僕の父は貿易商人だった……母は僕が10歳の頃に流行病で死んだ。
そして15歳になり、久々に戻るハズだった郷里を目前にして、父がモンスターの牙に倒れた。
父のおかげで命からがら逃げおおせた僕は、必死に郷里へと走ったが――そこには街が無かった。
最近、確かにモンスターが増えているのは知っていたけど、こんなことって……
僕の目の前には燃え立つ黒煙と破壊された建物、そしてモンスター達の咆哮が。
モンスターに溢れかえる郷里を呆然と見つめる僕の前に、気付いたモンスターが迫ってくる。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕は必死で逃げた。
しかし気が動転していたせいか、逃げ道を間違えて袋小路へと入り込んでしまう。
この袋小路に伸びる大きな一本杉……そうか、ここはゆきのふ爺さんの武器屋の裏庭だったところだ。
ガチャン、ガチャン……
僕は木陰に隠れ、近付いて来る重厚な金属音に歯をガクガクさせて小さくうずくまっていた。
「ん? 何だ小僧……まだ生き残りが居たか」
――見つかった!
「あ……ああ…あぃ……」
僕は膝をガクガクさせながら、恐怖に涙をあふれさせた……それもそのはず。
おそらくあのモンスターはモンスター達の親玉の親衛隊と噂されていた黒い鎧のモンスター。
巷では何て呼ばれていたか忘れてしまったけれど、とにかく今の絶望的な状況から逃げ出す方が先だ。
「ふん……子供か。子供に聞いても分かるハズも無いか」
そう言って黒い鎧のモンスターは手に持っている大きな斧を振り上げた。
「せめて竜王様に聞こえるよう、絶望に叫びながら死ぬが良い」
そして斧が振り下ろされ、僕は恐怖に目を瞑った――
――が!
僕がしがみついていた木が唐突に光を発し、その光は闇夜の廃墟……ドムドーラを照らした。
暖かい……その光は僕に失っていた体力と勇気と安心感を取り戻させた。
「むおっ、これはっ――まさか!?」
強烈な光を直視したせいか、黒い鎧のモンスターがひるんだ。
今だっ!
僕はひるんでいる黒い鎧のモンスターの股下を潜り抜け、袋小路から脱した。
そして今度は冷静に考えて見つかりにくい物陰を選び、上手く街を脱出することに成功した。
でもこのままじゃ、モンスターに見つかるのは時間の問題だ。
ラダトーム――!
アレフガルドを統治している王国ラダトーム……僕の頭に浮かんできたのはその名だった。
僕はラダトームを目指して一心不乱に走った。ドムドーラの壊滅を伝える為に、恐怖から逃れる為に。
しかし不思議なことに、僕は旅から帰ってきたばかりで疲れていたハズなのに妙に身体が軽かった。
そのせいか僕は昼夜を通して走り続ける事ができ、ラダトームにたどり着くことが出来た。
「ん? おい、そこの少年どうした!」
フラフラでたどり着いた僕を門兵の人が受け止める。
「ド…ドムドーラが……」
「ドムドーラがどうしたっ!」
「ドムドーラーが……僕の郷里が……モンスターによって壊滅しました……」
涙が止まらなかった。
安心した事と、全てを失った事を嘆く事、そして……一人逃げてきた事を想って。
僕の報告を聞いた門兵は、他の兵士に伝言を取り付け、僕を兵舎で介抱してくれた。
「ありがとう……ございます」
力尽きてベッドへたり込む僕に兵士の人が食べ物と、温かいお湯と手ぬぐいを渡してくれた。
「そう言えば君の名前を聞いてなかったな、少年」
「僕は……ドムドーラの貿易商人フィリフと、その妻アイラの息子……アレフです」
お湯に浸して暖かくなった手ぬぐいで顔を拭きながら僕は答えた。