オーバーロード。ナザリックの民達。   作:ムトゥー座

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カルネ村防衛戦開始前

「誰だおまえは?」

ふーん。なかなかの腕前を持ってそうじゃねか。

ハリスは漠然とそう思った。

まず、目が違う。こいつの目は例え無理でも最後まで足掻く男の目だ。

「私はリ・エスティーゼ王国戦士長のガゼフ・ストロノーフだ」

「知らんなぁ。で?」

ハリスはもうイライラしていた。雑魚の始末がまた増える。いや少しは楽しめるかも。

「貴殿の名前を聞く前に聞きたい。あのアンデッドは?帝国兵の恰好しているようだが・・・」

「ああ・・・あれは私のしもべですよ・・・。」

「魔法詠唱者か?」

「はい・・・しがない・・・ね・・・。」

ガゼフはこの集団を見て首を捻らざるを得なかった。

 

まず、武装の統一感が全くない。まるで冒険者のようだ。

目の前の男は木の棒しかもっていないがそれだけではなさそうだった。

それよりもローブの男だ。魔法の事は詳しくは知らないが並の魔法使いではない。

 

そうこうしている奥の方から豪奢なローブを身に纏った大男が現れた。

「ふむ・・・。あなたたちは?」

ガゼフはふたたび名乗った。

 

 

 

ガゼフは感謝の念に堪えなかった。同時に憤慨した。己自身に。

我々は間に合わず、彼らは間に合った。しかたない。だがそう思えなかった。

 

「戦士長殿は恨まれておいでなのですね。」

「まさか、スレイン法国までとはな・・・。」

村は現在、陽光聖典なる集団に包囲されていた。

敵の数は凡そ30弱。だが、やつらの頭の上には炎の羽を羽ばたかせた天使がいた。

戦力は圧倒的に不利。だが。

「ゴウン殿良ければ雇われないか?」

「お断り致します。」

「王国の強制徴収ではいかが?」

部下が剣に手をかける。だが迂闊だった。

ガゼフの背中に何か尖った物が押し当てられた。

(!?)

ガゼフは思わず振り返るとそこには短刀を持った覆面の男がいた。

明らかな軽装で、全身真っ黒だったが目だけは燦々と赤く光っていた。

「不敬。死すべし。」

しかし、死は訪れない。アインズが手をすう・・・と上げていたからだ。

覆面の男は音もなく消えた。冷や汗が頬を伝うのがわかる。

確実にやられていた。ガゼフは戦慄にさえおぼえた。

覆面の男の手腕とそれを束ねる謎の男アインズ・ウール・ゴウンに。

「怖いな・・・。やつらと戦う前に全滅しそうだ。」

「部下たちが粗相をしました。私のためにとやったことです。平にご容赦を・・・。」

「いやいや・・・。」

なんて腰の低い御仁なのだろうか。最初に印象は傲慢な魔法詠唱者だったが己の非があれば部下の代わりに頭を下げる。

王国の貴族はけっしてしないだろう。

「アインズ様畏れながら・・・。」

ニック・ヤーマという指揮官風の男がアインズになにやら耳打ちした。

(あの男使えます。)

(ああ、わかっている。あの男の力をやつらに対する試金石とするのだろう?)

(無論、それもありますが恩は売っておくべきかと。あやつには恩を売り、今後何かしらの援助か足がかりも作れます。)

(ふむ・・・。信用に能うるか?)

(戦士として腕は二流ですが、人間はできているかと・・・。)

アインズは正直の所、ガゼフという男は嫌いではない。犬や猫の小動物程度の愛着は湧く程度の感情しかないが、先ほどは部下の目の前で頭を下げられる器量を持ち合わせているようだったし、無礼も許してくれた。

しかし、戦士的な所はレベルなどの細かな線引きはできなかった。

だが、ニック・ヤーマも同じ戦士職。ソードウォーリアーとコマンダーの職を持つ彼はガゼフにステータス以外の何かを感じているようだった。

アインズの中で消えゆく人間性。だが、鈴木悟として残滓が彼に賭けようと囁いていた。

それに件の陽光聖典なる者どもはそこらの雑魚ではない。

ならば、ナザリックの民兵の力試しとなるだろう。

 

彼らのレベルは30から35レベル。さっき兵士どもでは虐殺レベルの戦いだったため試すこともできなかった。

確かハリス・アンコールはこう言っていたな。

ただの動く肉の塊だと。ではスレイン法国の特殊部隊はなんの塊か俄然興味ある。

 

 

 

 

 

「ガゼフの部隊か。」

「いや・・・情報にはありません。それにあの装備・・・冒険者の類か傭兵かと。」

陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインは殲滅対象の村に蔓延る異形の者どもに目を凝らしていた。

装備は統一感なし。いや、一部ありか。杖もち・・・魔法詠唱者風が幾人かいる。弓兵に・・・弩兵までいる。大盾の重装甲兵に皮鎧の軽装兵・・・なんと馬鎧まで装備した重装甲騎兵までおるではないか。王国の糞貴族めが!謀りやがった!ガゼフの武装は剥いだが雑魚の武装も剥いでくれればよかったのに!傭兵を雇うとは!

「正体は不明だが、事ここに至っては些末なことよ・・・。ガゼフごと叩っきれ。」

「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」

「スレイン法国の勇者諸君。汝らの信仰を神に捧げよ!先が見えぬ愚か者どもに神の陽光!喰らわせてやれ!」

「天使召喚準備!殲滅開始!」

「「「「「「「「「応!」」」」」」」」」」

 

 

「各員傾聴。」

総指揮官ニック・ヤーマ始め、中距離型魔法戦士ハリス・アンコール。魔法隊のカイナン・トゥールマン。狙撃弩兵隊のクリス・マッコイ。弓兵隊のエス・ド・サドゥン。重装甲兵隊のガイル・ニーラル。軽装歩兵隊のハッシバ。騎兵及び重装甲騎兵隊のロベール・シュペール。

ナザリック民兵30名が村の一角。広場に集まっていた。アインズはいない。村に防御魔法を展開している。

「至高の方からの下知である。」

一同は今日このときは待っていた。ゴミ屑どもにアインズ・ウール・ゴウンの牙の味を味あわせるのを。

「命令は単純明快。不届き者を殺せ。味あわせろ。地べたの砂利の味を。恐怖に凍える血の味を。但し。指揮官と幾人か残せ。情報管のペインキル様に提供する供物だ。」

応!応!応!応!と声を弾ませる。獣の如く。

「アインズ様はこう仰られた。格の違いを見せつけよ!と!」

おぉーーーーーー!!!!!!突如としてまるで村が震えたようだった。

「アインズ様はナザリックに最後まで残られた慈悲深い君!あのかたは我々にまでその慈悲深さをお示しあそばされた!」

 

 

 

 

 

 

「生きよ!将兵よ!誰一人死すこと許さじ!生きてナザリックの門潜るべし!」

 

 

 

 

 

 

後の歴史家は語る。

この取るに足らぬ村の防衛線こそかの魔道公軍アインズ・ウール・ゴウンの初戦であったと。

敵は悪逆の輩スレイン法国陽光聖典。38名。

対して味方はアインズ・ウール・ゴウンの同輩にして盟友。ガゼフ・ストロノーフ戦士団。

数40名。

対してナザリック民兵30名。数こそ勝るが敵は外道ながら手練れの衆。

どうやって勝利したか。どうやれば村の損害零。戦士団の損害ゼロ。民兵損害0の大勝をなしたかこれから語られないといけない。かの魔道公の采配を。

 

 

 

老人は言った。

「さあ。聞きたおぼえの者よ。口よ閉じよ。そして再び感々足らしめよ。

さあ。まだ聞いたことなき者よ。目を閉じわが声に耳を傾けよ。母子よ父子よ。幼子を抱いてよく聞け。閉じし目の前に広がるは王国の一騎当千の兵たちだぞ。下を見よ悪逆の徒が屍が朽ちてゆく様を。耳を開け。鬨の声が森の木々を揺らすのを。」

老人は歳の割によく通る声で言った。

僕は妹の手を握って目を閉じた。

 

 


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