サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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一週間前には出来てたんですけどPC壊れて遅れちゃった。
しかしデータはクラウドにあげてあるので安心なのです!
まあ重要なのはモチベーションという事で、そろそろ事態は動き始めます。



那岐宮怪奇談3

 

「オーライ!オーライ!よしいいぞ!」

 

 那岐宮で行われている開拓事業、街をドンドン近代化して住みやすい街にしようという事業だ。

 それ自体は問題ではない、街を良くしてゆくことは人として当然のことなのだから。

 だが世の中には決して手を出しては行けないモノが存在する、しかし人はそれを忘れる。

 僅か80年ほどしか生きない生物として当然のことかもしれない。

 そして愚かにも理解できないからこそ、それに手を出した愚か者がここに居た。

 

「だから言っとるだろうが!ワシらはここの工事をする事は決まったんだよ!」

「そんな事あるわけない!樋口の親父さんがここの土地の権利書を手放すはずがあるわけがない!」

「だが実際に権利書はワシらの会社にある、正式に譲渡されてな?この土地は広い癖にちみっこい社しかないなんて勿体なさ過ぎるやろ?幸い周りは住宅地や、スーパーマーケットやマンションにすればそれだけがっぽり金が入るって事や、今時古いヤクザもんが金を稼ぐには土地を手放すしかないんやろなぁ?」

 

 男が語るようにこの土地は大きく無駄に広かった、だからスーパーなどを建てて金を手に入れようと男は考えていた。

 しかしこの話には裏がある、男は若い組員に多額の金を握らせて土地の権利書を非合理に手に入れたのだ。

 後から言われようと既に工事を始めてしまえば何も言えなくなる、もしそれでも行ってくるなら金を払えばいいと考えていた。

 

(何が樋口組や、せっかく金になる土地を死蔵するなんて無駄にもほどがあるでこれだから古いヤクザは…)

 

 金が全て、人の命すら金で買えると男は思っていた。

 この事業が成功すれば男の懐に途轍もない金が入るだろう。

 男はそれをニヤニヤしながら思い浮かべて笑っていた。

 

「だから樋口の親父さんが手放すはずがない!明日確認を取るから工事をやめ―――」

「えぇぇいい!喧しいんや!守り人だか何だか知らへんが工事の邪魔をするんやない!!」

 

 守り人の老人を押し倒した男が工事現場に近づいてゆく。

 

「お前ら何をもたもたしとるんや!もう夜の2時やぞ!朝までに終わらせるんや!」

「そ、それがおかしなモノが出てきて…」

「おかしなもんやと?」

「これです」

 

 出土したのは巨大な棺だった。

 中央にまるで串刺しにしてる様に大岩で出来た巨大な杭が棺に突き刺さっている。

 その棺も巨大で13mはするほどの物であった。

 それを見た男は恐怖する事はなかった、逆に喜んだのだ。

 

(まさかお宝か!?この箱の中にお宝があるのか!?)

 

 棺の中にお宝がある、そう考えた男がすぐに作業員に指示を出して棺を開けようとする。

 だが棺は硬すぎて開く事はなかった、ドリルを使おうと壊すことも出来なかったのだ。

 仕方がないので突き刺さった杭から抜く事に決めて指示を出すと守り人の老人がそれを止めにかかった。

 

「待つんだ!それは七宥女房の棺だ!それを開けちゃいかん!!」

「あ?お前さんまだいたのか?」

「七宥女房は恐ろしい妖怪だ、目覚めさせたらこの街は終わってしまう!」

「いい加減にせい!じゃまや!!」

 

 男に弾き飛ばされた守り人の老人はそのまま後ろに下がって行ってしまう。

 そして作業がついに始まってしまった。

 クレーンが杭に引っ掻けられて引き抜かれ始めたのだ。

 

「わっははは!これでワシは大金持ちや!」

 

 ―――憎らしい

 

「ん?」

 

 ―――憎らしい

 

「なんや?この声は?」

 

 ―――我をここへ封じ込めた樋口の者が憎らしい、我の上で平和を謳歌する者どもが憎らしい、生きている者が憎らしい…!!

 

「な――!?」

 

 男の意識はそこで終わりだった。

 突然棺が爆発したと思うと破片が男の頭に突き刺さったのだった。

 

「しゃ、社長!?」

 

 社員と思われる男は倒れた社長に近づくがおびただしい血液を見て絶命してると悟る。

 爆発物でも棺に入れていたのか?不幸な事故と男は思っていた。

 だが社員は気づかなかった、棺の爆発に紛れ広がった黒い糸のようなモノが社長に絡みついていることを…。

 

「警察…!いや救急車か?とにかく連絡を―――へ?」

『アアァァーー』

 

 突然の事だった、社長が起き上がると目の前の男の首を捻り殺してしまったのだ。

 そして黒い糸がその社員に絡みつくと同じように動き始めた。

 

「何だってんだよ…!ぞ、ゾンビにでもなったのか!?」

「逃げろマズイぞ!!」

「な、なんだ!?足に何か絡まって!?ひぎゃぁ!!」

 

 男は逃げようとするが創作物で見るゾンビとは違う動きを化け物はする。

 跳躍し社員に飛びかかるとそのまま首をへし折って殺してゆく。

 それを気づく社員は逃げ出そうとするが足に黒い糸が絡みついて逃げ出すことが出来ない。

 訳が分からず一人一人と殺されてゆく、そして更なる怪奇が彼らの前に現れた。

 

 ―――肉だ…肉を寄越せ…。

 

「助けてくれぇー!?」

「嫌だ!嫌だぁ―――!!」

 

 黒い糸に絡まれた人が次々と棺の中に引きずり込まれてゆく。

 肉と骨が砕かれる音が棺の中から響き渡り、しばらくするとその棺から人が這い出てくる。

 いや、人とは言えない、何故ならその化け物は13mはするであろう巨体だったのだ。

 人で言うなら女性の姿をした化け物、どこか近寄りがたい人外の美しさを誇っていた。

 

『醜い、なんと醜い事か、おのれ樋口の女…、奴の血が我を未だ抑えつけているのか…』

 

 その美しさを化け物は満足しようとはしない、自分を抑えつけているであろう存在を恨む。

 

『死人憑共も僅か7人、探せ…探すのだ!樋口の女を!奴を殺し我らの封印を解くのだ!』

 

 殆どの社員を殺したゾンビ――死人憑はゆらゆらと街へと動き始める。

 全ては自分達の主、七宥女房の命のまま彼らは樋口の女を殺す為に動き始めた。

 

『くくく……我の復活の暁には、再びこの那岐の地を血に染めてやろう…ははははは!!!』

 

 七宥女房は笑う、偶然とはいえ第一の封印が解けられたのだ。

 ならばあとは脆弱な力しか持たぬ樋口の女を殺すだけだ。

 だから彼女は気づかなかった、最初の棺の爆発で傷を負い意識が朦朧としながらその話を聞いていた老人を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時間は遡る、事件が起こる前日、那岐宮中央高校である事が起きていた。

 昼休み食堂で集まっていた5人、勇人とクラレット、夏美に籐矢と綾が居た。

 

「~~~~~」

 

 むっすりとした顔つきで弁当をもしゃもしゃ食べているクラレット。

 それを見て夏美と綾は少し心配そうに勇人に問いかけた。

 

「ねえ勇人、クラレットどうしてあんなに不機嫌なの?」

「ん?ん~~~なんでだ?」

「新堂君は分からないんだ」

「さっぱり分からん」

「勇人…ホントに分からないんですか?」

「え?えっと……分かった!春奈だろ!」

「違います!それもありますけど違います!」

((それもあるんだ…))

 

 夏美と綾が春奈がいつもやらかしてる事に少し気になるが今回は違う件だった。

 

「勇人はおかしいとは思わないんですか!?」

「だ、だから何を…?」

「担任の黄泉沢先生の事です!」

「あーあのおっぱいの大きい…」

「身長が高い…」

「それであの先生がどうしたんだ?」

「だからおかしいとは思わないんですか?もう7月であと少しで夏休みなんですよ?担任が変わるなんてあり得ないじゃないですか!」

 

 黄泉沢餡子。

 今年の7月に勇人達のクラスの担任になった先生だ。

 担任の変更などよほどの事が無ければ起こるはずがないのだがなぜか普通に代わった事に唯一気にしていたのはクラレットだった。

 それから二週間ずっとクラレットは先生を監視していたが少なくとも学校内部では何も行ってはいなかった。

 真面目に教育に専念する生徒から好かれる先生だったのだ。

 だが彼女は二週間ほどで気を許したりしない、だけどこちらから手を出そうとも考えなかった。

 リィンバウムとは違い魔力が希薄なレゾンデウムでは彼女の力は大幅に制限がかかってしまうのだ。

 悪霊程度なら軽く葬れるが戦える人間相手では恐らく負けるかもしれないと彼女は考えていた。

 そして苛立つ理由は他にあった、何も監視だけしてたわけではないのだ。

 

「でもさ、少しおかしいけど別に気にする必要ないんじゃない?」

「夏美」

「ん?なに?――あて!」

 

 指先を夏美の額に押し付けたクラレットはバチと軽く電気を流すと夏美は痛がる。

 痛ててと頭をさする夏美、だが不意に何かに気づき怪訝な表情を浮かべた。

 

「……おかしいよね?おかしいよね!?」

「ですよね」

「いや普通に考えて担任代わるとはおかしいって!しかもなんか保険医も増えてない!?」

「大宮先生の事?」

「そう綾それそれ!なんか黄泉沢先生と仲がいいと思ったけどもしかして共犯者ってやつ!?」

「共犯者って…何もしてないだろ」

「何もしてないって…何か…あれ?なんで二人を疑ってたの?」

 

 夏美の様子がもとに戻る、その姿を見てクラレットは大きくため息を吐き出した。

 

「これって暗示ですよね」

「暗示って……なんだ?」

「意識を強制的に別のものに差し替えたりするものですよ。サプレスの召喚術にそういうのがあるんです。シルターンの召喚術に近いものがありますけどそれに近い術だと思います」

「この世界にも召喚術があったのか…」

「それに近い術です。召喚術ではないと思います。黄泉沢先生も大宮先生も結構高い魔力持ちですし…」

「へ…?そうなのか!?」

「この前握手した時に調べたんですよ。先生の目の前で足を挫いて自然な形で」

「結構自然な形で調べたな…」

「多分感づかれてはいると思いますけど、向こうから手を出す気はないみたいです。ただ……こう理由もないのになんか監視されてると妙に嫌な感じで――!」

「クラレットさんって意外に神経質なんだね…」

「まあ、いいんじゃない?向こうが手を出さなきゃ戦う理由がないだろ。実際俺達かなり怪しいしさ」

「それはそうですけど……深崎君はどう思います?」

 

 会話に参加せずに無言で弁当を食べ続けていた籐矢の動きが止まる。

 こちらを見るとニコッと笑顔を浮かべた。ちまたで有名な深崎スマイルと呼ばれる顔だ。

 しかしそれに対してここにいる女性陣は誰も反応しなかった、ぶっちゃけただの友人だからだ。

 

「まあ、向こうが何もして来ないならいいんじゃないかな?」

「そういうものですか?」

「逆に言うと何もして来ないのにこっちから手を出すのは良くないんじゃないか?」

「それは…確かにそうですけど…」

 

 少ししょんぼりするクラレット、確かに悪い事してないのに手を出すのは良くない事だ。

 正直な話、別にクラレットは悪くないと思ってるが勇人がそういうのを嫌がるのでやらないだけなのだが。

 

「なんか良く分かんないけど悪いことしてないならいいんじゃない?」

「夏美、悪いことしてますよ?」

「例えば?」

「えっと……担任を変わったり、暗示?っていうのを学校に張り巡らせたり?」

 

 イマイチよく分かっていない綾が何とか夏美に伝えようとしている。

 どうやら夏美程暗示の効果が出ていないようだった。

 

「まあ、何かあったらその時何とかすればいいでしょ!」

「他人事だと思ってよぉ…」

「まあ、夏美にとって他人事ですから」

「あはは!」

「はぁ…」

 

 結局そこでこの話は終わった。

 クラレットは相変わらず黄泉沢先生に気を張っているが勇人はのんびりとしていた。

 ここ二か月の緊張が解けてるせいか妙にゆるい性格に勇人は変わっていたのだ。

 そして午後のホームルームも終わり勇人は帰ろうとしていた。

 

「クラレット、一緒に帰るか?俺はバスケ部の様子見てから帰るけど」

「ごめんなさい、ちょっと今日と明日に用事があって、帰るのが遅くなると思うんです」

「……なにか手伝う事あるか?」

「大丈夫です。勇人の手を煩わせる事はないですよ」

「そっか、じゃあ何かあったらすぐに連絡くれよ。俺の方も何かあったら連絡するからさ」

「はい」

 

 二人が手を振り合いその場から離れる、恋人同士だが毎日一緒にいるわけではないのだ。

 そんな笑顔で別れる二人を樋口綾はボーっと見ていた。

 

「綾どうしたの?」

「…え?あ、何でもないよ夏美」

「そっか、じゃあ一緒に帰るわよ!明日の土曜日に出かけるんだからその話もしないとね♪」

「うんじゃあ…ぁ、ゴメン夏美、今日図書委員の仕事があってちょっと一緒に帰れそうになくて」

「それは残念、手伝おうか?」

「ううん、大した事ないから平気ですよ」

「わかったわ。じゃあまた明日!」

「うん、また明日」

 

 笑顔で教室から出ていく夏美を綾は同じように笑顔で送り出した。

 ひらひらと動かしていた右手がゆっくりと止まり綾は大きなため息を吐いた。

 

「はぁぁぁ……やだなぁ私」

 

 自分の中で蝋燭の様な小さな火が灯っているのを感じる。

 これは嫉妬だ。諦めていた嫉妬の火が再び灯ってしまったのだ。

 

「図書委員の仕事行かないと…」

 

 今考える事ではないと綾は考え教室を後にする、

 それでも思い出してしまう、初めて新堂勇人と言葉を交わしたあの日の事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うんしょ…うんしょ…」

 

 小さい女の子が両手で何冊も本を抱えて階段を上がっていた。

 その女の子は樋口綾、中学一年生で今とは違い、まだまだ子供だった。

 届いた本を図書室に運ぶのだが、一緒に運ぶはずの図書委員が逃げたのだ。

 相手もまだ子供、めんどくさい仕事を他人に押し付けてしまう。

 綾は押しが弱く、押し付けられたその仕事を引き受けてしまったのだ。

 断ってもよかった、先輩に頼ってもよかった。

 しかし自分は期待されていた。それを裏切りたくない、そう考えてしまったのだ。

 友達も少なかった、いや本当の友達なんていないのかも知れなかった。

 なんでも出来る優等生、そんな事ない毎日頑張って勉強してるだけだった。

 だから誰も近づかない、家の事もある、極道なんてやってる親の子供なんて誰も近づかない。

 だから全部自分でやらなければならなかった、妹の様に強くない自分は必死に自分を作ろうとしていた。

 描く未来の自分のイメージがないのに、自分を作ろうとしてたのだ……。

 

「あ…!?」

 

 バサァと本を散らばさてしまう、それを拾おうとした綾も膝をぶつけてしまう涙目だ。

 綾は参っていた、誰かのせいではない、自分のせいで、責任感がある意味強すぎたのだった。

 ただ綾はボーっとして散らばった本を見ていた。拾わなきゃ失望される、そんなはずはないのにそう考えてしまう。

 そんな綾に近づく人影があった。

 

「大丈夫か?」

「え?あ…」

 

 散らばせてしまった本を拾い始める少年、確か同じクラスの…。

 

「新堂勇人君?」

「お。覚えててくれたんだ」

「うん、目立ってたし」

 

 藤納戸の髪の色をした少女、クラレットの傍によくいた人物だ。

 少し目立っていたので綾の記憶に残っていたのだ。

 そんな事を思っているとドンドン勇人が散らばる本を集めてしまう。

 

「あ!」

「ん?迷惑だった?」

「え?ううん、その迷惑かなって…」

「そんな事ないだろ?それに父さんから言われてるんだ、困ってる女の子が居たら助けろってさ」

 

 笑顔で本を両手で抱えた勇人が綾の前に立つ。

 

「それで、これどこに運べばいいんだ」

「あ、受け取ります。拾ってくれるだけでもありがたいのにそこまでやって貰っちゃ…」

「いいっていいって、図書室だろ?図書室には用事があるんだ」

 

 勇人は綾と並んで図書室に向かって歩いてゆく。

 綾はそんな勇人の姿を見てある事を考えていた。

 

(私とは違う…)

 

 自分とは違う、自然に人を助けていた。

 責任とか思い込みとかそういうのじゃない、勇人はごく自然に手を差し伸べたのだ。

 自分の持ってない物を持つ少年に綾は不思議と惹かれてはじめていた。

 そんな事にも気づかずに能天気に綾に話しかけながら勇人は歩いていた。

 

(なんか安心するなぁ…)

 

 不思議と安心する、こんな人に傍にいてほしい。

 そう綾は思っていた、だけどそれは無理だと分かっていた。

 

「お待たせクラレット」

「勇人!それに樋口さんどうも」

 

 図書室に居たのはクラレットと言う少女だった。

 同じ学年だが少しばかり大人びている感じのする少女。

 勇人君とずっと一緒に居続けている少女。

 それだけで綾は諦めが付いた、彼の居場所は彼女の横なのだ。

 自分が無理を言ってそこに割り込む事なんて出来ないんだと理解した。

 待ち合わせだったのか二人が図書室から離れていくのを綾はジッと見ていた。

 

(いいなぁ…)

 

 恋心は憧れに変わってゆく、こんなに早く失恋するとは思わなかったと綾は感じていた。

 だけど勇人のような、そしてクラレットのような人になりたい。そう彼女は思い始めていた。

 

「…頑張らないと!」

 

 目標は出来た、二人のような人になりたいと樋口綾は思う。

 まず一歩を踏み出そう、そう思い立った綾は普段読んでる勉学の本ではなく恋愛ものの小説を手に取る。

 自分の好きな事を、好きになるかもしれない事に進む勇気を勇人に与えられていた。

 椅子に腰を下ろして本をモクモクと読む、時折笑みを浮かべる姿は普通の女の子らしかった。

 些細な出来事、しかしその些細な出来事が彼女を大きく変えていたのだった。

 

「ねーねー、その本いつ読み終わる?」

「え?」

 

 顔を上げるとショートヘアーの女の子がこっちを見ていた。

 今は知らないが彼女の名前は橋本夏美、綾の親友となる人物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 諦めていた。本当に諦めていたのだ。

 だけど彼が居なくなって気が付いた、自分はただ嘘をついてただけだったと。

 彼の傍に居たい、今でも思う、彼の隣が自分だったならと…。

 別にクラレットを嫌ってるわけじゃない、だけどもう片方の横に空いた場所に自分を入れてほしい。

 そんな事を思いながら無気力に過ごす日々、彼が帰ってきたら行動に移そうと考える日々。

 そして彼は帰ってきた。

 とても大きく感じた、二か月でここまで変わるんだと思った。

 そしてクラレットも変化していた、美しく、優しく、そして……独占的になった。

 もう彼の横には入り込めないと理解してしまった。もう少し勇気を早く出せば変わったのではないかと今でも思う。

 でも後の祭りだった、自分はチャンスを手放したのだ。

 絹糸の様に細く柔らかなその僅かな希望を、自分から手放してしまったのだ…。

 

「よいしょ…よいしょ…」

 

 両手で本を持ちながら綾が階段を下りてゆく、

 ただ考え事をしていたせいなのか、足元が疎かになっていた。

 

「――あ!?」

 

 一段降りて次の段に足を進ませたその瞬間、綾は足を引っかけてしまう。

 あの時とは違う、下り階段で降りてしまったのだ。

 受け身を取ろうと考えても、考え事をしていたせいで後手に回ってしまった。

 グッと目を閉じて痛みに耐える、それしか綾に出来ることはなかった。

 だがその瞬間、何かを蹴り飛ばす音と共に綾は誰かに抱きかかえられていたのだ。

 

「ふぅ…間に合った~」

「……新堂君!?」

 

 俗にいうお姫様抱っこ、女の子ならば一度は夢に見る抱き上げ型の一つだ。

 これが想い人にされたせいか、綾は顔を真っ赤にして勇人の顔を見ていた。

 

(わた!わたわたわたわた!)

 

 ただ、突然過ぎて綾の頭の中は大混乱中だったのだが。

 

「ははは、職員室に行こうとしてたら突然綾が倒れるのを見て急いできたけど、怪我してないか?」

「う、うん平気だけど…」

「あぁ…、しっかり靴跡が残ってるなぁ…」

「え?あ…」

 

 勇人は正面から来たのではない、自分の後ろから回り込んで綾を抱きかかえたのだ。

 床を蹴って跳び階段正面の壁を蹴って綾の前に回り込んだのだ。

 無論普通の学生が出来る事ではない、これは勇人だから出来る事だった。

 

「立てるか?」

「は、はい!」

「? ああ、体に触ってごめんな?迷惑だっただろ?」

「ううん、助けてもらったんだからそんな事ないよ」

「そっか、そりゃよかった」

 

 異性に体を触れられて混乱してるだけだと勇人は思っていると勘違いしてくれた事に綾は感謝した。

 もし自分が勇人に対して淡い想いを抱いてるなど気づいたら今まで道理にならない。

 今までの関係を崩してしまう、それを綾は恐怖していた。

 

「散らばったな手伝うよ。図書室だろ?」

「ありがとう、新堂君」

 

 綾の考えに勇人は気づいていないようだった。

 それに少しばかり感謝して綾は勇人と一緒に本を拾い集める。

 

「そういえば、前にもあったな」

「なにが?」

「こんな風に階段でさ、思えばあれが綾と初めて話をして日だったよな」

(覚えててくれたんだ…)

「でも間に合ってよかったよ。怪我してたら大変だからな」

 

 自分が持とうとしていた本を軽々と全て持ち上げて勇人は歩き出す。

 あの頃とは違う、とても大きいその姿に綾は想いを馳せる。

 

(ずっと…ずっとこんな時間が続けばいいのに…)

 

 そう考えるがその時間はすぐに終わってしまう。図書室についてしまったのだ。

 その姿に頭を下げてしまう、自分の足元をジッと見ていた……勇人に小突かれた。

 

「新堂君?」

「いや、両手塞がってるから開けてほしいんだけど…」

「あ!?ご、ごめんね!」

 

 再び顔を真っ赤にして綾が扉を開くと勇人が図書室へと足を進めた。

 そして手ごろな机に本を置くとふぅっと一息ついて綾に声をかけた。

 

「まんまあの時みたいだよな」

「そうですね」

「あの時は驚いたよ。何せ次の日に夏美の奴が友達って言って連れてくるんだからな」

「私も驚きました。でも夏美には感謝ですね」

 

 二人を引き合わせた夏美の事を感謝する。

 トラブルばっか起こす問題児なのだが、友達思いなのは事実だった。

 

「それでさ、あの後夏美が―――」

「そうですね。あの時クラレットさんが―――」

 

 過去の思い出話に花を二人は咲かしていた。

 だがその時間も終わりを迎えてしまう、夕暮れが近づき下校の放送が鳴り始めたのだ。

 

「もう時間か、じゃあ俺そろそろ帰るな」

「うん、私も迎えが来ると思うからそろそろね」

「じゃあまた明日…って明日土曜日か補修だったせいで忘れてたわ」

「ふふ、じゃあね新堂君」

 

 勇人が駆けていく、その途中で「しまった!靴跡拭くの忘れてた!?」という声が聞こえてくる。

 それを聞いて綾は笑った、だがすぐに表情が悲壮感に包まれる。

 

「ずっと一緒に居たいなぁ…」

 

 決して届くはずのない願い、だけど綾はその願いを夕闇が近づく空に願っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 次の日、昼に補習に出かける為に遅めの朝食を取っていた勇人とクラレット。

 父と母は仕事に復帰していて既に家を出ていた、普通なら休みの日なので春奈もそこに居た。

 

『昨日の夜中、那岐宮中央公園近くの私有地を無断で開発しようとしていた○○企業の作業員が殺害される事件が起きました。その被害者の数は十数名と思われ放置されたと思われる遺体があり、まるで力ずくで捩じ切られたと思われる殺害方法の様です。警察は何者かに殺害されたと考えられますが人数が多すぎる為集団での犯行ではないかと――』

「なんか怖いねー」

「お前ホントに怖がってるのかよ?」

「えへへ、あんまり。ところでさ人間捩じ切るってどのくらいの力が必要なのかな?」

「ん?ん~~?」

「人間の仕業じゃないかもしれませんね」

「それって前に出た悪霊って奴の仕業!」

「どうでしょう…悪霊は悪霊のやり方がありますし、こんなに大々的にするとは思えませんし…」

 

 やり方が乱暴というか原始的すぎる。

 悪霊のような魂そのものに干渉するやり方ではなく力ずくで事をなしている感じなのだ。

 すぐにこの事件を調べたい気持ちがあったがクラレットはどうしても外せない用事があったのだ。

 日比野絵美の救出だった。

 

「すぐに調べたいんですけど、今日は用事があって…」

「だったら補習前に俺が調べに行くよ。調べるだけならすぐだからな」

「大丈夫なんですか…?」

「大丈夫だって!魔力とかある程度は感じれるからさ」

「そうだよクラ姉!私が付いてるんだから大丈夫!」

「「いや、春奈『ちゃん』は来るな『来ないで』」

「えぇ~~」

 

 そんな何時もの一幕、このあとクラレットは絵美の下へ、

 そして勇人は事件を調べる為に事件のあった公園付近の広場へと向かったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 那岐宮中央高校付近、そこに樋口綾が歩いていた。

 目指すは夏美の家である、酒屋橋本。酒屋ではあるがコンビニである。

 そこに近づくと巨体でツンツンした髪の青年が立っていた。

 

「お、綾先輩。おはようっす!」

「仁慈君。おはよう」

 

 彼の名前は橋本仁慈、青年張りの巨体だが実は小学六年生の小学生。

 夏美の弟でよく家の手伝いをしてる好青年だ。ただ人相が悪いせいかよく不良っぽく間違われる。

 

「綾先輩、姉ちゃんに会いに来たんっすか?」

「うん、夏美いる?」

「いるにはいるんっすけどねぇ…」

「??」

「まあとにかく会えばわかるっすよ」

 

 仁慈に勧められて綾が店の中に入るとレジでぼんやりしてる夏美の姿があった。

 

「あ~綾おはよう~」

「夏美どうしたの?」

「んー、ホントごめん!今日いけなくなっちゃった!」

「え?」

「いやぁ、お母さん歳なのに無理に酒樽持ち上げて腰やっちゃってさ。仁慈じゃお金の管理させられないし立ちっぱなしのレジ仕事出来なくてさ」

「歳とか言わないの!お母さんまだ40代よ!」

「あたっ」

 

 コツンと店の奥から何かが飛んできて夏美の頭に当たる。

 そこには動けなくなっている夏美の母が居た。

 

「綾ちゃんごめんねぇ、おばさん張り切りすぎちゃってね。あの人は配達と仕入れだから夏美の力が必要でね」

「いいんですおばさん、買い物はまた来週行けばいいんですから」

「ホントごめん!この償いは来週絶対にするから!」

「じゃあデザート一品奢ってもらおうかなぁ~?」

「えぇ!?ん、ん~~、あんまり高いのやめてね?」

「うん、考えとくね」

「あはは、じゃあね。綾」

「うん、手伝い頑張ってね。それじゃあおばさんお大事に」

「ええ、気を付けていくのよ綾ちゃん」

 

 店から出るといまだ手伝っている仁慈の姿が見えた。

 

「じゃあ仁慈君も頑張ってね」

「うっす、お疲れ様っす!」

「あはは…お疲れ」

(なんか組の人みたい…)

 

 何にあこがれたのか、妙に体育会系の口調の仁慈を面白がりながら綾は繁華街へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「は、ははは……なんだこれ」

 

 勇人は今殺人事件の現場へとたどり着いていた。

 大量の野次馬が居るが、彼は少し離れてその様子を見ていた。

 その場に辿り着いた勇人は焦り半分驚愕半分でその現場の以上に気づいた。

 

「なんて濃密なシルターンの魔力なんだ…」

 

 その場を支配していたのはシルターンの魔力だ。

 濃密で召喚されたものとは違う、ガイエンなどに近い古き魔力と言っていい。

 本来レゾンデウムでは感じる事はないはずのその魔力に勇人は焦りを抱いていた。

 

「人をここまで殺すシルターンの召喚獣…?あり得るのか?」

 

 前にクラレットからさわり程度に聞いたシルターンの召喚獣、彼らは人々の恐れを糧に生きている存在だそうだ。

 恐れとは畏怖、信仰、と言った精神のエネルギーで彼らは生きている。

 そんな彼らが召喚された程度でここまでの残虐的な事件を引き起こすはずがない。

 これは明確に人間に恨みを持つ召喚獣のせいだった。

 

「それで最も厄介なのが…」

 

 その魔力はそのまま街へと向かっていたのだ。

 夜中に事件が起きたとして未だ大量殺人の事件は起きてないところを見ると事件を起こす気はないのか。

 あるいは時を待っているのか、どちらにせよ野放しにする訳には行かないと勇人は思っていた。

 

(武器を何か持ってくればよかったな…)

 

 召喚術の使えないこの世界では軽い魔力強化程度しか勇人は行えない。

 バットでも鉄パイプでもなんでもいいがそれらの武器を保持していれば戦えたが今は素手だ。

 何とか武器を調達して置かなければと思いながら、勇人はクラレットに連絡する為に鞄に手を入れた。

 

「ん?」

 

 勉強道具が入った鞄の中を探す、しかし目的の携帯が出てこないのだ。

 

「あ…やべぇ…」

 

 家の充電器に携帯をつけっぱなしの事を勇人は思い出して顔に手をやり後悔する。

 やばい事態なのに俺は何をやってるんだと思ってしまった。

 とにかくどこかの公衆電話にと財布を探すが…。

 

「あぁー!財布も忘れてる俺は何やってるんだ!」

 

 少し平和ボケしすぎだと自分を叱咤する勇人。

 だがこうしてても仕方がない、とシルターンの魔力を追って街へ進む時にそれを見た。

 ある老人が観察を行っていた警察と話してる姿だ。

 

「七宥女房だ!七宥女房がやったんだ…!」

(七宥女房…?)

 

 七宥女房、聞いた事のない名前だ。

 勇人はそれをシルターンの召喚獣ではないかと思い老人に近づく。

 

「だから化け物とか妖怪とかいるわけないだろ?きっと夢を見たんだよ爺さん」

「アレは夢なんかじゃない!なんなら樋口組に話を聞いて…」

「樋口組ねぇ…、まあ今どき確りしたヤクザ一家だしこの土地の元持ち主だからね、話は聞くけどまずはこの現場をね。悪いけどあっちに行っててくれるか」

 

 老人は何とか警察にこの事件の真相を伝えようとするが相手にされなかった。

 落ち込んでる老人に勇人が近づいて話しかける。

 

「お爺さん大丈夫ですか?」

「あ、あぁ…」

「ところで聞きたい事があるんだけど、七宥女房ってなんなんだ」

「君は七宥女房の事を知りたいのかい」

「教えてほしい、もし戦うなら相手の事を知っておきたいからな」

「君は一体…」

 

 普通の人よりも強い目をしてるその少年に老人は心を許し始める。

 そして老人は語った、七宥女房の伝説を…。

 

 

 

 




色々新キャラ出てますけど実は誓約者ズは全員弟妹持ちです。
まあ、春奈が居て他のキャラが居ないのも何かと考えました。
では次にまた会いましょう、お疲れさまでした。


※新堂勇人
世界を救った誓約者なのだが2か月間気を張り続けてたせいか妙にのんびりしている。
割と約束忘れるし、忘れ物もする、完全に壊れ気味である。
ただ無茶をし続けたことをクラレットが知ってるため彼女は率先してハヤトをサポートしている。
ちなみにこっちの世界だと相当弱くなっている。


※橋本仁慈
勇人並みの身長を持つ小学6年生。
体育会系で気は強いが心根は優しい、しかし顔が怖いため友達は少ない。
昔、勇人と春奈に助けられ先輩として慕っている。
将来は店を継ぐ気満々の男の子。
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