「ゆーしゃさまー、見つかりましたかー!」
ローラ姫の鈴のような声が沼地一帯に響き渡る。
「まーだーでーすーねー! もう少し中の方へ行ってみまーす!」
「わーかーりーまーしーたー! お気をつけ下さいませー!」
その言葉に手を振って合図をるすと、僕は沼地の奥へと足を進めた。
毒の沼地だけに歩くごとにダメージを受ける。ホイミが出来るとは言え長く居るわけには行かない。
それにローラ姫を沼地の外に残したまま、僕が遠くに離れるのも危険だ。
雨と太陽が合わさる時……と言う言い伝えに従い、僕はローラ姫を救う前にリムルダール南のほこらへと赴いていた。
しかしほこらを守る老賢者は『ロトの子孫ならばその証を示せ』と、僕を受け付けてくれなかった。
雨雲の杖と太陽の石は、僕が子孫である証明にはならなかったようだ。
僕は伝説を調べ、勇者ロトがかつて『ロトのしるし』と言うアイテムを持っていたらしい事を知った。
それはアレフガルド創世の神である精霊ルビスに選ばれた勇者の証として、ロトに与えられたもの。
しかしそれは闇を打ち倒し、平和を取り戻した後、勇者ロトがいずこかへ消えたために、その存在が不明となっていた。
そんな物を探せるわけが無いと途方に暮れていたが、メルキドの老賢者がその手がかりを持っていた。
占いによれば、メルキド南の毒の沼地にそれは埋もれているという。
……で、その毒の沼地に来て見れば、これがまた広い!
だけどどこにあるか分からないままであるよりも、とりあえず区域は限定されたし、あとは根気でなんとかなる範囲だ。
それで朝から探し始めているんだけど、太陽はもう頂点を過ぎてしまっている。
ローラ姫には聖水を持たせてあるから少しは安全だ。
しかし、それでもメルキド周辺のモンスターは特に強いだけに、その聖水の効果がどれだけ効くかは不明だ。
それに随分とローラ姫を待たせているのも、僕としては気になるところ。
探すのに時間かかるからメルキドで待っててくれって言ったのに……
「勇者さま」
「うわぁっ!」
唐突に後ろからローラ姫が現れた。
「あ…あれ? ローラ姫……?」
見ればローラ姫は沼地と岩場の間の僅かな足場を伝って、こちらまで来たようだ。
「もー、勇者さま一人で何でもなさろうとして……微力ながら私も手伝いますわ」
「あ! それは僕がやりますから! 姫はそこで何か見つけたら言ってくだされば良いですから!」
靴を脱ぎ、スカートのすそをつかんで沼地に入ろうとするローラ姫を僕は懸命に止める。
心遣いはありがたいけど、ローラ姫にそんなことをさせるわけにはいかない。
「あら……?」
僕の後ろに目を向けてローラ姫が首をかしげる。
「……? どうかしましたか?」
「あそこ……何か光ったような気がしましたわ」
「え、どこですか!」
僕はローラ姫が指差したあたりを徹底的に探して回った。
カツン。
探してからまもなく堅い何かが鎧の脛当てに当たる。
「あ……」
「あら……」
僕はそれを拾い上げる。
手の平くらいで丸い円盤状の金属……のような板。鉄とかではない何か不思議な物質だ。
そしてその表面には伝説の不死鳥をかたどった紋章……ロトの紋章が刻まれていた。
「あったー!」
そう叫んだ瞬間――ロトのしるしが輝いた。
「うわっ!?」
そのまぶしさに僕は目がくらみ顔を伏せる――が、下を向けば僕の胸元も光っていた。
僕はすぐに直感した……母の形見の宝石であると。
胸元から鎖で繋がれた形見の宝石を取り出すと、まるで恋焦がれたように鎖を断ち切って磁石のようにロトのしるしへと引っ張られる。
「勇者さま、これは――!」
ローラ姫の驚きをよそに、形見の宝石はしるしの中央にあるくぼみへと収まった。
「やっぱり……」
光の収まったロトのしるしと宝石はひとつとなり、本当の意味で真なる姿を取り戻した。
予想はしていたけど、やっぱりこの宝石がロトの遺産……ロトのしるしの一部だったんだ。
脈々と受け継がれてきた勇者の遺産……今更ロトの為に戦う気は無い。
だけど僕は、僕を生み育ててくれた両親と、今傍らにいるローラ姫と、平和を願う世界のみんなの為に戦う。
それが僕の運命なんだと、今更ながらに痛感した。
すべての偶然は、僕が勇者であることを示す必然へと変わっていく……やはり僕は勇者だ!
「父さん、母さん……僕、やるよ!」
僕は両親に平和への誓いを胸に、ロトのしるしを高々と天に掲げた。