サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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夏の間ぼちぼち書いておりました。
60kbに膨れ上がりそうだったんで二つに分ける事に、
次は早めに投稿できるかも?


第46話 仲間

サイジェントの城主の城、無色の派閥により悪魔たちの城と化した魔城に彼らは居た。

騎士に拳士、傭兵風な男に盗賊風な男、狩人から狼まで幅広いメンバーが城を進んでいる。

彼らはサイジェント騎士団と元アキュートのメンバー、そして南スラムの自警団とも言えるフラットだ。

 

「おいッ!早くしろよ!」

「もうちょっと待ってよ!」

 

ガゼルが先頭を歩いているユエルに向けて怒鳴りつける、

怒鳴りつけられたユエルは不機嫌そうにガゼルに言い返した。

朱のガレフの横でその言葉を聞いていたスウォンはガゼルに口を開く。

 

「ガゼルさん、ユエル達を責めても仕方がないですよ。今の僕たちにはゆっくりと進むことしか出来ないんですから」

「そうだぞガゼル、焦って失敗したら目も当てられん。ここは確実に行くしかないだろ?」

「そりゃそうだけどよ…」

 

ガゼルの肩に手をやり斧を担ぐエドスがなだめる様にガゼルに応えた。

そのやり取りを見ていた赤い鎧の男、ラムダがレイドに問いかけた。

 

「レイドどう思う?」

「それはどちらの話だ。私達を分断するのと召喚術で行動を制限させるのとだ」

「無論両方だ。やはり召喚師を城に入れるのは奴らにとって好ましくないのだろう……あるいは」

「…我々をわざと誘い込ませたと?」

 

こくりとラムダは無言でうなずいた、その会話を聞いていた後ろの騎士達に危機感が走る。

敵の目的がクラレットを魔王にする事ならば彼女の正気を取り戻す可能性を持つフラットの面々は危険だ。

だが彼らは強い、騎士団や召喚師たちはもっと別の強さを持っており、しぶとさに至っては随一とも言える。

 

「うん、こっちだよ!」

「よっしゃ!行くぞ!」

「おいガゼル待て、また振り出しに戻らされるぞ!」

「そうだぜガゼル、ユエルに先頭を進ませなきゃまずいんだよな?」

「うん、ユエルに任せて!」

 

ユエルが先頭に立ち、城内部を進んでゆく。

そもそもなぜユエルが先頭に立たなければいけないのか、それには理由があった。

最初に城に入った時、真っ直ぐと彼らはクラレットがいるであろう城内部の大広間へと向かっていた。

だが気が付くと最初の城門内側に戻って来てしまうのだ。何度も何度も進もうと同じ場所をグルグルと繰り返していた。

そんな中、ガレフ達とユエルだけが違和感に気づいたのだ。

野生の中で生き続けたガレフとオルフルであるユエルは鋭い感覚で城のかけられた幻術を見抜いたのだ。

一見関係ない感じのする、給仕場の扉や窓から外に出るなど関係ない道を進むが、

元の場所に戻る事はなく、彼らは確実に先に進んでいった。

 

「――あ」

 

ユエルがふと足を止める、そして目の前の空間に違和感を感じたのか大きく息を吸うと…。

 

「ウオオオオォォォォーーーッッ!!!」

 

大きな遠吠えと共に空気が振動し衝撃がユエルを中心に発せられる。

全員が突然の行動に驚き耳を塞ぐがそれ以上に驚く現象が目の前に起きていた。

ユエルの目の前の空間にヒビが割れ、その隙間から大きな門が姿を現したのだ。

やがてユエルが遠吠えを終えると空間から姿を現した門がそこに存在していた。

 

「普通じゃない現れ方をしたな」

「じゃあこの先にクラレットの奴がいるのか!?」

「待てガゼル、私はこのような門を知らない」

 

レイドの一言で城内部の事を知らないガゼルは足を止める。

 

「お前さんたちが居なくなった後、新しく作ったんじゃないのか?」

「それは無いだろう、ここまで通って来た道は全て見覚えがあった、だがこの門はまるで見たことがない」

 

ラムダがそう答えると目の前の門の不気味さを感じたのかフラットの面々の顔が強張る。

今まで通って来た道は全て何処か見覚えがある物だった、道筋は出鱈目だったが見たことある景色ばかりだったのだ。

だがこの門は誰も知らない、一度城内部に侵入したときもこの門に彼らは出会わなかった。

 

「間違いなく罠だな」

「ああ、だがこの門の先にクラレットがいるのは間違いないはずだ。そうだろユエル」

「うん、クラレットの匂い、この先からすっごくする……でもそれ以上に嫌な匂いもして…」

「ここまで悪魔たちは現れませんでした。もしかしたらこの先に待ち構えているのかも知れません」

「だったら決まってるじゃねぇかよ」

 

ガゼルが門の前に進み開けようとする、その姿を誰も否定しようとはしない。

ここにいるメンバーはフラットの事をよく知っている、そして彼らが助けようとする少女の事も。

その少女こそこのサイジェントを変える可能性を生み出したのだ、ならば自分たちが助けなくてどうすると。

 

「覚悟は出来てるわ、開けてくれるかしら」

 

セシルはクラレットに自身の想いを救われた、だからこそ彼女を助けたかった。

 

「まあ、旦那の為にもうひと頑張りしますかね」

 

スタウトは自身が持たない絆をハヤト達に教わった、そしてその可能性も。

 

「他に道はありません、無論退路も無いのですから行くしかないでしょう」

 

ぺルゴとクラレットは友人だ、そんな彼女を助けるのは友人として当然だった。

 

「ガレフ達も問題ありません、ユエルも大丈夫ですよね?」

「ユエルも問題ないよ!尻尾は震えてるけどやる気はあるんだから!」

 

スウォンもユエルもガレフも彼らに助けられた、命だけではない想いを彼らに救われたのだ。

 

「姐さんは必ず俺っち達が助けるんだ!準備万端だぜ!!」

 

ジンガはハヤト達に守るべきモノを得る者の強さを教わった、そして今彼はこの街を守りたかった。

 

「レイド…ワシらはハヤトを守れんかった。なら命を賭ける事は間違ってると思うか?」

「間違ってはいない、だがここで死ねば終わりだ、生きて必ず帰るぞ!」

 

エドスもレイドもずっとハヤト達と共にいた、だから命を賭けるが必ず帰ると決意する。

もしここで死んでしまえば、終わりなのだから。

 

「アキュートと騎士達に告ぐ、この先に我らの目標がいる、必ず勝つぞ!」

 

騎士達が歓声を上げ、恐怖を晴らし始める。

ラムダも剣を抜き、門を見据えた、そしてガゼルに頷くとそれにガゼルも答えた。

 

「……アイツの代わりだけどな、必ず助けてやるからな!」

 

ガゼルが門に手をやり力を籠めると門が動き始める、

そのまま門を押そうと力を籠めるが、違和感を感じてガゼルは手を放す。すると自動的に門が開いてゆく。

それを見たガゼルは短剣を抜いて構え、未だだ光が通っていない門の中を見据えた。

 

「全軍突撃!!」

 

ラムダから号令が走り、彼らは門の中へと突き進む、その先にある希望を手に入れる為に。

しかし……その先にあるのは彼らの決意を砕く、どうしようもない絶望が待ち構えていたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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門の中に入るとそこにはとても広い空間が存在していた。

その広さに全員驚愕するが周囲に対応すべく彼らは広がって円陣を組む。

そして広がりきった門が再び閉じる事は彼らも予想済みだった、目の前に更なる門が姿を現したのだから。

 

「何もいないみたいだが…このまま進んでいいのか?」

「そんなはずはない、奴らが我らを閉じ込めるならもっと単純な手を使うはずだ。きっと何かいる」

 

レイドとエドスが話をしている横でユエルが匂いを嗅ぎこの場に潜む何かを探ろうとする。

だがそれでも場所を把握できず苛立ちが募ってゆくが、

目の前にポツリと欠片の様なモノが落ちてその存在に気づいた。

 

「ッッ! みんな上だよ!?」

 

全員が上に視線をやる、そこにいたのは巨大な骸骨だった。

まるで死神の鎌を現す骨で出来た両腕の鎌、そして生理的に受け付けない百足のような多脚の化け物が居たのだ。

 

――グギャギャギャッッ!!

 

声なのかも分からない叫びと共に骸骨の化け物が落下してくる。

円陣を組んだのは間違いだった、頭上に奴がいるのならこの陣形はあまりに悪手だったのだ。

 

「全員距離を取れ!包囲するんだ!!」

 

ラムダのその指示に従い、全員その場から離れ始める。

だが、見たこともない化け物の放つ殺気に飲まれ足が竦んでしまう者たちも存在した。

 

「馬鹿野郎!なに足止めてやがる!」

「速く逃げろ!!」

 

叫び声とも言える声が彼らの耳に届き、すぐさま彼らが走り始める。

だが全身鎧を纏う騎士達はその重量のせいで足が遅かった、それでも彼らは生きるために走る。

しかし骸骨の化け物が地面に着地すると振動が発し彼らは躓いてしまった。

 

―ーギャギャッッ!

 

両腕の鎌が振るわれる、もはや躓いた彼らにそれを避ける術はなかった。

骸骨の鎌に引き裂かれた彼らの命は尽いて赤い血だまりがそこに残るだけだった。

 

「あの鎧を一撃だと…?」

「嘘…」

「無茶苦茶だ…!」

 

全身鎧を纏っていようと問答無用で切り裂いてしまったその化け物に全員恐慌状態になってしまう。

目の前の化け物に恐怖し、足が竦んでしまったのだ。だがそのような恐怖の感情こそ奴の餌だ。

人々の恐怖する負の感情こそ、目の前の悪魔の贄とも言えるのだった。

骸骨の悪魔は最も恐怖する人間を見極め大鎌を振るい命を刈ろうとする。

 

「させんっ!」

 

ギィン!っと金属音が発せられ、大鎌がラムダの大剣で防がれる。

しかし、もう一本の鎌が振るわれ、ラムダが守ろうとしていた騎士は彼の目の前で切り裂かれた。

 

「クッ!」

 

目の前で仲間を守れなかった事を悔やむが目の前の敵を倒さなければ被害は増えると判断し、

ラムダは大剣を骸骨の悪魔に振るうがその巨体から想像できない程の速さで動いく。

百足と同じ多脚の化け物は足運びも百足と同じで凄まじいスピードを誇っていた。

 

「何という速さだ!?」

「あれじゃあまともに近づけねぇ!」

「これ以上させるか!」

 

再び恐怖する人間を見極め、骸骨の悪魔が大鎌を振るい落とす。

だが、その動きを読みレイドが間に割り込んで大鎌を防いだ。

 

「うぐっ!?なんという重さだ!」

 

その巨体に相応しい重量と共に振るわれた大鎌を防いだレイド、

だが、余りの威力に耐え切れずに膝を付いてしまう、

そしてそのレイドに止めを刺そうともう一本の鎌が振るわれる。

 

「ぺルゴ!」

「はい、分かっています!」

 

もう一本の鎌がラムダに防がれ、レイドが防いでいた鎌をぺルゴが槍で突き飛ばした。

反撃に驚いた骸骨の悪魔は後方に跳び、こちらの動きを探り始める。

 

「あれは獣に近い化け物の様だな、意思というものは感じられない」

「ですがあの巨体であの鎌です。ラムダ様、レイド、私が二人のサポートをします」

「ああ、敵の鎌は我らで防ぐ!全員側面から攻撃を仕掛けてくれ!!」

 

目の前の三人に危機感を抱いた骸骨の悪魔が大鎌を振るい突っ込んでくる。

それを三人は確実に防ぐ、三人の目的はただ耐える事、この中でそれが出来るのは三人だけだった。

 

「行くぞぉ!!」

「骸骨野郎!俺っちがぶっ潰してやる!」

「我らも続くぞ!ラムダ様たちだけを戦わせるな!!」

 

フラットと騎士団、元アキュートが骸骨の悪魔に攻撃を仕掛けた。

エドスが斧を振るい骨に叩き付けると確かな傷跡が生まれて攻撃が通る事に安心を感じる。

他のメンバーも各々が攻撃を仕掛け、傷跡が生まれこのままいけるかと思われた瞬間。

 

―――ギャギャッッ!!?

 

痛みに驚き攻撃をやめた骸骨の悪魔が暴れ周囲の人間を離れさせようとする。

 

「っ!? みなさん離れてください!」

 

離れた位置から矢を放っていたスウォンが声を出すが遅かった。

骸骨の悪魔の尻尾が動き出し三又の先端が近くにいる人間とガレフを串刺しにしたのだ。

 

「ガレフゥッッ!!」

「ガアアアァァッッ!!!」

 

同胞を殺され怒る朱のガレフが尻尾に噛みついて食いちぎろうとする。

その痛みに耐えられなかったのか、朱のガレフを振るい落とし、ユエルは同じように落とされたガレフに近づくが…。

 

「あ…ぁ…!」

 

無残に引き裂かれ絶命していたガレフがそこにいるだけだった。

その光景を全員恐怖や怒りが心に湧き上がる、そしてその感情を感じ歓喜の雄叫びを骸骨の悪魔が上げた。

 

―――グギャギャギャッッ!

 

「………畜生」

「ガゼル!」

「んなこと分かってる、負けられるか、負けてたまるかよぉ!!」

 

骸骨の悪魔は縦横無尽に走り周り、手当たり次第に人間を刈ろうと鎌を振るう、

その先を読みようにレイドとラムダ、ぺルゴが先に回り何とか防いでいった。

 

「ガレフの仇だぁぁぁッッ!!」

「おっしゃぁぁーーッッ!!」

 

ユエルの爪とジンガの拳が骸骨の悪魔の顔面に炸裂し怯ませるが、

多少怯ませた程度で骸骨の悪魔は動きをやめない、その鎌が振るわれまた目の前の人が刈られる。

 

「化け物退治は専門外なんだけどなぁ!」

「はあああぁぁ―ーッッ!!」

 

多脚にスタウトが剣を突き刺し傷を付けてゆく、そしてその傷にセシルが蹴りを繰り出してヒビを刻み込んだ。

しかし振るわれる三又の尻尾に再び人間が貫かれ命が消えて行ってしまう。

恐怖に呑まれた者からドンドンと命を刈り取られてゆく、だがそれでも戦いから逃げる事は出来ない。

彼らは目の前の化け物相手に終わらない戦いを強いられるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「やはり制御は出来んか……ふむ」

 

城の大広間、サプレスの悪魔王、餓竜の魔王スタルヴェイグを召喚する儀式場にオルドレイクは居た。

その手には今回の事件を引き起こした引き金とも言える魅魔の宝玉も握られている。

そしてオルドレイクの視線の先には儀式の贄となるクラレットの姿も存在していた。

 

「まあいい、制御などせずとも魔王を召喚することは出来る。我が目的はこの世界を滅ぼす事、制御など二の次よ。しかしソルめ、あのような召喚獣崩れに負けるとはな…」

 

オルドレイクはソルが倒されたと考えていた。

なぜならばソルに刻まれていた召喚呪詛が完全に消滅している事を感じたからだ。

召喚呪詛が解除される為には憑依者が死ぬか、あるいは解除するしかない、

しかし突然途切れた点からオルドレイクはソルが倒されたと判断した。

 

「奴は使いやすいコマだったが、そこまで惜しくはない、既に目的は目の前にあるのだからな」

 

本来ならば召喚師たちは真理を突き止めるために、家系に伝わる召喚術の知識を受け継がせる。

ソルは正しく完成された次期当主と言える一材だった、

全ての召喚術を操る事が出来、特にサプレスとロレイラルの召喚術ならば過去類を見ないほどの才覚を持っていた。

島での一件や前聖王暗殺計画の失敗で派閥間に置ける権力を失い、魔剣で傷つけられた怪我のせいでシルターンの術を操れなくなったオルドレイク、

だが敗北し追い詰められたオルドレイクに後のセルボルトに対する執着はなかった。

 

「もうすぐだ…もうすぐ…!我らが王を否定したこの世界の生命を淘汰するときが来たのだ!王は自身の願いを理解されずこの世に絶望しその命を終えた。ならば私が…この私が…!王たちが望んだ世界を否定した者を滅ぼさねばならん!」

 

オルドレイクの目的は生命の淘汰、リィンバウムの全ての命を魔王に食わせこの世界を滅ぼすのを目的とした。

餓竜の悪魔王スタルヴェイグ、界の狭間に出現した世界を幾つも食らい滅ぼした魔王たちの中でも最上級の悪魔。

界の狭間のように脆い世界ではないリィンバウムならば悪魔王を召喚しようと世界が崩れるほどではない。

王の言葉に耳を貸さず、自らの欲に走った人々の血脈が根付くこの世界を滅ぼす事こそオルドレイクの目的だった。

召喚師の世界を作るなどという言葉で無色の召喚師を利用し、オルドレイクは戦力を集めていたのだ。

だれも疑いはしない、自身の子供や妻すら贄に捧げる狂気、それに裏があるなど誰も考えようとはしなかった。

現在それを知る者は目の前の娘と一時期客分だった鍛冶師のみだったのだ。

 

「たとえ魔王を制御できずともこの世に完全な形で召喚する事が出来れば問題などない、真実を話せば魔王とは言え世界を滅ぼしはせんだろう。この城の侵入した者共もガワだけとはいえ魔王をぶつけたのだ。貴様らは間に合わなかったのだ!ククク…フッハハハハハハ!!!」

 

オルドレイクの笑い声が儀式場の響く、目的は既に目の前、それを防ぐ者たちは間に合わない。

あとは悪魔竜の爪を触媒としスタルヴェイグを召喚するだけだった、捧げられるべき生贄は目の前にある。

不完全な召喚獣ではない、正しく完全な形で餓竜の悪魔王スタルヴェイグは召喚されようとしていたのだ。

オルドレイクは魅魔の宝玉を掲げ、魔力を収束し始める、周囲を漂うサプレスの魔力が魅魔の宝玉に送り込まれ召喚術が発動し始めた。

 

「う…っく―ぁぁぁ―――ああああぁぁぁぁーーーッッ!!!!」

 

ビクンとクラレットの体が脈動し体をのけ反らせると、サプレスの魔力が彼女の中に送り込まれ始める。

彼女の肌の色が紫色に変化してゆく、頬には刺青のような文様が浮かび始め彼女の瞳の色も変化していく。

完成された器であるクラレットの体は正しく魔王に相応しい物であった。

制御も不可能だろう、だが束縛されることはない、魂と魔力、両方を完全に扱える存在がここに生まれようとしていた。

 

「さあ来るのだ魔王よ!!この世界に降り立ち忌まわしき血脈を全て食らいつくすのだ!!!ハーッハハハハハ!!!!」

 

歓喜の悲鳴がオルドレイクから放たれる、宿願が成就する、全てを犠牲にしつくし狂気の果てに彼の望みは果たされるのだ。

ハヤト達は間に合わなかった…、誰もオルドレイクを止める者はこの場にはいない。

ハヤト達が救おうとしていた少女はついに魔王に捧げられようとしていたのだ。

しかし…。

 

「―――ムッ!?」

 

サプレスの紫色の魔力を宿した剣閃がオルドレイクとクラレットを繋ぐ魔力の繋がりを断ち切る。

それと同時に黒色の剣影がオルドレイクに向かって放たれるがオルドレイクは結界を張りその攻撃を防いだ。

 

「やはり貴様か……ソルよ」

「………」

 

オルドレイクとクラレットの間に入る形で姿を現したのはソルだった。

その手に握られているのは刀身が半分に折れてしまった覇王の剣、しかし溢れ出る魔力に欠食はない。

折れてもなお魔剣としての力を発揮している姿を見てオルドレイクは関心を抱いた、そして同時に惜しく思う。

 

「なるほど、魔剣を砕くことで誓約を無理矢理引きちぎったか。この土壇場でそれをなすとはな、見事だぞ我が息子よ。しかし惜しいものよ……それほどの力を持つのならセルボルトの次期当主に相応しいものを」

「言っておくが…貴様の子は誰もそんなものに興味だどない」

 

ソルは淡々と答え始める。

 

「俺はアイツらに上書きされ続けた存在だ。サプレスの適性を持たず、魔力は常人並み、唯一ロレイラルと貴様から引き継いだシルターンの適正のみだ。貴様の計画した魔王召喚の為に犠牲になり続けた果てにいるのが俺だ」

「素晴らしきものよ…まさしく新たな時代の王に相応しき力よ…」

「王などに興味だどない、民草を従えるつもりもない、俺がやる事はただ一つ……貴様を殺す事だ!!」

 

覇王の剣から魔力が迸り、刀身が透明な魔力の形で再生する、真っ直ぐにそれはオルドレイクに振り下ろされた。

対するオルドレイクは怨王の錫杖と呼ばれる杖に魔力を通し覇王の剣に正面からぶつかり合う。

黒い紫と白い紫色の光がぶつかり合い衝撃で地面に亀裂が走るがそのぶつかり合いに勝ったのはオルドレイクだった。

 

「満身創痍でよくやるものよ…だが無駄だ貴様では私には勝てん。そもそも貴様が裏切るなど予想の範囲であったわ。どういう手を使ったかは知らんが物理的に誓約を千切るとは思わなかったがな」

「クッ!」

 

息をするようにオルドレイクが悪魔を召喚してソルに攻撃を仕掛ける、

惜しいと口にしていようとオルドレイクにソルを生かす考えは既になかった。

迫り来る悪魔を打ち破るソルだったが視線に入ったのは攻め入るオルドレイクの姿、

ソルが視線にオルドレイクを入れた瞬間攻撃を仕掛けようとするが、先手を取ったのはオルドレイクだった。

 

「はぁ!!」

「ガハッ!?」

 

振るわれた怨王の錫杖を覇王の剣で何とか防ぐがソルはその魔力に耐え切れず再び吹き飛ばされる。

吹き飛ばされたソルを追撃する召喚された悪魔たち、それをソルは召喚術で迎撃する。

 

「ここまでとはな…予想以上だ」

「我を典型的な召喚師だと思っていたのかソルよ? 戦士の後ろで召喚術を放つだけの存在、妄言にも等しい言葉よ。始祖達もそして王も戦闘術においては召喚術のそれに匹敵するものだと聞く、召喚術などただの道具にすぎん、扱うのは人間なのだからな!」

 

放たれる召喚術は雨の様にソルに迫ってくる、近くに寄ろうと研ぎ澄まされた杖術の前に弾き飛ばされてしまう。そうオルドレイクの強さはその万能性だった。

遠中近、全てにおいて全く隙の無い力を持っている、しかも老いて実力を落としているが今はサプレスのエルゴを操り無限に近い魔力を有している。

ソルも盗み見たオルドレイクの日誌からその強さを理解していたが実際に戦うのとはまるで違う。

まさしく歴戦の強者、派閥間の抗争や蒼や金、そして聖王家などの戦いを潜り抜けたその強さが目の前にあった。

 

「来い!砂棺の王よ!」

「アーマー……いや狐火の巫女!!」

 

オルドレイク最強の召喚術、砂棺の王。

現れた死霊たちの王は無数の怨霊を操りソルを呪殺しようと迫ってくる。

対するソルはアーマーチャンプで防ごうと一瞬考えるが、すぐさま狐火の巫女に切り替えた、

結界と浄火の焔を組み合わせ自身を呪い殺そうとする砂棺の王の攻撃を防ぎ切った。

 

「見極めるか、見事だ。しかしその体でよくやるものよ。だがソルよ、なぜクラレットを始末せんのだ?クラレットさえ殺せば我がサプレスのエルゴの力は途絶える、この私はただの召喚師へとなってしまうのだぞ?」

「――貴様」

「クククッ、貴様には出来ん、出来なくて当然だ!悪魔の誓約を失い不必要な情を取り戻した貴様に決断するなど不可能なのだからな!!」

 

息を飲み込みソルはクラレットに視線を向ける、その場に倒れ伏すクラレット。

命を狩るのは容易いだろう、だがソルはそれを選択することは出来なかった。

今の彼にとってクラレットはオルドレイクの手によって壊れてない唯一の兄妹なのだ。

彼女にとって大切な者はいまだ失われていない、今もこちらに向かっているはずだ。

 

「イビルバンカー!!」

「無駄だ!その程度の召喚術で我を倒せると思っているのか!」

 

砂棺の王は杖を突きだし、怨霊で出来た障壁を展開し魔槍を粉砕する。

障壁はそのまま攻撃に変換されてソルに襲いかかった。

対するソルは折れた覇王の剣に魔力を流し込み結界を展開する、

だがソルを取り囲んだ怨霊が爆発しその衝撃がソルに襲い掛かった。

 

「ぐぅ…!」

 

膝を付いて魔剣を握る手から血を流すソル、その姿を見ていたオルドレイクは微笑を浮かべる。

 

「無駄だと言っているのだ。武器も魔力もつきかけたお前が我を倒そうなど蛮勇そのものだぞ? ソルよ」

「まだだ……界の意思により使命を授かりし者が望む――」

「ほう」

 

ソルの持つロレイラルのサモナイト石が光り輝き膨大な魔力を放ち始める。

膝はゆっくりと地面から離れ、ソルは魔剣とサモナイト石を合わせて召喚術を発動させる。

 

「機界の名工により遺された、至りし竜よ。我が呼び声に応え、今ここに現れよ!」

「面白い、足掻いて見せよ!我が息子よ!!」

 

息子という言葉に苛立ちを露わにしたソルはそのまま召喚術を完成させた。

彼の後ろに姿を現したのは巨大な竜、機械で作られ偉大な竜へと至った超越者の一角。

 

「セルボルトの名の下にソルが望む――!来たれ、人が至りし機械の竜、機竜ゼルゼノン!!」

 

―――ガアアアアアアアアァァァァァァーーーッッ!!!

 

巨大な鉄の竜、機竜ゼルゼノンが雄たけびを放ちながら目の前の死霊の王に敵意を向ける。

普段なら純粋な実力の差で討ち破れる相手だ、だが今の砂棺の王はサプレスのエルゴの力を得ておりその力はゼルゼノンすら上回っている。

 

「その身でよくゼルゼノンを召喚できたものだ、だがサプレスのエルゴを得た我には及ばん!」

「殺してやる!オルドレイク!!」

 

ゼルゼノンが背中にある砲身をオルドレイクに向けエネルギーを溜め始める。

対するオルドレイクも砂棺の王に命じ死霊たちを操りそれをソルへと向けさせた。

勝ち目などない、だがそれでもソルは戦う事を選んだ。それは救いたい命を救えず取りこぼし続けた男の足掻きだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ソルとオルドレイクが戦いを始めた頃、儀式場を目指すフラットの戦いは熾烈を極めていた。

巨大な骸骨の悪魔、外側のみを召喚した劣化の魔王。

だがそれでも召喚師がいない現在の彼らにはあまりに強大過ぎる怪物だった。

 

「うわぁぁぁーーーっ!!?」

 

また騎士が一人骸骨の大鎌に引き裂かれその命を終える。

だが、騎士を引き裂いた大鎌に入ったヒビが広がりバキィンといった破砕音と共に崩れ落ちた。

本来、体の一部である大鎌は破損しようと再生する。だが魂を持たず魂殻のみを呼び出したこの魔王にその力はなかった。

 

「だりゃっ!」

「おらぁぁぁ!」

 

ガゼルが振るわれる残された片方の鎌に短剣を突き刺し、突き刺さった短剣にエドスの斧が叩き付けられる。

その衝撃に耐え切れずヒビが更に広がり片方の鎌と同じように崩れ落ちる。

骸骨の悪魔はそれでもなお誓約に従い尻尾で攻撃を行いが、朱のガレフが組み付き動きを制限される。

そして全身にヒビが入り、攻撃手段を失った悪魔に対して隙を逃すほど彼らは甘くはなかった。

 

「全員突撃!!!」

 

ラムダの指示が生き残っている者たちに伝わり彼らは一斉に悪魔に攻撃を仕掛けた。

攻撃手段を失った悪魔は彼らの攻撃に対抗する術はなかった。

各々が全力の攻撃を繰り出し、悪魔の体を砕いてゆく、そして全身に入ったヒビが光り始めると悪魔の体は崩壊していった。

紫色の光を零れさせながら崩壊してゆく魔王、それを見ていた彼らは勝利した喜びよりもあまりの犠牲の大きさに何も声を出せずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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どれぐらいの時間がたっただろう、恐らく数分と立ってはいないのは確かだった。

骸骨の悪魔との戦いを終えた彼らはその場を動かなかった…いや動く力は残っていなかったのだ。

 

「ひっく…うぅ…」

 

死んだガレフ達を抱きながらユエルは泣いていた。

彼女だけではない、周りでは何人もの騎士達が息だえているのが見える。

この中でフラットだけが一人として欠けていないのは彼らの今までの戦いが影響していた。

フラットの面々はそう強くはない、単純にしぶといのだ。どんな状況でも生き残る力が非常に強かったのだ。

それは彼らの中心にいた人物がいない今でも変わらなかった。

 

「何人……死んだんだ?」

 

床に大の字で倒れているエドスが呟く、死人を数で表すのはどうかと思ったが口から零れてしまったのだ。

体育座りでそれを聞いていたガゼルは顔を上げて周りを見る。

 

「さあな、両手の指の数よりは多いみたいだぜ」

「……僕達、辿り着けるんでしょうか?」

「俺っち達が行かなくて、誰が姐さんを助けるんだよ。一人だって俺っちは行くぜ!」

 

膝を付いていたガゼルが立ち上がって広場の先にある扉を睨む。

 

「そうだね、ユエル。クラレットを助けたいんだもん!ユエルも行くよ!」

 

目を赤くしていたユエルもガレフを遺体を優しく置き立ち上がって歩む、

同じように彼女に続くように朱のガレフやスウォンも動き出した。

 

「ラムダ様…」

「我々に下がる道はもう残されていない、ここで下がればサイジェントはおろかこの国は亡びる。行くぞ!」

 

騎士達もラムダの覚悟に揺れ動かされ次々と立ち上がり武器を取る。

 

「あいつは最後まで諦めなかった…。なら俺達も諦めねぇ…行くぞオメェら!!」

 

ガゼルの声に彼ら全員が再び立ち上がり武器を取り先に進もうと覚悟を決める。

この街を、人々を、そして家族を守る為に彼らは先に進まなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそんな彼らを嘲笑う存在がこの城に居たのだった。

広間の奥の方に存在する扉が開き始めるとそこから色白の男が姿を現す。

 

「ククククク、アーッハッハッハッハ!!笑わせてくれるじゃねェかガゼル」

「手前はバノッサ!」

 

開いた扉から姿を現したのはオルドレイクの息子の一人であったバノッサだった。

 

「あの魔王モドキを倒せるとは思ってなかったぜ?手前ェらの必死さは見てて最高だったぜ!クククッ」

「バノッサ、お前さんがあの悪魔を召喚したのか!」

「いや、俺様じゃねェ、でもなお前らを近づけさせるなとは言われてんだぜ」

 

敵の首領に命じられている分かった彼らは武器を取りバノッサと身構える、

その中でエドスは一歩前に出てバノッサに問いかけた。

 

「バノッサ、お前は分かってるのか? お前が何をしようとしてるのか」

「そんなの分かってるに決まってるだろ? 血の繋がった女を利用して魔王を召喚するんだよ」

「だったら分かってるだろ!バノッサ!!」

「それがなんだ?」

「!?」

「たかが血が繋がっているだけで特別扱いしろってのか?全く笑えるぜエドス!この街じゃ、この世界じゃそんなモノ何の価値も持たねぇんだよ!血の繋がり?家族?そんなモノを守ろうとした奴から真っ先に死んでゆくんだよ!あのはぐれ野郎のようにな!!」

「バノッサ…手前ェ!!」

「本当の事を口にして何が悪いんだガゼル?この世界を支配するのは力なんだよ。圧倒的な!どんな奴もぶち殺せる!そんな力だけがこの世界を支配するんだよ!だから手前ェら見てぇな凡人共が足掻いたところで程度が知れてるんだよ!あのはぐれ野郎もそうだった、特別な女の力を借りて調子づいてただけの凡人だ。だが俺様は違う!魔王を召喚してアイツを殺して俺様は自分だけの居場所を手に入れるんだよ!その為に手前ェらには死んでもらうぜぇ!!」

 

バノッサが無数の紫色のサモナイト石を掲げるとそこから悪魔たちが召喚されてゆく、

だがそれだけではなかった、死した騎士達や息絶えたガレフ達に何かが憑りつくと彼らは動き出し武器を手にこちらに敵意を示す。

憑依召喚で生み出される兵士、屍兵と呼ばれる者たちが作り出された。

 

「バノッサ!もうやめろ!」

「いい加減ウゼェんだよエドス!もう俺様は手前ェらとは違う世界に生きてるんだよ!はぐれ野郎も女もいねぇんだ邪魔すんじゃねぇ!!」

 

悪魔たちがエドスに迫ってくる、エドスは武器を手に悪魔と戦い始めた。

その背後では蘇った屍兵相手に騎士達はどうしていいかわからない状況だった。

悪魔ならば問題はない、だが相手は顔を知っている同僚だったモノ、殺す事を第一に考えられなかった。

そんな中、以前に屍兵と戦ったアキュートのメンバーは臆さず彼らを手にかけてゆく。

 

「彼らはもう駄目だ!首を刎ねて止めるしかない!」

 

レイドは一度屍兵と戦った事があった為、躊躇う事無く剣を振るい首を刎ねる。

レイドの行いに戸惑う騎士達だったがラムダたちも同じように剣を振るった為、それしか方法がないと理解し行動を始めた。

突然動き出した屍兵のせいで混戦となってしまった、それこそバノッサの狙いだったのだ。

彼らを取り囲むように周囲から悪魔たちが召喚され襲い掛かってくる。

いくら悪魔達との戦闘経験を持つフラットの面々でもそれは召喚師あっての話、彼らだけではそれらに対抗することは出来なかった。

 

「くっそ!やべぇ!」

「ドンドン来るよ!それにこの匂い……クラレットと同じだよ!!」

「いいもんだぜ!あの女から魔力をいただけりゃもう魔力切れに心配しなくてもいいんだからな!はぐれ野郎が調子付く理由が良く分かるぜ!」

「バノッサ…手前ェ!」

 

バノッサから放たれるサプレスの魔力はクラレットから奪い取っているものだった。

クラレットとバノッサは血の繋がった兄妹、そして互いにサプレスの魔力を持っている、

クラレットから魔力をバノッサに繋げれば今まで苦労した召喚術を自在に操る事は容易かった。

湯水の如く湧き出る魔力を十全に使いバノッサは悪魔達を召喚してゆく、その数は十数体にまで膨れ上がっていた。

この場で戦う誰もが絶体絶命の状況である事を理解した。

 

「やるしかねぇ…」

「ガゼル?」

「バノッサを倒せりゃ召喚獣共は消えるだろ、ハヤトの時もそうだったじゃねぇか」

「今のバノッサ相手に戦うつもりか!?アイツがクラレットの力を手に入れたってことはハヤト並みってことだぞ!」

「だからってこのままじゃ嬲り殺しだぞ!そんな目に遭うぐらいなら戦ってやるに決まってんだろ!」

 

そう言うとガゼルはバノッサに向けて突っ込む、横に居たエドスも仕方がないと覚悟を決めてバノッサに挑んだ。

 

「バノッサ!!」

「あァ?」

 

ギンッ!と金属音が響き渡る、ガゼルの短剣の投擲が放たれるがバノッサは軽くそれを弾く、

だがそんな事はガゼルは承知済みだった、体を低くして持て短剣を何度も投げ飛ばし動きを制限させる。

その隙に後ろに回り込んだエドスが斧を振りかぶりバノッサへと振り下ろした。

当たればいくらバノッサといえど重傷は免れない一撃、だがバノッサはその攻撃に気づいていた。

 

「同時で挑めば勝てると思ってたのか?クククッ」

「なっ!?」

 

エドスは驚愕した、バノッサのもついもう一つの剣がエドスの斧を食い止めていたのだ。

普通では刀身が持つ事なくそのまま砕け散るだろう、だが今のバノッサには膨大な魔力があるのだ。

その魔力を用いて剣を強化すれば何の変哲もない斧の一撃など軽く防げるのだった。

 

「もう俺様はお前らとは格が違ェんだよ!!」

 

振るわれたバノッサの一撃がエドスを吹き飛ばし、エドスはその一撃に耐えられず意識を持ってかれる。

そしてバノッサは短剣を投げるガゼルの方に意識を向けると床を踏み砕く衝撃と共に突っ込んできた。

その勢いのまま膝蹴りをガゼルの腹部に叩き込むとバキィッという音と共にガゼルが血を吐き出す。

 

「ガハッ!?」

「あァ? 何手前まで吹き飛ぼうとしてるんだよ!」

 

吹き飛ばされるガゼルの頭を鷲掴みにしたバノッサはそのまま勢いで地面に叩き付ける。

余りの一撃で意識が吹き飛ばされそうだったガゼルだが、叩き付けられた衝撃ですぐに意識が戻る。

 

「分かったかよガゼル!俺様はお前らとは違うんだ。見てみろ!!」

 

持ち上げて今も戦っている仲間達をバノッサはガゼルに見せつけた。

悪魔の群れに囲まれなすすべがない騎士団、同じように必死に戦い抜くフラットのメンバー。

嘗ての自分たちなら突破出来た状況だった、だがそれも全て彼らのお陰だったのだ。

 

「手前らが利用していたはぐれ野郎はもういねぇ!あの女ももう魔王になっちまう!分かったかガゼル!」

「……してねぇ」

「あァ?」

「利用なんてしてねぇ!!」

 

叫びと共に短剣をバノッサに突き刺そうと振るうがそれもバノッサに掴まれて防がれる。

だが諦めずにもう片方の手を自分を掴む手に突き刺してその場から離れた。

 

「俺はあいつらを利用なんかしてねぇ!ハヤトもクラレットも俺達の仲間だ!仲間を助ける為なら命だって賭けるに決まってるだろ!!」

「………」

「お前らの様に利用して捨てるような奴らと一緒にするんじゃねぇ!!」

 

腹部の激痛すら歯を食いしばりバノッサへとガゼルは突っ込む。

たった二か月、だがその二か月でハヤトとクラレットはガゼルにとって本当の仲間だった。

それは彼らが自分たちを家族と呼んでくれたから、その為に命を賭けてくれたからだ。

だからこそ今この場で命を賭けなければきっと自分はバノッサの言葉を認めてしまうとガゼルは思った。

ガゼルにとってハヤトとクラレットは紛れもない家族だからだ。

 

「そうかよ」

 

だが現実は無常であり冷酷だった、ガゼルの一撃はバノッサに届く事無く上に弾かれる。

目線が振りかぶられた剣に向けられ、ガゼルはその先にある光景を覚悟した。

 

「じゃあ死ね」

「………すまねぇ、ハヤト」

 

紫色の魔力を宿したバノッサの剣は真っ直ぐにガゼルに振り下ろされる。

戦いながら視線を向けスウォンは弓を引こうとするがどう考えても間に合わない。

彼らは叫ぶことしか出来なかった………だが。

 

 

 

 

 

―――ガキィン!!!

 

 

 

「なっ!?」

「!?」

 

空間に突如裂け目が生まれたそしてそこから虹色の輝く剣が突き出てバノッサの一撃を防いだのだ。

突然目の前に現れた剣にガゼルは警戒するがその警戒もすぐになくなった。

 

「嘘だろ…」

「わ、わぁ!わぁああ!!この匂い!無事だったんだ!!」

 

ガゼルは呆然としユエルは数日嗅がなかったその魔力の匂いに嬉しさを隠さず涙する。

そしてヒビが広がりバキィンという砕け散る音と共に彼らは姿を現した。

七人の人影の内、三人は彼らの知っている人物だった、なによりそのうちの一人死んだと思っていた人物だったのだ。

 

「悪いガゼル、遅くなった」

「……ホントに遅ぇんだよ!馬鹿野郎が…!」

「ここは任せてくれ、みんな頼む!!」

「分かりましたの!」

 

最初に突っ込んだのはモナティだ。

彼女は全身に魔力を滾らせて弾丸の様に悪魔に突っ込む、

その一撃は悪魔が耐えられるほどではなく吹き飛ばされてしまう。

 

「神命に於いて疾く為し給え―――鬼爆!!」

 

カイナが印を結び、魔力を通すと深紅の雷撃が悪魔達を縛り上げる。

その雷撃の威力に耐え切れず悪魔達がドンドンと送還されていく。

 

「キエェェェェーーーーィッッ!!!」

 

独特な掛け声と共に鞘から放たれた鋼の刃が巨大な悪魔を両断する。

そのまま視線を次の獲物に向けると緑衣の剣士。

 

「エスガルド!」

「分ッテイル」

 

ゴーグルをつけた少年と紅の機械兵士が互いに支え合って悪魔を迎え撃つ。

迫りくる悪魔は機械兵士のドリルで粉砕され、後方にいる悪魔も少年の召喚術で吹き飛ばされてゆく。

 

「アイツら…一体…?」

「あ!エドスさん大丈夫なんですの!?」

「あぁ…大丈夫だが、モナティあいつらは誰なんだ?」

「みなさんはマスターの新しい仲間でとぉっても強いエルゴの守護者さんなんですの!」

「エルゴの守護者…」

「それにマスターは頑張って誓約者になったんですの!こんな悪魔たちなんて一捻りですよ!」

 

一切の疑いもなく笑顔で答えるモナティに誰もがそれを嘘ではないと理解した。

誓約者というモノが何かわからないが事実ハヤトの雰囲気もそして持っている武器も今までと明らかに違った。

そしてガゼルを召喚術で治療したハヤトはその視線をバノッサへと向けた。

 

「クククッはぐれ野郎、まさか手前ェが生きてるとは思わなかったぜ。どんな手を使って生き延びたか知らねェが、もう一度殺せる機会が来るなんて思わなかったぜ!」

「バノッサ…そこを退いてくれないか?」

「良いぜ、退いてやるよ。手前らを全員ぶっ殺したらな!!力を貸しやがれ悪魔ドモォォォォーーーッッ!!!」

「この匂い…バノッサさんもクラレットさんの力を!」

 

全身からサプレスの魔力を滾らせるとその魔力を用いて悪魔たちが召喚され始める。

それだけではない、その魔力はバノッサの全身を行き渡り途轍もない威圧感をガゼルたちは感じ始めた。

自分たちと戦った時はいまだ本気ではなかったのだと実感する。

周りを悪魔達に取り囲まれた一行は再び構えた、そしてハヤトは剣を降ろしたままバノッサを見ていた。

 

「どうだはぐれ野郎!俺様の力は!手前ェが利用してた力は俺様のモノになったんだ!この力があれば何でも出来るんだぜ?この世の全てを手に入れる事だってな!!」

「ソルといいお前といい……!クラレットはお前らの道具じゃねぇんだぞ!!」

「ちょっとちょっと待ちなさいよハヤト」

 

サモナイトソードに魔力を通し始めるハヤトだったがアカネが肩を叩いてそれを止めた。

 

「アカネ?」

「アンタ全力を出せる回数決まってるんだからこんな所で本気出しても仕方ないでしょ?ここはアタシに任せなさいって♪」

「ケッ、手前ェ見てぇな女に何が出来るんだよ。腕を斬り落とされた女の分際でな!」

「口は良く開くみたいじゃない?アタシには俺を見るんじゃねぇ~って震えてた男にしか見えないんだけど?」

「なんだとっ!!」

「言っとくけどね。アタシたちエルゴの守護者を舐めてかかると痛い目見るわよ!」

 

印を結んだアカネが忍術を発動させると彼らの周りに爆発音と共に煙が生み出される。

目くらましかと考えたバノッサだったが煙が晴れると驚愕を現さざる得ない光景がそこにあった。

その数50を超えるアカネの分身が姿を現したのだ。

 

「「「「「「「「「「忍法・アカネ忍軍の術ッ!!!」」」」」」」」」」

 

シルターンのエルゴの欠片から生み出される膨大な魔力を用いた忍術。

量には量、数には数を、その光景はまさしくエルゴの守護者に相応しいものだった。

 

「これがアタシの持つ数多くの忍術の中でも最強の忍術!アカネ忍軍の術よ!!」

「………あれ?アカネさんの術って分身とサルトビと変わり身だけじゃありませんでしたの?」

 

若干空気を読まないモナティがそこに突っ込みを入れる。

実際アカネ忍軍の術はどう考えても分身の術の延長上にある術なのだがシルターンの忍びの事など知っている人物はカイナ以外ここにはいなかった。

 

「さあやっちゃいなさい!」

「「「「「「「「「「アイアイサー!」」」」」」」」」」

 

三人一組で召喚された悪魔達にアカネたちが立ち向かいあっと言う間に劣勢は優勢に変わってゆく。

膨大な魔力で複製された分身たちはアカネと同質の意識を持ち手が空かない騎士達を援護してゆく。

それほどの状況を生み出した本人はかなりの倦怠感を感じてたがエルゴから流れる魔力供給のせいかみるみると元気になってゆく、まさに規格外だった。

 

「これで数の有利はなくなったなバノッサ、もう一度言う。そこを退け」

「数の有利だと? そんな事どうでもいいんだよ!手前ェさえ、手前ェさえぶち殺せればな!悪魔ども力を寄越しやがれぇぇぇーーーッッ!!!」

 

掲げられたサモナイト石が光を発し、バノッサに悪魔が憑依する。

膨れ上がる圧倒的な力に周りはバノッサを畏怖するが、当のハヤトはその光景を前に歩み始めた。

 

「バノッサ、もう一度言う。そこを退け」

「くたばれ!はぐれ野郎ぉぉぉぉーーーッッ!!!)

 

バノッサの膨大な魔力が剣に注がれてゆき、巨大な紫色の魔力剣が生み出されハヤトに振り下ろされる。

だがその剣はハヤトに届くことは無かった、金属音と共にバノッサの剣に宿った魔力が四散したのだ。

代わりにその場で光り輝く虹色の魔剣あった、ハヤトの持つ剣、サモナイトソードだ。

 

「な、ナニィ!?」

「そこを……退けぇぇぇッッ!!!」

「グ、グアァァァッ!?」

 

振りぬかれた魔剣の一撃がバノッサに宿っていた悪魔ごとバノッサを吹き飛ばした。

そのまま壁に激突し亀裂が生まれバノッサはその場に埋もれてしまう、

バノッサは理解できなかった、今まで奴が自分に勝っていた力を得たはずにも関わらず戦いにすらならなかったのである。

 

「手前ェ…なんだ…なんなんだよ!その力は!!」

「救う力だ、お前らに奪われたクラレットを救い出す力だ!!」

「ふざけんじゃねぇ、なんで手前ばっかりそんな力を手に入れやがるんだ。俺様は負けねぇ!今度はお前をぶち殺してその力を俺の物にしてやる!!」

 

立ち上がったバノッサがハヤトに向かって攻め込んでくる。

それを迎え撃とうと構えるハヤト、だがその横から短剣が投擲されバノッサを攻撃した。

バノッサがそれを弾くとそちらの方向に目を向ける。

 

「悪いがよ、オメェの相手はこっちだぜバノッサ!」

「邪魔すんじゃねェガゼル!」

「ガゼル? もう大丈夫なのか?」

「ああ、ハヤトお前に治してもらったからもう大丈夫だよ」

「ガゼル、今のバノッサは危険だ。ここは俺に…」

「…ハヤト、お前には色々言ってやりたい事があるけどな、お前には助けなきゃいけない奴がいるだろ?」

「………」

「召喚師じゃねぇ俺でもわかるぜ、もう時間がねぇんだろ?だったら俺達がここを食い止める。お前はクラレットを助けてやってくれ」

「ガゼル……」

「その通りだ」

 

ガゼルの横からエドスが出てくる、傷を負ってはいたがまだまだ平気そうで斧を担いでいた。

 

「クラレットもお前さんの助けを待ってるんだ。ここは俺達に任せて早く行ってやってくれ」

「エドス…」

「アニキー!ここは俺っち達に任せて姐さんを助けてやってくれ!」

「そうだよハヤト!ユエル達なら平気だよ!」

「ハヤトさんは早くクラレットさんを!」

 

仲間たちがハヤトに先に行けと声をかけてくれる。

ハヤトの中の心配する気持ちはとても大きいモノだった、だがそれ以上に。

 

「みんな…ありがとな」

 

それ以上に皆の気持ちはとても暖かいモノだったのだ。

決心はついた、もう時間もない、ハヤトはバノッサの後ろにある扉に向かって走り始める。

 

「行かせるかよ!」

 

それを阻もうとバノッサが動き出しハヤトに攻撃を仕掛ける、

だがガゼルとエドスが再びバノッサに攻撃を仕掛けた。

先程の様にエドスの斧が片手でバノッサに防がれるが、同じように弾き飛ばせなかった。

 

「ッ! 舐めてんじゃねェぞエドス!!」

「ぐっ!?」

 

魔力をそのまま衝撃の様にバノッサは放ちエドスを吹き飛ばす。

だがエドスは倒れる事無くバノッサを見据えた、そしてガゼルもそれに続くように短剣を投げる。

三本の短剣がバノッサに回転しながら向かうがバノッサは魔力でそれを全て吹き飛ばした。

 

「そんな玩具で俺様に傷をつけられると思ってるのかよ!」

「ああ、思ってるな。手前が油断してればな!!」

 

ガゼルはバノッサに向けて全力で走っていた。

吹き飛ばされた短剣がガゼルの眼前に届く時、ガゼルは短剣を握りしめてバノッサに突き出す。

無論バノッサもその攻撃をただ受ける事はない、膨大な魔力でガゼルを吹き飛ばそうとするが。

突如、腹部に痛みが走る、視線を下に向けると確かに斬り裂かれた跡があったのだ。

 

「なにっ!?」

「余所見してんじゃねぇよ!」

 

そして突き出された短剣がバノッサの腕を斬り裂いてガゼルはそのまま距離を取る。

何故傷が付けられたのかバノッサは理解できなかったがガゼルの後ろでカラーンと短剣が落ちる音を聞いて悟った。

 

「蹴り飛ばしやがったのか…!」

「ヘッ、余所見してるからだぜ?」

 

三本の内一本を掴み取り、それを囮にしてもう一本を蹴り飛ばして隙を作りだしたのだ。

だがそんな芸当よりもバノッサが苛立つものがあった、明らかに先程より動きがいいのだ。

 

「あいつがクラレットを助けるにはお前をここで食い止めないといけないからな…、悪いが俺達の相手をしてもらうぜ!」

「!!」

 

バノッサは気づく、周りに目をやるとフラットのメンバーの動きが洗練されてきている。

その原因は一目瞭然だった、今自分の後ろを進みクラレットを助け出そうとしているハヤトの影響だ。

ハヤトが生きていた、そしてハヤトはクラレットを守ろうとしている、ならば自分たちも戦わなければいけない。

そんな想いが彼らの力になり彼らは更に力を高めていっているのだ。

 

「手前ェらはいつもいつも気に食わねぇんだよ!どう考えても終わりに決まってるだろ、はぐれ野郎がどうあがいてもあの女は終わりだ!」

「バノッサ、お前はハヤトの事を分かってねぇ見てぇだな、あいつはよ。いつもいつも無茶ばっかりしやがるけどだ、やるときは必ずやる奴なんだぜ!」

 

バノッサの罵声はガゼル達には通じない、ハヤトがいつも無茶をするのは全員が知っている事だ。

だからこそ彼らはいつもハヤトの後ろで彼を支え続けてきていたのだ。

 

「ガゼル!皆!ここは頼んだ!行こう皆!」

 

そしてそれはハヤトも分かっていた、自分がいつも仲間に支えられてきている事を、

たとえ横にいる人物が変わろうと一緒に戦っている事には変わりないのだと。

そしてハヤトはサモナイトソードを振り下ろし扉にかけられた結界を力づくで切り裂く、

結界ごと扉が切り裂かれ新たな道が開くとハヤトは奥へ進んでいった。

 

「ッ!待ちやがれはぐれ野郎!」

 

バノッサがハヤトを追おうとするが、それを遮る者たちが現れる。

 

「悪いがバノッサ、ハヤトの邪魔はさせない」

「そうだ!アニキは姐さんを助けなきゃいけないんだ!お前の相手は俺っち達だぜ!」

 

フラットの面々は全員無事だった、ハヤトが来たとこで彼らは戦う力を取り戻したのだ。

バノッサが先ほど見た姿とはあまりに違う意思を感じてバノッサが一瞬怯んでしまう。

 

「ふざけんな…ふざけんじゃねぇ!!アイツが戻って来て何が出来るっていうんだ!手前ェらはお終いだぜ!あの女は魔王になって全てを――!」

「ハヤトは助けるよ。クラレットを助けるよ!」

「その通りだぜバノッサ、俺達は信じてるんだよ!手前ェ見てぇに一人じゃねぇんだよ!!」

「ッ!!気に入らねぇ…!だったら手前ェらをぶち殺して次にアイツを始末してやる!!」

「かかって来やがれ!!」

 

バノッサがサモナイト石を掲げると再び悪魔が召喚される、

だがフラットの全員がそれに怯む事はない、彼らは武器を手に戦うために前に進む。

彼らは信じているのだ、帰って来てくれたハヤトが必ず家族を救い出すと……。

 

 




ガゼル達は何とか魔王モドキを倒せましたけど、
ハヤトは一撃で倒せるほどの差が付いてしまってる。
インフレが起こるのは仕方がないんだ…誓約者の設定見るとインチキすぎるんだよ。
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