「せせせ……世界の半分とは、どう言う事だ!」
マズい。明らかに動揺してる。
「そのままの意味だ。おそらくこのままモンスター共を放置しておけば、いずれアレフガルドは我が手中に落ちることになるだろう。なにせ光の玉に封じられたモンスターは限りなく存在するのだからな」
くっ……否定できない。
「お前達に残された道は3つだ」
竜王は淡々と話を続けた。
「ひとつ、この取り引きを受け入れ世界をワシと分けること。ふたつ、この取り引きを跳ね除けワシを倒すこと。みっつ、この取り引きを跳ね除けワシに倒されることだ……さぁどうする?」
そう、問題はそこだ。
僕は世界に平和を取り戻す為に戦っているのであって、竜王を倒す為に戦っているわけじゃない。
もちろん最初は、竜王を倒せば良いと思っていた。しかしそれは竜王を倒す事が最終目標と言うわけではなく、アレフガルドに平和を取り戻すと言う目的の為には不可避と思われた道だからだ。
しかしよく考えれば、別に竜王と戦わなくても世界に平和が訪れれば、僕は使命を達成したことになる。
確かに。竜王を倒せば確実に光の玉を取り戻し、その力でアレフガルドを平和にすることができるだろう。
しかしそれは僕が勝ったらの話。
もし僕が負ければ世界は破壊と混沌に飲み込まれ、竜王の言うとおりアレフガルドはモンスターの支配する国となるだろう。
いかに僕がロトの剣とロトの鎧を得ているとは言っても、それは竜王に勝てると言う確証にはならない。
そう言うことを考えると、世界の半分だけでも平和が訪れるならば、その道も考えるべきかも知れない。
ただ今だけの感情で取り引きを跳ね除けるのは簡単だ。
しかしその僕の選択にはアレフガルドに住む人類すべての運命がかかっている。
それを思うと安易に判断はできない。
「――っ!」
「……勇者さま」
ローラ姫もその事が分かっている。
今、僕一人の判断が世界の運命を左右すると言う、果てしなく重い荷物が背負わされたことを。
「迷うか……ロトの子孫よ。それも良かろう。だが、それならば心が決まってから改めて来るが良い。ワシも玉座に座っているだけに見えるが色々と忙しいのでな」
そう言うと竜王は虫でも払うかのように手をヒラヒラとさせ、暗に僕達に「失せろ」と言う。
「竜王、ひとつ聞きたい」
「なんだ?」
「お前の言う"目的"とは、モンスターを封じれば達成できなくなるものなのか?」
「フン……またそう言う質問か。本来ならお前に教える義理などない……と言いたいところだが、勇者ロトにはひとつだけ借りがある――」
「勇者ロトに会った事があるのかっ!?」
「その時、ワシはまだ生まれたばかりだったがな。とにかく、お前の質問に答えてやるが、それ以上の義理はない。その事は肝に命じておけ」
僕は竜王の言葉に無言でうなづいた。
「無理だ……と言うよりは、それ以外の方法を知らぬと言う方が正しい。故にやめるつもりは無い」
「そうか――」
僕はスラリと剣を抜いた……交渉決裂だ。
「フン、やはりこうなるのだな。所詮は人間と魔物……相容れぬは古からのサダメ。お前の判断も間違ってはいまい。だが、覚えておくのだな。いかに勇者ロトの血を継ぐ者が精霊ルビスに守られていようとも、ワシの前にはそれとて万能ではないことを!」
竜王は玉座から立ち上がり、剣を構える僕から少し距離を取って静かに構えた。