まあ、色々とあったんだと言えば簡単なんですけど。
単に書く意力が無くなりかけてただけなんですけどね。
一度書き始めれば行けるけど筆を持つまでが長い!
それではよろしくお願いします。
アカネがエルゴの守護者になった翌日、ハヤト達は新たな試練が行われるであろう地を目指していた。
既にワイバーンの姿はなく、彼らは緩やかな傾斜をひたすら登っていた。
それぐらいなら大した事はないだろうがその場所が問題だったのだ…。
「ひゃ…ひゃ……ひゃっくしょん!!」
「―――――」
「ちょっとモナティ、エスガルドに鼻水かけないでよ」
「ご、ごめんなさいですの!エスガルドさん!」
「気ニスル事ハ無イ、急激ナ温度変化ノセイダカラナ」
「エスガルドも悪いな、モナティが雪道を歩くのが苦手でさ」
「大丈夫ダ」
誓約者候補のハヤト、そしてエルゴの守護者達に剣客カザミネは雪道をひたすら歩いていた、
この先にシルターンのエルゴの力があるのは間違いないのだが、
ワイバーンで一気に行こうとすると不可思議な猛吹雪が襲い仕方なく徒歩で目的の場所に向かう事になった。
だがリィンバウムはハヤトのいた世界の国、日本の様に特別四季があるわけではない為、
雪を見るのが初めてだったエルジンとモナティはエスガルドに背負ってもらい運ばれることになった。
「にゅうぅ…マスター、ゲルニカさんに頼んで全部吹き飛ばしてもらいませんか?」
「物騒なこと考えるなモナティ…、流石にそれはマズいって雪崩でも起きたら洒落にならないぞ」
「しかしハヤト、もうじき日が拙者らの頭上を越えるでござる。流石にどこかで休むべきではござらぬか?」
「うーん」
真上を見ると雪が降る雲に隠れながら日が差し込んでいる、
遺跡を出たのが早朝だったので4時間近く歩いていることになる、
このままあまりに時間をかけ過ぎれば夜になり遭難の危険性を孕んでいた。
クラレットを助ける時間に猶予はないけど、このまま無理するのは危険だよな…。
もうエルゴの力は全部で三つ集まってるし仲間もいる、あんまり無理すべきじゃないよな。
「カザミネの言う通りだな、半分くらい進んでると思ってどこか休める場所を探すか」
「それがいいと思いますの!それに…なんか変な匂いがしますし…」
「変な匂い?それってどんな?」
エルジンがモナティの横で変な匂いを聞こうとする。
俺には別に変な匂いなんてしないけどモナティはメイトルパの召喚獣だ。
結構鼻が利くのかもしれない。
「卵が腐ったかんじですの。でもエスガルドさんの銃みたいな匂いもしますの~、にゅぅ~」
「卵が腐った感じの匂いで…銃みたいな…?」
卵が腐った感じの匂いって……もしかして!
「エスガルド!妙に温かい場所ってここら辺にないか!?」
「ハヤトどうしたでござるか?」
「少シ待ッテクレ、直グニ調ベヨウ」
エスガルドの目の光が変化して周辺を見回し始める、
そして周りを見終わると元のに戻ってエスガルドは調査の結果を伝えた。
「ココカラ右ニ100メートルホド先ニ熱反応ガアルヨウダ」
「よし、行ってみよう!」
「わわっ!?どうしたんですの?マスター!」
休める場所を探すことも考えれば暖かい場所の方がいいと俺は考える。
もし予想通りならそこに行った方がいいからな。
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「わぁ~!すっごい湯煙ですのー!」
俺達が向かった先にはやっぱり温泉があった。
結構な大きさの為か湯煙で奥の方が見えないほどの規模だ。
「ん~~?」
ハヤトはやけに長いシャインセイバーを召喚して温泉に突き刺していた。
それを見たモナティが何をしているのか気になって声をかける。
「あのマスター、一体何をしてるんですの?」
「深さを調べようと思ってさ、温度は大丈夫みたいだから」
「もしかして…入るんですの!?」
「よくよく考えるともう何日も風呂に入ってないこと思い出してさ、折角だから汗を流そうかって」
確かにクラレットを助ける為にも一刻も早く試練に挑むのは大事かもしれない。
だけど今から雪山を登るのは余りにも危険すぎる、それにここまで強行軍で進んできたのだ、
いざという時の為に休まないといけない気がするしな。
「でも、モナティ達は…」
「まあ、急ぐ気持ちもわかるけどさ。ここまで戦い通しだったじゃないか、それに最後のエルゴは目の前なんだ。確実にそのエルゴを手に入れる為にも、ここは休まないといけないんじゃないか?」
「確かに、ハヤトの言う事は正しいでござるな。少々無理し過ぎたという事でござるか」
「人間ハ我々機械兵士ト違イ疲レヲ溜メヤスイ。我ハ見回リヲシヨウ、ハヤト達ハ休ンダ方ガイイ」
「エスガルドもこう言ってるしさ、モナティも休んじゃいなよ」
「…休んだ方がいいですか?マスター?」
「そりゃな、流石に俺も疲れたよ」
「じゃあ…!頑張って休みますの!」
「はは、頑張って休むって何だよ?」
それは旅に出て失い始めていたかつてのフラットの様な空気だった。
ハヤトはそんな空気を感じつつ休むことを選んで正解だったなっと感じるのだった。
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その後、ハヤト達は温泉で休むことにした。
温泉が初めてのモナティは色々とビクビクしてたが、すぐに気持ちよさそうにのんびりとする。
そしてハヤトも温泉に浸かると眠り用に動かなくなり……いや眠ってしまっていた。
数十分の時間が過ぎてもハヤトは起きる事はなく、それぞれが上がろうとする頃になった。
「マスター、マスター、もう出ますよー」
「む……んん…」
「にゅぅ~起きませんの~」
「モナティ、眠らせておくでござるよ」
「でも、お風呂で寝ると危ないですよ?」
「なに、ハヤト殿が浸かってる場所は浅いから平気でござるよ。今はゆっくりと眠させてやるのが一番でござるよ」
「はい、わかりましたの!」
カザミネがモナティを説得し、全員がハヤトから離れてゆく。
そして温泉にはハヤトだけが眠るのだった。
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ハヤトは夢を見ていた、それはリィンバウムに来たばかりの頃の夢。
――必ず帰ろうクラレット。
そうだ…、俺はそう言ってクラレットと約束したんだよな。
クラレットが「はい」って答えてくれて…、俺はクラレットを守ろうと誓ったんだ。
時は流れる、場所はガレフの森。
目の前には目を血走らせたユエルの姿があった、
それをハヤトは止めるべく懸命に立ち向かいそして深手を負ってしまう。
そしてクラレットが泣き叫びながら杖に想いを乗せて光が迸ったのだった。
あの時、クラレットがエルエルを召喚しなかったら死んでたんだよな。
俺だけじゃなくてユエルやガレフ達も全員死んでたんだ…。
ハヤトはクラレットが多くの者を守って来た事に改めて気づいた。
そして再び夢は進んでゆく、子供たちとクラレットがメスクルの眠りで倒れた時だ。
エルカと言う新しい仲間が入ったばかりでハヤトはエルカに怒りをぶつけてしまった。
だが、エルカと分かり合い、そしてエルカの情報から森に向かいメリオールに出会う。
メリオールと誓約を交わしたハヤトは子供たちとクラレットを救い出した。
エルカの奴だって最初は本当に人間嫌いだったのに、手を貸してくれたんだよな…。
そういえばこの時からかな、どんな召喚獣とだってきっと分かり合えるって思ったのは。
今にして思えばエルカと言うある意味、現実を知っている召喚獣と出会ったのはハヤトにとって幸福だった。
自身に敵意を持つ召喚獣と分かり合える、その可能性をハヤトは知ることが出来たのだから。そして物語は進んでいった。
レイドとラムダが決闘をしていたのだ、ハヤトはそれを認めることが出来ずに二人を止めようとする。
だが、実際に二人を止めたのはクラレットとセシルだったのかも知れない。
その光景を見ているとハヤトは悩み始めてしまった。
今にして思えば俺は感情的になり過ぎてたのかもしれない…。
レイドだってラムダだって必死に考えて決闘の道を選んだんだ。
きっと命以上に大切な何かが彼らの間にはあったのかもしれない…。
そしてそれを諦めて妥協するのはきっと二人には辛かったのかもしれない。
後悔はしてないけど…でも、今なら分かる、
俺は二人が命を賭けてでも貫きたかった想いを知りたかったのかもしれないな…。
試練を乗り越えたからこそ、当時分からなかった二人の想いを理解出来た。
そしてハヤトにとっておそらくリィンバウムでクラレットの次に気にかけた少女が映る。
翼竜に襲われる少女ミニス、彼女を助けるところから二人の物語が始まった。
ミニスは召喚師の子として育った貴族だった。
最初はハヤトはミニスが可哀想な子供だと思っていた、友達が作れず一人ぼっちの子だと…。
でも違ったんだ、ミニスは一人じゃなかった…、
ただ色々と間が悪かっただけだったんだよな。
ただ間が悪かった…それだけだったのだ。
もしミニスがもっとシルヴァーナの事を理解しようとしていれば、
シルヴァーナが暴れるのではなくミニスに寄り添うようにしてあげていれば、
きっと何かが変わったのかもしれない、ハヤトはそう思っていた。
そして物語は進む、夕焼けの向こうにいる男、ハヤトにとっては自分自身の仇とも言える男がいた。
ソル…!
手も足も出ずにハヤトは敗れ去った、何もできずに二人の少女の悲鳴と共に意識を失ったのだ。
次に目覚めたのは孤児院のベット、モナティを押しのけ、リプレを退けて外に出る。
モナティが武器を隠したというがハヤトはそれでも歩み孤児院の外へと出た。
泣き叫びながらモナティはハヤトと話し合い、そして和解しあう。
必ず帰ると約束してハヤトは戦いの場へと向かって行った。
なんていうか…考えなしだなこの時の俺。
でも、それでも守りたかったんだよな…。
そしてギリギリ間に合った事でアカネを救い、ソルとの死闘が始まる。
激闘の末、ミニスがシルヴァーナを召喚したことにより形勢は逆転し勝利を収めた。
だが、ソルは更なる召喚獣ゼルゼノンを召喚しハヤトは敗北を確信してしまった。
そんな中、クラレットがゼルゼノンの攻撃に割り込んだことでハヤトは救われたのだった。
その後、ミラーヘイズがソルの手によって暴走するが、
サプレスのエルゴの力に目覚めたクラレットがエルエルとガルマザリアを召喚してこれを撃退したのだった。
そしてミニスに別れを告げ、ミニスとの物語は終わりを告げた…。
本当にクラレットに助けてもらってばっかりだったんだな…。
……ちがうな、お互い支え合ってたんだ。
でも、何時からか俺はクラレットだけを助けなきゃって思い始めてたんだ。
ハヤトの考えは正しかった、クラレットの境遇を知り、
その感情を垣間見た為ハヤトはクラレットだけは守らないとと思ってしまったのだった。
そしてまずかったのはそれをハヤトが理解してない事だったのだ。
蒼の派閥の召喚師、ギブソンにミモザ、ミントと出会い、バノッサと対峙したとき、
それを突きつけられハヤトは全ての事よりもクラレットを取ると選択する。
だが、それはハヤトにとって破滅への歩みだった。
カノンを退けたハヤトはサイジェントの城へと向かう、そしてバノッサとの最後の戦いが始まった。
クラレットのエルエルの力を借りる事でハヤトは互角に渡り合うが、その力を奪われてピンチに陥った。
圧倒的な力で攻められるが、ガイエンの力を借りる事で勝利をもぎ取った、だが本当の敵はすぐにやって来たのだ。
オルドレイク・セルボルト、戦う事はなかったがその圧倒的な威圧感と魔力は今もハヤトの心に楔を打ち込んでいた。
そしてクラレットとハヤトは殺意と憤怒を宿した魔剣、覇王の剣を操るソルと戦った。
だが、その結果は火を見るよりも明らかだった、手も足も出ずに敗北したのだった。
自身を救う為に派閥に戻ろうとするクラレットを助けようとハヤトは剣を構えた、
そしてソルは砂冠の王と呼ばれる最上級召喚術を行使して自身に止めを刺したのだった…。
俺はあの時、自分の命を犠牲にしてでも助けようと思っていた。
だけど、それはただ逃げてただけだったのかもしれない。
みんな悲しんで、苦しませただけだった、間違えてたんだきっと…。
あの時、どう選択すれば良かったのかは今でもわからない。
だけど、今やる事は分かる、俺は…クラレットを…この世界を救いたいんだ!!
ハヤトは改めて自身が願う結末を想う、
この世界の危機を救う、それは世界ではなくサイジェントを救う事だった。
自分が出会った人々をハヤトは救いたかったのだ。
そしてそのうえでクラレットを…最愛の人を救いたいと思ったのだった。
欲張りでいい、我儘でいい、彼は全てを拾い上げて救いたいと願う誓約者なのだから。
そしてハヤトの夢は覚めてゆく、再び現実を見つめ歩む為に彼は目を覚ましていった。
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「………(ぶくぶく」
目覚めたハヤトは体の殆どが温泉に沈んでおり、温泉は彼の口元まで来ていた。
ちょっと気分が乗らないのかぶくぶくと口から泡を出しつつ不貞腐れていた。
置いてかれたのか…、多分気遣ってくれたんだよな。
まあそのまま沈んでガチ寝してたら死んでた気がするけど…、
誓約者最後が風呂で溺死どか洒落にならないぞ本当に。
多分気づかいだろうなぁと理解していたハヤトはそのまま温泉に浸かっていた。
気温が低いためか大量の湯煙が周囲を覆っており完全に沈んでいるハヤトに気づく者はいないだろう。
そしてそれが悲劇をもたらすのだった…。
「……ん?」
チャプっと何かが温泉の中に入る音をハヤトは聞いた。
皆の魔力は別の所で感じられる、なら動物か?とハヤトは思うがそれとも違う事をハヤトは理解した。
魔力だ…結構大きいな…。
あんまり感じたことないが…これってシルターンの魔力か。
ん~~、良く見えないな…。
湯煙のせいで目では見えなかったがかなり近い位置にいるのは分かる。
ハヤトはその人物を確認する為、湯船から立ち上がり近づいた。
「「………え?」」
ハヤトがその人物を確認するのと同時にその人物もハヤトを視界にとらえる。
長く黒い髪、白い肌、そして湯船に浮かんでいる豊満な胸、それはハヤトのよく知る人物に酷似していた。
「クラ…レット…?」
なんでクラレットがここに…!?
まさか自力で脱出を…!?
自分が助けようとしている少女が如何して温泉に入っているのか理解できなかったハヤトはさらに近づく。
だが、湯煙のせいで気づかなかったが少女が自分の知っている姿と違っている事に気づき始めた。
「黒い髪?」
「あぁ…あああぁぁッッ!!」
彼女の髪は綺麗な艶があるほど黒かったのだ、そしてクラレットの髪は黒紫。
つまり自分が勘違いをしていたことがハヤトにやっと理解出来た。
そして改めて少女を見ると顔が凄く真っ赤に染まっていたのだ、それを心配してハヤトは声をかけるが…。
「なあ、顔が真っ赤だけどだいじょ「嫌ぁぁぁぁーーーッッ!!」んなぁっ!?」
彼女の両手は印を結んでおり、そこから深紅の雷撃がハヤトを襲う。
鬼爆と呼ばれる呪法の一つだが、普段のハヤトなら耐えきれる威力だった。
だが、不意打ちで寝起きで混乱しているハヤトに抗うすべはなかったのである。
「オワァァァァーーーーッッッ!!!!?」
そして雷撃がハヤトを襲い、ハヤトの意識は刈りとられてしまったのだった。
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意識を奪われたハヤトは自身の精神世界、エルゴの試練を乗り越えて認識出来た場所にいた。
ハヤトの周りには水晶煌めく大地が広がっている、そしてその一つの水晶の座りながら頭を抱えていた。
完全に自分が悪かった、流石のハヤトも理解していた。
「温泉が…温泉が悪いんだよ…」
しかし、それでもハヤトは否定したかった、間が悪かった、ただそれだけだったのだ。
皆が気遣って自分を置いてきぼりにしなければ、寝ぼけていなければ、相手がすぐに気づけば、そんな事ばかり考えてしまう。
だが、ハヤトが原因を考えれば考えるほどある結論に至ってしまった。
「いや、温泉に入ろうなんて言った俺が原因じゃないか…」
自分が温泉に入ろうなんて言わなければ元々こんな目に逢う事はなかった。
雷撃を食らわせてきた相手にも不快な思いをさせずに済んだ。そして…。
「こんな事がクラレットにバレたら…!!」
「私にバレたら……なんです?」
「!?」
下を向いていたハヤトの目線に足が映る、その足はよく見て来たものだった。
そしてゆっくりと視界を上に上げるとそこには…。
「ク…クラレット…」
「それでハヤト。私にバレたら……なんです?」
ニッコリと笑顔のクラレットがそこに居た。
先程とは違い、落ち着いているハヤトはそのクラレットの正体にすぐに気づいた。
彼女はハヤトの中のクラレットだと、リィンバウムのエルゴの試練で世話になった存在だった。
普段ならクラレットとの出会いは嬉しいのだが、ハヤトはビクついてしまう。
なぜならリィンバウムに来て以来、クラレットの性格は少し変化しておりやや嫉妬深いのだ。
別に、家族であって恋人ではないのだが、お互いがどう思ってるかは理解はしていた。
「あの…その…」
「ハヤト」
「は、はい!」
「私、本当に怒っているわけじゃないんですよ?」
「…え?」
「今回は二つのエルゴの試練を乗り越えて疲労が溜まっているのは事実でしたし、それにあれは仕方のない状況ですよ。不可抗力なんですからそこを理不尽に怒ったりするほど私は鬼じゃないですから。ね?」
優しくクラレットは俺の顔に手を添えてくれる、それだけでとても安心できた。
馬鹿だな…俺は…、クラレットを信じきれないなんてさ、そうだよな…。
目を瞑りながらハヤトはクラレットの温かさに触れてとても安心していた。
「そうだよな…ありがとうクラレット、お陰でお…れは……」
「?」
顔を上げながらハヤトはクラレットを見ると、彼女の左手がバチバチと電流を迸らせている。
クラレットは笑顔のままだった、自身に触れる手も彼女の温もりがある、だがバチバチである。
「お、怒ってないんだよな?」
「怒るわけないじゃないですかこれは―――当然の処罰です」
「!?」
ニコニコしていたクラレットの目がしっかりと開かれてそこに深淵が映る。
全てを飲み込むであろう黒い瞳がハヤトを見下ろしていたのだ。
「女性の裸……それを見て許されると? しかも何より―――私と見間違えたことが腹立たしい」
やっぱり怒ってるじゃないか!!
そうハヤトは心の中で叫ぶが肉体は恐怖で動くことが出来ない。
「ゆ…許してくれないか?」
「?」
「いや…その…」
「まあ、こうやってハヤトといるのは楽しいですけど、クラレットと繋がっている仮初の存在ですからね、私は。だからハヤトには早くクラレットを救って貰わないと、今の私みたいに変質しそうですしね」
「え? 今までと同じ…」
「なんです?」
「いや、何でもないです」
変質してるの?とハヤトは口にしようとしたがクラレットの威圧で口を閉じた。
結局自分は彼女に勝てないんだなとか、尻に敷かれるってこういう事なんだなとか考える。
「とりあえず目覚めましょう、外だとモナティも泣いてるみたいですしね」
「モナティやっぱ泣いてるのか…それで、どうやって起きればいいんだ?」
「ショック療法ですね」
クラレットの手の電流がバチバチからバヂバヂと言った感じに威力が上がり始める。
ハヤトはクラレットが何をしようとしてるのかを察して顔を青くした。
「な、なあクラレット」
「なんですかハヤト?」
「やっぱり怒ってないか?」
「―――――――普通怒りますよ」
「ほらやっぱッッギャァァァァーーーーッッッ!!!!?」
バチィッ!!っと言ったかつて感じた事のある衝撃と共にハヤトの存在が精神世界から消える。
そしてその場に残ったのはムスッとした表情をしたクラレットだけだった。
「好きな人がほかの女性の裸を見たら流石に怒りますよ私も……まあそれがハヤトなんですかねぇ」
はあっと溜息を吐きながらクラレットの姿も薄れてゆき消えてゆく、
そしてその場に残る人物はいなくなったのだった。
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「はっ!?」
ハヤトが目を覚まし周囲を見ると、そこは日本風の家の中でハヤトは布団の中にいた。
自分は確か風呂の中で気絶してそして…。
「……クラレット助けたらどうしよう」
自分の中にいるクラレットであれなのだ、本人にこの事が知られたらどれだけの目に逢うか。
考えるだけでも悪寒が脳裏をよぎる。
「とにかく布団から出ないと……あぁぁ~」
布団から出たハヤトにさらなる試練が襲った、それは畳だった。
体を転がしながら布団から出るとそこにあったのが草木で作られた畳だったのだ。
生粋の日本人であるハヤトにとって畳の心地よさは至上の喜びだった。
「あーダメだ。動けない」
このまま二度寝を…、いやいやクラレットを助けないといけないんだ!
早く体を起こさないと……いやぁこれはは無理です。
両腕を付いて体を起こそうとするが再び畳にその身を預ける、
二か月ぶりの日本の香りはハヤトには余りにも魅力的すぎたのだ。
そしてその目を閉じて二度寝に移行し始めるが……。
「マスター、起きましたかー? マスタァー!?」
モナティがドタドタと走り、畳の上で倒れてる(寝ている)ハヤトに跳びかかる!
殆ど体当たりの威力は眠りかけたハヤトの意識を呼び戻すほどの衝撃だった。
「マスター!マスター!死んじゃダメですのぉ!!」
「も、モナティ。少し力を…力を抜いてくれぇーーー!!」
メキメキと音を立てるほど強く抱きしめてくるハヤトは自身の魔力を膨れ上がらせて張り合う。
だが、相手はメイトルパの亜人。ハヤトと同質のエルゴの力を持つせいかハヤトはモナティから抜け出せなかった。
そしてその10分後、二人は時間をかけて他の仲間たちの所に行くのだった。
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「先ほどは本当にすいませんでした!」
「いや、こっちだって迂闊だったよ。知り合いに似てたもんで勘違いしててさ」
先程とは別室でハヤトと少女は再び出会い互いに頭を下げていた。
少女の姿は赤と白で彩られた衣服でハヤトもよく知っている巫女と呼ばれる人たちの衣服だった。
それを見たハヤトは少し驚いたがそれがシルターンの衣服である事にすぐ気づいたのた。
「お知り合い…ですか?」
「うん、寝ぼけてたせいもあったんだ。本当にごめん」
「いえ、こちらもここ最近不審な人達が結界周辺を行き来していたので」
「不審な者たちでござるか?」
「はい、忍びのような人たちです。こちらの召喚師の姿も見ましたので」
「マスター、もしかして無色の派閥ですの?」
「多分そうだな。アイツらも動いてるって事か…。それで大丈夫なんですか?」
少女はハヤトの問いに笑顔で返してくれた。
「はい、あなた方も体験したと思いますが、この山の周囲には結界が張られてるんです。それから入ろうとすれば猛吹雪で登山を行おうとすれば吹雪の幻術で絶対にここに辿り着けませんから」
「そっか……あれ?」
「なにか…?」
「いや、それならなんで俺達はあの温泉まで辿り着けたんだ?」
「えっと……なぜなのでしょう」
「恐ラクダガ、アノ結界ハ人ノ精神ニ作用スルノダロウ。機械兵士デアル我ニハ効カナイノダロウナ」
「エスガルドの言うとおりだよお兄さん。ロレイラルの機械にはそういった幻のようなものは効きづらいんだ」
「そっか…センサーとかあるからな」
自分たちが入ってこられた理由に納得した一行は話を進める、ハヤトは緑茶を飲んで一息ついた。
シオンから貰うシルターン茶とはまた違う味でハヤトは落ち着き、挨拶をしていないことに気づいて口を開いた。
「そういえば会ってすぐに謝った所為で忘れてたよ。俺はハヤト、誓約者になる為にエルゴの試練を受けてるんだ」
「僕はエルジン、ロレイラルのエルゴの守護者さ。こっちは同じ守護者のエスガルド」
「エスガルドダ、よろしく頼ム」
「拙者はシルターンの剣客のカザミネと申す。今はハヤト殿に協力してる立場でござるよ」
「モナティはメイトルパのエルゴの守護者なんですの!よろしくお願いしますのー!」
それぞれの挨拶を聞いた少女はニコリと笑みを浮かべ、正座の体制のまま頭を下げる。
「皆様の事はメイメイ様から伺っています。それと、カザミネさん。守護者ではないのに協力のほう感謝します」
「い、いやぁ。拙者も流石に世界の危機となれば見て見ぬふりは出来ぬでござるからなぁ」
「そうですか。では私の方もご挨拶を、私は私はこの鬼神の谷で、シルターンのエルゴを守護する者。鬼道の巫女、カイナと申します」
「やっぱりエルゴの守護者だったのか…」
「ええ!? 貴女がエルゴの守護者さんなんですの?全然強そうに見えないんですの…」
「おいモナティ、失礼だぞ」
「いえ、見て取れるように私は非力な娘です。ですから鬼神たちの力を借りてお役目を務めているんですよ」
鬼神たちの力を借りる…、そっか見る限り巫女だもんな。
「確か巫女って神様とかの力を借りるんだよな?」
「はい、ご存じなのですか?」
「一応、俺の居た世界でも巫女がいたしさ、まあカイナみたいな本格的な巫女じゃないけど」
「まあ、貴方の世界にも巫女がいるんですか?」
「見掛けだけなんだろうけどな………いや、どうなんだろう?」
リィンバウムの様な世界があるなら、もしかしたら自分たちの世界にも、そういうものがあるのかも知れないな。
帰る事が出来たら調べてみるのも良いかもしれない。
「あのカイナさん、試練ってどういうものなんですの?」
話を区切ってモナティが本題を取り出してくる、カイナは真面目な顔をしてそれに答え始めた。
「はい、貴方方の力を鬼神たちに見極めせてもらいます」
「また戦いの試練って事なのか…ん~」
「あの、ご不満でしょうか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけどさ。今までの試練が全部戦いだったから一つぐらい知恵比べ的なモノがあるんじゃないかなぁってさ」
「当初はそれだったんですけど、メイメイ様から指示があったんです。彼は精神的なモノで惑わされないとの事でしたので」
「ああ、そっかリィンバウムのエルゴの試練か…」
ハヤトは自身が突破した最初の試練の事を思い出していた。
よくよく考えると最初のエルゴの試練は今までの試練の中で一番つらい試練だった。
「マスター、どんな試練なんですの?」
「なんていうか…記憶を失ってさ。自分が望む幸せな世界に浸り続けるんだよ。守りたいものが沢山幸せそうにしててさ、それを振り切らないと元の世界に帰れないって試練なんだ。今思ってもよくその試練を突破したと思うよ…」
「確かに……メイメイ様の仰ってた事は正しかったみたいですね」
カイナはハヤトの試練の内容を聞き、メイメイの指示が正しかったことを理解する。
本来カイナが用意する試練は、心の中で望んだ世界を再現するモノだったのだ。
ハヤトの受けた試練はエルゴが直々に用意したもの、カイナの試練よりも完成度の高い代物だったのだ。
「あのカイナさん、今回もマスターが一人で試練を受けるんですの?」
「いえ、今回は貴方方全員で受けて貰います。エルゴの力を操るものとして貴方の仲間達と共に戦う力を見せてもらうます。では…こちらへ」
カイナが床から立ち上がり俺達を試練の場へと案内し始める。
それに続くように俺達もカイナに続いて行ったのだ。
------------------------------
ハヤト達が出た先、神社の裏手には大きな広場があった。
ここだけは、まるで意識されたように雪が降っていなかった。
カイナはハヤト達から離れた位置で鈴を手にハヤト達の方を向いていた。
「では、これから鬼神たちの力をお借りして、お役目を務めさせてもらいます」
「それはいいけどカイナ、本当に一人で俺達を相手するつもりなのか?」
ハヤトはガイエンを好んで召喚するので鬼神の力はよく理解していた。
だが、たとえ鬼神の力を用いてもハヤト達、
エルゴの守護者と戦える力を持つことが出来るのか?という疑問がハヤトの考えにあったのだ。
ハヤトの問いかけを聞いたカイナは安心させる笑顔を浮かべその問いに答えた。
「ご安心ください、私たち巫女の使う召喚術は貴方達リィンバウムのモノとは大きく異なります。それにたった一度、この時の為に幼き頃より準備をしてきたのですから」
カイナがしゃらんと鈴を鳴らすと広場に仕込まれたサモナイト石が反応して魔力を放出し始める。
カイナは黙ったまま鈴を鳴らし魔力を操作し、シルターンの召喚術を高め始めて行く。
「マスター!これは何なんですの!?」
「分からない…分からないけど…。カイナは準備万端だったってことだな」
召喚術だけではなく、魔力を使う術は色々な媒体を用いてその力を高めることが出来る。
クラレットのエルエルの杖や、ハヤトのサモナイトソードなど、
より完成度の高い媒体であればあるほど引き出せる力は大きくなってゆく。
カイナの場合、鈴は鍵であり、広場が召喚術の陣の役割を果たしていたのだ。
これによりカイナの力は数倍に高まり、より大きな力を行使できるのだった。
「――鬼神さま、鬼神さま、鬼道の巫女がここにお願い申し上げます」
古の時代より蓄え続けられた膨大なシルターンの魔力がカイナの呼びかけに答えて反応し始める。
それは至竜に匹敵する程の強大な魔力だった、それがたった一度の試練の為に解き放たれようとしていた。
「今、古き盟約を果たすべく、このカイナに力を――――!?」
「…カイナ?」
最初にカイナの異変を感じ取ったのはハヤトだった。
魔力を操作するカイナの表情が苦痛に歪み始めたのだ。
それは決して儀式による苦しみではなく、まるで何かに押さえつけられる苦しみの様だった。
「こ…これは…ッ!?」
「カイナ殿!?どうしたでござるか!!」
「カイナさん!どうしたんですの!?」
「周囲ノ魔力ガ変動シテイル。気ヲ付ケロ!エルジン」
膝をついて頭を抱えるカイナ、それを見てハヤトは嫌な予感を感じた。
そしてカイナに向けてハヤトは猛然と走り始める!
「カイナ!!」
「き、来てはいけません! ここから逃げて…!!」
突如、カイナの手がこちらに向き、そこから紅い光が撃ち放たれハヤトを襲う!
ハヤトはすぐさまサモナイトソードを抜き放ちその光を切り裂いて剣を構えた。
「カイナ!? どうしたんだ!召喚術に失敗したのか!?」
「ち、違います。これは召喚術などではありません…これ……は…」
がくりとカイナは意識を落とし目を閉じる、そしてその目が再び開かれ、彼女の眼は深紅に染まっていた。
それだけではないカイナの全身から魂殻が溢れ始めて体を包み込み始めたのだ。
その膨大な魔力にハヤトはどこかに感じを以前に感じてることを思い出していた。
――流石守護者だ、我を降ろす依代としては十分だ。
頭の中に直接伝わる声にハヤト達は驚く、だがモナティとハヤトの反応は他の人たちとは別だった。
「この感じ…」
「もしかして、エルゴさんなんですの!?」
ハヤトとモナティの二人は以前に戦ったメイトルパのエルゴと同じ雰囲気である事に気づく、
そして今回、あふれ出る魔力がシルターンの物で在る為、それがシルターンのエルゴであると確信した。
――そうだ。我はシルターンのエルゴ
「カイナに降りて…何をする気だ!」
――決まっていよう。誓約者を始末し、この世界の檻を破壊するのだ
「やっぱりそれが狙いか…! 戦うならお前一人で戦えばいいだろ!カイナから離れろ!!」
――無論、そのつもりだ。人などに降りたところで大した力など使えんからな。この体に降りたのは呼び出すためだ。
「呼び出す!?」
しゃらんとカイナが鈴を鳴らし、周囲に散っていたシルターンの魔力を再び集め始める。
そしてシルターンのゲートが出現し、そこから強大な何かが覗き始めていた。
「な、なんなんですの…?」
「あれは…竜でござる!」
それは竜だった、巨大な赤黒い竜がゲートの向こうにいたのだった。
その竜は口を開き強大な魔力をこちらに押し込んでゆく、
それが通るたびゲートは軋む音を上げ、通りきったとたん崩れるように消滅していった。
――10分の1にも満たんか。まあいいこれだけあれば十分だ。
カイナの目が再び閉じ、がくりとなる所をその魔力が縛り上げ宙へ浮き上がる。
そしてその魔力が形作り始め、それは強大な魔力を滾らせた鬼へと変化した。
力強い鬼ではなく、魔を操る感じを放つ巨大な鬼へと変化したのだ。
「カイナ!!」
――さて、滅してやろう。誓約者!!
「!!」
ハヤトがその場から跳ぶように避けると魔力が変化した炎が撃ち放たれる。
ハヤトはそのままシャインセイバーでシルターンのエルゴを攻撃しようとするが…。
――いいのか?誓約者よ
「なっ!? お前ェ!」
エルゴはカイナが人質に取っている事にハヤトは気づきシャインサイバーをけん制するように放つ。
だが、それが当たるはずがないと理解していたエルゴは動くこともなかった。
「お前エルゴだろ!人質を取って恥ずかしくないのか!!」
――我が世界の者だ。我がどう扱おうと関係あるまい
「くそ…! カイナぁ!!」
ハヤトはカイナを救うべくエルゴに向かって走る、エルゴはそんなハヤトに炎の攻撃を食らわせ続けた。
ハヤトはサモナイトソードを振りかざしてその攻撃を防ぎながらドンドンとエルゴに接近してゆく。
遠距離からの攻撃じゃカイナを傷つけるかもしれない。近くによって直接斬りつければ!
ハヤトは既に三つのエルゴを得ているお陰か、シルターンの攻撃を退ける結界を張れていた。
相手が本来の10分の1程の力しか出せないのもあり、ハヤトは敵の攻撃を退けていけた。
だが、相手はエルゴ。界の意思という存在、それ相手に単なる力技で勝てる程甘くはなかったのだ。
――ククク、捉えたぞ。誓約者よ!
シルターンのエルゴの目が光り輝き、今にも跳びあがりそうだったハヤトの動きが制止する。
「マスター…?どうしたんですの!マスター!」
「ハヤト殿の様子がおかしいでござる!」
「か…体が…!?」
シルターンのエルゴの方を向いていたハヤトがモナティ達の方に向きかえりサモナイトソードを向ける。
それにモナティ達が驚くが、その中でエスガルドだけが事実に気づき銃を構えた。
「逃げろ…!!」
「お兄さん!?」
ハヤトがシャインセイバーを発動させて、それがモナティ達に撃ち放たれた!
その瞬間、エスガルドが銃を撃ち放ちシャインセイバーを撃ち落として、そのままハヤトに接近する!
「ハヤト、今抑エル!」
「ダメだエスガルド、近づくな!」
ハヤトを取り押さえようとするエスガルドだったが、
ハヤトの膨大な魔力を纏ったサモナイトソードがエスガルドを吹き飛ばした。
まさか、動きまで完全に支配されているとは思わなかったエスガルドは直接その攻撃を受けてしまった。
「エスガルド!」
「シルターンのエルゴに操られているのでござるか!?」
「そんな…マスター!どうにもならないんですの!?」
「…!! ダメだ。振り切れない…!やばい!!」
ハヤトは天にサモナイトソードを掲げ、そこから光が飛び出し天を切り裂いた。
そして切り裂いた空間の裂け目から巨大な隕石がモナティ達めがけて突っ込んでくる。
ハヤトが誓約者になった際に習得した召喚術、メテオライトフォールだった。
「全員避けるでござる!!」
カザミネの叫び声に反応した全員がメテオライトフォールの攻撃を何とか避ける。
クレーターが出来る程の衝撃と魔力の波動に誰もがハヤトの強さに驚くがハヤト自身は別だった。
意識があるはずにも拘らず、彼の扱う召喚術を完全な形で発動させてしまうシルターンのエルゴに恐怖したのだ。
まずい、もし他の召喚術を使われでもしたら!
ハヤトの予感は正しかった。
サモナイトソードがハヤトから送られる魔力に反応し、シルターンの魔力を膨れ上がらせ始めたのだ。
そしてハヤト達の前に現れたのは幾度となく彼を助けてくれた召喚獣、鬼神将ガイエンだった。
「ガイエン!俺の意思じゃないんだ、やめてくれ!!」
ハヤトの声にガイエンが反応するが、ガイエンもまたハヤトと同じ様に縛られていたのだ。
それは長年に渡り、召喚獣を縛り付けていた服従召喚その物だったのだ。
――我らが眷属を支配下に置いたその力で同胞と争うがいい!
やられたらやり返す、まるで子供のような理論だがその様な事をしたことのないハヤトにとっては関係がなかった。
だがそれでも誓約を振り切れるはずもない、何せこれは1000年以上に渡り解ける事のなかった絶対の法則なのだ。
必死にハヤトがガイエンを誓約から切り離そうとするがなすすべも無くガイエンはモナティ達に攻撃を仕掛けてしまう。
「皆!避けてくれ!!」
放たれたのは鬼神剛断剣、鬼神将ガイエンが持つ極みの奥義だった。
だが、だれよりも早くそれに反応したモナティはガイエンを踏み台にしてハヤトに突っ込む!
召喚師を止める事で召喚術を中断させようとしたのだ。
「マスター!」
「モナティ!俺を攻撃するんだ!!」
「な、なにを言ってるんですの!?そんな事…!」
「早く…!くそぉ!!」
ハヤトがサモナイトソードをモナティに向けると十数本のシャインセイバーが生み出されて一斉に殺到する!
空中を跳んでいたモナティはそれを回避する術はなく、ただ耐える事しか出来ずに吹き飛ばされてしまう。
幸い、モナティ自身のダメージは少なかったが再びハヤトとの距離を取らされてしまった。
そしてガイエンの攻撃を凌いだ他の面子もそれぞれ傷を負ってしまっていたのだ。
「敵にするとここまで厄介とは…!」
「お兄さんがエスガルドと戦う時、手加減しているっていう意味が分かったよ」
「ダガ、止メルシカナイ。我ラノ手デ何トシテモはやと殿を止メナケレバ」
「マスタぁ…!今助けますの!」
「みんな…」
――流石はエルゴの守護者どもだ、ではこれならどうだ?
シルターンのエルゴがその手をハヤトに向けるとハヤトから膨大な魔力が溢れ出る。
その魔力はメイトルパの魔力に変換され、サモナイトソードへと伝わり召喚術が発動しはじめる。
「大変ですの…アレは大変なんですのぉ!!」
その危機感を周りに伝えるようにモナティが叫ぶ、そして守護者の全員はハヤトの召喚獣を見て恐怖した。
それはモナティの前のメイトルパのエルゴの守護者、長き年月幾多の剣士を見極め続けて来た剣竜ゲルニカだった。
ゲルニカもガイエンと同じように服従誓約によって支配されており、その誓約から抜け出ることが出来なかった。
『まさか…こんな事になるとは…!』
「ゲルニカ!? 止まれ…!止まってくれ!!」
ハヤトはゲルニカの誓約を外そうと必死に体の自由を取り戻そうとするがそれは叶わない。
全てのエルゴの力があれば別だが今だハヤトの中にあるエルゴは3つ、
他者を操る能力に特化してる今のシルターンのエルゴの束縛からは抜き出せなかった。
――ククク、自らの手で引導を渡すがいい!
ゲルニカの口から膨大な魔力が溜まり始める【フレアボルケイノ】と呼ばれる究極の一撃が今、放たれようとしていた。
放たれる超高熱の熱線の前に生半可な防御は意味もない、
それをよく知るハヤトはただ叫ぶしかなかった…。
「やめろぉ!やめてくれぇぇぇっっ!!」
俺にはどうする事も出来ないのか…、俺が皆を倒すことになるのか…!
何とかしないと、何とか、何とかみんなを……!!
『―――ハヤト』
「え…?」
胸の内ポケットにしまっているクラレットのヒトカタの符が熱を持ち始める。
『――私が抑えます』
するとハヤトの体の中の魔力が一部押さえ付けられ、ゲルニカに回す魔力が阻害された。
僅かな瞬間だったがハヤトがそれを逃す事はなく、ゲルニカの魔力を完全に押さえ付けることに成功する。
――なにっ!?
「いまだ、皆!」
「マスター…! わかりましたの!!」
モナティがハヤトの呼びかけに答えて宙へと跳び上がりゲルニカの顔面へと近づく。
「ゲルニカさん、ごめんなさいですの!!」
モナティがゲルニカを思いっきり殴りつけ地面へと叩き付ける、
それに続くようにエルジンが召喚術を発動させた!
「力を貸して!ドリトル!【ドリルブレイザー】!!」
エルジンが召喚したドリトルが膨大な魔力を纏いゲルニカの腹部を貫いた。
ゲルニカは苦しんで送還されてゆくが、どこか安心した表情を浮かべていた。
――むぅ!ならば…!
「!!」
エスガルドがシルターンのエルゴに銃撃を撃ち放ちエルゴの行動を阻害する、
だが、カイナを吊るしている魔力が千切れ初めて宙へと投げ出されてしまう!
「カイナ殿!!」
――消えるがいい!!
「カザミネさん、危ない!ビットガンマー!【ガンマバリア】だ!」
ドリトルに続きエルジンが召喚したオレンジ色の機械兵士のビットガンマーは、
自身の背中と左右の肩についている砲身をを飛ばし、緑色のバリアーを展開する。
それはシルターンのエルゴが放った攻撃を防いでカザミネを守る事に成功するが投げ出されたカイナを助け出せなくなってしまった。
「カイナ!! このぉっ!!」
ハヤトは自身の腕にサモナイトソードを突き刺して膨大な魔力を逆流させはじめる!
自身を縛るエルゴの術に対抗するべく全力で魔力を送り続けた。
「うぐぅ…!うぅぅぅっっ!うおぉぉぉぉーーーッッ!!!」
パキィンと言う音が響き、ハヤトはシルターンのエルゴの支配から解放された。
そして地面に向けて落下してゆくカイナに向かって全力で走り始める!
もう目の前で誰かが傷つくのも死ぬのも嫌なんだ!
誰も…もう誰も俺の目の前で死なせやしない!!
目の前で奪われ傷つけられる辛さを知るハヤト、
だからこそ目の前でその命を散らしかける少女を救おうとしていた。
彼女にもきっと大切な家族がいる、自分と同じように大切に想い想われる家族が。
「カイナァァァァ―ッッ!!」
地面に落ちる寸前にハヤトは滑り込むようにカイナを抱き留める、
そしてカイナの様子から大した怪我を負っていない事を確認して安心した。
「―――ハヤトさん?」
「よかった…間に合った」
ハヤトがカイナを救った事でモナティ達も安堵する。
だが、その余韻もなくエルゴは更なる攻撃をハヤト達に仕掛けた。
――誓約者…!我が傀儡から抜け出るとわな。だが代わりはまだあるぞ!
「ぬぅ!?」
「コレハ、外部カラ強力ナ魔力デ操ロウトシテイルノカ」
「か、体が勝手に…!」
「動いちゃうんですのぉー!?」
シルターンのエルゴが次に操ったのはエルゴの守護者達だった。
ハヤトとは違い、その縛りを防ぐ手段も破る手段も一切ない彼らは傀儡と化してしまう。
そして彼らの持つ最大の技がハヤト達に向けられていた。
エスガルドはその砲身をハヤトに向け、エルジンは機神ゼルガノンのファランクスを召喚してミサイルを撃ち出そうとする、
モナティはその両手に膨大な魔力を溜め始めうさきだんをハヤトに向かって放とうとしていた。
「みんな…?!――駄目だ魔力が!」
ハヤトはシルターンのエルゴの束縛を破る為に魔力を逆流させるという荒業を行った。
その為、魔力をハヤトは上手く操る事が出来ず、危機的な状況に陥る。
――誓約者よ!自らが信じる僕に滅ぼされ息絶えるがいい!
「ここまでなのか…」
諦めの言葉が口から洩れる、今の自分はエルゴの力をうまく使えない。
もちろんエルゴの力なしで召喚術を行使したとしてもモナティ達の攻撃を防ぐには焼け石に水だろう。
ヒトカタのクラレットの助力は期待できない、彼女は先ほど力を使ったばっかりなのだ。
手に握るサモナイトソードをハヤトはゆっくりと降ろし始める…。
「ハヤトさん」
「カイナ?」
降ろし始めたサモナイトソードにカイナが手をやる、
するとカイナからサモナイトソードの膨大なシルターンの魔力が送り込まれ始めた!
「この力は…!?」
「これを貴方に…」
「マスター!逃げてくださいですのぉぉぉ!!」
「! 誰でもいい…力を貸してくれ!!」
モナティの叫び声が耳に入りハヤトは無我夢中で召喚術を発動させる!
呼び出す者は考えてない、ただ自分達を助けてほしい、その想いだけを剣に込めてハヤトは召喚術を発動させた!
その瞬間、エルゴの守護者達が放った強大な攻撃がハヤト達に殺到し、衝撃と光が二人を包み込んだ!
「そ…んな…マスター!マスターぁぁぁ!!」
「ハヤト…カイナ殿…!」
――ついに…ついに誓約者は死した!これで忌まわしき結界は………何?
自身の手でハヤト達を攻撃してしまったエルゴの守護者達はその事実に衝撃を感じていた。
だが、それを実行させたシルターンのエルゴは違和感を感じ取り状況を調べ始めた。
そして気づいたのだ、強大な存在がハヤト達を守っている事を!
「はぁっはぁっ!防げたのか…それにこれは」
「龍神さま…」
――ミカヅチ。貴様ぁ…!!
カイナがハヤトに渡したのはシルターンのエルゴの欠片だった。
その魔力を用いて召喚された召喚獣こそ、メイトルパに住む龍神、至竜の一角で鬼龍ミカヅチだったのだ。
そして召喚されたミカヅチはシルターンのエルゴではなく誓約者であるハヤトを守るべくその身でハヤトを包みこんだ。
エルゴの守護者の力は強大だが至竜はそれすら上回る存在、彼らの攻撃はミカヅチにはさして効いてはいなかった。
――貴様も裏切るのか!ミカヅチィ!!!
「にゅう!?」
「いけない!」
ファランクスのミサイルが、モナティの拳が、カザミネの刀が、エスガルドのドリルが、
エルゴの守護者達が一斉にミカヅチに殺到するがそれを全て受けきりミカヅチは耐えきった。
『傀儡から解き放たれるのだ、守護者達よ』
その言葉と共にミカヅチの手に持つ宝玉が光り輝き、天から彼らに向かって雷が落ちてくる。
それをまともに受けたモナティ達だったが衝撃で全員驚いたがその後体が自由に動かせるようになったことにさらに驚いた。
「にゅぅっっ!? あれ?体が動きますの!」
「助かったでござる!」
――おのれぇぇ…!ならばせめて誓約者だけでも!!
シルターンのエルゴがいまだ碌に動けないハヤトに向かって突進してきた。
ミカヅチは再びハヤトを守ろうとその身を盾にするがミカヅチを乗り越えてモナティ達がエルゴに攻撃を仕掛けた。
「さっきは良くもやったでござるな。拙者たちの世界の神だろうと容赦はしないでござる!きえぇぇぇぇいっっ!!!」
カザミネから放たれた居合がエルゴの腕を切り落とす!
「今度は僕の番だ!ゼルガノン、ファランクス一斉発射!!」
「モナティも行きますの!ワイバーンさぁーん!!」
ミサイルとワイバーンの火炎弾が大量に撃ち放たれエルゴに襲い掛かる、
カザミネの攻撃で怯んだエルゴはそれをまともに受けて吹き飛ばされてしまった!
「ソコダ!!」
エスガルドがシルターンのエルゴの足を掴み、地面へと叩き付ける。
「ハヤト、イマダ!」
「ああ!カイナ、力を貸してくれ!」
「(こくん」
頷いたカイナはハヤトと共にサモナイトソードを握り魔力を高め始めた、、
そして宙にへとその身を翻したミカヅチが宝玉に魔力を注ぎ込み始める!
「「【牙龍天聖】!!!」」
牙龍天聖、その言葉と共にミカヅチの周りから雷雲と竜巻が生まれ始め、
それが一斉にシルターンのエルゴへと殺到する!
強力な魔力を含んだミカヅチの攻撃の前にシルターンのエルゴは引き裂かれその体が崩れてゆく。
――今一歩のところを…!覚えておくがいい誓約者、この世界が滅ぶのは時間の問題だという事を!
膨大な魔力が四散してゆき、やがてシルターンのエルゴの気配が消滅した。
そして空を飛ぶミカヅチも役目を終え、送還されていった。
「終わった? カイナ、大丈夫か…? カイナ?」
「はぁ…はぁ…」
「カイナ!? 凄い熱だ…!」
カイナの額をハヤトが触ると高熱を持っている事に気づき声をかけ続けるが、
カイナが返事をすることはなかった、その異変に気付いたのかモナティを筆頭に全員が集まってくる。
「マスター、カイナさんは大丈夫なんですの!?」
「分からない、凄い熱なんだ」
「う…うむ、もしかしたらシルターンのエルゴが何かをしたのではないでござるか?」
「だとしたら不味いぞ、とりあえずメリオールを召喚して…」
「待ってお兄さん、これはそういうのじゃないよ。魔力を使い過ぎて高熱が出てるだけだから」
「え?」
「召喚術を使う時、限界以上の魔力を使うと熱が出るんだ。多分シルターンのエルゴを召喚させられた時のせいじゃないかな?」
そういえば、俺も前にガイエンを召喚した時に反動で倒れ込んでたな…。
もしかしてカイナもそれなのか?
「だとしたらゆっくり休ませるしかないよな」
俺はカイナを抱きかかえながら納屋に向かって歩き始める、歩きながら自分の中に灯った新しい力を感じ取っていた。
それはあの危機的な状況でカイナが俺に与えてくれた新たな力シルターンのエルゴの欠片だったんだ。
「ありがとな、カイナ」
そう呟いた俺はカイナを持ち直してその場を後にした。
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「ん…んん?」
カイナは倦怠感と共に目を覚ました、自身が布団の中で眠っている事に気づいたが倦怠感の性かすぐに動かずに考えていた。
私…一体?
確か、シルターンのエルゴの試練を行って、シルターンのエルゴが介入して、
そう、龍神さまのお力をお借りして撃退したんですよね。
それでハヤトさんの腕の中で…眠って……あぁ!。
カイナの赤く染まり顔を手で隠してしまう、異性に抱かれたなど兄以外初めてだった、
それどころかカイナは子供の時にリィンバウムに一人で来たため人と触れる機会は皆無だったのだ。
自身を守る為に命を懸け、抱きかかえられた事はカイナにとっては初めての連続だった。
「いえ、ハヤトさんはお優しい方ですからきっとそれがあたり…ま…」
起き上がったカイナが自分の衣服を見ると寝間着に変わっていたのだ。
カイナが気絶する前は確かに巫女装束だったはず、ならばなぜ寝間着に…?
「も、もしかしてハヤトさんが…!? え!?」
自分を気遣い服を着替えさせたのがハヤトだと思い、カイナは更に顔を赤くする。
実際はモナティと性別の無いエスガルドなのだが、混乱しているカイナがそれに気づくことはない。
とにかく自分が起きたことを知らせようと部屋からカイナは出て人の気配がする方へと進み始める。
気配がしたのは台所だった、何人かの気配と共に何かを作る音が聞こえる。
「…あの」
カイナが台所を覗くと、釜を凝視するハヤトの姿がそこにはあった。
目を血走らせながらボソボソと何かを呟いている。
近くにはモナティもおり、ハヤトの事を心配しながらじっと見つめていた。
「はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いてもふた取るな、ジュウジュウ吹いたら火を引いて、ひと握りのわら燃やし、赤子泣いてもふた取るな」
「にゅう…マスターもういいんじゃないんですの?」
「いや、まだだ赤ちゃん」
「そうですか………モナティは赤ちゃんじゃないんですの!」
「似たようなものだと思うけど…」
「にゅぅーー! あ、吹きましたの!」
「ジュウジュウ吹いたら火を引いて!」
火を引きながら温度を調節してハヤトは再び釜をガン見し始める。
その横にカイナがいつの間にか立っておりハヤトに声を書けた。
「あの」
「ん…?カイナかちょっと待っててくれ……カイナぁっ!?」
「カイナさん!? あのその…これはその!?」
「えっと…何を驚いているんですか?」
「いや…お米勝手に炊いたから…」
「え…?あぁ、別に気にしてませんから平気ですよ?」
「あれ?お米って貴重なんじゃないんですの?」
「そのお米はシルターンから送られてくるものなので、特に貴重という訳じゃありませんから」
カイナの返答を聞いてハヤトはほっと一息ついた、
リィンバウムでお米は高級品なのだ、何せ作られている所は一部の地域と帝国にあるシルターン自治区のみなのだ。
前にお米の値段を調べた時、それはそれは高くて諦めてしまったほどだ。
今回、起きたカイナにご飯を食べてもらう為に台所に入ったハヤトが目にしたのは米俵だった。
それを見たハヤトはカイナの為とか考えながら実際には自分の為にお米を炊いていたのだった。
「いや、それでも本当にごめん、勝手に炊いちゃって」
「私もお腹が空いていましたし、気にしてませんから」
多少の混乱もあったが彼らはそれぞれの無事を祝いながら食卓についた。
食事はもちろん全員で取り、試練の事は話そうとはせずに今は食事に夢中になったのだった。
------------------------------
「白米…漬物…味噌汁…鮭…、久しぶりで幸せだ~~」
「全くでござったな…」
「にゅぅ~、やっぱりお箸は使いにくいんですのぉ」
久々の和食を楽しみながらハヤトは自分の胸に手をやる、そこには新しく灯る力を感じた。
ハヤトはそれの事をカイナに聞こうとするが…。
「………」
「カイナ?」
「え?」
「どうしたんだ?もしかして体調が…?」
「いえ、そうではありません。ただ人と食べるのは本当に久々だったもので」
「久々…ですの?」
「はい、幼い頃から私はこの鬼神の谷でお役目を果たす為、一人でいましたから」
「一人でいたって……こんな殺風景な所にか!?」
「鬼神さまもいましたし…それにお役目でしたので…」
つまりカイナは俺が来るのを何年も待ち続けていたって事なのか…。
待てよ、じゃあカイナはこれから…。
「これからはどうするんだ?俺の中にある力はシルターンのエルゴなんだろ?」
「はい、あの状況。ハヤトさんにシルターンのエルゴを渡した事に間違いはありません、そこは安心してください」
「そういう事じゃないんだ!カイナは…カイナはこれからどうするんだ?」
「これから…ですか?」
「役目を果したらシルターンに帰れるのか…?」
「…いえ、帰る事は出来ません。私がこれからする事…ですか」
カイナは顔を下げて考え始める、これからの事…。
考えたことは無かったのだ、1000年にも及ぶお役目が自分の代で終わるとは思っていなかった。
自分もお役目を受け継がせて年老いて死んでゆくとカイナは思っていたのだ。
だが、自分はあまりにも若い、老婆だったら諦めが付いたかもしれないが彼女は若すぎたのだ。
だからこそ、これから何をするかが思いつかなかった。彼女はあまりにも世界を知らなさ過ぎたのだ。
「分かりません…自分の代でお役目が終わるなんて思いませんでしたから…」
「だったらカイナさんもマスターと一緒に来るといいんですの!」
「え?」
「カイナさんが力になってくれればモナティ達も安心なんですの!」
悩むカイナにモナティが笑顔で接してくれている。
本当に純粋無垢なモナティはこういう時、頼もしく感じる。
俺も悩むカイナに手を差し伸べる事にした。
「カイナ、一緒に行かないか?」
「ハヤトさん…」
「俺の大切な人を大切な仲間達を守る為にカイナの力を貸して欲しいんだ。カイナのような女の子に頼むのはちょっと間違ってるかもしれないけど、ダメかな?」
「女の子…ですか?」
「…カイナ?」
「……私が女の子」
カイナは自身がただの女の子扱いされている事に驚きを隠しきれなかった。
巫女として幼き頃より妖と人を繋ぐものとして生きてきたカイナにとってハヤトの言葉はとてもくすぐったかった。
だが、不快感を煽るものではなく、とても安心し嬉しくなってくるものだった。
「私は…」
カイナがゆっくりとハヤトの手を握ろうと手を上げる。
だが、それ手が届く前にハヤトの手はグッと握られていた。
「? ハヤトさん?」
「この感じ…まさかもう!?」
ハヤトが立ち上がって立て掛けてあるサモナイトソードを掴み取り外へと躍り出る。
「マスター!どうしたんですの!?」
モナティもハヤトを追って行ってその場からいなくなった。
「お兄さん!どうしたの!」
「エスガルド、ハヤトは何を感じ取ったのでござるか?」
「分カラナイ、ダガタダ事デハナイハズダ、我々モ行クゾ」
他の守護者達がハヤトを追おうと腰を上げる中、カザミネがカイナの様子を見るとカイナの表情も変わっていた。
「カイナ殿? どうしたのでござるか?」
「この力は…まさかハヤトさんはこの力を感じ取って?」
この中で最も魔力を扱う能力に精通するカイナは感じ取る。
遥か遠くから感じるおぞましくそして膨大な魔力の奔流を…。
「これは…悪魔の力です」
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「……嘘だろ」
「マスター、どうしたんですの?」
後ろからモナティが心配そうに付いてきてくれている。
だが俺はそれどころじゃなかった。はるか遠くサイジェントの街の方から膨大な魔力を感じ取ったのだ。
「モナティは分からないのか?サイジェントの方から感じる魔力をさ」
「……にゅぅっ!?」
モナティが驚愕の表情を浮かべる、信じたくないような、だがそれが間違いではないという考えが彼女にはあった。
「この匂い…クラレットさんの…」
「ああ、間違いなくクラレットの魔力だ…つまりサプレスのエルゴだ」
「でも!クラレットさんの魔力はこんな嫌な感じじゃないんですの!」
「魔王召喚の為に変化させられてるのかもしれない、ともかくここまで感じ取れるなんて普通じゃない」
ここからサイジェントまであまりに距離が離れすぎている。
つまり完全に魔王召喚の儀式が行われているはずだ。
「モナティ!すぐに向かおう、もう時間がない!」
「はいですの!ワイバーンさぁーん!!」
――シギャァァァァァーーー!!
モナティが両手を空に掲げて大きく名を呼ぶとそれに応える様にワイバーンが召喚される。
目的を理解していたのか、ワイバーンは俺達が乗れるように背を低くしてくれた。
「ワイバーン、もう時間があんまりないみたいなんだ。すぐにみんなを乗せてサイジェントに向かってくれないか」
こくりと頷くワイバーン、そしてモナティがワイバーンの背に飛び乗る。
「ハヤト!どうしたでござるか!?」
「カイナお姉さんが悪魔の力って言ってたけど」
「みんな、実は…」
俺は全員にサプレスのエルゴの力を使って魔王を召喚する儀式が始まった事を伝えた。
クラレットに魔王を降ろすまで時間はかかるが一刻の猶予も残されていないと。
「つまり、もう時間がないという事でござるな」
「うん、だからすぐにでもここを出なくちゃいけない、最後にみんなに確認しておきたいんだ」
「何を?」
「ここから先、俺は本当に無茶を繰り返すと思う、だから無理にとは言わない、皆、俺に力を貸してくれないか?俺の無茶に付き合ってくれるか?」
これからの戦いは確実に今までで一番の戦いになるはずだ。
不完全なエルゴとの戦いも激戦だったがあのソルとオルドレイクが相手ならもしかしたらそれ以上かもしれない。
何せ力技がほとんどのエルゴとは違いあいつらは生粋の召喚師なのだから。
だから無茶をする事は分かっている、でもみんなにそれを伝えておかなきゃいけないと思った。
俺の独りよがりで全部を決めていいわけじゃないんだからな。
「ハヤト、我々ハオ前ニツイテユクト決メテイル、ハヤトノ頼ミナラ力ニナリタイノダ」
「エスガルド…」
「僕だってエスガルドと気持ちは同じさ、お兄さんだから僕も力を貸したいんだ。誓約者とかそういうのは関係ないよ」
「エルジン…」
「拙者はハヤトに恩義があるでござる、無論それだけではない。ただ助けたいんでござるよ」
「カザミネ…」
「モナティも皆さんと同じですの。マスターの為にフラットの皆さんの為に頑張りたいんですの」
「…みんな、ありがとう。よし行こう!!」
みんなの気持ちを確認できた。あとは全力で戦うだけだ。
そしてワイバーンに全員が乗り込み出発するとき、神社の方から人が走って来た。
「待ってください!!」
「カイナ?」
「はぁ…はぁ…よかった間に合いました」
そこには服を着替えて巫女の姿になったカイナがいた。
俺はワイバーンから降りてカイナに近づく、本当ならすぐにでも行きたかったが世話になった人だから無碍には出来なかった。
「ごめんカイナ、すぐに出発しちゃって。でも、もう時間がなくて…」
「はい、その事は理解しています。ハヤトさん、お願いがあるんです」
「お願い?」
「私も連れて行ってくれませんか?」
「…それは嬉しいけど、さっきと変わって状況があまりに違うんだ。もしかしたら死ぬかもしれないだぞ?」
「それは理解してます。でも恩返しもしたいですし。何より私は知りたいんです」
「知りたい?」
「貴方は私の事を女の子って言ってくれました。相手を正面から見る、貴方が本当に助けたいと思ったものを私も知りたいんです」
「……そんなに特別な事じゃないんだけどな」
「貴方にとって特別ではなくても、私にとっては特別なんですよ?」
今度はカイナが手を差し出してくる。
「ハヤトさん。私に力を貸させて貰えますか?」
先ほどとは逆にカイナの方から力を貸したいと俺に手を差し出された。
きっとカイナの中じゃまだ俺達は仲間じゃないんだ、だから俺はこの手をしっかりと握り返した。
「ああ、カイナ。俺達に力を貸してくれ!」
「はい!鬼道の巫女カイナ。シルターンのエルゴの守護者として誓約者ハヤトに力をお貸しします!」
そして俺に引っ張られてカイナもワイバーンに乗り、ワイバーンは空を舞いながらサイジェントへと進む。
「……」
無言で俺は皆を見た。
最初は俺とモナティだけだった。
カザミネさんと出会い、ゲルニカに力を貸してもらい、エスガルドとエルジンと出会った。
そしてシルターンのエルゴと戦い、カイナが今、俺達の仲間になってくれた。
きっと恵まれているだろう、こんな頼もしい仲間にまた出会えたんだから。
そう思いながら再び俺はサイジェントへと視線を向けた。
「必ず助けるからなクラレット」
胸のヒトカタの符に手をやりそう呟き、
そしてその声は風の中に消えていった。
もうすぐ最後の戦いが始まろうとしていた……。
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サイジェントの南スラムにある孤児院、そこにはフラットと呼ばれる人たちがいた。
だが、今はその者たちは居らず、孤児院には彼らに守られている人たちしかいない。
「みんな行っちゃったね」
「はい…」
「…」
「ふん…」
赤毛の少女リプレが蒼の派閥の召喚師であるミントに声をかける。
それを不機嫌そうに見ているメトラルの召喚獣エルカ、そして護衛獣であったクロ。
それと子供部屋にはアルバにフィズ、ラミもおり、客室にはカノンもいた。
彼ら以外のメンバーは今現在城へと向かって行ったのだ。
サイジェントの魔王召喚の儀式が開始された今、蒼の派閥、金の派閥、騎士団に元アキュート、
そしてフラットとのサイジェントの全戦力を賭して決戦に挑んでいった。
「勝てるよね…?帰ってくるよね…?」
「先輩たちなら…たぶん」
絶対とは言い切れなかった、何せミントは敵の首領たるオルドレイクと邂逅している。
そのあまりの恐ろしさと強さの前に、絶対に勝てる、など言えるはずもなかったのだ。
本来なら彼女もこの戦いに参戦して力を貸すべきなのだが彼女は戦える状態ではなかった。
戦う事を考えると手が震え息すらまともにすることを忘れてしまう。
目の前で人が悪魔となり、そしてほんの数時間前まで生きていた人が目の前で死ぬ事に彼女は慣れなかった。
次は自分がああなるのかもしれない、もしかしたらまた目の前で人が死ぬかもしれない恐怖から逃げてしまったのだ。
そして逃げ道を与えられた彼女は、そこに自分を進ませ…今に至るのだ。
「そういえばレビットの奴、今どこにいるのかしらね…」
不意にエルカが口を開く、彼女から出たレビットはモナティの事だった。
あの後布団に包まっていたモナティが突然いなくなってしまったのだ。
その後、手が空いてる間、モナティを探してサイジェントを回ったのだが結局見つかる事はなかった。
「誰かに召喚されたと思います。サイジェントに居ないとなればそう考えるしか…」
「でもミント、モナティってハヤトと誓約を交わしてたのよね?私には良く分からないんだけどだったら召喚ってされないんじゃないの?」
「確かにそうですけど、二重召喚という可能性もあります」
「二重召喚?」
「……ハヤトさんはそれほど強力な魔力を持っている訳じゃありません。ハヤトさんが死んで誓約が薄れたならそれを上書きして召喚が行われる。それが二重召喚なんです」
「そう…」
辛そうに語るミントの答えにリプレも顔を下に下げてしまう。
二重召喚とはつまり主を失った召喚獣が召喚される現象なのだ。
それはつまりハヤトが死んでいる事の確認のようなものだった、彼女らは改めて気づかされたのだ。
ハヤトが…誰よりもみんなの前に立っていた少年が死んでしまった事を…。
「…」
クロも辛そうな顔をしていた、ハヤトの真相を知っているクロにいたってはそれを黙る事の方が辛かった。
だがクロはある事に気づく、これ以上黙ってなくてもいいのではないかと。
既に最後の戦いは始まったのだ、だったら敵にハヤトの真相を知られてもすぐに対処は出来ないのではないかと。
幸いなことにここには自分の言葉が解るエルカもいる、ならば話すべきだろう。
だが、本当に話すべきなのか?もしこの会話を聞かれていたならば儀式を強行してすぐに魔王召喚にかかる可能性があった。
話すべきか話さざるべきか、その葛藤がクロを悩ましていた………だが。
「!? ムイムムゥーー!!」
「えっ!? 嘘でしょだって今くるわけないじゃない!!」
「ど、どうしたの二人とも」
突然焦ったクロが近くにいたミントに向かって跳びだした、
エルカもクロに合わせてリプレに跳びつきクロの方へと全力で跳ぶ!
突然の行動に二人は息をすることも出来なかった、だが二人は気づくクロとエルカの顔が恐怖に染められていることに。
それを見た二人は直後、衝撃と一緒に吹き飛ばされた。もしクロたちが行動を起こさなければ最悪な事になっていただろ。
「家が…!」
孤児院の広間が完全に吹き飛ばされて孤児院そのものが半壊する。
そしてリプレ達は見る、今この孤児院を攻撃した悪意ある存在を…。
「…あぁ!」
「ムイ…!」
「なんでアイツがここにいるのよ…!」
吹き飛ばした木屑の粉塵の中から狂気が姿を現す。
ミントはその姿を見て全身が締め付けられる恐怖に陥った。
クロとエルカはその姿を見て確信付いた絶望に襲われていた。
そしてリプレはその姿を見て……問いかけたのだった。
「貴方…誰なの?」
「話す必要などない、何人か来てもらう。邪魔をするなら…殺すだけだ」
今、彼が守るべき地に全てを奪った絶望が姿を現していた……。
見直すけど、多分誤字が多いんだろうなぁって思った。
あと言い回しとか下手糞だと思います…(´・ω・`)
今回悩んだのはやっぱりカイナとの出会いやったな。
結局の形、温泉で出会うという王道テンプレで勝負しました。
そこから叱咤までのコンボっすよクラレットさんは嫉妬深い!(開き直り)
サモコレ見ながらカイナ可愛いなぁとかおっきいなとか思いながら書いてたら、
意外にヒロインし過ぎてた感ありますた。
てか微妙にクラレットの事話してないのは意図的です。
さて他のサモンナイト書いてる人(こっちの方が上手い)に負けずに俺も頑張りますね!
次回から最終決戦編始まりですよ!