「おはようございます。ゆうべはお楽しみでしたね」
「――え゛!?」
ここはリムルダールの宿屋。
僕達は竜王の城へ行く前に体調を整えておこうと宿屋に一泊した。
そして朝にチェックアウトの報告をしようとカウンターに向かった時……その女主人の言葉に僕は固まった。
「あ……いや、その……」
なにやら変な誤解があるみたいだけど、それをさらなる誤解無く解ける言葉が見つからない。
「分かっておりますお客様。この事は私とお客様の秘密でいらっしゃいますね」
果てしなく妙な方向へと進んでいく勘違いに、僕の頭は混乱した。
「あああ……だから……それは誤解で……」
「なんと、五回も! いや、若いというのはうらやましいですねぇ……」
僕の思考は、この事態からの逃避を選択し……活動を停止した。
ぱたん。
アレフは死んでしまった!
「……さま……しゃさま……」
聞き覚えのある声に、僕は目を開ける。
まぶたの隙間から刺すような光が、僕の目を容赦なく攻め立てる……まぶしい。
「勇者さま……」
僕を呼ぶ人物が目の前にいるようだが、その姿は逆光でよく見えない。
「勇者さま!」
ようやく目が慣れ、僕を覗き込んでいるローラ姫の姿が確認できた。
光を背に僕を見つめるその姿は、まるで伝説の女神のようだった。
あれ? ローラ姫の顔がさかさまに見える……さかさま?
「うわわわわわわっ!」
僕はあわてて起き上がった。
「まあ、勇者さま。どうなされましたの?」
宿屋裏の芝に人形のようなローラ姫がちょこんと座っていた。
そして僕は……その姫の膝を枕に……うわああああ!
「……って、あ……あれ? なんでこんなところに?」
「まあ、勇者さま。宿屋で急に倒れられたのを覚えておられませんの?」
「い、いや……全くもって」
「まあ。勇者さまともあろうお方が朝日の差しこみくらいで倒れてしまうとはなにごとですか!
しかたありませんから私が宿のご主人に頼みましてこちらにお運び申し上げたのですわ」
ああ、思い出した。宿屋の主人にからかられて現実逃避したんだっけ。
どうやらローラ姫はそれを良い具合に勘違いしてくれているみたいでホッとした。
「もう、勇者さま! どうして疲れているならそうおっしゃってくださらないのですか!」
「……へ?」
あれ? ローラ姫……怒ってる?
「やはり私のせいですか? 私が足手まといだから勇者さまは無理をなさってしまうのですか?」
「え……え……?」
目に涙をためて、何かを耐えるように口元を押さえるローラ姫……僕は何か大きな勘違いがあることを悟った。
しかしまさか本当のことを言うのも情けないし、ここは何とか誤魔化しておく必要がある。
「い、いや! そのようなことは全然ありません! ええ、もうローラ姫が居てくれれば僕は元気100倍! 竜王だって怖くありません! さっきのはちょっと寝起きが悪かっただけですよ!」
何だか自分でも言ってることが分からないけど、僕はローラ姫をなだめるのに必死に言葉を重ねた。
「……本当ですか?」
「も、もちろん!」
僕は、これ見よがしにちからこぶを見せたり、懸命に元気をアピールしたりと、何とか誤魔化そうと必死に動く。
そしてどこかの肉体美を競う人たちのように、様々なポーズでローラ姫の機嫌の回復を図った。
「ぷっ……ふふふふふふ……」
僕のアピールポーズのいずれかがヒットしたようで、ローラ姫は表情が一転。あふれるように一気に笑い出した。
うんうん……やっぱローラ姫には笑顔が一番。
そんなローラ姫を見ていると僕も元気が湧いてくるんだ。
「では、姫さま。私と共に最後の大仕事を片付けに参りましょう」
僕は片膝をつき、うやうやしく一礼してローラ姫に手を差し伸べる。
「はい。では参りましょうか……」
ローラ姫は差し出された僕の手に自らの手を重ね、にっこりと微笑んだ。