サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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お久しぶりです、ハヤクラ派です。
仕事忙しかったり色々ありましたけど細々と書いてました。

実は一旦書き終わったら消してしまって心折れてましたわ。
しかも時間が空いたせいで書き方を忘れかける始末、こりゃあかん!
1編ももうすぐ終わりですけどあと少しよろしくお願いいたします。


第52話 世界が割れる時

 目の前で魔力で出来た炎にバノッサが燃やされている。

【反逆の射手・イスカリオス】

 ハヤトがこの術を見るのは3回目だったが今回は以前よりさらに洗練されていた。

 サプレスのエルゴの欠片を宿し真の意味で前に進んだクラレットは以前とは圧倒的に異なる。

 友誼とも服従とも違う召喚術を用いて完全制御の下放たれた攻撃は至竜の一撃に匹敵するのは間違いない。

 間違いなくその一撃はバノッサを吹き飛ばした。

 肉片すら残らないほどの魔力砲はバノッサという存在をこの世から消し去ったはずだった。

 

「―――――」

 

 息を飲んだ。

 誰もが驚愕せざる負えない、その中でも最も冷静だったクラレットの視線は驚愕ではなかった。

 冷静な分析、本質では悪に傾いている少女の冷徹な意思の行動だ。

 現状目の前で行われている現象を幼い頃に学んだ叡智を用いて紐解いていた。

 そして答えを導き出したクラレットは行動に移る。

 

「―――ガルマザリア、エルエル」

 

 その一言で理解した天使と悪魔は行動に移る。

 エルエルは剣を光に分解して弓と矢を生み出し空へと向けた。

 

『クピトアロー!』

 

 天へと放たれた光の矢は雨の様に分裂してバノッサへと襲い掛かる。

 燃え盛るバノッサの全身の光の矢が突き刺さるがなんの動きもない。

 

『ふん!』

 

 槍に魔力を注ぎ込んだガルマザリアがバノッサに向けて投擲すると、

 吸い込まれるようにバノッサの体に突き刺さった。

 ガクンの仰向けになるバノッサだったがその違和感は変わらずだった。

 突き刺さった槍も全身に刺さる光の矢も変化がないのだ。

 それを見てクラレットはバノッサを凝視する、何も見逃さない様に、確信が持てるまで。

 

「―――やっぱり」

「え?」

 

 呟くクラレットにハヤトは疑問を抱いた。

 何がやっぱりなのか、その答えはすぐにやって来た。

 

『クククククッ――』

 

 バノッサが嘲笑う。

 体に突き刺さる光の矢と悪魔の槍は粒子に変わりバノッサへと吸い込まれてゆく。

 そしてバノッサの体が肥大化し始める、より異形に、より暴力的に近づき始める。

 ゴボゴボと液体とも肉質とも言い表せない音が鳴り始めた。

 

『もっとだ、もっと寄越しやがれ魔王!俺様に力を、もっと力を―――!!』

 

 周囲の魔力がバノッサへと吸い込まれ始める。

 クラレットはガルマザリアとエルエルの魔力が吸い込まれ始めている事を理解し二人を一旦送還する。

 しかしサプレスのエルゴの欠片を身に宿すクラレットは自身が吸い込まれ始めてることに気づくが何かが起こる前にハヤトに支えられる形でその場に留まる。

 

「クラレット、バノッサに何が起こってるんだ?」

「……近づいているんです。悪魔王スタルヴェイグに器としてでなく存在そのものが近づいているんです」

「だったら止めないと!」

「確かに止めるべきです、でも私達には止める術は…」

 

 ハヤトとクラレットでは魔王の力を止める事は不可能だった。

 本体はサプレス側に存在するのだ、どうあがこうと止める事は出来ない。

 やがてバノッサの体が更に巨大なモノに変貌する、血のように赤黒くそして双頭の竜を背中から生やし始めた。

 限りなく本体へと近づき始めてるバノッサに全員恐怖を感じる。

 絶対に適わないと考えてしまうほどの威圧感をバノッサが放っているのだ。

 そして不安定だった体は安定し始めてバノッサの目はハヤトを見定めた。

 

『待たせたなはぐれ野郎』

「バノッサお前…!」

『なんて顔してやがるまさか俺様に同情してるのか?……クククククッヒャーッハハハハ!!笑わせてくれるなはぐれ野郎!言ったはずだろ?俺様は手前ェを倒せればそれでいいんだよ。そうだ、それでいいんだ。俺様はその為に魔王になったんだ!はぐれ野郎ぉぉぉぉーーーーッッ!!!』

「――ッ!」

「ハヤト!」

 

 クラレットの声で我に返ったハヤトはサモナイトソードを振るう。

 バノッサから振り下ろされる新たに生み出された巨剣がハヤトを襲った。

 刃と刃がぶつかり合い火花と魔力の衝撃が周囲の障害物を吹き飛ばす。

 ハヤトの横に居たクラレットはその衝撃を利用して後方に跳び、仲間達も同じように距離を取った。

 

『防ぎきれるか?はぐれ野郎!』

「ぐ…ぐぅ!!」

 

 先程よりもあまりに重すぎる一撃、自分よりも3倍は膨れ上がった体格から放たれた一撃はあまりに重かった。

 そして餓竜の悪魔王の能力である食らう力がハヤトの魔力を食らいハヤトを追い詰める。

 だがハヤトは諦めなかった、無限に湧きだす魔力を剣に押し込んでバノッサの巨剣を押し始めたのだ。

 

『女のお陰でさっきよりもマシになった見てェだな。だがよ。こいつはどうやって防ぐ!』

 

 バノッサの背中に生えた双頭の竜がハヤトに食らいつこうと襲い掛かってくる。

 動く事が出来ないハヤトは竜に対処する事は出来なかった、だがそれはハヤトが対処できないだけだったのだ。

 

「マスター!」

「アタシたちがいる事を忘れるんじゃないわよ!」

 

 モナティが竜を殴りつけて怯ませる、アカネも爆弾を投げつけて竜を怯ませた。

 だが魔王の体の一部である双頭の竜はその程度で行動を止めようとしない。

 今度はハヤトではなく、周りの連中から仕留めようとし始める。

 まずは目の前で動きまわるモナティに襲い掛かった。

 

「うさきだんですの!」

『無駄だウサギ野郎!もうそんな攻撃効くわけねェだろ!!』

 

 放たれたうさきだんだったがバノッサに直撃したと思えば粒子に分解されて取り込まれる。

 純粋な魔力の攻撃であるうさきだんはもうバノッサには届く事はなかった。

 

「ノイラームの名の下、現れよ!シェアナイト!!」

「サセン!」

 

 召喚されたシェアナイトが武器を振るい双頭の竜を斬り刻む、

 そしてそれに合わせるようにエスガルドもドリルでバノッサを攻撃した、

 スピードとパワーを乗せた一撃がバノッサの肩を貫きドリルで引き裂いてしまう。

 巨剣に力が入らなくなり自由になったハヤトは魔剣に魔力を乗せたまま再びバノッサを斬り裂いた。

 

「!?」

 

 確かに斬った。斬ったはずだとハヤトは思っていた。

 だが切り口が凄まじい勢いで再生し始めたのだ。

 サモナイトソードに宿っていた魔力を食われそれを使い傷を再生したのだ。

 

『言ったはずだはぐれ野郎…!もうそんな攻撃効くわけねェってな!!』

「くっ!シャインセイバー!!」

 

 サモナイトソードに魔力を通しハヤトはシャインセイバーを召喚して四方からバノッサを串刺しにする。

 だが、突き刺さって一時的に傷を付けるがすぐさまシャインセイバーの魔力を食われ再生し始めてしまう。

 

『無駄だ無駄だ無駄だ!!!消しトベェェェー―――!!!』

「エルエル!スペルバリアぁ!」

 

 再び放たれる黒い極光がハヤトを襲うがクラレットがエルエルに指示を出し結界を展開させる。

 三角形に形成された結界はバノッサの攻撃を上空へと受け流す、それだけでは収まらずクラレットは更なる指示を発した。

 

「エルエル、行ってください!ガルマザリアは牽制を!」

『しくじるなよ、駄天使!!』

『貴方こそ、悪食悪魔!!』

 

 ガルマザリアはデヴィルクェイクでバノッサの動きを制限させる、

 そしてエルエルが両手から光で出来た剣、バニッシュレイドでバノッサを切り裂いた。

 バノッサの動きが一瞬鈍る、天使の力を込めた一撃が魔王の肉体に効いているからだ。

 

「ハヤト今です!」

「―――サモナイトソォーードォォォーーーッッ!!!」

 

 ハヤトが叫びサモナイトソードを掲げると虹色に輝く光の柱が上がる。

 その一撃は防御を捨てたハヤトにとって最大の一撃とも言える攻撃とだった。

 だがバノッサもそんな無防備な姿を晒している状況をただ見ているだけではない。

 ハヤトに迫ろうとバノッサが動くがそれを阻止する様に召喚術が発動する。

 

「シロトト様――お願い申し上げます!!」

 

 鈴を鳴らし異界より召喚した言霊を操る妖怪変化がバノッサに襲い掛かる。

 放たれた言霊はバノッサの動きを抑え込む。

 

「バノッサぁぁぁぁーーーッッ!!」

『はぐれ野郎ぉぉぉーーーッッ!!』

 

 天より振り下ろされた光の柱がバノッサを叩き切った。

 双頭の竜はその力に耐え切れずに四散しバノッサの肉体も千切れてゆく。

 彼らはすがるようにその光が全てを終わらしてくれると信じていた。

 やがて光が収まるとそこには肉片しか残っていなかった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 サモナイトソードを杖にハヤトは何とか立っていた。

 油断はしていない、本当にこれで終わったかなんてわからないから。

 ジッと肉片を睨み付けているとやがて変化が訪れる。

 肉片たちが集まり再び増殖し始めて再生を行い始めたのだ。

 

「ここまでして――」

「悪魔たちの不死性、やっぱりこの程度じゃ…」

 

 カイナとクラレットが呟いた。

 カイナはここまでやっても滅する事が出来ないのかと、

 そしてクラレットはサプレスの生命体の不死性をここまで再現しているのかと、

 常に魅魔の宝玉からサプレスの魔力を取り込み続けるバノッサは不死に近い存在だ。

 滅ぼすには肉片残らず魂ごと消し飛ばす必要がある。

 現状それが出来る方法は皆無に等しかった。

 

「―――エスガルド!カザミネ!アカネ!時間を稼いでくれ!」

「じ、時間を稼ぐって?どういう事?あの一撃でも倒しきれ無い相手なのよ!どうしろっていうのよ!」

「アカネ殿落ち着くでござる、ハヤト。おぬしには何か策が?」

「策って程でもないさ…単純にさっきより強力な力で押し切るしかない」

「先程ノ攻撃ヨリモ強力ナ力…ヤハリ」

「ああ、至竜たちの力を借りる。四界の至竜を召喚して一気に攻撃する!」

「お兄さん、至竜って…」

「ゼルゼノンは見ている、なら召喚できるはずだ。だけど俺一人じゃ無理だ。俺が魔力を皆に分ければ召喚する事は出来るはずだ」

「確かにそうだけど…」

「ハヤトアンタもうボロボロなのよ!?それなのにそんなことしたら!」

 

 アカネがハヤトのやろうとしてる事を止めようとする、

 既に限界の限界を超え続けて戦い続けているハヤトだ。

 至竜を4体も同時に召喚すればどれ程の負荷がかかるか想像出来る。

 それを心配するアカネを論すようにハヤトは答えた。

 

「だけどこれしかないんだ、アイツは常にサプレスの魔力を取り込み続けている。封印って手もあるかもしれないけどたぶんすぐに破られるはずだ。それにもう時間がない」

「時間…ですの…?」

「リィンバウムの結界は多分もうすぐ砕けるはずだ」

「はぁ!?結界が砕ける!?」

「えっと…この世界を守る結界があるんですの。それがもうすぐ砕けちゃうかもしれないんですの」

「え、いやちょっと待って!?どゆこと?」

 

 事情を知らないアカネが頭を抱え混乱する、

 しばらく考えるがとんでもない事が起こりそうという事を理解出来たアカネはハヤトを見た。

 全身ボロボロ、よく見ると衣服におびただしい血痕があるなど酷い姿だがその目に強い決意を感じる。

 それを見たアカネが深くため息を吐くとバノッサの方に視線をやり苦無を構えた。

 

「アンタっていつもいつも無茶するけど、それって皆を守る為にしてたよね」

「…ああ」

「だったらさ、アタシに出来る事はアンタを守る事だけって訳!なんたってエルゴの守護者なんだからね♪」

 

 そう言い放つとアカネが再生途中のバノッサに向けて跳んでゆく。

 

「ハヤト、拙者はえるごの守護者と言う者ではござらん。だが折角ここまで来たのだ最後まで戦う覚悟でござるよ」

「カザミネ…ああ頼む!」

「承知!」

 

 カザミネが刀を抜きバノッサへと駆けて行く。

 

「エルジン、ハヤトノ事ヲ頼ンダゾ」

「うん、エスガルドも気を付けて!」

「分カッテイル、ギリギリマデ時間ヲ稼セイデミセヨウ!」

 

 エスガルドのドリルが駆動し始めてバノッサへとエスガルドは進撃した。

 

「ハヤト」

「クラレット」

 

 ハヤトが後ろを向くとクラレットとカイナが立っていた。

 

「事情は分かっています。時間はかけれませんすぐに始めましょう」

「ああ、皆俺の周りに集まってくれ!」

 

 カイナにエルジンとモナティ、そしてクラレットがハヤトの周りに集まる。

 ハヤトはサモナイトソードを構えて目を瞑り自身の魔力を高めてゆく、

 そしてハヤトの全身から膨大な魔力が全員に送られてきた。

 彼らエルゴの守護者は誓約者であるハヤトから豊富な魔力が送られて来ている。

 その為ハヤトが意識して送ることが出来れば自分が普段扱うほどの膨大な力を行使させることが出来た。

 

『はぐれ野郎ぉぉぉーーーッッ!!』

 

 怒号をあげるバノッサがハヤトに向かって迫ってくる。

 

「させないって言ってるでしょ!!」

 

 サルトビの術で跳んだアカネがバノッサの足を斬り裂き動きを制限させる。

 

「キエェェーーーイイィィッッ!!」

 

 動きが鈍ったバノッサに向けてカザミネが刀を振るい落とす、

 肩からバッサリと切り裂かれるが刀が途中で止まってしまった。

 

「しまった!?」

『さっきからうぜぇんだよ!中途半端な力しか持ってないくせに動き回ってんじゃねぇ!!』

「ぐうっ!?」

 

 パキィンと刀が折れ振るわれた剛腕がカザミネを吹き飛ばす、

 何度も瓦礫を突き破りカザミネの姿は瓦礫の中に埋もれてしまった。

 

「カザミネェ!」

『女!手前もだぁ!!』

「ッ!?」

 

 振るわれた巨剣がアカネの体を斬り裂くが煙と共に丸太が出現する。

 変わり身の術で避けたアカネが背後からバノッサに攻撃を仕掛けようとするが、

 背中から生える双頭の竜がアカネに食らいついた。

 

「うわぁ!?」

『食らってやるぜ!』

「サセン!」

 

 アカネを食らっている竜に銃弾を撃ち込みさらに接近したエスガルドがドリルで竜を打ち砕いた。

 しかし再び再生を始める竜、その行動を制限させようとアカネを庇いながら何度も銃を打ち込んでゆく。

 

『効かねぇ、効かねぇ効かねぇ!!!』

「ムッ!」

 

 巨剣が暴れる様に振り回されるがエスガルドはそれをドリルで受け流してゆく、

 彼の目的は戦い勝つ事ではなく、ハヤト達の準備が済むまで時間を稼ぐ事だ。

 だがたださえ強力なパワーと魔力を持つバノッサの攻撃を防ぎ続けるのはエスガルドでも不可能だった。

 ドリルの回転機構が既に衝撃で壊れており自己修復機能もこの状況では使用できない。

 

『オラァッ!!』

「銃器破損、ダガマダヤレル!」

 

 振るわれた居剣がエスガルドの左手の銃を破壊してしまう、

 しかしエスガルドは撤退する事を選択しなかった、自分が一人ではなく仲間と共に戦っている事を彼は知っているからだ。

 

「アカネ忍軍の術!!!」

 

 竜に食われた痛みに耐えながらアカネが大量の分身を生み出す、

 大量といえどその人数は僅か十人、しかしそれでも今この状況において間違いなく最善の手だった。

 大量のアカネがバノッサに跳びついて視覚も動きも制限させる、

 アカネは気づいていたのだ、ハヤト達が準備を終えている事に。

 

「やっちゃえハヤトー!」

「エネルギーノ安定化ヲ確認、引クゾ」

 

 役目を終えたエスガルドがドリルを収納してアカネを担ぎあげてその場から離れる。

 そして離れた先に四界の魔力を限界まで溜めたハヤト達が居たのだった。

 

「行くぞみんな!」

「お任せください!」

「お兄さん、任せて!」

「おまかせですの!」

「行きます!―――サプレスのエルゴの守護者、クラレットが汝の力を望む…!!」

 

 クラレットが杖に魔力を注ぎ力を高める、同じようにカイナも舞う様に鈴を振るい自らの主神に願い奉る、

 モナティは魔力を高めて純粋に願った、エルジンはハヤトの導きに従いゼルゼノンを召喚しようと挑戦する。

 各々の召喚する方法は異なるがそれは間違いなくこの状況を打破したいという意思に基づくものに違いない、

 

『何してやがる…!やらせねぇぇぇーーーッッ!』

「させないでござる!アカネ殿!」

「こなくそぉぉーーーっっ!!」

 

 バノッサがハヤト達に向けて黒い極光を討ち放とうとするが、瓦礫からカザミネが姿を現して突っ込んでくる、

 カザミネはアカネに呼びかけてアカネは半場やけに大量の苦無をバノッサの顔面に投げ込んだ。

 バノッサの視界が一瞬防がれる、その一瞬を突き、カザミネがバノッサの顎に掌底を食らわせてそのまま押すようにバノッサを引き倒した。

 僅か二人だけ残ったアカネがカザミネを抱えてその場から離れてゆくとアカネは叫んだ。

 

「十分引き付けたんだからこれで外したら承知しないわよ!」

「任せろアカネ!これで決めてやる―――バノッサ!これで終わりだぁぁぁーーーッ!!!」

 

 ハヤトが溜めこんだ魔力を解き放ち、召喚術の引き金を引く。

 それに押されるように彼らは召喚術を発動させた。

 不安定だった四界の魔力は形作られるように巨大なゲートを生み出す、そして…。

 

「お願い申し上げます!鬼龍ミカヅチ様!!」

「力を貸してくださいですの!ゲルニカさん!!」

「来てくれ!機竜ゼルゼノン!!」

「バノッサ兄さん――これで…終わりです!神竜レヴァティーン!!」

 

 倒れ込むバノッサは見た、五界において最も力のある存在を、

 生命が辿り着く最も力のある存在である至竜、それが四体も自分に牙を向いているのだ。

 その咢が、宝玉が、砲身が自分に向けられて刹那的な魔力を討ち放とうとしていた。

 あらゆる生命はその光景に無力感を感じ何もなせずに滅んでゆくはずだった。

 しかし、バノッサは……。

 

『なにが至竜だ…舐めんじゃねぇ…俺様を舐めるんじゃねぇぇぇぇーーーッッ!!!』

 

 バノッサは立ち向かう事を選んだ。

 自分は人間じゃない、世界を滅ぼす力を持った魔王という存在に変わったという絶対の自信があったからだ。

 双頭の竜の咢から黒い魔力が放たれバノッサの体を包み込む、そして勢いのままバノッサは至竜に突っ込んでいった。

 

「バノッサァァァァーーーーッッ!!!」

 

 剣を振り下ろすハヤト、それはまさしく攻撃の引き金だった。

 至竜たちはバノッサに向けて各々の最大の攻撃を繰り出した。

 

『ぐ!うぐぐぐ!うがぁぁぁーーーッッ!!』

 

 肉弾と化したバノッサは至竜の攻撃と拮抗していた。

 消滅する肉体からドンドン再生を始めておりまさか食い止められるのではとハヤト達は危惧する。

 しかしそれはありえない事だった、なぜなら至竜の攻撃はそのような生半可なモノではないのだから。

 それぞれが街どころか国を亡ぼせる力を所持する至竜たち、その力を個人にぶつけられればどうなるか。

 

『俺様は…俺様は…魔王だ!この程度でやられたりしねぇ!もっとだもっと力を寄越しやがれぇェェェ―――!!!!』

 

 再生が追い付かずバノッサの体が消滅してゆく。

 既に肉体の3割が消滅していた、だがバノッサは屈したりはしない。

 彼にはもうこれしか残っていないのだ、絶対の力を持つ魔王の力それをバノッサは信じていた。

 そしてこの窮地がバノッサを更なるステージに引き上げてゆく。

 

『ククククク……』

 

 バノッサは何かを聞いた、恐らく魔王から何かを聞かされたのだ。そして拮抗している力を解いてしまった。

 至竜たちの攻撃がバノッサの体にまともにぶつかりバノッサの肉体は一気に消滅してゆく。

 

『全部食らえって言うんだな?いいぜ、やってやろうじゃねぇか!俺様は…!俺様は魔王バノッサだぁぁぁ―――!!』

 

 与えられた最後の居場所に縋りつくバノッサはそれを決して手放そうとはしなかった。

 彼にはそれしかないから、彼に残されたのはそれしかなかったから、だからこそその道の先駆者である魔王を信じたのだ。

 やがて至竜の攻撃がバノッサの体を包み込み、不安定だった魔力が膨張して破裂する。

 衝撃と爆音が響き渡りバノッサのいた一角が完全に消し飛んでいた。

 

「はあ…はあ…」

「や、やったんですの?」

 

 召喚されていた至竜たちが還ってゆく。

 至竜召喚という疲労感から召喚した者たちは全員膝を付いていた。

 

「………」

 

 ハヤトはバノッサのいた場所を睨み付ける、これで終わってくれと願っていた。

 だがハヤトにはこれでバノッサが終わるとは思えなかったのだ。

 そしてその予想は当たってしまった。

 

『いい気分だぁ…いい気分だぜェはぐれ野郎』

「バノッサ、お前…!」

 

 ぐじゅりぐじゅりと肉片が膨張しては千切れてゆく。

 だがそれは確実にバノッサの体を再生させていた、より大きく、より強く、バノッサは変わってゆく。

 背中の双頭の竜はずるりと抜け落ちて動き出す、意思を持つがごとくこちらに敵意を放ち始めた。

 そしてバノッサの体に更なる変化が起こり始めた、バノッサの胸に光を放つ宝玉が現れたのだ。

 それはまさしくバノッサを変えた源である魅魔の宝玉だった。

 それだけではない、周囲にも異変は起こり始めていた。

 

「な、なんなんですの…アレ…」

「え……な!?」

 

 アカネとモナティが上空を見るとそれにヒビがあった。

 何もない空間に確かに見えるヒビ、あれを見た瞬間クラレットの顔つきが変わる。

 

「結界が…持たなくなってきてる…」

「え?」

「至竜召喚の影響です。四体の至竜を召喚したせいで負荷が結界にかけられたんです。それだけじゃない、バノッサ兄さんの影響で結界の修復が追い付かない、もう結界が壊れるまで時間がありません!!」

『そうか、時間はねェ見てェだな。だが安心しろその前に手前ェらを殺してやるからよ』

 

 バノッサは空に手を掲げるとその魔力を解き放つ、あらゆるものがひれ伏すであろう絶対的な力が発せられた。

 

『俺はもっと強くなる…もっと、もっとだ!誰も俺様には敵わねェ!!俺様がこの世界で最も強い存在なんだァ!!』

 

 獣が吼えた、自身は絶対強者だと宣言をした。

 誰もそれを否定する事は出来ない、なぜなら目の前の怪物は真にそうと言える存在なのだから。

 だけどそれでもハヤトは諦められない、誓約者だからではない、仲間を守る為にここにいるからだ。

 バノッサを野放しにしてしまえば最悪の出来事が起こり続けるのは必須だ。

 だからこそハヤトは更なる力を引き出そうとする、無限にも等しいエルゴの力をハヤトは引き出し始めた。

 膨大な魔力が彼を通して守護者達に送られる、そしてその彼もまた人が制する事の出来ない力を発し始めた。

 だが…。

 

「―――え?」

 

 クラレットが呆けた声を出してしまった。

 

「――あ?」

 

 ぐらりとハヤトの視界が真っ赤に染まり彼の体に力が入らなくなる。

 ハヤトの目から血や耳から血か流れる、そしてカランとハヤトはサモナイトソードを手放しその場に倒れてしまった。

 

 

「あ…あぁ!ハヤトォ!!」

 

 クラレットがハヤトを抱きかかえる、突然の事態に回りは何も理解できなかった。

 その中で悲痛な顔を浮かべたカイナだけがこの事態を理解していた。

 

「限界が…来てしまった」

「限界って!?限界ってどういう事よ!?」

「ハヤトさんがエルゴの力を手に入れて一週間ほどです。たった…たった一週間、それだけでエルゴの力を律する事なんて出来るはずがないんです。だからハヤトさんは限界が来てしまったんです。もう、戦えない……」

「は、ハヤト…お主」

「ハヤト!ハヤトハヤト!!」

 

 クラレットがハヤトに呼びかけ続けるがハヤトは何も答えない。

 治療しようにも迂闊に魔力を用いた召喚術を行使すればハヤトは傷ついてしまう。

 クラレットは何もできなかった、こうしてハヤトを抱きかかえて声をかける事しか彼女には出来なかった。

 そしてそんなハヤトを嘲笑うものが存在していた。

 

『ククククッッ!だろうな、そうなると思ったぜ!無様だなはぐれ野郎!!』

「な、何がおかしいんですの!」

『手前ェは気づかねぇのか?人間の分際で化け物みたいな力を使ってるんだ体がもつわけねェだろ?だが俺様はちげぇ俺様は魔王になったんだ!はぐれ野郎如きがどうあがこうともう勝てるわけねぇんだよぉ!!』

 

 バノッサの宣告に誰も言い返せなかった。

 人を辞めたバノッサ、人であり続けようとするハヤト、

 同じ力を持っていようと人である限りハヤトはバノッサに勝つことは出来ない。

 人と言うのはどうしようもなく弱い存在だからだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 遠くにクラレットの声が聞こえる…。

 俺はまた倒れたのか?

 

 目の前にいるはずのクラレットの声をハヤトは聞き取れなかった。

 ソルとの戦いで倒れた時とは違う、体と心が分かれてる様にハヤトは動けなかった。

 だがハヤトの耳に届いたのは仲間の声じゃなかった、今彼が対峙している存在だったのだ。

 

 ―――俺様は魔王になったんだ!はぐれ野郎如きがどうあがこうともう勝てるわけがねぇ!!

 

 そうかもしれない、バノッサは不死身だ。

 至竜四体の同時攻撃を仕掛けてもバノッサは倒せなかった…。

 今の俺じゃ…『今の』俺じゃ倒せない…。

 

 ハヤトは頭の中でなんども勝つ方法を考えていた。

 圧倒的な敵の存在の前に、そして結界の崩壊というタイムリミットの前に、

 彼は冷静ではなかったのだ、守る事ではなく勝つ事を望むほどに。

 そしてそんな中彼はある事を思い出した。

 

 …あ。

 

 ―――このリィンバウムに住む全ての生物は至竜に至れると言い伝えられてますけど…

 

 そうだ。

 

 ―――自身の中にある負の意思に打ち勝ち、その力を使い魂の力を底上げする試練。今でこそ至竜と呼ばれる者たちが打ち勝ってきた試練よ

 

 ある、たった一つだけ、一つだけバノッサに勝つ方法が。

 

 ―――至竜とはエルゴに近づきし者達の事、エルゴとはそれら全ての元と言える存在なのです

 

 俺は誓約者になったんだ。

 なら出来るはずだ、今の…今の俺ならきっと!!

 

 彼は選択してしまう、

 誓約者という存在が。

 魔王という最強の敵が。

 そして立つ事すらままならない自身が。

 多くの切っ掛けが彼にその選択をさせてしまう、

 それは裏切りであり自身を否定するという事なのに彼はそれを選んだ。

 

 サモナイトソードに手を伸ばしその刃を自身へと向ける。

 自身を作り替える為に、虹色の輝きを発する自身の魂へと刃を向けた。

 そして彼は迷うことなくサモナイトソードを突き刺そうとしたとき……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の手を優しく包むもう一つの手に阻まれたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 音が戻る、視界に光が戻る。

 俺の手には俺を止めようとする手が重なっていた、彼女の手がそこにあった。

 視線を彼女に向けると彼女は泣いていた、泣きながらこちらを睨み付けている。

 

「いま、何をしようとしてたんですか?」

 

 自身が何をしようとしていたのか、今やっと理解できた。

 俺は裏切ろうとしたんだ、約束も仲間も、大切な人を裏切って勝利を得ようとしたんだ。

 目の前にいる魔王と同じ選択を俺はしようとしていた。

 

「もし…ハヤト約束を破るなら私は……死にます」

「クラレット…」

「ハヤトのいない世界に私がいる意味なんてない、貴方が生きているから私は今を生きているんです。もう後悔はしたくない、迷いたくない、貴方が人を辞めるなら私は……生きる事をやめます」

 

 その心に刻んでいる決意を語るクラレット、きっと嘘偽りではないんだよな。

 

「俺は勝てないかもしれない」

「はい」

「惨たらしく引き裂かれて死ぬかもしれない」

「その時は一緒です」

「たとえ勝っても……死ぬかもしれない」

「その時は……ハヤトを連れて還ります。私達の還るべき世界に…」

「そっか……」

 

 覚悟は決めた、勝てる見込みはない、だけどまだ…

 

「体を支えてくれ」

「………!」

 

 クラレットが俺の体を支えてくれる、優しくしっかりと抱きかかえてくれる。

 ゆっくりと体を起こす、動かすたびに何かが千切れる様な痛みが体に走る、

 だけど立つことを俺はやめなかった、足がしっかりと地面を踏みしめる。

 乱れる息を整えて俺はサモナイトソードをバノッサへと向ける。

 

「バノッサ――勝負だ――――最後の勝負だ!バノッサ!!」

 

 バノッサがこっちを見る目は信じられないものを見る目だった。

 ありえないものが目の前にいる、そのような顔をしている。

 

『気に入らねぇ…』

 

 バノッサは呟く。

 

『気に入らねェ!気に入らねェ!気に入らねェんだよ!はぐれ野郎!上等だ!今度こそ肉片残らず潰してやらァァァァッッ!!!!』

 

 憤怒の表情と怒号張り上げてバノッサが巨剣を振り上げながら猛進してくる。

 それに合わせるように待機していた双頭だった邪竜が襲い掛かって来た。

 

「俺がバノッサを倒す!皆はあの竜を止めてくれ!」

「「「「「「「!!」」」」」」」

 

 全員がハヤトの指示に従い行動に移す、

 邪竜の一体をエスガルドが力ずくで抑え込むとエルジンが召喚術で距離を離すために吹き飛ばした。

 そしてそれに追撃をかける様にモナティが宙を跳びうさきだんを放つ。

 もう片方の邪竜もカザミネがアカネから借りた苦無で切り裂くきアカネが分身して目に向けて手裏剣を投げた。

 視界が潰されると同時にカイナが召喚術を用いてエルジンと同じようにハヤト達から距離を取る。

 

「これで…!」

『これでなんだ!はぐれ野郎!一人で俺様に勝てると本気で思ってるのかよ!!』

「俺は…!一人じゃない!!」

「ガルマザリア!エルエル!」

 

 クラレットの呼びかけに応えてガルマザリアとエルエルが召喚される、

 振り下ろされる巨剣をスペルバリアを展開させてエルエルは防ぐ、

 そしてそこに生まれた隙にガルマザリアがバノッサの胸に現れた魅魔の宝玉に向けて攻撃を放つ。

 

『ドゥームクェイク!!』

『ガァッ!?』

 

 バノッサの胸を穿つ勢いで放たれた魔槍の一撃は魅魔の宝玉を貫く事はなかった。

 だがバノッサの反応を見てクラレットは確信する。

 

「今までの攻撃は無駄じゃない…、無駄じゃなかったんです!」

「通じてるのか!?」

「魅魔の宝玉が表に現れたのは負荷を軽減するためだったんです!魂の中へ取り込んでいれば確かに干渉は不可能です。でも、そのままでは限界が存在するんです!魅魔の宝玉はサモナイト石の一つにすぎません、どれだけ異常な強さを誇る魔王でもその要はただのサモナイト石と一人の人間なんです!限界は存在する!バノッサ兄さんが魔王になりきらない限り倒す事が出来るんです!」

 

 魅魔の宝玉はバノッサの魂と繋がっている、もしバノッサが真に魔王になる事を望めば魅魔の宝玉はそれに応えただろう。

 だがバノッサはそれを望まなかった、どれほど自分自身を魔王と名乗ろうと心のどこかでそれを否定してたのだ。

 身近にカノンという人外を置いていた弊害がそこにあった、彼自身心のどこかで人であることを拘っていたのだ。

 能力や姿形だけで相手を判断しない、どんなに心が捻じ曲がっていても彼はそれに拘っていた。

 だからこそ敵対するハヤトが人である限りバノッサもギリギリ人であり続けてしまったのだ。

 

『魔王になりきらねェだと…?俺様は魔王になったんだ!こんな姿の化け物が人間なわけねェだろ!!』

 

 放たれる剣撃が衝撃波を生み出してガルマザリアとエルエルを吹き飛ばす、

 それを見たハヤトはクラレットから離れ駆け出した、振るわれる巨剣、振り上げられる魔剣がぶつかりあう!

 

『「!!!」』

 

 互いの魔力がぶつかり合い衝撃が周囲を襲う。

 だがハヤトは一歩も引かなかった、バノッサの一撃を完全に防ぎ切ったのだ。

 ボロボロのハヤトがバノッサの顔を睨み付ける、眼球は真っ赤に染まり顔中は血塗れだったが強い意志を持つ目をしていた。

 

「魔王ならこんなボロボロの人間程度吹き飛ばせよ」

『なんだと…!』

「魔王を名乗るなら俺みたいな死にぞこない程度蹴散らしてみろバノッサァァァッッ!!!」

 

 バノッサの巨剣が弾かれる、ありえない。バノッサはそう思わざる得なかった。

 目の前の死にぞこないが、吹けば飛ぶような瀕死の男が自身の力を上回ったのだ。

 だが、不思議と恐怖しなかった。バノッサにとってそれは望んだ事だからだ。

 

『ククククッ……』

 

 歓喜する、目の前の男こそバノッサが超えようとした男だからだ。

 誓約者という存在になり自身を遥かに凌駕した化け物に変わったハヤト、

 この男に勝つためにバノッサは魔王と契約したのだ、この男の底力を超える為にバノッサは魔王になったのだ。

 

『そうだ…!それだはぐれ野郎!いつも手前ェはそうだった!限界ギリギリで見せるその力だ!それを待ってたんだ!俺様の全てを賭けてぶっ潰すその強さを待ってたんだはぐれ野郎!』

「バノッサァァァァーーーーッッ!!!」

 

 ハヤトは振るう、鞘に魔剣を収め振るわれた一撃は距離という概念を無視して対象を斬り裂く。

【居合切り・絶】と称される彼の師が振るった剣戟の極致がバノッサの胸の宝玉を斬り裂いた。

 だがそれでも傷一つ付く事はない、あまりの硬度にハヤトは目を疑うがそんな余裕も彼にはなかった。

 

『効かねェ!効かねェ効かねェ効かねぇんだよ!!』

「―――!」

 

 嵐のように振り回される巨剣をハヤトは避ける、避けて躱して凌ぎ続ける。

 絶体絶命の状況下、ハヤトは冷静にバノッサの動きを見極めていた。

 

「――――――はぁ!」

『グゥッ!?』

 

 懐に入り振るわれたサモナイトソードがバノッサの胸の宝玉に剣を振るう、

 傷はつかないが魔力を込められた一撃はバノッサに確かにダメージを与えた。

 

「周囲に自分の魔力を放ち続けて攻撃を予測している―――?この状況にそんなことが」

 

 離れたところから見るクラレットはハヤトから魔力が放たれ続けているのに気づいた。

 瀕死のハヤトは魔力を用いた強力な攻撃を行うことはできない。

 だが有り余る魔力を別の形で扱うことは出来た、自身の魔力を霧のように周囲に放ち続け、

 その中で自分に攻撃してくるバノッサの攻撃を予測しているのだ。

 既に肉体的限界に達しているハヤトが行える最も効果的な戦法だった。

 

「―――!!」

『ギッ!? なめんじゃねぇ…なんじゃねぇ!はぐれ野郎ぉぉぉーーーッッ!!!』

「ハヤト!!」

 

 バノッサが全身から魔力を放出してハヤトを吹き飛ばす、吹き飛ばされたハヤトはまともに受け身を取ることも出来ずに倒れ伏す。

 その隙をバノッサは見逃さない、ハヤト目掛けて巨剣が振るわれる、

 今のハヤトにそれを食い止める力はほとんど残されていない、バノッサは勝利を確信した。

 自分は勝利したと確信したのだ。だがハヤトとバノッサの間に入り込む影があった。

 

「ぐぅぅッッ!!あああアアアァァァァーーーーッッッ!!!」

『また手前ェか化け物女!邪魔すんじゃねぇぇぇぇ!』

 

 二人の間に入り込んだクラレットが杖を盾に背中でバノッサの攻撃を防ぐ、

 だが全魔力を肉体の強化に回そうとバノッサの一撃は頂上の一撃だ。

 魔力超過の影響でクラレットの真っ白な衣服に血が浮き始め彼女の顔にも血が流れ始める。

 

「ガルマザリア!エルエルゥゥ!!」

『『はあああぁぁっ!!』』

 

 吹き飛ばされていたガルマザリアとエルエルが突っ込んでバノッサを弾き飛ばす。

 僅かな距離を作った二人は互いの武器を重ね合わせてバノッサに向けた。

 自身の親愛する主を傷つけられた二人にいつもの諍いはない、長年共に戦った阿吽の呼吸で最大の攻撃が繰り出される!

 

『『イスカリオス!!』』

『な、なにィ!?』

 

 予想しないタイミングで放たれた反逆の射手はバノッサの体の大半を吹き飛ばすがすぐさま再生し始める。

 それを見たガルマザリアとエルエルは再生の中心部である魅魔の宝玉を破壊しようと接近した。

 そしてそれを見ていたクラレットは力尽きるように膝をついてハヤトの胸に倒れ込む。

 

「クラレット…!」

「ハヤト…貴方は一人じゃないんです。一緒に戦えばきっと…!」

「分かってる…まだ、戦える…。行こうクラレット!」

「はい!」

 

 互いに体を支えあい再び立ち上がる二人、クラレットはハヤトのサモナイトソードに手を伸ばした。

 それを受け入れるようにハヤトもクラレットの手を包み込むように魔剣を強く握る。

 虹色の輝きは白く変化し始め紫色の光が螺旋を描くように魔剣の周りに回り始めた。

 

『く!あぁ…!』

『エルエル!!』

『手前ェも消えちまえェ!!』

『しまっ!?』

 

 巨剣に肩から切り裂かれたエルエルがサプレスへと送還される。

 それを見たガルマザリアが叫ぶがその隙を突かれてバノッサに首を跳ね飛ばされた。

 体を維持できなくなったガルマザリアもサプレスへと送還されていった。

 そしてバノッサはハヤトに止めを刺すべく殺意を二人の方へと向ける。

 

『あとは手前ェらだけだ!覚悟しやがれぇ!!』

「「はぁっ!!」」

 

 バノッサの振り下ろされる巨剣を二人で防ぐ、

 凄まじい衝撃が両手を通して体の芯を貫くが二人が倒れることはなかった。

 ハヤトの視線がバノッサを射抜く、怒りを宿してハヤトは語ろうとする。

 

「バノッサ…!お前は間違っている…!」

『なにが間違ってるんだぁ?俺様の何が間違ってるんだよ!』

「ずっとお前は人から奪おうとしてただろ、どうして分かり合おうとしなかったんだ!初めて会った時も話せば分かり合えたかもしれないだろ!」

『相変わらず考えなしだな手前ェはよ!この世界にそんな都合のいいものがあると思ってるのか!』

「あるっ!!」

 

 サモナイトソードが巨剣を弾き飛ばしバノッサを下がらせる、ハヤトとクラレットは前に出てバノッサに斬りかかった。

 今度はバノッサが防ぐ側なった、互いの剣がぶつかり合い火花が発せられる、しかしバノッサに揺らぎはない。

 

「始めは争ったのかもしれない、だけど話せば全員わかってくれたんだ!剣を交えて、殺しあって、それでも分かり合えた人がいたんだ!なのにお前は最初から奪う事しか考えなかった、傷つけて奪う事しかなぜ選ばなかったんだ!!」

『決まってんだろ!それがこの世界で当たり前の事だからだよ!』

「だったらなんで…!なんでカノンさんはあんなに優しいんですか!」

『…ッ!』

「カノンさんは人から奪われ続けてきた人です!ならどうして力のあるあのカノンさんは奪う側に回ろうとしなかったんですか!?バノッサ兄さんがカノンさんの居場所を守ってきたからなんじゃないんですか!?」

『うるせぇ…』

「自分を偽らないでください…!人に優しくできる人が…、他人から奪う事を望んでする人なわけないじゃないですか!」

『うるせぇ!!!』

 

 怒りそのものが魔力に変化する、全身から放たれた魔力はハヤトとクラレットを吹き飛ばす。

 倒れ込んだ二人だったが再び体を支えあい立ち上がる、追撃がない事を気になりつつバノッサの方を見た。

 

『うるせぇ…うるせぇ…!うるせぇんだよ!!俺様は…!俺様はずっとそうしてきたんだ!言う事を聞かねぇ奴を黙らせて俺達から奪おうとする連中をぶち殺して自分達の居場所を手に入れて来たんだよ!俺達にはそれしかなかったんだ!』

「違う…!それしかなかったんじゃない、貴方はそれしか選ばなかったんです!!」

 

 迫りくるバノッサをクラレットはサプレスの雷撃を放ち動きを止める。

 

「お前は怖がってただけだろ…!必要以上に人と接することを怖がってたんだろ!」

 

 ハヤトは召喚術を発動させる、無数の剣影と天から降り注ぐ巨石がバノッサを襲う。

 そこに生まれた隙を突くようにハヤトとクラレットはバノッサに接近した。

 

「「はああああぁぁッッ!!!」」

『ぐ、ぐあぁぁっ!?』

 

 振り上げられた魔剣はバノッサの片手を斬り飛ばす、バノッサは巨剣を振り下ろすがそれを二人は防いだ。

 先程よりもあまりに軽い剣、二人は確信したバノッサの心は揺れ動いていると、自身がやってきた事が正しいのかと。

 

「バノッサ兄さん…貴方は子供です。人との繋がりを望みながらそれを選ばなければ生きる事は辛いに決まってます!」

「バノッサ…お前は魔王に選ばれたんじゃない、お前は魔王に逃げたんだ!人であることを捨てて魔王に逃げ出したんだ!!」

『うるせぇぇぇーーー!!!』

 

 バノッサはハヤトとクラレットを蹴り飛ばす、

 吹き飛ばされる二人だったが今度は耐え抜いた。

 両足で立ちバノッサの方を見据える。

 

「もう一度言ってやる!お前は魔王に選ばれたんじゃない!お前は逃げ出したんだ、人との繋がりを居場所を求めることをやめて一番楽な道に…俺を殺すっていう道に逃げ出したんだ!!」

『黙れ…黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇーーーっっ!!!』

「憑依召喚、ガルマザリア!!」

 

 クラレットは自身の体にガルマザリアを憑依させる、

 いまだ傷つき完全な召喚を行えないガルマザリアも憑依という形なら召喚できた。

 目に見えるほどの膨大な魔力を右手に宿し、クラレットが地面に叩きつけるとバノッサへと魔力が襲い掛かる。

 

「デヴィルクェイク!ハヤト今です!」

「くっ…!うおおおおおおぉぉぉぉーーーーっっ!!!」

 

 デヴィルクェイクで上空に吹き飛ばされたバノッサに向けてハヤトは居合の一太刀を放った。

 それはバノッサの両足を切り裂き、行動するための動きを制限させた。

 

「ハヤト!魔力を私に―――!!」

「うぅぅぅぅ…!!はぁぁぁーーーっっ!!」

「サプレスのエルゴの守護者クラレットが望む――!!来て!神竜レヴァティーン!!!」

 

 苦痛に耐えながらハヤトはクラレットの魔力を受け渡すとクラレットはレヴァティーンを召喚する。

 放たれる煌めく光弾がバノッサの体を包み込み大爆発を起こす。

 送還されるレヴァティーンを見送りながらクラレットは視線をその爆発の中心部に向けた。

 

『うるせぇ…うるせぇんだよ!!調子に乗ってんじゃねぇぞ…!』

 

 肉体を再生させながらバノッサが向かってくる、だがその表情に先ほどまでの余裕はない。

 目を背け続けてきた事実を突きつけられてバノッサは揺れに揺れ動いていた。

 だからこそ、彼はすがりつく、目の前の男を殺すという最も簡単な方法へと…。

 

『さっきから手前ェらは何がしてぇんだよ!俺様をぶち殺すじゃねぇのかよ!!』

「……」

『何とか言いやがれ!!』

「私達にはもうバノッサ兄さんを助ける力はありません、攻撃していると言われれば否定もしません。でも私は最後のその瞬間までに納得したいんです」

『納得だと!?』

「ソル兄様もそうだった、私達兄妹が互いに分かり合えるって納得したいんです!!」

 

 クラレットはハヤトから手を放して歩む、それをハヤトは止めなかった。

 そしてクラレットがゆっくりと手を差し伸べると再びこう答えたのだった。

 

「帰りましょう?バノッサ兄さん…」

『うぁ……!ぁぁ………!』

 

 心に突き刺さる、バノッサの逆鱗をクラレットは優しく包み込む。

 自分は敵ではないと、優しい笑顔でクラレットはバノッサへと語りかけた。

 

『うるせぇ…うるせぇぇぇ!!』

「クラレット!」

 

 ハヤトはクラレットを下げてバノッサの攻撃を防ぐ、先程よりも重く感じる一撃がハヤトを襲う。

 仰向けになりながらもハヤトはバノッサの一撃を防ぐがもう片方の巨剣を振り下ろされ更に窮地に陥る。

 

「ぐぅ―――ううぅっ!!」

『納得だと!?ふざけんじゃねぇ!分かり合えるわけねェだろ!俺様たちは殺し合ったんだぞ!分かり合えるわけぇねだろがぁぁーーーっっ!!!』

「バノッサ、お前は…!!」

「ハヤト!」

 

 再び振り上げられる巨剣、しかしそれは振り下ろされることはなかった、

 魔力を杖に押し込んだクラレットはバノッサの手に向けて投擲する、

 真っ直ぐと進む杖はバノッサの腕に激突してハヤトの真横に巨剣は叩き付けられ亀裂が走る。

 その瞬間を逃さなかった、ハヤトは残された力で自身を抑え付ける巨剣を弾き立ち上がりバノッサに接近する。

 そしてバノッサの顔面にハヤトの拳が叩き込まれたのだ。

 

『ガッ!?ガアァァァァーーーーッッ!!!』

 

 殴り飛ばされたバノッサはその痛みに困惑する、

 肉が吹き飛ばされようが体を斬り裂かれようがまともに痛みを感じないこの体が激痛を感じたのだ。

 バノッサの視線の先には肩で息をしつつこちらを睨み付けるハヤトがいる。

 

「バノッサ…お前は後悔してるんだろ」

『ちげぇ!俺様は…!』

「仲間を手にかけたことを…この街を襲った事を…」

『お、俺様は…』

「自分の居場所に満足しようとしなかった事も…」

 

 ハヤトは語るのをやめない、ここで言わなきゃ一生後悔するとわかっていたからだ。

 今までと同じで力で押し込めては行けないとハヤトは理解していた。

 どうしようもない相手ではないのだ、ハヤトにとってバノッサは既に…。

 

「自分の家族を手にかけた事を……自分の罪を認めるんだバノッサ」

 

 クラレットの兄の一人という認識だったからだ。

 だからハヤトはバノッサを積極的に攻めようとしなかった、

 攻撃してくるならまだしも今のバノッサは揺れ動いているからだ。

 

『なんでだよ…なんなんだよ!』

 

 バノッサを救おうとするクラレット、

 バノッサを追究するしようとするハヤト、

 殺し合っていたはずなのに、どうして自分を救おうとしているのだと。

 理解が出来ない、殺そうとする相手を救おうとすることを、なぜこんな事をするのかを…。

 怖い、目の前の二人が怖い、どんなに追い詰められようと立ち上がりなお自分に手を差し伸べる存在が怖い…。

 なにより…。

 

『目障りなんだよォ!お前らは俺様を否定しなきゃ立ってられねんだろ!俺様の生き方を!俺様がやろうとしてる事を否定しないと!』

「否定してるのは―――どっちなんですか?」

 

 クラレットのその一言が心に突き刺さる、自分はホントに正しかったのか迷いが生じる。

 見つめなおす恐怖がバノッサを襲う―――そしてバノッサが選んだ答えは…。

 

『うるせぇぇぇぇーーーー!!!!』

 

 放たれた黒い極光がハヤトとクラレットを飲み込んでゆく、

 バノッサが選んだ答えは……逃避だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なんてこった……」

 

 領主の城を一望できるほど離れた場所に彼ら、フラットが居た。

 エドスは呟いた、城という巨大な建造物が倒壊し始めていたからだ。

 サイジェントを襲う地震のような振動の中心部はあの城だと彼らは気づいている、

 そしてその原因であるのは間違いなく彼らの仲間の戦いである事は明白だった。

 

「我々がもしあの城に居たら、助からなかったかもしれないな」

「………あいつ」

 

 既に自分達とは次元の違う戦いであることはガゼルにもわかっていた。

 だけどそれを認めたくなかった、この戦いは誰の為の戦いなのか?

 この街と彼女を守る戦いなのではないのか?

 自分が仲間と――家族と認めた少女を守る為の戦いに参戦する資格も与えられないガゼルはただ苛立つだけだった。

 何故アイツの横に自分は立てないのか、なぜアイツでなければいけなかったのか。

 短い付き合いだが相棒とさえ想うガゼルはそれを考えてしまう。

 

「……ガゼルさん」

「分かってる、アイツは俺達の為に戦ってもいるんだ。なのに無茶して城に入って足手まといになんてならねぇよ……でもよ。納得いかねぇんだよ…」

「それは……僕たちも同じですよ」

 

 スウォンがそう答える、自分だって共に戦いたいと思う、ずっとそうだったのだから。

 だが誰も彼の横に今は立てないのだ。残された彼らはただそれが辛かった…。

 

「……み…な…ー」

「…あ?」

「みんな無事だったのね!」

「リプレ!?お前なんで!?なんだ血だらけじゃねぇか!」

 

 リプレの服が血塗れな事にガゼルは驚くが、そのほとんどは治療されておりリプレに問題はない。

 

「傷なら平気よ、ほとんど治してもらったし」

「そりゃ分かったが、すぐに家に戻れ!」

「戻れって…戻る家なんてもうないわよ」

「なっ、そりゃいったいどういう事なんだ?」

「うん、実はね…」

 

 フィズの言葉を疑問に思ったガゼルはリプレに話を聞く。

 リプレはソルが自分たちをフラットへの人質に利用しようと攻めてきていた事を…。

 そしてハヤトがソルと戦い撃退してくれた事を話してくれた。

 

「流石アニキだぜ!ソルの野郎を倒したなんてな!」

「……」

「リプレ?」

「おにいちゃん…ケガいっぱいしてた」

「体中から血が出てて兄ちゃん凄く苦しそうだったんだ」

「うん、ハヤトから血の匂い凄くしてた。ユエルね?ハヤトが無茶をしてるって思うんだ」

 

 子供たちの言葉とオルフルであるユエルの言葉に彼らは心苦しくなる。

 果たしてこの戦いが終わった後にハヤトが立っていられるのか?それが心配でならなかった。

 

「あの、リプレ」

「ん、どうしたのミント?」

「私、ちょっと先輩達を探してくるね。悪魔達の魔力も殆ど城の方に集まってるみたいだし多分ある程度周りは安心だと思うから」

「分かったわ、気を付けてね」

「うん」

 

 そう告げるとミントはリプレ達から離れて瓦礫の中を進んでいく。

 

「一人で行ってホントに大丈夫なのかよ?」

「ムイムー」

「平気よ。城からとんでもなく嫌な匂い…サプレスの悪魔の魔力が集まり始めてから新しく出てきた悪魔はいないみたいだし。それよりもうちょっと城から離れた方がいいかもしれないわね」

「それほど危険なのか?」

「アタシは召喚師じゃないから分からないけどなんかこう……単純に近寄るのはマズイってそんな雰囲気ね」

「うん、ユエルもね。すっごく嫌な予感がする!」

「そうだな、幸いにも全員無事だ。はぐれたラムダ達も問題はないはずだ。今はここから離れよう」

 

 レイドの一言でフラットの方針が決まる、今はここを離れよう。

 全員無事でいる為に危険な場所から離れるべきだと決めた。

 そんな中、呆然と城の方を見ていたカノンは歩み始める。

 

「………バノッサさん」

「カノン?」

「おい、おめぇどこに行くんだよ」

「バノッサさんが城にいます。ボクは行かないと…」

「駄目だ!カノン、お前さんもわかっているんだろ?城は今危険だ。近づいたらどうなるか明白だろう」

「それでもボクは…!」

「ねえカノン」

 

 リプレはカノンの前に立つ。

 じっと見つめられてカノンは何も言えなくなった。

 

「クラレットとハヤトから少し聞いたんだけど、バノッサは貴方を助ける為に私たちの所に送ったんだよね?」

「それは……はい」

「それなのに無茶して帰ったらきっとバノッサだって困るはずよ。それにハヤトならバノッサを殺す事なんてきっとしない、皆が笑顔になれる世界を作ってくれるって私は信じてる。だから終わるまで私達と待っててくれる?」

「…リプレさん」

 

 リプレの真摯な頼みを受けたカノンは歩む事を止めた。

 視線は城に向かっていたが歩もうとしない、それが敬愛する義兄弟の願いだと気づいたからだ。

 

「よしすぐにここから離れるぜ!」

「ああ、とりあえずイリアスがいるはずの広間の方まで―――ッ!伏せろ!!!」

 

 レイドが目的地を口にした時、城の爆発した。

 今まで何度も城から放たれていた黒い極光が今までで一番の衝撃と共に撃ち放たれたのだ。

 それに気づいたレイドは伏せろと全員に叫び全員その言葉に従いその場で身構える。

 大量の瓦礫が彼らを襲うが武器や無事だった瓦礫を盾に何とかしのぎ切っていた。

 

「クッ!全員無事か!?」

「俺達は大丈夫だ……リプレ!」

「私達も平気、ガレフ達が守ってくれて」

「たくっ、今のは何なんだよ!」

「分からん……だがそれほどの戦いなのだろう」

 

 フラットの面々は全員無事だったが彼らの考えは一人の少年に向けられていた。

 ハヤトは大丈夫なのか、あの攻撃が向けられたのは間違いなくハヤトだ。

 

「ハヤト…クラレット…大丈夫よね?」

 

 ギュッと子供たちを抱く力が強くなる、リプレは信じる事しかできない。

 出来れば早く戦いが終わり、彼を迎えに行けるようになってほしいとただそれだけを願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ---------------------------------

 

 バノッサの放った一撃は城を完全に倒壊させた、今までで蓄積された傷跡が一気に解放されたのだ。

 倒壊した城の中心部にバノッサは居た、大きく息継ぎをしていた。

 

『ククククク……』

 

 手ごたえはあった、確実に葬った。

 自分を苦しめる者は既にいない、自分はついに目的を果たしたのだと。

 

『ハーッハハハハハ!!!』

 

 バノッサは嗤う、もう自分を邪魔するものは居ないのだと。

 天を見上げると黒雲の中で世界のヒビが広がり始めているのが見える。

 世界は滅ぶ、エルゴの守護者も自分の敵ではない、バノッサは勝利を確信していた。

 

『雑魚がァ!調子に乗り―――』

 

 空気が斬り裂かれた。

 

「!!」

『ガァッ!?ナニィ!!?』

 

 粉塵が斬り裂かれ虹色の輝きが煌めく、不意を突かれたバノッサはその光を受けて吹き飛ばされた。

 視線を目の前の男に向ける、血だらけの衣服を纏い、それでも両足で立ちバノッサを見下ろす男がいた。

 それはハヤトだった。

 

『……はぐれ…野郎』

「バノッサ兄さん…」

 

 ハヤトの後ろにクラレットも見える、ハヤトが無事だったのならクラレットも同じように無事に決まっている。

 そうバノッサは理解するが目の前の男にしかバノッサの意識は向いていなかった。

 

『手前ェはいつもいつも!俺様の――!』

「バノッサ………俺だってわかってるんだ」

 

 一歩前に足を進める、それにバノッサは一歩後ろに下がってしまった。

 バノッサはその瞬間理解した。決定的な何かを理解してしまった。

 

「この世界がどうしようもなくクソみたいな世界だって何もお前だけが思っていた訳じゃないんだ」

 

 利用し切り捨て挙句の果てに消してゆく、この世界はそんな世界だ。

 一部の、ほんの一部の者たちだけが幸せになるそんな世界だった。

 バノッサの言ってることをハヤトは理解できる、だが理解するだけだ。

 それを受け入れる事は絶対にしない、この世界の在り方を受けるれる事は―――。

 

『負ける訳ねェ!!俺様が負ける訳ねェんだぁぁぁーーーッッ!!!!』

「自分の罪を認めろ!そして戻って来いバノッサ!!!」

 

 ハヤトとバノッサが同時に跳ぶ、振り下ろされる巨剣を避けハヤトはサモナイトソードを振り上げた。

 虹色の魔剣が煌めきバノッサの腕を斬り飛ばす、それだけに終わらないハヤトは手放された巨剣を掴んでバノッサを胴切りにしたのだ。

 

『ガハッ!!?』

 

 上半身と下半身が切り分けられバノッサは身動きが取れなくなる、

 何とか動こうと模索するがバノッサの目に映ったのは光輝くサモナイトソードとハヤトの姿だった。

 真っ直ぐ光の矢のように突き進むハヤト、それはバノッサの胸の魅魔の宝玉を穿いた。

 

「――――!!!」

 

 ピシリ。

 

『う…あぁ…!』

 

 バノッサの視線が胸に行く―――。

 そこには魔剣が突き刺さった魅魔の宝玉があった。

 自身の力の源が、自分と魔王を繋ぐはずの楔が、今ハヤトによって貫かれたのだ。

 ピシリピシリとヒビは広がってゆく、そしてついにその時は訪れた。

 

 パキィィン。

 

『あああアアアぁぁァァァーーーーッッッ!!!?』

 

 バノッサを狂わせた源とも言える物、魅魔の宝玉がついに砕け散ったのだ。

 魅魔の宝玉を失ったバノッサからあらゆる物が失われてゆく。

 今まで彼が抱いてきた感情が失われてゆく、怒りも悲しみも嫉妬もあらゆる負の感情が失われていった。

 そして……バノッサに残されたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ---------------------------------

 

「ハヤト!!」

「はぁ…はぁ…クラレット…」

 

 全ての力を出し尽くし膝をついていたハヤトをクラレットが支える。

 彼に残された力は殆ど残されていなかった、今にも意識を手放したかった。

 だがハヤトは結末を見届ける為にいまだ意識を手放そうとはしなかった。

 

「ど、どうなったんだ?バノッサは…?」

「ハヤト、やったんです!やったんですよ!バノッサ兄さんから魔王の気配が失われてるんです。私達は勝ったんです!」

 

 クラレットはバノッサからスタルヴェイグの魔力がドンドン失われてくことを感じていた。

 自分達は勝ったんだとハヤトに伝える、ハヤトはその事実を聞いて安心した。

 

「そっか…やったんだな、俺はやれたんだな」

「はい…!はい…!」

 

 ハヤトを抱きしめてクラレットは肯定した。

 自分達は勝てたのだと、あの魔王相手に勝利することが出来たのだと。

 ハヤトはクラレットを弱弱しい力で抱きしめ返す。

 

「終わったんだな…やっと全部終わったんだな」

「…ハヤト」

 

 取り戻す為に戦ってきた、誰よりも大切な人をもう一度この手で抱きしめる為に走ってきた。

 やっと取り戻せた、もう二度と離しはしない、そう心にハヤトは刻み込む。

 

「私も…同じです。ずっと我慢してきました…。だけど私の居場所は…ここなんです…!」

 

 クラレットも同じだった、ハヤトに幸せになってほしい。

 それだけの為に我慢してきた、自分のせいだと理解しそのせいで彼が苦しむのを拒んできた。

 でもそれは間違いだった、彼が全てを投げうってでも取り戻そうとしてくれたのは自分だったのだ。

 安全な暮らしも幸せな日々もそれらを捨ててまで自分を望んでくれた。

 だからクラレットはハヤトの傍にいようと思ったのだ。自分の居場所はここだと理解したのだ。

 

「ハ……ハハハ、ちくしょう…なんなんだよこれはよう」

「バノッサ…兄さん?」

「もういい、もうどうでもいい………戻るところもねぇ……もう」

 

 バノッサには何も残されなかった、居場所も、力も、生きる意味も、何もかも奪われてしまっていた。

 バノッサの手に尖った瓦礫が握られている。自分を終わらせられる道具がそこにあった。

 彼の手が動きそれは首へと突きつけられる。

 

「バノッサ……お前にはまだ待ってる人が―――!」

「もうどうでもいいんだ……どうでも………」

 

 バノッサ首から血が流れるそれを見た二人は駆けだして止めようとするがあまりに距離が離れすぎていた。

 

「バノッサ!!」

「ダメ!バノッサ兄さん!!」

 

 二人が叫ぶがバノッサは止まらない、首につけられた尖った瓦礫が自身の肉を切り裂こうとしたとき、それは起こった。

 

「―――グゥッ!?ガアアァァァァーーーーッッ!!!!?」

 

 バノッサの悲鳴が放たれる、だがそれは二人が予想していたものと大きく異なった。

 砕かれた魅魔の宝玉の欠片がバノッサの体に突き刺さったのだ。

 全身に突き刺さった魅魔の宝玉の欠片が膨大な魔力を発しながらバノッサの体を侵食してゆく、

 ほぼ肉片だったバノッサの肉体は脈動し変質していった。

 そしてバノッサはそのまま宙に浮き始めていった。

 

「バノッサ…?」

「いったい何が…!それにこの魔力は!?」

 

 バノッサの雰囲気が大きく変わるのをハヤトは感じていた。

 それだけではない、クラレットはバノッサから自身と同質の魔力を感じていた。

 自分の中にある、サプレスのエルゴ、その物といえる魔力を。

 

 ―――この世界は失敗した。我らが祖が望んだモノではなかった。

 

 バノッサは語る、全身から極光を放ちながら色彩の如く煌めき始めた。

 

 ―――だからこそ正す為に我は降り立った。

 

 サイジェントに、いやサイジェントを中心にリィンバウムにいる多くの者たちが感じた。

 魂の奥底を震え上がらせるように原初の恐怖を彼らは感じ取った。

 暗闇を恐怖するような、本能的な存在を目視した、多くの者が恐怖する、狂う、絶望する。

 

「ああぁ…間に合わなかった……」

 

 膝を突いたクラレット、彼女は理解した。もうどうしようもないと。

 バノッサを中心に世界がヒビ割れてゆく、ガラスが割れるような音と共に世界の欠片がハヤト達に降り注ぐ。

 

 ―――この世界は生まれ変わる、物質とい枷は解かれ、我が血肉の一部となる。

 

 肉片と化していたバノッサの体が肥大化し始める、透明でありながら膨大な――。

 言葉で表せない程の濃密で存在感のある物体に変位してゆく。

 漆黒に彩られた鱗を纏い、全身から紫色のオーラを放つ至竜が現れる。

 いや、至竜ではない、至竜と同格と思ってはいけない存在がそこにいた。

 

「お前は………なんだ………」

 

 ハヤトは理解していた、目の前の存在が何であるかを。

 だからこそ問いたのだ、認めたくない一心で信じたくない思いがあったから。

 だが、無情にもその存在は語る自身が何者であるかを、それがハヤトに絶望を与えた。

 

 ―――我が名はサプレスのエルゴ、サプレスの意思そのもの。お前達がどう足掻こうと世界の崩壊は止まらない。

 

 既に結界は破壊されていた。

 彼らの目に映るのは波紋のように広がってゆく結界が割れる姿だ。

 もうどうにもならない、心魂使い果たし戦う力が残っていないハヤト達ではバノッサを依り代に完全な形で降臨したサプレスのエルゴを退かせることなど出来ない。

 

 ―――結界を砕く最後の引き金をよくぞ引いた、愚かなるリィンバウムの者たちよ。

 

 サプレスのエルゴの咢が開かれる、絶対的な力が揺れ動き圧縮された漆黒の魔力がハヤト達向けられた。

 

 ―――等しく滅ぶがいい、エルゴの守護者を騙りし者ども、そして願いを果たせなかった愚かなる誓約者よ!

 

 放たれた漆黒のブレスは極光の輝きを発しハヤト達を包み込む、

 凄まじい衝撃と共にハヤト達を中心にサイジェントが襲われる。

 悪魔達のより蹂躙された建物は一つ残らず吹き飛んでゆく、彼の守ろうとした街はその願いむなしく滅びを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ---------------------------------

 

「どう思う?」

 

 白髪の老人ウィゼルは白湯を飲みながら横にいる人物に話しかけた。

 眼鏡を置き、虹色の鈍い光を放つ水晶を両手で持ちながらその人物は答えた。

 

「どうって……もうどうにもならないわ」

 

 メイメイはそう答えた、もうどうにもならないと、この手段を脱することは出来ないと。

 

「あの子達が勝てる可能性はバノッサを魔王にさせない事だったわ。魔王という大きすぎる繋がりがサプレスのエルゴを引き寄せてしまった。今までのエルゴ達とは違う、完全な形で降りたサプレスのエルゴに彼らは勝つ事は出来ない」

「……そうか」

 

 ウィゼルはそう呟き、白湯に再び口を付けた。

 責めはしなかった、自分も彼らに賭けたのだ。それで終わろうとしても誰かの責任にしようとは思わない。

 だが、メイメイは違った。彼女はずっと見ていたのだハヤトとクラレットが走り抜けた軌跡を数多く起こし続けた奇跡を、だがその奇跡はもう起こらない。

 

「還すべきだった……あの子たちの意思なんて無視して元の世界に還してあげるべきだったわ…。僅かな希望を信じて、私たちの願いを押し付けてしまった…!」

 

 メイメイの涙腺が緩む、生き延びようと必死に戦ってきたハヤトとクラレット、その結末がこれではあまりにも報われない…。

 

「あの人の願いの為に、あの子達を犠牲にしようとした…だけどあの子達は…それすらも受け入れて前に進んでくれようとしてたのに…なのに…」

 

 その願いも意味の無いモノとなる。

 この世界を変えるという想いも世界そのものに否定されようとしていた。

 

「……ワシはそうは思わんがな」

「………」

「あやつは何度も逆境を乗り越えてきた、ワシは信じとる。あの剣が必ずハヤトを救うとな。お前さんは悲観的になりすぎておる、信じてみろ。お主が信じた後継者をな」

「……ハヤト、クラレット」

 

 ほんの…ほんのわずかにメイメイは信じようと思った。

 不可能だと理解はしている、絶対的に無理だとは分かってる。

 だけどほんの少し、ほんの少しだけ彼らがおこす奇跡を信じようとしていた……。




次回最終話
【リィンバウム】
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