僕達は統制を失ったドムドーラのモンスター達の網を突破し、今はリムルダール南の聖なるほこらへと来ていた。
遥かな昔……勇者ロトの時代よりも以前から存在する伝説を蘇らせる為に。
「偉大なる勇者ロトの血を引くものよ! 今こそ雨と太陽が合わさる時じゃ! さあ雨雲の杖と太陽の石を!」
僕は最後の老賢者に雨雲の杖と太陽の石を手わたした。
「おお神よ! この聖なる祭壇に雨と太陽をささげます」
老賢者が2つのアイテムを祭壇にささげると、祭壇は光の柱に包まれ、上から何か別の光を放つものが柱の中をゆっくりと降りてくる。
「まあ……」
ローラ姫はその神秘的な輝きに、感嘆をもらして魅入っていた。
「さあ祭壇に進み、虹のしずくを持って行くがよい」
「虹のしずく……」
光の柱が消え、祭壇の上には、まさに虹を思わせる七色の輝きを持つアイテムが静かに佇んでいた。
おずおずと手を伸ばし、そのアイテムを手に取る。
僕は虹のしずくを手に入れた。
虹のしずくは淡い輝きを放ち、静かに自らの出番を待っている。
この老賢者もこのアイテムひとつを守る為に……いつ来るかも分からない僕の為に。
「あ……」
「アレフよ。ここには、もう用は無いはず。さあ、行くのじゃ」
言いかけた僕の言葉を老賢者は自分でかき消した。
その素っ気無い態度に少しムカッと来たが、老賢者が後ろを向きかけた一瞬、その表情の変化を僕は見逃さなかった。
それは自らの全てを賭けた使命を成し遂げ、油断していると一気に決壊しそうな万感の想いに、下唇をかみ締めて小さく震えていた。
「まぁ、失礼な賢者さまでしたわね!」
ほこらから出て開口一番、ローラ姫は老賢者の素っ気無い態度に頬を膨らませた。
「いえ、そんなことはありませんよローラ姫。あの御仁は強がっていたのですよ……本当は勇者ロトから伝えられし重大な使命を終えた達成感で、泣き崩れるところだったのでしょう。一体、何年もの間この虹のしずくを守ってきたのかを考えると、僕もまた似たような心境になります」
僕は空を見上げる。
空は曇っていた……しかし空は曇れども、僕の心は晴れやかだ。
僕もロトの時代から受け継がれてきた使命を、またひとつ果たしたのだ。
ロトの石版の伝えし、3人の老賢者たちが守り受け継ぎし神器を受け取る……と言う使命を。
僕はここまで様々な人や物によって命を失わず、ここまでたどり着くことが出来た。
この虹のしずくを使えば、最後の決戦の地になるであろう竜王の城へとたどり着くことが出来る。
「……ん? どうかしましたか?」
ひとり思いにふけっている僕をローラ姫がじっと見つめていた。
「い、いえ。何でもありませんわ」
ローラ姫はヒラヒラと手を振って困った笑いを浮かべる。
「……?」
「ほらほら勇者さま、まだ万感の想いにふけるのは早いのではなくて?」
首をかしげると、ローラ姫はその無言の詮索を塗りつぶすように話をそらした。
「はぁ……」
「勇者さまには、まだ最後の大仕事が残っていますわよ」
畳み掛けるように言葉を重ねると、ローラ姫は気の無い返事をする僕の背を押して先を急がせた。