「…………」
僕は無言で剣をかまえる。
その見つめる先には、顔をゆがめ、血を吐いて荒く息をつく竜王……しかしその眼光だけは僕を鋭く睨んでいた。
「ゆ……」
重症の竜王を見て、玉座に隠れていたローラ姫が出てくるが、僕はそれを手で制す。
僕の目は未だに竜王を刺すように見つめている。その真意を悟ったローラ姫は、再び玉座の後ろに隠れ、おずおずと顔を覗かせる。
何か予感がある。
確かに竜王は強かった。しかしモンスターを統べる王としては、どうもあっけない気がする。
僕はほぼ無傷だけど、それはお互いに一撃必殺の力を持っていたせいだ。直撃を受けた時点で負け。
そして僕は直撃を受けず、逆に竜王へ渾身の一撃を突き刺した……それが今の状態。
確かに。攻撃力、防御力、スピード、魔力のどれを取っても竜王の力は他のモンスターを凌駕していた。
しかし何かが僕に告げている……取り返しの付かないことをしたような危険信号を。
「ロトの子孫よ……」
「……なんだ」
竜王は満身創痍ながらも、僕に語りかける。
もちろん竜王が回復呪文や攻撃呪文を使うそぶりを見せれば、その呪文が放たれる前に斬りかかれるよう、僕は戦闘体勢を崩してはいない。
「ひとつ聞こう。自らの血の宿命と、自らに課せられた運命が相反する時、お前ならばどちらを信じる……」
つまり僕が勇者としてのロトの血の宿命を持ちながら、竜王のように闇に属する運命となった場合と言うことか。
しかし今の僕は血の宿命と、課せられた運命は同じ目的へと続いている。
「悪いが……それは考えたことが無い」
「フッ、そうか……つまらぬことを聞いたな」
竜王は何かに納得したように、瞳を閉じて小さく笑って見せた。
「つまらぬついでに聞かせろ……お前の名は?」
「アレフだ」
静かに答えた……そして僕は竜王の不気味な静けさに一抹の不安を覚えていた。
竜王……刃物のような鋭さを持ちながら、硝子のような繊細さを垣間見せる。
頭も良いし、話せば分かる男だろう。できれば倒したくない相手。
しかし竜王には、どこか誰にも譲れない確固たる想いがある。
それが何かは知るよしも無いけれど、それが在る限り竜王との和解の道はありえないだろう。
「勇者アレフよ」
一瞬とも永遠とも思えた静寂を破り、竜王が僕の名を呼ぶ。
そして僕は竜王から目をそらさず、改めて剣を構えることで答える。
「今からワシは魔獣と化す。しかしそれでもなおワシを倒すと言うならば、やってみるがいい!」
「――魔獣に!? 僕がそれをさせると思うか?」
僕の剣はいつでも竜王に斬りかかり、両断できる体勢を維持している。
「してみせるわ……お前とワシが死闘を演じるのもまた偶然に彩られた必然と言えよう。血の宿命か闇の運命かっ――!」
バリバリッ!
直後、竜王の服が裂け、その中から凄まじい速さで膨張していく肉体が見えた。
「させるかっ!」
僕はあわてて飛び込み、ロトの剣を振り上げた――が!
予期していなかった横からの急な衝撃に、僕は地面をもんどりうって転げ飛ばされ、そのまま壁に激突した。
ロトの鎧を着ていたせいか、大したダメージは無い。ただロトの鎧じゃなかったら大ダメージだったかもしれないが。
「――尾!?」
頭を振って意識を回復させた僕の視界に入ってきたのは、竜王がすでに元の二倍近くの大きさになり、その足下には野太い尾が。僕が受けた攻撃は尾によるものだった。
そして頭には角が伸び、背にはヒレが生え翼が開き、細くキレ長だった目は大きく見開きギョロリと動いて、口もまた大きく裂けて巨大な牙がズラリと並ぶ。
その姿はまさに……ドラゴン。竜王が竜の王たるは、まさにその姿ゆえか。
「グガァァァァァ!!!」
竜王は巨大なドラゴンに変異を遂げ、火の粉を散らしながら大きく吼えた。