「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
僕は魔獣と化した竜王の攻撃の合間を縫って懐に飛び込んだ。
ザシュ!
「ガァァァァァ!!!」
竜王が痛みに吠える……が。
地面を滑るようにして斬り込んだ攻撃は、竜王の足を浅く裂いたのみ。
いかにロトの剣の切れ味が鋭くても、それを扱う人間の力には限界がある。
枝葉を削るような小型のナイフで自分の指を切ってしまえば確かに痛いが、それが致命傷になることはありえない。
今の僕の攻撃はそのくらいのものだ。僕はまだロトの剣を使いこなせる程の力が無いのかもしれない。
「うわっ!?」
目の前に竜王の足が迫ってくるが、僕はかろうじて盾を構えて直撃を防ぐ。
しかし直撃は逃れたものの、その威力は受けきれず、僕は壁まで吹っ飛ばされた。
兜で頭そのものにダメージは無いけれども、ちょっと頭が急激に揺れたせいかクラクラする。
「勇者さま危ない!」
「――!? うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ゴォォォォォォォ!!!
僕は飛び上がるようにその場から逃げ出し、さらに転がりながら今居た場所を出来る限り遠ざかる。
竜王の火炎の息だ……ローラ姫の声が無かったら直撃していたかもしれない。
「ローラ姫、助かりました!」
「はい、ですが勇者さまの足が……」
玉座の後ろから顔を出したローラ姫の助言で、僕は炎の直撃を避けることが出来た。
だが少し気付くのが遅かったせいか、右足にかなりの火傷を負った。
「大丈夫です。ベホイミ!」
僕は剣を左手に持ち替え、空いた右手で足にベホイミをかける。
心配そうに見つめるローラ姫の不安を解く為にも、強がった顔でも見せておきたいところだけど、魔獣と化した竜王を前にそんな余裕は無い。
「うわぁぁぁぁっ!」
とりあえず右足が戦闘には問題ない程度に回復したので、僕はまた竜王の足下へと飛び込んだ。
巨大な身体をしたモンスターの場合、その身体の大きさが邪魔をして足下まで攻撃が届きにくい。
それにローラ姫の身の安全の為でもある。
呪文の時みたいに相手の周囲を回る作戦は使えない。竜王の火炎の息は、思ったよりも広範囲に影響が及ぶ。
だから僕がローラ姫の近くに居れば、その巻き添えを食う可能性が高い。
ただでさえこの王間に居るだけでも安全とは言えない状況……早く突破口を見つけなければマズい。
しかし魔獣化した竜王の皮膚が硬く、普通に飛び込んだ僕の力ではその皮膚を裂くだけ。
もっと正確に狙いを定めた上で渾身の力を込めながら斬り込めるのなら別だけど、竜王と距離を取れば火炎の息が、間を詰めて中距離に構えれば火の息か突進攻撃が来る。
また半端に近距離だと、竜王の蹴りや尻尾による打ち払いが来る。
一番良いのはさらにその奥……竜王の股下あたりまで入ることだ。
そこまで入れれば竜王の踏みつけのみに気をつければ、ほぼ攻撃が届かない。
しかしそこに至るには遠・中・近に構える竜王の攻撃をかいくぐらねばならない。
本来、ドラゴンの弱点は首の付け根付近にある心臓だと言うけど、竜王は魔獣化の影響で、その身体は本来の3倍近くになっている為、その位置は高すぎてとても届かない。
だからどうしても下半身を中心に攻めることになる。
……そうか、上半身か。
「ローラ姫、ちょっとその玉座を使いたいので、入り口の方に避難してください!」
「あ……は、はい!」
急に呼ばれてビックリしたローラ姫は、あわてて逃げるように玉座の裏から移動する。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
僕は玉座めがけて全力で走って、それに足をかけ、玉座の背を蹴って背後の竜王へと跳びかかった。
しかし――
「グアォォォォォォ!!!」
竜王のあぎとがおもむろに開き――次の瞬間、僕の視界は紅く揺らいだ。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!! 勇者さまっ!」
竜王の火炎の息に包まれ、その紅蓮の炎が熱とともに鎧の間を縫って僕の身体に侵食してくる。
そして僕の身体は空中にいた高さのまま、何かによって固定された。
「グルァァァァァァ!!!」
燃える僕を竜王が咥え、僕を燃やしている炎が熱かったのか、竜王は僕を咥えたまま顔を左右に振ってその炎を消した。
「……助かった。ベホイミ!」
僕は咥えられたままの状態で自らに回復呪文を使う。
少なくともロトの鎧ならば噛み砕かれることは無いだろう。回復のチャンスは今しかない。
「フグルルルルルル……」
竜王の噛む力が強くなる。しかしロトの鎧なら大丈夫だ……きっと大丈夫。
僕はロトの鎧の力を信じた。光の加護を受けたこの鎧が闇の力に破られることは無いハズだ。
メキメキ……
大丈夫、大丈夫だ……たぶん。
メキメキ……バリッ!
「うあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
――まさか、そんなバカなっ!
それは執念なのか……竜王の牙はロトの鎧すらも突き破り、僕の身体に深く刺さった。