サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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すぐに書けると思っていながら仕事が忙しくてなかなか…。
こう、仕事が忙しい理由で書けなかった人の気持ちが分かりますよ。
というわけで、50話です、もう半分ですねぇ。

※実は49話でした。なんで気付かなかったのかなぁ…。




第49話 拒絶

光が一切ない場所に少年はいた。

何かが自分を押し留めようとするがそれらを振り切ってハヤトは進んでいく。

少年は落ちるだけだった、暗く何も見えない道を落ちてゆくだけだった…。

 

上も下も右も左も分からなかった、ただ自分が落ちている事は理解できた。

いや、落ちているんじゃない。堕ちて行ってるんだ。

堕ちるところまで堕ちる、俺はそれに流される…。

 

どぼん。

 

気が付くと俺は液体の中に落ちていた。

血のように…いや肉質の液体の中に俺は落ちた。

肉のように柔らかい地面に手を付けて立ち上がる。

全身が血まみれでどっちに行けばいいか分からない、

周りを見渡してみると色々なモノが見えた……人の死体だった。

それだけじゃない、召喚獣の死体も同じように見える、中には俺の知っている顔もあった。

 

「これが…クラレットの心の奥底…」

 

クラレットの笑顔の裏に隠れていた真実、彼女が否定し続けた光景がそこにある。

不快感は一切感じられなかった、ただ俺が感じていたのは…。

 

「これに気づかなかったのか……違うな気付こうとしなかったんだな」

 

彼女が必死に隠していたものを無理に知ろうと自分はしなかった。

それがこの結果を生み出したのかもしれない、彼女の心にもっと入り込む勇気があればもしかしたら。

だけどそんなもしもなんて今は意味がない、今おればやるべきことは一つだけだった。

 

「行こう。クラレットが待ってる…」

 

ぐちゅりぐちゅりと肉を潰す感触が俺の心を蝕んでゆくがそれでも俺は歩き続ける。

罪悪感で心が一杯になりそうだった、こんな苦しいものを抱え込んでいた事に気づかなかったんだから。

それでも一歩、また一歩と俺は歩き続けた、この先に待っている彼女を迎えに行くために…。

 

「本当にこっちで合ってるのか…、もしかしたら見当違いの方向に進んでるんじゃ」

 

肉と血の汚泥作られた海を歩き続けるが、もしかしたら見当違いの方向に進んでいるんじゃないかと不安になる。

彼女とは逆の方向に進んでいるのかもしれない、もしかしたら同じ場所をグルグルと歩いているのかもしれない。

そんな考えがハヤトの中に浮かぶが、彼はその不安を振り切ってひたすらに歩き続けた…。

……一時間、もしくは一日、あるいは一週間、ハヤトはそのぐらい歩いた気分でいた。

彼は知っている、精神世界は外とは時間の流れが異なる事を、一日を何度も繰り返した経験を持つからこそ今感じてる時間は偽りのモノだと理解できていた。

だが理解していても彼が時を感じているのは紛れもない事実、魔剣も持たず、エルゴの力を使えない今、ハヤトは脆弱な只人に過ぎない。

そう思いながらも彼はひたすらに歩き続けた、その先に必ず道があると信じて。

 

「ん?」

 

視線の先に白いモノが見える、光なのか、あるいは物体なのかは分からない。

だが今までとは大きく異なるモノに引き寄せられるようにハヤトは歩んでいく。

そして白い何かは大きく光を発するとハヤトを包み込み彼は目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここは………嘘だろ?」

 

ハヤトが目を開く、そこには彼には想像もつかない光景が映し出されていた。

キーッキーッと音を立てて揺れ動くブランコ、スコップが刺さりつい先ほどまで遊んでいたと思われる砂場、

そして誰かが……いや自分たちが忘れたクラレットの誕生部プレゼントが入った紙袋が置かれているベンチ、

その光景は彼が帰ろうと願う場所、ハヤトが生まれ育ちクラレットと出会った故郷。

 

「那岐宮…」

 

頬に冷たい何かが伝わる、何時の間にか血まみれの体は綺麗になっていた。

白い粒が目の前にゆっくりと振っている光景が見える、それだけではない、目の前には桜の木が満開で咲き誇っていた。

 

「雪に桜…ここは那岐宮そのものじゃないんだな」

 

よくよく見ると椛色の木々の姿が見え、端にはアイスバーを売っていたであろう屋台の姿も確認できた。

ここはクラレットの心の中、彼女が過ごしてきた那岐宮という街の思い出そのものだという事をハヤトは理解した。

 

「あんな苦しい場所の先に俺達の街があるなんて…」

 

血と肉の海の先に、クラレットの罪の奥底には俺達の街が彼女を支えていた。

それは彼女の中で俺達の存在がどれだけ大きなモノであるかを表していたのだった。

頬が緩みハヤトは自然に笑顔になる、嬉しかった。誰よりも大切な思い出が此処に在ったのだから…。

 

「でも…なんか変だ…」

 

ハヤトがベンチに手をかけて街を一望出来る場所に立つ。

だがそこには街を包むほどのとても大きな霧があったのだ。

こんな霧は彼の記憶にはなかった、那岐宮でここまでの霧が発生したことは一度としてなかったからだ。

彼は確信した、この霧の中に必ずクラレットがいるという事を…。

 

「…行こう」

 

そう思いベンチから手を放して街へ向かおうと階段へと向かう。

だが、彼は足を止めた。それは階段から人の気配を感じ取ったからだ。

コツ、コツ、と足音を立てながら誰かが階段を上がってくる、ハヤトは身構えた。

この世界にいる存在は予想できなかった、クラレットに憑りついた可能性を持つ悪魔がいるかもしれない、もしかしたらサプレスのエルゴが襲ってくるかもしれない、あるいは…。

 

「……あ」

「………」

 

階段から現れたのは一人の少女だった、俺が知っている彼女よりも小さく、だが記憶に深く刻み込まれた姿の少女。

身構えていた体から力が抜けて俺はゆっくりと少女に近づく、そして恐る恐る声をかけたのだった。

 

「ク…クラレットだよな?」

「……むぅ」

 

柔らかい笑顔がムスッと不機嫌に変わり少々焦った。

 

「え?間違えてたか!?」

「間違えてませんけど……昔から知ってるんですから確認なんて取らないでください」

「あ、ごめん…」

「ふふ…」

 

自然に俺は小さなクラレットの手を握る、ホントに自然にそうしていた。

クラレットも少しばかり驚くがすぐに笑顔になり手を握り返してくれた。

そして俺達は二人で階段を下りて霧の中へと進んでいったのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あの汚泥の中を進んできたんですよね…?」

「ああ、とてもきつかった。匂いとか感触じゃないんだ。あんなモノがクラレットの中にあるなんて俺は気づきもしなかった」

「…人は誰にも気づかれたくない部分があるんです。ラムダさんやレイドさんの過去、ラミちゃんやフィズの過去、私の中にももちろんそういうのがあります。何より私は一番ハヤトに気づかれたくなかったんです」

「…俺の事を心配してか?」

 

ふるふると首を振りクラレットは否定する。

 

「嫌われたくなかったんだと思います。頭ではわかっている、でももしかしたら、そんな事を考えてしまったんです」

「……そっか」

 

何となく否定できなかった、そんな事はない! そう言って言葉にするのは簡単だ。

だがただ言葉にするのは少し違う気がした、きっともっと違う事なんだろうと思う。

そう考えていると視線の先に建造物が見え始める、それはフラットの皆が集まる孤児院だった。

那岐宮にそんな建物はない、やっぱりここはクラレットの心の中って事なんだな…。

 

「それだけじゃありませんよ?」

「え…? あ」

 

クラレットがある方向に指先を示すとそこには俺達の家が見えて来た。

だが俺達の家はフラットの孤児院と妙な形で融合しているようでかなり歪に見える。

だけど俺にはなぜ二つが融合しているのか分かった気がした。

 

「家って事なのか?」

「自分が帰るべき家、私にとって新堂の家も孤児院も同じくらい大事な家ですから」

「俺も…同じなんだろうな」

「ふふ……さあ急ぎましょう、時間がもうないですから」

 

クラレットの引かれ俺は更に歩んでゆく。

道をドンドンと進む過程で多くのモノを見た。

沢山の釣り竿が散乱するアルク川、ついさっきまで人が居た雰囲気の商店街、

昔通っていた小学校と中学校、それにこれから通うべきだった高校、

多くのモノを俺とクラレットは見ていた、それは恐らく彼女の日常を現していたにだろう。

だが周りの雰囲気が変わってゆくのを俺は感じ取り始めていた。

重い空気を感じ、そして景色がドンドンと変わってゆく、暗いがとても広大な通路を何時の間にか歩いていた。

 

「大きいと思ってたけど違うな、まるで俺達が小さくなっているような…」

「はい、ここは私の小さな頃の記憶。私がまだクラレット・セルボルトだった時の光景なんです」

「小さな頃…、そっかあの頃は周りの全てが大きく感じられるからな。

 この先にクラレットがいるのか?」

「…(こくり」

 

悲しそうな顔でクラレットは頷いた、そしてすり抜けるように手を放して先に進む。

俺は離れない様に一緒に歩いていた。

 

「クラレットはハヤトが死んだと思ってからずっとこの中に閉じこもったままなんです。理由は様々ですけど、一番の理由はハヤト、貴方なんです」

「俺が…?」

「お父様の干渉もハヤトが誓約者になった事も些細なきっかけに過ぎないんです。クラレットは常々考えていました。最悪の結末が訪れた時、自分は何をするべきなのかを…。何をするのかは一度途切れた私じゃわかりませんけど、もう一人のクラレットと協力してまで何かをなそうとしてることは事実のはずなんです……ハヤトの事を置き去りにして…」

「あいつ…」

 

一人で抱え込むな。そう互いで約束したにもかかわらず結局お互い破ってしまった。

だけど目の前に来たのにいまだ全部を一人で抱え込もうとするクラレットにハヤトは僅かばかり怒りを感じた。

 

「ここから先、クラレットの心の奥底に進むのなら覚悟を決めてください」

「覚悟?」

「ここはもうじき崩れ去ります。クラレットは自身の心を完全に砕くつもりなんです。どうしてそんな考えに辿り着いたのかは私にはわかりませんけど、その時にここに居ればそれに巻き込まれる形になり同じようにハヤトの心も死んでしまうかもしれないんです」

「心が…砕かれる? 待ってくれ!もし心が砕かれたかクラレットはどうなる!?」

 

クラレットはゆっくりと後ろを向いて俺の視線を合わせた。

 

「心無きただの器に価値無し、もしかしたらクラレットは自分の心を砕いて器としての役目を終えようとしてるのかも知れません…」

「そんな…」

「もう一人のクラレットもそれを知っているはずです。わざわざ表に出て貴方達に敵対したのも自分を諦めさせる為の演技だった可能性もあります…」

「……」

 

ここに来る直前のクラレットは確かに穏やかな感じがあった。

もしあのクラレットがもう一人のクラレットの本来の性格なら…。

自己犠牲的すぎる…あまりに救いがないじゃないか…!

 

「ハヤト…クラレットは出来るだけ早く、自分の心を終わらせたいと思っているみたいです」

「どういう事だ?」

「私達がこの世界に来た時からこの世界の崩壊が早まっている感じがするんです。もしかしたらハヤトが誓約者になった事を自分のせいだって思っているのかも知れない。もう日常に戻れなくなったしまったハヤトの事へとの罪悪感が彼女の自殺を早めているんじゃないかって…」

「……ふざけるなよ。アイツ!クラレットの事だけで俺が誓約者になったって本当に思ってるのか、俺が誓約者になった事を後悔してるって勝手に思っているのか!」

 

クラレットに対してハヤトは本気で怒っていた。

確かに彼女は被害者だ、だが全てを自分のせいでと勝手に思っている。

そんなクラレットに対して自分の意思で決意してこの場まで来たハヤトが怒るのは当然だった。

そしてそれはヒトカタのクラレットも同じだ、彼の中でずっとその想いと決意を見続けていた。

だから同じ人物であれ、そんな彼の想いを否定するクラレットに良い感情を抱いてはいない。

 

「ハヤト、クラレットの想いを酌むのなら今すぐこの世界から出てメイメイさんに力を返還するべきですけど……どうします?」

「悪いがな…そんな願い、聞くつもりはない…!」

 

空間が揺らぐ、そこからあられたのは全身が真っ黒の戦士たちだった。

それも見た事ある人物ばかりだ、ハヤトはこれらがクラレットの記憶から生み出された兵士だと理解する。

武器も何も持たないハヤト、しかし彼はたじろぐことはない、ハヤトの周囲を取り囲む敵を見据えてクラレットに近づく。

 

「やっぱり…そうですよね。自分の事ですけど今回は私も怒っていますから」

 

クラレットの体が光を発する、彼女の体が虹色の粒子へと変化してゆくハヤトの手に集まってゆく。

 

―――魔剣は心の剣、呼んでください。貴方と共に戦う刃の名を。

 

「来てくれ―――サモナイトソード!!」

 

ハヤトの手に虹色の輝く魔剣が姿を現す。

サモナイトソードは精神の剣、彼の心の中にある刃。

その魔力に反応したのか、ハヤトを取り囲んでいた敵が一斉に動き出し始めた。

ある者は弓をまたある者は剣を振り下ろしてハヤトに襲い掛かる。

 

「はぁ!!」

 

迫り来る攻撃を全て弾いたハヤトは魔剣を振るい戦士たちを全て斬り裂いた。

斬り裂かれた戦士達は実態を保てずにボロボロと崩れ去り粒子へと変わってゆく。

 

――どんな形でもクラレットは待っているはずです。迎えに行ってあげてください。

 

「…ああ、行くか」

 

サモナイトソードをジッと見つめて覚悟を決めたハヤトは前へと進み始めた。

その先にクラレットがいると分かっているからこそ、彼女を引っ張り戻すために歩んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

一人の少女が泣いていた。

 

「まさか…こんな方法で来るなんて」

 

いや、正確には彼女は泣いてはいない。

彼女の目から止めどなく涙が流れ続けるだけだった。

彼女自身もそれがなぜなのか分からないが、別に流れるだけなら気にはしなかった。

 

――刺客。差し向けたけど全部無駄みたい。

 

「分かっています。誓約者に……あんなモノになってしまったんですから偽物程度じゃ倒せませんよ」

 

記憶から生み出した兵士、本物とほぼ同格だが相手は誓約者になったハヤト。

それを考えればあの程度では手も足も出ないのは分かっていた。

 

「……このまま引きこもれば」

 

――でも、それをすればハヤトは…。

 

「そう、ですよね。行きましょう。ハヤトに諦めてもらうために…」

 

そう呟くと少女は歩み始める、階段を降り、扉を開け、通路を進み、

やがて彼女は大きな広場に辿り着く、そこは彼女が召喚術の訓練をしていた場所。

そこに辿り着いた彼女はゆっくりと目の前を見ると視界の人影が写った。

 

「来て……しまったんですね。ハヤト」

「ああ、来たぞクラレット」

 

クラレットとハヤトが互いに目を合わせた、そこには色々な感情が渦巻いていた。

喜びも悲しみも嬉しさも愛しさも……沢山の想いが二人の間にはあった。

辛そうな表情のクラレットだったが、こちらを睨み付けて口を開いた。

 

「ハヤト…私は分かったんです。お父様の野望、それはこのリィンバウムに必要なモノなんだって」

「………」

「フラットで過ごした日々は確かに素晴らしいモノでした。最初はつらかったけど、でも色鮮やかな輝きに満ち溢れた日々でした…」

「………」

 

クラレットが語るこの世界に来た時の物語、確かに素晴らしいものといえる日々だった。

毎日が確かな色を付けて輝いていたと言える、それを俺は黙って聞いていた。

 

「でも気付いていたんです。そんな日々の間に歪なモノを私は感じて言いました。召喚獣たちの奴隷ような扱い、それだけではないです。上級貴族たちによる横領、民衆の暴動、地方でこれ何ですよ?だったら世界の中心、帝国や聖王国、旧王国ならどれだけだと思いますか?そんなどうしようもない世界に救う価値なんてありますか?」

「………」

「だから私は決めたんです。他の世界を救う為にこの世界をリセットしようって、全ての召喚獣を救う為にはリィンバウムを滅ぼすしかないって…、確かに私は犠牲になります。でもこれで他の世界も…異界の皆も救われるんです」

 

息を大きく吸い、クラレットは再び吐き出す。

そして胸に手をやると彼女は真面目な顔をして答えた。

 

「私は、その為に生まれたんです。その生まれにハヤト、貴方の勝手な都合で邪魔しないでください。これは――私が決めた事です」

「………そっか」

 

グッとサモナイトソードを握る手が強くなる、顔が強張んでることを俺は分かっていた。

一歩一歩と俺はクラレットに近づいていく。

 

「な、なんですか?もしかして怒ったんですか?」

「ああ、多分いまかなり怒ってるみたいだ」

「ハヤト……私は今貴方に失望してるんですよ?私の想いなんて考えずに誓約者に勝手になって、そのうえ私が否定して怒るなんて―――」

「違う」

「……え?」

 

1メートル程の距離で俺は止まった、クラレットは俺の考えが分からないようで呆けている。

別に俺が誓約者になった事は本当にどうでもいいんだ。

ただ俺が怒ってるのはもっと単純で最も大事な事だ。

 

「別に俺が誓約者になった事はどうでもいいんだ、なんで……下手な演技して俺達を攻撃したりなんてしたんだ?」

「んな…!? 話聞いてなかったんですか!私は貴方の敵になったんですよ!? なんでそんなこと言うんですか!!」

「これさ……、落としたろ」

 

ハヤトがポケットから取り出したのは小さなビーズだった。

あの戦いの中、いつのまにか彼の手にあったものだ。

それはハヤトとクラレットが誓い合った証ともいえるミサンガの欠片だ。

 

「クラレット、お前約束したよな?一緒に元の世界帰るって、だったら勝手に決めて勝手に行動なんかするな」

「そんな…そんな事で!?」

「…今まで一度も言わなかったけどな、お前自分で俺をこの世界に引きずり込んだんだから責任くらい取れよ馬鹿!」

「ッ!?」

「それがなんだ!? この異界を救うとか聖王国とか帝国とかそんな事知らねぇよ! 俺達はサイジェントで精一杯だろ!そんな事偉い連中に任せればいいだろ!考え過ぎなんだよこの馬鹿!!」

「…!ハヤト貴方は!」

「なんだその顔は!お前がどれだけ迷惑かけてるかわかってるのか!?お前がさっさと表に出ればこんな事にはならなかったんだぞ!考え込んで卑屈になってその挙句引き籠って皆に迷惑かけて、今のお前は俺以上に無茶してるんだぞ!分かってるのかこの馬鹿!!!」

「うるさい!!!」

 

ギッと目線をこっちに向けたクラレットが手が振るわれて俺の頬を叩いた。

初めてクラレットに引っ叩かれたと思う、クラレットはそのまま流れるように口を開いた。

 

「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!!!私がどんなに覚悟してここにいるかわかってるんですか!あの子と必死に話し合って!最良の結果を考えて!それでやっとここまで来たんですよ!?なのにそれをどうして邪魔するんですか!」

「その結果がこれか!?お前がそう考えたせいで俺達は倒されそうになったんだぞ!おまけにソルの力も借りなきゃどうしようもないし、どうしてくれるんだ!」

「そんなの私の知った事じゃない!私は…私は…私はもう死にたいんです!さっさとこっから出てってください!!!」

「クラレット!!!」

 

パァン!と破裂するような音と一緒にクラレットは尻餅をついた。

彼女はほっぺに手をやるとヒリヒリと腫れる痛みを感じそして口の中から血の味がした。

 

叩かれた、ハヤトに。

 

それだけが彼女の頭の中でぐるぐると回り続ける、

今まで自分を守る為に振るわれたその腕は今、彼女を確かに傷つけたのだ。

そして視線をゆっくりと上に向けると怒りの形相を浮かべるハヤトがそこに居た。

 

「もう一度……もう一度死にたいなんて言ってみろ。今度はグーで殴ってやるぞ」

「……いい」

「ん?」

「もういい!!」

 

立ち上がったクラレットはハヤトから離れる様に下がってゆく。

頬に手を当てながらハヤトをクラレットは睨み付けた。

 

「そんなに聞きたくないならもう一度言います!私は死にたいんです!!こんなに辛い想いをする位なら死にたい……!これ以上こっちに来るなら死んだって知らない!勝手にしてください!!」

「待てクラレット!」

 

彼女を覆い隠すように桜吹雪と霧の嵐を呼びハヤトに襲い掛かる、

それが収まるのをハヤトは待っていたが、ふと殺気を感じ取り後ろに跳び出した。

ハヤトの前方で槍のような何かが突き刺さるのを気づいたハヤトはそちらに意識を向ける、

そして霧が晴れ始めた時、彼の目の前には敵が現れていた。

 

「なっ!?」

 

目の前に現れたのは完全な黒で染まったガルマザリアとエルエル、

そして宙を飛びこちらに敵意を放つ黒いシルヴァーナの姿がそこにあったのだ。

 

「ガルマザリアにエルエル、それにシルヴァーナ。クラレットが知ってる最強の味方って事か…!」

 

クラレットの意識から生み出された召喚獣、俺が自分の世界で力を貸してもらった時と同じように、

彼女らもまたクラレットに力を貸す存在だという事になる。

つまり、彼女らを倒さないと俺はクラレットの元に辿り着けないって事か…!

 

「お前たちが単なる偽物って訳じゃない事は分かってる…本気で行くぞ!!」

 

ハヤトは地を蹴って空を跳んだ、そして虹色の剣から光を放ち彼女らに戦いを挑んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

「なんで…なんでわかってくれないんですか…」

 

大きな召喚陣が引かれた部屋の真ん中で赤く染まった頬に手を付きながらクラレットは涙する、

自分と一緒に居ればその先にある結末は破滅しかない、

それでも彼は一緒に居たいと言った、誓約者になった事を大した事ないと言った。

この国も世界も偉い人に任せればいい、自分たちは精一杯やるだけでいいと言った。

きっとそれが正しいのだろう、だけどそれにすがってしまえばきっと…。

 

―――その先にあるのは破滅よ?

 

「分かっています。私も…ハヤトも…その先にあるのは周りを巻き込んでしまう結果です」

 

―――それじゃあもう決まっているでしょ?なんで悩むの?

 

「だって……だっていつも頼っていたから、これからも頼りたいって思っちゃうから…」

 

―――……そう、だけどその先にある結末を貴女は知ってるでしょ?奇跡は二度起こらない。

 

「でも…でも…」

 

踏ん切りがつかない、彼女はいまだハヤトの事を振り切れなかった。

ずっと、ずっと一緒に居たから、それが当たり前でこれからも当たり前だと思っていたから。

だからこそ、クラレットはハヤトを切り離すことが出来なかったのだ。

そして、彼女が泣いている時、必ず現れる人物がいた。

 

「泣くぐらいだったらやめろよな?」

「!?」

 

部屋の入口に背をかけながらボロボロのハヤトがそこに居た。

 

「あの召喚獣を…」

「ははは、エルゴの力なしであれは相当きつかったわ。まあ俺も強くなったって事かな」

 

エルゴの力なしで彼女らを倒すのは流石のハヤトもそうとう苦しそうだったが、

それでもハヤトは戦いの末に勝利していた、だがそれ以上に彼が勝てたのには理由があった。

 

「見掛けは強かったけどな、俺を気づかいながら戦わせるのはどうかと思うぞクラレット?」

「え……ぁ」

「心の中の人物たちは俺達の想いに反映するんだ、殺意も何も感じない攻撃じゃ今の俺は倒せないぞ?」

 

クラレットの向かってはハヤトは歩み始める、近づくたびクラレットは一歩一歩と下がるが徐々に距離が迫っていった。

 

「こな…来ないでぇ!!」

「ッ!」

 

その手から電撃がハヤトに向かって放たれるがハヤトに当たる事はなかった。

咄嗟に顔を隠していたハヤトだったが、当たらなかったことに気づくと確信めいた表情を浮かべた。

 

「やっぱり当てる気はないじゃないか、俺を殺すんじゃなかったのか?」

「そんな事……私は自分で考えたんです!自分で考えて答えを出したんです!」

「自分一人で考えたんだろ、さっきも言ったけどな自分一人で考えるのをやめろよ!」

「ハヤトは私のなんなんですか!ただ一緒に居ただけの貴方に私の決断を否定する権利なんて貴方にない!」

 

目を瞑りながら必死に叫ぶクラレット、その言葉を聞いてハヤトは歩みを止めた。

近づく事のなくなったハヤトに怯えながら目線をあげるクラレット、

そこに居たのはとても悲しい顔をしたハヤトだった。

 

「……俺はクラレットの家族だ、否定する権利はある」

「―――!」

「もし…もしお前が死んだら俺はみんなに…春奈たちに顔向けできなくなる、必ず守るって言ったのに守れなかったって自分を責めたくなる」

「やめて…」

「みんながクラレットに生きていてほしい願っているんだ。リプレもガゼルもあのソルだって今はそう想ってるんだ。だからさ、帰ろうクラレット」

 

クラレットに手が差し出される、クラレットはその手を見て一瞬手をあげてしまうがすぐに下げた。

 

「もう…もうやめて、私はみんなに不幸になってほしくないのに、みんなが幸せになってほしいのに、それなのに…それなのにそんなこと言うなんて、私は何のために死ぬか分からなくなるじゃないですか!」

 

顔を手で隠して隠しきれないほど涙を流すクラレットにハヤトは再び近づき始める。

クラレットがそれに気づくことはなかった、やがて彼女の体が温かい腕で包まれる。

 

「もう…もういいんだ。もう泣かなくていいんだ。死のうとしなくていいんだ。俺は一度守れなかった。だから、だからこそ今度こそ守ってやるから、今の俺には守る仲間も力もあるから、泣かないでくれ、クラレット」

「………ぁ」

 

小さく口から音が零れ落ちる、とても心地よく、いつまでも包まれてたい温かさがクラレットの心を包んでいた。

顔を覆っていた手を何時の間にか解き、クラレットはハヤトをギュッと抱きしめていた。

もういい、このままこの腕の中に溶けてしまいたいとさえクラレットは願ってしまう。

 

―――本当にそれでいいのかしら?

 

「え?」

 

―――きっとまた失うわ、今度はもっと多く失う事になる。

 

「そうだ、また私は失う、兄姉を家族を…ハヤトを失った時と同じように」

「クラレット…?」

 

―――願ってもいない想いを押し付ける彼を、もう一度絶望を味合わせようとする奴を

 

ドン!とクラレットがハヤトを突き飛ばして後ろに下がってゆく。

その目は深紅に染まり、紅紫色の魔力が全身から膨れ上がり始めた。

 

「クラレット!?」

「――――私は」

 

クラレットの膨れ上がる魔力は形作られて魂殻を形成する。

血のような赤と紫色、そして天使のような純白で彩られた怪物がそこに居た。

悪魔のような腕と天使のような羽を生やした女の化け物が生み出されたのだ。

 

「なんだ…あれはなんなんだ!?」

 

―――あれはクラレットの心が形作られたモノです。恐怖や絶望を始めとした他者を拒絶する意思を形作ったモノ…のはずです。

 

「はずって、分からないのか!?自分の事だろ」

 

―――自分自身の事なんて早々にわかりません!とにかくあれはクラレットの心の闇そのものだと思ってください

 

「心の闇……もしかして表に出てた…」

 

表に出て自分たちを始末しようとしたクラレットが脳裏を過り、

クラレットの事を想いつつだからこそ自分たちを倒そうとした存在、

つまりあれは…クラレットそのものって事になる。

 

―――アレを倒せば彼女を助ける事が出来るはずです。ハヤト、分かっていますね。

 

「だけど、それは…」

 

ハヤトは躊躇してしまう、もしあの怪物を倒してしまえばクラレットは助けられるだろう、

だが、もう一人のクラレットはこの世から消えてしまう、ハヤトが知ったもう一人はいなくなってしまうのだ。

 

―――あの子は本来存在しない子です。彼女は、貴方の知っているクラレットじゃないんです!

 

「分かってる、わかってるけど!俺は…!」

『アアアアアァァァァァーーーーッッッ!!!』

 

クラレットから甲高い悲鳴が放たれる、悲しくまるで他者を拒絶する声がハヤトの耳に届いた。

するとクラレットの目に空洞が開く、そこの視線を向けたハヤトは恐ろしいほどの恐怖を感じた。

まるでこの世の全てを拒絶するような雰囲気を発していたからだ。

そして異変は起きた。

 

「な!?」

 

引き込まれるような感覚と共にハヤトの体がどこかに引っ張られてゆく。

必死に抗おうとするがどうにもならずハヤトはただクラレットに向かって手を伸ばした。

 

「クラレッ―――」

『――――もう来ないで』

「あ―――」

 

ハヤトは吸い込まれるように何もない空間に消えていった、

そしてカランと音を立ててその場に一本の剣だけが残されていた。

 

『ァァーーアアァァ……』

 

怪物と化したクラレットは両手で顔を包み小さく泣き始めた。

誰よりも彼を愛するが故に彼女は選んだのだ、苦しくもきっと正しいであろうその選択を、

それを虹色の輝きを発し続ける魔剣はただ見ていた……。

 




ちょいと無理矢理感がなぁ、
週一じゃなくて月一になってからブレブレ感がある気がする。
てか当初は普通に悪魔に憑依されてたのになぜ変わったし…。
そんな事思いながら勢いって怖いわって心底思ってます。
ま、是非もないよね!

次回もよろしくお願いします!さて早くかけるかな?
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