【完結】吸血鬼さんは友達が欲しい   作:河蛸

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4.「巣食うもの」

 紅魔館の廊下を走る。床を蹴り、腕を忙しく動かし、ここ最近じゃ比べ物にならない程の全速力で、無駄に長い紅魔館の廊下を駆けていく。咲夜さんの空間拡張が恨めしく思えたのは、恐らく後にも先にもこれが最後となるだろう。

 先ほどお嬢様の部屋へ飛び込んでから、開口一番に私はこう言われた。

 

『美鈴、貴女の言いたいことは分かっているわ。でも今は図書館へ向かいなさい。おじ様とフランが激突していると小悪魔から報告を受けたの。このままだと手遅れになるかもしれない。私と咲夜も直ぐ向かうから、貴女は先に行ってて頂戴』

 

 全てを察した私は、そのままお嬢様の部屋を飛び出し今に至る。

 私の『気』のサーチは、正確に当たっていた。

 あの方が、ナハトさんが帰って来ていた。

 

 今になって帰ってきた理由だとかなんだとか、そんなものはどうだっていい。今は妹様がナハトさんと戦闘になっている方が遥かに問題だ。妹様は頭に巣食うナニカのせいで狂気に陥り、正常な判断が効かなくなってしまっている。それが原因でもし、何らかの拍子に妹様がナハトさんの逆鱗へ触れてしまえば、間違いなく妹様は…………。

 想像もしたくない未来が脳裏を掠めた。頭を振るい、ネガティブな妄想を追い出すようにして掻き消す。手のひらが異常に湿っているのは、走って疲れたせいではないだろう。

 

 ……ナハトさんは、私に『紅美鈴』としての道を示してくれた人物である。大変な恩をあの方には感じている。しかし同時に、私はあの方からこの世で最も恐ろしいものを教えられた身でもあるのだ。

 それは、言うまでもなくナハトさん……あの方の怒りだ。冗談でも思い浮かべてしまえば、背筋を駆け抜ける悪寒が止まらなくなる。

 思い出してしまうのだ。あの方と私が、初めてお会いした満月の夜の出来事を。同時に、私がお嬢様たちへ仕える道を選んだ、彼との因果の経歴を。

 

 

 

 ―――私はかつて、流浪の妖怪だった。人間の武術を習得し、力とは、強さとは何たるかという問答に答えを導き出すため、長く世界を放浪していた身の上だったのだ。

 その旅の途中、私はひょんなことから、当時まだ沢山の吸血鬼が住んでいた紅魔館の用心棒として雇われる事になった。ご飯にもありつけるし、用心棒稼業で腕も磨けるしと一石二鳥だなと軽く考えて、私はすぐに承諾した。

 

 だがそれが甘かった。私が用心棒として初めに就いたのが、紅魔館に住むとあるバンパイアロードのとんでもないドラ息子だったのだ。これがまた、目にかけて性根の腐った下郎だった。何かと親の権力を振り回し、理由もなく紅魔館で従属として働いていた妖怪へ暴力を振るうのは日常茶飯事。まさにやりたい放題の毎日を、アレは送っていた。その癖実力が他の吸血鬼よりもあったものだから、余計に手が付けられなかったのだ。

 そんな彼はある日、最悪の暴挙へと身を乗り出した。手下格の吸血鬼を従え、あろうことか私を近くの森へ攫い、手籠めにしようとしたのだ。女っ気の少なかった当時の紅魔館では、私は彼らの誘引剤になってしまっていたらしい。

 

『お前はただの奴隷だ。当然お前の体は俺のものだ。なら奴隷は奴隷らしく、俺に傅き奉仕しろ』

 

 ……今でも思い出すと吐き気がしてくる。あの姑息な男達の、下卑た笑いと言葉の数々には。

 当然私は拒んだ。あんな男に私の純潔を捧げてやる気なんて、起こる筈も無かった。あの少年一人ならば叩きのめすのに何も問題無かったのだが、それはあのドラ息子も承知していた。だから、たとえ素人でも個々が強力な力を持つ吸血鬼を共に引き連れて来たのだ。そして抵抗も空しく、私はボロ雑巾の様に地面へ這わされる結果となった。

 悔しかった。惨めだった。何よりいまからこんな奴らに辱めを受けるだなんて考えると、気持ち悪さと自分の情けなさで涙が止まらなかった。

 

 服を引き裂かれ、手足を拘束され、もう終わりだと絶望の渦中に呑み込まれ、希望も何もかも無くしてしまった、まさにその時だった。満月の輝きの下に彼が姿を現したのは。

 

 氷河の如き冷酷さを柴水晶の瞳に宿らせて、彼はただ沈黙の森の中、私たちを見下ろすように立っていたのだ。何の前触れもなく、まるで最初から居たとでも言わんばかりに、深夜の森へ、ぽつんと。

 灰色の髪のその男性は、凄まじい威圧感を迸らせながらゆっくりとこちらへ歩いてきた。彼の姿を目撃し、その存在に気が付いた吸血鬼の少年達は、ただでさえ白い顔をさらに青白くさせて途端に震えだした。悪い事をしているところを見られた幼子の様に、冷や汗を流しながらブルブルと情けなく縮こまってしまったのだ。

 

 恐ろしかった。

 言葉は無く、ただ悠然とこちらへ歩いてくるその男が、私はどうしようもなく怖かった。犯される危機感などではない。それはまさに死の恐怖だった。動けば首を刈られる。心の臓を抉り出される。そう思わされてしまう、得体の知れない禍々しい瘴気のようなものを彼から感じたのだ。

 今の自分が置かれていた状況など、その時はすっかり忘れ去ってしまっていた。一刻も早くこの男から逃げ出さねばならない衝動に駆られた。でも、私は立ち去ることが出来なかった。満月を背後に私たちの前で立ち止まった彼の姿は、視界に彼の姿以外を映す事は許されないと言わんばかりに、それはそれは美しかったのだ。

 

 闇夜に光る紫の瞳が。月光を反射する灰色の癖毛が。この世のものとは思えない黄金比を備えた顔貌が。白磁の名器が霞んで見えるような透明感のある白い肌が。成熟し、一個の完成形となったしなやかな体躯が。柔らかい夜風に靡く漆黒のマントが。どれもこれもが、一級の芸術品の様な魅惑を醸し出していた。視線を向けるだけで、一歩一歩の足音が耳に入り込むだけで、悪寒と冷や汗が止まらなくなるのに、それでも彼に目を向けずにはいられなかった。

 

『違うんです! これには訳が――――』

『俺たちはこの不出来な使用人に罰を与えようとしただけで―――』

『これはただの躾であって――――』

 

 堰を切ったように、見苦しい言い訳の嵐が起こった。矢雨の如く、次々と潔白を証明するべく並べられた嘘偽りの美辞麗句が、私をあの方の魔性から現実へ引き戻した。

 それと同時に、館での勤務中、何気なく小耳に挟んだある一文句が脳裏にふと蘇った。

 

【闇夜の支配者を怒らせるな。彼の者の怒りを買うならば、迷わず竜の逆鱗に触れろ】

 

 そして、私は確信に至った。吸血鬼の少年たちが突然血相を変え、恐怖したこの男の正体が分かったのだ。

 何時からこの世に存在していたのかは全く不明。素性も出自も何もなく、ただ絶対的な力を持つが故に皆が畏れた、とある一人の吸血鬼。

 数多の悪魔が往来跋扈する紅魔館で最強と謳われた、今は亡きスカーレット卿が唯一絶対の服従を示した、紛うこと無き闇夜の支配者。

 彼こそが、ナハトその人であるのだと。

 

『言い訳は止さないか、少年たち』

 

 彼は言った。独裁者の如く冷血に、教師が教え子を諭す様に柔らかく、しかしその場の雑音全てを制圧するかのように、重々しく言い放った。

 彼の言葉は衝撃を伴った。まるで今にも自分の喉を食い破らんとする眼前の魔物が、凄まじい形相で吠えたかのような幻さえ感じた。事実、少年の内二人は彼の凄まじい気迫を前に、呆気なく気を失った。例のドラ息子は辛うじて意識は保っているが腰は砕け、無残にも履物を濡らしながら地面を転がっていた。

 

 

『吸血鬼たるもの、常に誇りを持て。夜を制する者として、高潔さを忘れるべからず。……これは、君たちが慕っていたスカーレット卿の言葉だ』

 

 そんな少年に彼は近づき、囁くのだ。死の宣告を告げる死神が如く、緩やかに唇を動かしながら。

 

『今君がしようとしていた行動は、高潔で誇りのある行いか? 夜を制する吸血鬼に相応しい高貴な行いか?』

『い、いいえ、いいえ、いいえ、いいえ……!』

『そうだな、その通りだ。勘違いをしてはいけない。己が強者たる吸血鬼だからと言って、驕っていい理由にはならないのだ、少年よ。さて、自分の罪が自覚できた今、君に反省の心意気はあるのかね』

 

 命乞い、弁護の言葉が飛び散らかる。それを彼は、冷酷な眼差しで聞き流すのみで。

 

『謝る相手が、違うんじゃあないか?』

 

 闇夜の支配者の怒りを買った少年の行動は早かった。恥も外聞もなく、私へあらん限りの謝罪を投げかけた。あまり必死に謝るものだから、私も今更どうこうしようとは思えなくなっていた。まずそんな事よりも、少年を言葉だけで屈服させた男の静かな怒りが、茨に絡みつかれたかのように私の心を蝕み、最早少年どころではなくなっていたのだ。

 もし、もしあの男の怒りが私に向けられていたら、一体どうなっていたのだろうか? 睨まれただけで心臓を止められそうなあの視線の対象となってしまっていたら、私はどうなってしまっていたのだろうか?

 起こり得ない事なのに、頭の片隅に負の可能性が膿の如く湧いて出た。男の逆鱗を撫でた立場がもし私だったらと、想像を爆発的に膨らませられたのだ。それほどまでに強い恐怖を私は抱いた。この世にこんな恐ろしい事が有り得たのかと、何度も頭の中で再確認してしまう程に。

 

 彼は後始末をしておくようにとだけ少年に告げて、私にマントを被せ、館の中へ連れ戻した。彼の後ろを着いて歩く私は気が気でなかった。私の一挙一動が、この男の怒りを触発するかもしれない。そう考えると、ロクに歩くことすらままならない状態だった。

 だが例えようのない恐怖と同時に、私の心にはある感情が芽生えつつあった。

 

 それは、憧れだったのかもしれない。または羨望だったのかもしれない。ただ確実に言えることは、私は彼の他の追随を許さない圧倒的な力に対して、強い畏敬の念を抱いていた。武を学び、強さとは何たるかを追い求め、そしてこの悪魔の館へ辿り着いた今までの出来事その全てが、もしかするとこの強大な男と引き合わされる因果だったのではないかとすら思い始めた。まず、正常な判断能力を失っていたことは確かだった。

 

 だから私は、まだ彼の事など露も知らないというのに、とんでもない事を口走ってしまったのだ。

 

『あ、あの。私、美鈴と言います。用心棒として雇われていまして、そ、その』

『…………どうした? 急に畏まって。具合でも悪いの――――』

『私に、あなたの強大さの秘密を教えて頂けませんか?』

 

 今思い返してみると、あれがどれだけ命知らずな行為だったのかがはっきり分かる。機嫌を損ねられ、振り向かれたと同時に首を撥ねられたとしても文句は言えない所業だった。それでもあの時の私は、彼は私を更なる高みに導いてくれるだろうと、素っ頓狂な確信を持っていたのだ。

 

 彼は一瞬だけ眉を上げると、困ったような笑みを浮かべた。

 不味い。不快にさせてしまったのかと、私は冷や汗で衣服が張り付く感触を覚えた。もう終わりだと思って、私はぎゅっと目を瞑った。

 しかし私の心境に反して、彼は柔らかく返答した。

 

『強大……私はそんな、大層な者ではないさ』

『い、いえ! その様な事は決してありません! お噂はかねがね聞いております。漆黒の魔王、古の夜の化身、無上の吸血鬼、闇夜の支配者。二つ名に相応しき貴方様の強大さは、私のような末端にも強く伝わっております。その様なお方が大層でないなど、とんでもないことです』

 

 その時の彼は、私が耳にした二つ名を並べるたびにみるみる険しい表情になっていったのを覚えている。遂には渋柿を口一杯に含んでいるかのような顔になってしまい、私はとうとう地雷を踏んだかと、軽率な発言を心底後悔した。

 重苦しい沈黙の後に、口を開いたのは彼の方だった。

 

『君は何故、私の力に熱心になっているのかな』

 

 彼の言葉を耳にして、私は無我夢中で訳を述べた。この館までの道のり、生きる意味、それら全てを、私は口と体を使って精一杯説明した。彼はその全てを静かに聞き入れ、私が話を終えると、静かに言った。

 

『強さとはなにか……か。成程。君は一人の武術家として武を追い求め、己を昇華する道を探している訳だ』

『は、はい!』

『……言ったように、私は君が思い描く様な強さを持った者ではない。だけど、それなりに長くは生きた身だ。だから年長者として一つだけ、君にアドバイスをあげよう』

 

 まるでオーロラの様に神秘的な笑みを浮かべた彼は、私にある一つの命を下した。

 それは、スカーレット卿の遺した子供たち……後のお嬢様と妹様を守る役目だった。幼い彼女たちを守ってあげてくれ。そうすれば、君は力とはなんたるかをきっと理解するだろう。彼は私にそう告げた。

 

 私は、彼の提案と指示を二つ返事で承諾した。もとよりあの少年の下で用心棒をやる気などとうに失せていた。少年の親に事情を伝えると、あの方の怒りを買う原因となった私を手元に置いておきたくなかったのか、一言二言の皮肉を残して直ぐに承諾してくれた。私はすぐに、彼の命に従ってお嬢様のお世話をする事となった。

 

 それから実に、90年近くの時が過ぎた。その間、私は夢中で己の研鑽と、お嬢様の警護に時間を費やし続けた。

 最初は只の、使命に似た義務行動だった。彼女たちを守り続ければ、私の望む答えが見つかる。そう信じ続け、半分機械的に仕事をこなし続けた。

 だが途中から、私はそれを仕事とは思えなくなっていた。天真爛漫なお嬢様や、能力を克服した愛らしい妹様たちの世話をする度に、なんだか年の離れた妹が二人も出来た気分になっていたのだ。いつしか己を高めるためだけの修練が、何が何でもお嬢様たちを守り抜くという目的にすり替わっていった。

 

 そして、ある事件が起きた。

 

 彼―――ナハトさんが急遽館を空けると告げ、私にお嬢様たちを一任して旅に出られた直後の事だった。紅魔館の覇権を狙いながらも、ナハトさんの存在によって上手く行動できずにいた吸血鬼たちによる、血で血を洗う覇権争いが巻き起こったのだ。

 

 当然、お嬢様たちもその争いに巻き込まれた。下賤な吸血鬼は、お嬢様たちの運命を操る能力と破壊の力を狙ったのだ。

 私は、お嬢様たちを守るために日夜戦い続けた。襲い来る吸血鬼や使い魔を片っ端から叩きのめし、紅魔館には次々と気絶した吸血鬼や使い魔が積み上げられていった。

 

 何十もの悪魔の軍勢を退けた所で、私は漸く自身の異変に気が付いた。

 強くなっている。

 確実に、90年前のあの夜より強くなっていたのだ。

 

 ナハトさんの言いたいことがまさにこれだったのだと、身をもって実感した瞬間だった。己の為だけでなく、何かを背負い守り抜く為に修練を積み、信念をもって力を振るう事。それこそが強さ。これこそが、私の追い求めた力の意味だったのだと。

 

 捻じ伏せた幾多の悪魔たちの前で、固く拳を握りしめ、私は覚悟を胸に刻んだ。

 守ってみせる。言われたからなのではなく、守りたいと思える存在を守り抜くために、さらに強くなってみせる。

 

 何時かまた彼がこの館に戻って来た時に、私は彼へ精一杯のお礼を言おう。そして今度こそ、彼の本当の弟子にして貰えるか頼んでみよう。彼が私を認めてくれるほどに日々研鑽を積み、あの方が私へ託した二人を必ずや守り抜くと、そう心に誓った。

 奇しくもその日は、闇夜の王と初めて相見えた晩のように、夜空へ黄金の月が輝く妖艶な夜だった。

 

 

 力の意味を求め続けた流浪の妖怪は、こうして紅い館の門番としての生を歩み始めたのだ。あの方は、私にとって恐怖の源泉であり、答えを導いてくれた偉大な恩人でもあるのだ。そしてお嬢様と妹様は、今では私の命に代えても守り抜くと誓った大切な家族である。

 どちらかが欠ける運命だなんて認めたくない。私は、そんな未来を見るために今日この日まで己を鍛え続けたのではないのだ。

 

 間に合え、間に合え!

 

 それだけを一心に念じ続け、ようやく視界に捉えた図書館の入口へ、私は全速力で突進した。

 

 

 バサバサバサバサ、と何かが立て続けに落下してくる音がした。

 そのうちの一つ―――具体的には、使い方を間違えれば鈍器にもなりかねないハードカバーが、私の頭頂部へ容赦なく本棚からお見舞いされた。

 

 ………………………………、

 うむ。

 どうしようもなく痛い。

 

 突如図書館へ突っ込んできたフランから、いくら間に400年もの歳月を挟んだとはいえ、あまりに激しすぎる歓迎の挨拶を貰った。反射的にパチュリー達を保護したのは良いものの、私自身は攻撃をモロに食らって吹っ飛ばされ今に至るわけだが、予想以上のダメージを食らってしまっている。フランの魔力と力の扱いがまた成長したと褒めるべきか、いきなり人を襲うのはいけないことだと叱るべきか悩むところだ。

 

 ただ、私にはもうあの子を叱る権利もないかもしれない。

 そんな考えが過ったのは、出合い頭に膨大な殺気を向けられたあの瞬間だ。あの殺気は、決して喧嘩相手に向けるような生温いものではなかった。必ず相手を殺すという必殺の意思に加え、殺しても殺したりないとでも言うかのような、漆黒の憎悪の色を孕ませた、純粋で迷いのない本物の殺気だった。

 

 殺意を向けられる原因は考えられる限り、私が400年前にあの子を置いて出て行った事だろうか―――その様な結論に辿り着き、私は少しばかり、父を務めたものとして罪悪感に駆られている。

 

 その当時レミリアが100を数える年になり、フランも同じく立派に成長した。あの子たちはもう一人でも大丈夫だろうと判断して、暫く停滞していた友人探しの長旅へ立った経緯がある。無論レミリアに出発の旨を伝えてから旅に出たと言えども、フランからしてみれば親に捨てられた心境だったのかもしれない。それが原因で精神を病み、狂気を生み出してしまった可能性は、無いと決して言い切ることは出来ない。

 

 あの子は珍しく、私の魔性の影響を受けて怖がるどころか、まるで本当の父親と見てくれているかの様に、とてもよく懐いてくれた稀有な子だった。だからこそ、深く傷ついてしまったという仮説は成り立ってしまうのだ。

 でなければ、出合い頭に私を殺そうとするわけがない。客観的に見ても、他に類を見ないほど私に懐いてくれていたあの子が、私を殺そうとするなど到底考えることが出来ないのだ。

 

 狂気を生み出すきっかけになったやもしれぬこの私が、今更どの面を下げて親のように振る舞えと言うのか。

 

「しかし、随分派手にやられたものだ。流石は彼の娘といったところかな。……左半身が綺麗に吹っ飛んでしまった」

 

 不意打ちで消し飛ばされた半身の傷を眺めながら、私は独り言ちる。やはり同族からの本気の攻撃は手痛い。しかも、あの炎の剣を模した魔法には再生能力を阻害させる因子かナニカが含まれていたのか、肉体の再生スピードが極端に遅い。まるで純銀製の剣で切り落とされた上に、銀粉を傷口に塗りたくられたかのようだ。

 

 私も一応、吸血鬼の端くれである。この程度の傷で命を落とすことは無いが、それでも現状は極めて危険な事に変わりはない。あの子は私を殺そうとしている。もうすぐ仕留め損ねたと気がついて、とどめを刺しに来る筈だ。

 幾ら簡単に死なない身とは言え、私とて完全な不死身ではない筈である。と言うより死んだことが無いので、どの程度の物理的ダメージで死ぬかが分からないのだ。この状態でフランの攻撃を立て続けに食らえば、存在が消滅する可能性だって十分に考えられる。故に危険と判断する。対策を立てねばならないのは自明の理だ。

 

 フランが、自らに狂気を生み出すきっかけを作った私を恨んで殺そうとするのは、動機としては筋が通っている。私が文句を言えたものではない。だがしかし、ここで殺されてやる訳にもいかないのだ。私にはまだ、友達を作るという長年の夢がある。一人の親友も作れずして、どうしてあの世に旅立てようか。

 

 すまないフラン。私の我儘に、随分と君の人生を振り回してしまった様だ。

 だからせめての償いに、私は責任をもって君を受け止めよう。

 フランと私の間に生まれてしまった隔たりに、真正面からぶつかろう。フランの狂気を含めた思いを全て甘受し、そしてまた、共に生きていけるように溝を埋めるのだ。

 その為には、先にこの傷を治さねばなるまい。

 

 まず傷の再生を妨害する呪いの因子を解除するため、解呪魔法を使用し傷の再生力を向上させた。さらに用心を兼ねて、コートの裏ポケットに仕舞ってある血入りの小瓶を取り出し、蓋を開けて一気に飲む。芳醇な鉄の香りが口の中へ充満し、同時に傷口から、肉が生えてくる痒さと言うべきか、あまり気持ちの良いものではない感覚が伝わってきた。

 

 やはり人間の若い女性の血はよく効く。昔に少々拝借したものを魔法で保存して持ち歩いていて良かった。今度機会があったら、咲夜に少しだけ貰えるか頼んでみよう。失礼な話だが、レミリアが一目置いているだろう彼女の血には少しばかり興味がある。吸血鬼ゆえにこればかりは仕方がない。全ての生き物は空腹の奴隷なのだ。別に飲む必要は他の同族に比べて殆ど無いとはいえ、私とて例外ではない。

 

 そうこうしているうちに、取り敢えず肉体はほぼ再生し終わった。が、流石に吹っ飛ばされた衣服までは戻らないので、立ち上がって修復魔法をかけ、元に戻す。術を編み発動させるのが面倒だが、やはり魔法とは便利なものだ。ここぞと言う時に、勉強しておいて良かったと心から思える。勉強目的が達成できていない件に関してはこの際目を瞑ろう。

 

 さて、動ける態勢は整った。後は、どうやって暴れ狂う愛娘に対抗するかだが……。

 戦闘は避けられないにしても、傷つけるのは論外だ。私が攻撃する事は絶対に許されない。これは喧嘩でもなければ制裁でもなく、あくまで対話、説得である。如何にフランの攻撃を捌きつつ無力化し、こちらの言葉を耳に入れてもらうかが鍵になるだろう。

 

 実に皮肉だが、良くも悪くも――いや、悪いばかりか。ともかくこちらに意識を惹きつけるトークは得意だ。放たれる魔性が嫌でも勝手に注意を引いてくれるので、不本意だが言葉を相手に投げるだけに関しては楽なのだ。

 

 ただ、魔性の効果や影響の強弱は強い個人差がある。どう転ぶかは予測不能だ。しかし赤子同然の頃から私の傍にいたあの子なら、少なくともマイナスの影響は出にくい筈である。私と昔生活を共にした経験のあるレミリアが再会の際に比較的早く平静さを取り戻したように、パチュリーが私の魔力を微量に取り込んだことで僅かにだが耐性が着いたように、魔性は私と近ければ近いほど、浴び続けた時間が長ければ長いほど順応出来るようになる特性がある。

 

 この仮説からすれば、今まで私と出会った中で一番耐性の強い子は紛れもなくフランだ。だから離れていたブランクはあれども、魔性の影響で心を引き離される確率は低いだろう。

 

 蛇足だが、魔性は慣れることが出来るのに今まで誰一人友達が出来なかった原因は、やはり怖がって最初から近づいてくれないか、極端に狂信的になるもしくは恐慌状態に陥る事が殆どだからだ。そもそもこの性質に気づいたのだって、乳飲み子同然だったフランをずっと世話をしているうちに、私に殆ど怯えなくなった所から発見したほどである。なにせこの長すぎる妖怪生の中で初めて私に本物の笑顔を向けてくれたのは、幼気なフランのそれだった程だ。世知辛いとは正にこの事か。

 

 現在の問題へ戻ろう。取り敢えず、魔性による会話の弊害はこの際無視するとして、どうやってフランの熾烈極まりない攻撃を凌ぐかだ。

 あの炎の剣は厄介だ。リーチも長ければ余波の威力も大きい。防ぐのに素手では心もとない。現に、先ほど半身を引き裂かれたばかりだ。二度も同じ轍を踏むわけにはいくまい。

 であれば、対抗できる武器を用意すれば解決と言う訳だ。

 

 ところで、吸血鬼は強大な魔力を持つ種族である。元々のポテンシャルが他の種族と比べて非常に高いため、普通は何も鍛錬などせずとも、ただ乱雑に力を振るうだけで他を圧倒する暴君を演出することが可能だ。特に魔法関連に関してはそれが顕著と言えるだろう。

 ならば、その基礎能力をもってして何十、何百、何千年と研鑽を積み重ねれば、一体どうなるか。

 

 答えはこうだ。純粋な魔力のみを結晶化させ、何もない空間から己に合った最高の武具を顕現させる事が可能となる。

 

 右手を水平にかざす。地面へ手のひらを向け、そこへ魔力を思い切り集中させた。

 武器が形を成すイメージを鮮明に思い浮かべる。なるべく精巧に、緻密に、繊細に。柄の形状、鍔、そして刃の長さ、切っ先の形までを、細部まで頭の中に作り出す。

 

 イメージは魔力を伴って現実へと転写され、漆黒の魔力が渦を巻き、それが一本の刀剣へと瞬く間に姿を変えた。

 十字型の鍔に長めの柄。すらりとした刀身は、典型的な西洋の剣のそれだ。見た目はさして、世間一般がイメージする剣と大差ないだろう。

 刀剣全体が目に見えて瘴気を放ち、光を呑み込む暗黒の穴の様な漆黒に染まっているという点を除けば。

 

 紅魔館に住んでいた時、同族達はこの剣を『魔剣グラム』と呼んでいた。北欧神話の武器を元に名を考案したらしいが、折角着けてくれた名前なので私もそう呼ぶことにしている。

 

 グラムの柄を取り、試し切りをするように軽く振るう。剣が通った軌道上を、魔力の粒子が線を描いた。最近使う機会が無かったので出来るか心配だったが、調子は良好。魔力は霧散せず、結晶化と存在の固着に成功している。

 

 戦闘態勢は整った。後は彼女を迎え撃ち、説得を試みるのみ。

 

 床を蹴り飛ばし、飛ばされた方向へ一気に移動する。吸血鬼の身体能力は、瞬く間にフランの近くまで私を運んだ。

 件の少女は、パチュリーと激戦を繰り広げていた。夥しい魔力弾を互いに乱射し、図書館を戦場に変えてしまわんばかりの弾幕合戦を繰り広げている。

 

 見る限り、パチュリーが劣勢だ。流石に病み上がりではフランに打ち勝つのは難しいか。服は所々焼け焦げており、様々な精霊魔法を打ち放つ彼女の表情は苦悶の色を滲ませている。

 潮時だろうな。後は私が引き継ごう。

 私が回復するまでよく持ってくれたと感謝の念を浮かべつつ、私はフランへ言葉を投げた。

 

「フラン」

 

 私の声が彼女の耳に届いた瞬間。フランの小さな頭が、ぐるりと勢いよくこちらへ振り向いた。鮮紅の眼に獰猛な殺気が宿り、幼気な口元が思い切り吊り上がる。どうやら、無事に標的をこちらへと変えられた様だ。

 その隙にパチュリーへ避難するよう目配せして、私は愛娘へと視線を移す。顔立ちが整っている分、その表情はあまりに狂気へ満ちていた。

 

「君の狙いは私ではないのかね。さあ、こっちへおいで。積もる話もあるのだろう? 私と少し話をしようじゃないか」

「―――ッはははははははは!! わざわざそっちから来てくれたのね。お望み通りお話しましょう? けど、壊れちゃっても文句は言わせないから!」

 

 瞬間、爆発的な速度でフランは肉薄した。小さな両手に握りしめた炎剣を、彼女は力任せに思い切り薙ぎ払う。その一撃は、一振りで私の半身を削り飛ばす程の恐ろしい威力を秘めている。

 だが、ただ己の力のみで振るうだけでは、武器は武器足り得ない。如何にして相手に軌道を読ませず一撃を叩き込み、無力化するかが武器を扱う上での肝となる。破壊力の凄まじい炎剣でも、大振りゆえに対処しやすい。

 

 炎剣の軌道上にグラムを置き、刃を滑らせるかのようにして横へ受け流す。態勢を崩し、自身の回転力に振り回されて吹き飛んで行きそうになったフランを、柔らかく受け止めた。

 

「フラン。君はどうしてそこまで私に殺意を向ける? 私が離れてから400年間、一体何があったのか教えてくれないか」

「――――うるッッさい!!!」

 

 耳を劈く怒号が炸裂し、彼女の体から全方位に向かって魔力の炸裂弾が放たれた。私は瞬時に距離を取り、跳弾してきた流れ弾をグラムで弾く。

 対するフランは、額に青筋を走らせる勢いで、明確な怒りを露わにした。

 

「偽者のくせに、一丁前に魔剣グラムまで使ってくれちゃってさぁ。どこまでも私を怒らせる気なのね。もしかして動揺を誘うつもりでいたのかしら? 大外れよ、この出来損ないのドッペルゲンガー。そんなことしたって火に油を注ぐ真似でしかないわ」

 

 ……ニセモノ? 

 はて。フランは一体どのような意味で今の言葉を使ったのだろうか。まさかグラムが盗作だなどと指摘してきた訳ではあるまい。名前は確かに神話の武具が元ネタだが、剣のデザインに関してはオリジナルだ。剣を作ろうと思ったらこの形にしかならないので、こればっかりはどうしようもない。

 

 普通に考えると私が偽者だという意味に当て嵌まる。そう言えば、私が炎剣で弾き飛ばされた時も彼女は同じことを言っていたが……これは、もう少し探りを入れる必要があるな。決めつけるには情報があまりに足りなさ過ぎる。

 

「偽者とはどういう意味だ? まさか、私が誰だか分かっていないのか?」

「……ふん。良いわ、その挑発に乗ってあげる。もう後悔したって遅いんだから」

 

 フランは天上高くまで飛翔すると、炎剣に纏わりつく炎の魔力を霧散させ、魔力を被せていた芯の部分だろう捻子くれたステッキを掲げた。

 彼女の、七色の宝石が散りばめられた翼が光を放つ。魔力の鼓動が空気を振動させ、それは衝撃波となって肌を打った。遠距離から砲撃を仕掛けるつもりか。

 

「絶対不可避の弾幕攻撃。精々足掻けばいいわ」

 

 紅の眼が煌めき光る。フランがステッキを振り下ろす。それを引き金とするように、私の周囲を檻状の魔力弾が、緑色の輝きを伴って展開された。機動力を封じ込め、私の進路と退路を塞ぐ目的だろう。

 

 立て続けにフランは青白い閃光を両手に発生させる。それは日本の手裏剣に酷似した、ブレード状のレーザーだった。手のひらサイズだった光の手裏剣は、フランの妖力の上昇に応じて一気に膨張し、掠りでもすれば肉も骨も関係なく切断されてしまうだろう極悪な凶器へと変貌する。

 フランはそれを高速で回転させながら私へ放つ。手に生じた二つだけではない。三つ、四つ、五つと、逆時計回りに回転する殺人ディスクが、追い打ちに流星群の如きレーザーが、私へ怒涛の勢いをもって押し掛けた。

 

 魔剣を構え、魔力の檻へ向かって斜めに切り込むようにして一閃する。

 莫大な魔力が刀身から解き放たれた。それは魔力の竜巻を引き起こし、緑の檻を蝋燭の火を仰ぐようにして吹き飛ばす。続いて迫りくる光の手裏剣の一つをグラムで切り伏せ、上へ向かって跳躍する事で残りのレーザーを躱し切る。

 そのまま、一気に空気を蹴り飛ばした。同時に飛行魔法を発動し、フランへ向かって空間を滑るように奔り抜けていく。

 

 彼女は憎々しげに表情を歪め、翼を大きく羽ばたいて図書館を舞った。夜空を制するとまで言われた吸血鬼の機動力は伊達ではなく、フランは赤い閃光を軌道上に描きながら縦横無尽に飛び回り、背後を追尾する私に向かって無数の弾幕を打ち放った。

 漆黒の剣を振るい、次々に殺到する妖力弾を弾きつつ後を追う。彼女は途中、意表を突くように壁に向かって巨大な妖力弾を放ったかと思えば、それはゴムの様な弾力を持って跳弾し、まるでビリヤードの如く私を狙った。

 

 私は身を捩り、弾を跳ね上がるようにして避け切ると、そのまま壁に向かって着地し、魔力で強化した脚力の思うが儘に壁を駆け上がった。重力を無視した凄まじい挙動に、空気を切り裂く風切り音が耳を突く。

 天井付近まで駆け上がり、私はそのまま天井へと足を突き刺した。さながら蝙蝠の如く宙ぶらりんの状態になった私を、フランは怪訝な顔をして睨み付ける。

 

「気に入らないわ。さっきから何のつもり? 剣を持って追っかけて来たかと思えば急に逃げて、今度は蝙蝠ごっこなんて。死の恐怖のあまり頭がオカシクなってしまったのかしら」

「私は最初から君の話を聞くことが目的だよ。フラン、君をそこまで破壊に追い込んだものは何だ? 心優しかった君が、ここまで敵意を持って苛烈に攻撃してくるなんてとても想像がつかないんだ。そこまで君を追いつめてしまったものの正体を教えて欲しい。悩みがあるならば私が力になろう。恨みがあるのなら、それを真摯に受け止めよう。だがそのためには、君の口から心の核を話して貰わなければ、どうしようもないんだ」

 

 フランドールの目が、奇妙なものを見るように開かれた。彼女の細い首がかくんと横に倒れる。金色の柔らかい前髪が流れ、くりくりとしたガラス玉の様な眼が一際露わになった。

 

「悩み? 恨み? 私が追いつめられている? 何を言っているの。私は貴方に恨みなんて無いよ。悩みなんてこれっぽっちも無い。追いつめられているだなんて履き違えもイイところよ。でもね、私は貴方が許せないの。敬愛するおじさまの力を奪って、それを私利私欲のために利用して、あまつさえそれで私の家族を、友達を! 傷つけようだなんて思い上がった考えを持つ愚か者の存在が、私は絶対に許せない!!」

 

 心で煮えたぎる怒りの業火を口から吐き出すかのごとく、フランは絶叫した。怒号に等しい叫びだった。その感情爆発に呼応するかのように、彼女から発せられる魔力量が圧倒的に上昇する。高濃度の魔力は可視化され、陽炎の如く彼女の周囲を歪め始めた。

 

 かつて天使の様な笑顔を浮かべていた愛娘は、同一人物とは到底思えない悪魔の如き形相を浮かべ、私を視線で殺さんとばかりに凝視した。

 

「だからッ! 貴方を殺すッッ!!」

 

 刹那。今までの比ではない光の波が、周囲一帯へ襲い掛かった。

 縦横無尽に、四方八方に、自由自在に。辺り一面に放たれた無差別の白光魔力弾が、視界一面を白で覆い尽くすが如き勢いを伴い、津波となって押しかかったのだ。

 

 私は天井から離れ図書館の宙を素早く舞いながら、二本目のグラムを顕現させ両手にそれぞれ剣を持ち、ありとあらゆる方向から迫る怒涛の弾幕を弾き、叩き落とす。だがこれは、流石に数が多すぎた。大部分を捌いても、打ち漏らした一発一発が私の身を的確に焼き穿いていく。瞬時に再生する為にダメージは無いに等しいが、さて、どうしたものか。

 

 しかし、今しがたのフランの発言は、一体どういうことだ?

 彼女は、私が400年前に置いて旅に出て行ったことを心底恨んでいた訳では無いのか?

 私の推測では、私に捨てられたと勘違いした繊細なあの子が心を痛めたが故に、ここまでの破壊衝動に侵されたのではないかと言うものだったが、どうやら全く違うらしい。そもそも『おじさまの力を奪って』とは、何だ? 

 

 思い返せば、彼女の言動には何か強い違和感があった。そもそも狂気に侵されている様に思えないのだ。過去に何度か、完全に狂気へ侵された者たちを見たことがあるが、アレは会話が成り立つとか、そう言った次元ではなかった。もはや言葉が意味を成さないような状態に成り果てていたのだ。侵食が軽度であっても、発狂すれば重度と同じような状態になる。フランの今の状態が発狂を指し示すものだとすると、会話の受け答えが出来ている時点で不自然極まりないのである。リンゴに足が生えて勝手に市場へ出回ったとでも言われたかのような、大きな不審の念を私は抱いた。

 

 おかしい。やはり何かが決定的におかしいのだ。不揃いな歯車が無理やり時計の針を進めているかのような、傍目から見ても決定的過ぎる気持ちの悪い違和感が確実に存在している。

 

 狂気。

 理性。

 殺意。

 目的。

 

 疑いを持った様々なワードが、頭の中で乱立する。それら一つ一つを絡めさせ、解き、また別の答えへと繋げていく。

 そして私は、ある一つの答えを弾き出した。

 暗闇に光が差すかのように、これまでになく頭が鮮明になる。天啓に等しい閃きが、私の感覚を思考の一点に引き絞り、至極単純明快な解答を生み出した。

 

 もしかすると私は、とんでもない思い違いをしているのではないか?

 

 あまりに拍子抜けた答えだが、不思議と私はこれが正しいように思えた。そもそもの前提条件が間違っているのだと、今までのパーツから理解出来たのだ。

 そこで私は、一つの前提を覆す事にした。

 彼女は狂気に侵されてなどおらず、理性の下に動いているという、至極真っ当な仮説へと。

 

 この仮説を元に考えた場合、フランの行動を説明する為に必要となるのは動機だ。完全に狂った妖怪に理由など無い。あるのは本能、そして衝動の解放それ一つである。しかし理性ある者は違う。理由を持ち、動機を得てから、形はどうあれ理に従った行動を行う。

 であれば、フランが私を殺そうとする動機を得たのには、何かしらの理由が存在するはずである。ここで気になるのが彼女の『偽者』という発言だ。フランが私を見て偽物と断定したと言うことは、彼女が本物と判断している別のナニカが、どこかに必ずある筈である。

 

 濃厚な線を挙げるならば、単純に私へ成りすましている何かが存在する可能性か。

 だが、フランが私よりも本物らしいと思えるような者が、この世に存在し得るのか? 実に皮肉的だが、私の存在感は並ではない。むしろ邪魔だと言えるレベルである。この魔性を私と見分けがつかない程に再現しきる者がいるなど、俄かに信じ難いのだ。それに、もしフランが本物だと言い張れるほどの気配の持ち主が近くに居れば、私が今の今まで勘付かない訳がない。

 そもそもフランは、狂気に侵されていると判断されて幽閉された身だ。外部からの接触はほぼ絶たれているに等しい。そんな状況では、偽の私を本物と判断するどころか出会う事すら………………待て、『出会う機会が無い』だと?

 

 ――――――あるな。

 一つだけ、この状況を作り出せる『本物』の立ち位置がある。信じられない手法だが、これだと納得はいく。あの子が紅魔館の少女達に狂気に侵されたと判断され、さらに幽閉された身であっても、私の偽者と出会いそして『本物』と判断する、いや、『判断させられる』方法が。

 

 確かめるしかない。

 こればかりは、自分の目で確認せねばならない。私の予測が正しければ、これは狂気だとか、そんな枠から大きく外れた事件に一転することとなる。

 

「何!? 闇雲に剣を振り回して弾くだけ!? どうせおじさまの力を奪って、今まで悦に浸ってただけなんでしょ。少しはやるかと思ったけど、もういいわ。やっぱり貴方におじさまの力は相応しくない。一気にケリをつけてやる!!」

 

 痺れを切らしたフランが、一方的に弾幕を解いた。彼女は憤怒の色に表情を染めたまま、小さな手のひらをこちらへ向ける。

 私の『目』を奪い、破壊する気か。どうやら本気で終わりにするつもりらしい。

 だがしかし、彼女の能力の弱点は分かっている。あのように手のひらで標準を合わせ、狙った『目』だけを奪いとる方法を考案したのは私だ。能力が不安定だった時のフランは、自分の意思に関係なく周りの『目』を奪っていた。それに比べれば、狙われていると分かる分だけ対処のしようがある。

 あれを避けるのは簡単だ。要は手を向けられた瞬間に、フランの視界から外れればいい。

 

「きゅっとして――――」

 

 飛行魔法を応用し、空気を足場へと変える。そのまま固形化した空気を蹴り飛ばし、フランの『目』を奪う所作よりも早く真横へと回り込んだ。

 フランはいきなり横へと現れた私に驚愕し、反射的に右手を振りかぶった。手には、鋭利な深紅の爪がズラリと伸びている。槍の様に振るい、私を貫く気だろう。

 それを、避けることなく体で受けとめる。

 

 ズグッ、と生理的嫌悪感を催す嫌な音が腹から伝わる。吸血鬼の怪力と容易く肉を引き裂く鋭利な爪によって、一切の強化を施していない私の肉体は容易く貫かれた。内臓諸々を爪で掻き潰されたようだが、私は吸血鬼だ。この程度は問題ではない。これでいいのだ。これでフランは、私から離れることは出来なくなった。

 

「フラン」

 

 当たったことが予想外だったのか、目を大きく見開いたフランの頬を、私は剣を放った手でそっと包む。そして彼女の顔を私の方へと向けた。

 丁度、目と目が合う角度へと。

 

「私の目をよく見なさい」

 

 吸血鬼は、目を合わせた相手の心へ干渉できる魔眼を持っている。人間を糧とする種族が故に、警戒されるより術を掛けて相手を陥落する方が遥かに効率良いからだ。それを応用すると、心の中を見る事が可能となるのである。

 フランの瞳から、彼女の心を覗き込む。表層は無視し、その奥へと深く、深く潜っていく。私の予測が当たっているのなら、そこにきっと答えがある筈なのだが……。

 

 ―――――――――――――――見つけた。

 

 

「離せ!!」

 

 攻撃をわざと食らって私を拘束し、私の眼を通して何かを行った偽物の脇腹へ全力の魔力弾をぶち当てた。

 おじさまの力を奪って出鱈目な機動力を手にしているとはいえ、流石にこの至近距離で避ける事は不可能だったようだ。私の腕が貫いた腹部の穴と脇腹の熱傷が、黒づくめの衣服の中に酷く痛々しく映える。

 だがそれも、時間が巻き戻っていくかのようにみるみる再生してしまう。やはりおじさまの力は凄まじい。同じ吸血鬼でも別次元の身体能力だ。普通の吸血鬼なら、重要な内臓にあれだけの損傷を受ければ一日かけて眠らないとまず治らない。ところが偽者はものの数秒と来た。化け物とは、まさにアレを指すんだろう。

 

 ああ、忌々しい。忌々しい。忌々しい!!

 

 偽者が平然とおじさまの力を使う姿を見るたびに、胸の内からどす黒い感情が湯水の如く湧き上がってくるのが分かる。私は少しだけ喧嘩っ早い性格だけど、それでもここまで黒い感情を抱いたことは無い。これが憎しみと言うものなのだろうか。こいつがおじさまを殺し、力を奪って生を謳歌していると考えるだけで、魂すらも破壊して輪廻の輪から外してやりたくなる衝動に駆られる。

 

 でも、何よりも一番忌々しいのは……この偽物が、本物のおじさまなんじゃないかと、思い始めてしまっている私自身だ。

 

 あの息が詰まりそうになる、格の違う吸血鬼の覇気。純粋な魔力を結晶化させるというとんでもない荒業をもって形成される魔剣グラム。私の攻撃をいとも簡単に掻い潜り、何度も何度も私へ優しく語りかけてくる、あの表情と仕草。何より一番揺さぶられたのが、私の眼を覗き込んだ眩い紫の瞳だ。

 

 私がまだ本当に本当に小さかった時、一度だけ高熱を出して倒れた事があった。妖怪は滅多に病に罹らない。吸血鬼となれば尚のことで、おじさまは酷く焦ったらしい。その時うなされていた私を心配そうに覗き込んだおじさまの優しい眼に、奴の眼はとてもよく似ていたのだ。

 さらに私の眼を向けさせるために頬へ添えられた手が、熱を吸い取ろうとするかのように額に当てられたおじさまの手の感覚を、鮮明に思い出させた。

 

 いや、待て。私は一体何を考えている。アレは偽者だ。とてもよく似ているだけの偽者だ。おじさまは私の中に、魂だけとなって残っている。アレが本物なわけがない。アレは、私の家族に手を出そうとしている最悪の侵略者なのだ。

 

 ……でも、私はふと思ってしまった。

 いくらおじさまの灰を吸い込み、力を奪ったと言っても、殺した相手とここまで似てくるようなことなんて、本当にあるのだろうか?

 偽者はおじさまの事なんて何も知らない筈なのに、一挙一動まで似ているだなんてことが……。

 

『フラン、落ち着きなさい。奴の行動に惑わされてはいけない。アレは私の姿をしているだけの紛い物なのだ』

 

 突然響いたおじさまの叱責が、私を空想から現実に引き摺り戻した。頭を振るい、偽者を見る。偽者は微動だにしようとせず、ただこちらを静かに見つめているだけだ。手元にあった剣は、いつの間にか消失していた。

 

「分かってるよ、おじさま」

『……大分疲弊しているようだね。私の姿をした者を葬ろうとするのが辛いのだろう? ならば、さっさとトドメを刺してしまうに限る。私が見た限りだが、奴は君の能力が発動する瞬間、明らかに意図して避けていた。裏を返せば、君の能力は偽の私にとって有効打に成り得るのだ』

「でも、偽物が速すぎて『目』を捉えられないよ。まるで私の力を知っているみたいに避けたし、多分当たらない。私の力は隙が大きすぎる」

『ああ、そうだな。今の君の使い方では、偽の私に攻撃を加えるのは難しい。だからフラン、枷を外しなさい』

「えっ?」

 

 枷を外せ。この言葉の意味を、おじさまは分かっているのだろうか?

 私は手のひらで対象の『目』に標準を合わせ、奪い取る手法を普段使っているのだけれど、この能力は最初からこういった使い方だったわけではない。昔の私はとても能力が不安定で、一度発動させれば、私の周囲にある『目』を無差別に奪い取ってしまっていたのだ。それを、おじさまと共に試行錯誤を重ねて今の形へ収めたのである。

 つまり、そういうこと。

 おじさまは、枷を外して無差別攻撃を仕掛けろと言っているのだ。これは照準を合わせる必要が無い。代わりに周囲の狙ったもの以外を破壊してしまう恐れがある。しかも今の私は、昔より魔力や諸々が格段に成長している。『目』を奪える範囲や量が、どれだけ肥大化してしまっているのか想像もつかない。

 

「でも、おじさま。まだ図書館にはパチュリーもいるよ? それに、パチュリーの大切な本だって沢山――――」

『大丈夫、パチュリーなら障壁を用いて君の力に抗える筈さ。それにだ、奴を生かしていた方が、後々の被害は格段に大きくなる。本はまた補える。図書館も直せばいい。だが奴をこのまま泳がせるわけにはいかない。安心しなさい、フラン。君なら出来る。さぁ、枷を解いて、奴の息の根を止めるのだ。紅魔館と幻想郷の未来の為にも』

 

 自分の手のひらに、視線を落とす。

 出来るのか? 本当に?

 

 枷を外そうと試みたところで、かつてのトラウマが、思い出の底から這いずるように出て来た。能力が暴走して、おじさまの体の一部を壊してしまった時の記憶が。飼っていた小鳥さんを壊してしまった時の、取り返しのつかない事をしてしまったと言う絶望的な感情の渦が。紅魔館の覇権争いに巻き込まれたお姉様を守るために、同族達を全員、破裂した血袋に変えたあの地獄のような光景が。それらの悍ましい記憶の数々が、私の心に躊躇を生んだ。目の前に、茨の森が出来上がったかのような幻覚さえ見えた程に。

 

 手が震える。足が竦む。

 どうしよう、怖い。怖いよ。

 もし、もし事故でパチュリーの『目』を壊してしまったら、私は、私は……!

 

『フラン』

 

 おじさまの声が響く。いつもとは違う、どこか苛立ちを含んだ様な声色だった。

 

『さぁ、やるんだ』

 

 どうしても、やらなきゃ駄目なの? もしかしたらパチュリーが死んじゃうかもしれないんだよ?

 

『何をしている。今しか奴を葬るチャンスは無いのだぞ』

 

 おじさまの怒気が強くなる。頭が揺れたかのようにすら思えた。

 あぁ、ごめんなさい。ごめんなさい。臆病でごめんなさい。だから、そんなに怒らないで。おじさまにまで見放されてしまったら、私は、私でいられなくなってしまう。

 

『さぁ、やれ。フラン!!』

 

 ―――ごめんなさい。

 枷を外して、能力を発動する。それだけでいい。後は、何も考えなくていい。そうすれば、おじさまに怒られる事はもうない。また私は皆に嫌われちゃうかもしれないけれど、振出しに戻るだけだ。また、あの地下室に戻るだけだ。

 そう、それだけ。

 それだけ、なんだ。

 だから、頬に伝うこの暖かい感触なんて、すぐに忘れられるに決まってる!

 

「――――――妹様ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 手に力を集中させようとした、その時だった。

 けたたましい咆哮が聞こえた。図書館中に響いた思いがけない叫び声に、私は能力の発動を反射的に解除した。

 陽だまりの様な張りのある活気に満ちた、風鈴の如く美しいこの声は。

 私たち姉妹をずっとずっと守ってくれた、大切な門番さんの―――美鈴の声だ。

 

「美鈴!」

「すみません、妹様! どうか、どうかお許しください!」

 

 彼女の手が、虹色の『気』を纏っているのが見えた。ああ、そう言えば美鈴は私とお姉様の喧嘩を止めるとき、あれで二人とも気を失わせていたんだっけ。

 いつもは何で分かってくれないんだろうって思っていたけれど、今日は、本当に良いところで私を止めに来てくれた。

 ありがとう、美鈴。私は、貴女のお蔭で大切な家族を壊さずに済んだのかもしれない。

 

 彼女の手が私の首筋へ優しく当てられたと感じた時、私の意識は、暗闇の奥へと呑み込まれていった。

 

 

 何やら突然様子がおかしくなったフランの様子を伺っていると、虹色のエネルギーを纏った紅髪の女性が突如乱入し、フランの意識を刈り取った。

 絶妙なタイミングだった。もしかしたらフランは、故意的に能力を暴走させようとしていたのかもしれない。理由は分からないが、手を見つめて震えだした時から、何かをしようとしているのがハッキリと分かった。

 

 私が止めるのも良かったのだが、下手に動いて刺激してしまえば、咄嗟に能力を発動されかねない状態だった。故にどうする事も出来なかったのだ。私はフランの能力を食らっても再生に時間はかかるが、多少は平気だ。だが物陰で休んでいるパチュリーは違う。無差別破壊に巻き込まれれば、彼女は間違いなく爆砕されていた事だろう。あの紅い髪の女性には感謝しなくてはならない。

 

「ナハトさん!」

 

 フランを抱えた紅い髪の女性が、私の名を呼んだ。はて、どこかで知り合った子だっただろうか――――いや、思い出した。彼女の名は美鈴。私がまだ紅魔館に居た時、私の不在時に姉妹のお守りを一任していた少女だ。確か、会ってまもなく強さとは何たるか教えてくれだとか奇妙な事を言われた記憶がある。私の魔性に少々崇拝寄りな影響を受けていたようだが、根が真っ直ぐで芯のある少女の様だったので、二人を任せるに至ったのだったか。

 それにしても、かつて彼女の口から飛び出た私の二つ名の数々にはほとほと参った。お蔭で、紅魔館の裏ではあんな呼ばれ方をされていたのだと気づいてしまったのだ。知らぬが仏とはまさにこの事である。

 しかし彼女がこの館に居ると言うことは、どうやらずっと我が愛娘たちを守ってくれていた様子だ。実にありがたい。今度何かお礼をしなくてはならないな。

 

「ナハトさん、その、息災の様で」

「そちらこそ、美鈴。長い事館を開けていてすまなかったね。それにしても、まさかまだここに残ってくれているとは思わなかったよ。ありがとう、ずっと姉妹たちを守ってくれて」

 

 彼女は目を見開き、しばしの余韻の後に下へ俯いてしまった。心なしか、肩が震えている。

 

「私には、勿体ないお言葉です」

「そんなことは無いさ。現にこうして、フランを止めてくれたじゃないか。……ああ、そうだ。再会の時間をまだ喜び合いたかったのだが、今は急を要する。一つ、頼みを聞いてもらえるかね」

「はい、私に出来る事ならばなんなりと。この身に代えても遂行して見せます」

 

 ……そこまで畏まらなくても、良いのだがなぁ。恐怖による狂信ではなく恐怖による羨望で接してくれている分にはまだありがたい方なのだが、彼女の私に対する呼び名の矯正は、また随分と苦労したものだったか。様付けならまだ我慢は効いたかもしれないが、流石に『闇の君』と呼ばれた時はどうにもならなかった。私は魔王でもなんでも無いのだから、気軽にナハトで良いと言っても受け入れてもらえず、結局ナハトさんで落ち着いた過去がある。

 

 まぁ、そんな事はどうだっていい。今はフランの方が重要だ。

 

「フランを地下室で見張っていてくれないか。おそらく、まだ彼女は落ち着いていないだろう。目覚めて錯乱すれば、再び暴れだしかねない。私が見張ってもまた争いになるだけだからね。見知った顔の君なら、フランも手を出してくることはないだろうから、頼めるかな?」

「承知しました」

「そのフランの見張り役、私も同行していいかしら?」

 

 いつの間にか近くに来ていたパチュリーが、魔導書を抱えたまま言った。もう体調も回復できたのだろうか。

 

「平気か?」

「無論よ。それに、水の精霊魔法で拘束しておいた方が安全でいいじゃない。……あなたがこんな事を頼むということは、フランの狂気を取り除く策が浮かんだと言うことでしょう?」

 

 流石、知識の先駆者たる魔法使いだ。頭の回転の速さには感服する。

 フランの心を覗き込んだあの時、私は確かにこの目で見た。彼女の心の横へ、絡みつくかのように巣食うものの姿を見たのだ。アレばかりは、流石の私も驚愕を隠せなかった。まさか、アレがフランを惑わせていたモノの正体などと、予想だにもしなかったのだ。

 パチュリーの発言に、美鈴は眉を上げて私を見た。

 

「もしかして、妹様に巣食うナニカの正体が分かったのですか?」

「その通りだ。だがまず、レミリアに色々と確認をとる必要がある。これは紅魔館……いや、あの子達姉妹に関わる重大な出来事だ。だからそれまでの間少し、フランを見ていて欲しい」

 

 そう、これは狂気だとかそんな問題ではなかったのだ。フランは狂気に取り込まれてなどいない。心の奥底に寄生した、ある人物に騙され続けたが故の凶行だったのだ。

 終わらせなくてはなるまい。もしかすると義娘たちは心に深い傷を負う事になるかもしれないが、ここで躊躇してしまえば、フランと紅魔館に生まれてしまっている溝が埋まる事は決してないのだ。

 

 因果で狂ってしまった彼女たちの歯車を元に戻す決意を胸に、私は宣言する。

 

「今夜中に決着を付けてみせよう。フランドールはようやく、姉と共に夜空へ羽ばたく時が来たのだ」

 


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