サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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なかなかどうして、書く気力が湧いてこないんですよ。
でも4時間ぐらいかけて書き仕上げると3割ぐらいしか書いてない事実。
一話一話が妙に長いせいで投稿が遅れてしまうんだよなぁ。
昔の前が気にオリ話楽だぁとか言いやがって嘘じゃないかよ!

というわけで長い事51話になります。
今年中に終わらせられる気がしないんでよろしくお願いし足します。


第51話 魔王バノッサ

昼と夜を挟む夕闇が一つの街を包み込んでいた。

決して裕福ではないが人々の笑顔が絶えない街、サイジェント。

その街の北に位置するスラム街で一人の少年がいた。

真っ白な髪と肌、そして真っ赤な目をした少年。

生まれついての忌子として人々から嫌悪される対象だったがそれでも少年は幸せだった。

自分には友人がいた、冬でも上半身裸というどう見ればいいか分からない奴だったがいい奴だった。

自分には力があった、日々を生き抜く為に自然と鍛え抜かれた体は身を守る力になった。

そして自分には……。

 

帰りましょう?バノッサ

 

自分には帰る場所があった。

温かい目で自分に手を差し出してくれる女性。

病に侵され体は弱かったがそれでも毎日自分を迎えに来てくれる母。

自分はその手をしっかりと握り、自分に手を振る友人と別れ家へと帰ってゆく。

こんな日が永遠に続くと思っていた…そんな事は決してありえないのに…。

 

どうして!?なんでアナタなんかが生まれたの!!

アナタのせいで私は全部失ったのよ!バノッサ!アナタのせいで!!!

 

突然だった、母さんが狂ったのだ。

そして家に火を付け恨みの言葉を浴びせながら狂い死んだのだ。

今なら分かるアレは召喚術の影響だってのは理解できた。

母さんはずっと苦しんでいた、最後のその時まで自分に笑顔を向けてくれていた。

狂うその時まで母さんは正気でいられたのだ…。。

だけどもし俺が召喚術の才能があれば何か変わっていたのかも知れないって思っちまった。

だから忘れようとした、あんな理解できない力なんて知らない方がいいって思ったんだ。

 

だけどアイツが現れた。

 

俺の持っていないモノを全部持っているアイツが俺の目の前に現れたんだ。

家族も、仲間も、そして召喚術すらアイツは持っていた。

目の前でその力を何度も振りかざしてるアイツの姿が気に入らなかった。

だから奪おうとしたんだ、俺が手に入れる事の出来なかった力を。

だけど奪えなかった、逆にアイツは俺にまで手を差し伸べて来やがった。

気に入らなかった、認めたくなかった、だから俺は決めたんだ…。

 

アイツの全てを奪い取ってやる。

この手で必ず叩き潰してやるってな…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「こいつで!最後だぁぁぁーー!」

『グギャァァーーッッ!?』

 

ガゼルの投げた短剣が悪魔の胸に突き刺しその場に倒れる。

送還されてゆく悪魔を確認したガゼルは息継ぎを大きくすると周りに目をやった。

被害は出たもののハヤト達が援軍として乱入してきた時から犠牲者は出る事はなかった。

バノッサの猛攻は激しかったがハヤトとの戦いで傷ついたのか動きが鈍く撃退することが出来たのだ。

 

「ふぅ…よし行くぜ」

「おい待てガゼル!」

「なんで止めるんだよ、エドス!ハヤト達が心配じゃねぇのかよ!?」

「そりゃそうだが、おかしいと思わないのか」

「何がだよ!」

「バノッサが居なくなったことやアカネさんの分身が消えた事ですよね?」

 

スウォンの言った事は事実だった、

悪魔達の戦闘の最中、50人の分身が突然全て消えたのだ。

その頃には大方の悪魔は片付いていた為、何とか持ち直す事は出来たのだがそれでもその事は彼らに不安を仰ぐ結果に繋がっていた。

そして悪魔達を従えていたバノッサも何時の間にか消えていたのだ。

それだけではない、それから少しすると凄まじい轟音と振動が城を襲ったのだった。

 

「だから今すぐあいつらを助けに行くって言ってるんだろ!」

「行って意味があるかは分からんがね…」

「レイド…」

「おいレイド、どう意味だそりゃ」

「我々が助けに向かったとしても足手まといという事もあり得ると言ってるんだ」

「ふざけんな!どういう意味だそりゃ!」

「ガゼル落ち着け」

「エドスはどうなんだよ!お前もレイドと同じなのか!?」

「……ワシも同じ考えだ」

「ガゼルさん、僕も同じ考えです。ガゼルさんは今のハヤトさんと一緒に戦えますか?」

「そりゃ…」

 

勿論戦うとガゼルは言えなかった。

何せ悪魔達の力を得て強力な力を振るうバノッサを一撃でハヤトは倒したのだ。

あのモナティすら強力な攻撃を放っている事をガゼルは気づいていた。

自分はあの中に入れるのか?おそらく無理だろう。

今の自分では足手まといだ、役に立つことも出来ないだろう。

その事に改めて気づかされたガゼルは唇を噛みながら手をギュッと握りしめていた。

 

「ガゼル、ハヤト達と一緒に戦えなくて悔しい思いをしてるのは何もガゼルだけじゃない、この場にいる全員同じ気持ちなんだ」

「レイド…」

「私達に出来るのはこの城を脱出して事が終わった彼らを助けに行く事じゃないか?少なくとも私はそう思っている」

「ワシも同じ気持ちだ。残念だがワシらの力じゃ今のあいつ等の足を引っ張ることしか出来んよ」

「……でもよ」

 

それでも自分は戦いたかった。

あの時のように何もできずに目の前で仲間を失うのはもううんざりだった。

いっその事一人でも行くべきではないかと考えるときガゼルの手をユエルが引っ張る。

 

「ガゼル、ハヤトはきっと勝つよ。だってあの時と違ってハヤトはしっかりしてるんだから」

「ユエルおめぇ…」

「ハヤトならきっと勝てるってユエル分かってるよ!」

「……結局最後まで頼らなきゃいけないって訳か」

「本人はそう思っとらんのかもしれないがな」

「だろうな、ハヤトらしいぜ」

 

自分の中で納得がいったガゼルはすぐに行動に移す事にした。

まずは目の前で「兄貴今行くぜぇ!!」と意気込んでるジンガを止める事にした。

ハヤトはみんなを守る為に戦っているのだ、それなら俺達が無事でなければいけない、そう思う事にしたのだ。

 

「負けるんじゃねぇぞ、ハヤト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「クククッついに…ついにやってやったぞ!!」

「ぐふぅ、バノッサ貴様…!」

「バノッサ兄さん…!?」

 

オルドレイクの胸から折れた剣が突き出ている、

肺が負傷したのかオルドレイクの口から真っ赤な血が漏れていた。

どう見ても致命傷だ、すぐさま治療すれば助かるかもしれないがそれを横にいる男が許す事はない。

 

「バノッサ、貴様生きてたのか」

「手前ェこそくたばったと思ったがまだ生きてたとはな、悪いがこの男を殺したのは俺様だ。俺様が殺したんだァ!!」

「ごふぁっ」

 

剣を押し込むと更にオルドレイクが血を吐き始める。

それを見たクラレットが近づこうとするが、ソルはそれを押し留めてしまった。

 

「お願いです!ソル兄さまそこを退いてください!」

「駄目だ、ここであの男を殺す」

「バノッサ兄さん!ハヤトォ!!」

「………ッ」

「精々そこで見てるんだな化け物女!俺達のクソ親父をぶち殺す瞬間をなァ!」

 

ハヤトは動けなかった、今この場で動けばクラレットの被害が及ぶかもしれない。

それにハヤトもオルドレイクに殺意を持っていないと言えば嘘になる。

彼も心のどこかで望んでいたのだ。

目の前でオルドレイクが息絶える時を…。

 

「……クククッ」

「あァ!何が可笑しいんだ!?」

「正直賭けだったが…まさか貴様の方から来てくれるとはな…どうやらここまで来て運が向いて来たらしい」

「だからなんだと…」

「!? バノッサ離れろ!!」

「バノッサ兄さん!逃げて!!」

 

クラレットとソルが叫び驚いた俺は視線をバノッサの方へと向けた。

その光景を見た俺は悟った、オルドレイクがなぜ運が向いてきたと言ったのかを。

オルドレイクの手に握られた魅魔の宝玉はまるで吸い込まれるようにバノッサの腹部に押し付けられたのだ。

そして融合するようにずぶずぶと吸い込まれ始めてゆく。

 

「グガッ!?て、手前ェ!」

「グゥッ!」

 

バノッサがもう片方の手に握られた剣でオルドレイクの手を斬り落とすが宝玉の浸食は止まらない。

それどころか斬り落としたはずのオルドレイクの手すら宝玉の中へと取り込まれていったのだ。

 

「我が残された魔力はその手に宿っている!我が魔力を呼び水にこの世で次に相応しい器たるバノッサ、貴様に餓竜の悪魔王スタルヴェイグは降りるのだ!!」

「グ…ガ……ガァァァァァァーーーーッッ!!!!?」

「バノッサ兄さん!!」

「近づくな!クラレット!」

「離して!離してくださいソル兄さま!!」

「ッ!誓約者!クラレットを抑えてろ!今のバノッサにクラレットが近づいてみろ、オルドレイクと同じ魔力を持つ俺達は取り込まれるぞ!」

「な、なんだって!?」

 

俺はクラレットを抱きしめて動きを抑え込む。

目の前で凄まじい魔力の奔流が生み出されバノッサの姿が隠されてゆく。

 

「ハハハハハッハーッハハハハハ!!!さあ来るのだスタルヴェイグよ!この世界を滅ぼす為に今こそ姿を現すのだぁ!!!」

 

オルドレイクの野望は成就した、今まさにハヤト達の目の前で最強の魔王が召喚される。

界の狭間に生まれる幾つもの世界を食らい滅ぼした伝説の悪魔王、餓竜の悪魔王スタルヴェイグが召喚されるのだ。

ハヤト達にそれを止める手段はなかった、一度発動した召喚術は止める事が出来ない。

それが世界の法則であり理なのだ。

彼らには魔王に変貌するバノッサの姿を見ることしか出来なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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血の匂いだ…。

体に染み込んだ血の匂いを感じる。

俺様はどうなった?

クソ親父は死んだのか?

ソルの野郎はどうなった?

クラレットは無事なのか?

……はぐれ野郎はまだ生きていやがるのか?

 

『生きてるぜ。もっとも俺を召喚した野郎は死にかけだがよ』

「だ、誰だ手前ェ!?」

 

バノッサは立ち上がる。

そこはまるで血の池のような場所だった。

ドロドロに濁みきった血液のような風景が広がっている。

 

『フハハハ…ずっと俺の力を借りた癖に分からねぇのか?』

「あァ!誰が手前ェの…手前ェの…」

 

バノッサが視線を上に向けるとそこには双頭の巨大な竜の姿があった。

意識を向けただけで全てを食い尽くされるような存在感。

今までバノッサが感じた事のないような威圧感を放っていた。

並の人間なら恐怖で震えあがってしまうだろうがバノッサはそうではなかった。

一瞬怯んだがすぐににらめ付ける。

 

「手前ェの力を借りてただと?ふざけんじゃねぇ!手前ェのような化け物の力なんて借りてェ…!」

『おいおい、俺はお前に力を渡し続けたんだぞ?お前の感情はいい餌だった、等価交換って奴じゃねぇか』

「まさか…お前、魅魔の宝玉か!?」

『ちがう、俺は魅魔の宝玉じゃねぇ。俺はスタルヴェイグ、ただの魔王だ』

「手前ェが魔王だと!?」

『あの玉は俺の力が宿ってるんだ。あの宝玉を使えば使うほど俺の体に馴染んでいく。あの女が一番住み心地が良さそうだったが…お前も中々だな』

 

竜の尾がバノッサの体を締め上げてスタルヴェイグの眼前へと向けられる。

そんな状況にも関わらず、バノッサは目の前の魔王をにらめ付けていた。

 

『中々の器だ。これなら俺の力を十全に扱えそうだな』

「ふざけんじゃねぇ!魔王だか何だか知らねぇがな、俺様の体から出ていきやがれ!!」

『ッ、中々の抵抗力だな。これじゃあ完全に支配できねぇな。だがそれでいいのか?』

「なんだと…?」

『俺をこのまま追い出していいのか?俺は知ってるんだぜ?あの誓約者の糞野郎にお前が手も足も出ずに負けた事をな』

「ぐっ…!」

 

バノッサの脳裏を過ったのはハヤトとの一戦だった。

悪魔の力を取り込み、振るわれた一撃は彼に傷一つ付けることが出来なかったのだ。

 

『俺もアイツが憎い折角リィンバウムに来てやったのに何もできずにやられちまったからな。だが今の誓約者なら敵じゃねぇ。徹底的にいたぶれるんだぜ?』

「いたぶれるだと?」

『そうだ、俺を受け入れろ。アイツをぶち殺すその時まで俺の力をお前に貸してやる。分かるだろ?世界を滅ぼす魔王の力を手前が手に入れられるんだぜ?』

「世界を…滅ぼす…」

 

バノッサに甘い誘惑の言葉が魔王から告げられる。

世界を滅ぼす力があればハヤトを殺せると、自分の全てを奪ったあの男を殺せと。

もしバノッサの傍に彼を支える少年が居れば何か変わったかもしれない。

もしバノッサが間違いを犯さず北スラムのリーダーでいたならば耐えられたかもしれない。

もしバノッサがハヤトと出会っていなければ……彼はここまで追い詰められなかっただろう。

その様なもしもなど存在しない、目の前にあるのは強大な力を持つ魔王だけだった。

 

「寄越せ……」

『あぁ?』

「手前ェの力を全部寄越しやがれ魔王ぉぉぉぉーーーーッッ!!!」

『フハハハハ!!!いいぜ受け取れよ!手前ェらが望んだ魔王の力をなぁ!!!』

 

魔王がバノッサの体に吸い込まれ始める。

その巨体が小さな人間に吸い込まれるのは異様な光景だったがそれを見る者は誰もいない。

やがて魔王の全てがバノッサに吸い込まれるとバノッサは答えた。

 

『「ブチ殺シテヤル、ハグレ野郎!!」』

 

そこに居るのはバノッサではなかった、魔王の存在を取り込んだ魔人がいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ハヤトの目の前で暴力的な魔力が荒れ狂う、

それを見る全員が対処できなかった、迂闊に手を出せば飲み込まれそうだからだ。

やがて魔力の中心から一人の青年が姿を現し始める。

しかしそれは彼らの知るバノッサとはあまりに異なる姿だった。

 

「バ…バノッサ…!?」

『グ…ガァ…!』

 

真っ白な肌は血のように赤くなり、身に着けていた鎧と肉体が溶け合い虚ろな表情を浮かべるバノッサがいた。

 

「憑依召喚が失敗してる…」

「クラレット、どういう事だ?」

「魔王の力が強すぎてバノッサ兄さんの体を塗りつぶしかけてるんです!」

「あの時と同じ!?」

 

初めて鬼神将ガイエンをその身に宿したハヤトは魂殻が崩壊寸前にまで追い込まれた。

ハヤトというエルゴを受け入れられる器を持っていてもそこまでの負荷が掛かるのだ。

リィンバウムの人間でしかないバノッサではこうなってしまうのは必然だった。

しかし、それを助力する者がこの場に居たのだ。

 

「なるほど、やはり器としては不完全だったようだな」

「ッ!オルドレイク!」

「だが不完全とはいえ魔王を降ろしたのは事実、あとは器の位をあげればいいだけの事よ!」

「奴を止めろ誓約者!」

「くそ!」

 

ハヤトとソルがオルドレイクに向かうが影の悪魔を操り二人を近づけない様にする。

オルドレイクはバノッサの目の前に立ち、そして言い放った。

 

「さあバノッサよ!我が肉体を食らいその糧にするのだ!その時こそ魔王の力を制することが出来るはずだ!」

『グ…?』

「あの女はその為にお前を産み落としたのだ!その身に宿った宿願を今こそ果たすのだバノッサ!!」

『貴様ガ…!』

 

バノッサの目に殺意が宿る、溶けている肉が一つになり剛腕を生み出した。

 

『許サネェ……ッ!母サンヲ捨テタオ前ダケハ…!!絶対ニ許サネェェェッ!!!』

「グハッ!」

 

その剛腕がオルドレイクの体を貫く、そして脈動と共にオルドレイクの体がしぼみ始めたのだ。

 

「な、何をしてるんだバノッサは!?」

「血識を食らっているんです…」

「血識?」

「血に宿る情報の事です。もうお父様は…!」

 

クラレットの目から涙がこぼれる、もうオルドレイクは助からない、

バノッサの血肉の一部になるのを俺達は止められない。

 

「それでいい…それでいいのだバノッサよ。我が血識を食らい、本能のままに世界を滅ぼすのだ…!それがお前の……」

『ウルセェェェェェーーーーッ!!!』

 

バノッサの叫びと共にオルドレイクの体からすべてが吸い尽くされる。

干からびてミイラになったオルドレイク、それをバノッサは引きちぎりゴミのように捨てた。

 

「………」

「うぅぅ…!ああーーー!」

 

ソルはその光景を見て眉を寄せていた。

クラレットは俺にしがみ付いて泣いていた。

全ての元凶といえる男の、あっけない末路がそこにあったのだ。

だがそれで安心する訳にはいかない、目の前にはその男が残した魔王がいるのだから。

 

『グググ!!ガァァァーーーーッッ!!!』

「バノッサ!?」

 

バノッサの血肉が膨れ上がり竜の姿に変貌していく、

至竜とは明らかに違う、あれが悪魔竜といわれた魔王だとハヤトは確信した。

サモナイトソードに力を入れてハヤトはクラレットを抱えながら構える。

 

『チ、ゲェ!俺様ハ―――!!』

「バノッサ…?」

『俺様ハ―――!!!!!』

 

膨れ上がる魔王の力が収束し始める、肥大化し続けたその力は一点に集まり始めた。

あれほど荒れ狂うっていた魔力は既にない、まるで一つの塊のようになり始めていた。

 

「オルドレイク。あの男ここまでやるのか」

「え?」

「魅魔の宝玉は無事だった、オルドレイクは自分の肉体を糧に誓約を刻み込んだんだ」

「誓約…?」

「召喚獣にとって絶対の命令権、条件さえ満たせば…」

 

魔王すら支配下に置ける、そういうとソルは目の前のバノッサに視線を向ける。

先程と同じ真っ赤な体を持ち悪魔のような筋骨隆々の男がそこに居た。

真っ直ぐこちらを見据える、その目には確かな理性が宿っていた。

 

『ククク…』

「バノッサ?」

 

両腕が脈動し骨で出来た刃がバノッサの両手に形成される、そして…。

 

『オラァッ!!』

「なっ!?」

 

ハヤトの眼前に突っ込んできたバノッサにハヤトはクラレットを突き飛ばして迎え撃つ。

突き飛ばしてしまったクラレットに視線を向けようとするが目の前の男相手にそれは無理と判断してハヤトは魔剣で防御した。

以前とは違い5つのエルゴを宿したハヤトの力ははるかに増しており魔王の力で変貌したバノッサをもしのぐと思われたが…。

 

「ぐっ!?」

「マスター!」

 

バノッサの一撃を受け止めたハヤトは膝を付き歯を食いしばって耐え抜いていた。

その光景に驚いた仲間たちはハヤトを助けようとするが。

 

『下ばっか向いてるんじゃねェ!』

「ガハッ!?」

「わとっ!」

 

バノッサに蹴り飛ばされたハヤトはそのまま仲間の下へと吹き飛んでゆき、

アカネが何とか受けとめるがアカネも共に吹き飛んでしまう。

 

「ハヤト!」

 

クラレットはハヤトの下へと駆け寄ろうとするが、目の前にはバノッサが立ちふさがっていた。

真っ赤な目がこちらを睨んでいる、今までと違い、濁り切った目がクラレットを射抜いていた。

 

「うぁ――」

 

恐怖のあまり口から声が漏れる、そして振り上げられた凶刃が振り下ろされる。

だがそれを遮るように何者かが二人の間に割り込んできた、そして激しい金属音が響いた。

 

「―――ぐぅ!」

「ソル兄様!?」

『ククク、遮るなんてな。しかし何だ?そのざまはよ』

「バノッサ…!貴様魔王に乗っ取られた訳じゃないな」

『そうだ!俺様は魔王と契約したんだよ!あのクソッたれなはぐれ野郎をぶち殺す時まで俺様に力を寄越すってな!』

「貴様分かっているのか、誓約者を殺せば食われるぞ」

『そんな事分かっているに決まってるだろ?だがな、これ以外にアイツを倒す手があるのか?俺様は貴様とは違ェあの男をぶち殺した今、手前ェも俺の対象なんだよォ!!!』

 

ソルに向かって振り下ろされるもう一本の凶刃をソルは防ぐ手段はなかった。

深々と刃はソルを斬り裂き血飛沫が吹き上がる、

目の前でそれを見ていたクラレットはその光景に対して何もできなかった。

 

「なんで…どうして…」

 

全ての元凶と言えるオルドレイクは死んだのだ。

なのになぜ兄弟で殺し合わなければいけないのだと。

やっと全部終わったと思ったのに何で傷つかなければいけないのだと。

 

「やめて…!やめて!バノッサ兄さん!」

『……あァ?』

「なんでソル兄様やハヤトを殺そうとするんですか!?もうお父様は……オルドレイクはいないんですよ!もう戦う理由なんてないじゃないですか」

『相変わらずおめでたい考え方してるな、戦う理由はあのはぐれ野郎だ』

「ハヤトが…?」

『俺様の居場所は全部アイツに奪われたんだよ!俺様の欲しいモノを全部アイツは持っていた。だから奪おうとしたんだ!今までの自分を捨ててな!』

「そんな事で…」

『手前ェらにとってはそんな事かも知れないがな、俺様にとってはそれが全てなんだよ!』

「だって…!もし私達を殺しても魔王に殺されるんですよ!?そんなの意味がないじゃないですか!」

『意味だと…?そんなものもうどうでもいいんだよ。俺様ははぐれ野郎を殺す。それが俺様の全てなんだよ!』

 

自分とは真逆だとクラレットは理解した、自身を殺してでもハヤトを救おうとしたクラレット。

それとは逆に全てを犠牲にしてもハヤトを殺そうとするバノッサ。

それだけではない、同じように自分と身内を犠牲にしようとオルドレイクを殺すと決めたソル。

そして、自身の全てを犠牲にし世界を滅ぼそうとしたオルドレイク。

 

自分達は自身を切り崩して何かを成そうとする生き物だ。

身内を裏切り、自身を切り崩し、そして最後には破滅する、そんな存在だ。

だけどクラレットは気づいたのだ、それがどうしようもなく間違っている事に。

どこかに必ず自分たちの存在を求めるものがいると、自分たちが消えればどれ程の悲しみが彼らを襲うのかを、

だからこそクラレットはそれを見逃すことは出来なかった、バノッサにも待っている人がいると知っているからだ。

 

「全てなんて…全てなんて言わないでください!」

『あァ?』

「兄さんにだって待っている人がいるじゃないですか!カノンさんは待ってるんですよ!貴方の事を裏切りたくないって、自分に居場所をくれた貴方を助けたいって、ハヤトを殺して魔王に取り込まれればカノンさんはどうなるんですか!?」

『……カノン』

「こんなことする必要なんてないんです。もう私達を苦しめる存在なんていないんです。兄さんの居場所を奪う人はいないんです。だから…」

 

クラレットはゆっくりと手を差し伸べた。

 

「帰ろう?バノッサ兄さん」

『……!!!』

 

差し出された手を見てバノッサの脳裏によぎるモノがあった。

それは彼の始まりであり、そして彼が失った最も望んだ居場所の象徴だった。

 

『……セェ』

「え?」

 

クラレットは無意識に触れてしまったのだ。決して触れてはいけないバノッサの逆鱗に。

 

『ウルセェェェーーーーーッッ!!!!』

「!?」

 

バノッサの腹部に竜の咢が現れる。

そこから放たれた黒い極光の輝きがクラレットを包み込もうとしていた。

 

「クラレットーーーッ!!」

 

ハヤトが駆けだす、だがあまりに距離が離れていた。

どう足掻いても間に合わないと理解してしまう、それでも諦めたくないが現実は残酷だった。

 

「なんで…」

 

後悔はしない、ただクラレットはバノッサが如何してその選択をしてしまったのかと悲しんだ。

手を取ってくれれば救えるのに、家族が家族に手を差し伸べる様に救えるというのに。

そんな事を考えながらクラレットは光の中に消えようとしていた……だが。

 

「え!?」

 

引っ張られる浮遊感と共に彼女は宙づりにされ後方に引き込まれる。

視線には影が彼女の足を掴んでいるのが目についた。

そしてそれを操っているのはクラレットの後ろにいたソルだったのだ。

 

「ソルにい……ッッ」

「――――」

 

ソルが何を言ったのかクラレットには聞こえなかった、

だが確かにクラレットには見えていた、彼の口が笑っている事に、

そしてソルはバノッサの放った光の中に消えてゆく…。

 

彼にはやり残したことがまだ多く残っているのだろう。

だがそれでも理解していた、ここが自分の死に場所だろうと。

今までやってきた事への後悔はない、ただ一つ妹に生きていてほしい。

その感情がソルの最後の想いだった。

 

「ソル兄様ぁぁぁーー!!!」

 

手を伸ばすクラレットだったがその手はソルに届くことは無かった、

やがて彼女を吊り下げる影が解かれてゆくのをクラレットは感じた。

宙を舞いながらクラレットは理解する、ソルが死んだ事を、影の悪魔からソルの魔力が消えたことを。

それを理解したクラレットは呆然とし落ちて行くがハヤトがそれを抱き留めた。

 

「クラレット!」

「ハヤト…兄様が…ソル兄様が…!」

「くっ…!」

 

視線の先には何もなかった、そう何もなかったのだ。

彼がいた場所は魔力の砲撃により抉られて穴が開いているだけだった。

ハヤトも理解したのだ、ソルが死んだ事を…、オルドレイクと同じ様に逝ってしまった事を…。

 

「ソル…お前がなんで…!」

『クククッ、まずは一人だ。あの憎たらしい奴をぶち殺してやったぜェ!!』

「バノッサ……!手前ェ!!」

『何怒ってやがるんだはぐれ野郎?アイツは手前の敵じャねェか?感謝してくれてもいいんだぜ。ソルを殺してくれてありがとうバノッサ様ってな!ヒャーッハハハハ!!』

「ふざけるな!ソルは…ソルはクラレットの兄だぞ!アイツは嫌な奴だったがクラレットを助けようと必死だったのは本当だったんだ!それを笑うなら俺はお前を絶対に許さない!!」

『……やっとその気になったようだな。どう許さないのか…教えろはぐれ野郎!!』

「バノッサァ!!」

 

クラレットから離れたハヤトはバノッサへと突っ込んでゆく、

そしてサモナイトソードに魔力を注ぎ込み、虹色の極光を放ちながら剣を振るう。

対するバノッサは魔王の力を両剣に押し込み同じように黒紫色の暴力的な魔力をハヤトに叩き込む。

二つの魔力がぶつかり合うと凄まじい衝撃と亀裂が二人を中心に生まれる、先ほどのようにハヤトが吹き飛ぶ事はない。

 

「うおぉぉぉーーーッッ!!」

『ヒャハ、ヒャハ、ヒャハハハハハ!!』

 

バノッサの二刀により乱撃がハヤトに襲い掛かる、

その一撃一撃がまさしく必殺の一撃だったもし一撃でも当たってしまえばハヤトの体など紙のように引き裂かれてしまうだろう。

だが同じようにハヤトの攻撃もそれに匹敵するモノなのは事実だ。

真の誓約者に至ったハヤトの魔剣の一撃を耐えられる者はこの世にほとんどいない。

膨大な魔力を極縮された魔剣の一撃が当たれば間違いなくバノッサを倒せるはずだった。

 

『どうした?どうしたどうしたはぐれ野郎!』

「ぐ、ぐぐぐぅ!?」

 

そう、当たりさえすればだ。

唯でさえ二刀という手数と振るわれる魔王の力にハヤトの攻撃は届かなかった。

バノッサは魔王なのだ。それもサプレスでも最上位に数えられる餓竜の悪魔王スタルヴェイグの化身とも言えた。

振るわれる刃はバノッサの体の一部でありそれは魔力を食らい自身の力に還元する力を持っている。

あらゆるモノを食らい自身の力の糧にする魔王の力の前にハヤトは焦り始める。

やがてハヤトが守勢に回り始め押されている事を守護者達は理解し始めていた。

 

「マスターを…助けないと」

「ほ、本気で言ってるのモナティ!?あんな台風みたいな中に入れる訳無いでしょ!?」

「で、でもマスターが押されているんですの!モナティはマスターを助けないといけないんですの!!」

「ちょっと待ちなさいよモナティ!?」

 

アカネの静止を振り切ってモナティがバノッサに突っ込んでゆく。

それを見て焦りながらアカネは近くで呆然としているクラレットに声をかけた。

 

「クラレット!アンタそのままでいいの!?このままじゃハヤトやモナティが…」

「………」

「クラレッ――」

「アカネさん」

「カイナ?」

「ここは私に任せてくれませんか?エルジン君とエスガルドとカザミネさんはハヤトさんの援護をお願いします。特にカザミネさんは絶対に近づかない様にしてください」

「承知したでござる」

「分かったよ、カイナお姉さん」

「彼女ノ事ヲ頼ンダ」

 

カザミネ達がモナティの後を追うようにハヤトの援護に向かう。

それを見てアカネが自分も行かなければいけないと思い歩むがもう一度振り返る。

 

「ねえクラレット」

「……」

「いま動かないと…もっと失うわよ」

「…失う」

「じゃ、ちょっくら魔王退治に行ってきますか!」

 

そう言うとアカネは跳び上がって突っ込んでいった。

それを見て微笑んでいたカイナはクラレットの目の前に座りクラレットと目線を合わせる。

 

「クラレットさん、初めまして私は鬼道の巫女カイナといいます」

「……初めまして、クラレットです。カイナさんの事は知ってます。ずっとハヤトの中で見てましたから」

「よかった、それなら色々と説明が省けますね。…クラレットさん聞いてください、私にも…兄と姉が居るんです」

「……」

「私はエルゴの守護者の任を与えられてずっとリィンバウムに居ました。それでも家族の事を忘れたことは一時もありません。だから私はクラレットさんの気持ちが分かりませんけど理解は出来ます。家族を目の前で殺される、きっと身を裂くような苦しみに襲われるとわかります。でも…今それに捕らわれてしまったらハヤトさんはどうなるんですか?」

「ハヤト…」

「私達エルゴノ守護者は誓約者を守る事が任です。でもあなたがハヤトさんと一緒にいるのはそれ以上に大切な事があるからなんじゃないですか?」

「……そうでしたね」

 

クラレットは杖をギュッと握り立ち上がった。

 

「私はハヤトとずっと一緒にいるって約束したんです。こんな所で膝を付いていられない!」

 

クラレットは全身から魔力を放ち始め杖に集約させる。

呼び出す者たちは決まっている、彼女を守り続けた天使と悪魔だ。

 

「こんな私だけど、もう一度力を貸して!ガルマザリア!エルエル!」

 

クラレットが真の名を解き放つとそれに導かれるように黒と白の光が発せられるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

嵐のような斬撃がハヤトを襲う、その攻撃は今まで受けて来たどの攻撃よりも熾烈だった。

 

『どうした!?どうしたどうした!その程度かはぐれ野郎!!』

「グゥ…!うぅぅ――!!」

 

バノッサの刃がサモナイトソードにぶつかるたびにその魔力を削り取られる感覚がハヤトを襲う。

それはバノッサに力を貸している餓竜の悪魔王スタルヴェイグの能力に他ならない。

あらゆるモノを食らい自身の力に還元する力、膨大な魔力を力に変える魔剣はそんな能力の格好の餌だった。

刃と刃がぶつかる度に金属音と共に自分の中の何かが削られる感覚がハヤトを襲う。

ただでさえ満身創痍のハヤトにその能力は余りにも凶悪過ぎたのだ。

やがてハヤトの全身を強化する魔力が乱れてしまう、そしてバノッサはそれを見逃さなかった。

 

『オラァッ!』

「しまっ―!?」

 

ギィンとサモナイトソードが跳ね上げられて決定的な隙を生み出してしまう。

そしてバノッサが開いた片方の腕でハヤトを胴切りにしようとする瞬間、それを阻止するように人影が割り込んできた。

それは緑色の魔力を全身から発しているモナティだった。

 

「させませんのっ!」

『じゃますんじゃねェ!!』

 

バノッサの手を殴りつけたモナティは軌道を変える事でハヤトへの攻撃を防いだ。

そして決定的な隙を見出したモナティはそのままバノッサの顔面を思いっきり殴りつけたのだ。

 

「よし!いいわよモナティ!」

「…え?」

『クククッ』

 

バノッサがモナティの一撃を嘲笑う、ハヤトを除けば間違いなく全員の中で最も破壊力のある一撃を放てるのはモナティだ。

それなのにその一撃はバノッサに傷を負わす事すら出来なかったのである。

 

『殴るってのはなぁ…!』

「モナティ!逃げろ!」

『こういう事を言うんだよ!!』

「ぎゅぅっ!?」

 

パァン!何かが破裂した音がハヤトの耳に届く、彼の目の前では血飛沫をあげながら吹き飛ばされるモナティの姿があった。

何度も地面にぶつかりながらゴロゴロと転がってゆき、瓦礫に激突するとやっと止まった。

モナティは地面に倒れ込みおびただしい血を流している、恐らく顔は完全に潰れているとハヤトは判断していた。

すぐに治療をしなければモナティは恐らく命に関わると考えるハヤトだったがバノッサはそれを許す事はない。

 

「モナティ!!」

『余所見してんじャねェはぐれ野郎!』

「ハヤト!手裏剣分身の術!」

 

ハヤトに斬りかかろうとしたバノッサの前に躍り出たのはアカネだ。

手裏剣を投げると魔力を注ぎ込み大量の手裏剣の分身がバノッサに襲い掛かる。

だがそれらをものともせずにバノッサは突き進むのアカネに向かって横一線に刃を振るった。

ハヤトは目の前で胴が分かれるアカネの姿を見て一瞬目を大きくしたがすぐさまその正体に感づいた。

煙と共に二つに分かれたアカネが消えたのだ。アカネの分身である。

 

「「「「「忍法・アカネ忍軍の術!!!!!」」」」」

『ッ!邪魔すんじゃねぇ!!』

 

襲い掛かる50人を超えるアカネの分身がたった一人に蹂躙されていた。

攻撃は幾つも通っているが魔王と融合している状態の為か強靭になっているため効果が薄かった。

 

「ハヤト、あんたモナティの治療に行きなさい!ここはアタシ達で食い止めるから!」

「だけど…!」

「モナティまともに攻撃受けたのよ!?このままだと死ぬわよ!」

『はぐれ野郎ぉぉぉぉーーーッッ!!』

「うっそ!?もう全滅したの。アカネ忍軍の術!!」

 

再び現れる分身たちだが今度は20人ほどだった。

アカネ忍軍の術は50を超える意思を持つ分身を生み出す強力無比な術だが欠点が二つある。

一つは魔力で編みこまれた分身体のせいで攻撃を一回でもまともに受ければ消えてしまうのだ。

もう一つは恐ろしいほどの魔力を消費してしまう事だがこれはアカネがエルゴの守護者のお陰で解消されている。

だが連続で使えば魔力の消費とは別にアカネの負担が掛かってしまう。

既に戦い始めて使用回数は5回を超える、その反動がアカネにも表れていた。

 

「はぁ!はぁ!ハヤト、早く行きなさい!」

「わ、分かった!」

「アカネお姉さん、僕達が決めるから援護を!」

「おっけー!お姉さんに任せなさい!」

 

エルジンがサモナイト石を取り出して召喚術を発動させ始める、

横に付いたエスガルドは何度も銃をバノッサへと撃ち続けていたが効果は薄かった。

銃弾は確かに当たるが少しばかりの痣が出来るだけでその上すぐに再生してしまうのだ。

 

「ヤハリ、直接攻撃スルシカナイカモシ知レナイナ」

「しかし、迂闊に近づけばモナティの二の舞でござる」

「だったら遠距離から攻撃するだけだよ!行け!【ボース・イン・フリーズ】!!」

 

召喚された浮遊端末はバノッサに接近すると力場を発生させバノッサの動きを阻害させる、

しかしその程度でバノッサの動きを封じる事は出来ないだろう。

だがさらに白いガスとレーザー照射を併用し、バノッサを氷漬けにし始めたのだ。

 

『ググッ!?手前ェェェ―――!!』

「まだだよ!メガ・ワッパー!スタンボム!」

 

立て続けに相手の動きを阻害する召喚術をエルジンは発動させる。

電磁手錠がバノッサの体を縛り上げると電撃を発し、新たに召喚された浮遊端末は頭部に向かって電磁球を放ち続けた。

並みの生き物なら致死するほどの攻撃がバノッサを襲い続けるがバノッサの目は諦めなかった、

むしろ自分の戦いを邪魔された事で怒りを膨れ上げ続けたのだ。

怒り、憎しみ、執着、数多くの負の感情がバノッサの中で渦巻きそれらは魔王の力へと還元される。

そして再び腹部から竜の咢が生み出され黒い極光が撃ちだされた!

 

「うわっ!?」

「エルジン、避ケロ!」

 

放たれた一撃でバノッサを束縛していた召喚獣達が消し飛ばしその黒い極光はハヤトに向かってゆく。

ハヤトは後ろから迫りくる力に気づいていたが躱すことは出来なかった。

もしハヤトが躱してしまえばモナティにその攻撃が直撃してしまうからだ。

 

「メリオール!」

 

サモナイトソードを振るいハヤトが召喚したのは睡蓮花の古妖精メリオール。

前方に何重をも重ねた積層結界を展開したメリオールはバノッサの一撃を防いだ。

だがギシギシと凄まじい圧力が結界にかかりメリオールの表情が厳しいモノになってゆく。

だが問題はそれだけではなかった。

 

「う、うくっ――ぐ!」

『ハヤト!?』

 

魔力の乱れを感じたメリオールが後ろに視線を向けると口から血を漏らしているハヤトがいた。

真の誓約者に至ったハヤトだったがその体は以前のままだ、再び度重なる魔力の放出により限界は近づいていた、

そのせいなのか積層結界が崩れ始めメリオールが意識を強く込めるがそれでもバノッサの一撃を防ぐには至らなかった。

 

『ヒャハ!ヒャハハハハハッ!今度こそ終わりだなはぐれ野郎ぉぉっっ!!』

「畜生っ!」

 

自分の身を削りながら全力でメリオールに魔力を送り続けるハヤトだったがもはや限界だった。

他の守護者達もバノッサを止めようと考えるが余りの力の奔流に近づく事すらままならない。

メリオールも魔力が尽きかけ送還され始めていた。

誰もが諦めかけたその時黒い閃光がバノッサに接近した。

 

『デビルクェイク!』

『何っ!?』

 

ガルマザリアの放ったデビルクェイクが足元を崩してバノッサの体勢崩した。

バノッサは仰向けに倒れ攻撃は天井をぶち抜いて城を更に破壊する、

そして瓦礫がバノッサに落ちてゆきバノッサは生き埋めになってしまった。

 

「はぁ!はぁ!はぁ!」

『レストオーラ!』

 

激しく息継ぎをしていたハヤトの後ろで声が聞こえる。

視線を後ろに向けるとモナティがエルエルに起こされてレストオーラで治療されていた。

無残にも破裂していた顔はその暖かな光に包まれて見る見る治ってゆく。

 

「にゅ…うにゅっ!?」

『気が付いたみたいですね』

「え。エルエルさぁん!?」

 

惚けたような声を出したモナティだったがすぐに頬を叩いて意識をしっかりと戻す。

周りを確認したモナティは自分が気絶していた事に気づいて俯いてしまった。

 

「モナティ、こんな時に気絶なんてして…」

『落ち込んでる暇があるなら早く前に進みなさい、全員戦っているんですよ!』

「は、はいですの!」

 

エルエルに励まされ再び力を入れたモナティが立ち上がる。

だが、それと同時にバノッサを押しつぶしていた瓦礫が吹き飛ばされたのだ。

そこから現れたのは憤怒の表情をしたバノッサだった。

 

『小賢しい真似をしやがってェ、ダレダァァーーッ!!』

「私ですよ」

 

バノッサの視線の先にいたのはクラレットだった。

鋭い目でバノッサを睨むクラレット、強い意志を宿し、そして冷静を超え冷徹にすら感じる雰囲気を出している。

ハヤトはそんなクラレットを見てわずかだがクラレットがソルと本当に兄妹なんだと理解出来た。

 

『クククッ、ソルの野郎と同じ目をしてやがるな。だがな!その程度で俺様を倒せると――』

「倒せますよ」

『…あァ?』

「ただ力に振り回されてる貴方に負けるなんてありえません。私たちが力を合わせれば倒せます」

 

さも当たり前に語るクラレット。

バノッサはそれが気に入らなかった、貴様より自分の方が上だ。

あの男、ソル・セルボルトと同じ目でそう告げるクラレットの目が気に入らなかったのだ。

先程動揺していた女の姿はそこにはない、そこにあるのは冷徹なセルボルトの召喚師だったのだ。

 

『その目で――その目で俺様を見るんじゃねぇぇぇぇ!!!』

 

再び竜の咢から黒い極光が撃ち放たれる、クラレットは冷静にその攻撃を見極めていた。

スッと手をあげるとエルエルがクラレットの下へと戻ろうとするが僅かに間に合わない

 

「任せてください!羅生門!!」

 

クラレットの前に出たカイナが地面に両手を付け羅生門を召喚する。

地面から生えるように召喚された鬼の門はバノッサの攻撃にぶつかり途轍もない衝撃が走る。

先程とは違いエルゴの力を取り戻したカイナだったが魔王の力の前に押され始め門もひび割れてゆく。

もっと力を籠めなければと考えるカイナは更に魔力を注ごうとするがそれを抑えたのは意外にもクラレットだった。

 

「あとは任せてください」

「ですが!」

「単純な力に力で対抗するのは愚作です。私は召喚師です。召喚師には召喚師のやり方があります。エルエル!」

『ええ!スペルバリア!!』

 

クラレットを信じて羅生門への魔力を閉ざしたカイナ、その瞬間門は砕け散り黒い光がクラレットとカイナを襲った。

だが、エルエルはクラレットの指示に従いスペルバリアを展開してその攻撃を防ぎ始めた。

しかしそれは先ほどの二の舞、途端に力に押されエルエルは窮地に陥ってしまう。

 

「エルエル、細くして相手の力を受け流して」

『こ、こうですか?』

「もっと細く、私達の後ろには誰もいないんです。貴女の後ろにいる私達だけを守りなさい!」

『――ふふ、ええ分かりました。それでこそツェリーヌの娘です!』

 

物の言いようが前の主だったツェリーヌに似ていた事で軽く笑うエルエル。

そしてクラレットの魔力操作に導かれ三角形の結界へと変化させたエルエルは魔王の攻撃を完全にしのぐ。

やがて光が収まるとそこにはほぼ無傷でバノッサを見ていたクラレットが立っていた。

 

『なぁ!?』

「望み通り凌いで見せましたよ?カイナさんと力を合わせた事でバノッサ兄さんの攻撃を凌いだんです。言いましたよね?力を合わせれば勝てるって」

『だったら…だったら直接ぶった斬ってやらぁっっ!!』

 

魔力を爆発させて突き進むバノッサにクラレットは冷静に迎え撃った。

 

「エスガルドさん!カザミネさん!アカネ!食い止めてください!」

「ダガ直接攻撃デ無ケレバ効果ガ薄イ!」

「流石にあの魔力の暴風雨の中を戦えるほどの力は拙者には…!」

「大丈夫です。エルエル!ガルマザリア!」

『任せろ!デヴィルスナッチ!!』

『行きます!リカバアンジェ!!』

 

光の粒子へと変化するガルマザリアとエルエルがそれぞれエスガルドとカザミネに憑依する。

内から溢れ出る自身の力とは違う力に困惑する二人だったが、

それがバノッサに対抗できるモノであると理解してからは早かった。

 

「コレナラバ!」

「行けるでござる!」

 

今までとはかけ離れた速さでバノッサの懐にもぐりこんだカザミネは刀を振るう。

その一撃は何とバノッサを後退させるほどの威力を発揮していた。

 

『な、なんだとっ!?』

 

困惑するバノッサだったがその原因はエルエルによるものだ。

悪魔とは逆の存在といえる天使であるエルエルはその攻撃そのものが悪魔への特攻なのだ。

無論悪魔の攻撃も天使のとっては特攻なのだがエルエルは守りの天使の一角、並大抵の攻撃で倒されるほど弱くはない。

 

「!!!」

「いっけぇっ!ドリトル!」

『ぐうぅ!?』

 

エスガルドのドリルは黒い魔力を宿らせて振るわれた。

空気を巻き込むような音をあげながら放たれた一撃はバノッサの肉体を確かに破壊してゆく。

魔王と融合し強大な力を宿した肉体をドリルという破砕目的の武器にガルマザリアの魔力を宿せば破壊する事は容易かった。

もしこれがハヤトのフレイムナイトならばこうはいかない、クラレットのガルマザリアだからこそ可能な一撃だった。

バノッサは行動を阻止されて動揺した、先ほどから雑魚としか認識してなかった守護者達が強敵に変わったのだ。

ヒット&ウェイで攻撃を続け、僅かに生まれる隙をアカネとモナティがカバーする。

そしてエルジンが召喚術でカザミネとエスガルドが直接攻撃で攻め立てる。

再びバノッサが黒い極光を放とうとするがそれを何度も打たせるほど彼らは馬鹿ではない。

行動に移す前にモナティが竜の咢を殴り飛ばし生まれた隙をカザミネとエスガルドが抑え込む。

バノッサは完全に行動を封殺されていた、それを全てたった一人の召喚師が起こした策だった。

 

「………」

 

杖をバノッサの方に向けながらクラレットがハヤトの下に辿り着き背に手を付ける。

するとハヤトの中で暴走していた魔力が途端に落ち着き始めたのである。

 

「すごい…」

 

カイナはそう呟いた、自分では十秒以上もかかった行為を一瞬で安定させたのだ。

クラレットはそのまま背に手を付けながらハヤトに寄り添うように体を合わせた。

クラレットが何をしようとしてるのか、ハヤトにはそれが理解できた。

 

「……いいのか?」

「なにがですか…?」

「分かってるだろ?バノッサを倒して本当に――」

「魔王を取り込んだバノッサ兄さんはもう助かりません、だったら私達が…」

「そういう事を言ってるんじゃない。本当にこのままでいいのかって事だ」

 

ハヤトはクラレットを責めてるわけじゃない、だが我慢して飲み込んでしまって本当にいいのかと説いているのだ。

クラレットは思いつめた表情でハヤトを見る、そして答えた。

 

「本当なら助けたい、救いたいんです。その機会は今まで何度もあったでも…!どうにもできなかった」

 

今までバノッサを助けられる機会はいくらでもあった。

だけどその全てをハヤトとクラレットは見逃してしまったのだ。

そしてもうどうにもならないところまで来てしまった…。

 

「だから私が終わらせなければいけないんです。私が!兄さんの妹の私がせめて終わらせてあげないといけないんです…!」

「クラレット…」

「だから…ハヤト。私に力を貸してください。バノッサ兄さんを止める為に力を貸して…!」

 

縋るようにクラレットがハヤトに抱き着く、

助けられないのならせめて止めなければならない。

それがバノッサをここまで追い込んでしまった自分たちの役目だと二人は悟っていた。

 

「当たり前だろ?一緒にいるって言ったんだからな」

「ハヤト…」

「それに俺は誓約者だ。皆だけ戦わせるわけには行かないからな!」

 

再びハヤトが立ち上がる、それを支えながらクラレットも立ち上がっていた。

クラレットの目は赤かった血のように赤いわけじゃない、泣いて目が充血しただけだ。

ギュッと杖を握りしめてクラレットはハヤトの後ろに立つ。

それを見たハヤトは笑っていた。

 

「久しぶりだよな。クラレットが後ろに居てくれるのは…」

「私も、ハヤトの背中を見るのを久しぶりに感じます…」

 

離れてたのは一週間ほどなのに、まるで数年も会ってなかった気がした。

だからこそ二人はこの瞬間を噛みしめて武器を強く握りしめた。

これからもこの時を続かせるために戦う覚悟を決めた。

 

「行くぞクラレット!」

「はい!ハヤト!」

 

離ればなれの二人はついに互いの居場所を取り戻す、そして守る為に魔王に立ち向かう。

 

「みんな!」

 

ハヤトの声に気づき全員ハヤトの傍に集まる。

誰も声をかけなかった、全員がハヤトの次の言葉を待っていた。

 

「俺に力を貸してくれ!!」

「はいですの!」

「まっかせなさい!」

「承知でござる!」

「我々ハモトヨリソノ為ニココニイル!」

「任せといてお兄さん!」

「お役目、果たさせていただきます!ハヤトさん!」

「行きましょうハヤト!」

「よし、行くぞ!バノッサ!!」

 

全員がバノッサに最後の攻撃を仕掛ける、

それを正面からバノッサは迎え撃とうとした。

バノッサには絶対の自信があったのだ。自分の中にある魔王の力は絶対に負けるわけがないという自身が。

 

『来やがれ!はぐれ野郎ぉぉぉッッ!!!』

 

地面に亀裂を走らせながら突き進むバノッサ、

最初に突っ込んだのはモナティだ、バノッサと同じように爆発的な魔力を発しながら拳を振るう!

 

「うにゅぅぅぅぅぅーーーーーッッッ!!!!」

 

今までにない全力中の全力の拳と剣を握るバノッサの拳がぶつかりある。

バノッサは驚愕した、先ほどと違いモナティの攻撃とバノッサの攻撃が互角だったからだ。

空いている手でバノッサはモナティを斬り裂こうと振るうが、それを防ぐようにエスガルドがドリルを突き立てる。

 

『ッッ!!手前ェ!』

「余所見するなんて余裕じゃない?」

 

バノッサの背後に回り込んだアカネが爆弾付きの苦無をバノッサの首元に突き刺し離れる。

モナティはうさきだんで攻撃しながら下がると爆弾は爆発してバノッサにダメージを与えた。

だが所詮ただの爆弾、バノッサに致命の一撃を与えるには程遠い。しかし動きを止めたのは事実だった。

 

「ノイラームの名の下、エルジンが君の力を望む!行け!【ダブルインパクト】」

 

巨大な機械兵器のナックルボルトから撃ち放たれた二つの鉄拳がバノッサに襲い掛かる。

体勢を崩されたバノッサはその攻撃の直撃を受けて怯むが魔力を開放させて正面から打ち崩した。

だがエルジンもエルゴノ守護者の一人、ロレイラルのエルゴの力を秘めた一撃は間違いなくバノッサに傷を負わせてゆく。

 

「鬼神様、お力添えをお願い申し上げます!」

 

鈴の音がバノッサの耳に届く、天から迫るのは巨大な大太刀。

ハヤトが幾度となく召喚し続けた彼の最強召喚術だった鬼神将の姿があった。

バノッサは二刀の剣を盾に使い鬼神将ガイエンの攻撃を防ぐ、耐え抜けば勝つことが出来るそう思っていた。

だが、バノッサに迫る白い刃があった。

 

「隙ありでござる!キエェェェェーーーイイッ!!」

『ぐぅっ!?』

 

カザミネの居合の一太刀がバノッサの腹部を斬り裂いた、

エルエルの魔力を宿した一撃はバノッサに苦痛をもたらしバノッサは膝を付く。

そしてガイエンの力に耐えられずそのまま地面に押しつぶされてしまった。

だがバノッサは立ち上がった、そう目の前にバノッサが倒すべき男が迫っていたからだ。

 

『はぐれ――野郎――!!』

「バノッサ!」

『はグレ野郎ォォォォーーーーッッ!!!』

 

振るわれる憎悪の剣がハヤトの虹色に輝く絆の魔剣とぶつかり合う。

拮抗は一瞬だった。虹色の魔剣は剣ごとバノッサの体を斬り裂いたのだ。

バノッサの意識が跳びかけた、だがバノッサは意識を失おうとはしなかった。

 

『負ケテ堪ルか!俺様はテメェヲ!!』

「……終わりだ、バノッサ」

 

ハヤトが更に剣を振るいバノッサの両手を斬り落とす。

そしてハヤトがその場から離れるとバノッサの視界に映ったのは光と闇を融合させているクラレットの姿だった。

 

「………さようなら。バノッサ兄さん」

 

エルエルとガルマザリアの融合召喚術。

反逆の射手イスカリオスがバノッサに向けて放たれる。

両腕を失いハヤトに斬り裂かれて魔力を斬り裂かれたバノッサに防ぐ術はなかった。

 

『オレハ――オレハァ――!』

 

バノッサは目的を果たせずに輝きの中へと消えてゆく。

一人の少年と決着を付けようとした男は何もできずに打倒されていく。

それを見ていたクラレットの頬には一滴の雫が流れていた……。

 

 




クラレットが情緒不安定過ぎる…。
まあ、彼女も目の前で肉親失ったり色々続くんで大変なんです。
因みに相当やせ我慢してるだけなんで二重人格とかじゃないんでちゃんと前話で統合されてるんで気にしないでね。

ゲームのボスってこんな風に倒されてる感じのラストだな。
削り→削り→削り→必殺技→撃破
大抵一騎打ちのせいで集団で挑むとリンチになってしまう。
シミュレーションゲームがリンチゲーと呼ばれる所以ですね。

それではご愛読ありがとうございました。

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