これも一種の転落人生だろう。
「うーむ、碌な物持ってないなぁ。……俺も人のことは言えないけども」
まだ温かい死体のポケットを手早くひっくり返しながら、ぼそりと独り言ちる。
やれやれ困った困った。このままでは俺は飢え死にする。お亡くなり路線一直線である。どうしたものか。
うーむ、と再び呟いて頭を傾けると、いつの間にか目が隠れそうなほど伸びていた前髪が垂れた。
ちくちくと目に突き刺さって存在を主張してくるので、仕方なく死体漁りを中断して大雑把に障害物を掻き上げる。
汗ばんで気まぐれにうねった髪に死臭が纏わり付いた気がして、腹いせに死体の豊かな金髪を毟る。
剝けた。
ずるっと。
カツラか。クソ。しかし笑う気力も無い。
視界を鬱陶しく遮る髪を切れないのは、道具が、それを買う金がないからだ。
この世界に来て約二ヶ月、未だに短剣すら拾えない現状に思いっきりーーそれはもう高らかに舌打ちしたくなる。
そろそろ路傍の石でも削って手作りすべきだろうか。
「いや、無理だな」
俺は分かりきっている答えを出す。残念ながら、そんな役に立つスキルは持っていない。
まともに武器を扱えない分際で護身用とは言わないが、散髪以外にも、生活する上で刃物が必要となる場面はいくつかあった。
人間の手で分解できるものには、残念ながら限界があるのだ。この二ヶ月刃物が手に入らないせいで苦労した経験は一度や二度ではない。
死体の持ち物調査を再開し、少しして粗方調べ終えた俺は、顔を顰めて今回の収穫をつまみ上げた。
萎びたリンゴの皮である。
少しずつ齧っていたのだろう、丁寧に剥かれて繋がった長い皮は、全体の三分の一ほどに減っている。
この死体の死因は恐らく栄養失調、それを考えればこんなものか。
実際、無一文の俺も現在は似たような生活だ。
腐っていないか、衛生的にどうか、などと考える余裕もない程度には追い詰められている。
骸骨みたいに痩せ細って転がっている死体を見る度、自分の未来が予測できて戦々恐々としているが、たまに立ち眩みがするくらいで済んでいるのでもう少しは持つと思いたい。
こうして細々とゴミを拾ってきては食べているから、しばらくは消費エネルギーを節約して飢えを凌げるだろう。
しばらくは。
ーーどうして俺はこんな底辺生活を送っているのだろうか。
俺は漁ることで乱してしまった死体の服を整え、しゃがんだまま、眩しい禿げ頭に合掌した。
よっこらしょと立ち上がり、リンゴの皮を咥えて、ご冥福をお祈りしつつ死体に背を向ける。
残飯を求めて再び歩き出しながら、自分でも把握しきれていない、二ヶ月前の出来事に思いを馳せた。
■■■
「公衆電話を終えてドアを開けると、そこは見知らぬ路地裏だった、とかいう悲しい現実」
「どうも異世界らしいし何かしら不思議な能力が発現するんじゃないか、そう思っていた時期が俺にもありました」
「就職活動しようと思ったら流民の採用は認めていないらしい。地球人も流民の類なのか」