壊するかもしれない。時間が無いのは明白だろう。こうしてはいられない。直ぐにでもあの子の下へ行って現状を確認し、狂気の緩和対策を立案しなければ。

 

 地下室の場所は知っている。あそこはそもそも、フランの私室として与えられた場所だ。あの子が生まれて言葉を喋れるようになるまで成長した頃、能力が発現したばかりのフランは、力の制御が非常に不安定だった。その力をコントロールする特訓を行うため、比較的被害の出にくい地下に私室と訓練室を作ればよいと、当時まだ生きていた彼女たちの本当の父に意見を言ったことを覚えている。

 直後に、両親が吸血鬼狩りに命を奪われ亡くなったため、亡くなる前の父親からの頼みと他者からの推薦もあり、私があの子たちの面倒を見る事となった。フランの能力制御の練習には随分と付き合ったものだ。

 だが今は思い出に浸っている場合ではない。確か、ここと比較的近い位置に入り口があった筈だ。急がなくては。打てる手は早いうちに打っておくに越したことは無い。

 

 私が席を立ち、地下へ向かおうとするその時だった。突然私の眼前に一冊の本が現れて、進行を塞いだのだ。パチュリーが本を操作して、私を止めようとしたのだろう。何かまだ私に言う事でもあるのだろうか。

 ……しかしよく見るとこの本、鋭い牙がズラリと生えている。もしかして、昔私が粗相をして作ってしまった魔本だろうか。元気そうで何よりである。それとパチュリー。この子を今にも噛みつきそうなくらい近づけないでくれると有難いのだが。もしかして先ほどの事を少なからず根に持っているのだろうか?

 

 生暖かい吐息の様な魔力を私へ吐きかけてくる魔本と睨めっこしていると、魔本はクウンと情けない犬の鳴き声の様なものを出してしょんぼり萎れてしまった。私はとうとう本にすら怖がられるようになってしまったのか。

 

「待って。今、地下室に掛けてあったドアの防護魔法の魔力が消失したわ」

「……それは、つまり」

「ええ、理由は分からないけれど、たった今フランが脱走した。しかも――――」

 

 ああ、なんてことなの。そうパチュリーは狼狽の色を声に含ませて付け加えた。眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰すような表情を浮かべる。

 彼女の柴水晶の瞳は、図書館のある一点へと注がれた。

 

「――――真っ直ぐこっちへ向かって来ている」

 

 瞬間。図書館のただ唯一の入り口が、轟音と共に弾け飛んだ。

 原因は、言うまでも無く。

 硝煙の中から紅い大きな瞳を爛々と輝かせ、七色の宝石が散りばめられた様な奇妙な翼で力強く羽ばたきながら、音すらも置き去りにするかの如き威力を伴い私へ突撃してきたフランによるものだった。

 刹那の際に見えたのは、彼女が手に握る、紅蓮の炎を纏わせた魔剣の輪郭。幼い顔に張り付けられた、歪みきった凄惨な笑みだ。

 400年ぶりの再会を前に、愛しの愛娘は大きく縦に炎の剣を振りかぶる。

 

「偽者め、死んじゃえ」

 

 直後、途方もない爆熱と衝撃が、一切の加減を持たずに私へ襲い掛かった。

 

 

「―――――――っ!」

「ふわあああああああああああっ! パ、パチュリー様あああああああああっ!!」

 

 フランの持つ最大級の破壊力を持ったスペルカード、レーヴァテインが、スペルカードルールを無視した威力を伴い、至近距離で炸裂した瞬間。訪れたのは身を焦がす熱の旋風でも、内臓を破裂させる衝撃波でも、鼓膜を引き裂く音の津波でもなく、悪魔のくせに人一倍怖がりな、情けない司書の悲鳴だった。

 咄嗟に防御障壁を展開しようとしたが、先ほどの発作で喉が馴染んでいなかったためか魔法のスペルを唱える所作が遅れ、ほんの一瞬隙が生じてしまった。その須臾にも等しい小さな遅れが、致命的なミスとなって私たちの足元を掬いとる筈だった。

 ……筈だったのだ。

 

「あ、あれ? 痛くない……?」

 

 ようやく気が付いたのか、頭を抱えていた小悪魔が顔を上げる。一呼吸を置いた後、彼女はフランの熾烈な攻撃から私たちを守り抜いたものの正体を見て、目を剥いた。

 

 そこには私たちを囲むように、紫色をした小さなドーム状の障壁が出来上がっていたのだ。

 

 考えるまでも無い。これを展開したのはあの男―――ナハトだったか―――で間違いないだろう。あの冷静な男は、どうやらこの危機的な状況下においても平静でいられたらしい。私よりも早く、精密に、あの攻撃を防ぎ切る性能を持った障壁を、私たちを守る範囲だけだが瞬時に展開して見せた。いくら私の喉が不調で遅れたからとはいえ、この緻密な魔法式を一瞬の内に構築した技能たるや凄まじいものだ。レミィの親と謳うのも納得である。

 彼の魔法の腕は、どうやら上級魔法使い以上と見立てて間違いはないだろう。考えてみればそれもそうだ。彼は、この図書館を事実上たったひとりで創設した怪物なのだから。

 思いがけない彼の能力を前に、私は緊急事態であるにも関わらず、場違いな感心を抱かずにはいられなかった。流石、()()()()()()()()()()()()()()()()()私を狂わせただけはある。

 

「パチュリー、小悪魔、大丈夫?」

 

 鈴の音の様な声に、ハッと我に返った。

 目を向けると、魔法障壁の外から私たちを心配そうに見ているフランの姿があった。くりくりとした紅い瞳やこちらを心配そうに伺うあどけない表情からは、先ほどの大惨劇を生み出した同一人物とは到底思えない。

 彼女は今開けるね、と呟いて左手を握り締めた。途端に、私たちを守り抜いた魔法障壁が、呆気なくガラスを砕いたかのような高音と共に砕け散った。

 

「ごめんね。ちょっと頭の中が一杯になってて、パチュリー達に気が付かなかった」

「大丈夫よ。それより、急にどうしたというの? 珍しく出てきたかと思えばあの人を―――お客様を攻撃するだなんて」

「お客様……ああ、うん、うん、そう、そうだった。ごめんなさい。直ぐにとどめを刺しに行くわ。皆を傷つける悪い偽者は、とっとと八つ裂きにしなきゃだもんね。それじゃあね、パチュリー。私、まだやらなきゃいけない事があるの。終わったらちゃんと部屋に戻るわ。ドア壊しちゃってごめんね」

 

 唐突な変化だった。

 私たちを心配した時の優しい眼とは打って変わって、冷酷な光が瞳に宿る。まるで見えない誰かと話をしているかのように不自然な相槌を打ちながら、フランはゆらりと体を動かした。

 これだ。これさえなければ、この子は家族思いの、ただの普通の女の子なのに。

 

 ナハトにはフランが割り込んでしまったせいで伝えそびれたが、実のところ彼女は破壊衝動に支配されたが故に、心の中に狂気の占領を許した訳ではない。何時何処で入り込んだのかまったくもって不明だが、フランの頭の中には何か別の精神的存在が入り込んでおり、それが巣食って離れないせいで狂気に蝕まれてしまっているのである。不幸中の幸いなのは、狂気に侵されながらもそのナニカとフランは擬似的な共生関係にあるお蔭で、精神が侵食されるスピードそのものが格段に遅い事だろう。

 

 しかしこれは、限りなく黒に近いグレーと判断できる良性の腫瘍を放置している行為に等しい。いつそれが悪性に変異してフランの精神を食い破らないか、誰にも保証は出来ない状態なのだ。

 一刻も早く正体不明のソレを取り除きたいのは私もレミィも同じ考えだが、そのナニカを退けるには、認めたくはないが力が足りない。心の中枢に、まるで根を張るようにして食い込んでいるのだ。無理やり引き剥がせば言うまでも無く、フランの精神にも多大なダメージが残ってしまう。

 最も効率的かつ安全な除去方法は、フランが精神的存在と別離する事を心から望む事である。そうすれば、あとはこちらからほんの少し背を押す形で力を貸せば、容易く引き剥がすことが出来るのだ。そのためにも私とレミィ、そしてフランと比較的仲のいい門番が幾度も説得を試みたが、めぼしい成果は上げられなかった。それどころか精神的存在が私たちを疎ましく思って彼女に何かを吹き込んだのか、フランは私たちの説得に耳を貸そうとしなくなってしまったのだ。

 技術も駄目。力技も駄目。心からの訴えも駄目。故に手詰まり。これがチェスの試合なのだとすれば、チェックメイトに嵌ったのも同然だった。

 

 だからこそ、あの男には。

 吸血鬼姉妹の親代わりを務めたと言うあの男には。淡く微かな希望を抱いたのだ。

 信用はしていない。信頼の情も無い。現状、彼のあまりに強すぎる力の余波の影響以外は無害であると判断しただけで、あの男を心の底から慕う事など、まだ到底出来そうにはない。だが私は、それでもあの男に賭ける事にしたのだ。無自覚に体の内から外へ漏れ出す程のパワーを秘め、なおかつ瞬発的に、魔法を的確かつ精巧に編み出せる精密性を兼ね備えた、あの男の未知の力に。

 故に、この館の抱える闇について話した。そうすれば、私たちが成す事の出来なかった事が、実現できるかもしれないから。

 もしかしたら彼ならば、フランの心に絡みついた病魔を取り除くことが出来るかもしれないと、一握の望みを掴んだから。

 

 だからこそ、何としてでもこのチャンスを利用してフランを救い出さねばならない。紅魔館の未来のために。そしてなにより我が親友の笑顔の為にも。

 

 私の覚悟を余所に、フランは取り憑かれているかのように、ゆらゆらとナハトが飛ばされた方向へ足を動かす。何故彼女が、先ほどこの館へ訪れたばかりだと言う彼の存在を察知して、あまつさえ攻撃を加えたのか理由は定かではないが、十中八九とどめを刺す気だろう。

 行かせるわけにはいかない。ナハトはレミィと同じ吸血鬼らしいから、あのくらいじゃ死にはしないだろうが回復するまでの時間は稼がなければ。フランの持つ能力は、吸血鬼ですら存在ごと消滅してしまいかねない危険極まりない代物だ。ダメージを負った状態で食らえばおそらく、成体の吸血鬼である彼でも死は免れられない。

 

「待ちなさいフラン。あなたは何故彼を狙うの? 過去に何か、あの人に恨みを抱くような出来事でもあったのかしら」

「……違うのよ、パチュリー。あの人はおじさまなんかじゃないの。偽者なの。おじさまの力と姿を真似て私たちを騙そうとしている、とんでもない愚か者なのよ」

「フラン……? あなた、一体何を言って……?」

「大丈夫、大丈夫だよパチュリー。直ぐに偽者を退治して、私が皆を守ってあげるから」

 

 会話の流れが支離滅裂だ。こちらの伝えたい意思が欠片も伝わっていない。彼女の中では、この一連の事件すべてが自己完結している様に思える。原因としては、彼女の頭の中に巣食う精神的存在から何らかの干渉を受けたと考えるのが妥当か。

 今のフランはまともではない。いつも以上に、完全に自分の世界へ閉じこもってしまっている。

 食い止めねば。

 彼女に、ナハトを壊させるわけにはいかない。

 

「止まりなさいフラン。あの人を壊してはいけない」

「……なんで邪魔するのパチュリー。どいてよ」

「それは出来ないわ。あの人があなたに壊されてしまえば、あなたを救い出すことが出来なくなるかもしれない。だから、今ここを通す訳にはいかないの」

「………………うん、そうだね。どうやらパチュリーは、偽物に騙されてしまったみたい。どうすれば助けてあげられるかな? ……ん、分かった。心が痛むけど、私頑張る。絶対助けてみせるから、応援してくれる? ……ありがとう、やってみせるよ」

「フラン、聞きなさい。あの人は偽者なんかじゃないわ。正真正銘、あなたの義理のお父様よ。そうでなければ、レミィが気づかない訳がないでしょう? あなたの姉は偽者と本人の区別がつかないほど愚鈍ではないわ。それに、レミィの『血の証明』があの人を本物だと断定したの。同じ吸血鬼のあなたならこの意味が分かる筈よ。あなたの頭の中に居るそいつに、これ以上耳を傾けては駄目」

「違うよパチュリー。アレの方が偽者なの。パチュリーは騙されてるだけ……ううん、アレに記憶を弄られて、そう思い込まされているだけなの。大丈夫、パチュリーは悪くない。悪いのはパチュリーを騙す偽者の方だから。だから、ごめんね?」

 

 ゾワリ、と背筋を氷が滑り抜けたかのような悪寒が走った。炎の剣を携えたフランドールが、内に秘める吸血鬼の膨大な魔力を完全に開放したのだ。その目に光は見当たらない。あるのは狂信にも近い、ただ一つの目的の遂行のみ。言うまでも無く、ナハトを完膚なきまでに滅する事だろう。

 手始めに彼女は、障害となる私を無力化しようと考えている。幸運なことに殺す気は無いらしいが、まともにやり合えば暫くの間再起不能にされるのは間違いない。さらに残念なことに、喉も体も調子が悪い今の私では、フランと真正面からぶつかりあって打ち勝てる確率はほぼゼロだ。

 しかしここを退くのは駄目だ。ここで私が退けば、賭けるべき希望が無くなってしまう。

 

 私は彼女の発言から得た情報から、ある種の確信を得ていた。

 どうも、フランに取り憑いた精神的存在にとってナハトは邪魔であるらしい。根本的な理由は分からず仕舞いだが、奴はナハトが自身にとって危険だと悟っているのだろう。だからフランを言葉巧みに騙し、問答無用にナハトを排除させるよう(けしか)けたのだ。そうでなければ、数百年ものブランクを空けてここを訪れたと言うナハトを、存在を認知した瞬間から襲い掛かったりなどしない筈である。何の障害にも成り得ないならば、むしろ無関心に徹してナリを潜めておくのが定石だろう。敵を排除する理由はいつだって、それが脅威足り得るからなのだ。

 

 結論からして、フランに憑いている精神的存在にとってナハトが脅威であると伺える。であれば、取るべき選択肢は一つ。

 やるしかない。全力を持って、ナハトが復帰するまで食い止める。

 

 私はグリモアを手のひらに召還し、魔力と術式を接続する。小悪魔に合図を送り、レミィに伝えるよう促した。彼女が飛び去っていく様子を尻目に、私は深く息を吐き出す。

 体調は全快と言えない。喉の調子も芳しくない。だがそれを理由に逃げ出すことは出来ない。

 100%ではないが、ナハトはこの現状を打破する可能性をもった存在なのだ。今まで様々な手段を用いてフランを治そうとしたがどれも実を結ばず、八方塞がりだった私たちの前に垂れて来た一筋の蜘蛛の糸なのだ。例えそれがどれだけ細い糸だろうと、掴み取らない理由は無い。それを逃せば、待っているのは緩やかな破滅なのだと十分に理解しているからだ。

 

 いい加減、この狂った演目にも幕を下ろす時が来たのだろう。彼女には、頭のナニカに操られる役者ではなく、一人の妹として、家族として。親友の明るい未来の為にも、この先を共に歩いてもらわなければ困るのだ。

 

 覚悟を決め、悪魔の妹と相対する。対する彼女は絶対零度の瞳で私を見据え、凍えるような微笑みを浮かべた。

 

 

「ちょっと痛くしちゃうけど許して、パチュリー。目が覚めたらまた、平和な紅魔館が戻っているからさ!」

「目を覚ますのはあなたよフランドール。寝ぼけ眼で幻想を見るのはもう終わり。夢からはいつか、醒めなくてはならないのよ!」

 

 

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