僕は虹のしずくを天に掲げた。
それは七色に輝きだし、僕の手から放たれる。
中空にて浮上を停止して弾けるように七色の光が霧散する。
そして僕の目の前から虹の帯が走り、竜王の居城そびえる対岸へと到達する。
「行きましょう、ローラ姫」
「はい」
僕は手を差し伸べ、ローラ姫はその手を取った。
虹の橋は思っていたよりも硬く、しかも滑らないので足場としては充分なものだった。
そして虹の橋を渡りきり、僕はローラ姫を抱きかかえて毒の沼地を渡って、山の上にそびえる建造物を見つける。
山の表面には人為的に削られ、形作られた道があり、それを進んだ先の頂上は……竜王の城だ。
途中、ドラゴンやキラーリカントなどの強力なモンスターに襲われたりもしたが、ロトの鎧のおかげかさしたるダメージも無く、またローラ姫も傷ひとつ無い。
「もうこのあたりもモンスターは楽勝ですわね。さすが勇者さまですわ」
「いえ、まだまだ油断は出来ません。おそらく城の中にはもっと強力なモンスターが居るはずです」
僕は謙虚に自らを戒めるように答えたが、実は一抹の不安を感じていた。
僕は炎の剣を見つめる……実は昨晩気付いたのだが、刀身に小さな、本当に極小さな亀裂が見える。
普段であればさして気にする程度のものではない。しかしこれから入る竜王の城は深さも長さも分からない。
その上、強力な敵が現れた時に剣にアクシデントが起こってしまえば、それは僕だけじゃなくローラ姫の命にも関わる。
新しい炎の剣を買うには、またメルキドまでのかなりの距離を移動する必要があり、多くのお金もかかる。
しかしそれはローラ姫の大きな負担になるし、そもそも今は炎の剣を買えるほどのお金が無い。
仕方ないので『今回は様子見』と割り切って竜王の城へと入ることにした。
「思っていたよりも……ずいぶんと静かなようですね」
竜王の慢心か、それとも他の町を襲いに出かけているのか。
意外にも城内はガランとしていて、それほどモンスターが居ない。
これを好都合と取るべきか、何かの罠と取るべきか……しかしこの状況は、今の僕にとって判断を迷わせる一因としかならなかった。
剣に不安を持ったまま、竜王を一気に倒しに行くべきか、それとも次回来る時には城内がモンスターでごった返す事を覚悟して、様子見とするべきか。
僕達は城内を進み、単発で現れる敵を倒しつつ玉座の間へとたどり着いた。
しかし僕たちが見た玉座には誰も座っては居なかった。
「誰もおりませんわ……お留守なのでしょうか」
「う~ん……」
僕達は玉座の周りをくまなく調べる。
「あら……風が……」
城内の窓も何も無い部屋に風……やはりこの部屋には何かがあるみたいだ。
僕はダメージ床をくまなく叩いて回る。ちなみにロトの鎧のおかげか僕はダメージを受け無い。
コンコン
コンコン
コンコン
ゴンゴン
「ここのようですね」
床を叩いて回ると叩いた音の違う部分を探し当てる。
そしてその場所をさらに詳しく調べてみると、底を開ける取っ手のような凹みを見つけた。
「よい……しょ!」
僕は床を引っぺがすと、地下へと続く薄暗い隠し階段を発見。
地下の暗闇からは、何やら重苦しいプレッシャーを感じる。
それは恐怖からなのか、使命感からなのかは分からない。
しかしこの地下を調べておかなければ様子見にもならない。
僕は意を決し、ローラ姫の手を引いて、薄暗い階段を降りていった。