波紋提督と震えるぞハート   作:クロル

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 本命である二部三部への前フリのつもりだった一部が反響ありすぎて二部を書くのが怖い。でも“恐怖”を克服することが“執筆する”ことだってDIO様が言ってた。


第二部 戦闘海流
プロローグ


 

「建造ッ!」「英国で生まれた帰国子女の」「金剛、貴様はこっちだ」「エ? あっはい」

「建造ッ!」「航空母艦、加賀です。あなたが」「ようこそ加賀さん。こちらへどうぞ」「……はい」

「建造ッ!」「川内、参上! 夜戦なら」「川内さん、こちらへ」「最後まで言わせてよぉー!」

 

 海軍本部に併設された造船所の一角で、建造、建造、建造。支給された資材をガンガン溶かしていく。バランスの良い艦隊が組めるように、建造の触媒となる開発資材はあらかじめ不知火と那智で選定してある。うおォン、俺はまるで人間造船所だ。

 

「建造ッ!」「足柄よ。砲雷撃戦が得意な」「久しいな、足柄。ここへ来い」「あら、早速出撃かしら!? 燃えてきたわ!」

「建造ッ!」「工作艦、明石です。少々の損傷だったら、」「明石さん、お待ちしていました。こちらへどうぞ」「はいはい。なんです、この建造ラッシュ」

「建造ッ!」「陽炎型駆逐艦8番艦、」「久しぶりですね、雪風。同じ陽炎型同士仲良くやっていきましょう。こっちへ」「はいっ!」

 

 まだまだ建造。どんどん建造。建造した艦は不知火、那智、鳳翔がそれぞれ自分の組に連れて行く。駆逐、潜水艦、軽巡が不知火。重巡、戦艦が那智。そして空母その他は鳳翔に任せ、速成教育を施す事になっている。

 

「建造、建造、建造、建造、建造ッ! もっと熱くなれよォ! 建造!」

 

 できるできる頑張れ頑張れ絶対できる頑張れもっと建造できるって!

 資材が光って人型をとり、建造が完了したそばから挨拶する間もなく次の建造へ。これだけ建造すると自己紹介だけでもけっこうな時間だ。今日中に荷物と一緒に鎮守府に戻る予定なのだから、おざなりな対応になって申し訳ないとは思うが勘弁して欲しい。

 最終的に建造したのは、

 

 不知火組が「川内、神通、夕張、夕立、時雨、響、雪風、伊8」

 那智組が「金剛、榛名、長門、利根、筑摩、足柄、大井、北上」

 鳳翔組が「明石、大淀、赤城、加賀」

 

 の合計20隻となった。つ、疲れた。一隻二隻の建造では気にならなかったが、これだけ建造すると地味に体力を使う。病み上がりにはキツい。

 不知火に支えられて息を整えてから、号令をかけた。

 

「ようこそ波紋艦隊へ。俺が諸君の提督だ。波紋提督かジョジョ提督とでも呼んでくれ。簡単な挨拶で悪いが、早速鎮守府に移動して出撃に向けた訓練を積んでもらう。細かい内容は担当に聞いてくれ。全員、駆け足!」

 

 見た目は少女でも、本質は軍艦。艦娘達は建造されたばかりで右も左も分からないだろうに、全員ぎこちないながらも海軍式の敬礼をして素直に命令に従ってくれた。金剛などは那智についていく途中で振り返って俺にウインクを寄越すほど余裕がある。

 ……今更だが、ものすごい女所帯になるんだよな。ストーンオーシャンばりに濃い顔してたら普通に対応できるんだが、可愛らしい少女ばかりだから困る。

 

 海軍本部は東京にあり、俺の任地は伊豆の下田鎮守府。今回仮設がとれて正式な鎮守府になる。

 下田まではけっこう距離がある。内陸の道は深海棲艦に荒らされていないが、鎮守府の近くからは深海棲艦の霧の中を通る事になるため、艦娘か提督による運転が必要になる。波紋艦隊で運転ができるのは俺だけ。俺だけで艦娘23隻と大量の物資を運ぶのは無理がある。数往復する時間は惜しい。

 悩んでいると、横須賀鎮守府の猫提督が運転手としてあきつ丸を貸してくれた。彼女は陸軍の艦であるためか、運転ができるという。ありがたい配慮だ。トレーラー二台に貨物車を牽引していけば一度でいけるだろう。

 

 片腕がないため左手だけでハンドルを握り、ギアチェンジを不知火に任せ、下田へ。道中特に何事もなく、薄らと漂う霧の中に突入。整然としていた街並みがみるみる崩壊したものに変わっていき、海にほど近い更地同然の仮設鎮守府前でトレーラーを止めた。艦娘達に頼んで荷物を下ろしてもらう。荷物の中には解体してまとめられたプレハブの部材もごっそり入っている。今日中に組み立ててしまいたい。

 

 荷物を下ろしていると、仮設鎮守府にいた提督と艦娘達が疲れきった様子で出てきた。

 

「あなたは……怪我はもうよろしいんですか? 下田鎮守府提督代行の垣根です」

「お疲れ様です。俺の事は気軽に波紋提督かジョジョ提督と呼んで下さい」

 

 話していると、水も食料もロクになく、隙間風が酷い上にコンクリートの上に雑魚寝、壁や床には血の跡で、かなりストレスを溜めていたのがひしひしと伝わってきた。

 

「ジョジョ提督はよくこんな鎮守府でやってこれましたね……」

「改めて見ると自分でもちょっと信じられないですよ」

「垣根提督、荷物を下ろし終えましたので、御乗車下さい。自分が運転手を務めさせて頂きます」

「ああどうも。ではジョジョ提督、私はこれで」

「垣根提督は海軍本部へ?」

「いえ、この足で九州奪還に加わります。あそこは今練度より数が欲しいようで」

 

 垣根提督は敬礼して、艦娘を連れてトレーラーに乗り込んでいった。

 あきつ丸は点呼して全員乗車したのを確認した後、俺の前に来て敬礼した。艦娘達がする敬礼とは少し違う。陸軍式敬礼ってやつか。

 

「では将校殿、自分はこれで失礼します……ところで、勲章は帽子につけるものではないですよ」

「知ってます。承太郎ルックなので」

「軍服の前が開いているのは?」

「それも承太郎ルック。ふん!」

 

 Tシャツの下の筋肉をピクピクさせると、あきつ丸は引いていた。ジョナサンにも引けをとらないと自負する筋肉なのにこの反応である。やっぱ誇り高き血統じゃないとダメかー(´・ω・)

 

 あきつ丸のトレーラーが走り去った後、明石の指示でプレハブの組み立てが始まった。俺も手伝おうとしたが、監督という名目で鳳翔に椅子に座らされる。腕吹っ飛ばしてからこいつら過保護になったな。

 俺もまだまだ現役、と思うが、駆逐のチビっ子達が太い鉄骨をひょいと片手で持ち上げてはしゃぎながら運んでいるのを見て、大人しくしておこうと思い直した。那智曰く、休養も戦いだ。

 

「私、建築は専門じゃないんだけどなー」

 

 俺の横で設計図を片手に指示を出しながら明石がボヤいている。だが指示は的確だ。すまんな。

 

「提督、情報を整理しました」

 

 垣根提督から受け取った書類を整理していた大淀が、注釈を入れてまとめたものを渡してくれる。

 目を通してみると読みやすく、簡潔にまとめられていて、ほとんどサインをするだけでいい。

 

「提督、向こうにトーチカみたいなのありますけど、あれも直しておいた方が良いです?」

「んー、一応頼む」

「了解です、ささっとやっちゃいますね。はーい頭上注意! クレーン通りますよー」

「提督、これからの艦隊運営方針ですが、どのようにいたしましょう」

「軽い訓練の後防衛線の張り直しだな。鳳翔、大淀の仕事ももう決まってるんだったか?」

「はい、問題ありません。大淀さんには基本的に通信室に詰めてもらう事になると思いますが、いざという時のために最初の練習航海だけは出てくださいね。提督のサポートとして秘書官に不知火を置いて、大淀さんは不知火と連携して資材管理、本部との通信、ゆくゆくは車の運転もできるようになって頂いて、物資の陸上輸送などを――――」

 

 なにこれすごい。座ってるだけでどんどん話も作業も進んでいく。俺いる必要なくないか。

 ぽけっと眺めているだけで、時刻は夜。作業照明に照らされる中、プレハブの組み立てが終わった。

 通信室、宿舎、工廠、入渠ドック、執務室、通信室、資料室、資材倉庫、トイレ、食堂、厨房。ざっと一通りは揃っている。外観は大規模な工事現場で時々見る作業員用の建物といった様子で、鎮守府という感じはしない。霧のせいで大工に来てもらうわけにもいかないのだ。隙間風が入らないだけでも有り難く思うべきだろう。

 

 不知火に一言をと促され、艦娘を労う。

 

「全員お疲れ。建造初日から移動、工事と色々あってしんどかっただろう。本格的な訓練は明日からだ。今日はゆっくり練習航海をしてくれ」

 

 そう締めくくると、全員ほっとした顔をした後、ん? と首を傾げた。顔を伺い合い、代表して加賀が挙手する。

 

「今日、ですか? もう本日は残り三時間程度ですが」

「今日の、今からだ」

「今から? 夜戦!? やったー!」

 

 テンションが高いのは川内だけで、半分以上の艦娘が困惑していた。不知火が手を叩き、全員を集めながら言う。

 

「深海棲艦はこちらの疲れなど考慮してくれません。疲労状態での航海を経験しておくのは必ずためになります。心配しなくてもほんの一、二時間沿岸を航行するだけです」

 

 夜道を先導する不知火にぞろぞろと艦娘達がついていくのを見送る。那智と鳳翔は航行に難があるため留守番だ。

 

「では、私は補給と夕食の用意をしますね。時間としてはもう夜食ですが」

「あー。スマン、間宮を建造できれば良かったんだが開発資材(しょくばい)がなくてな」

「いいえ、作り甲斐があって嬉しいです。腕によりをかけて作りますね」

 

 鳳翔はクセで旧鎮守府の野外調理場に行きかけ、恥ずかしそうにそそくさとプレハブの厨房に入っていった。それをニヤニヤと見ていた那智がふと空を見上げる。俺も釣られて見ると、星空に満月がぼんやりと輝いていた。全国の沿岸部が破壊され大多数の工場がストップし、ガソリン価格の急騰で排ガスは急激に減少した。おかげで空気は綺麗になったのだろうが、あいかわらず薄くかかる霧のせいで差し引きあまり変わったようには見えない。ひんやりと湿った夜風が頬に染みる。

 

「貴様、調子はどうだ?」

 

 那智が空を見上げたまま言った。

 

「不知火は貴様の腕の代わりになると言っていた。鳳翔は貴様の手が届かないところを支えると。私は二人ほど器用な事はできないが、まあ、その、なんだ、一緒に酒を呑んで、愚痴を聞くぐらいはできる。私達は負傷していても、戦えないわけではない。新しい艦も進水した。だから……まだ終わりではない。先へ進める。そうだな?」

「ああ。俺も那智も、新造艦に任せて楽隠居にゃまだ早すぎる。なんなら今から駆逐をブッ飛ばしに行ってもいいぐらいだ」

 

 右腕を失い、弱くなったとは思わない。

 ジョセフは腕を失って戦えなくなったか? ジョニィは足が動かないからといって弱かったか?

 そんな事はない。積み上げた闘いの年季は確かに身についている。

 

 那智は俺の顔を見て、強がりではないと見て取ったらしい。背中をばしんと叩き、満足そうに笑った。

 

「そうか、なら結構。まだまだ一緒に暴れられるな」

 

 ガツンと拳をぶつけ合う。その拳には強さではない別の重さがあるような気がした。


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