「終わりだ」
そう言って悪魔の騎士は斧を振り下ろす。
僕は万策尽き、これから来る死の衝撃を前に目を瞑った。
――!?
急に地が暖かくなった。
「むおっ――またか!」
目を開ければ……かつてと同じように木が……いや、木の根元が光っていた。
僕の胸元から光が漏れる。ロトのしるしが輝いていた。
キィィンキィィン……
そして何かに共鳴するように不思議な音をさせながら、その光はより範囲を狭めて行く。
どんどんと小さくなる輝きは、僕の倒れている部分の地面だけになり……地がうごめいた。
「な、なんだ……!」
地がグラグラと揺れる。しかし地震じゃない。
この輝きにひるむ悪魔の騎士に揺れの影響は無い……つまり僕の真下の地面だけが動いているのだ。
「う、あああ……」
地面から何かが盛り上がってくる。そして割れた地面の隙間からは細い光の帯が漏れる。
ボンッ!
盛り上がった地面を一気に突き破り、僕の目の前にその輝きの源が姿をあらわした。
「むぅ、やはりか――!」
その正体は、目も醒めるような――青き鎧。
輝きを放つその鎧は僕を暖かく包んでくれているかのようだった。
そしてその奥には鎧の放つ光をまぶしそうに盾で遮る悪魔の騎士。
「これは……ロトの鎧……」
かつて勇者ロトの時代に『光の鎧』と言われていた精霊ルビスの加護を受けし伝説の鎧。
その鎧はあらゆる武器を弾き、あらゆる呪文を防ぎ、あらゆる炎・吹雪をも遮り、選ばれし者には命を与えると言われる。
アレフよ……呼びなさい。その光は新たな主を求めています。
音無き声が僕に伝える……それは精霊ルビスか勇者ロトの声だったのかもしれない。
僕は最後の力を振り絞って、かろうじて立ち上がり……光を呼ぶ。
「古より伝わりし光の鎧……ロトの鎧よ! 新たなる主アレフが命ずる! 光よ我が下に――!」
バァァン!
呼び声に呼応するように、僕が言い終えた瞬間、宙に浮いていた鎧は弾けるように分解した。
最初に足、そして腿……そして前後から腰、胴……腕、肩……そして最後に兜が装着された。
暖かい……今まで受けたダメージが癒えていくようだ。
「止められなかったか……言い伝え通り、やはり運命は我らに滅べと言うのか。だが、ただでは負けん!」
悪魔の騎士は再び斧を構える。
「最後の勝負だ……」
僕は地面に落ちていた炎の剣を拾い、両手で柄をシッカリと握り……構えた。
精霊ルビスの加護のおかげか、ダメージも幾分回復し身体には力が戻ってきている。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
僕達は同時に仕掛けた。
鎧のおかげか身体が妙に軽い。反対に、ダメージを受けている悪魔の騎士の動きは鈍い。
ザシュン!
「りゅ……竜王さま、バンザ……イ……」
その活動が停止する僅かな合間に、悪魔の騎士は最後の忠誠を示し……2つに分かれた。
真っ二つに斬った鎧は、その活動の根源を失い、関節部分の接続を維持することが出来ずバラバラに分解し、その場に文字通り崩れ落ちた。
「さようなら、悪魔の騎士。強敵だったモンスター……僕は忘れない」
僕は因縁浅からぬモンスターであった黒き鎧の残骸に簡単な祈りを捧げ、ローラ姫の待つ場所へと帰って行った。