書いてる最中、ラミとフィズの設定ミスったという(詳しくは活動報告)
事態に気づいたりしましたが、私は元気です。
それではお楽しみください。
私はゆっくりと目を覚ました…、どれだけの時間がたったのだろう。
かなりの魔力を消費したのか、倦怠感が激しく意識が上手く落ち着かない…。
とりあえずゆっくりと体を起こし、周りを見る。
「起きたのね、クラレット」
「リプレ…、私は…」
「とりあえず寝起きで辛いでしょ? はい、コレ」
リプレのお水を貰って、それを飲み干す。少し温いが今はこの温さが心地よかった。
次第に意識もしっかりと戻り始め、私は…。
「!? リプレ、ハヤトは!? ハヤトはどうなったんですか!?」
「ちょっと落ち着いて、大丈夫だから、ね?」
「大丈夫…、ハヤトは無事なんですね…、う…っくっ…、うぅ…」
クラレットの目元から涙がポロポロと零れてゆく。
出来たんだ…、私、ハヤトは助けられたんだ…、よかった、本当に…。
「事情はよくわからないけど、頑張ったのね、クラレット」
「リプレ、私、私…」
「うん」
リプレが私を抱きしめてくれる、泣きじゃくった子供をあやす様に優しく撫でてくれた。
母親の胸の中で安心する子供の様にクラレットはリプレの中で泣き続けた。
---------------------------------
「大丈夫なの? まだ休んでた方が」
「ごめんなさい、リプレ。でも、ハヤトの顔が見たくって」
クラレットはリプレに支えられる形で孤児院の中を進んでいた。
だいぶ体調は良くなったとしても、彼女の魔力はエルエルを召喚したために根こそぎ奪われてたのだ。
人を蘇生するのはほぼ不可能に近い、しかしロレイラルほどではないが名も無き世界の発展した知識がそれをつなぎとめた。
死亡原因がショック死だったため、心臓に強力な魔力を送りこみ、無理やり蘇生させたのだ、
広範囲のエルエルの召喚術を一点に集中させるのはクラレットでもかなりの無茶をしたのだった。
ハヤトが寝ている扉を開けるとそこにはジンガとガゼルがいた。
ガゼルはクラレットの様子を確認すると安堵したように溜息をついた。
「ハァァァァァ……ッ!」
「うぅっ…くぅ…」
ジンガのストラを受けてハヤトは回復しているようだが、それでも顔色はよくならならない。
しばらくするとジンガが大きく息を吐いてクラレットの方を見た。
「姐さん、起きたんだな!」
「おいリプレ、クラレットは…」
「大体平気よ、無理に押し込んでも逆効果だと思ったし、連れて来たわ」
「ジンガ、ハヤトは…」
クラレットの言葉にジンガは苦虫を噛み潰したように答えた。
「さっきより良くなったとは思うだけどさ。それでも全然起きねぇし顔色もよくならねぇ」
「シオンさんのお薬も溶かして飲ませたから平気だと思うんだけど…」
「おい、クラレット。ハヤトに何があったんだよ?」
「……私がハヤトに出会ったとき」
悲しみを表情に合わせてクラレットはハヤトを見つめる、
そしてガゼルたちにあの時何があったかを答えた。
「ハヤトの心臓は止まってたんです」
---------------------------------
広間にフラットのメンバーのほぼ全員が集まっていた。
湯治に行っているレイドと、三兄弟の屋敷に向かったエドスを除けば全員だろう。
そしてなんと何体かのガレフ達もユエルの頼みを聞いて庭で待っている、それほどの事態だった。
「全員集まったので、もう一度話しますね」
全員が集まったのでクラレットはもう一度、先ほどの話をした。
胸騒ぎがして路地裏へと向かうとそこには死んでいるハヤトの姿があり、
クラレットはハヤトを蘇生する為に賭けに出て、その賭けは成功した。
そして、現在に至る。それを話した。
「アニキをやった奴って無色の派閥って連中なのか?」
「わかりません…、でもハヤトにはロレイラルの魔力を感じました。恐らく市民広場で戦った召喚師とは別の召喚師だと思います」
「奴らの部下ってことか…」
「でもでも、ハヤトが負けるなんて信じられないよ!」
「…」
ユエルがハヤトが負けた事が信じられなかった、ユエルにとってハヤトは強い男という認識だ。
クロは逆にハヤトがそこまでの召喚師と戦ってなぜ逃げなかったのかが気になる、無理に戦いを続けるような男では無いはずだ。
誰もが敗北が認めきれない中、リプレが口を開いた。
「ねえ、フィズたちはどうなったの?」
「…フィズとミニスは、ハヤトを倒した相手に連れてかれたと考えるのが普通ですね…、最悪、ミニスはともかく、フィズは……」
「そ、う…」
フィズの命は大丈夫…、なんていえなかった。
本当に無色の派閥が関わっているのなら、女子供も容赦なんてないのだから…。
リプレが辛そうな表情をしている、アカネがいたたまれなくなったのか席を立って手をあげた。
「アタシ、ちょっとひとっ走り探してくる!」
「アカネ、気を付けてくださいね。深追いはしないでください」
「うん、時と場合によるかな、じゃあ行ってくる!」
そう言ってアカネが孤児院を飛び出してゆく、ここにいるのもつらいのだろうけど、
それ以上にフィズたちが心配だったのかもしれない。
「僕は街の外を探してみます。ユエルとガレフのみんなで探せば何か掴めるかもしれません」
「うん、ユエル、頑張るよ!」
「うん、気を付けてね」
ユエルとスウォンも孤児院から出てゆく、ガレフたちもいるし、
ユエルは狼の亜人なのでメイトルパの亜人たちの中では一番の嗅覚の持ち主のはず、
きっと何か手掛かりが掴んでくれるはず。
「私達も…、あっ」
「クラレット!?」
足元がガクンとなってしまい、リプレが支えてくれる。
無理を押してみんなに状況を伝えたせいでまだ回復しきれていないせいだ。
「やっぱりまだ休んでないと…」
「すいません…、もう少しだけ休んでますね…」
「大丈夫よ、クラレットが元気になるころには見つかってるわよ」
「そうですね、リプレ。ハチミツの飴玉…、出来る限り持ってきてくれませんか?」
「う、うんいいけど?」
「疲れた時には飴を舐めると元気になるんです。だから口に含んでおきたくて」
嘘です。砂糖を多く含んだ飴玉は魔力を少しばかり回復できるんです。
イチゴやメロンはかなり回復が約束されますけど、このはちみつの飴でもそれなりは回復できます。
休みながら口に含み続ければ召喚術を使う分は十分回復できるはず。
そして、私は口に飴を含みながらベットに横になり休むことにした、
確実に起こるであろう、戦いに備えて…。
---------------------------------
暗闇の中、二人の少女は互いに寄せあっていた
感情を爆発させ、泣くだけ泣きつくしたのか二人とも落ち着きを取り戻し始めていた。
その中で、フィズはソルのいう事がどこかズレてることに気づき始めてた。
アイツ…、お兄ちゃんを殺したって言ってたのに、全然元気そうだった。
お兄ちゃんの戦いは全部聞いたんだから、無事じゃ済まないはずなのに…。
ハヤトの戦いを武勇伝として無理やり聞き出した事を思い出した。
ハヤトと対峙した連中は倒されるか、それでもかなりの深手を負うはず。
なのにあの男は平然としていた、つまりアタシたちを騙すために嘘をついた。
そうフィズは考えることにした……、そう考えないと自分を保てなかった。
きっとお兄ちゃんやみんなが助けに来てくれる、信じて待たないと!
今はソルの前で迂闊な行動をせずにみんなの助けを待つ、そう決めたフィズ。
そして横で虚ろな目をした少女の事が心配になって来た。
まるでこの世に絶望した目をしていた、自分のせいで大切な者を失ってしまった目。
この目を見覚えがあった、捨てられて震えてたラミの目だ。
母親が死に、父親に捨てられ、なにも分からず今までいた自分の世界が壊れてしまった時の目。
ミニスはハヤトを自分のせいで死なせて絶望しているんだ、そうフィズは思う。
「ねえ、ミニス」
この子を放って置けない、その一心でフィズはミニスの名を呼んだ。
今までミニスの事を彼女は名前で呼んでいなかった、だが助けたい、
ただその事を考えていたら、違和感なくミニスの名を呼んでいた。
「………なに?」
「お兄ちゃんの事ならきっと平気よ、アイツが嘘ついてるだけなんから」
「……そう」
ミニスはその言葉を聞き流した、殺意をぶつけられたミニスはソルの恐ろしさが心に刻まれてしまっていた。
あの男ならハヤトを殺すなんて些細なものだ。
その為、フィズのいう事を信用できないのではなく、理解したくないのだ。
中途半端な希望は自分を苦しめると無意識に思っていたから。
「ミニスは……、ガゼルにぶたれたこと、まだ怒ってる?」
「………」
「あたしもね……、前にアンタみたいに、ガゼルにぶたれたことあるんだよ?」
「え?」
ミニスは信じられないといった目をしてフィズも見つめる。
力のない目をしていたが、話の続きを聞きたがっていた。
「お兄ちゃんたちがやってくる、もっと前の話であたし、ふざけてリプレママの大切にしてるお皿、割っちゃったの」
「……」
「叱られるのが嫌で、あたしはそれを妹のせいにしちゃったんだ……。妹はまだ小さいから、そんなに強く怒られないって思ったの」
「そう…なの」
「だけど、ガゼルは私の嘘を簡単に見抜いちゃって、ぶたれちゃったんだ……、ラミに謝るように言われて、あたしはそれが嫌で、外を飛び出したの。そしたらガゼルが追いかけてくれるって信じてた、自分から謝ってくれるって…」
ミニスの手をフィズはギュッと握ってミニスの顔を見つめた。
「でも、ガゼルは来てくれなかった」
「!?」
「あたしはリプレママに連れ戻されて、きちんとガゼルに謝るように言われたの。きっとまたぶたれる…。探しに来てくれなかったガゼルの事が憎らしくてしかたなかったの…。でもそれ以上にガゼルが絶対に許してもらえないんじゃないかって怖くて…、でも」
ミニスの手を握る力が強くなる、ミニスは自分もその手を握る力を無意識に強くしていた。
互いに互いを求めあっていた、フィズはミニスの悲しみを、ミニスはフィズの思いを、互いに求めていた。
分かり合いたかったのだ。
「でもね……。ガゼルは…、あたしよりもずっと辛そうな顔をしてた。それを見たらあたし、自分のしたことがどれだけ酷かったって分かったんだ…」
「……そう」
ずっと幼い記憶をミニスは思い出し始めた、初めて翼竜を呼び出してしまった時、
母親は無事だった自分の事を抱きしめていた、自分はただ怖がって泣いていたが、
それ以上に自分の無事を心配してたのではないか…、ガゼルがフィズの事を心配してた様に。
「ガゼルはちゃんと許してくれた。泣いてるあたしの髪をくしゃくしゃって撫でながらぶったこともきちんと謝ってくれたの…、それで、ガゼルがね」
――間違ったことをして逃げたら、ずっと間違ったままになっちまうんだぜ?
「そう教えてくれたの。あたし、その時気づいたんだ、ガゼルが怒った本当の理由はそれを嘘で隠そうとして逃げたことだって…」
「逃げる……」
「ミニスがぶたれた理由も、きっと同じだってあたしは思う。あんたがどこかで間違ったことをしたから、きっとガゼルは本気で怒ったんだよ…」
「…ひっ…く…うぅ…ううぅぅっ!!」
ミニスは分かった、自分は一人ぼっちにされたんじゃない、自分から一人になってしまったんだ。
お母様が仕事の合間を縫って、どれだけ自分の事を気にかけてくれたのか。
叔父様たちが自分の事を心配してくれたのか、それに気づかない自分がどれだけ馬鹿だったのか。
そして………、あの子がどれだけ、自分の事を守っていてくれたのか、わかってしまった。
「うわぁぁぁーーーーん!!」
「…ん」
ミニスはフィズの腕の中で再び泣き始めた、しかし前の様に恐怖で泣きわめいているわけではない。
自分の居場所に気づき、道を踏み外し続けてしまったことに気づいたのだ。
彼女は泣き続ける、ミニスを抱きしめていた。
きっと泣き止んだ時に変な意地を張るんだろうなと思いながら。
自分はそれを笑いながらからかうんだろうなぁと思いながら。
暗闇の中、少女たちの悲壮な空気は和らいでいた、きっと助けに来てくれる、そう希望も持ちながら。
---------------------------------
月が頭上を通り過ぎ始めるころ、クラレットの体調は戻り始めていた。
しかし、外に出たアカネやスウォンの連絡は今だ無い、焦りが募ってく中、クラレットは広間に出た。
「起きたのか、クラレット」
「ガゼルさん。はい、体調の方は大体…。あの…」
「まだだ、まだ帰ってこねぇ、エドスの奴も戻ってこねぇし、クソッ」
孤児院を出て行ったみんなが戻ってこないため、全員もどかしくて仕方がない。
だが、迂闊に全員で探しに行ってしまえば、いざ見つかった時に、すぐに救出できなくなってしまう。
携帯といった連絡方法がない、このリィンバウムでは互いの居場所を把握するのも一苦労なのだ。
「なあ、姐さん」
「どうしたんですか、ジンガ」
「ちょっと気になったんだけどさ、あのワイバーンって強いんだろ? ならアニキを倒した召喚師も倒したんじゃないのか?」
「どうでしょうか…」
確かに戦ってるところは見たことはないが、恐ろしく強い翼竜なのは確かだ。
だが召喚術も力量次第ではあの翼竜も手玉を取ることはできる。
「召喚師との戦いに馴れている人物ならワイバーンは対処できます。例えばミニスを眠らせる事をしたり」
「じゃあ、正面から倒すこともできるのか?」
「もしそうだったら…」
勝てない、その言葉がクラレットの脳裏を過る。
よく考えるとあの路地裏に爆炎の後は見受けられなかった。
なら答えはミニスをすぐに行動不能にしたのか。もしく一瞬で倒したのか……。
後者なら、間違いなく自分たちでは…。
「……厳しい戦いになりそうですね」
「思った通り、大変なことになっちまったみてぇだな」
廊下から姿を現したのはスタウトさんだった、
相変わらずニヤニヤしておりどこかつかめない表情だ。
「お嬢ちゃんたちの行方だったら、俺が知ってるぜ」
「本当か!?」
「まあ、慌てなさんな……、だがな正直な話、かなりやばいぜこりゃ」
スタウトは椅子に腰かけて、情報を話し始めた。
「前に、お前さんらが広場で襲われた話を聞いただろう? そいつのことがちょっと気になってな…、あれから一人で調べてたのさ」
「あの黒い男の事ですね」
「ああ、お前らを襲ったのは、金で雇われた暗殺者だよ。昔、赤き手袋って所に所属していた凄腕だ」
「赤き手袋…!?」
「!」
無色の派閥、その傘下に当たる専門の暗殺集団、赤き手袋。
特に家系の当主には絶対の忠誠を誓っている凄腕の暗殺集団だった。
「なんで、赤き手袋が?」
「あのお嬢ちゃん、わけありなんだろ? そうでなくたって、貴族って連中は色々と裏で汚いことしてるからな…、狙われる可能性なんて、それこそキリがねぇよ? だろ」
かつてアキュートに所属していたスタウトさんは淡々と語る。もしかしてミニスは……。
「そう青ざめんなの嬢ちゃん。まあ、次にいう事を考えれば仕方ない事だがな。一つ言っておくぜ」
スタウトさんからニヤついた表情が消えて真面目な目つきで私達の目を見る。
「諦めることだな、これ以上踏み込むとこの家ごと吹っ飛ぶぞ」
「なっ!? ふざけんじゃねぇ!チビどもを見捨てろっていうのか!!」
「そうだ、見捨てな、運が悪かったんだよ」
「テメェッ!!」
「待ってください、ガゼルさん! なにか…、なにか理由があるんですね?」
立ち上がったガゼルさんを椅子に座らせて、スタウトさんに理由を聞く、
少し悪態付いた、スタウトさんは話してくれた。
「アイツは別に問題じゃねぇ、問題なのはアイツのそばにいる男だ」
「そばにいる男…? それってもしかしてアニキをやった奴か!」
「だろうな、召喚師って話だしな」
「…」
「その人はどういう人物なんですか?」
ハヤトを殺しかけた男、その男がどういう人物か知っておきたかった。
どんな召喚術を使うのか、どのような戦法を取るのか、それだけでも知っておけばきっと役に立つはず。
そう思っていた私に、ある意味、一番恐れていた人物の名がスタウトさんから語られたのだ。
「そいつの名前はソル・セルボルト。無色の派閥に所属する召喚師だよ」
「………え?」
ソル……兄様?
「数年前から危険視されている無色の派閥のルーキーさ、近距離も楽々にこなし、召喚師の腕もとんでもないものって聞いてる。あのオルドレイクの息子って話だからな」
「オルドレイク…、だと?」
「姐さんをここに召喚した連中の息子ってわけかよ」
「……なんで」
「おい、嬢ちゃん。大丈夫か?」
「え…、あ、はい」
「まあ、行くんだったら早くすることだな」
スタウトが席を立ちあがり、クラレットたちを促した。
「お前はどうするんだよ?」
「俺ももちろん行くさ、恩人を放って置くわけにもいかないからな」
「よっしゃぁ!オルドレイクってやつの前哨戦と洒落込むぜ!」
「……(ふるふる」
クラレットは首を振り、かつての思い出を記憶の端に追いやる。
あれから十年経ってる、人だって変わる、あれだけ優しかったソル兄様が変わるまで十分な時間だ。
例え、ソル兄様と戦うことになっても…、フィズを助けないと!
そう自分の意思を誤魔化してクラレットも立ち上がる。
「行きましょう、皆さん。フィズとミニスを助けに」
「たった四人と一匹ってのは心細いがな」
「ちょっと待てよ、アニキはどうするんだよ?」
誰もがハヤトの事を思い出す、どんな時でも先頭に立ち剣を振るってきた少年。
家族を誰よりも大事にしている、今回の事を考えれば間違いなく傷を押して参戦するはず。
だからこそ、私は…。
「ハヤトは、置いていきます」
「姐さん!」
「!」
「クロまで、なんでだよ!」
クロも私と同じ考えなんですね…。
単純にハヤトを戦わせたくないのもあります。でも…。
「ハヤトが次戦えば…、死ぬかもしれないんです」
「…まあな」
ガゼルさんも私と同じ考えのようです。今回のダメージは深すぎる。
傷は治せていても体を動かすのはまだ無理のはず、召喚術を使おうとしても激痛が走るはず。
でも、もし彼が起きれば間違いなく戦いに来る…。
「皆さんは準備していてください、私はリプレに話してきます」
「姐さん!」
ジンガの呼び止めを無視して私はそのまま、ハヤトについている、リプレ達の元へと向かった。
---------------------------------
「うにゅ…、クラレットさんですの」
「きゅーっ」
「あ、クラレット。どうしたの?」
「…すぅ」
部屋に入ると、眠そうにしてるモナティにガウム。近くの椅子にはエルカが寝ている。
そしてハヤトを拭いていた、リプレの姿がいた。
「ごめんなさい、リプレ。本当なら私がやるべきなのに」
「まあ、クラレットがやるべき仕事よね。本当は」
ハヤトの体温が高くなっており、かなりの量の汗が出てしまう、
本当なら私が拭いてあげたいですけど、今はリプレに任せてます。
羨ま、いえ。頼りがいがありますね。
「それで、何かあったの?」
「実は…」
スタウトさんから受け取った情報から、フィズたちの居場所が分かったことを伝えるとリプレは喜んでくれたが。
同時にとても危険な所に行かなければいけないと分かり、不安がっていた。
「危険なのよね…?」
「はい、とても危険です。だからリプレにお願いがあるんです」
「お願い?」
「ハヤトを…、ハヤトを絶対に外に出さないでください」
「それって、やっぱりまだ」
「はい」
ハヤトの体はボロボロでまだ戦えるはずがないことを伝える。
リプレもハヤトの看病をしてて、ハヤトがかなり苦しんでいることに気づいていた。
「モナティも絶対にハヤトを外に出さないようにしてくださいね」
「わかりましたですの!」
「きゅーっ!」
「…エルカもお願いしますね」
「………ふん」
起きていることはわかってるんですよ。
エルカは少し細目でこちらを向いて悪態づいた。
そして、私はみんなと合流して孤児院を出発したのだった。
---------------------------------
そう簡単に救出は出来ないと思っていたが、まさか敵が救出を予想して手勢を配置してるとは思わなかった。
スタウトさんの話では川沿いの倉庫に二人が軟禁されているはずだ。
私達は川沿いの倉庫へと向かう路上で、赤き手袋の一団と今、衝突していた。
「ちくしょうっ! こいつらすばしっこくて、ちっとも攻撃が当たらねぇよ!」
何度も攻撃が空振り、ジンガは苛立った声をあげる。
「!」
クロはクラレットを守ることをメインに戦っていた、ソルとの戦いにおいて、
召喚術の力は絶対だ。ハヤトが動けない今、まともな召喚術を使えるのはクラレットしかいなかった。
殺される心配はないとはいえ、再起不能にされる可能性がある為、クロは守りにつかなければいけなかった。
「マスクをつけてる…、ヒポスは効果が薄い、ゲレレサンダー!!」
無詠唱で電撃を放つが、察知しているのか身軽な動きで回避させられる。
そして動き回るせいで迂闊に召喚術を使えば、味方に被害が及ぶため、クラレットはうまく戦えなかった。
暗殺者たちも素早い身のこなしと鳴き声の様な声で連携を徹底的に取りあっていた。
「んー、さすがはアイツの部下だねぇ。すばしっこさだけは、格別だ」
「撹乱と生存率を上げているという事ですか、徹底されててやりにくいですね」
スタウトとクラレットが軽口の言い合いをし始めた、
とはいっても、余裕なのはスタウトだけで、迫り来る刃をひょいひょいと避けながら、
仲間の死角に回ろうとする、敵をけん制してゆく。
「このままじゃもたねぇぞ、クラレット!」
クラレットは焦り始めていた、川沿いという事は船を用意してるはず。
ミニスを手に入れたのならさっさと出港してもおかしくないはずだ。
暗殺者が自分たちを足止めしてる時点でまだそうではないと理解はできるが焦りは出てくる。
「詠唱の召喚術が出来れば…」
「…!」
詠唱付きの召喚術は制御も破壊力も格段に上昇する。
クラレットがそれを放てば倒せないにしても囲いを突破することは可能のはずだ。
だが、詠唱にはいれば大きすぎる隙が出来る、いまこの状況でそれをするのは自殺行為だった。
「誰かがおとりになってくれりゃあ、この囲みを突破できんこともないぜ?」
「でも…、それは!」
少人数の囮、切り崩せるのは一人が限度だろう、でもそれは同時にその人物が危険にさらすことを意味していた。
そんなことは出来るはずがない、そうクラレットは否定するが。
「……へ。その役目っ、俺っちが貰ったぁ!!」
ジンガがその役を買って出て突っ込んでゆく、彼の尊敬するアニキの代わりに自分が出来ることみんなを守ること。
その為、ジンガは囮役を買って出たのだった。雄たけびを上げて暗殺者の輪の中へと飛びこむと暴れまわる。
「ジンガ!?」
「姐さん、ここは俺っちに任せて早く行ってくれ!!」
突っ込んで孤立した少年を確実に仕留めるべく、敵の布陣が変化してゆく。
そして包囲の一角が手薄になるその瞬間を、スタウトは見逃さなかった。
「今だっ、嬢ちゃん!」
「でも!」
「足を止めるんじゃねぇ、クラレット!」
「ムイ!!」
滅多にしゃべらないクロと、殿を務めるガゼルが二人してクラレットを怒鳴りつける。
「あいつを信じろ。そう簡単にくたばるようなガキじゃねぇだろうが!」
「……はい!」
ウィゼルの訓練にいつも付き合ってるジンガはハヤトに次ぐ実力の持ち主といってもいい、
クロとの訓練も実り始め、かなりの実力を誇っている。
それを信じて、クラレットたちは囲いを突破して先に進んでいった。
対するジンガに六人中三人が残る、囮としては十分な成果だ。
三対一と絶対的に不利だったが、ジンガは不敵な笑みを浮かべ、全身にストラを漲らせる!
「言っとくがな、俺っちはアニキの以上にタフなんだぜ? お前ら!やるからには徹底的にかかってきな!!」
拳に気迫を乗せ、ジンガは迫り来る三つの刃と対峙した!
---------------------------------
「どうやら、かなり手間取ってるみたいだな」
壁に体を預けながらソルが見るのは一つの電子遠隔映像装置。
通称、テレビ―と呼ばれる召喚獣で召喚師の魔力の大きさによっては遠くすら監視することのできる召喚獣だ。
「敵討ちも兼ねてるのかねぇ?」
「だろうな、躍起になってるのかもしれないな」
ソルの近くの机に脚を組み替えながらザガルドが軽くソルに呟いた。
だが余裕そうな二人をよそにギブンは落ち着かない様子で、動き回っていた。
「くそっ、くそっ」
爪を噛みながらギブンがジャラジャラと腕輪を鳴らす不快な音が部屋中に響く。
ソルに映像を出すように指示を出したが、思う様に善戦しない部下たちの不甲斐ない姿に苛立ちを募らせただけだった。
だが逆にソルとザガルドはこれが普通だと考えている、
むしろハヤトという要素が消えたおかげでかなり余裕が生まれたぐらいだ。
ハヤトはウィゼルとの訓練で非常に殺気などに敏感だ、暗殺者特有の不意打ちが効きずらい為、
彼がいないだけでかなり戦いやすい、彼がいればスタウト、クロ、ハヤトの三人は軽く囲いを突破していただろう。
「ああ、どうしよう。どうすればいいんだっ!?」
ソルはそんなギブンの追い詰められる姿を確認すると口元を気づかれないように吊り上げる。
ギブンが追い詰められればられるほど、ソルの計画は進む、アレを召喚すればギブンは用済みだった。
だが、まだ気づかれれば終わりだ。それを感づかれないようにザガルドがギブンを促した。
「あんたが手配したって船は、まだ出港できないのかよ?」
「まだだ、荷物の積み込みが終わらないんだ。くそっ!」
「くだらん買い物をするからだ…」
「なんだとっ!?キルカの衣服はな、ここでしか手に入らない物なんだぞ!せめてこれを持ち出さなければ、あの人になんて言われるか…」
ギブンが恐れているのは自分の姉だった。勝手な行動をしてることは既に気づかれてるはず。
ならせめての土産物と翼竜のサモナイト石を渡さない事にはきっと機嫌は直ってくれないだろう。
「だったら、ギブン。お前が出るしかないな。お前の秘伝召喚術は組み合わせれば絶対だ。負けることなどあり得ない」
「そうだな…、めんどくさいが、あるじの召喚獣は認めてるぜ、あれは最強だな」
「そうだ…、ミラーヘイズがあれば…、僕の召喚術があればあんな奴、敵じゃない!ついて来い、ソル、ザガルド!!」
わざとらしくおだてられている事に気づかず、ギブンは気分よく部屋の外へと出てゆく。
「はぁ…、仮とはいえ、簡単におだてられて調子に乗るなんてなぁ…」
「いちいちなだめないぶん、気は楽だがな、ザガルド。行くぞ」
「へいへい」
ザガルドも部屋から出ていき、ソルはテレビ―を送還しようとし、
その映像に映っていたクラレットに目が入った。
「……今日、お前は我らの手に戻る。自分の居場所がそこではない事を思い出すんだな」
そう呟くとテレビ―を送還し、ソルは二人の後を追う形で部屋を後にした。
---------------------------------
我ながらここまでよく持ちこたえたと思う、一人の敵も倒せなかったがジンガは今だ立っていた。
相手も肩や腹部の攻撃を受けた後がある為、決して無残にやられていたわけではない。
「へへへっ。あとは姐さんたちが何とかしてくれるに決まってるさ…」
よろめいて両膝を着いたジンガに凶刃が迫ってくる。
狙いは首筋、見えていはいるもののジンガにはそれを止める手段が無かった。
覚悟を決めたジンガの瞳に真っ赤な鮮血の色が飛び散った。 だが…。
「があああぁぁぁーーーっっ!?」
「えっ?」
噴き上げるのは自分の血ではなかった、相手の手がボトリとジンガの目の前に落ちる。
周りには誰もいない、いきなりこの男の腕が切り落ちたように見えた。
「坊主、ここで諦めるのか? あやつは死ぬ間際まで諦めない男だぞ?」
「なっ!?」
夜の闇から姿を現したのは老人、長い白髪と髭を持ち、手には一本の刀を携えていた。
「爺さん!」
「気分転換に川辺に来たが…、こんな事に巻き込まれるとはのぅ」
そこにいたのウィゼル、ハヤトの師で数日前から行方が分からなくなっていた人物だ。
なぜここにいるか、そしてどうやって先ほどの攻撃をしたのかジンガは訳が分からなくなっていた。
自分の意識が朦朧として幻覚でも見ていたのではないかと勘違いしたほうが分かるぐらいだ。
「……シャッ!!」
腕を切り落とされた暗殺者が持っている手で数十メートル離れたウィゼルに向かうが…。
「遅い」
「がっ…!?ぐはぁっ!」
一瞬、ウィゼルの姿がブレて、その瞬間、暗殺者の胴体が横に分かれて絶命してしまう。
周りの暗殺者もそしてジンガもその異様な光景を信じきれなかった。
「す…っすげぇ!」
人を軽々と殺すウィゼルに恐怖をジンガは全く感じず、その圧倒的な強さに驚いた。
剣を極めると距離の概念すら関係なくなると昔、師匠から聞いたが実際に目を見ると別格だった。
このままだったら暗殺者はウィゼルに消されるのは決まり切っていた、しかし…。
「ぐっ、ゴホゴホ!!」
ウィゼルは咳き込み始め、その場に膝をついてしまった。
精神と体を激しく酷使する、居合の究極系の技はウィゼルの体を強く蝕む。
20年ほど若ければそれも問題なかったが肺を患った今の状態では二発も放てば十分なくらいだ。
「ヒュゥッ!!」
暗殺者の一人が泣き声をあげ、二人で一斉に突っ込んでゆく、
たとえ一人やられようともう一人片づけて、まだ動けないジンガを始末すればそれで任務は完了する。
打算的に物事を考えた暗殺者の凶刃がウィゼルに向かってゆくが。
「爺さん!!」
「わめくな…、十分な時間は稼げたな」
「!?」
突如として暗殺者が火達磨と化す、灼熱の炎に包まれた暗殺者が叫び声を上げながら、
転がりその火を消そうとするが火の勢いは一向に収まらなかった。
「うわははは! そんなんで召喚術の炎を消せると思ってるのか? あァン?」
そこには金の派閥の召喚師、キムラン・マーンが笑い声を上げながら立っていた。
純白のマントと剣の先からほのかに感じるサプレスの魔力が先ほどの召喚術の正体だった。
イビルファイア、プチデビルの召喚する霊界の炎である、一度当たればそう簡単には消えない代物だ。
「これでも加減したんだぜ? まあ、殺さないように散々痛めつけるのが目的なんだからよぉォ!!」
彼は心底怒っていた、暗殺者風情が自分の可愛い姪っ子を誘拐したのだ、
小さいころからミニスの事を知ってるキムランはミニスを溺愛してると言ってもいい。
本人がどう思ってるのか、翼竜は苦手だが、などは別だがそれでも彼は怒っていた。
「さて、次はこいつだぁ…、来やがれ!ブラックラック!!」
黒いローブを纏った沢山の頭蓋を纏った骸骨が衝撃を放ち、火達磨の暗殺者ごと吹き飛ばした。
キムランは剣を抜き放ち、混乱する暗殺者相手に暴れまわる!
「出遅れちまって済まなかったな」
呆然とするジンガの肩を叩いたのは斧を肩に抱えたエドスだった。
「姐さんたちは先に行ったぜ…。追手が三人、食い止められなくって…」
「お前さんにしては上出来だ。生きていれば勝ち組だからのぅ」
「爺さん、アンタもここに来てたのか」
ウィゼルがいる事に驚くエドス、ウィゼルはその場に座り、薬を飲み休む。
ジンガはその顔が青くなっていることに気づいた、あの技も自分を守る為に無茶をしたものだったと。
「爺さん…、俺っち」
「ふん、気にすることはない。…それでクラレットを追わなくてもいいのか?」
「なぁに心配いらんさ、あっちはアカネやスウォン達が向かってる。大丈夫さ」
「だと、いいのだがな」
ウィゼルはこの戦いの元凶がだれだかある程度察しがついていた。
ハヤトが欠けているとはいえ、彼らは強大な敵を打ち破って来た者たちだ。
だが中心の人物が欠けている今、その男が本格的に動いたのなら間違いなく潰れる。
しかしウィゼルはこう考えてもいた、アイツが死にかけるぐらいで止まる男かのぅ、っと。
「しかし、あの野郎に助けられるとは思わなかったぜ」
「事情を説明したらこうなっちまったってわけさ、見ればわかると思うが、味方としてみればあれほど頼りになる戦力もおるまい?」
「構いやしないけどよ。俺っちのぶんも少しは残しとけってば!!」
ジンガは体力が戻ったのか再び立ち上がり、残る暗殺者たちに突っ込んでゆく。
「好きかってやってくれたぶん、まとめて返してやるぜぇ!!」
ジンガの剛腕が、エドスの大斧が、そしてキムランの召喚術が炸裂し暗殺者たちの優勢は完全に崩れた。
暗殺者たちは逃げることも敵わないままなすすべもなく倒されてゆく。
「さあかかって来やがれ!この銘刀【カルヴァドス】の錆にしてやるからよォ!うははははは!!」
キムランの太々しい啖呵が響き渡り、この戦いは終幕へと向かって行った。
---------------------------------
「巻き縛れ。バラライカバインド!!」
蔓草が召喚し、追ってくる暗殺者たちに絡みつこうとするが、
走ってるせいで正確に狙うことが出来ずにかわされてしまう。
けん制程度にしかならないが、余裕が出来たらそれを行うという行動をし、
彼女たちは追手が追い付かないようにしていた。
「チビたちの捕まってる場所はまだなのか!?」
「それなんだがよぉ……、どうやら向こうから出てきてくれたみたいだぜ?」
スタウトがゆっくりと速度を弱めて止まる。
川岸と倉庫が立ち並んだ薄暗い路地を抜けきった先は開けた広場だった。
物資などを輸送する場所である波止場だ。
「実際に見るとやっぱりガキどもなんだな、凄腕とは思えねぇぐらいだ」
「あなたは!」
クラレットたちの目の前に現れたのはザガルドだった、広場でハヤトと戦った凄腕の暗殺者。
奇策を用いていなければあの時点で倒されてたかもしれない凄腕だった。
後ろには暗殺者、そして目の前にはあのザガルド、今だ姿を現さないソルの事がクラレットは気になるが。
とにかく目の前の男を倒さなければ、ミニスやフィズを助け出すことは叶わない。
「フィズとミニスは無事なんですか!」
クラレットが率先してザガルドにそれを問いかけるが、ザガルドの視線は彼女ではなく横にいるスタウトに静止していた。
「ん?あぁ、あの二人なら無事だぜ? まああの小僧は残念だったがよ」
ハヤトの事が知られてない…、やっぱりハヤトを殺したと思ってるんですね。
クラレットはこのままハヤトが死んだことにしておけば色々と都合がよかった。
彼の体力が完全に戻るまで生きていること隠した方がいい、そう思う。
「しかしよ、相変わらず眩しい頭だな。スタウトよぉ」
「久しぶりに会った挨拶がそれかい、ザガルド」
スタウトさんがあの人と知り合いのような気はしましたけど、それだけではないみたいですね。
お互いを知っているような口調からただの知り合いではないとクラレットは理解した。
「どっかで見たような連中がうろついてると思ったら、お前の手下だったとはなあ。何時から組織を抜けて、貴族の片棒を担ぐようになったんだ?」
「お前の始末をつけ損ねて、こんな顔にされてからだよ」
「おっと、そいつは済まねぇことしちまったなぁ?」
「気にすんな。これから、そのツケを払ってもらうんだからよ」
淡々と語られるその内容、かつてスタウトが組織を抜け出た時に、それの始末を任されものの、
逆に罠にかけられ、深い傷を負った事を指していた。そしてギブンはその内容を理解できないのか、苛立った声をあげる。
「何なごんでるんだ、ザガルド!こいつらを早く始末しろ!!」
「簡単に言わんでほしいぜ。いくら俺でも、こいつら三人まとめて相手できるかよ」
「…」
一匹忘れているような口調だが、このあどけない口調すら、クロは罠だと割り切る。
小さいなりで若いわけではない、目の前の男と同じ自分も歴戦の猛者だと自負している。
「それがわかってんなら、さっさとチビどもを返しやがれ!」
「おいおい、小僧。なんか勘違いしてんじゃねぇのか?」
背後の殺気が強まるのをクラレットは感じ取り、後ろにも意識を集中する。
三人の暗殺者が武器をそれぞれ持ち、じりじりと近づいてきていた。
「勝ち目がなねぇってのはよ、このまま俺一人で戦った場合の話だぜ。おまえら!その小僧どもを相手にしてやんな、分かってると思うがな、その女は始末すんなよ!」
「シャアァァッッ!!」
三人の暗殺者がガゼルとクロ、そしてクラレットに殺到する。
先ほどと同じ状況だが、スタウトの援護がなく、かなりの苦戦をすることが予想できた。
「ムイッ!」
「…! ガゼルさん、無理に反撃はしないでください!今は身を守ることに集中してください」
彼女たちが暗殺者に襲われるのを横目で見るスタウト、
その瞬間を逃さず、ザガルドの爪がスタウトの頬をかすり、赤い血玉が飛ぶ。
「よそ見するなんて余裕じゃねぇかよ、スタウト!!」
繰り出されるザガルドの連撃を、逆手に持った剣でスタウトは捌いてゆく、
互いに武器がぶつかり合い、火花が波止場で光って消えてゆく。
「黒豹のザガルドさんの爪は、相変わらずの切れ味だねぇ」
「騙しのスタウトの口車には乗らねぇよ」
互いに飛び上がり、交差してゆく、裏の世界でも屈指の実力者である、ザガルドとスタウト。
特に女子供に手をかけないという異質の暗殺者と言えるザガルドにスタウトはある意味、気になっていた。
だから今回の一件で、ハヤトを手にかけ、フィズとミニスを攫う彼の行動はどこかズレていることが気になっていた。
「おい、ザガルド! お前、どうしてあいつらに手をかけた。お前らしくねぇじゃないかよ」
「俺達は所詮、裏の人間よ。組織を一度締め出された俺達がもう一度戻るのに、なりふり構ってはいられねぇってことだ」
「それで、アイツが関わってるってことかよ」
互いに武器をぶつけ合い、けん制する。ザガルドは突っ込んで一気に決めようとするが、
スタウトのフェイントで中々仕留める機会が回ってこなかった。
「ウォーデンもマーンもアイツに捧げれば、俺たちはもう一度組織に戻れる、だから邪魔すんじゃねぇよ。スタウト」
「そうはいかないんだな、これが。一応、恩人の頼みなんでな」
裏社会で名を馳せた二人は、長い年月が経とうとその力は拮抗したままだった。
そして、彼らの戦いは決定的な物へと近づき始めていた。
---------------------------------
「みんなが助けに来てくれたよ、ミニス!」
クラレットが放ったであろう、召喚術の振動がフィズたちにも伝わる。
「ガゼルは許してくれるかしら…」
闇の中で過ごし、ミニスは自分がぶたれて当然だという事に気づいていた。
自分はフィズではない、だからガゼルが本当に許してくれるか不安だった。
自分の間違いに気づいていたのに、彼らの優しさに甘え、
そして自分の居場所を追い出そうとするフィズに召喚術を振りかざしてしまった。
「アナタには、悪いことをしちゃったって思ってる……、ごめんなさい」
ガゼルの言っていたことが今なら理解できる、
都合の悪いことから逃げてばかりいる彼女の事をガゼルは許せなかったのだ。
いつまでもそれを繰り返していてはダメだと、彼はミニスに伝えたかったのだ。
「こっちだって意地はってたもん…、出て行けなんてひどいこと言っちゃったし……、ごめんね」
フィズも今ならミニスを理解できる、彼女が泣き止んだ後、話してくれたこと。
自分がどれだけ召喚師になりたいか、その原点を。
それは大切な母親に笑顔になってほしかったから、ただそれだけだったのだ。
自分もリプレママに笑顔になってほしいと思う、たとえ方法が間違っていようと道を見失おうと。
道から外れ過ぎなければ戻ることは出来るんだ。
だから、二人は分かり合えた、お互いの事を理解し合えたのだ。
「……あはは、なんだか、くすぐったいね。こういうのって」
「うん、そうかも…」
照れくさそうに笑うフィズ、笑顔でそれを迎えるミニス、
二人の心の不安がたちまち晴れていった。
「ねえ、フィズ……、ガゼルは許してくれるかな?」
「許してくれるよ、絶対。だってガゼルだもん」
フィズはグッと握り拳を作って、ミニスに笑顔を見せる。
「それに許さないなんて言ったら、あたしがガゼルを絶対許さないんだから」
二人の少女が最後まで諦めない事を誓おうと互いに小指を合わせる。
シルターンの小さな約束の儀式、指切り。ミニスはそれを理解できないが、とても優しいものだと思えた。
だが、それも一人の男の乱入によって切られることになる。
ゆっくりと重い扉は開かれ、そこには一人の青年が姿を現した。
「時間だ、来い」
ソルは召喚術を行使し、巨大な電磁手錠、メガ・ワッパーで二人の体を縛る。
「きゃぁっ!?」
「ちょっと、何するのよ!」
二人の抗議を気にもせず、ソルはそのまま二人を引きずる形で外へと連れだした。
少女たちは恐怖を纏うこの男相手でも決してあきらめない、
縛られようと少女たちの小指は再び繋がれ誓い合う、必ず諦めないでみんなの下に帰るのだと。
---------------------------------
「ガキにしてはやるじゃねぇかよ、スタウト」
懸命に攻撃をさばき続ける彼らの姿を見て、ザガルドはスタウトに問うた。
スタウトも思った以上に彼らが耐えるのは予想外だった、
やはり危機的状況こそ、彼らの力は大きく上がると踏んでいた。
「同じ召喚師でも、俺の仮の雇い主とは大違いだな。え?」
「まあな……、あの嬢ちゃんたちにゃあ、俺も色々と教えられてるからな」
「へぇ…、お前がそんなこと言うなんて珍しいじゃねぇか」
両社の間合いがじりじりと縮まってゆく。
「ザガルドよ。昔のよしみで、ひとつだけ教えといてやるぜ」
受ける構えではなく攻撃の構えを始めて見せたスタウト。
「あの嬢ちゃんたちを甘く見てるのなら、お前さん、負けるぜ」
「やーれやれ、これでも俺は、十分に警戒してるつもりなんだがよ」
勝ち目のない戦いはしない、それがザガルドの信念であることはスタウトも知っている通りだ。
だがスタウトはまるでその考えそのものが既に間違って言う様にザガルドに話した。
「そうかい……、おい! 思いっきり引っ掻いてやんな!!」
突然掛け声を上げるスタウト、騙しのスタウトと呼ばれたこの男の恐ろしい所は、
巧みな言葉で空隙を突く事だとザガルドは理解していた。
自分に付けられた、この顔の傷もその時、学んだものだった。
だからこそ、こんなわかりやすい言葉に引っかかりはしない……。
――だが引っかかろうとかからなかろうと、その時点で既にザガルドはスタウトの術中にハマっていた。
「ウオオォォォォォーーーッ!!」
「なにっ!?」
雄たけびと共に青い何かがザガルドの背中を切り裂いた、爪で反撃しようとするが、
獣の如き動きで回避され、スタウトの目の前に着地する。
「よう、屋根の上からとか随分なご登場だな?」
「えへへ、こっちの方が早いってアカネが言っててね」
「しょ、召喚獣だと!?」
現れたのはオルフルの召喚獣ユエル、スタウトは倉庫の上にいるユエルの姿を確認したのだった。
ユエルに気を付けても隙が出来る。スタウトに意識を向けていればユエルの攻撃を受ける。
どちらに転んでも既にザガルドは攻撃を受けることは決まっていたのだ。
「スウォン、今だよ!」
「…ぐっ!?」
突然肩に走った痛み、肩に目をやると突き刺さっていたのは一本の矢だった。
「大丈夫ですか、スタウトさん!」
「グルルルッ」
次に現れたのは巨大な赤の狼に跨る狩人、スウォンの姿だった。
今回の件が危険だと聞かされ、手下のガレフ達だけではなく、朱のガレフも力を貸していた。
連れて来た手練れのガレフたち4匹と、一緒に来ていたアカネが暗殺者たちに攻撃を仕掛けている。
人相手の暗殺者ではガレフたちを仕留める事は苦手なのか、翻弄されていた。
「手下を伏せていたのかよ…、おまけにこんな巨大な獣までよ」
「買い被りさザガルド、俺があいつらに命令したわけじゃねぇよ」
既に戦いは劣勢だった、ザガルド達に勝ち目はなくなっていた。
そしてスタウトはザガルドに対してこう答える。
「あの嬢ちゃんたちの強さはそれさ。昔の俺やお前みたいに人を疑ってかかる連中には絶対にまねできない力さ、勝てるわけねぇよ」
なるほどなと、ザガルドは笑う。肩に突き刺さった矢を抜き捨てた。
「だがよ、最悪を予想することは大事だぜ? これで勝ちがなくなったと思われる訳にもいかねぇな」
ザガルドはギブンに声をかけ、奥の手を使う事を命じる。
「予定変更だ……。いつものやり方で行くぜッ!!」
突然の指示にギブンは取り乱すが、大げさな動きで姿勢を正すと魔力を集中し始める。
「ウォーデンのギブンが古き盟約の名の下に命じましょう―――」
召喚術の詠唱をはじめ、その手に付けられた腕輪の一番大きなものから光が迸る。
「幻獣界に住まうモノよ。迷霧を振りまく異形の獣よ―――」
「まずいぜ……」
「メイトルパの匂い…、召喚術だよ!」
ユエルが開かれかけるゲートからメイトルパの匂いを感じ取る。
スタウトもギブンの詠唱が召喚術のモノと感じ取り舌打ちをした。
今から突っ込んで止めようとしても、ザガルドに隙を作らせてしまう。
全員で動いても誰かが犠牲になるのは明白だった、そのせいでスタウトは動けない。
「さあ、今ここに来たれ。【ミラーヘイズ】よ!!」
生み出されたゲートから、今まで見たことのない多足の獣が這い出てくる。
そのおぞましい姿を見る前に、ミルク色の濃霧がゲートから吹き出て辺りを包み始める。
――ズヌォォォォォォォォッッン!!!
「うわぁっ!?」
突然の咆哮が鳴り響き、濃霧が勢いが更に増し、波止場を一気に包み込んだのだった。
---------------------------------
「な、なんだよこの霧は!?」
「これは……、召喚術です。先ほど魔力を感じました!」
クラレットはこの召喚術の思い出そうと記憶を必死に掘り起こす。
だが、一向にこの召喚術を内容を思い出すことはできない。
「ちょっと、どんな召喚術なのクラレット?」
「わかりません、もしかしたら秘伝召喚術かもしれません」
「秘伝…、なんだそりゃ?」
「家系に伝わる、一族秘伝の召喚術です。通常よりも強力な力を持ってる場合があります。とにかく気を付けてください!」
知識にない召喚術、もしかすれば秘伝召喚術の一種と割り切り、
効果が出るときに対策を行うことにした。
「…どこからでも、かかって来やがれ」
ガゼルが呟いたその時…。
「「「「「シャアァァッッ!!!」」」」」
奇妙な声と共に黒い影が飛び出してきた。
「なっ!?」
「そんな!」
一人や二人ではない、襲い掛かってきた暗殺者の数は、十人をはるかに超える数だ。
「うっそぉっ!?」
「!」
四方八方から繰り出されるその攻撃を完全に避けることは不可能だった。
「……つぅ!」
二の腕を切り裂かれ、クラレットはのけぞってしまう。
そして、その顔面に刃が突き刺さろうとする瞬間を彼女はその眼で見届けた。
「…あっ」
「ムイィィィーーー!!」
その姿をクロも確認していた、殺気も匂いも間違いなくその刃がクラレットに突き刺さるのは決まっていた。
だが、どういうわけか、刃は彼女の顔をすり抜け後頭部から抜け出てしまった。
「…幻術?」
「!?」
クロは驚愕した、目の前にいる全ての暗殺者には目にも匂いも、ましては気配すら感じる。
通常の幻術と違い互いに見えるその召喚術は異常な物だった。
「あはははは。ご名答ですよ」
霧の向こうからギブンの高笑いする声が聞こえる。
「このミラーヘイズに入ってしまった以上、もうあなた達はおしまいです」
「ケッ、大層なことを言ってくれるじゃねぇか!」
ゆっくりと立ち上がるガゼルは馬鹿にするように霧に受かって吼えた。
「幻だってわかれば、律儀にそれを避ける必要もねぇって事だろ?」
「そう思うのなら、試してみればいいですよ」
術の欠点が見抜かれたのに、ギブンの声がまるで楽しそうに感じる…。
それにこの召喚術、視覚だけなら、クロがあんな必死な声を上げるはずがない。
視覚、聴覚、嗅覚、それに第六感まで干渉してるのかもしれない…。
だとすれば、この召喚術…、危険すぎる!!
「ガゼルさん、ダメッ!避けてッ!!」
この術の正体を看破したクラレットはすぐにガゼルに警告するが、
言葉は僅かに遅く、ガゼルの脇腹は切り裂かれ、真っ赤な血潮がそこから迸った。
「なん…だと…ッ!?」
「この召喚術は感覚の大部分を狂わせるんです!視覚も気配も匂いも狂わせて幻覚を見せる、ウォーデンの秘伝召喚術で間違いありません!」
「良く分かりましたね、その通りですよ。我がウォーデンに伝わる秘伝召喚術、ミラーヘイズ。一度はまれば二度と出ることは叶いませんよ!」
「クラレット、何とかできないの!?」
アカネが懇願するようにクラレットに対策を聞くが…。
「……ありません、私の召喚術でこの霧を打ち破るのは不可能です」
今の所、彼女に霧そのものを消し去る召喚術は無かった。
幻覚による攻撃は効かないが、本物の攻撃は別だ。
急所を守ることはできてもそれ以外を攻撃され続ければいずれ動けなくなってしまう。
一思いにやられるか、なぶり殺しにされるかのどちらかしか残っていなかった。
---------------------------------
「「「あーっははは、どうだスタウト、これが俺達の奥の手ってやつだ!」」」
何十人にも増えたザガルドの中から本体を見つけるのは不可能に近かった。
スウォンの矢はほぼ無意味で、ユエルやガレフの鼻も幻術で既に役に立たない。
「ひ、卑怯者!」
「お、奥の手って割にはコイツはちょっと…、卑怯なんじゃないのか…いっ!?」
憎まれ口を叩くスタウトの顔面に、ザガルドの拳を効かせたスイングが直撃してしまう。
他の連中はどうでもいいのか、私怨からなのか、スタウトばかり攻撃が当たるが、
どれも急所を狙ったものではないため攻撃の法則が掴めずなぶられ続けていた。
ユエルも早々に危険と判断されたのか、足をかぎ爪で切り裂かれ、碌に動けなくされている。
つたないストラで回復しようとするが、それでも時間がかかってしまった。
コイツはマジでやべぇな、っとスタウトは理解した、
暗殺者にとってこの霧はかなり相性がいいものだ。
暗殺者は正面から戦うのは苦手な分類だ、だからこそ騙し討ちを正面からできる、
この召喚術は恐ろしすぎる代物だったのだ。
「フィズゥ!!ミニスゥ!!」
ユエルがこのままでは二人の少女が連れ去られてしまうと恐怖して泣くように叫ぶ、
ここから一歩も動けない、自分たちがどうしようもなく悔しかった。
---------------------------------
「連れて来たぞ」
左右に二人の暗殺者を従えたギブンがソルの姿を確認すると、怒鳴った。
「遅いぞ!僕を待たせるんじゃない!」
「ミラーヘイズを召喚したようだな」
「ああ、ミラーヘイズさえ召喚すれば、負ける事なんてありえないね」
切り札を出して、余裕しゃくしゃくのギブンにミニスとフィズは声をあげ、否定する。
「何言ってるの!あんな霧が出たぐらいで負けるわけないじゃない!!」
「そうよっ!偉そうなことおっしゃってるけど、どうせあの人たちに負けそうだから、尻尾を巻いて逃げ出そうとしてるんでしょ!」
「どう思うおうとご自由ですが、助けはもう来ませんよ。彼らは僕の作り出した幻覚の霧に閉じ込められて、すぐにザガルド達になぶり殺しされてしまうのですから……」
「「嘘よっ!!」」
二人が声を合わせてそれを否定した。その威圧にギブンが気圧されて、半歩ほど下がってしまう。
霧の中からはユエルの声の雄叫びや、召喚術の音、金属がぶつかる音が聞こえる。
彼らは今だ諦めたりはしていない、だからこそ自分たちも絶対に諦めないと決めていた。
「だが、どうやって奴らは対抗するんだ。霧の中で召喚術を撃とうとしても被害が広がるのをあの女が気づかないわけでもあるまい」
「お姉ちゃん…!」
召喚術を使ってるのはクラレットという事をフィズも気づいていた、
視界が遮られる場所では強力な召喚術は使えない、こっちを気にして私達を狙い撃ちにもできない。
「その通りですよ。ほら、御覧なさい。貴方達のナイトは今、あそこで戦っているのです」
電磁手錠に縛られた二人にはどうすることも出来なかった、手錠に付けられたワイヤーで罪人の様に引き立てられ。
反対方向の引っ張られていく。反抗しようとしてもその強さに逆らえずに引きずられてゆく。
「いやあぁぁっ!はなしてえぇぇ!!」
「この卑怯者ぉぉっ!」
少女たちにはもう精いっぱい声を張り上げて泣きわめくことしかできなかった。
その甲高い声がギブンは気に入らず、ソルに指示を下した。
「無駄だと言ってるでしょうが!? ソル、こいつらを黙らせろ!!」
「…ふん」
ソルが電磁手錠に魔力を送り、囚人護送用の機能の一つを起動させる。
電磁手錠から電撃が少女たちに向けて流れ二人は悲鳴を上げた。
「キャアアアァァァーーーッッ!!?」
「うわぁぁぁーーーーん!!」
「お、おい。やり過ぎだ!!」
その場に倒れ、悶える少女達を見て、ギブンがソルに怒鳴るが、
ミニスもフィズも諦めたりはしなかった。
「…絶対に諦めんもんですか!」
「そうよ、こんなの痛くないんだからっ!」
「……ふん」
再び声を叫び声を上げる二人、ソルはもう一度黙らせる為に機械を操作しようとするが、
次の悲鳴が鳴り響くことはなかった。
「ッ!?」
「ひぎゃぁぁっ!?」
幾つかの風切音が鳴り響き、ソルのサモナイト石を持った手に十字型の手裏剣が突き刺さる。
ギブンの足元にもいくつか突き刺さり、見っともない悲鳴を上げてしまった。
「そこにいるんだね、フィズ!!」
「……アカネだっ!?」
白い霧から鹿に似た獣に跨り、アカネが飛び出してきた。
霧から出ると魔力が切れたのか鹿の召喚獣も消えて、その場にはアカネのみが残る。
「【ジュラフィム】まさか、誓約を交わしていたとはな」
「幻獣ジュラフィムよ!クラレットだわ」
森の幻獣ジュラフィム、森に住む鹿の幻獣で非常に数の少ない聖獣に近いメイトルパの召喚獣だ。
今のクラレットではそう長く召喚できないが、叫び声が聞こえた為、アカネのみを対象に召喚し、
アカネを乗せてこの幻覚を突破してきたのだ。
その聖獣に近いこの幻獣は霧の中でも正確に動ける。今、クラレットに出来る唯一の手だった。
「な、なんだコイツ!?お、おい僕を守れ!!」
ギブンがオロオロとわめきちらし、暗殺者たちに指示を出すが……。
「もういい、お前たち」
「「………」」
「な、なにをやってるんだ!」
暗殺者たちはギブンの指示を受け付けず、アカネの方を見るだけだった、
まるで元からギブンの指示など受けるつもりが無いようだった。
ソルは新たな召喚術を発動させる、その黒いサモナイト石から出現したのは、
銃座の付いた丸い球体だった、センサーが赤く光、対象を狙い撃ちしようと光り始める。
アカネは自分にそれが来ると思い、身構えるが……。
「ぎにゃああぁぁっっ!?」
その召喚術の攻撃、スタンボムはギブンを攻撃する、
体を麻痺させる、効果を持ったロレイラルの機械兵器でギブンがその場に倒れてしまった。
「な、なんなの!?」
「僕じゃない…、お前何を…」
「ギブン、お前はもう用済みだ」
「…へっ?」
ソルの言葉にギブンは情けない声を出した、彼の言っている意味を本当に理解できなかったのだ。
「ウォーデンの秘伝召喚獣、ミラーヘイズは貰うぞ」
「お、お前…!」
ギブンの腕輪から大きなサモナイト石を無理やりはがし、ソルは懐にしまう。
「最初から…、それが目的」
「ご名答だ、言っとくがザガルド達も既に俺の手中だ。お前の味方は最初からいなかったんだよ」
「そ、そんな…」
「お前たちはザガルドの援護に迎え、言っとくがクラレットは殺すなよ?」
「…はっ!」
二人の暗殺者はアカネを通り過ぎて霧の中に消えてゆく、
アカネはそれを止めることが出来なかった、目の前にいる男が隙があるように見えて、
全く隙が無く、その上、実力が恐ろしく高いとわかっていたのだ。
師匠と互角、もしかしたらそれ以上かも…、とまで考えるほどだった。
「貴様はいい餌だったぞ。ウォーデンの二つの秘伝召喚術、白銀の翼竜と銀の煙霧。二つの強力な秘伝召喚術を我らが組織に貢いでくれたのだからな」
「……うぅっ!」
ギブンは騙されたと知ると、このままでは殺されてしまうと思い、ミラーヘイズを送還しようとするが。
「言っておくが、俺達の仕事が終わる前に送還すれば、その時点でお前を殺す」
「ヒィィィッッ!?」
ギブンは少女に向けられていた殺意を今度は自分が受けて震えあがった、
スタンボムの効果で碌に逃げだすことも出来ず、命を握られた自分はただミラーヘイズを維持することしか生きる道は残されていなかった。
ただ…、どっちにしても事が終わり次第、ソルはギブンを始末するつもりだったのだが。
「さて…、次はお前だな」
「うっ」
ソルの視線はギブンからアカネへと向けられる。
邪魔者は消す、そのような明確な殺意を向けられ、アカネはたじろいでしまった。
「シルターンのくのいちか」
「そ、そうよ!せくしぃーくのいちの、アカネちゃんよ!!」
「せくしぃーか、碌な意味ではなさそうだな。まあいい、同じ闇の住人に始末を付けさせるか」
ソルが出したのは赤いサモナイト石、魔力が流れ、シルターンのゲートが開かれる!
「セルボルトの名の下に―――、来い!戦国の闇を駆ける住人。マシラ衆!!」
「えっ、うっそ!?」
ゲートから出現したのは三体の猿の妖怪変化、戦国の闇に生きる忍び。マシラ衆だった。
召喚師の指示に従い、マシラ衆はアカネへと殺到する!
「じょ、冗談じゃないわよ!」
アカネが跳躍し、マシラ衆の放った巨大な苦無を避ける、そのままほかのマシラ衆が追撃を仕掛けるが、
アカネは空蝉の術で一気に距離を取りながら苦無で攻撃を仕掛ける!
「ま、けん制にしかなるわけないよね!」
放った苦無は全て撃ち落されてアカネにマシラ衆が迫ってくる、
マシラ衆の一人がアカネに向けて、電撃の忍術、雷遁で攻撃を仕掛けてくるが、
アカネはそれを回避して、一体のマシラ衆を攻撃する!
「おりゃ!」
「?!」
背中を切り裂かれるが、マシラ衆はアカネを捕まえ、他の者に達に自分事攻撃を仕掛けるように指示を出す。
「まずっ!」
「アカネ!」
フィズが叫ぶが他のマシラ衆はアカネごと仲間を串刺しにしてしまい、
鮮血がアカネの体から吹き上がるが、突然煙が現れ、丸太と一緒に突き刺さったマシラ衆だけがその場に残る。
「変わり身の術、なんてね♪ おっりゃぁっ!!」
倒されたマシラ衆の持っている巨大苦無を投げ飛ばし、一体のマシラ衆の腕をアカネが吹き飛ばした。
そのまま追撃を仕掛けようとアカネがサルトビの術で一気に跳ぼうとするが。
「避けてぇぇ!!」
「うわあぁぁっ!?」
ミニスの叫び声が聞こえると同時にアカネの背中に激痛が走り、その場に倒れてしまう、
そして逃げようと体を動かそうとするが、アカネは体が麻痺し一歩も動けなくなっていた。
「たかが一人の忍びに何をやっている」
アカネが何とか後ろを振り向くと、そこには一体の召喚獣の姿が見えた。
通称【ギョロメ】と呼ばれるシルターンの妖怪変化、その眼光は衝撃と共に相手の動きすら封じる力を持つ妖怪だ。
身動きが取れなくなった、アカネは後悔した、マシラ衆だけではなく、ソルにも警戒するんだった。
無理にでも、二人を奪い返し、この場から逃げることを考えるべきだったと考えるがもう遅かった。
「やめてぇぇぇーーっ!!」
マシラ衆の一人がアカネに向けて跳躍し、その巨大苦無を振り下ろす!
ミニスは自分のせいでまた人が死ぬことになる、その現実を認めたくない一心で、
叫ぶがマシラ衆の攻撃はそのままアカネに吸い込まれるように……。
「シャインセイバァーー!!」
「……え?」
白い霧の立ち込める反対方向の路地裏から、光の武具が撃ち放たれ、
アカネを突き刺そうとしたマシラ衆はその攻撃をまともに食らい、吹き飛ばされる形で送還される。
「!!」
最後に残ったマシラ衆が、路地裏に居る、誰かに向かって攻撃を仕掛けるが、
横薙ぎした巨大苦無を屈む形で回避し、剣を抜き放つ形で胴切りをその人物は繰り出した!
そして、最後に残ったマシラ衆もその乱入者に倒され、送還されてゆく…。
「…うそ」
「あぁ…!」
「って…、死にかけでしょ。アンタ」
「まさか…」
それぞれが心に出た言葉を口から零し、その人物の正体を確認する。
壁に手をかけながら進み、やがて街灯の達し、その顔が見えてゆく。
ボロボロの衣服を身に纏い、その表情は激痛が走ってるのか、痛みを現し、
そして息も絶え絶えの少年がそこにいた。
「俺の家族に……、俺の仲間に手を出すなぁぁーーッッ!!」
既に満身創痍の少年、ハヤトがいま再びソルに対峙したのだった。
次回、ついにハヤトVSソルの最終戦です。
ってハヤトはまだ体力が回復しきってないせいで既に満身創痍なんですけど。
これどうしよう……。
フィズやミニスの折檻や、ウィゼル登場など、色々とオリ展開埋め込んだけど、
中々楽しかったです。
アカネぐらいの実力ならマシラ衆一体は倒せそう、
ソルの介入無ければ負けなかったかもしれないけど。
ミラーヘイズ激強化、本来は視覚だけなのですが、クロとかユエル居ると、
このミラーヘイズ全然意味がなくなっちゃうんですよね、ですから強化しました。
まあ、強化して召喚術、強力になったりするし、そういうのと割り切ってください。
ではミニス編最終話の執筆もがんばるどん!